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6話 脱獄者たちの末路3

   6



 あの少年のことを思い出すだけでも、いまのエドワードはうすら寒いものを覚えずにはいられない。


 それは、他の仲間たちも同じようだった。


「ま、街に戻るのか? あそこには、あいつが……グレンの野郎がいるんだぞ!?」


 マーヴィンが引きつった声をあげた。


 彼はガチガチと歯を鳴らしながら、粗末な囚人服に包まれた自分の体を抱きしめるようにしていた。


 組合でグレンに一蹴されてからというもの、ずっとこうなのだった。

 逃亡の手引きをした職員が殺されたのも、精神不安定なマーヴィンに八つ当たりをされたというのが、本当のところだった。


 エドワードもグレンにだけは復讐をするつもりにはならなかった。


 ……あまりにも、恐ろしかったからだ。


 単純に腕力的な意味だけではない。

 これは多分、あの組合の建物にいたなかでも、敵意をぶつけられた自分たちだけが感じたものだろう。


 思い出したくもない、あのとき。

 決して強面(こわもて)というわけでもない、一見すると雌分類(フィメール)にさえ見えるような少年のなかにあるナニカが正面からぶつけられた。


 その瞬間、みっともなくも自分たちは取り乱した。

 純粋な恐怖が、指先までを満たしたのだ。


 下層の獰猛(どうもう)なモンスターである、あのオーガよりなお恐ろしい。

 まるで少年の皮のなかに、恐ろしい『獣』がうずくまっているのを見てしまったような、おぞましさを感じた。


 思い出すだけでも身震いがする。


 だから、つまるところは――なにもかも、あの『期待外れのお荷物』が悪いのだった。


「クソッ! あんなやつに関わったのが、すべての間違いだったのです!」


 どうしようもないことに、この()におよんでエドワードはすべてを責任転嫁(せきにんてんか)していた。


 それは、他のふたりにしたところで似たようなものだった。


 何事にも責任を負うことがない。

 彼らはそういう人間だった。


 ……だから、最期まで気付けなかった。


 そんな人間が生き残れるほど、迷宮というものは生ぬるいものではないということに。

 そして、自分たちが気付かぬうちに、破滅のふちに足をかけているということにも。




 人目を避けるために、彼らが逃げ込んだ場所。

 そこは――()()()()()()()()()だった。




「ん? あれは……?」


 ふと、エドワードは小さな声をあげた。


 自分たちがいる通路を少し進んだ突きあたりの三叉路(さんさろ)を、横切る影があったからだ。


 一瞬、モンスターかと思って緊張したけれど、どうやらそれはフードをかぶった冒険者のようだった。


 それも、ひとりきりの。

 どうやらこちらには気付いていないようだ。


 現状、なるべく物資を集めておくにこしたことはない。


 チャンスだとしか思えなかったし、そんな自分自身にエドワードは疑いも持たなかった。


 仲間たちに声をかけようとした。

 その寸前のことだった。


「げふぇ、え?」


 空気が抜けたような奇妙な声が、迷宮に響いた。


「え?」


 振り向いたエドワードの目に映ったのは――腹から突起物を生やしたカークの姿だった。

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