22話 少女たちの関係
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「まあ、そういう私はタマモさんほどの力は持ってないから。お互い様だよ」
「むう。それは、そうなのですが」
実際、エドワードたちにやられてオーガと戦う羽目になったグレンの絶体絶命のピンチを救ったのは、私ではなくタマモさんだった。
これは私が悔しい。
「私は力を手に入れないといけない。タマモさんはグレンのことをもっとわからないといけない。だけど、逆に言えば、タマモさんには力があるし、私はグレンを知ってる」
「だから私たちは、きちんと仲間にならなければいけない。あなたはそういうのですね」
タマモさんが、ふうとため息をついた。
「謝罪しましょう。確かに、あなたは主様に必要な方のようです」
「うん。私も、ひどいこと言ってごめん」
「必要なことだったのは理解しています。だからこそ、悔しくもありますが」
「あはは。私もね」
お互いに、ちょっとずつ悔しい。
だから、なんの含みもなく仲良しこよしというわけじゃない。
けれど、お互いに気持ちをぶつけられているから、さっきまでとは違う。
これでギスギスしていたらエドワードたちとのときの再演だけど、今度のはなんというか、ライバルっぽい感じだ。
パーティとしてグレンを支えようって、目的のところが同じだからだろう。
こういう仲間の関係があってもいい。
私たちはきっと、仲良くなれることだろう。
「それじゃあ、改めてこれからよろしくね、タマモさん」
「ええ。わかりました」
そうして握手を交わしたところで、タマモさんはキリッとした顔になった。
「ただし! 主様の妻の座を独占することは許しませんので、そこはご承知いただきますよう! くちづけも私が先でしたし!」
ゆずれないところらしい。
まあ、こういう主張をグレンだけじゃなく自分にしてくれたこと自体、前進のひとつではあるんだけれど……それはそれとして、私は首を傾げる。
「妻? なにそれ」
「……うーん。どうも張り合いがありません。異世界を感じます」
タマモさんはもどかしげに肩を落とした。
「……でも、実際、どうなのかなとも思うのですけれどね」
「なにが?」
琥珀色の瞳が、うかがうようにこちらを見ていた。
「さっき、キスしてたみたいですが」
「うん」
「そのあとも、見ていましたが。なんといいますか、私の目からすると、あなたは恋を知らないだけで、実際のところは……」
なにか言いかけた、そのときだった。
「――ッ!」
私とタマモさんは、弾かれたように振り返った。
「悲鳴?」
遠いけれど、確かに聞こえた。
当然、私に聞こえたってことはタマモさんも――彼女の場合は、もっと詳しく状況を把握できたに違いない。
「どうやらモンスターですね。しかも、これは……『仮宿』の敷地に入られているようです」
「え!? 『仮宿』にモンスターが? そんな。警備はなにを……?」
警備の仕事は、組合から派遣された冒険者が務めている。
階層に対して、それよりも上の冒険者。
それも、余裕のある数を準備しているはずだ。
通常ならモンスターが現れても十分に倒すことができる。
なにかミスがあったとしても、警鐘が鳴る前に『仮宿』の敷地内にモンスターの侵入を許すということは、まずありえない。
なにかが起ころうとしている?
わからないけれど、とにかく、いまやるべきことは決まっていた。
「主様のもとに戻りましょう」
優美な顔を凛々しく引き締めた仲間の言葉に、私はうなずきを返して駆け出した。
◆主人公は過去に折り合いを付け、一方でヒロインたちは関係を構築しました。
ここで事態は動き出します。
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