19話 獣の目線
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ほとんど暴言を言った自覚を持ちつつ、私は目の前の彼女を正面から見つめた。
いつも思うけれど、優美な人だ。
基本的にグレンを中心にした関係性とはいえ、同じパーティでもう10日以上も行動してるのに、ふとした瞬間にまだ見とれてしまうことがある。
ただ美しいだけじゃなく、彼女はにこやかな態度を崩さない。
人当たりが良く、気さくで、社交性があって明るく優しい。
こうして彼女にとって不明な話を振り、暴言に近い言葉を聞いたところで、それは変わらない。
……変わるはずが、ないのだ。
タマモさんは確かに、私のことを気づかってくれているし、大事にもしてくれている。
話に耳を傾けてはくれている。
けれど。
それはあくまで、私がグレンの大事な家族だからだ。
それだけ。
ただ、それだけ。
私がどんな人格で、どんなことを考え、どのような人間であるのかということは――この際、いっさい関係ない。
極端な話、タマモさんはそのへんで拾った石ころであろうと、グレンが大事にしているなら丁重に扱うだろう。
いいや。
それどころか、彼女にとっては実際、私は宝石と等しい価値を持つ石ころなんだと思う。
相変わらずニコニコと、タマモさんは私の話を聞いている。
ここまで言われても、やっぱり態度は変わらない。
私の話を聞きはしても、私と会話をしていない。
もっとも、それはなにも驚くようなことじゃない。
こうして、なまじ言葉が通じてしまうから忘れてしまうけれど……。
彼女は――人間じゃない。
真正の怪物、なのだから。
「まあでも、それでもいいかなって、私は思ってたんだよね」
「あら」
これは意外だったのか、タマモさんが目をみはった。
「そうなのですか」
「うん。世界を滅ぼせる力、っていうのが実際どの程度のものなのかは正直想像もつかないけど。もしもそんな存在がいるとすれば、人間なんて石ころみたいなものだもの」
存在しているステージが違うのだ。
だから、そこは仕方ない。
「というか、私も割とグレン以外どうでもいいほうだし」
「あら」
「似たもの同士だから責めることもできないよね」
さすがに、タマモさんほど極端じゃないけれど。
これは実際、エドワードたちといた時間が長すぎた後遺症だろう。
あいつらは常にグレンに悪意を向けるだけじゃなく、悪いうわさで同業者の評判を落として、悪意の毒を振りまいた。
おかげでグレンはどこにも居場所がなかった。
そんな彼と一緒に寄りそって生きてきた。
だから私のなかで身内のグレン以外は、どこか潜在的な彼の敵として見ている部分があった。
「だからまあ、私としてはさ。グレンの力になってくれるならいいかなって。私たちは別々に、彼に力を貸せばいいって考えていたんだよね」
「驚きました。思っていた以上に、エステルさんは聡明な方だったのですね」
「ありがとう」
「ですが……でしたら、どうしてこのような機会を?」
ここまで語ったからこそ、疑問にも思うのだろう。
とはいえ、疑問を抱きこそすれ、あくまでタマモさんはどこか他人事の態度だった。
ここで私が答えなくっても、そうですかとあっさり流してしまえるんだろう。
もっとも、それもここまでだけれど。
「グレンのためだよ」
「……どういうことですか」
私がグレンの名前を出したとたんに、タマモさんの笑顔が消えた。




