11話 最高位冒険者の在り方
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中堅冒険者の安全に対して、最高位冒険者が使命感さえ抱いて仕事をしている。
その逆ならともかくとして。
「不思議に思うかな?」
「ええっと。不思議とまではいきませんけど。少し意外でした。失礼だったらすいません」
特に気にした様子もなく、アレクシスさんは笑ってみせた。
「国で一番の冒険者のひとりとして、私が相応の力を持っていることは自覚しているよ。その価値もね。確かに私たちは、中堅冒険者たちが束でかかっても敵わないモンスターを討伐することができる。だから私たちは魔法銀級冒険者なんだ」
淡々と事実を告げる口調で言う。
そこには、確かな自負が感じ取れた。
「だが、その一方で、たとえば王都の食糧事情を支えているのは、冒険者の大半を占める中堅冒険者たちだ。どれだけ力を持っていても私はひとり。王都で活動する何十万という彼らの代わりを、私がすることはできない。その価値を私は認めているし、ないがしろにするつもりはない。だから、これは単純な役割の問題だよ。力持つ者の自覚と責任の話でもあるけどね。なにより、これは私がかくあれかしと願う私自身のかたちなんだ」
そこまで語ったアレクシスさんが、ふと疑問の表情を浮かべた。
「どうしたかな」
「いえ。すごいなって思って」
アレクシスさんの言葉には、確固とした信念が感じられた。
きちんとした考えがあり、正しい誇りがあった。
強いだけじゃないのだ。
これが、最高位の冒険者なのだ。
「はは。君に褒められるのは、思いのほか嬉しいな」
アレクシスさんは無邪気に笑った。
こんなふうに褒められるのなんて慣れているだろうから、きっとリップサービスだろうけど。
「本当だよ?」
見透かしたように、アレクシスさんが言った。
「自分でも少し不思議なくらいだ。うん。君だから、かな?」
「ええっと……」
冗談だろうか?
本気っぽく思えてしまえて、少しとまどう。
「僕なんか、大したことないと思いますけど」
「いやいや。そんなことはないだろう」
からかわれているのかなんなのか、アレクシスさんは首を横に振ってみせた。
「たとえば、冒険者としての能力だけに話をしぼるにしてもだ。ここ数日、見させてもらった力は、正直、期待以上だったよ」
「ありがとうございます。でも、すごいのはタマモですから」
いまの僕たちのパーティは下層で戦えるくらいには強い。
そこを否定するつもりはない。
そして、そのなかでも特にすごいのがタマモだ。
もちろん、単純な戦闘能力なら逆鉾の君も同格だけれど、アレクシスさんにはまだ戦いを見せていないので、ここはやっぱりタマモだろう。
アレクシスさんは、そんな僕たちのパーティの力を認めたうえで、そのリーダーである自分のことを尊重してくれたに違いない。
と、解釈した僕に、アレクシスさんがはっきりした口調で言った。
「いや。私の言っているのは君のことだよ、グレン」
思いのほか強いその言葉に、僕は横を歩くアレクシスさんの顔を見返してしまった。
そこに冗談の色はなかった。
「私はね、強い者が好きなんだ。強い者は美しく輝いて見えるから。私のパーティの仲間たち。『輝きの百合』の面々。そして……ああ。確かに、タマモさんは強い。まだ余力もあるように見えるね」
語る口調はいかにも楽しそうなものだ。
青い瞳がわずかに色合いを深めているように見えた。
だけど、その目はいま、こちらを見つめていた。
「ただ、私がいま、一番興味を抱いているのは君だ。私の直感が、君になにかを感じている」
「僕は……」
こうしているいまも色合いを深めつつある瞳に引き込まれそうな気持ちになりつつ、僕は答えた。
「僕は、そんなたいした人間じゃないですよ」
「謙遜だな。いや、本当にそう思っているのか」
「事実ですから」
確かに、以前に比べれば力はついたと思う。
国でもトップクラスのパーティをこの目で見て、自分たちの力がかなりのものだと確信もできた。
けれど、それはそれだ。
「僕はまだまだ足りていませんから」
自分はまだ、かつての『万魔の王』を思い出すことができていない。
その力を取り戻せてない。
そうできていたのなら、タマモを落ち込ませるようなことはなかったはずだ。
まだまだ足りていないのだ。
過去にこの手は届かない。
はるかに遠い。
だから……手を伸ばさないと。
「なるほど」
アレクシスさんが微笑んだ。
なぜだか、ますます嬉しそうな表情だった。
「君は思ったよりもはるかに貪欲な男のようだ」




