20話 奇妙なモンスター
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あっという間の殲滅だった。
マリナさんが剣を納めて、ニヤリと笑いかけてきた。
「あは。やっぱいいね、グレンくんたち。パーティ全体のレベルが高いし、ホントに黄金級冒険者パーティになるだけの実力あるよ」
そこまで告げたところで、赤褐色の瞳が少し細められる。
「いや。ひょっとして、それ以上かな」
……鋭いな。
実際、滅びの獣のひと柱であるタマモは、黄金級冒険者を超えた力を持っている。
また、僕の力である逆鉾の君もそれは同じだ。
しかし、現状では、いざというとき以外は力をセーブすることにしていた。
さっきの戦闘でもそうだ。
万魔の王の力、滅びの獣の力は使っていない。
あまりにもケタ外れだからだ。
国を代表する英雄であるアレクシスさんの強さは、きちんと見たわけじゃないから断言はできないけれど、仮にそのレベルなのだとすれば、そんなのが突然出てきたら目立つどころの騒ぎじゃない。
実のところ、逆鉾の君をエステルの護衛に置いているのもこのへんが理由のひとつでもある。
僕の意思で動く逆鉾の君は、言ってしまえば遠隔操作の兵器だ。
自分の手足を動かしているわけではないので、命令している僕がそれほど力をセーブするのに自信がなく、力がばれないようになるべくうしろに下がってもらっているわけだ。
あと、もうひとつの理由として、そのつど命令しておかないとエステルの身を守ってくれない――僕の身を守るのは例外的に自律して動くのだけれど――というのもある。
ともあれ、そんなわけで普段は力をセーブしている。
もちろん、さっき咄嗟の防御で逆鉾の君を動かしたときも、感じた敵の魔力規模からちゃんと加減はするようにした。
ただ、それでもマリナさんはそこからなにかを嗅ぎ取ったのかもしれない。
そう思ってしまうくらいに、マリナさんの顔は楽しげだった。
おまけに、なぜか実際に動いたタマモや逆鉾の君よりも、僕のほうに強く目を向けている。
まさか逆鉾の君との関係に気付いた……ということは、さすがにないだろうけれど。
第六感的になにかを感じ取ったのだとしたら、どちらかといえば、その感覚は獣のものに近い。
とはいえ、そんな彼女は同時に優れた冒険者でもある。
「マリナ。いまはそんな話をしている場合ではありませんよ」
「わかってるよー」
メリナさんがたしなめれば、マリナさんもすぐに興味を引っ込めた。
冒険者としての力は商売道具。
ある程度より先は踏み込まないのがマナー。
というのもあるが、それ以上に、メリナさんが口にした言葉が大きい。
そんな話をしている場合ではない、と――気になっていることがあるのは、僕も同じだった。
その疑問を実際に口にしたのは、戦闘が終わったことで僕のかたわらに駆け寄ってきたエステルだった。
「おかしいよ、グレン。この階層にこんなモンスターは出ないはずだよ」
「エステルも知らないんだ?」
そう。
この階層で集団で襲いかかってくる敵のレベルは、さっき戦った下層モンスターのチーフ・オークが中層にもいるバンデッド・オークを率いているくらいのものだ。
今回襲いかかってきたこのモンスターは、単体がチーフ・オーククラスの上に、数も多く、おまけに全体が気配を隠し遠くから一糸乱れぬ魔法の一斉射撃を行ってきた。
この階層でそんなモンスターが出るという話は聞かない。
迷宮ではなにがあるかわからないとはいえ、それにも限度というものがある。
特に、エステルが知らないというのは妙だった。
「少なくとも、組合の情報にはないと思う。というか、私が知ってる限り、こんなモンスターの情報自体がないはずだよ」
考える余裕を失いがちな前衛をフォローするために、後衛は冷静な判断力とそれを支える知識が必要とされる。
特に、エステルは冒険者としても珍しいくらいに勉強家だ。
これは、危機に陥りやすかった僕の性質を心配してのことだった。
モンスターについても、よく組合の資料で情報を仕入れている。
組合受付のミーシャさんと仲良くなったのも、資料の貸し出しなどで関わりがあったというのがひとつの理由なくらいだ。
当然、この階層を攻略対象に選んだときには、きちんと資料を確認している。
その彼女が知らないのは変だ。
迷宮で普通は起こらないような奇妙な出来事。
心当たりはあった。
「ひょっとして、これも迷宮の異変……?」
「あ……っ」
思わずといった様子で、エステルが声をあげた。
倒したモンスターの体が崩れていったからだ。
みるみるうちに、モンスターが完全にかたちを失う。
残された魔石がポトリと音を立てて地面に転がった。
◆着々と力を付ける主人公たち。
事態も動いているようで、再び迷宮の異変にふれたところで物語は次に進みます。
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