20-27 攻略を継続しました
各クランが第三エリアボスを討伐し、第四エリアへの切符を手にしたその翌日。公開された情報に触発されて、東西南北の各マップ……各領内には、クエストの消化を慌てて進めるプレイヤー達の姿があった。
そんなプレイヤー達を横目に見ながら、エリアボスが待ち受けるダンジョンに向けて移動する一団。その内の一部のプレイヤーが、表情に優越感を滲ませながら口を開く。
「おーおー、中小規模のギルドの連中が慌ててんなぁ」
「俺達は元より、領主関連のクエストをやっていたからな。今からクエストを消化するってなると、時間が掛かるだろうよ」
「そう言ってやるな。トップ層と比べたら、こうなるのも仕方がないさ」
そんな会話をしているのは、ギルド【竜の牙】に所属するメンバー。ちなみに幹部クラスではなく、末端のプレイヤーだ。
彼等はLQO時代からのメンバーであり、LQOにおける【竜の牙】の栄光を経験した事がある面々だった。だからこそ「自分達はトップギルドだ」という意識がAWOに移籍してからも抜けず、今になってクエスト消化に慌てているプレイヤー達を見下していた。
もっとも今回、彼等が四箇所のダンジョンに早々に挑むことが出来る理由……それは、エリアボス関連だと解っていたからではなかったりする。
彼等が東西南北の第三エリアで領主が絡むクエストをこなしていたのは、”浄化マップのエクストラクエスト”を探す為だった。結果的に浄化マップには未だ辿り着けていないのだが、各領の情報収集を目的として貢献クエストは大分進んでいる。そのお陰で、彼等はあっさりと領主から≪許可証≫を得る事が出来たのだ。
つまり、偶然なのだが……もしかしたら、末端のメンバーにはそういった詳細情報は知らされていないのかもしれない。
そんな【竜の牙】の集団の最前列を歩くのは、勿論ギルドマスターであるリンドだ。その周囲には、ギルドの幹部メンバーが揃っている。
「南側のエリアボスは、スキュラだったか。デバフを喰らったら、即座に回復が必要だ。各パーティの回復役に、≪MPポーション≫の配分は出来ているか?」
「はい、リンドさん。一人につき五十本程度を割り当てています」
「良し、それだけあれば十分だろう。盾職と回避役の配置も出来ているし、魔法職と前衛役も問題無い。司令塔は俺、フレズ、バッハ、ソウリュウ、バーンで行く」
「了解です」
「任せて下さい」
現在の【竜の牙】はプレイヤーが四十五名、PACが十五名の総勢六十名。五組分の≪許可証≫を早々に手に入れた彼等は、PAC五名を加えたフルレイドパーティでエリアボスに挑む予定だ。
そして五つのパーティは全体的に編成バランスが良く、エリアボス攻略に耐え得るレベルと練度を保有している。
司令塔役のパーティリーダー、重戦士タイプの盾職、回復役の魔法職が必ず一パーティに一人以上。そして前衛・遊撃・魔法火力のバランスが良く、ダンジョン内でもエリアボス相手でも、あらゆる戦況に対応出来る布陣なのだ。
そして【竜の牙】の最大の強み……それはギルドとしての完成度においては、AWOでも上位に入る練度にある。
彼等は”個々の実力”に関しては、他のトップランカーと比較をするとあまり高くはない。
その要因はAWOに中途参戦している点と、指示を出す者と指示を受ける者というシステムが出来上がっているからだ。
指示を出す事が多い者は判断力は高いが、実際に自分が戦う場合には反応速度で後れを取る。逆に指示を受ける者は、指示が無いとどう動いてよいのか判断に迷ってしまう。
しかし”ギルド単一の編成”となると、【竜の牙】はその真価を発揮する。的確な判断を下せる指示役と、それに異を唱えずに忠実に従うメンバー。今回の五レイドパーティで挑むエリアボス戦は、【竜の牙】にとって一番力を発揮する事が出来るのだ。
「それでは行くぞ、【竜の牙】! 討伐対象は第三エリアボス、アビス・スキュラ! 目標は【導きの足跡】の討伐記録を、越える事だ!」
『おおおぉぉぉっ!!』
気合十分でダンジョン内に入っていく、【竜の牙】の各パーティ。その勢いは、トップクランの速度に匹敵するものだった。
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「という訳で、自由ログインになる前に……一度みんなで、エリアボス討伐でもしてみようか?」
プロゲーマー事務所【フロントライン】の代表取締役社長であり、プロゲーマーの一人でもあるシキ。彼の言葉に、プロゲーマー達からの反対意見は出なかった。
「良い息抜きになりそうだし、俺はこれからもちょくちょくインするつもりですからね。人数が居る内に、エリアボスは突破しときたいっすね」
「テイルズさんも、そう思いますか。私も同意見です、社長。戦闘システム自体も面白いですが、何より自由度が高いので……息抜きになるという点では、理想的なゲームですね」
テイルズとクーラがそう言えば、他の数名も穏やかな笑みを浮かべて頷いてみせた。成績と賞金の為にプレイするゲームとは違い、自分の好きな様にプレイできる自由度の高さ……それが、プロゲーマー達の琴線に触れたのだろう。
「野良パの上限人数が、八人でしたっけ」
「十六人だから、丁度半々になりますね」
「じゃあ、俺はテイルズさんとが良いっす!」
「はいはい、その辺りはクーラさんの領分でしょ」
和気藹々と、しかし真剣にエリアボス討伐に向けて話し始めるプロゲーマー達。そんな同僚達を見ながら、クーラはマストに視線を向けた。
「マスト、昨夜公開された情報はもう見たのよね?」
「えぇ、確認しました。流石トッププレイヤー達の情報ですね、かゆい所に手が届くと言いますか……信憑性は十分でしょう。有力な情報は既に纏めてありますので、後程共有します」
「そう……トップランカー達も、貴方も流石ね。オススメは?」
「東ですね。真っ先にワールドアナウンスがあって、【十人十色】が情報公開をした事で野良プレイヤーが多いみたいです。我々がパーティを組んでも、素性が割れる可能性は低いでしょう」
そんな会話をする二人に、白いライダースーツの青年……ヴェッセルが近付いた。
「なになに、攻略情報の件? マスト君、もうデータ纏めちゃってる感じ?」
「……えぇ、まぁそれなりに」
仏頂面で応じるマストに、クーラは表情を変えずに内心で苦笑する。マストはヴェッセルが苦手らしく、いつもこうして塩対応をするのだ。それでもめげずに話し掛けるのだから、ヴェッセルのメンタルの強さは相当なものだろう。
「それよりクーラちゃん、そろそろ俺と……」
「ヴェッセル……何度も言っているけれど、その気は無いわ」
実際、ヴェッセルは何度断られても、クーラにモーションを掛け続けている。それを考えると、彼のメンタルは鋼で出来ているのかもしれない。
ちなみにリリカやレアといった、他の女性メンバーにはそういった素振りは見せていない……その対象となっているのは、どうやらクーラだけの様だ。
それを考慮すると、もしかしたら本気でクーラに好意を抱いているのかもしれない……と考えるものの、彼女はどうにも違和感を覚えていた。
――好意は好意なのだろうけれど、何かが違う気がするのよね……まぁ、本気だとしても応じるつもりは無いけれど。
それは、クーラにとって揺るがない理由があるからだ。ヴェッセルだけではなく、誰からの好意も受け入れる気は無い。
その理由の大元には、彼女の過去……家庭が崩壊して、一家が離散した事件のせいだった。
ともあれ、エリアボス攻略に臨むのならば準備が必要だ。二パーティという少人数で挑むか、それとも他のパーティと野良でレイドパーティを組むのか……どちらに転んでも、やっておかなければならない事は山の様にある。
「それじゃあ、マスト。攻略情報を社長とテイルズさん、私にメールしてくれる?」
「はい、解りました。じゃあクーラさん、ヴェッセル。また後で」
「私もパーティ編成について、社長と打ち合わせないと。ヴェッセルの希望は、私と同じパーティで良いのよね? 後で他のメンバー編成について相談するかもしれないから、その時は宜しく」
クーラとマストがそれぞれ歩き去ると、ヴェッセルは肩を竦めた。
「つれないなぁ、二人共」
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その頃、ギルド【七色の橋】と【魔弾の射手】Withユージン・ケリィ・クベラのレイドパーティ。
「っちゅー訳で、船やったら木造船が一番手を出しやすいやろな」
「確かに……鋼鉄製の船より、費用が安いのは……大きい、です」
「木造の方が、費用は十分の一だからね。ただその分、防御面で不安要素がある様だ」
クベラとカノン、ユージンが話しているのは、新大陸に向かう際に購入する事が出来るという船についてだった。
東側第三エリアボスの討伐を領主に報告に行った際に、ジン達は様々な情報を集める事が出来たのだ。
まず新大陸に向かうだけならば、半月後に領主が出す連絡船に乗船ができるとの事。これはケインがクリムゾンから得た情報と、全く同じだった。となれば、恐らくは北と南の海域も同様なのだろうと予想できる。
次に新大陸に渡る事が出来たならば、その港町で船を購入する事も出来るだろう……という話だ。領主の補佐官から提供された資料には、船を購入する際に掛かるおおよその費用が記されていた。
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【木造船】
小型船(帆船) / 1~ 30人用 / 十万ゴールドコイン
中型船(帆船) / 10~100人用 / 五十万ゴールドコイン
大型船(帆船) / 50~300人用 / 百万ゴールドコイン
【鋼鉄船】
小型船(帆船) / 1~ 30人用 / 百万ゴールドコイン
中型船(帆船) / 10~100人用 / 五百万ゴールドコイン
大型船(帆船) / 50~300人用 / 一千万ゴールドコイン
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更にゴールドコインを消費すればオプションで大砲を付けたり、偵察用の小型船(1~10人用、五万ゴールドコイン)を付けたりできるらしい。
実物を見てみなければ何とも言えないものの、恐らくは船を使ってのイベントが何かしら予定されているのかもしれない……そんな予想から、生産職メンバーで様々な話をしている所だった。
ちなみに場所は、北側第三エリアボス……カース・オルトロスが待ち受ける、ダンジョンに入って少し進んだ位置だ。
「ギルド単位で乗る船なら、小型から中型の船で良いだろうね。【ふぁんくらぶ】は中型じゃないといけないだろうけど、他のギルドは小型で行けそうかな」
「確かに。わざわざ、人数……増やそうとは、してませんし……私達。それなら、その……船を、造るのも……非現実的じゃ、ない……でしょうか……?」
「やってやれない事は無いと思うよ、僕としてはね。クランで一つにするか、ギルド単位で一つにするかは要相談かな。後は船造りとか、超楽しそう」
どうやら彼等は、買うよりも造る方向で考えているらしい。もっともカノンが船造りに当初から興味を示していたので、そうなったのも当然の帰結かもしれない。
ちなみに今回のダンジョンアタックは、初日と同じメンバーではない。折角なので、メンバーを少し入れ替えようという話になったのだ。
そこで初日はジンのパーティに参加していたセンヤとヒビキが、今日はミモリ・カノン・ユージン・ケリィ・クベラと組んでいる。それに伴いPACであるシスルとアルクも参戦し、クベラのPACであるエリーゼを加えて十人編成となっている。
そんな入れ替え組のセンヤは、生産メンバーの会話を聞きながらダンジョン内を歩いていた。船を製作する方向で話が進んでいるのを耳にして、振り返りながら満面の笑みを浮かべてみせる。
「船を造るのか~……それなら、皆が居心地がいい船に出来たら良いですよね!」
「そこは勿論。太陽のライオンの船よりも、居心地良い船にしてみせようじゃないか」
「ユージンさん、海賊船でも作るんですか……?」
センヤの言葉に笑顔で頷くユージンだが、ヒビキが言及した通りどこの海賊船をイメージしたのか。まさかコーラを燃料に、空気砲でも発射するのだろうか。
……
同じ頃、ハヤテが率いるパーティ。
「へ~、じゃあディーゴさんもバイク乗るんすね」
「あぁ、何もない日はツーリングしたりだね」
「良いっすね! 都心の方だと走りにくそうっすけど、T山とかあの辺っすか?」
「もう少し足を延ばして、S湖の方とかにも行くよ」
バイクの話題で盛り上がっているのは、イカヅチとディーゴだ。見た目がヤンキーっぽく見られがちで、実際は不良ではない者同士だからだろうか?
「バイクかぁ……流石にAWOには、バイクは無さそうだよね。乗馬とかは出来るんだっけ?」
「出来るッスね。俺等はまだ手を出してないけど、移動手段に馬を使うのもアリみたいッス」
アイネの問いに答えるハヤテは、掲示板で掛かれていた書き込みについて思い出した。
「ってか、既にそういうギルドがいくつかあるみたいッスよ……和風のとこと、中華風のとこで」
ギルド【七色の橋】とは別に、和風ギルドを標榜するギルドもいくつか存在している。そしてそんなギルドが集まって結成されたクランが、和風クラン【日ノ出ズル國】である。
彼等は既に何匹かの馬を飼育し、自分達で育てて騎兵馬にしようとしているそうな。
そしてそんな【日ノ出ズル國】に触発されて、同じ様に馬の育成を進めているのが中華風クラン【中華連合】だ。
「確か騎兵馬を育てようとしたきっかけは、第四回イベントだったらしいわね」
ハヤテとアイネの会話に参加したジェミーは、苦笑いを浮かべていた。第四回イベントがきっかけという事は、第四回イベントで動物に乗るプレイヤーが現れたという事である。
そしてプレイヤーを乗せてフィールドを駆け回った動物に、ハヤテもアイネも心当たりがあった。むしろ、心当たりしかない。
「コンちゃんッスか」
「コンちゃんだね」
「そう、コンちゃんを見て自分達も! ってなったらしいわよ」
ジンの神獣であるコンの姿を見て、彼等は「それなら自分達は馬を!」となったらしい。元凶が身内だったとあれば、ハヤテ達も苦笑いを浮かべるしかない。
そんな会話をする仲間達に、運営責任者であると同時にレンの義兄でもあるカイルが口を挟む。
「ちなみにAWOの馬は、現実と同じで相当賢い子が多い。リアル志向のプレイヤーには、評判が良いんだ」
どことなく誇らしげなカイルの言葉に、ハヤテはすぐに彼の言わんとする所を察した。
――馬に搭載しているAIまで、高性能なのか!! すげぇな、【ユートピア・クリエイティブ】!!
しかしだとすると、正直興味が湧いて来る。
「それ聞くと、ちょっと馬乗ってみたいかもッスね。そういや、じっちゃんは昔騎士だったんすよね? やっぱ、馬にも乗ったんスか?」
「そりゃあ勿論、乗ったとも。騎士にとっちゃあ、騎馬が出来るのは必須条件だからな」
「そうなんだ! じゃあおじいちゃんに、馬の乗り方とか教えて貰いたいんですけど……」
「フン、ワシは甘やかさんからな。やるなら厳しく教えるぞ」
そんな事を言ってはいるが、ジョシュアは鍛冶や武器の手入れも丁寧にアイネ達に指導してくれるのだ。だからきっと騎士時代は、頼れる先輩だったのだろうと想像に難くなかった。
……
二つのパーティが和気藹々とダンジョンを進む一方、戦闘を繰り広げるパーティもある。
「シオンさん!」
「はい、お任せを」
通路の先から襲い掛かって来た、サハギンの上位種であるアビス・サハギン。ヒイロとシオンがその攻撃を受け止めると、自陣の後衛の居る方から矢が放たれた。
「標的の頭部に命中、支援狙撃を継続します」
「了解、メイジタイプはこちらで対応する」
長弓を構えて矢を射るレーナと、クロスボウを使いアビス・サハギンメイジを狙って詠唱を阻害するクラウド。銃弾よりも自分達で製作する矢の方が、ローコストで済む……という理由で、エリアボス戦まで銃を温存する二人の支援狙撃である。
鉄壁の盾と、必中の矢。そして盾持ち二人の横を通り抜けて、アビスサハギン達に襲い掛かるのはビィト・メイリア・トーマだ。
「隙あり……ってな!!」
「……むん」
ハルバートの重量を生かした、豪快な一撃を叩き込むビィト。それに対して、デスサイズ型の武器を巧みに操るメイリア。この二人は、普通の武器の範疇だ。
問題は、金髪の少年……生産大好きおじさんの孫であり、レーナの婚約者であるトーマ少年である。
「さて、それじゃあ試作品の試し斬りだ」
そう言って構えたのは、回転式拳銃と刀を無理矢理融合させた様なデザインの奇形の武器。コルト社製の回転式拳銃≪パイソン≫を模した≪リボルバーピストル≫に、打刀の刀身を保持させる機構を設けて改造したものだ。
「【一閃】!!」
剣や刀にも慣れているのか、型に嵌まらない動きだが、安定感と力強さを感じさせる剣筋。クリティカルヒットで足を止めたサハギンに、トーマはそのまま銃口を向けて引き金を引く。
「……うん。もう少し詰められそうだけど、扱いやすそうだ。でもまだお祖父様や、彼女には及ばないな……」
そう言いながら、トーマは更に銃刀を振るう。その様子を見て、ヒイロは「あれでフルーツの錠前をあしらったら、見た目が無双セ●バーなんだよな……」なんて思ってしまった。
ちなみにトーマが無双セイ●ーもどきを製作した理由は、クランメンバーで生産を行っている時の出来事に起因する。鍛冶職人メンバーの手伝いにトーマが参加した際に、彼は一人の少女が作った物を見て感銘を受けたのだ。
ちなみにそれは【魔弾の射手】のメンバーの要望で、長物も携帯しやすい様に分解・組立が可能に出来ないだろうか? という要望を受けて、その少女が考案した着脱式機構を備えた武器だった。
しかも銃と一緒に開発した≪専用ケース≫に収納可能で、特殊部隊っぽさを更に強調した欲張りセットだったのだ。それを見たトーマ少年は目を奪われ、そしてそのデザインと機能美に心を奪われてしまった。
「うん……まだ、ハヅキ先生には及ばないな……!!」
はい、”彼女”とは【忍者ふぁんくらぶ】の発明王・ハヅキちゃんでした。一歳年下の少女を”先生”と呼ぶくらいに、トーマは感銘を受けたらしい。受け過ぎかもしれません。
ちなみにその様子を見て、婚約者であるレーナはユージンに「あれは、血ですか」と問い掛けた。それに対する答えは、満面の笑みで告げられた「うん、血だね」というお言葉だったそうな。
……
そして、ジン達のパーティ。
「【変身】と≪オーブドライバー≫の相乗効果……か。そうね、多分ジン君が言う通り、過負荷状態になったと思うけど……解決方法かぁ」
「うーん、そもそも過去にプレイしたゲームに【変身】みたいなスキルは無かったんですよね。単純に、≪変身専用装備≫のアップグレードを試してみるとか?」
先日の【変身】が過負荷になった件について、ネオンとナタク、ミリア・ルナ・シャインに相談をするジンとヒメノ。生産を専門とするメンバーにも対策を考えて貰っているが、多角的な視点から解決法を探るのも一つの手だ。そう考えて、ジンは仲間達に話を聞いてみる事にしたのだった。
「んー……【変身】一つに対して、一式の≪変身専用装備≫があるんだよね? 二つの≪変身専用装備≫を用意してみるのは、どうだろう?」
「今の装備の上に、新しい装備……か。でもルナさん、それだと重量が増してAGIが低下しそうですね……」
「あ、そっか。ジン君の最大の持ち味だもんね」
「ジン! 加速したい時は、キャストオフするですよ!」
「シャインさん、それまんまカ〇トじゃないですか!?」
だが実際に第二回イベントでの、準決勝……【変身】持ち同士であり、互いにAGI特化型である対アーサー戦での動きは最早、クロックアップと言っても良いのでは? というレベルで高速戦闘だった。
「そういう事なら、ジンさんとヒメちゃんで一緒に変身して、何かの方法で二人で一人になるとか?」
「あぁ、それだったら意図せず巻き込んで二人で一人になったパターンもありましたね」
「ネオンさんのはダ〇ルで、ナタクのはク□ーズビ〇ドだね!?」
前者はデフォルト仕様で、後者は劇場版限定の最強フォーム。両方に共通しているのは、二人で一つの身体を共有する点だ。
出来るか出来ないかはさて置き、そんな事になれば戦闘難易度が上がるのは確実である。ほんわかしているネオンはともかく、ナタクは悪戯っぽい表情なので冗談なのだろう。
「仮面ライ〇ーネタは置いといて……他のギルメンや、PACであるリンさんに【変身】を使わせるというのも、一つの手じゃないかしら」
ミリアがそう言うと、ジンはその提案に頷いてみせる。
「現時点で、スキルを腐らせない方向性ですね」
「そ、過負荷問題は解決してないけれどね」
それを承知の上で、今すぐに出来る事と言えばそれくらいだ。実際に【変身】を使える人数が増えれば、パーティ全体の火力・防御力強化に繋がる。過負荷問題が解決するまでは、その方向性で行くのも悪くはないだろう。
「まぁ貸与するなら、≪変身専用装備≫を製作する必要があるでしょうけれど」
ミリアがそう言って「だから、今回はお預けかしら」と言うが、実はそうでもなかったりする。
「PAC分はまだ無いですけど、プレイヤー分は一応あるんです」
「はい、皆で相談し合いながら用意してました♪」
「実際にスキルオーブをお借りして、【変身】してみた事もありますね」
実は【七色の橋】は、人数分の≪変身専用装備≫が用意されている。[ウィスタリア森林]を浄化するエクストラクエストの際に、シオンがケリィからスキルオーブを借り受けて即座に【変身】出来たのもそのお陰だ。
「あら、そうだったのね。用意周到、流石だわ」
「備えあれば、嬉しいな! ですね!」
「シャインちゃん、定番過ぎるネタだね? 『嬉しいな』じゃなくて、『憂いなし』だよ」
ともあれ今回は、前衛で戦うナタクに【変身】を貸し出す事にしたジン。彼ならば【変身】状態で【ドッペルゲンガー】を使用して戦力拡充も出来るので、適任だろうと考えたのだ。
その事はギルドチャットで報告し、当面は他のメンバーにも【変身】を貸与する意思がある事を伝えておく。
――これなら、宝の持ち腐れにならずに済むしね。皆も狙っているみたいだけど、中々手に入らないんだもんな。
スキルオーブのランクとしては、スーパーレアである【変身】。しかしその排出率は、他の同ランクスキルよりも低いと噂されている。少しずつ保有者も増えてきているこのスキルには、まだ謎が多いのかもしれない。
そんな事を考えつつ、ジンはナタクに【変身】のスキルオーブを貸し出したのだった。
2025/11/15修正 クマ→ライオン
次回投稿予定日:2025/11/20(本編)




