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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第二十章 第四エリアを目指しました

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20-23 ヘル・デュラハンに挑みました

 ジン達がエリアボスと戦っているその頃、西側のダンジョン。ボス部屋の前に到達したケイン達は、最後の一組となるダイス率いるパーティを待っていた。

 そこまでは何も問題は無かったのだが、ボス部屋の前では微妙な緊張感が漂っている。


「お互いに、残り一組か。果たしてどちらが先に、ボスに挑戦できるのか……」

 そう口にしたのは、金髪の青年。身に纏うのは白銀と黄金色を基調とした騎士鎧と、青い騎士服が特徴的だ。

「ははは、そうだね。とは言っても、肝心なエリアボス討伐に時間が掛かってしまうかもしれないだろう、アーク」

「フッ、違いない。とは言え、君達の実力ならばそう長い時間は掛からないのではないか? ケイン」

 ケインとそんな会話をするのは、クラン【騎士団連盟リーグ・オブ・ナイツ】の中心核となるギルド……【聖光の騎士団】のギルドマスターを務める、アークであった。

 実はケインが率いるパーティと、アークのパーティがほぼ同時にボス部屋の前に到達。そこから互いの仲間達のパーティが合流していき、どちらも残りは一パーティのみとなったのだ。


「……競争心旺盛だねぇ、全く。済まないね、イリスさん……うちのギルマスが、旦那さんに構いっきりで」

 ケインとアークの様子に苦笑しつつ、イリスにそんな言葉を投げ掛けるシルフィ。困ったもんだと言わんばかりの様子からは、敵対心も対抗心も覗えない。

「それに対抗してる時点で、ケインも同類だからお相子よ。まぁどっちが先になっても、おかしくはない状況……競争したいなら別に良いんじゃない? バチギスって訳でも無いし」

「あはは、確かに。健全な競争は望むところではあるね」

 ギルマス同士とは打って変わって、こちらは終始フレンドリーな会話である。互いにサッパリとした性格なので、ウマが合うのかもしれない。


 また、もう一組。

「成程……【七色の橋】と【魔弾の射手】は東側、【忍者ふぁんくらぶ】は南側なんですね」

「えぇ、その通りです」

 【ラピュセル】のギルドマスターであるアナスタシアは、【絶対無敵騎士団】のギルドマスターであるフデドラゴンと談笑していた。こちらは一対一ではなく、複数名で同時にである。

「こちらとしては、【LOK】の皆さんが一箇所に集中する方が意外だったわ」

「そうそう! メンバー数を考慮すると、各方面を同時に攻略してもおかしくはないと思ったんだけど……」

 アシュリィとアリッサがそう言うと、フデドラゴンの右腕であるヴェディが二ッと笑ってみせた。

「そこは俺達と、もう一組……【白銀の聖剣】から申し出たんだ。クラン結成後、初のエリアボス戦だろ? どうせならクラン混成のレイドパーティで、最短記録を打ち立ててみないかってな」

 ケインとアークが競争ムードを醸し出しているせいか、こちらは和やかに雑談でも……といった雰囲気である。


 その様子を少し離れた場所で窺う、【絶対無敵騎士団】の面々。そこでMP回復に努めるアスナとニコルが、微妙そうな表情を浮かべていた。【ラピュセル】のスリートップ……アナスタシア・アシュリィ・アリッサ。美女トリオと談笑する想い人の様子に、薄っすらと嫉妬心が沸いているらしい。

 ちなみに同類として、テオドラも複雑そうな表情である。相変わらず、ブレない百合っ娘さんだ。

 とは言うものの、決して彼女達が心配する様な事態では無いのが実情だ。アナスタシア達は絶妙な距離を保っているし、フデドラゴン達もそれ以上踏み込む様子は無い。これは互いに、相手との距離感を掴む事に長けているのだろう。


 そして少し離れた場所では、【十人十色ヴェリアスカラー】のメンバーと【騎士団連盟リーグ・オブ・ナイツ】のメンバーが和やかに……というより、賑やかに情報交換をしていた。

「あぁ、道中は≪毒消し≫系のアイテム消費が多かったな。多分、これはボス戦にも影響する気がするんだよな」

「≪毒消し≫が不足している所に、エリアボスが毒状態付与の攻撃を! とか有り得そう……というか、鉄板だろうな」

 ゼクスやレオンがそう言うと、ギルバートとライデンが同意を示すべく頷く。

「あぁ、我々も同じ見解だ。同じくトップランカーの君達もそう考えるなら、可能性は高いと見て良さそうだな? ライデン」

「そうだね。感謝するよ、【十人十色ヴェリアスカラー】の皆さん。こうして意見の擦り合わせが出来て、我々としても僥倖だ」

 そう言って頭を軽く下げるライデンに、ルーとバーベラ、そしてヴェインも続いて頭を下げる。


 同時に【絶対無敵騎士団】のジョーとカガミが情報交換に参加しているのだが、彼等は余り会話に参加出来ていない。その理由は……。

「ん~、だとすればエリアボスに挑戦する前に、消費アイテムの割り振りを確認すべきでしょうねぇ」

「後衛と遊撃に多めに持たせて、私達前衛には必要最低限……という所かな?」

 イザベルやマリーナといった【ラピュセル】の面々に見惚れて、鼻の下を伸ばしているからだった。

 無論、彼等の様子に他の面々は気付いている。言い寄らないだけマシという事で、放置されているだけだ。


 そんな中、一組のパーティが中層から転移して来た。それは、ダイス達のパーティだった。

「お? 【LOK】もこのダンジョンに来てたのか」

 ダイス達が【騎士団連盟リーグ・オブ・ナイツ】の姿を見て驚いていると、ケインとアナスタシアが出迎えるべく近付いて来た。

「お疲れ、皆」

「無事に揃って、何よりです。まずはエリアボス戦の前に、休憩して態勢を整えて下さい」

 二人のギルドマスターがそう告げると、ダイス達は了承の返事をして空いたスペースに腰を下ろす。

「俺等が最後だったか、待たせちまったな」

「済みません、私が現実の用事で一時離脱したせいで……」

「気にしなさんな、ルイーズさん。ほんの十分くらい、誤差だよ誤差」

 どうやらルイーズが急ぎで電話をしなければならず、一時離脱をしていたらしい。ちなみに理由はバイト先のトラブルで、攻略中にRAINの通知が来てしまったそうな。一次離脱中のアバターは仲間達に護衛して貰い、電話で指示出しをして何とか事は収まった様だ。


 そのすぐ後に、もう一組のパーティが姿を見せた。それは銀色の鎧を装備した、騎士風のプレイヤー達だ。

「ん? 【騎士団連盟うち】のメンバーに……【十人十色ヴェリアスカラー】……!?」

 最初は仲間達の姿を見て、インスタンスマップではない……つまり、ボス部屋の前に辿り着いたのだと確信した【白銀の聖剣】のブレイク。だがその視界に中華風装備の面々と、純白装備の女性達の姿が映り驚いてしまった。

 だがその驚きは一瞬で、アークとフデドラゴンがこちらに歩み寄るのを見て表情を引き締めた。

「待っていた、ブレイク」

「お疲れ様。これで、レイドパーティが揃ったね。まずは休憩して、態勢を整えて貰おうかな」

 同クランのギルマス二人がそう告げて、ブレイクは自分達がレイドパーティ第一陣に間に合った事を確信した。それを目指してここまで駆け抜けて来た、その努力が実った……その事実が、彼等の士気を高める。

「あぁ、了解した! 皆、ボスに挑む前に小休止だ! 料理でバフを掛けとくのと、消費した分の≪毒消し≫の分配も忘れないようにな!」

「「「了解!!」」」


 自然と【十人十色ヴェリアスカラー】と【騎士団連盟リーグ・オブ・ナイツ】の交流はここまで……というムードになった。互いに挨拶を交わしてその場を離れると、クランメンバーで集まっていく。

「それじゃあ、先に入らせて貰うよ」

「【騎士団連盟リーグ・オブ・ナイツ】の皆さん、お互いに頑張りましょう。ご武運を」

 そうして態勢を整えると、先に【十人十色ヴェリアスカラー】のレイドパーティがエリアボスの部屋へと入る事に。先にレイドパーティが揃った順番という事で、【騎士団連盟リーグ・オブ・ナイツ】側からも特に不平不満は出なかった。

「さて、次は我々の番だ」

「あぁ、そうだね。エリアボス戦も、インスタンスマップらしいし」

「俺達も、準備はバッチリだ」

 すぐに【騎士団連盟リーグ・オブ・ナイツ】も、負けじとエリアボス戦へ突入。二つのレイドパーティは、どちらが先にエリアボスを討伐するか競争する様な展開になるのだった。


************************************************************


 一方ジン達は、第三エリアボスヘル・デュラハンとの戦闘を継続していた。その中で彼等は、ボスのヘイト値の優先度が、呪い状態の有無にあるのではないかと予想。HPを五割まで削って呪い付与攻撃を発動したタイミングで、検証を試みた。

 結果だけを言えば、予想通りであった。ジンだけが呪い状態のデバフを受けている状況にしたところ、ヘル・デュラハンは執拗にジンだけを狙って行動する様になった。ちなみに当然ジンは、その攻撃の全てを尽く回避・回避・回避。


 逆に自分にタゲが向かないと解れば、攻撃役達は思う存分攻撃できる訳だ。それはつまりヒメノやレン、ハヤテといったDPSが見込めるメンバーの独壇場となる訳で。

「早い早い、もう残りHPが一割ね」

「HPが四分の一になった時、こっち側に呪い付与攻撃をして来た時は驚いたもんやけど……≪聖水≫使ったら、すぐにジン君に飛び付いたもんなぁ。デュラハンまっしぐら」

 実際にここまでは、レイドパーティ側にとって相性が良いボス、タネが分かればかなり与しやすいボス、呪いまっしぐらなボス、という何とも言えない評価である。

 ちなみに回復魔法や聖属性魔法による攻撃を試みたが、通常の属性魔法とそこまで差がないらしい。恐らくはリビングアーマーと違い、回復魔法や聖属性魔法に耐性があるのだろう。


 そしてこのままケリを付けてしまおうと、ヒイロが号令を出す。

「これで決めよう! 主砲組、用意を!」

 ヒイロの指示に頷いて、ヒメノ・レン・ハヤテが構える。ここで【七色の橋】が誇る、高火力トリオの出番だ。

「【炎蛇えんじゃ】」

 鏃に≪刀剣≫属性を持たせた矢を、弓につがえて炎の蛇を纏わせるヒメノ。更に彼女の周囲に、矢筒に収められた矢が浮かび上がる。

「【雷陣】、【炎陣】……そして、【風陣】」

 レンは三属性の【術式・陣】を発動させ、【合成魔法】で編み出した攻撃魔法を強化。両手の≪魔扇≫を構えつつ詠唱を終える。

「二人共やる気満々ッスね……俺もそうっスけど」

 そう嘯きながら、≪FAL型アサルトライフル≫を構えるハヤテ。既に【一撃入魂】の力で、弾丸には魔力が充填された状態。


 そんな三人の準備が整った事を確認したジンは、絶好のタイミングを作り出す為にヘル・デュラハンの頭上に向けて跳び上がる。まぁ、ヘル・デュラハンに頭は無いのだが。

「これでどうでゴザルかな?」

 自分の真上に上昇したジンを追うヘル・デュラハンは膝を、背を伸ばして大剣を突き上げる。真正面から見れば、攻撃が有効になる面積が最大限に晒された状態だ。

「うむ、バッチリ」

 火力組の為の、お膳立て。それを察した三人は、流石はジンだと口元を緩め……そして、その労力を無碍にしない為に攻撃に移る。


「行きます!! 【シューティングスター】!!」

「撃ち抜くッスよ!! 【アサルトバレット】!!」

「合成魔法……【炎雷の竜巻】!!」

 炎の蛇を纏った矢と、膨大な魔力が込められた弾丸がヘル・デュラハンに命中。更に炎と雷の竜巻が、その巨体を多い吹き荒ぶ。当然、ジンは攻撃が放たれたタイミングで離脱済みである。

「流石、息ぴったりですね」

「やったか!!」

「ビィト君? それフラグっぽいから、やめない?」

 ヘル・デュラハンのHPが削り尽くされ、その場に残ったのはボロボロになった鎧のみ。手にしていた大剣は罅割れ、使い物にならない状態だ。HPバーは光を失い、討伐完了……と誰もが確信していた。


 レンも討伐完了を確信し、喜びを分かち合おうと隣を見れば……彼女の目に映ったのは、魔法職としてずっと自分の隣に居た姉の姿だった。


――お姉様がまだ、警戒している……? まさか、エリアボスは……!?


 何よりも、戦闘終了のアナウンスが流れていない。それはつまり、戦闘がまだ終わっていない事を意味している。

 運営主任であるアクアは、それを知っている。仲間達にそれを伝えるのは、運営メンバーとしてのルールに反する……だから、何も告げる事は無い。だが知っている以上、警戒はしている。知らないふりをして仲間達と喜ぶ演技をしろというのは、流石に無茶振りが過ぎるだろう。

 それを察したレンは、弛緩した雰囲気に浸る仲間達に呼び掛ける。

「……まだ、気を抜かないで下さい!!」


 咄嗟にそう声を張り上げた瞬間、ヘル・デュラハンの様子に変化が起きた。

 まずその鎧を突き破って、新たに一対の腕が現れる。次いで鎧の節々から、青黒いオーラが漏れ出した。そしてHPバーが増加して、一気にマックスになる。最後にヘル・デュラハンは持っていた大剣を捨てて、四本の腕を地面に突き刺し……それぞれの手に、新たな武器を握って引き抜いた。

「……ちょっ、マジか!? 俺がフラグ建てたから!?」

「馬鹿言ってないで、構えろ!! 戦闘続行だ!!」

「まさかの、第二形態……!? これまでに無いボスのパターンッスか!!」

 討伐完了ムードは一変し、陣形を組み直す。だがその前に、第二形態に移行したヘル・デュラハンが動き出した。


……


 四本の腕で武器を振り回しながら、レイドパーティのメンバーに向けて荒々しく突進して来る。その攻撃範囲は、これまでの攻撃よりも明らかに広い。

「回避!!」

「気を付けろ、攻撃範囲が広い!!」

「行かせません……っ!!」

 シオンがヘル・デュラハンの進路に立ち塞がり、突進を止めるべく≪大盾・鬼殺し≫を構える。そしてヘル・デュラハンの振るう武器……禍々しい戦鎚を受けた瞬間、僅かに後退させられてしまった。

「ノックバック……!? ステータスが、かなり上がっている……!!」

 ノックバック効果に対する耐性は、VIT値を上げる事で得られる。高VITのシオンが僅かにでも後退させられたという事は、ヘル・デュラハン第二形態のSTRが相当に高い事を意味していた。

 そして、ヘル・デュラハンは更に攻撃を繰り出して来る。戦斧、大剣、棍棒……連続して四発の攻撃を受け止めたシオンは、ジリジリと後退させられてしまう。


「凶暴さが、増している……っ!! 【スティングピアス】!!」

 牽制目的でナタクが武技を発動し、ヘル・デュラハンの右脇腹に短槍で攻撃する。弾かれる事は無かったが、手応えは先程までと大幅に異なっている。

「くっ……硬い!!」

 そう言いつつ、ナタクはヘル・デュラハンの反撃を察知。新たに生えた腕で振るう武器が迫るのを、後ろに飛び退いて回避する。

 そうして武器をやり過ごしたその直後、タイミングを見計らっていたアイネが前に出る。

「【一閃】!!」

 磨き抜かれた技量で繰り出す、会心の一撃。クリティカルヒットが発動し、激しいライトエフェクトが発生する。しかし、アイネの表情は真顔だった。

「確かに、VITが強化されたみたいね……普通に攻撃しても、どれだけ時間を掛ければ良いのやら」

 一つ頷いて、アイネはその場から離脱。その直後、アイネが居た場所にヘル・デュラハンの武器が振り下ろされた。


「第二形態の動きは、純粋な暴力かな? しかしこれだと、エクストラボス並みのステータスじゃあないか?」

 真剣な表情でヘル・デュラハンの動きを観察するユージンは、これまでのボスと比較しても明らかに強すぎると感じていた。それこそ今のヘル・デュラハンは、エリアボスと考えたらこれまでとは段違いの強さだ。

 エクストラクエスト攻略経験のある自分達だから、レイドパーティが瓦解していないだけ。一般的なプレイヤー達がこれに挑むとなると、一撃死も有り得るこの難易度は鬼畜レベルに思えてならない。


 その瞬間、ケリィがヘル・デュラハンに攻撃。ユニークスキル【マジックブレード】の力で、魔法剣状態の細剣で斬り付けた。すると、ヘル・デュラハンのダメージ値がナタク・アイネの攻撃よりも少しばかり多めに表示される。

「あぁ……これはSTR・VITが上がる代わりに、INT・MNDが下がってるね。そう言えば、呪い付与攻撃も無いし。どれどれ……【風竜】」

 魔技で風の竜を生み出したユージンは、そのままヘル・デュラハンに直進させる。【風竜】が命中して風属性の魔法ダメージが発生すると、ヘル・デュラハンのダメージ値が表示される。やはり、ダメージ値は多めになっているらしい。


「そういう事ならば……【雷剣】!!」

 レンのユニークスキル【神獣・麒麟】の魔技【術式・剣】による、雷属性付与。レイドパーティ全員の武器が、その効果で帯電し出した。これならば通常攻撃に、魔法ダメージを付与可能な状態となる。

「よし、攻撃チャンスを作るなら……【ストロングガード】!!」

 相手が力押しで来るのならば、それに合わせて【盾の心得】の武技を発動すれば良い。ヒイロは【ストロングガード】を発動させて、ヘル・デュラハンの攻撃を正面から受け止める。若干ノックバックは受けたものの、防御は無事に成功。

「攻撃!!」

 四連撃を終えたヘル・デュラハンは、再び武器を構え直す。攻撃態勢が整うそれまでの間に、攻撃役アタッカーが果敢に攻めてダメージを与えていく。


「……ダメージ効率が上がったな。第二形態は、魔法メインで攻撃する感じか」

「ここまで魔法職を温存しないと、詰みになるって事でしょうね」

 クラウドがそう口にすると、ジェミーも頷いて同意を示す。

 ここでMPが足りなかったり、≪MPポーション≫が不足していれば苦戦は必至だろう。しかし幸いな事に、優れた調合職人達が量産した≪ポーション≫類はまだストックがある。

「とにかく、ここが切り札のタイミングでしょう。第二形態が終わったら、第三形態……という事は流石に無いはず」

 ジェミーの言葉にレンが「同感です」と応えて、ミモリに合図を出す。今回【七色の橋】の≪ギルドフラッグ≫を持っていたのは、彼女なのだ。


「それなら、まずは”俺”達が行かせて貰おうかな」

「そういう事でしたら、やりましょうか」

 ユージンが前に出ると同時に、ヒット・アンド・アウェイで一時後退したケリィがその横に並ぶ。二人は手慣れた様子でポーズを決め、同時にスキル発動を宣言する。

「「【変身】」」

 二人の【変身】エフェクトが発動し、変身専用装備に包まれる。ユージンは漆黒と黄金を基調とした、竜をイメージした鎧。

 そして変身専用装備を、複数所有しているらしいケリィ。彼女が今回選んだのは、差し色を緑色にした装備だ。そして普段とは大きく異なるのが、紺色から金色に変わった髪だろう。それを後頭部の位置から長い三つ編みにして、まるで別人の様な印象を与える。

「さぁ、お披露目の時間だ」

「えぇ……参ります!」


 ケリィは細剣の刀身を撫でて魔法剣モードに入ると、ヘル・デュラハンの足元に向けて切っ先を突き出す。

「【ウッドピラー】!!」

 魔法発動と同時に地面から数本の芽が生えて、それが一気に成長しヘル・デュラハンの背丈ほどの樹になった。その成長スピードは、あまりにも早過ぎる。

「は、早い……あんなに、成長……早かった……?」

「何でもあの専用装備、樹属性魔法特化タイプらしいわよ。ほら、見た目もエルフでしょ?」

 驚くカノンに、ミモリが苦笑しながら≪ギルドフラッグ≫を手に肩を竦める。言われてみれば、今のケリィはエルフっぽい印象を与えていた。

「はぁ……なーほーね? あ、樹に囲まれとるから、ボスの動きが鈍くなっとんな」

 クベラが言う通り、ヘル・デュラハンは樹々に囲まれて動きを阻害されている。やるならば、今が好機だ。


 その間にユージンは【ハイジャンプ】で跳躍し、【飛竜】で滑空状態へ。更にそのまま魔技を発動させるべく、≪天竜丸≫を構えた。

「【炎竜】」

 銃剣の刀身に宿る様に炎の竜が生み出されると、ユージンはそのままヘル・デュラハンに向けて滑空。すると炎の竜は徐々に大きくなっていき、そのままユージンを包み込んでみせた。

「【炎竜一閃】!!」

 突きによる武技【一閃】と魔技【炎竜】を、ジンやヒイロの様に融合させた合わせ技。物理ダメージと魔法ダメージを同時に与える上に、そのDEX値の高さを生かしてクリティカルヒットを発動させた強力な一撃である。

「うおっ……!! マジかよ、すげぇ……!!」

「……流石おじいちゃん」

「メイ姉様……フリード先生みたいだよ……?」

 更にケリィが生み出した樹々にも火が点いて、ヘル・デュラハンに延焼ダメージが発生。僅かな数値ではあるものの、そのHPをジリジリと削り始めている。それも含めての、樹属性魔法と炎の竜だったのだろう。


 その間に、ヒメノ・レン・ハヤテが前へ。そしてジンとアイネも、ヒイロとシオンの居る場所へ後退。七人が集まると、横一列に並んだ。

次回投稿予定日:2025/10/30(本編)

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― 新着の感想 ―
【地獄】の冠名は伊達じゃない……ん、だが……相手が悪過ぎる……(白目)
>「……流石おじいちゃん」 >「メイ姉様……フリード先生みたいだよ……?」 何年経っても変わらぬ忠義は天晴れだけど、教え子達にまでいつもの事の様に言われてる所が笑えるwww
さぁて 次回 遂に  皆様お待ちかねの アレ ですね ワクワクが止まりませんよ 名乗り があれば 尚良し 難しいですがねw
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