20-06 幕間・婚約の影響は
恋の誕生日パーティーの場で、まさかの婚約成立を聞いた葉歌郎。彼は帰りの車の中で、窓の外を睨みながら思考を巡らせていた。
自分にとって一番都合が良いのは英雄と恋の婚約が解消され、その後自分と恋が婚約する事だ。その為に考えられる手段としては、そう多くはない。
第一に、英雄やその家族に圧力を掛けるのは無理がある。初音家がそれを見越して、事前に対策を打っているのは想像に難くないのだ。
初音家は先を見通すかの様な的確な経営戦略で、一躍大企業となった経緯がある。そんな初音家が、英雄のガードをしていないはずがないだろう。
第二に考えられるのは、自分の手の者を英雄の付近に送り込む事。英雄に不義理をさせて、それが公になる様に仕向けるのだ。初音家がそんな人間を、娘の婚約者としてそのまま据えるはずがない……これが恐らく、現実的な策だろう。
最後に、狙いを恋ではなく別の人間に定める事。先程の英雄との会話で、彼はある言葉をしっかりと聞き留めていた。
――あのガキの妹……恋を手に入れる為に動くのは確定だが、初音家の親族になるその娘も予め確保しておけば……。
葉歌郎は保険として、英雄の妹……姫乃についての情報が必要だと判断。窓の外から同乗する秘書に、視線を移した。
「星波英雄と、その妹について情報を集めろ」
そんなおざなりな指示に、秘書は「承知しました」と即答した。今の葉歌郎は明らかに機嫌が悪く、彼の意に沿わない言葉を吐いたらどうなるか解っていた。
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「……という事が予想されますので、英雄さんだけではなく姫乃さんの護衛も必要になるでしょう」
「そ、そうなんですね……」
子供達がAWOにログインのを確認した後、初音夫妻と酒席を共にする星波夫婦。そこで乙姫から告げられたのは、英雄と姫乃に対して有力者達が何かをしようとする可能性が高いという話だった。
事前に解ってはいた事だが、今夜英雄と恋の婚約が公となったのだ。言うなれば、もう後戻りが出来なくなった状態。大将も聖も覚悟は決めていたものの、子供達の事を思うと複雑そうだ。
そんな二人を安心させるべく、秀頼が毅然とした様子で声を掛ける。
「勿論、我が家の事情に巻き込む形となるのだから、二人の安全には責任を持ちます。そこでご協力頂きたいのが、彼等が外出する際には行先を共有して頂きたいのです」
「通学中は既に恋の護衛が付いていますので、問題は無いでしょうが……デート等で外出をする場合の護衛を配置する為に、ご協力をお願い致します」
そんな初音夫妻の依頼に、大将と聖も真剣な表情で頷く。しかし秀頼は、乙姫に一瞬視線を向けて……そして、思った。
――うちの人間も手練れ揃いではあるが……それ以上にとんでもない存在が、あの子達を守っているのだけれどな。
それを考えれば、子供達に手を出そうとする者達は実に愚かと断じるしかない。居なければそれに越した事は無いが、恐らくは一定数以上は現れるだろう。
その愚か者達の末路を思い浮かべて、秀頼は薄ら寒さを覚えてしまうのだった。
次回投稿予定日:2025/4/30(本編)
申し訳ございませんが、仕事の都合上執筆時間が削られており、本編を4/25に投稿する事が出来ません。
楽しみにして下さっている方がいらっしゃいましたら、誠に申し訳ございません。




