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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第二十章 第四エリアを目指しました

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20-04 誕生日パーティーに出席しました2

 盛大と言うに相応しい規模の、恋の誕生日パーティー。出席者の大多数が気にしているのは、やはり恋の婚約者として公表された英雄にある。

 我先に二人の方へ向かうべく、席を立とうとする歳若い招待客達。だがその前に、主役である恋が英雄と共に席を立った。彼女はすぐ近くに居る仁達に目配せをすると、小さく手招きをしてみせる。一緒に来て欲しいという意思表示なのだろう事を察して、仁達も席を立つ。


 そうして二人と合流すると、恋が笑みを浮かべて感謝の言葉を口にする。

「皆、今日は本当にありがとうございます。緊張させてしまったでしょうけど、こうして皆がここに居てくれて嬉しいです」

 それが社交辞令ではない事を、仁達はよく知っている。恋の言葉に頷きと笑顔で返すと、彼女は今の行動の真意について切り出した。

「恐らく初音家の祖父母とは、挨拶をしているでしょう? もう一組……あちらのお二人は、私達の曾祖父母なの。ついさっき到着したそうなので、これから挨拶に行くんです」

 その後に恋が「皆を紹介させて欲しい」と付け加えるので、仁達は快くそれを了承。皆で一緒に、逆側の席へと向かった。


 英雄と恋を先頭に歩み寄れば、老夫婦もそれに気付いて笑みを浮かべた。

「先程ぶりです、お爺様お婆様。そして、御無沙汰しております曾お爺様、曾お婆様」

 そう言ってカーテシーをする恋に、曾祖父母だという老夫婦は笑みを深めた。

「あぁ、久し振りだね。着くのが遅くなって、済まなかった。それと、お誕生日おめでとう」

「大きくなったわね、恋ちゃん。十四歳のお誕生日、おめでとう」

 一体幾つくらいなのかは解らないが、見た目の割にはハキハキと話す老夫婦。


 それはさておき、恋は仁達に向き直って二人の事を紹介する。

「皆、こちらは母のご祖父母で、私達の曾お爺様と曾お婆様になります」

「皆さん初めまして、【上谷かみや 真司しんじ】です」

「妻の【上谷かみや 沙織さおり】です。恋ちゃんがいつもお世話になっています」

 自己紹介をする老夫婦は、穏やかな表情で仁達に会釈をする。その姿や物腰からは、正に上流階級! といった雰囲気である初音家の面々と違い、普通のお爺さんお婆さんといった印象を受けた。


 仁達も自己紹介をして挨拶をする間、老夫婦はずっと穏やかな表情である。そしてやはり、見た目の割には生き生きとして見えた。老いはしているものの、口調はしっかりしているし背筋もしっかり伸びている。

 どんな規則正しい生活を送れば、こういった老夫婦になれるのだろうか? 仁はふと、そんな事を考えてしまう。勿論、隣には姫乃が居てくれるのが前提である。


 そうして挨拶が終わると、真司が恋に苦笑する。

「恋ちゃん、今年も息子が欠席で済まないね」

「いえ、お爺様は国外で多忙な日々を送っていると伺っていますので……それに、今年もお手紙とプレゼントをお送り下さいましたから」

 恋がそう口にした時に、その表情が変わった。自分達の前で見せる素の笑顔ではなく、余所行きの取り繕う様な笑顔だ。本当は母方の祖父母にも会いたいだろう事を、仁達全員には感じ取れた。

 そんな中、これまで老夫婦と仁達のやり取りを見守る様にしていた始が、その会話に加わる。

「本当に、彼には感謝してもし切れない。今の初音家があるのは、彼等のお陰と言っても過言ではないのだからね」

 現在の初音財閥を築き上げた始が、そんな風に言うとは思わなかった仁達。その衝撃は驚きを隠そうにも、思わず顔に出てしまうくらいだ。


「ふふっ、お爺様は昔から、恩人であり親友と仰っていましたね」

 恋がそう言うと、始は「うむ、その通りだ」と頷く。日本有数の大富豪がそう言うのだから、母方の祖父とは凄い人物なのだろう。


************************************************************


 いつまでも祖父母や曾祖父母の席に居る訳にもいかず、仁達は招待席……そして英雄と恋は、主役の席へと戻った。

 ここからが、英雄にとっての苦難の始まり……と思いきや、真っ先に二人に挨拶をしに行ったのは美里達……六浦家の面々である。とは言っても美里達……友人組以外には、六浦コーポレーションの初代社長にして現会長である【六浦むつうら 文哉ふみや】と、その息子で現社長の【六浦むつうら 智哉ともや】だけだ。美里の祖母、母、兄と弟は招待席に留まっている。これは大人数で行けば迷惑になると、彼等が判断したからだろう。


「恋さんの婚約者にうちの息子をという期待もあったが、そううまくは行かなかったな。星波君の話は、娘の美里から聞いているよ。うちの息子では、とてもじゃないけど太刀打ちできないだろうってね」

 招待の感謝と誕生日の祝いの言葉を告げて、すぐに口にしたのはそんな台詞だった。彼等が息子・孫達を置いてきた理由は、案外この台詞が原因かもしれない。

 もっとも二人の息子は、恋に熱を上げているという訳では無い。ならば、他に意中の相手が居るのか? といえば、そういう事でも無い。彼等はただ単に、今の限られた時間を謳歌する事に意識を向けているだけである。いずれは家の名を背負って立つ必要があるのは、彼等も理解していた。だからこそ、今は自身の心の赴くままに過ごしたいというだけのことだ。

 尚、六浦家としても「家柄的にお見合い等をするのならば、家同士の付き合いもある相手が良いのではないか?」という感じで、恋が云々というのは”事情を知らない者”が考えた、ふわっとした考えに留まっている。


 そうして文哉と智哉が挨拶を終えると、美里とその仲間達に場を譲った。

「皆さん、今日はお忙しい中ありがとうございます」

 クランの仲間であり、【十人十色ヴェリアスカラー】結成前から友好関係にあった【魔弾の射手】の面々である。気兼ねする必要のない関係性を構築している事もあり、恋の表情と声の質は素のものに変わっていた。

 また水姫と北斗も席を立ち、恋と英雄の側に歩み寄って仲間達に声を掛ける。勿論側には鳴子と真守、そして大地が控えている。

「皆、今日は恋の為に集まってくれてありがとう」

 彼女達は水姫の言葉に笑顔で応えて、改めて恋に誕生日を祝う言葉を贈る。また英雄との婚約を祝福する言葉を付け加え、ゲーム内と変わらない仲睦まじさに笑みを深めた。


「美里は、婚約とかの話は上がってないですか?」

 一通りの挨拶をした後に、アバター名・シャインことソアラがそんな事を口にする。そんなソアラに対し、美里は肩を竦めて首を横に振ってみせた。

「私よりも先に、相手を見つけないといけない兄と弟が居るから。それに私の相手となったら、半端な相手では務まらないって家族は知っているもの」

 彼女は前提条件として好いた惚れたよりも先に、自身に見合うか見合わないかについて言及している。恐らくは、それが自身の立場であり役割であると自覚しているが故の言葉だろう。

「家族は一応、自由恋愛で良いとは言ってくれるけれどね。水姫先輩や恋ちゃんみたいに、そうそう運命の相手に出会えるものではないってことかしら」


「あら……それなら美里さん、うちの兄なんてどうです? ちょっとシスコンなだけで、それ以外の面では人間的に好感を覚えて頂けると思いますよ?」

「恋~? 聞こえているよ?」

 恋と美里のやり取りは、主役である恋と同じ長机に座っていた賢も聞こえていた。

「あら、お兄様。聞き耳を立てていらっしゃるとは」

「聞こえるの前提で言っていただろうに。この距離で聞こえないなら、病院で難聴じゃないか確認して貰わなくてはならないだろう?」

 そりゃそうだ。恋と賢が座っている位置は、目と鼻の先だもの。

「うちの妹が申し訳ありません、美里さん。家族想いが高じているのか、それとも素晴らしいパートナーに出会えたからでしょうか……どうやら私にも、素敵な相手をなんて考えている様で。目の付け所は、確かにシャープなんですけどね」

「ふふっ、素敵な妹さんじゃないですか。それに、賢さんもお上手ですこと」

「おや、私はお世辞を言ったつもりはないですよ?」


――おぉう、上流階級のやり取りって感じ……。


 賢と美里のやり取りを見ていた仁は、思わずそんな事を考えてしまった。恋達の席から近い場所に席が設けられている仁達にも、その会話が聞こえていたのだ。

 相手を立てつつ自分を下げない、そんな意図が見える言い回しだった。しかし同時に思うのは、この会話には”相手に対する敬意”を感じさせるところだ。互いに相手の立場と意志を尊重しているからこそ、冗談めかした言葉のやり取りで場の空気を保ちつつ会話を継続させていた。


 しかし、その時間は長く続く事は無かった。なにせ彼女達の後ろには、本日の主役である恋に挨拶の言葉を交わす為の列が形成されているのだから。

「あ……気が付けば、随分と列が出来てしまっているわね。それじゃあ恋ちゃん、英雄君。今回はここで失礼させて貰うわね」

「はい、今日はありがとうございます。どうぞ楽しんで行って下さいね」

「えぇ。それじゃあ、またAWOあっちで」

 美里がそう言って仲間達を促して、後ろに待つ招待客に会釈をして場を譲る。


 美里達はそのまま、仁達の居る席の方へやって来た。二度目の挨拶は簡素なもので済ませて、美里は苦笑して英雄と恋の方に視線を向ける。

「まさか今夜、婚約を公表するとは思わなかったわ。でも早い内に二人の事を公にしておくのは、確かに良い判断かもね」

「温泉旅行の時にも、婚約の申し込みが殺到しているって秀頼さんが仰っていましたね」

「ふふ、やっぱりそうだったの。これで求婚者も黙らざるを得なくなったって訳ね……ところで仁君と姫乃ちゃん、もしかして二人もそうなのかしら?」

 美里が仁と姫乃に水を向けると、姫乃がふにゃりと微笑んで頷く。

「えへへ、はい♪」

「姫は、恋さんの婚約者になった英雄の妹ですからね。初音家との縁が欲しい人達に目を付けられる可能性があるという事で、同じタイミングで正式に婚約者になりました」

 仁の説明を聞いて、美里も「成程ね」と笑顔で頷く。


「中高生くらいの、若い内に婚約する事は稀だけど……まぁうちにもそういう人が居るもんね、色羽?」

「マコト君、仁君達と同い年だもんねぇ」

 からかいのニュアンスが込められた美里の言葉に、色羽は笑ってそれを受け流す。恐らくからかわれる事に慣れているのだろう、実にあっさりとした自然な回避である。

 また【マコト】というのは、恐らくトーマの本名だろう。名前の最初と最後の文字を入れ替えて、尚且つレーナの語感と同じ感じにしたという所か。

「そう考えると、高一男子三人ですね……これは隼と拓真も、高一の内に……?」

 仁がそんなジョークを口にしつつ隼達に視線を向けると、聞こえていたらしい隼がパタパタと手を振る。

「俺等は仁兄や英雄さんみたく、特別な事情は無いッスから。そりゃあ勿論、婚約自体は望むところではあるッスけどね」

「も、もう……隼君ったら……」

 ナチュラルに惚気る隼と愛に、それまで会話をしていた陽菜とソアラが笑みを深める。

「うふふ、本当に仲が良いんだねぇ」

「ですねー! 皆が幸せそうで、何よりです! ”ソウシシューマイ”ですね!」

「新作の焼売になってるよ? それを言うなら、”相思相愛”ね?」

 現実でも、しっかり語録を披露するソアラ。アツアツなのは、間違っていないが。


「そういえば、他の方は今日はいらっしゃらないんですか?」

 ふと気になった拓真が、ディーゴこと吾郎に視線を向けてそう問い掛ける。AWO内で出会った時にはその不良風の風貌から気後れしていた。だがゲームで共に過ごした時間のお陰で、彼が心優しく気配りの出来る好青年である事をよく知っていた。

「ビィトさんは現実ではSEシステムエンジニアで、今日は納期の関係で抜けられなかったらしいよ。クラウドさんは医者で、今日は当直勤務なんだそう」

「メイちゃんは外せない用事があるらしいし、トーマ君は日本に住んでないのよね」

 トーマが日本人ではない事を、双葉の言葉で初めて知った仁達は驚いた。しかしそういう事なら、色羽とは遠距離恋愛という事になる。

「もしかして、婚約はその辺りの関係で?」

 姫乃がそう問い掛けると、色羽は薄っすらと頬を染めて微笑む。

「あはは、まぁそんな感じかな。マコト君の押しに負けたというか、何というか……でも、ちゃんとこうなって良かったとは思っているよ」


 そうこうしていると、音也が英雄や恋達の様子に意識を向け……そこで、見覚えのある二人組の姿がある事に気付いた。

「み、皆さん……あれ」

「ん? おぉ、本当にアリステラさんとセバスチャンさんだ……」

 千夜の言葉に仁達と美里達の視線も、主役席の方へと向けられた。


************************************************************


「本日はお招き頂き、ありがとうございます。十四歳のお誕生日と、ご婚約のお祝いの為に参らせて頂きました」

「業務の都合により、父が出席出来ず申し訳ございません。恋さんと初音家の皆様に、くれぐれも宜しく伝えて欲しいとの言伝を預かっておりますわ」

 気品を感じさせる立ち振る舞いに、相手への敬意を感じさせる言葉。そんな宇治兄妹の挨拶を受けて、恋も笑顔でそれに応じる。

「丁寧なご挨拶、痛み入ります。どうか宇治様にも、宜しく伝えて頂ければと存じます」

 恋がそう返せば、室千雅は「勿論です」と頷いて……その視線を、英雄に向ける。

「星波英雄さん、でしたね? こうして現実こちらでもお目に掛かれるとは、思っていませんでした。改めて、どうぞ宜しくお願い致します」

 それは、恋の婚約者に対しての牽制……ではなく、含むところの無い邂逅の挨拶だ。英雄もそれを感じ取り、内心では拍子抜けしてしまう。勿論、それを表情に出さない様にしているが。


 というのも、初音家と縁のある家……つまりは五大財閥なのだが、その中でも最も警戒すべきと考えられているのが宇治家だったのである。

 元より室千雅は、恋の姉である水姫に想いを寄せていた。これは周知の事実であり、こういったパーティーの場でも積極的に水姫にアプローチをしていたという。北斗と婚約した事を公表した時には、魂が抜けたんじゃないか? という程に意気消沈したらしい。

 そんな室千雅が次に考えるのは、恋の婚約者の座を狙う事ではないか? という考えが、初音家の面々にはあった。しかしながら彼は、恋の婚約者がこうして公表されても穏やかな笑みを湛えており……むしろ、本心から祝福している様にも見える。


 内心で訝しんでいる恋達だったが、室千雅に続いて万咲代が本題について話し始めた。

「恐らく恋さんも、そして星波さんもお気付きでしょう? 私共がAWOをプレイしている事も、どの勢力に属しているのかも」

「……はい、【聖光の騎士団】ですね?」

 声を潜めて、彼女達が所属するギルドについて言及した英雄。あえてアバター名を出さないのは、二人の立場に配慮したからだ。

「ふふっ、アバター名を出さずにいて下さり、ありがとうございます。私には何ら不都合はございませんが、ね?」

「万咲代、何かな?」

「いいえ、別に何も」

 仲が悪いのだろうか? と思わせるようなやり取りであるが、本当に仲が悪かったら一緒にゲームなどしないだろう。


 英雄はそう考えつつ、改めて席を立って室千雅と万咲代に挨拶をする。

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。恋の婚約者で、星波英雄と申します。お目に掛かれて、光栄です」

 取り繕った付け焼刃の挨拶とは違い、英雄の挨拶はしっかり身に付けたものだと察する事が出来た。恋の婚約者として、向上心を胸に学んだのだろう……そう感じた室千雅は、柔らかく微笑みながら右手を差し出す。

「不慣れな事もあるだろうが、君なら乗り越えられると私は感じます。応援していますよ」

 容姿が整っている事も相俟って、実に好青年といった雰囲気の室千雅。英雄と恋の間に割って入るつもりではないと、そう言っている様にも感じられる。

 英雄は室千雅の握手に応じ、笑みを浮かべる。

「ありがとうございます、そう言って頂けると心強いです」

 そんな英雄の様子に、室千雅は内心で感心していた。


――ギルバート氏やライデン氏の話からすると、彼もまだ高校一年生……もうすぐ、進級して二年生か。それにしては堂々としているし、立ち振る舞いも中々のもの。恋さんとの婚約が決まって身につけたにしては、上の下といったところだろうか。


 大財閥の御曹司として人を動かす役割を担っているだけあって、室千雅の人を見る目は優れている方だ。そんな彼から見ても、英雄の立ち振る舞いは好印象だったらしい。勿論恋との婚約がつい最近である事、そして彼がまだ高校一年生だという事を加味した上での採点である。

 実は英雄の立ち振る舞いやテーブルマナーの出来には、聖が大きく関わっている。かつて一流のシェフであった彼女は、当然そういったマナーなどについて詳しかった。将来そういった場で困る事が無い様にと、英雄と姫乃にもそれなりに指導してきているのだ。

 つまり英雄には下地があり、そこに初音家の令嬢である恋とその付き人・鳴子の指導が加わり、大幅な進歩を遂げているのである。要するに英雄は、一つ上のハイスペック男子となった訳だ。


 それはさておき、室千雅はチラリと視線を鳴子……そして、その隣で控えている真守に移す。

「それにしても彼女の事は存じておりましたが、彼も初音家の使用人だとは思いませんでした」

 にこやかにそう言う室千雅だが、若干目が笑っていない。そんな兄の様子に気付かずに、万咲代が真守に視線を向けて微笑む。

「【七色の橋】の皆様だけでなく、【桃園の誓い】……それに美里さん達、【魔弾の射手】。こうして集まっているのを目の当たりに致しまして、本当に身内同然のお付き合いをなさっておいでなのだと実感しましたわ」

 微笑ましそうな万咲代の言葉や態度には、一切含む所が無い。そんな二人の言葉を受けて、鳴子と真守は黙して一礼するだけに留めた。


――【桃園】のダイス……何か、何か嫌な予感がするぞ……!! ここは、探りを入れて……。


 鳴子と真守の距離感から、室千雅は得も言われぬ不快感を感じていた。二人はただ粛々とその場に佇んでいるだけなのだが、室千雅には何か感じるものがあるらしい。セバスセンサーかな。

 もう少し、真守について突っ込んでみた方が良い……そう思って口を開こうとするが、その前に万咲代が話を先に進めてしまった。

「それでは恋さん、私達はお席の方に戻らせて頂きますね。もう少しお話していたい所ではありますが、後ろの方々をお待たせしては不興を買ってしまうでしょうから」

 万咲代がそう言えば、室千雅も後ろで待っている招待客から「まだか?」という視線が向けられている事に気付く。しかもその相手が、実に面倒な相手であった。


――チッ、あのボンボンめ……!! くそっ、もう少しダイスについて突っ込みたいが、この場ではまずいか!!


 互いに目的は全く別の相手なのだが、そんな事は露知らず。室千雅は苛立ちを内心に隠しながら、朗らかな笑みで英雄と恋に向き直る。

「それもそうだな。それでは恋さん、本日はお誕生日おめでとうございます。そして星波君とのご婚約についても、心からお祝い申し上げます」

「こちらこそ、本日は誠にありがとうございます。どうぞ、パーティーを楽しんでいって頂ければ幸いです」

 少しだけ素の雰囲気を出しつつ恋がそう告げると、室千雅は少しばかり……万咲代は実に、気分が良くなるのを感じた。

 大財閥の令息・令嬢同士であり、ゲーム内ではトップギルドの中核を務める者同士。そんな少しばかりのシンパシーが、恋の雰囲気を和らげさせたからだろう。

「また今度、ゆっくりお話致しましょう恋さん。現実こちらでも、AWO(あちら)でも構いませんわ」

「えぇ、その際は宜しくお願い致しますね」

 去り際にそんな事を口にしあう恋と万咲代に、室千雅は「確かにあっちの方が邪魔は入らないかもしれないな」と思いながら挨拶をしてその場から移動する。


 そうして宇治兄妹の後にやって来たのは、勝良財閥の御曹司……勝良葉歌郎だった。

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― 新着の感想 ―
上谷夫妻まで登場するなんてビックリしました! また「七色の橋」周りの相関図がややこしくなりましたねw
セバスとダイスさんではもう既に関係値が50歩も100歩も離れてるのに、ここまで来ると一周まわって愉快で憐れだねぇ
『一方その頃……お祖父様(ユージンさん)はAWOの山で柴刈り(トレント狩り)に、お祖母様(ケリィさん)は川で(採取素材の)選択をしておったのじゃ……』という、昔話なナレーションが空耳しちゃいました(笑…
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