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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第二十章 第四エリアを目指しました

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20-03 誕生日パーティーに出席しました

作者、今回はやりたい放題している自覚あります。

 諸々の支度が終わり、初音家の使用人からパーティーの段取りについて説明を受けるべく控室へ向かう仁達。ちなみに主役である恋と、そのパートナーである英雄は別室で待機中だ。

 仁と姫乃だけでなく、他のカップルもパートナー同士で控室に来ていた。これは他の女子メンバーも、ドレス姿を一番最初に見せるのは恋人が良いと考えたが故だろう。英雄以外の男子組は髪型を整えて、用意されたスーツ姿。そして恋以外の女子組はそれぞれデザインが異なるが、ワンピースタイプのドレス姿である。フォーマルさを意識してか、華やかさを抑えた大人しめの装いとなっている。


 そうして仁達は段取りについてレクチャーされた後、初音家の使用人に案内されてパーティー会場へと向かう。その間にも、ちらほらと招待されたであろう人達の姿があった。

「やっぱ雰囲気とか、段違いッスね。上流階級の人達って感じ」

「そうだね。なんて言うのかな……存在感があるっていうのかな?」

 隼と愛が小声でそんな会話をすれば、千夜や優もウンウンと頷く。やはり普段と違う状況という事もあり、緊張しているのが良く解る。

 会場が近付くにつれて、招待客の数も増えていく。流石は大財閥の御令嬢の誕生日パーティーというべきか、招待された客の数も十人や二十人どころではない。下手をしたら、百人近く居るのではないだろうか。


 パーティーホールの入口では、初音家の使用人達が招待客の受付をしていた。しかし恋直々に招かれた仁達は受付で足を止める必要は無く、そのままホールへと案内される。

 広々としたパーティーホールに足を踏み入れると、招待客達の視線が仁達に向けられる。訝し気といった視線が数多いのは、仕方のない事だろう。

 テーブルクロスが掛けられた円卓が均等間隔で並べられており、その上にはネームプレートが用意されている。招待客の通される席は、初音家の方で事前に決めているらしい。

 そして、一番奥には長机が用意されている。長机の中央に座るのは当然、本日の主役である恋だろう。となるとその横に秀頼達が座り、逆隣が英雄になるのではないか? と仁は考えていた。


 そして仁達が通される席は、長机から向かって右側とその隣の円卓。それは、恋達の席に一番近い席の内の一つだ。一つの席に椅子が四脚用意されており、仁達は半々で分かれて座る事になる。

 もう一つ、逆隣の席には既に一組の老夫婦が座っている。仁達が席に到着して座ったのを確認したその老夫婦は、立ち上がると仁達に向けて歩を進めた。

「大旦那様と、大奥様でございます。皆様に挨拶をなさりたいのでしょう」

 小声でそう教えてくれたのは、仁と姫乃のサポートを担当する御田代さんだ。その呼称から、恋の祖父母であるらしい。

 仁が立ち上がって出迎える姿勢になるのを見て、他の面々も同じ様に立ち上がる。


「初めまして、恋のご友人の皆さん。会えて光栄だ」

 丁寧に整えられた白髪の老人が、皺のある顔を緩めてそう言う。その顔を、仁はテレビで見た覚えがあった。小さな会社を立ち上げて、常に業績を伸ばし続けていった敏腕経営者。数十年で大企業へと成長したファースト・インテリジェンスの創始者であり、更に教育や医療など多方面の分野に進出し成功を収めた鬼才……名実共に、今の初音家を築き上げた男性である。


「私は恋の祖父で、【初音はつね はじめ】という。こっちは家内の、【華恋かれん】だ」

「初めまして、皆さん。いつも恋と仲良くして頂いて、ありがとうございます」

 そんな老夫婦の挨拶に、仁も背筋を伸ばして挨拶を返す。

「初めまして、寺野仁と申します。恋さんには、大変お世話になっています」

 今の八人の中では、自分が最年長だ。そう思って仁が最初に挨拶をしてみせると、続いて姫乃達も挨拶をしていく。一人一人の挨拶に、老夫婦の笑顔はどんどん深まっていった。


「確かそちらの姫乃さんは、英雄君の妹さんだったかな? さっき英雄君にも挨拶をして来たんだが、本当に今時珍しいくらいの好青年だね」

「それに姫乃さんも、とっても可愛らしいわ。そのドレスも、とても良くお似合いよ」

「ありがとうございます」

 流石の姫乃も、やはり緊張気味である。というより、仁以外はガッチガチだ。

「今日は、恋の為に来てくれてありがとう。どうか、ゆっくりしていってくれたまえ」

「どうぞ、パーティーを楽しんでいって下さいね」

 そう言うと、老夫婦は長居はせずに元の席へと戻っていく。本当に、わざわざ挨拶の為に来てくれたらしい。


「き、緊張したぁ……」

「わ、私も……」

 仁以外は相当緊張したらしく、始と華恋が元の席に戻って深い溜息を吐いた。そんな七人に苦笑しつつ、仁は視線を始と華恋の席……その空白部分に、意識を向ける。


――あのお二人は、父方の祖父母なんだよね。母方の祖父母は……乙姫さんのご両親になるんだよね。まだ、いらっしゃらないのかな。


 初音家に嫁入りした乙姫の両親が、どの様な人物なのか。それに興味があったのだが、まだ来ていないらしい。

 恋に聞く前から父方の祖父母については知っていたが、母方の祖父母については殆ど聞いた事が無い。恋曰く、最後に会ったのは物心つく前の事だったらしい。


 そんな事を考えていると、パーティーホールの入口がざわめき出した。仁達もそちらに視線を向けると、凛々しい顔立ちの女性……その後ろに、見知った二人の人物の姿があった。

「瑠璃さんと、亜麻音さん?」

「わぁ……瑠璃さん達もいらっしゃったんですね!」

 彼女達が招かれたのは、恋と瑠璃が友人同士という事……それに加えて、ファースト・インテリジェンスが彼女を指名して仕事を依頼している事もあるだろう。

 先頭を歩く女性の後ろで、瑠璃と亜麻音が仁達に気付く。表情に若干緊張の色合いを浮かべていた瑠璃だったが、仁達の姿を見てふわりと笑みを零した。仁達も小さく手を振れば、瑠璃の笑顔が更に深まる。


 そうこうしていると、また入口の方がざわめいた。パーティーホールに入って来たのは、貫禄のある男性……そしてその斜め後ろに、同じくらいの年代の女性の姿があった。更にその後に、二人の青年が続く。

 しかし招待客達の興味が向いているのは、その後を歩く人物達であろう事がすぐに解る。

「あっ……」

「あの人達って……!!」

 五人の美女と、一人の青年……その人物達の事を、仁達は知っていた。彼女達とは、日頃から共にゲームで顔を合わせているのだ。

 AWOで【魔弾の射手】というギルドを結成した、大学生達。その中の一人である猫目の女性が仁達に気付くと、笑みを零して目立たない程度に小さく手を振ってみせる。


――【魔弾】の皆さんは、現実の姿ほぼそのままでゲームをしていたんだな。


 レーナとシャインに至っては、髪色もそのままで解りやすい。ジェミーは髪型をツインテールにして、金色のカラーコンタクトをしたらアバターの姿になるだろう。ミリア・ルナ・ディーゴは髪色も変える必要があるが、やはりゲームで接する彼女達とそっくりそのままだ。

 ちなみにビィトやクラウド、メイリアとトーマらしき姿は無い。


 するとミリアが先を歩く男女に声を掛け、進路を仁達の方向に変える。恐らく仁達に挨拶をする為に、両親に断りを入れたのだろう。

 歩いて来るのはお馴染みの、【魔弾の射手】大学生メンバーだけだ。別行動をする二人の青年は見覚えが無いので、恐らくは六浦家の人間……長男と次男だろう。

「こんばんは。いつも顔を合わせているけど、現実こっちでは初めましてになるのよね」

 先程の始・華恋と違い、日頃から交流のある相手の来訪だ。姫乃達もリラックスした様子で、笑みを浮かべながら立ち上がる。

「まずは、自己紹介からにしましょうか。私は【六浦むつうら 美里みさと】。気楽に、名前で呼んでくれると嬉しいわ」

 そう言って微笑んだ美里は、側に居る仲間達に目配せをする。彼女の意を汲み取ったらしく、順番にそれぞれが自己紹介をしていく。


「私は【金指かなさし 双葉ふたば】、あっちではジェミーね。皆にこうして会えて、嬉しいわ」

「ハロー! 【ソアラ・ビスコンティ】です! 改めてよろしくですよ!」

「あっちではルナって名前だけど、本名は【月城つきしろ 陽菜はるな】っていいます。皆、よろしくね♪」

「ディーゴ改め、【木之下きのした 吾郎ごろう】だ。友人達からはゴローって呼ばれているから、皆も良かったらそう呼んでくれると嬉しい」


 そして、残る一人……レーナが人好きのしそうな笑顔を浮かべて、自己紹介をする。

「改めて、【礼名れいな 色羽いろは】です! 皆、宜しくね!」


************************************************************


 次々訪れる招待客達が着席していく最中にも、各界の著名人達がにこやかに会話に興じる。そこには当然、宇治財閥の面々……そして、勝良財閥の面々も居た。

「これはこれは、室千雅さん。大変ご無沙汰しています」

「葉歌郎さん。えぇ、お久し振りです」

 宇治家の長男と、勝良家の次男。未来の大財閥の重要人物同士が、笑顔で挨拶と握手を交わす。その光景は和やかな雰囲気に見えるが、その裏で彼等は火花を散らしている。


――おのれ、勝良のボンボン!! この男さえ居なければ、もっと水姫さんにアピール出来たのだ……!!

――宇治の御曹司……!! 俺が水姫を口説くのを、何度も何度も何度も邪魔をしやがって……!!


 この二人は初音家の長女である【初音はつね 水姫みき】を巡って、水面下で熾烈な争いを繰り広げていた。初音家のネームバリューも魅力的だが、彼等は何より水姫本人に惚れ込んでいたのだ。

 もっともその頃には既に、水姫は【天野あまの 北斗ほくと】に心奪われていた。北斗自身も満更でもなく、ある出来事の事態が収拾すると同時に交際を開始。水姫が大学を卒業すると同時に、晴れてゴールインしたのだった。

 ちなみに水姫は早く入籍したいという理由で、飛び級で大学を卒業している。


 そして今現在、既に既婚者となった水姫に言い寄る事が出来ない状況下。そこで彼等は、それぞれ新しい相手を見定めていた。

 既にご存じの通り、室千雅はAWOで運命の出会い……本人的には、運命の出会いを果たした鳴子を狙っている。勿論、今夜の目的は鳴子のハートにダイレクトアタックをするつもりだ。

 それに対し、葉歌郎はと言うと……非常にヤバい選択肢を選ぼうとしていた。


――初音家の次女である、恋嬢……まだ中学生だが、今の内に唾を付けておかなければ……!! こいつもきっと、同じ狙いだろう!! そうはさせんぞ、宇治室千雅……!!


 一発でアウト、むしろ強制退場待った無しの選択。まだ中学生の少女を、結婚相手にしようというヤバさである。

 ちなみに彼は二十四歳であり、今日十四歳の誕生日を迎える恋とは十歳差。成人済みであれば有り得ない事ではないが、まだ中学生を相手にしてそれを考える時点でロリータコンプレックスと断じられても不思議ではない。

 勿論流石に、結婚は恋が十八歳になった後になるし、それまで手籠めにするような事は葉歌郎は考えていない。しかし今は届かない存在となった水姫の美貌を考えると、成人する頃には恋も同様に美しい女性になるだろうと考えていた。しかし初音家の娘である事……それが恋を欲する、一番の理由である。


 彼がそこまで初音家の娘を妻に迎えたいと考えているのには、理由がある。その理由とは、ユートピア・クリエイティブだ。フルダイブ型VR技術の最先端と称して差し支えの無い、新進気鋭の会社。その実権を握る事が、葉歌郎の展望である。

 今の内に恋の婚約者に収まれば、ユートピア・クリエイティブの経営に携わる事も夢ではない。ゆくゆくはVR業界で成功を収め、美しいつまと薔薇色の生活を満喫する……というのが、彼の描く未来予想図である。


 そんな彼の未来予想図は、早々に破り捨てられる事になる。


……


 予定の時間になった所で、パーティーホールに二人の人物が入室して来る。それは恋の姉である水姫と、その夫である北斗だ。二人もフォーマルな装いをしており、正に美男美女の夫婦。会場中の視線が二人に注がれるが、水姫には熱の籠った視線……そして北斗には、嫉妬心がふんだんに込められた視線である。

「ご来賓の皆様。本日はお忙しい中、妹の誕生日を祝いに来て下さり誠にありがとうございます」

 パーティーの開始を告げる、アナウンス。それを担当するのは、水姫らしい。定型の挨拶もそこそこに、まずは主催である秀頼と乙姫……そして長男である、賢が入室して来た。その後に招待された大将と聖が入室し、二つの席を空けて五人が席につく。大将と聖の姿を見て、多くの招待客達が「あの二人は誰だ?」と困惑している。


 そんな困惑を察しているだろう秀頼だが、何食わぬ顔で主催者として招待客達へ挨拶の言葉を話し始めた。そして、いよいよ本番の時が訪れた。

「本日は恋の希望で、恋の友人達をお招きしました。慣れない場で緊張させてしまって申し訳ないのですが、こうして恋と仲良くしてくれている友人達を迎えられて、親としては感無量です」

 そんな秀頼の言葉に、仁達は一礼して応じる。恋の友人という説明を受けて、招待客の面々は「あぁ、そういう事か」と納得した様子だった。


 そんな彼等の事を知る、一部の者達。【魔弾の射手】と瑠璃達は言うに及ばずだ。そんな仲間達を除くと……例えば室千雅の妹である、アリステラこと万咲代まさよ

 彼女は仁達の姿を見て驚き、そしてすぐに穏やかな笑みを浮かべ微笑ましさを噛み締めていた。


――あらあら、【七色の橋】の皆様じゃありませんの。そうでしたわね、彼等は身内同士のギルド……こうして誕生日パーティーに招かれるくらい、親交が深いのでしょうね。


 彼女もすっかり、【七色の橋】に対しては好意的な印象を持っているらしい。そうなるに至ったのはやはり恋の存在に加えて、アーク・ギルバート・ライデンが彼らの事を高く評価しているのもあるだろう。

 勿論、それは室千雅もだ。


 ——見覚えしか無かったが、やはり彼等だったか。ミモリ嬢とカノン嬢は居ない様だが……私生活でも親交があるという事は、あの子達もやはり人格と品性共に優れている子達なのだろうな。


 先日のPKKでも率先して事態の収集に乗り出すなど、その姿はセバスこと室千雅も好ましく思っていたらしい。無論、恋の存在に加えて鳴子がその一員である事も要因である。


 そんな彼等の内心はさておき、仁達にとってここからがハイライトだ。

「折角なので友人の皆さんに、今日の主役を出迎えて貰いましょう」

 秀頼がそう言うと同時に仁達は立ち上がって、事前に教えられた位置へ移動。八人が扉の両脇に並び終えると同時に、鳴子と真守が扉を開けて一礼する。


――鳴子と、あれは……まさか、【桃園の誓い】のダイス!? な、何故だ!? 何故、彼がここに……!? 


 室千雅は鳴子と、予想外の人物が同時に現れた事で動揺する。この時点で、動揺しているのは彼だけだ。しかし次の瞬間、会場中の多くの招待客が驚いてみせた。

「な……っ!?」

「ど、どういう事だ……!?」

 結い上げられた長い黒髪を揺らしながら、パーティー会場に入室する恋。スレンダーで小柄なその身を包むのは、彼女の華やかさと可憐さを際立たせるドレス姿である。光沢のある白い布地で織られたドレスは、誕生花である桃の花を象ったレースが彩っている。

 招待客達にとって、それは良い。普段はお澄まし顔の初音家のご令嬢が、いつになくご機嫌なのもひとまず良い。彼等にとっての問題は、恋をエスコートしている美少年だった。


「誰だ、あの小僧は……っ!!」

「た、ただの友人……だよな……!?」

 恋を狙っていた有力者達の長男や次男は、英雄の存在を目の当たりにして戦々恐々としている。そんな彼等の淡い期待は、やはり打ち砕かれる運命である。

「エスコート役をお願いしたのは、正式に恋と婚約する事となった星波英雄君です。どうぞ暖かい拍手で、二人を出迎えて頂きたい」

 恋の婚約者が決定した事を伝えた上で、それを祝福する様に促す秀頼。勿論これは恋狙いの彼等の魂胆を見抜いた上で、意図して実行に移した演出だ。


 恋自身を想うだけならばまだしも、葉歌郎の様に家柄や容姿だけを欲する輩は少なくない。そんな男達に可愛い娘を任せる事は出来ないし、当の恋は英雄を本気で愛している。だからこうして、否が応でも拍手をせざるを得ない流れをわざわざ用意したのだ。


「ドレス姿、とっても綺麗だよ恋ちゃん!」

「恋ちゃん、凄く綺麗だね!」

「うんうん! 良く似合ってる!」

「ふふっ、お誕生日おめでとう!」

 親友達の称賛を受けて、恋は更に笑みを深めた。仁達も拍手をしながら称賛と祝いの言葉を告げて、次いで英雄を勇気付ける様に声を掛ける。

「頑張れ、英雄。僕達が付いてるよ」

「ファイトッスよ、英雄さん」

「お、応援してます!」

「僕もです!」

 そんな仲間達の言葉に、英雄は少しだけ安心出来たのだろう。いつもより強張っていた表情が、ふっと和らいだ。


 苦虫を噛み潰した様な表情で、拍手をする男達。だが恋が普段は見せない、笑顔を浮かべているのを見て何も言えなくなる。

 それは内心を隠した様なものでも、愛想笑いでもない……英雄と仲間達が側に居てくれる事で浮かんだ、心からの笑顔である。その笑顔が、大多数の男達にとってのトドメになった。


 しかしそんな中にも、まだ恋を諦め切れない者がちらほらと居る。

「おい、あの小僧について調べろ」

「は、はいっ……!!」

「あくまで婚約だ……ご破算になれば、まだ俺にもチャンスが……」

「初音家と一緒の席に居る、あの二人……あのガキの親か?」

「どうやって初音家に取り入ったか解らんが、やりようはある……」

 そんな発言をしている者達だが、そういった考えに至る輩が現れる事も織り込み済み。初音家の使用人達は、不穏な様子を見せている者達をしっかりとチェックしている。席を指定したのも、要注意人物を把握しやすくする為である。

 ちなみに大将が勤めている会社にも秀頼直々に根回し済みで、場合によっては彼をヘッドハンティングして初音関連企業への転職も可能な状態にしている。つまり星波家に圧力をかける事は、事実上不可能なのだ。


 ちなみにこの時、意外な人物が聖に気付いて驚愕していた。その人物とは、レストラン経営で名を馳せる会社の社長だ。

「あのご婦人……かつてうちの系列のレストランでシェフをしていた、【田所たどころ ひじり】では……!?」

 聖さん、何気に大企業系列のレストランに勤めていらっしゃった。しかも、がっつり名前を覚えられるレベルである。

 実際に聖は料理人として優れた腕前の持ち主であり、更に言えば創作料理も大変評判だった。未だに勤めていたレストランには、聖のアイディアで創られた料理がメニューに載っているそうな。


 そんな招待客達の困惑を他所に、英雄と恋が連れ添って自分達の席に到着。仁達も自分の席に戻り、招待された客達に一礼して着席する。

 さて、ここでチラッと顔を見せた仁……そう、かつて陸上界期待の星と呼ばれた仁である。その顔を見て、彼に気付く者達も居た。

「あの少年……!! 陸上選手の、寺野仁選手……!?」

「な、何だって……!? 事故に遭って、選手生命を絶たれたと聞いていたが……」

「間違いありません、社長……私、ファンでしたので見間違えという事はありません……!!」

「お、おぉ……そうか……」

 どうやら、仁のファンも居るらしい。彼が陸上界を離れて時間が経っているが、その知名度は未だ高い様だ。


 そうこうしているとパーティーの主役である恋が、鳴子からマイクを手渡される。

「皆様、本日はお忙しい中、私の誕生日を祝う為にご足労頂き誠にありがとうございます。家族や友人の支えや、皆様のお力添えのお陰でこうして無事に十四の誕生日を迎える事が出来ました。遅ればせながら、心より感謝申し上げます」

 つっかえる事なく、流れる様に……しかし性急さは感じさせない早さで、感謝の言葉を述べていく。百人程の……それも各界の著名人達の注目を一身に集めながらも、普段と変わらない落ち着きのある姿だ。そんな恋の隣に座っている英雄は、緊張が顔に出ない様に必死である。

「先程父から紹介がありました通り、私は共に人生を歩んでいく方と出会う事が出来ました。まだ至らぬ点も多い私ですが、こちらの英雄さんと手を取り合い、精進して参りたいと思います」

 最後にもう一度、出席への感謝の言葉を告げて恋の挨拶が終わる。


「それでは皆様、どうぞお手元のグラスをお持ち下さい」

 ここで英雄に喋らせるのだろうと招待客達は思っていたが、秀頼はそのままパーティーを開始すべく乾杯の段取りへ移行させた。

 その理由は簡単で、今日のパーティーは英雄と恋の婚約披露パーティーではなく、恋の誕生日パーティーだからだ。婚約披露ならば英雄に喋らせる必要があるが、誕生日パーティーならばその必要は無い。

 これも秀頼が、今日この日に二人の婚約を発表する事にした理由。自身も認めた未来の義息子であり、恋が本気で愛している英雄。そんな彼への負担を、必要最小限にする為の策だ。


「それでは例年通り、乾杯の音頭は家内に任せたいと思います」

 どうやら乙姫が乾杯の音頭を取るのは、毎年の事らしい。その理由は誰よりも恋の誕生日を喜び、祝福しているのは母親である彼女だから……というのが、秀頼の考えだからだ。

 そのまま乙姫が招待客への感謝と、恋への祝いの言葉、そして英雄との婚約を祝福する言葉を述べていく。既に乾杯の段取りであるので、長々と喋る事は無かった。

「それでは、恋の十四歳の誕生日を祝して。乾杯」

『乾杯!!』


 その時、仁はふと、逆隣にある恋の祖父母達の為に用意された席に、視線を向ける。それは本当に何となくであり、何か理由があった訳では無い。いや、もしかしたら何かに惹かれる様に、視線が吸い寄せられたのかもしれない。

 その席には始と華恋の他に、一組の老夫婦の姿があった。その老夫婦は穏やかな表情で、恋の方を向いている。そんな男性の横顔を見て、仁は既視感を覚えた。それは、ある知り合いの顔と少し似ている様な気がしたからだ。


――あの人、ユージンさんにどこか似ている様な気が……?


 しかし、その隣に居る人物……恋の母方の祖母と思しき人物は、ケリィとは雰囲気も全く異なる。だとしたら、もしかしてユージンの親類なのかもしれない。

 だとしたら、恋の親戚にユージンが居る事になるのだろうか? もしもそうだった場合、世間が狭いどころの話ではない。

 そんな事を考えつつ、仁はパーティーに意識を戻すのだった。

次回投稿予定日:2025/4/15(本編)

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― 新着の感想 ―
セバス、お前まだマシな方だったんだな…。 お詫びに思う存分に脳破壊されてくれ…。 語るのもアレのなロリコンはキチンと砕かれてくれなーw
色々問題連中もいる中 パーティーは開催されました しかし…頭領様を筆頭に VCの方々は現実でも有名人なので その他の方々は戦々恐々でしょうね さぁ 作者様による 自由奔放な祭りの始まり、始まり~
555話の隠されたサブタイトルは【疾走する作者の本能】なんですね、わかります。 会場中の『汚い洗濯物(自己厨ゲス野郎ども)』が真っ白になるみたいに……みんなが、幸せになりますように。  以上、【555…
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