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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第二十章 第四エリアを目指しました

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20-01 南側第三エリアを探索しました

【忍者ムーブ始めました】をご閲覧下さる皆様へ。


いつも拙作【忍者ムーブ始めました】をご閲覧頂き、誠にありがとうございます。

本日で【忍者ムーブ】は、五周年を迎える事となりました。

ここまで継続して執筆を続けて来れたのも、皆様から頂いた感想・評価・ブックマークのお陰です。

六年目も皆様に楽しんで頂ける様に、試行錯誤しながら執筆を進めて参ります。


ジン達共々、引き続きお付き合いの程宜しくお願い致します。

 三月に入り、卒業ムードが漂う季節。それは[日野市高校]でも変わらないが、三月一日だけは別だった。

「やったー!!」

「よっしゃ、受かったーっ!!」

「う、嘘だろ……落ちた……?」

「ナンデ……ナンデ……」

「あー……二次試験、頑張るか……」

「私の番号あった! 良かったぁ……!!」

「よし……!! これで、茂田先輩のいる学校に入れた……!!」

 多くの喜びの声が上がる傍らで、力及ばず意気消沈する者も居る。今日は、[日野市高校]入学試験の結果が発表されているのだ。


 となれば、あの二人も居る訳で。

「同じクラスになれると良いッスね」

「だね、ともあれお互いにお疲れ」

 そう言って軽く拳を合わせる、隼と拓真。

 合格は確実だろうという自信はあったが、流石に合否の結果発表は緊張するものだ。こうして結果が出て安心したのか、二人の肩からは力が抜けていた。

 そして、二人の側に居るのは仁と英雄である。

「おめでとう、二人共。これで、四月からは同じ学校だね」

「俺からも、合格おめでとう。高校生活が更に賑やかになるな」

 日曜日である為に学校は休みなのだが、在校生として……そして仲間として、隼と拓真の合格を祝うべくやって来ていた二人。そんな二人の言葉に、隼と拓真も嬉しそうに頷いてみせた。


 そこへ、一人の男子中学生が近付いて来る。

「相田、どうだった……って、聞くまでもなさそうだな」

「お、吉田。そっか、吉田もここ受けてたんだ。受かったん?」

 それは隼のクラスメイトである、吉田よしだ米永よねながだった。もっとも隼から話し掛けるのは用件がある時くらいで、会話するのは吉田から話し掛ける場合が大半である。

「受かったよ……ってかお前、俺に興味なさすぎじゃね? お、名井家も合格か?」

「うん、無事にね。高校でもよろしく」

 よろしくとは言うものの、拓真も吉田と親しい訳ではない。なので、あまり関わる事は無いのだろうとは思っている。


「さて、それじゃあ俺達はここらでお暇しようか」

「そうだね、これから書類の受け取りとかあるだろうし」

 仁と英雄は、合格の喜びを友人と分かち合う所を邪魔しないでおこう……という考えで、そう告げる。しかし隼も拓真としては、待ったをかけておきたい。

「そんじゃすぐ済ませて来るッスから、駅の方で合流しないッスか?」

「だね。折角ですし、お二人が迷惑じゃないなら」

 そんな二人のお願いに、仁と英雄がノーと言うはずもない。駅に向かう途中の公園で待っている、と告げた二人は「また後でね」と言い残して、その場を離れた。


「で、あのイケメン二人は?」

「俺のイトコと、その親友ッス。四月から、俺等の先輩になるッスよ」

「へぇ~、そうなんか……」


……


 仁・英雄と合流した、隼と拓真。今回は合格祝いという事で、四人でファストフード店で昼食をとる事になった。仁と英雄が奢ると言い出し、二人は遠慮しようとしたのだが押し切られたのは余談である。

「三月はイベントも無いし、のんびりできるッスねぇ」

「そう? ゲーム内ではイベントは少ないけど、現実ではイベントだらけじゃない?」

 隼がフライドポテトを摘まみながらAWOの話をするが、それに対して仁がやんわりとその言葉を否定する。

「二人は卒業式があるだろうし、進学の準備……それに、ホワイトデーもあるでしょ」

 中学を卒業する二人は、高校進学の準備もあるだろう。それを考えたら、やはりのんびりは出来無さそうだ。


 それに三月には、ギルド【七色の橋】のメンバー中四人が誕生日を迎える。

「あと隼と恋さん、姉さんや紀子さんの誕生日もあるし……明後日の恋さんの誕生日は、二人も参加するんだよね?」

 仁がそう切り出すと、隼と拓真は苦笑しながら頷く。

「そッスね、折角だし。初音邸ってのが、緊張するッスけど」

「あはは……僕も行って良いのか、未だに恐縮しちゃいますけどね」

 当たり前ではあるが、初めて初音邸に行く二人は気後れしているらしい。大財閥である初音家の邸宅に出向くのだから、不思議でも何でもないだろう。

 同じ立場である仁が自然体なのは、過去の経験で慣れているだけである。

「恋は喜びそうだし、大丈夫だよ。初音家の付き人さん達が、サポートしてくれるらしいし」

 安心させる様にそう言うが、二人は苦笑を深めるだけだ。それで安心出来れば、苦労はしない。


 ちなみに遠方に住んでいる和美と紀子は不参加であり、似た様な理由で数満も参加を辞退した。彼が住んでいるのは二つ隣の県で、学校が終わってから初音邸に向かってもパーティーの開始時間ギリギリ。そこから更に帰るとなると、かなり忙しい事になる。その上翌日は学校なので、かなり厳しい日程になるのだ。

 和美達はその代わりに、ゲーム内で盛大にお祝いしたいね! と言っており、恋もそれで十分だと笑顔を浮かべていた。


 ちなみにこれはクラン単位でのお祝いになるが、当然ながら三月生まれのメンバーもそれなりに多い。そこでクラン【十人十色(ヴェリアスカラー】は、あるルールを設定する事になった。

「その月で最初に誕生日を迎える人に合わせて、クラン単位での誕生パーティーをしよう」

 これならば盛大なパーティーをするのは月に一度になるし、皆でお祝いをする事が出来る。パーティーの為の日程調整もしやすいという事もあり、メンバーから異論は出なかった。


 ちなみに三月最初の誕生日を迎えるメンバーは、フリーランスであるネコヒメだ。彼女は明日、三月二日生まれであった。

 誕生日を迎えるメンバーへの、各ギルドとしてのプレゼント……仁達【七色の橋】からのプレゼントは、仁へのプレゼントと合わせた物になっている。ギルド外のメンバーには、その人のイメージカラーを反映させた和装……そしてギルドメンバーには、現在の衣装を発展させた新衣装である。

 ちなみに一般販売用の和装はユージンが提供した型紙を使用して製作された、初期装備に近い物。だがクランメンバー用の装備は、現在の装備を製作する際に作成した型紙を利用して製作されている。

 つまり販売では手に入らない、今現在の【七色の橋】風の衣装がプレゼントになるのだ。


************************************************************


 その日の夜、ジン達はいつも通りにAWOにログイン。日曜日なので、メンバー全員が十九時に揃う。

 ちなみに仲間達が全員ログインしたら、それぞれの時間を切り上げて大広間に集まる。これが【七色の橋】のメンバー全員の、共通認識となっていた。

 これは誰かに強制された訳でも、そうしようと誰かが提案した訳でも無い。自然とそうするのが、定着したのだ。


「さて、明日明後日はゲーム・リアル共にイベントがあるし……今日はその分、生産や探索に力を入れるって感じでどうかな?」

 ヒイロがそう提案すると、メンバー全員が同意を示す。メンバー数十四人という小規模ギルドだからこそ、こうして意思統一がしやすいのも【七色の橋】の強みの一つだ。


 そしてもう一つの強みとして、彼等には心強い仲間達が居る。

「それじゃあお姉ちゃん、私は≪ポーション≫を沢山作ってきますね!」

「お願いね、ヒナちゃん♪」

 進んで≪ポーション≫作りを申し出るのは、ヒメノのPACパックであるヒナだ。彼女は新たに製作された、新しい衣装≪法衣・綺星あやぼし桜華おうか≫を身に纏っている。これはヒメノの≪戦衣・桜花爛漫≫と似通いつつ、彼女専用にデザインされたものだ。

 そんなヒナだが、彼女もリン同様に自発的な行動をする様になっていた。自分に何が出来るか、どうしたら皆に喜んで貰えるか。それを自分で考えて、決めて、行動する。その姿はやはり、人間と変わらない様に見える。


 そして、先に感情を獲得していたリンなのだが……彼女はどうやら、新しい事に挑戦するという人間的な様子を見せていた。

「主様、私は今日も木工に挑戦して良いでしょうか?」

「勿論だよ。リンが興味を持っているなら、それに専念してくれて良いからね」

 今の【七色の橋】には、木工を専門とする者が居ない。自分がその分野を担当する事で、主であるジンや仲間達に貢献できるのではないか? そう考えたリンは、ジン達にその考えを相談。皆から快諾を得て、木工分野の開拓に挑む事となったのだ。

 こちらはアクセサリーに限らず、机や椅子といった家具……また、箸や皿といった食器類も作る事が出来る。特にこの世界には箸が無く、NPCショップで購入する事も出来ない。

 そこでリンは、まずは仲間達が使う為の箸作りをしているのだ。


 武器や防具のメインとなる鍛冶班を率いるのは、カノンとボイドの主従コンビ。ここに加わるのは、ヒメノ・ヒイロ・ハヤテ・イカヅチ・セツナ・ジョシュアだ。ここで鍛造と鋳造に分かれるのだが、ハヤテとイカヅチ以外は鍛造が主である。カノンとヒメノ、ヒイロとセツナ、ボイドとジョシュアという組み分けが、いつの間にか定着したからである。

 次いで調合班には、調合職人として名を馳せるミモリ。彼女に師事する形で、レン・ヒナ・カゲツ・シスルが調合作業に精を出す。新薬を生み出すのは主にミモリとレンが担い、PACパック達は製法が確立されている≪ポーション≫を作る担当だ。

 刀と並ぶ【七色の橋】の象徴と言えば、和装。その和装を生産する服飾班は、縫製担当のシオンとデザイン担当のセンヤ。そんな二人を、ヒビキとロータス・アルクがサポートする。

 料理班には、アイネとカーム。ここにメーテルが加わり、メンバーの為の弁当を作るのが日常となっている。こちらは一般販売はしていないので、そこまで量は必要ない。

 彫金班の責任者となったのは、地味に手先が器用なジンだ。そこに、ネオンとニコラの主従コンビが加わる。刀の鍔や、鎧の装飾……そういった部品をここで製作し、それを基に鋳型を作る。それ故に鍛冶班にとっても、この部門は非常に重要な班となっている。

 木工班にはリン。そしてここにゲーム知識が豊富なナタクが参加する事で、多角的な視点から木工分野の開拓を進める事になった。製作面では【ドッペルゲンガー】マキナを召喚できるのも、大きな利点である。


 そうして賑やかながらも、和やかに生産活動が進んでいく。手順を確認し合ったり、相談したりとする様子はやはり心地良い雰囲気を醸し出している。

「あっ、イカヅチ待った! それ、ちょっと不純物混じってないッスか!?」

「あぁ!? 何だと!? どれ……チッ、確かに混じってんな」

「鋳造は鋳型に流し込むから楽だけど、その分人数も少ないッスからね。確認は慎重にするもんッスよ、お解り?」

「わーってんだよ、んな事ァ!! もっと気ィ付ける、それで良いんだろ!!」

 和やか? 和やか……かなぁ?

「フン……忠告にゃ感謝してら。あんがとよ」

「はぁ~……そういう所ッスよ、ホント。まぁ二人しか居ないし、ちゃっちゃと慎重にやるッスよ」

「そりゃそうだ、よし……やるか」

 うん、やっぱり和やかだ。


……


 真剣に生産活動に取り組んだ後は、フィールドに出ての探索だ。今回の探索のメインは、第四エリアへの道を見付ける事である。

 ちなみに今日は、クラン活動を兼ねたギルド活動となった。東西南北の第三エリアに各ギルドが向かい、手掛かりを捜索するのである。

 ジン達【七色の橋】は、南の担当。東は【桃園の誓い】、西に【魔弾の射手】、北が【ラピュセル】の担当だ。ちなみに【忍者ふぁんくらぶ】は、十人ずつを各エリアに向かわせる形となっている。

 またフリーランス組はギルド組のパーティに混ざる形になるのだが、今日の探索に参加するメンバーは居ない。リリィはアイドルとしての仕事があり、コヨミも配信活動。コヨミが配信するならば、ネコヒメはそれに専念するのが常である。ユージン・ケリィは生産活動で、クベラは会社の飲み会があるので不参加だ。


 尚、クラン全体で活動する際は、混成パーティで探索する事になっている。これは義兄妹であるイカヅチとイナズマや、恋人同士であるシオンとダイスが一緒に活動出来る様にする為である。

 クランメンバー同士ならば十人までパーティを組めるので、パーティ編成も制限を考えずに進められるのが大きい。


「それじゃあ、分かれて探索かな」

「そうでゴザルな」

 プレイヤー十四人に、PACパック九人。合計二十三人が、【七色の橋】の戦闘メンバーだ。ここに神獣が一匹加わるが、コンはパーティ人数には含まれない。


―――――――――――――――――――――――――――――――

【ジンチーム】

 ジン・ヒメノ・ミモリ・カノン・イカヅチ・リン・ヒナ・コン


【ヒイロチーム】

 ヒイロ・レン・シオン・ロータス・セツナ・センヤ・ヒビキ・シスル・アルク


【ハヤテチーム】

 ハヤテ・アイネ・ジョシュア・カゲツ・ネオン・ナタク・ニコラ

―――――――――――――――――――――――――――――――


「ついでに、コンちゃんのお仲間が見付からないかしらねぇ」

 コンを抱き締めてご機嫌そうにミモリがそう言えば、イカヅチがジンに不思議そうに問い掛ける。

「コンの卵を手に入れたのは、例のエクストラボスのSABスピード・アタック・ボーナスなんだよな? 同じ方法で手に入るんじゃねーの?」

「それは……エクストラクエストを見付けない事には、何とも言えぬでゴザルな」

 今の時点で≪神獣の卵≫をドロップしたのが、エクストラボス・アンコクキュウビ戦しかない。神獣系エクストラクエストに挑戦出来るのは、風林火陰山雷と八咫烏の七つのダンジョンだ。スター系が手に入るエクストラクエストでSABを出しても、≪神獣の卵≫がドロップしないのは検証済みだ。


 そこまでの検証結果を踏まえて、ジン達は一つの推論を導き出していた。

「多分、ダンジョンボスかエクストラボスを最初に討伐する時に、SABを出せれば≪神獣の卵≫がドロップするのではないか……というのが、現時点での推論でゴザル」

「あー、一番乗りじゃねーとダメって事か。そりゃ確かに有り得そうだわ」

 そうなると挑戦するチャンスがあるのは、第四エリアのエクストラクエスト。という事で、第四エリア到達を目指して探索……という、現在の目標に落ち着く訳だった。

「け、結局……先に、進むしか……ない、よね……」

「神獣系以外だと、四字熟語か勇者系だもんねぇ」


 現在判明しているユニークスキルの内、エクストラボスと戦闘になるのは神獣系ユニークスキルのみだ。

 それ以外は現地人の試練をクリアする聖人系・魔人系ユニークスキル……そして特殊条件を達成する勇者系ユニークスキルである。

 他のエクストラクエストといえば、≪ギルドクレスト≫の素材を集める場所で発生する、精霊クエスト……もしくはそこから派生する、マップ浄化クエストになる。こちらは残数が少ないクエストとなるので、手を付ければ面倒な事になりそうである。


「フン……面倒臭い設定にするもんだな、運営もよ。性格悪い連中が揃ってんじゃねぇか?」

「それ、【魔弾】やユージンさん達の前では言っちゃダメよ? イカヅチ君の気持ちも、解ると言えば解るんだけどさ」

 そう言って苦笑するミモリだが、ヒメノが「あれ?」と首を傾げる。カイル・アクア・アウスに関しては知っていたが、ユージンが運営に所属する人物と兄弟である事をジン達は知らないのだ。

「ユージンさんも……運営の方と、関わりが?」

 その言葉に、ミモリは「あ……」と気まずそうな声を漏らした。


――やっば、ついうっかり……まぁ、言っちゃったものは仕方ないか。本当に、ごめんなさい……。


 心の中でユージンに申し訳なく思いつつ、ミモリは素直に話す事にする。

 ちなみに実は「ジン君達になら、話しても構わないよ」と、ユージンは笑って宣っていた。だが、勝手にリアル事情を暴露するのはどうかと考えて黙っていたのである。

「ユージンさんとケリィさんから聞いたんだけど、ユージンさんの弟さんがユートピア・クリエイティブの社員なんだそうよ。リアル事情だし、ウチのギルド的には他人事ひとごとじゃないから言わなかったんだけど……」

「へぇ……世間は狭いって事でゴザルかな?」

「というよりは、弟さんの携わった作品なら遊ぶしかない!……って言ってた」

「「それは凄くユージンさんらしい(でゴザル)(ですね)」」

「確かに……そう言って、いる所……想像、出来る……ね」

「何か俺も、その光景が頭に浮かぶわ」

 何だか満場一致で、ユージンらしいという感想に落ち着いていた。


「後で、勝手に話してごめんなさいしないとなぁ」

「姉さんの事だから、勝手にじゃなかったのでは? ユージンさんが、事前に良いよって言ってないと姉さんは話さないでゴザろう?」

 毎度お馴染み、人の心の機微に聡いジンさん発動。ミモリの事も、ユージンの事もよくよく理解していらっしゃる。

「ふふっ、ジン君は本当に良い子ねぇ。その通りなんだけど、申し訳ない感はあるから」

 よしよしと頭を撫でるミモリは、苦笑しながらジンを甘やかす。照れ臭そうにしつつも、ジンは黙ってそれを受け入れていた。

 そんなジンとミモリを見ていたヒメノは、くすくすと笑ってジンに問い掛ける。もうすっかり、ミモリお姉ちゃんに慣れ切っていらっしゃる。

「……ジンくんって、本当にミモリさんに弱いんですね?」

「小さい頃から、面倒見て貰ってる故。誇張抜きで、頭が上がらない一人でゴザル」


 ちなみに、そんなジンを複雑そうな表情で見るのはイカヅチである。彼にとってはミモリは初恋の人であり、今もほのかに憧れの女性という気持ちが残っているのだ。

 しかし同時にジンという人物の大きさも認めており、彼ならばまぁ仕方ないかといった考えもある。つまるところ、単純に羨ましいのだ。

 ちなみにこれがハヤテだった場合は、遠慮なく食って掛かる。


「そ、そろそろ……動いた、方が……良い、かも……み、見られ、てる……」

 カノンがおずおずとそう告げれば、ジン達はハッと視線を周囲に巡らせる。すると周囲のプレイヤー達が、遠巻きにジン達の様子を窺っているではないか。

「おっと、これはジンが恥ずいヤツだな」

「イカヅチ、僕恥ずかしいよ」

「やめろ!? それだと、俺が恥ずかしいヤツみたいに聞こえるだろうが!!」

「まーまー、二人共。とりあえず、動きましょっか。そんなに大きな声で話していなかったし、会話の内容は聞こえてないでしょ」

「ミモリさんは、全然いつも通りですね……!!」


 南側第三エリア、海底都市[マリアナ]。ここから真南にはヒイロ達が、南西方面にはハヤテ達が向かっている。ジン達が担当するのは、南東の方角だ。

 街を覆う結界から出ると、身に着けた≪海人族の友好の証≫で水中で呼吸が出来るようになる。

 まずジン達が目指すのは、このエリアから先に進むのを阻むもの……魚もモンスターも、そしてプレイヤー達をも呑み込む、大渦である。

「相変わらず、凄いですねぇ」

「あの大渦に呑み込まれたら、あっという間に戦闘不能になるんだっけ」

「こ、怖い……よね……」

 女性陣三人は、普段の服装のままに腰から下が人魚のそれになっていた。勿論、リンとヒナも同様だ。泳ぐ時は腰から下を動かすだけで、人魚らしく素早く泳ぐ事が出来る。本人達の容姿も相俟って、尚更人魚っぽく見えるのだ。

 それに対しジンとイカヅチは、手足に水掻きが付与されただけの変化となっている。流石に、男が人魚姿になるのは憚られたらしい。また水中で戦闘する事もあるので、手足がそのままの方がしっくり来るらしい。


「やっぱり、この大渦を何とかするしかないのか?」

「大渦を止める手段が、どこかにあるっていう書き込みはよく見るけど……ハヤテ達が言うには、大した根拠のないガセネタっぽいって言っていたでゴザルな」

 実際にここ数日、そういった書き込みが掲示板でちらほらと見られるようになった。しかしソースもハッキリ明言されず、中には荒唐無稽な書き込みもあるのだ。

「一番酷かったのが大渦の中心に飛び込んで、渦を作っている装置を止める……っていう書き込みでゴザル」

「遠回しに、死ねって言ってるようなモンだな……」

 大渦の中心に出る前に、大渦に浚われて戦闘不能になるのがオチだろう。流石にそんな攻略法は、誰もしないだろう。


 と思っていたら。

「よっしゃ、行くぞぉっ!!」

「うおおおぉぉっ!!」

「ああああぁっ、やっぱ無理だあぁっ!!」

「ぐおおぉぉガボボボボッ!!」

「トシヤァッ!! ローウィン、トシヤが流されたッ!!」

「命綱を引けえッ!!」

 挑戦する無謀な輩の姿が、そこにはあった。そして、六人纏めて仲良く流されていった。


「……その辺りに、手掛かりが無いか探すでゴザルよ」

「……だな」

ハッピーバースデー、トゥーユー。

ハッピーバースデー、トゥーユー。

ハッピーバースデー、ディーア、ヒメノ~!!


五周年達成に加え、今日は本作のヒロインであるヒメノの誕生日です!!

挿絵(By みてみん)

ヒメノ、お誕生日おめでとう!!

今年も笑顔いっぱいで頑張ろう!!


次回投稿予定日:2025/4/5(本編)

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