19-32 リベンジしました
今回は、作者の特撮脳が暴走しました。
ライ〇ーキックは、やっぱどの作品を見てもクリエイターの愛を感じる。
アナザーワールド・オンラインの第五回イベント、[試練の塔]攻略。その最終試練となる七百階層の攻略には、ジン達だけでなく他の面々も難儀していたらしい。
なにせ、相手は自分達を模したボス天使達……強力なプレイヤーであればある程、その難易度は跳ね上がるのだ。
しかしながら、攻略情報が全く得られなかった訳では無い。ジンが自分を模したボス天使の【分身】の性能が、過去の自分のものであるという事実に気付いたのだ。
「で、それを踏まえて試してみたんだが……恐らく参考にされているのは、六百五十階層だね」
そう言うのは、クラン【十人十色】を構成する五つのギルド……それを代表するギルドマスターの中でも一番年長である、ケインだった。彼はそういう立ち位置もあって、こういったクランでの話し合いの場では代表の様な立場を務める事が多いのだ。
「六百五十階層で外しておいた戦闘スキルを、七百階層では一切使用しなかったという実験結果が出たんだ」
「成程……逆に言えば六百五十階層のボス戦であえて切り札を温存しておけば、七百階層の戦闘の難易度が下がるという事ですね?」
「あぁ、その通り」
ちなみにケイン達はそうして七百階層のボス達を討伐したものの、検証しながらの戦闘であった為にスピード・アタック・ボーナスは逃したらしい。
そして【十人十色】の面々が導き出した七百階層の攻略法は、おおまかに分けて三つとなる。
最も敷居が低いのは『六百五十階層で切り札を温存し、七百階層での難易度を下げる』というもの。これが一番現実的であり、恐らく運営の考えたイベントの救済措置の一環だろうと誰もが考えていた。
次に考えられるのは、『編成の変更や戦力の拡充で、七百階層のボスを攻略する』。これにはPAC契約を済ませていないメンバーが、契約を進めるという事も含まれる。
最後は単純に『編成や難易度は今のまま、SABを得られるまで挑戦し続ける』というものだ。初見でのSAB達成は成し得なかったが、そのチャンスはまだ残されている。
そしてほとんどのメンバーが、現状での攻略を選ぶ事にしていた。今回の編成はバランスを考慮して考えられたものであり、編成を変更する事にはリスクがある。また新たにPAC契約をしても、付け焼刃の連携で通用するレベルの戦場では無いだろう。
そしてボス天使の弱体化を選ばないのは、単純に難易度を下げるのはゲーマーとしての矜持が許さないからである。
つまりは、ほぼ現状維持……しかしそれは、ボス対策をしないという意味では無い。
そうして彼等は改めて、自分と仲間を模倣した五体の天使に挑む。
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そんな挑戦をする一組である、ヒイロ率いるパーティ。彼等も次こそはと、七百階層のボス達との戦いを繰り広げていた。
「出し惜しみは無しだ!! 【霊腕】……【一閃】!!」
「【其の動くこと雷霆の如く】!!」
「【其の動かざること山の如く】!!」
ヒイロとレン、そしてシオンも最初から全開での戦いを開始。三人は【変身】し、自分を模した相手ではなく、相性的に有利な相手を攻め立てる。
「レンの姿を真似したとしても、中身が伴わなければ魅力は半減だな」
そう言って両手と、【霊腕】で刀を振るうヒイロ。愛しいお嫁様の姿であっても、その剣筋に迷いは微塵も無い。
実際にレンの魅力は容姿だけではなく、立ち振る舞いや表情……それらによって醸し出される雰囲気によるところが、非常に大きい。それは無機質な天使には無いものであり、決定的な違いでもある。
そんなレンを模したエクスシーアは、INT特化の魔法職ビルド。接近戦の性能は高くない為、純粋な近接戦闘型のヒイロが抑えるのが最適な相手である。
「うふふ、ヒイロさんったら……と言いたい所ですが、同感です。見せかけだけのハリボテでは、私達のシオンさんには遠く及びません……【ライトニングジャベリン】」
レンが放った【ライトニングジャベリン】が、シオンをコピーしたデュナメイスに突き刺さる。シオンは高いVITを誇る盾職だが、最大強化状態にあるレンのINTならばその防御を抜ける。
これがシオン本人ならば【エレメンタルガード】を駆使したり、四神スキルで凌いだりするだろう。しかしAI制御のボスキャラであるデュナメイスは、そうする事が出来ない。
「……【バーサーク】!!」
ダイスを模したスローンズにセツナが、ヒューゴを模したケルビムにはロータスが相手をしている。そんな二人に駆け寄ったシオンは、【バーサーク】を発動して全てのVITをSTRに変換。そのままケルビムに大太刀≪鬼斬り≫を振るい、そのHPを一気に消し飛ばす。
「【展鬼】。恋人の姿をコピーされるのは、不愉快極まりありません。早々に消えて頂きます……【励鬼】」
冷たくそう言い放ったシオンは、≪鬼斬り≫と≪鬼殺し≫を融合させて金棒形態に変化させる。そのままスローンズに接近して、渾身の力を込めて金棒を振るう。
「ふははっ、流石だな侍女の娘よ!!」
「シオン様、引き続き援護致します」
そしてダイス・ヒューゴとクラリスは、ヒイロを模したキュリオテテスの相手だ。これはキュリオテテスの【千変万化】に対抗するには、複数名が必要だという判断からである。ただでさえ、多彩な武器を振るうヒイロのコピー……一対一では、流石の彼等も苦戦は必至なのだ。
「くっ……ヒイロ君のコピー、相変わらず厄介だなっ!?」
「あぁ、やっぱり手強いな!! クラリス、背中は任せっからな!!」
「良いでしょう、後で報酬はしっかり頂きますが」
最も大切なのは、【変身】を使用するまでの間に可能な限りHPを削る必要がある事だ。故に多少のダメージは覚悟しつつ、ダイス達は猛攻撃を仕掛けていくのだった。
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一方、ハヤテ率いるパーティも同様に天使五体と激戦を繰り広げている。
ハヤテをコピーしたデュナメイスには、【変身】状態のアイネとジョシュアの主従コンビだ。銃に対抗するには、まず盾持ちを配置するのが最も手っ取り早い。そしてアイネの薙刀の技量ならば、デュナメイスのタゲを引き付ける事が出来るのだ。
「【変身】したら厄介だし……その前に、倒したい……なっ!!」
「そりゃそうだ!! 気ぃ抜くなよ、嬢ちゃん!!」
共に高い技量を持つ、アイネとジョシュア。その猛攻に晒されたデュナメイスは、その攻撃を捌くので精一杯になっていた。
そしてヴィヴィアンを模倣したエクスシーア、バヴェルを模倣したキュリオテテス。この二体を相手取るのは、ハヤテとカゲツのコンビである。
魔法詠唱を開始した瞬間に、ハヤテが狙撃。そしてヒットストップで詠唱が中断した所で、カゲツによる魔法攻撃が撃ち込まれる。
「よしよし、順調ッスね!!」
「油断大敵じゃぞ、我が主? しかし、こうも上手く策が嵌まるとはの」
隙を晒した相手に銃弾を撃ち込み、その行動を阻止するのはハヤテの得意分野。そしてそんなハヤテの作り出した好機を、みすみす逃すカゲツではない。
残り二人……スローンズは、アイネをコピー。そしてケルビムが、ジライヤをコピーしている。この二体は近接戦闘型で、最前線クラスの前衛である。
「勝利は……己を乗り越えた先にあるッ!!」
ジライヤは自分のコピーである、ケルビムと激しい斬り合いを演じている。かつてヴィクトールと名乗っていた彼は、最前線のレイドパーティに参戦していた猛者だ。そんなジライヤとそのコピーの戦いは、純粋な力と技の応酬。搦手も策も無い、正面からの競り合いである。
そして最初は互角の戦いとなっていたのだが、徐々にジライヤが圧し始めていた。これは純粋に、ジライヤが自分の剣筋を客観的に見て、覚えて、対策する様になっていったから……つまり、戦いの中で更に成長し始めているからであった。
そしてアイネのコピーであるスローンズを相手取るのは、魔法と剣を併用するバヴェルである。
「成程……ステータスや装備だけでなく、アイネさんの技巧もコピーしている訳だ。しかし残念だな、彼女の思考をトレースしていない」
そう言うバヴェルが≪中華剣≫を振るえば、スローンズがそれを薙刀で受け流す。その動きはアイネのものだが、彼女ならばそうはしなかっただろう。なにせバヴェルにはまだ、≪中華剣≫が二本あるのだから。【ゴーストハンド】を駆使して振るわれた剣が、スローンズの身体にダメージエフェクトを刻み付ける。
そして、この激しい戦闘を支えるのがヴィヴィアンだ。彼女は今回の戦場では、仲間達へのバフと回復を一手に引き受けていた。
「【ヒール】!! で、ジライヤさんにはこれをっ!!」
ジョシュアを【ヒール】で回復しつつ、自作の≪ポーション≫を投擲してジライヤを回復。その間にハヤテのVITを強化するバフ魔法が切れる時間が迫っている為、再びバフを回す為に詠唱を開始。
仲間達の戦闘を支える、支援役。効率的に、素早く、的確に……最適な位置で、遅滞無く、最適な支援を。
一人でそれをこなすヴィヴィアンは、戦闘が始まってから頭をフル回転させて支援に勤しむ。今回の攻略において、一番の功労者が誰か? と問われれば、彼女以外のメンバーは迷わずヴィヴィアンの名を口にする事だろう。
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「【雷天】!!」
青年が魔技発動を宣言しながら刀を振るうと、雷撃が放たれて天使の身体に命中する。その瞬間に雷撃は弾け、天使の全身に駆け巡り麻痺状態のデバフを発生させた。
「よしっ!! 頼んだ!!」
そう言って青年……ケインは別の天使に視線を向け、刀の切っ先を他の天使に向ける。その間に、麻痺状態にある天使・ケルビムに接近するのは【忍者ふぁんくらぶ】のサスケだ。
「お任せをっ!!」
大太刀でケルビムを攻撃するサスケにその場を任せ、ケインは刀の切っ先を天使・スローンズに向ける。この天使がコピーしたのは、【魔弾の射手】のクラウド。銃を駆使して狙撃を繰り返す難敵であり、麻痺よりも凍結で動きを封じるのが最適……そう判断したケインは、更に魔技を発動させる。
「【氷天】!!」
凍て付く冷気がスローンズに吹き付け、全身を氷の塊が覆い尽くす。
「……これが【鞍馬天狗】か。なんて心強い……!!」
そう言いながら、クラウドは銃口を構えてスローンズに狙いを定め……そして、引き金を引く。防御も回避も出来ないスローンズは、そのHPを削り取られていく。
ケインのパーティは、彼とその妻であるイリス。加えてクラウド・サスケ・タスクの三人……そして、PACであるマークとファーファだ。
攻撃の手は十分と判断したケインは、今回はデバフを撒く役割に専念している。ケインはユニークスキル【鞍馬天狗】によって、高いMND値を保有するプレイヤーだ。お陰でデバフの効果発動率が高く、仲間の攻撃チャンスを生み出す事に長けている。
そして、ここまでは【鞍馬天狗】の力……しかし、彼の実力はそれだけに留まらない。
「くっ……ケイン殿!!」
タスクが声を上げれば、そこには己を模した天使・エクスシーア。≪天狗丸≫を模した武器を振り上げて、自分に斬り掛かろうと迫って来るではないか。
デバフを撒くケインを優先目標と判断したAIが、エクスシーアを突き動かしたのだろう。これまで相対していたタスクの攻撃を喰らいつつ、強引にケインに迫っていく。
しかし、ケインにとってそれは脅威足りえない。
「大丈夫だ!!」
そう言うと同時に、ケインは左手に装備した盾で模倣された≪天狗丸≫を受け止め……そのまま、盾を傾けて軌道を逸らして受け流す。
そうして攻撃を受け流されたエクスシーアは、無防備な背中をケインに晒していた。
「【雷天一閃】!!」
雷撃と剣閃、更にクリティカルヒット。痛烈な一撃はエクスシーアのHPを散らしつつ、麻痺状態を発動させた。
揺らぐ事なく、戦場の中心で仲間達を守る剣士。そんなケインを目の当たりにして、サスケとタスク……そしてクラウドは、改めて彼が真のトッププレイヤーの一人なのだと実感する。
普段は穏やかな人柄で、仲間達の為に心を砕く心優しきリーダー。そして戦場では誰よりも動き回り、仲間達の為にチャンスを生み出す頼り甲斐のあるリーダー。
ジン達の活躍がセンセーショナル過ぎて隠れてしまっているが、彼もジン達と同じ……正真正銘の、AWOに君臨する超越したプレイヤーの一人なのだ。
そんなケイン……自分の旦那の勇姿を視界の端に収めながら、イリスはテンションを上げていた。
「旦那任せの妻になる気は……無いっつーの!! 【バーニングカノン】ッ!!」
彼女の火炎魔砲は、ケインに襲い掛かろうとしていたサスケを模した天使・デュナメイスを灼いて呑み込む。
この戦場を支える中心は、間違いなくケインだ。ともなると、天使達がケインにタゲを向けるのは自明の理。そこで彼女はケインに迫ろうとする天使を魔法で攻撃して、ヘイトを稼ぐ役割を自らに課した。
ケインに迫っていて、今度は自分にタゲを向ける。その時点であっちへ行き、こっちへ行きだ。その間に、仲間達やPAC達がそれを阻止してくれる。そう信じて、彼女はケインと共に戦場をコントロールする。
――上手い……!! この戦略は、お互いを……そして我々やPAC達を信頼しているからこそだろう!!
――やべぇ、なんて連携なんだ……!! やっぱり、この人達も本物のトップランカー……!!
――これが、【桃園】のトップか。フッ……【魔弾】も、負けてはいられないな。
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「よしよし、こんなものか」
戦場に似つかわしくない、飄々とした声色でそう呟くのは……黒いコートを翻しながら、愛妻の姿をコピーしたエクスシーアの攻撃を躱す男。
「……オッケー、カノンにクベラさん!! とっておきの策を実行に移す時よ!!」
「……ほ、本当に……いける……かな?」
「ど、どうやろな? ユージンさんのやる事やし、信じたいとは思うんやけど……」
ユージンがそろそろ、作戦を実行に移す。それを察知したミモリが、カノンとクベラに声を掛けるのだが……カップル揃って「そんなとんでもない事、本当に出来るの?」と半信半疑だった。
そんなカノンとクベラに、ミモリは真剣な表情で頷いた。
「やるわ、あの人はやる。やると言ったらやる」
それは、確信に満ちた言葉だった。根拠など何一つないものの、不思議と納得してしまいそうな……実に、謎の説得力だった。
「あー、うん。そういう凄味があるんやな、了解や。行くで、カノンはん!!」
「ひゃっ!? あ、あ……は、はぃ……っ!!」
クベラがカノンの手を取って、天使達から距離を取ろうと走り出す。カノンは突然手を握られて赤面してしまうのだが……君、バレンタインの日にクベラ宅に一泊したのでは? と思う人もいるかもしれない。キスまではしたよ、キスまではね。
「あぁ、見てじれったい……どうにかして、ちょっとそういった雰囲気にした方が……って、それどころじゃ無かったわね」
まるでツブヤイターでよく流れて来る、「ちょっとやらしい雰囲気にして来ます!」みたいに言うミモリ姉さん。あかんて、それは。
ともあれカノンとクベラに続いて、駆け出したミモリ。ユージンさんのあれやこれが炸裂したら、結構ヤバいのはよ~く知っているのだ。
「あっ!?」
そこで、お姉ちゃんはこけた。
「あっ……」
「あらぁ……」
ユージンは彼女達が走り始めたのを確認して、切り札発動の為の一手を打った直後。分かりやすく言うと、爆弾の起爆スイッチを押した的な状態だった。
そしてケリィは、効果範囲内に天使達を誘導して離脱し始めた直後だった。
「ふむ、それじゃあ……」
「……はい、こう致しましょう」
謎が謎を呼ぶ夫婦は、簡略化したポーズを取ってスキルの発動を宣言する。
「「【変身】!!」」
別にポーズ無しでも【変身】は出来るのだが、絶対にそれは外せないらしい。
転んでしまったミモリは、急いで起き上がって走らなければ……等と考えつつ、身体を起こす。その瞬間、左手を無骨な黒い手が……右手をたおやかな女性の手が握る。
「あ……っ!!」
ドラゴンをモチーフとした、漆黒の鎧戦士姿のユージン。
そしてPKKの時とは異なる、銀色をアクセントにした鎧に身を包んだケリィ。鎧もそうだが、最も特徴的なのはヘッドギアの部分……そう、パッと見たらウサギの耳っぽい形状をしている。
「行くよ、ミモリ君」
「ご安心を。安全な場所まで、一緒に跳びましょう」
そう言って、夫婦は同時に地面を蹴る。
「「【ハイジャンプ】!!」」
ドンッという音と共に、空中に飛び上がる三人。その瞬間、地面に描かれていたモノが光を放ち……そして、周囲の全てを呑み込まんとする竜巻が発生した。
発生した竜巻は天使達を引き寄せ、地面に転がっていた物を引き寄せ、呑み込んでいく。そう、地面に転がっていたモノ……それはカノンが【七色流ハンマー投げ】で投げた、爆薬内蔵の鉄球の数々である。
「【飛竜】」
ミモリとケリィの手を握って、滑空を開始するユージン。そのままカノンとクベラの所へ飛来すると同時に、竜巻の中で爆発が起きた。そのまま炎は竜巻の勢いで燃え広がり、天使達のHPを焼き尽くしていく。
「たーまやー」
「……花火と称するには、風情が足りない気がしますが……」
「……アイリさん、そこじゃないんですよ」
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そして、ジンのチーム。彼等も当然、現状のままの真っ向勝負でSAB狙いでの再挑戦だ。
「スーパー忍者タイム!!」
「いざ開幕ですっ!!」
事前準備を整えたジンとヒメノは、開幕と同時に最終武技と【変身】を発動。天使達がスキルを発動する前に、圧倒的なステータス差で自分のコピー天使を圧倒していく。
天使達は戦闘が始まってから、回避回数や物理攻撃のカウントが始まる。つまり最終武技の効果を上げるのに、時間が掛かるのだ。その分、ジン達が有利になるのだ。
そしてジン・ヒメノをコピーした天使達を抑えれば、残るはイカヅチをコピーした天使の【スーパースター】に注意すれば良い。
そんな今回の攻略の要だが、戦闘職では無く生産をメインに活動するハヅキだった。
「ふふふふふ、新兵器の実験台になって貰います!!」
そう言ってハヅキは、システム・ウィンドウを操作して武器を具現化させて並べていく。ちなみにそれは、武器と呼ぶべきか迷うモノだった。なにせそのラインナップは投石器に、破城槌……明らかに携行性を無視した、破壊力だけに重点を置いた兵器を並べているのだ。
それを目の当たりにした天使達は、真っ先にそれを使うのを阻止しようと動き出した。しかし、それも全てはハヅキの誘い水。彼女は天使達の警戒心を煽る為に、見た目だけで実用性に乏しいアイテムを並べたのだ。
その理由は自分と、イカヅチとイナズマが手にしている本命に気付かせない為の作戦である。
「引っ掛かりやがったな!! 【轟雷】!!」
「いっくよー!! 【電光】!!」
イカヅチの≪長巻≫と、イナズマの≪戦槌≫。二人の武器は電気を帯びて、バチバチという音が発生している。これはハヅキが手ずから改良した、天使対策の強化によるものだ。
「【一閃】!!」
「【ブレイクインパクト】!!」
ハヅキの並べた兵器を攻撃する瞬間を狙って、イカヅチとイナズマが渾身の一撃を叩き込む。その瞬間に電撃が発生し、天使達を麻痺させる。
現状維持で戦うものの、それは編成や難易度の話。更に装備や装飾品、スキル構成を見直すのは攻略において当たり前の事である。
そうした考えのもと、イカヅチの≪長巻≫とイナズマの≪戦槌≫はハヅキ主導で強化された。二人の武器はMPを消費する事で、一定時間雷属性の武器へと化す機能を付与されたのだ。これは攻撃が命中した際に麻痺効果を発動させる事で、イカヅチとイナズマの力強い攻撃を命中させるチャンスを増やすという狙いもある。
それがイカヅチの新装備≪轟雷丸≫と、イナズマの≪電光丸≫。兄妹である二人の関係性も含めて考案された名前と性能を有した、新兵器である。
更に、残るハヅキをコピーした天使に迫るのは二人のPACだ。
「我等二人の力……」
「ご覧あれですっ!!」
素早い小太刀二刀流による斬撃で、天使は≪諸葛連弩≫を放つのを阻止される。最終武技【九尾の狐】を発動したリンは正真正銘、最速のPACだろう。
そして、弓を構えたヒナから放たれる魔法攻撃。その一撃は非常に強力なもので、ハヅキを模した天使のHPが大幅に減少する。
ヒナが今手にしているのは、ヒメノから譲り受けた≪女神の大弓≫ではない。正確には、≪女神の大弓≫だったものだ。
ヒメノとのスキルスロット共有によって、【エレメンタルアロー】を使えるようになったヒナ。そんな彼女の為に、ユージンを始めとする【十人十色】の生産職人達が拵えた弓。彼女の手にあるそれは、≪聖女の杖≫と≪女神の大弓≫を【合成鍛冶】で融合させた新装備なのだ。
その名も≪精霊弓・聖杖夢弓≫……各種魔法と【エレメンタルアロー】を効果的に使える様に調整された、ヒナだけの為に生み出された精霊弓である。
ちなみにヒナの身に纏う装備は、今はまだヒメノのおさがりである≪ユージンの和風装束≫だ。彼女専用の新衣装は、この難関を超えた後にヒメノ主導でデザインする事になっているのだった。
そうして各々が役割を全うし、天使達を倒していく。真っ先に倒れたのは、イカヅチを模倣したキュリオテテス。次にイナズマをコピーしたスローンズ、そしてほぼ同時にハヅキを模したケルビムだ。
最後に残ったエクスシーアと、デュナメイス……その二体は、奇しくもジンとヒメノの攻撃で吹き飛ばされて同じ場所へと転がっていった。
「む……これは……っ!!」
「ジンくん、一緒に決めましょうっ!!」
これはもしや? と考えたジンに、ヒメノが共に決めようと呼びかける。特撮でよくある、同時必殺技シーンみたいな状況。彼女もどうやら、そのチャンスだと感じたらしい。
正直、超やりたい。だって男の子だもん、そのチャンスが目の前にあればやりたくなるじゃない。
案の定、ジンもそのチャンスを前にして……その誘惑に、抗うことは出来ない。そもそも可愛い可愛いお嫁様がそれをご所望なので、抗うつもりも無かったりするのだが。
「いざ、幕引きにゴザル!!」
「全力、全開ですっ!!」
そうして二人は同時に跳び上がり、ジンは右足……ヒメノは左足を突き出した。
「「【キックインパクト】!!」」
渾身の力を込めた、必殺のキック。それがエクスシーアとデュナメイスに命中して、その身体を吹き飛ばす。そのまま吹き飛ばされた二体の天使は、壁に強かに打ち付けられ……そして、HPを全て失った。
「……仮面ライ〇ーじゃねぇんだが?」
「シャラップ、兄さん。いいの、頭領様と姫様はあれでいいの」
「あれを自然体で出来るのが、お二方の凄い所ですねぇ」
次回投稿予定日:2025/3/15(本編)




