19-21 マッチングPK・5-切り開く者達-
ジン達が元【漆黒の旅団】のメンバーやダリルを討伐している、丁度その頃。トップランカーの中でも特にその名を轟かせている男が、両手の聖剣を駆使してPKerを追い詰めていた。
「こ……こんな、バカな……っ!!」
PKerは悔し気に、そんな台詞を吐いて剣を構え直す。一瞬でも気を抜けば、その瞬間に自分は戦闘不能にされる……そんな予感に苛まれており、これが現実であれば冷汗が止まらない状態だろう。
なにせ目の前に居るのは、最強の座に最も近い聖騎士……【聖光の騎士団】のギルドマスター・アークなのだから。
一般プレイヤーを装った奇襲は失敗したものの、最初は普通に打ち合っていた。そこでPKerは、もしかしたらと期待感を抱いた。アークを倒せれば、自分の名が上がる……そんな腹積もりで、PKerはアークに果敢に攻め込んだ。
しかし一瞬の隙を突かれ、今度は自分がアークの攻撃を防ぐので精一杯になってしまう。どれだけ攻撃に転じようとしても、その隙は与えられない。そうして焦燥感が募り、視野が狭まっていく。
アークは全てにおいて冷静に対応し続け、そして機を見計らって攻撃に転じた。そのまま着々と追い詰めて、一気に戦況を引っ繰り返した。最初から攻めなかったのは、相手の戦力を見極める為だろう。
何もかも、格が違う。たった数分の戦いで、彼はそれを実感させられてしまったのだった。
そんな彼の相棒もまた、PKer二人を相手にしながらまだ余裕があった。
「こ、こんなバカな……っ!!」
「掠りもしねぇだと!? 二人掛かりだってのに!!」
直剣使いと両手短槍使いの、二人組。そんな彼等の攻撃を、ギルバートは槍一本で防ぐ。それを実現しているのは彼のステータスや洗練された装備品が、大きな要因ではある。しかしその技巧は、彼自身の修練の積み重ねによるものだ。
第二回イベントでの敗北や、第四回イベントでの相打ちの記憶……次は正々堂々と、彼等を上回ってみせるという純粋な熱意。そしてアークやライデンを始めとする、心から信頼できる仲間達の為に。自分を頼ってついて来てくれる、バーベラを守り抜く為に。
――皆に胸を張れる様になる為にも……俺は、もっともっと強くなってみせる……!!
その情熱が、今のギルバートの原動力。そしてそれはより自分を高めようという意識に繋がり、ゲームの腕だけでは無く私生活の改善にも繋がっている。彼が人間的に大きな成長を遂げたのは、そういった大切な人達との出来事によるものが大きい。
そしてもう一つ……戦闘面での成長も、非常に大きな要因となっている。ジンやゼクス、アーサーといった好敵手……彼等との高速戦闘を繰り広げた事で、ギルバート自身の動体視力が鍛えられていた。AGIに特化した彼等とのひりつく様な攻防に比べれば、目の前の二人の攻撃を捌くなど苦でもない。
圧倒的な地力の差で、PKer達を圧倒していくアークとギルバート。しかし彼等に、慢心はない。
PKerを駆逐し、イベントで更に上を目指す為に……そして多くの普通のプレイヤー達が、イベントを最後まで楽しめる様にする為に。
「これで終わりだ、PKer……【ブレイドダンス・エクストリーム】!!」
二振りの聖剣を振るって発動する、ユニークスキル【デュアルソード】の最終武技。左右合わせて二十連撃の剣閃が、PKerのアバターを斬り裂いていく。
一切の無駄を省いた双剣の舞が終わったその時には、PKerは全てのHPを失っていた。
「こ……これが……アーク……ッ!?」
「受けてみたまえ!! 【ミリオンランス・グングニル】ッ!!」
超高速で繰り出される、【ミリオンランス】と【オーラスピア】の融合技。その全てが的確にPKer二人の身体を貫いて、彼等のHPを喰らい尽くす。その攻撃の速さと正確さは、正に神速の異名に相応しいものだった。
「ち、ちくしょーっ!!」
「速……過ぎる……!!」
ギルバートの攻撃が終わった時、二人のPKerは全てのHPを失っていた。崩れ落ちた二人は、言葉を失って呆然としてしまっていた。
「終わったよ、アーク」
「あぁ。流石だな、ギルバート」
あっさりとした様子で、会話を交わす二人。しかしいつでも動ける様に、彼等は警戒を怠ってはいない。
「一般プレイヤーと思わせておいて、奇襲で相手を仕留める……か。実に陰湿なPK手段だ」
「あぁ……そしてこれは、マッチングPKを前提としたPK。恐らくこいつらが、裏で糸を引いていたのだろうな」
「【暗黒の使徒】や便乗したPKer達は、彼等の隠れ蓑に使われた訳だからね。その考えで、ほぼ間違いないと思うよ」
戦闘能力もさる事ながら、状況を分析する能力にも二人は長けている。これだけの情報でも、彼等はおおよその事情を察してみせたのだ。
「……クソッ……転生して、力を付けて、今度こそって思ったのによ……何で勝てねぇ……!! お前等と、何が違うんだクソが!!」
アークに倒されたPKerが、悔しそうにそんな台詞を吐く。蘇生猶予時間は、もう数秒しか残っていない。
そんな彼に、アークはポツリと一言呟いた。
「お前達に、守るべきものが無いからだ」
その言葉を耳にしたPKerは、視線だけを動かしてアークの顔を見る。彼は蔑むでもなく、憐れむでもなく……真剣な表情で、自分を見ていた。
そこで蘇生猶予時間が尽き、彼のアバターが消滅していく。
――なんだよ、そんな顔しやがって……。
そのアークの表情が、これからずっと忘れられないのだろう。男はそんな事を漠然と考えながら、仮想現実空間から現実へと引き戻されていった。
PKer達が消滅したのを確認して、アークとギルバートは視線をマッチング装置に向ける。
「続きだ、行くぞ」
「あぁ、そうしよう」
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別の場所では二人のPKerが、一人の女性に向けて武器を振るっていた。その女性は、【森羅万象】のサブマスターであるクロードだ。
彼女はこのPKK作戦に、新入りのザックスを伴って臨んでいた。攻略やPKer討伐は順調に進んでいたのだが、元【漆黒の旅団】による奇襲PKは二人の想定外だったのだ。
狙われたのはザックスだったが、クロードがそれを庇って応戦。しかしその隙を突かれて、もう一人のPKerによって≪パラライズポーション≫をかけられてしまった。
「ハッハァ!! 体が麻痺して動けねぇだろうッ!!」
「ブッ潰してやるよ、ヅカ女ァッ!!」
口汚い罵声でクロードを追い詰める二人組だが、余裕ぶっている訳ではない。彼等は真剣にクロードを戦闘不能にすべく、効果的な武技を繰り出してHPを削っている。麻痺効果が切れる時間が来てしまえば、形勢逆転も有り得ない話ではないと考えているからだ。
「どけぇッ!!」
「行かせるかよ、ボケェッ!!」
クロードの救援に向かおうとするザックスだが、残る一人のPKerが盾とメイスでそれを阻止する。彼の装備品は見た目こそ更新されているが、使用されているのは第四回イベントの際に使用していた物と同じ物だ。魔法職相手には強力なのだが、相手が硬いプレイヤーだと突破力に欠けるのである。
こんな時、自分に特別なスキルでもあれば……なんて考えて、数名のプレイヤーの事を思い浮かべたザックス。そこで彼は、ある少年の事を思い出した。
その少年は、前衛職の大半が保有しているスキル……その武技の一つを、予想外の使い方で発動していた。それを彼が初めて見たのは、第二回イベントを観戦している時だった。
――使い方……使い方次第で、もしかしたら……ッ!!
試す価値は、ある。そう考えたザックスは、≪突撃隊長の槍≫を構えてPKerに向け駆け出した。
「これならどうだッ!! 【スティングスラスト】!!」
槍を前方に突き出しての、突進攻撃。PKerはそれを盾で受けて、お返しだとばかりにメイスを振り上げた。
「どうだじゃねぇよ、雑魚がァッ!!」
「【ハイジャンプ】!!」
【ハイジャンプ】を発動させながら地面を蹴る事で、【スティングスラスト】の突進力を増した攻撃。PKerはその勢いを止める事が出来ず、押し出される様に後退していく。
「馬鹿な……っ!?」
ザックスに押されたPKerは、そのまま彼の仲間達の前まで到達。そこでザックスは、更に武技を発動させる。
「【ラウンドスラスト】!!」
「なに……っ!?」
「おい、ちゃんと抑えろよ!!」
PKer達が後退っていく瞬間、ザックスは回復薬を取り出す。それをクロードに投げようとするが、その前にPKer達が妨害しようと攻撃を繰り出してくる。
逆にザックスは自分の身体を盾にし、クロードへと回復薬を投擲。そのままPKer達の進路を阻んで、クロードが麻痺状態から復帰する為の時間を稼いでみせた。
「……感謝する、ザックス!!」
クロードは身を挺して自分を回復させたザックスに感謝の言葉を伝えつつ、剣を握り直して駆け出した。
「【変身】!!」
疾走と同時に【変身】を発動させたクロードは、更にスキルを発動させる。
「速攻で倒すッ!! 【超加速】!!」
加速して一気にPKer達と距離を詰めたクロードは、既に変身専用装備を装着済み。そのまま剣を振るってPKer達に、苛烈な連続斬りを浴びせていく。
そして彼女の持つ魔剣≪エッジ・オブ・プレデター≫は、攻撃した相手のHPを吸収する武装スキル【ライフドレイン】を備えている。攻撃すればするだけ、彼女のHPが回復していくのだ。
「く、くそ……っ!!」
「まだだ!! もういっぺん、麻痺させれば……っ!!」
もう一度、麻痺状態にすれば可能性はある。そう思っていたPKer達だが、そうは問屋が卸さない。
「それは出来ない相談だな……なぁ、ザックス?」
「そういう事だ!!」
クロードの攻勢の陰で、ダメージを回復していたザックス。完全とまではいかないが、余程の攻撃でも無ければ一撃死はしない程度までは回復済みだ。
「テ、テメェッ!!」
「遅いッ!! 【ミリオンランス】!!」
最終武技【ミリオンランス】を発動させたザックスの、怒涛の連続突き。その攻撃で、PKerの一人が戦闘不能に陥った。
そしてクロードもまた、決着を付けるべく奥の手を繰り出した。
「【バースト・デュアルスラッシュ】!!」
クロードが放つ二連撃によって、斬り付けられたPKer達。その瞬間、爆発が発生する。無論、ダメージ値も高い数値が表示されている。
これは【直剣の心得】を限界突破した後に開放される、秘技スロットに収められる秘技だ。いくつかの秘技の情報を集めたクロードは、自分に最適な秘技がこれであると判断してそれを取得していた。
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秘技【バーストLv2】
効果:【長剣の心得】の武技に、爆発効果を付与する。発動時、自身のHPが28%消費する。この秘技の効果で、HPが0にはならない。
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爆発する斬撃は、PKer達のHPも吹き飛ばした。力が抜けて倒れ伏すPKer達の姿を確認しつつも、クロードは警戒を続ける。
蘇生猶予時間が尽きて全員が強制ログアウトした所で、クロードとザックスは残心をといた。
「助かった、ザックス。無理をさせて済まなかったな」
「いえ! クロードさんが庇ってくれなかったら、俺はHPを削り切られていたはずですから。お礼を言うのは、こっちの方です」
そう答えながら、ザックスは内心でガッツポーズを取っていた。今回の働きは、好感触だったのではないか? と思ったのだ。
しかしクロードはその言葉に頷きながらも、引き締めている表情を崩さない。
「そうか。よし、では次に行こう」
「大丈夫ですか? 少し、休んでからでも……」
「……この騒動を早々に集結させなくては、皆が安心してイベント攻略に臨めないからな」
そう言ってクロードは、マッチング装置の方へと向かう。言う事も態度も、圧倒的に男前。そんなクロードの姿にザックスは自信を失いかけるが、同時にある事を想う。
――よし!! クロードさんに認めて貰える様に、そして皆の為に……俺も、もっと頑張るしかないな!!
ザックス……彼は案外、前向きな男であった。
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同じ頃、【遥かなる旅路】を率いる夫婦……カイセンイクラドンとトロロゴハンも、PKer達と激しい攻防を繰り広げている。そして苦し気に顔を顰めているのは、PKer達の方であった。
「クソッ……こいつら、マジで強い……ッ!!」
「使ってんのは全部、普通のスキルや装備なのに……!!」
カイセンイクラドンとトロロゴハンは、ユニークスキルやユニーク装備を保有していない。更に言えば、ウルトラレア級の物も無い。
しかし、強い。PKer達はカイセンイクラドンの防御を抜けず、トロロゴハンの攻撃を避けられずにいるのだ。
二人はひたすら基礎を固め、地道に実力を磨いて来たプレイヤーだ。その堅実なスタイルは、ギルドの運営方針にも表れている。幹部クラスのメンバーの実力が【聖光の騎士団】や【森羅万象】に劣らないものの、ギルドの規模として劣っているのはそれが大きな要因だ。
しかしながら【遥かなる旅路】は、その堅実さが高く評価されているギルドだ。メンバーの誰もが初心者のサポートを積極的に行い、マナーにも常々気を配っている。故に内部だけでなく、外部からの信頼も厚い。
そしてメンバーの実力も、実に高水準。飛び抜けたものは無くとも、抜群の安定感で戦場を生き抜くプレイヤーが集まっている。
その筆頭となるのが、カイセンイクラドンとトロロゴハンだ。三対二という状態でもPKer達を圧倒しているのは、ある意味当然の事なのかもしれない。
地道に鍛え上げた、ステータス・レベル・スキル。強化やメンテナンスを欠かさない、武器や防具。堅実に積み重ねて来た、戦闘経験。そして築き上げて来た、連携。その全てが今、遺憾なく発揮されているのである。
「あなた、三秒」
「あぁ」
トロロゴハンの簡素な言葉に、カイセンイクラドンはそう返す。左腕に装備した盾でPKerの攻撃を防ぐと同時に、そのまま腕を振るって剣を逸らす。そのまま愛用の剣でPKerの腹を突くと、そこから横薙ぎに振り抜いた。
斬られて態勢を崩したPKerから、残り二人に視線を向けるカイセンイクラドン。二人は彼が攻撃している合間に、その脇を擦り抜けてトロロゴハンに接近しようとしていた。
即座に駆け出したカイセンイクラドンは、その長剣を片手で振り抜く。
「【ハードスラッシュ】!!」
剣を振っている途中で武技を発動させれば、武技発動時のライトエフェクトが彼の剣を覆う。そしてその攻撃が二人の内の片方に命中すると、その勢いに押されてもう一人に接触。二人纏めて転倒してしまう。
そうこうしている内に、三秒が経過。トロロゴハンの魔法詠唱が完了し、彼女の杖が光を帯びている。
「【ライトニングフォール】!!」
三人のPKer目掛けて、降り注ぐ落雷。体勢を崩した彼等はそれを避ける事が出来ずに、モロに魔法を喰らってしまう。HPを大幅に削る大ダメージ……その上、麻痺効果が発動して身動きが取れなくなってしまう。
トロロゴハンはそのまま、次の魔法詠唱を開始。カイセンイクラドンも、二人組の方を見て剣を振り被る。
「【エキスパンド】」
カイセンイクラドンがスーパーレアスキル【エキスパンド】を発動させれば、彼の愛用する≪守護者の長剣≫が二倍の大きさに変化する。
トロロゴハンも早々に魔法詠唱を完成させ、最初に斬られたPKerに杖を向けていた。
「【ライトニングカノン】!!」
「【デストラクトスラッシュ】!!」
二人の攻撃は、ピッタリ同じタイミングだった。カイセンイクラドンの【デストラクトスラッシュ】が、PKer二人を纏めて斬り裂く。その衝撃で地面に叩き潰された二人のHPは、すぐにゼロに到達した。
もう一人のPKerは必死に逃れようと足掻いたが、麻痺効果から抜け出す直前にトロロゴハンの【ライトニングカノン】が直撃した。雷の砲撃魔法が消える前に、HPは全て消し飛ばされてしまう。
互いの考えを理解し、それをフォローし合う阿吽の呼吸。ジンとヒメノに勝るとも劣らない、一心同体と言わんばかりの連携。これこそが、カイセンイクラドンとトロロゴハンの最大の強みだ。
実際に【遥かなる旅路】の多くのメンバーが、二人の見せる抜群のコンビネーションに憧れを抱いている。恋人、親友、同性……関係性に関わらず、二人の様な連携プレイで戦いたい。そう強く思っているのだ。
「くそ……完封されるとは……」
「これが……カイセンイクラドンとトロロゴハンか……」
PKer達は足掻く事すら諦めて、強制ログアウトを待つしかない。悔しそうにする者もいれば、呆然と虚空を見つめる者もいる。そして最後の一人は、冷静に二人の戦い振りを振り返っていた。
――【エキスパンド】ってスキルは初めて見たが、それ以外は何も特殊なスキルは無かった……それに動き方も、スピードや攻撃のダメージも、高水準だが普通のプレイヤーの範疇内だ。
なのに、何もさせて貰えなかった。手にしていたデバフ武器を当てる事も出来ず、カイセンイクラドンを押し退けてトロロゴハンに迫る事も出来なかった。
転生したとはいえ、自分達はPvPを専門にして来たPKerだ。復讐の為にかなり厳しめのレベリングもして、装備も良い物を揃えた。これで負ける事は、そうそうないと思っていたのだ。
「何故、勝てない……俺達には、何が足りなかったんだ……」
そんな彼の呟きに、カイセンイクラドンが溜息を一つ吐いた。そして鋭い視線を向けながら、一言だけ言葉を投げ掛ける。
「ゲームを真っ当に楽しむという、その心が無いからだろう」
彼の言葉を無視する事は、容易い。しかし、カイセンイクラドンはそれをしなかった。もしその一言で、彼が真っ当な道に戻る事が出来たなら……そう、考えたから。
それに対する反応や、返答は無かった。蘇生猶予時間が尽きて、三人は強制ログアウトしてしまったから。
三人のPKerが消滅する様子を見守っていた二人は、そこで肩の力を抜く。
「あなたらしいわね……戻れるかしら?」
「さぁな。別に俺は、何でもかんでも背負い込む訳じゃない。それに相手は良い大人なんだ、自分の道は自分で決めるだろう」
しかし、その道を阻もうとする者はまだ残っているかもしれない。ならば、まだ自分達は先へ進まなければならない。
「行けるか、トロ」
「えぇ、勿論」
純粋にゲームを楽しもうとするプレイヤー達の道を切り開く為に、二人は再びマッチングシステムを起動するのだった。
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一歩別の場所では、リリィとコヨミが元【漆黒の旅団】に所属していたプレイヤー三人とマッチングしていた。
マッチングした直後はPKを控えようとした彼等だったが、二人が【十人十色】に所属している事……そしてジン達と親しい事を思い出し、タイミングを見計らってPKを開始した。
そんなPKer達の攻撃を、コヨミとスピカ・リゲルが必死に防いでいるのが現状だ。
「くっ、この……っ!!」
「コヨミちゃん、大丈夫!?」
「だ、だいじょばないけど……っ!! 何とかするっきゃないしね!!」
≪大太刀≫を振るうコヨミだが、その動きは芳しくない。何故ならば、彼女は左肩が石化しつつあるのだ。これは最初に襲われたリリィを守ろうと、身を呈して攻撃を受けた為だった。
そんなコヨミの状態異常を癒すべく、【リカバリー】の詠唱を進めていたリリィ。彼女の詠唱を阻止しようとするPKer達を、コヨミ達は三人で必死に食い止めているのだ。
そうしている内に、リリィの詠唱が無事に完成した。
「【リカバリー】!!」
リリィは詠唱が完了すると同時に魔法を発動させ、癒しの光がコヨミを包む。そうして石化状態が解除されたコヨミは、≪大太刀≫をしっかりと握り直した。
「でやあっ!!」
「チッ……!!」
左肩を上手く動かせなかったコヨミだったが、それが回復した事で本来の力を発揮できる様になった。対する元【漆黒の旅団】のPKerは、思った以上の実力に舌打ちをして警戒を強める。
「ありがとうございます、リリィさん!!」
「御礼を言うのは、こっちの方なんですけどね? お陰で助かりました」
そんなリリィの言葉にコヨミは照れ笑いを浮かべながら、戦況を確認する。
――相手は三人、こっちは四人。まずはこの人を倒せれば……!!
「リリィさん、援護お願いします!!」
そう言って≪大太刀≫を構えるコヨミを見て、リリィも彼女が何をするつもりなのか察した。
コヨミは既に数々の戦いを経験し、実力を付けて来ている。今の彼女は最前線でも戦えるだけの、レベルとステータス……そして強力なスキルを持っているのだ。
だからリリィは、フッと笑みを浮かべてコヨミの背中に言葉を投げ掛ける。
「初披露ですね!! 任せて下さい!!」
コヨミもリリィの呼び掛けを背中で受け止めて、全力で戦うべく闘志を高める。
「見ていて下さい、私のっ……!!」
これまで公の場では、披露した事が無かったコヨミの持つスキル。しかし今、そのスキルは彼女のスキルスロットに収められている。
「【変身】っ!!」
ついに、スキル【変身】を発動したコヨミ。そのスキル発動宣言を耳にしたPKer達は、思わず驚愕し声を上げてしまった。
「「「な……なんだってーっ!?」」」
そんなPKer達の目の前で、彼女の全身が淡い桃色の光に包まれる。同時に金色の光が空中に生成され、それらが鎧の様な形へと変化。それらはひとりでに、コヨミの四肢、腰回り、胸元へと装着されていく。そして前頭部に四つに分かれたヘッドセットの様な装甲が装着されると、金色の装甲のところどころに桃色の光が灯った。
これがコヨミの変身専用装備≪クアドリフォリオ≫。この名前はイタリア語で、四葉のクローバーを意味する。この名前は、彼女と同じ配信者であるフィオレが出した案を採用したものだ。
「一気に決めるっ!! 【閃乱】!!」
スキル【刀剣の心得】の最終武技【閃乱】を発動させ、コヨミは≪大太刀≫を全力で振るう。
HPをコストとして、攻撃が確定クリティカルとなる必殺技……HPが変身専用装備のAPで保護されているからこそ、乱発出来る手段である。そしてこれがコヨミにとって、最もDPSが見込める攻撃であった。
「はあぁっ!!」
仲間から贈られた≪大太刀≫を振るい、コヨミは一気呵成にPKerの一人を斬り伏せた。
「く、くそっ……!?」
「要はAPを削り切れば良いんだろうが!!」
PKerの一人がコヨミにクロスボウガンを向け、武技を発動させようとしていた。発動させるのは最終武技【シューティングスター】で、これは変身専用装備のAPを削るのに適した攻撃の一つだ。
矢筒に収められている全ての矢を消費する、圧倒的物量。100と定められているAPを削るのに攻撃値が100必要なら、一度に百の矢を放てば良い訳だ。
「これでも、喰らえ……【シューティング………………」
嗜虐的な笑みが徐々に薄れ、すぐに目を閉じて崩れ落ちた。同時に、眠気を誘う様な笛の音色が流れている。
「お、おいっ!? ま、まさか……っ!!」
残るPKerが視線を向けたのは、リリィだ。彼女は第二回イベントで披露した、≪魔楽器・笛≫による睡眠デバフを付与する曲【子守唄】を奏でていた。
「こ、この……ッ!!」
攻撃して、リリィの演奏を止めさせる。彼はその為に、意識を逸らしてしまった。
「【一閃】ッ!!」
その隙を見逃さず、コヨミは全力で駆けて男に接近。渾身の力を込めて≪大太刀≫を振るい、彼をダウンさせてみせる。
「ガァ……ッ!?」
そのまま男は立ち上がる前にもう一撃を喰らい、HPを全損させて戦闘不能。眠らされたPKerも、目が覚めた時にはHPは危険域。最後にリリィの魔法を受けて、全てのHPを失い戦闘不能になった。
PKer達が強制ログアウトになるまで警戒していた彼女達だが、全てが終わってようやく肩の力を抜いた。
「はぁ……か、勝ったぁ!!」
「はい……全員無事で終わって、本当に良かったですね」
そうして互いに笑みを浮かべ、リリィとコヨミは両手でハイタッチをする。そんな二人の様子を、スピカとリゲルが微笑みながら見守るのだった。




