19-10 打ち合わせをしました
二月十七日の、二十一時。西側の第三エリア主要都市……迷宮都市[メイリス]にある、とある建物……そこはプレイヤーがレンタルする事が出来る、イベント用の会場だ。クリスマスパーティーで借りた、始まりの町[バース]のイベント会場と同様の建物である。
そこに続々と、姿を隠した集団が集まっていく。その様子を見て首を傾げるのは、現地人……つまりNPCばかり。
それも当然の事で、第五回イベントの開催期間中はどの勢力も[バース]を中心に活動している。[メイリス]が第三エリアの主要都市といえど、人は多くない。
そしてこのイベント会場は、都市の奥側に設置されている。NPCショップや宿屋といった、プレイヤーがよく使用する設備は[メイリス]の入口に集中しており、数少ないプレイヤー達は主に入口側に集中しているのだ。
つまり今の現状では、この迷宮都市[メイリア]が密談をするのに最適な場所……という訳である。
「しかもポータルに転移して、徒歩数分で会場に着く。会場に入ってしまえば、招待されていないプレイヤーは入る事が出来ない……か。いやはや、恐れ入りましたよ」
「流石ですね、シンラさん。これなら情報が洩れる可能性を、限りなく低くできる」
「うふふ~クロード、褒められちゃったわ~」
「DKC時代は、こんな気安く会話を出来るとは思っていなかったな。しかしうむ、悪い気分ではない」
そんな会話をしているのは、【森羅万象】のギルドマスターであるシンラとクロード……そして、【聖光の騎士団】のヴェインとライデンだ。
そのすぐ近くでカイセンイクラドンとトロロゴハンが、クリムゾンやスカーレットと談笑している。
「成程、じゃあその三人組は撃破済みって事か」
「ふふっ、流石はお二人のお弟子さん。頼もしい限りですね」
「あぁ、タイチとエルがやってくれた。えぇと、二人は今は……」
「あっちでフデドラゴンさん達と、談笑してるわね」
他の場所でも、様々な勢力が入り乱れて会話を楽しんでいる。雰囲気自体は、決して悪くはない。
「お、ギルバートか。そっちの人は……年明けの一件の」
「やぁ、アーサー。あの時は本当に助かったよ、改めて礼を言わせてくれ。バーベラ、アーサーは知っているな? 隣の方は、【森羅万象】の幹部メンバーのハルさん。ギルドマスターであるシンラさんの、妹さんだそうだ」
「ど、どうも!! あの時は、本当にありがとうございました!!」
「いえいえ、戦ったのはアーサーですから!」
「この会場を見てると、クリスマスの事を思い出すな。ケインさんはどうだ?」
「ははっ、確かに。あー、ヒューズさん……多分同世代だろうし、呼び捨てでも良いですよ?」
「そうか? ならそっちも同じ様にしてくれて良い。一応、俺は二十七な」
「それだと俺が一個下だね。敬語の方が良いかな」
「気にしなくて良いぜ、俺もそっちのが気楽だし」
「あぁ、コヨミさん。こちらにいらっしゃいましたか」
「フィオレさん! こんばんは、この前はコラボ凄く楽しかったです!! ネーヴェさんやステラさんも、ありがとうございます!!」
「いえいえ、私もとても楽しかったです。また是非、ご一緒したいですね」
「……コヨミさんなら、俺は大歓迎だよ」
「だね~、私もコヨミおねーさんなら是非っ!!」
「そ、そう言って頂けると嬉しいです!!」
「……あの、会長。私達、頭巾してていいですか?」
「む? どうしたココロ、イズナ。何かあったのか?」
「ちょっと……あっちの方に、クラスメイトが居まして……」
「一人を除くと、バレたくない感じで~」
「ふむ……まぁそういう事ならば。私とコタロウ以外は、頭巾をしてもしなくても良しとしよう」
そんな賑やかな会場の中には、勿論ジン達の姿もある。
「これは大事になりそうだね」
「まぁ、事が事でゴザルからなぁ」
ハヤテとナタクから事情を聞いたジン達は、即座にクランホームで対応について協議。その際にライデンやシンラ、カイセンイクラドン……更にヒューズやセシリア、フィオレからのコンタクトを受けた。そこで実現したのが、このトップギルド勢揃いの大密談だ。密談なのに、大である。
そしてこの密談に参加するのは、現在のAWO最前線を代表する面々だ。ただし全員ではなく、厳選したメンバーが参加している。ここに集まっていないメンバーは、[試練の塔]攻略中。その理由は、トップギルドは通常通り活動中である……とアピールし、この集まりの存在を秘匿する為である。
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クラン【十人十色】
【七色の橋】
ヒイロ・レン・ジン・ヒメノ・シオン・ハヤテ・アイネ 計七名
【桃園の誓い】
ケイン・イリス・ゼクス・ダイス・フレイヤ・ゲイル・チナリ 計七名
【魔弾の射手】
ジェミー・レーナ・ミリア・ルナ・シャイン・メイリア・トーマ 計七名
【忍者ふぁんくらぶ】
アヤメ・コタロウ・ココロ・イズナ・ジライヤ・ハンゾウ・ハナビ 計七名
【ラピュセル】
アナスタシア・アシュリィ・アリッサ・テオドラ・イザベル・マリーナ・サブリナ 計七名
ユージン・ケリィ・コヨミ 計三名
クラン【騎士団連盟】
【聖光の騎士団】
アーク・ギルバート・ライデン・シルフィ・セバスチャン・ヴェイン・クルス・ルー 計八名
【聖印の巨匠】
トール・ネフィリム・ハレルヤ 計三名
【絶対無敵騎士団】
フデドラゴン・ヴェディ・エム・タイガー・カガミ・ダン・ジョー・アスナ 計八名
【白銀の聖剣】
ブレイク・他 計八名
クラン【開拓者の精神】
【森羅万象】
シンラ・クロード・アーサー・ハル・アイテル・シア・ナイル・ヴェネ=ボーレンス 計八名
【陽だまりの庭園】
ナコト・セーラ・他 計八名
【朧月夜】
ノミコ・ギンガ・他 計八名
クラン【導きの足跡】
【遥かなる旅路】
カイセンイクラドン・トロロゴハン・タイチ・エルリア・ロビン・マックス・ランラン 計七名
【初心者救済委員会】
ユウシャあああ・ネムレス・他 計七名
【おでん傭兵団】
オーディン・ダッシュ・ワツキ・サリチカ・他 計七名
クラン【無限の可能性】
【白狼の集い】
ヒューズ・アリアス・レイル・カナン・メギド・レム 計六名
【真紅の誓い】
クリムゾン・スカーレット・カーディナル・ルビィ・ガーネット・ヴァーミリオン 計六名
クラン【ルーチェ&オンブラ】
【フィオレ・ファミリア】
フィオレ・ステラ・ネーヴェ・カルロス・オクト・ユノ 計六名
【闇夜之翼】
セシリア=ランバート・シモン・ロゴス・マクスウェル・ミラージュ・メフィスト 計六名
セス=ツジ
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彼等が集結したのは、【暗黒の使徒】のPK行為を危険視しているからである。このまま事態を放置すれば、ライトユーザーが離れる可能性は否めない。そうなると、ゲームそのものの存続に重大な影響を及ぼす危険性があるのだ。
普段は好敵手となる間柄ではあるが、ゲームそのものに多大な影響を及ぼす危険に対しては一致団結する。カイセンイクラドンが思い描いた、トップランカーによる自浄作用の為の連合……それが、今実現していた。
さて、ここで一人の男がある人物に歩み寄る。
「おや? セスも来たのか」
「うっ……あ、あぁ……」
喫茶店[Camulodunum]のマスターである、セス=ツジ。彼は【ルーチェ&オンブラ】の面々と共に居た。
それに気付いたユージンとケリィが、彼に歩み寄って朗らかに声を掛けたのだが……セス自身は、見付かっちまったといった表情を浮かべて視線を逸らしていた。何か、やましい事でもあるのだろうか?
「実は、その……フィオレさんやセシリアさんに、力を貸して欲しいと頼まれたんだが……」
「成程、そうでしたか……で、他には何も?」
ケリィさんの笑顔に込められた、謎の圧力。それを察したセスは、更に気まずそうに言葉を続けた。
「……クランに参加しないかと、声を掛けて貰っていて……いや、返事は保留にして貰っているんだ。勿論ちゃんと許可を得ないといけないって事は、理解しているから……」
「連絡しましょうか、双子ちゃんに」
「待って!? 待って下さいお願いします、可能な限り何でもしますから!?」
セスはやはり、ケリィには滅法弱いらしい。頭が上がらない相手なのだろうが、セスの必死具合は周囲の注目を集めるには十分過ぎる。
「ん? 今、何でもするって……」
そんな迂闊な一言を拾い上げるのは、やはりと言うか当然と言うか……中々にイイ笑顔で、ユージンがセスに声を掛けた。
「可能な限りだ、可能な限り!! 公序良俗に反する事はしないし、出来ない事はしない!!」
「予防線を張りやがって、ヘタレめ」
「誰がヘタレだ、この暴君……!!」
……
しばらくして、各ギルドのマスター達が集まっていく。いよいよ今回のPK対策に向けて、本格的な会議が始まるらしい。
「そろそろ本題に入りたいと思うが、良いだろうか?」
今回の代表になったのか、カイセンイクラドンがプレイヤー達にそう呼び掛ける。異を唱える者など一人もおらず、誰もが真剣な様子で集まっていく。
全員が集まった所で、今回の話し合いに至った経緯についての説明が始まる。
決闘専門……だったPKギルド【暗黒の使徒】が、第五回イベントのシステムを利用してPK行為を開始している事。
彼等は三人一組でマッチングシステムを使用し、二人組……というより、カップルを狙って三百階層近辺を周回している事。
現在の【暗黒の使徒】はかつての規模では無く、所属しているプレイヤーは二十七人である事。
そして彼等は重犯罪者となっており、戦闘不能にする事でスキルオーブや装備を全部失う事。
最後にビスマルク・モーリ・ナインは、既にハヤテとナタクが倒した事。そしてタイチとエルリアが、ネイハム・オシリス・ハーシスを討伐済みである事。
「現時点で判明している情報は、こんな所か」
「あ、ビスマルク達は時間差でマッチングシステムを使っていました。最初は主力がマッチングして、恐らくその一分か二分後に残る二人がマッチングシステムを起動……そうする事で、相手の動揺を誘うって感じの手法だと思います」
「悪質な……貴重な情報に感謝するよ、ナタク君」
「本当に無事で何より……それに加えて、連中のナンバー2を倒せたのは大きいわね」
「タイチとエルも、良くやってくれた。二組は無力化されたのは、確実とみて良いだろうな」
「三人一組で九組……じゃあ、残りは七組だな!!」
「我々は精鋭メンバーで二人一組を組み、彼等とマッチングするべく周回するのが良いだろうな」
「残り七組なら、明日一日で全滅させられるかもしれないわ」
やってやるぞ、という意気を見せるトッププレイヤー達。しかしその中で一人、難しい顔をしている男が声を上げた。
「フッ……安心するのは、早計では無いかな……垣間見えたのは深淵の入口に過ぎず、地獄の住人は愛を知らぬ獣達のみならず……」
難しいのは顔だけでは無く、言い回しもだった。
「……? え、えーと……どういう意味だ?」
アーサーが戸惑い気味に問い掛ければ、シモンは「フッ」とまた含み笑いを零した。
「流石の【閃光】も、闇深き世界を照らすには未だ至らぬか……」
そんなシモンの発言に、アーサーの表情がムッとする。何言ってんだコイツ? という感想と同時に、自分を貶す様なニュアンスを感じさせる言葉だったのだ。それを考えれば、無理もないだろう。
しかし、そんなシモンを見逃すセシリアではない。
「シモンさん、お口チャックです!」
「御意」
「貴方にその気が無くても、捉え様によっては無礼な言葉になります。常々気を付けて下さい」
私、おこですよ? みたいな顔でシモンに言い聞かせたセシリアは、アーサーに向けてしっかりと頭を下げた。
「うちのシモンが、大変失礼致しましたアーサー様……彼も一応、悪気だけは無いんです」
「……お、おう」
「ちなみに今の発言を意訳させて頂きますと『【森羅万象】を代表するエースであるアーサー様は正道を歩む方ですから、卑劣なPKerの考えの全てを看破するのは難しいのかもしれませんね』という意味ですよね?」
セシリアちゃん、精一杯にして完璧なフォロー。そしてシモンはそれに一切の含みも無く、大仰に頷いて手を広げた。
「流石は我等が【断罪の聖女】!! 我が思考を完璧に……」
「お口、チャック」
「はい」
「解りずれぇよ……ッ!?」
もう、この空気は何なのかなぁ。
するとそんな空気の中にあって、真剣な表情でシモンの言葉の真意を考えていた少年が居た。
「……シモン殿、愛を知らぬ獣というのは【暗黒の使徒】の者達……そして、貴殿は相手がそれだけではないと考えているでゴザルか?」
忍ぶ者と書いて、忍者と読む。どっちかというと影とか闇に寄っている存在であるからか、ジンはシモンの言いたい事について薄々勘付いているらしい。
ちなみに言うまでもないが、このAWOを代表する忍者は忍んだり忍ばなかったりする。余程の事が無い限り、忍なれども忍ばないを地で行く忍者である。
「……」
お口チャックは、どうしましょう? みたいな顔でセシリアに視線を向けるシモン。忠実じゃん、お前。
そんなシモンの様子に、セシリアは「仕方ありませんね」と微妙そうな表情をして頷いてみせた。
「左様、貴殿の言う通り……我が危惧するのは、闇は貴殿等が思っているよりも深い……という事。流石は【九尾の……」
「つまり他のPKerが【暗黒の使徒】に便乗して、三人一組PKを目論む可能性が高い……と」
最後まで言わせねぇよ? とばかりに、ジンはシモンの発言をぶった切った。いや、そのノリ結構ダメージでかいから……。
しかし、その発言の内容は看過できるものではなかった。その言葉の内容に戦慄を覚える者も居れば、どういう意味だろう? と意味が解らないで不思議そうにしている者も居る。
そこで、クリムゾンが信じたくない……と言わんばかりの表情で、要点を纏めようと口を開いた。
「ジン君、シモン君。君達の考えは、こういう事で良いかな? 【暗黒の使徒】は他のPKer達を最初から巻き込むつもりで、今回の行動を起こしたと」
「然り」
「拙者も、同感でゴザル」
シモンとジンの即答に、その場に集ったプレイヤー達は想定以上の事態になるのでは? と危機感を覚えた。
「……本当に、そんな事が起きるものかね?」
そんな疑問を口にしたのは、タイチだった。その言葉には、”信じ難い”というよりは”信じたくない”……というニュアンスが込められていた。そんなタイチの言葉に応えたのは、アークだった。
「いや、頭から否定するのは危険かもしれん。年明けの一件で、【暗黒の使徒】は一対十で惨敗を喫している。あの状態で、自分達だけでトップランカーを相手取れると自惚れるだろうか?」
十人で敵わなかった相手に対して、三対二でPKを仕掛ける。それで自分達の目的を達成できると、【暗黒の使徒】は本気で思っているか? そう言われてしまえば、それは幾らなんでも有り得ないと考えさせられてしまう。
「自分達の手で、俺達を倒す事が目的じゃないという事か……?」
「もしくは他のPKerも巻き込む事で、こちらを消耗させるという算段かもしれないですね」
「他のPKerも相手にするってなると、どんだけ時間が掛かるんだ……?」
「【暗黒】以外のPKギルドって、どれくらいあったっけ?」
「ってか、真っ先に思い付くのって……」
途端にざわめき出すプレイヤー達……そして一人のプレイヤーが口にした言葉で、誰もがあるギルドの存在を思い浮かべた。
PKギルド【漆黒の旅団】……従来の【暗黒の使徒】とは違う、武闘派PK集団。彼等がもしこのマッチングPKに加担したら……と考えると、厳しい戦いになるに違いない。
そんな中、一人の少女がその可能性を否定した。
「あー、【漆黒の旅団】は心配要らないと思いますよ?」
「……コヨミちゃん?」
声を上げたのは、コヨミだった。彼女は【漆黒の旅団】と奇妙な縁で結ばれており、ジン達と同じくらい彼等の事を知っている。
「あの人達、『三対二でのPKはダサい』とか、そういう考えをする人達ですよ? むしろ、逆の立ち位置を好む感じですし」
第四回イベントで彼等と対峙した面々は、コヨミの考えに同意を示す様に頷く。
「確かにな。むしろ【暗黒】や、便乗するPKerを標的にする可能性もある」
「ふむ、確かにコヨミさんやアークの言う通りだな。うーむ……連絡手段が無いから、確証は得られないが……」
カイセンイクラドンが眉間に皺を寄せてそう言うと、ジンが挙手した。あるのだ、連絡手段が。
「拙者とヒイロは、グレイヴ殿とはフレンド登録しているでゴザルよ? PKする時は事前に連絡するとの事で」
「俺も同様の理由で、フレンド登録しているよ」
「……何なの、あのPKer」
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その頃、南側の[試練の塔]……一組の男女が、床に倒れ伏す三人のプレイヤーを見下ろしていた。
「はぁ~……下らない真似してくれんなよ、全く。えーと、確かギルド【キリングドール】だっけか? こいつら」
「えぇ、プレイヤー八人の小さなPKギルドだったはず。【暗黒の使徒】のマッチングPKに便乗する輩が出て来ると思っていたけど、案の定だったわね」
全くダメージを負わずに、平然と立って会話に興じる二人。そんな二人に向けて、地面に転がる三人の内の一人が声を荒げる。
「クソッ……お前等だってPKerの癖に、何故……ッ!!」
ギルド【キリングドール】のギルドマスターである【マックイーン】……そんな彼の恨みがましい言葉を耳にして、「フン」と鼻を鳴らすのはやはりグレイヴだった。
「テメェ等ゴミクズと一緒にすんな、クソが」
「品性の欠片も無いPKに乗っかる程、私達は恥知らずでは無いの……ご愁傷様」
グレイヴに同行していたエリザも、【キリングドール】の三人を蔑んでいた。彼女もグレイヴ同様、今回のPKには批判的立場であるらしい。
そうしている内に蘇生猶予時間が切れ、マックイーン達が強制ログアウトさせられる。その場にドロップするアイテムを見て、グレイヴが舌打ちをした。
「要らねえモンだが、このままポイ捨ても宜しくねェな」
「御頭、適当な商人プレイヤーに売り払うのはどうかしら? 運が良ければ、落とし主の手に戻るかもしれないわ」
「ゴミクズの手にか?」
「いいえ? そのゴミクズに襲われた、被害者の手に」
「ハッ、お優しいこって……」
そんな事を言いつつ、グレイヴはドロップ品を回収していく。そんなグレイヴに続いて、エリザもドロップ品を回収しつつ……目を細めて、グレイヴに視線を向けた。
――優しいのは貴方の方でしょう、御頭。
そんな中、グレイヴが唐突にシステム・ウィンドウを開いた。
「あら、どうかしたの?」
「メッセだよ、メッセ。忍者からな」
忍者……と言われて、エリザもすぐに送り主がジンだと察した。そして、このタイミングにメッセージを送って来た理由もだ。
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フレンドの皆様へ
注意喚起の為に、このメッセージを送信させて頂きます。
現在【暗黒の使徒】による、[試練の塔]のマッチングシステムを利用したPKが発生しています。
今後、PKer三人組によるマッチングPKが多発すると予想しております。
一人または二人でのマッチングは、PKerと遭遇する危険性があります。
その為フレンドの皆様には、可能であれば三人パーティ以上でのマッチングをお勧めします。
ギルド【七色の橋】ジン
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「注意喚起……ね。協力要請にしか見えねぇんだがな」
「忍者君は立場も知名度もある、正統派プレイヤーだもの。私達(PKer)に表立って『協力して貰いたい』なんて言えるはずも無いでしょう」
「フン、解って言ってんだよ」
「でしょうね……フフッ、それでどうする? 御頭」
流し目を向けられて、グレイヴは口元を歪めた。
「こっちはもう手ェ付けてんだ、言われなくても殺るに決まってんだろ」
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同じ頃、始まりの町[バース]にある、一軒の宿の一室。そこに、七人の人物が集まっていた。
「という情報が、私のフレンドから送られて来た。そんな訳で、マッチングPKを避ける様に活動……と言いたい所だけれど、今回は積極的に関わっていくのも良いかと思っている」
銀髪の少年はそう言って、目の前に立つ六人に視線を巡らせる。
「PKer三人を相手に、我々がどれくらい立ち回る事が出来るか? MOB相手で満足する君達じゃないだろうし、ここらでPvPも体験しておくのも良いかと思うが……どうだい?」
少年がそう言うと、真っ先に反応を見せたのは金髪の男だった。
「良いッスねぇ!! 大義もあって、腕試しにもなる!! ヒーローらしい活動ですし、俺は賛成ッスよ!!」
年の頃は、二十代の中頃くらい。炎の柄が描かれた白いライダースーツが印象的な、活発そうな青年だ。
そんな男の発言に、白いコートの青年が微妙そうな顔をする。どうやら彼は、金髪青年の事が苦手らしい。
「君らしい考えだ、ヴェッセル。でもチームメンバーの意向も、ちゃんと聞いておくように」
「了解ッス、社長!!」
社長と呼ばれた少年……プロゲーマー事務所【フロントライン】代表取締役社長・シキは、次いで一人の女性に視線を向けた。
「レア、君はどう思う」
「ワタシ、バトルする、賛成。鍛える、した、キャラクター……試す、したい」
たどたどしい日本語で返答したのは、ミントグリーンの長髪とサファイアブルーの瞳を持つ外国人の女性だった。見た目は二十代前後の女性で、腰の後ろに二振りのナイフを装備している。防具もレザージャケットにショートパンツと、活動的な装いだ。
二人の返答に一つ頷いて、シキは残る四人に視線を巡らせ……口元を緩める。
「マスト、明日の夕方までにPKギルドの情報収集を」
「はい、社長」
「テイルズ、リリカ、ヴェッセル、レア。他メンバーの意思確認を、明日の午前中には終える様に」
「ウッス!!」
「オッケーで~す!!」
「了解したッス!!」
「イェッサー!!」
「クーラは参加メンバーが決まり次第、二人組の組み合わせの案を作成し報告を」
「かしこまりました」
「それと、今回は実戦だ。腕を磨く為に課金は禁止としていたが、ポケットマネーに限り許可する。上限は各自が判断する様に」
『はい!!』
これまで目立たない様に立ち回って来たプロゲーマー達も、その実力を発揮すべく動き出す。その行動がどんな結果を生むのかは、まだ誰も知る由もない。
多くの勢力と思惑が混ざり合う、トッププレイヤー組とPK組が衝突する時は着々と近付いていた。
次回投稿予定日:2024/10/30(本編)
やっぱ作者、グレイヴ好きですわ……←




