19-03 バレンタインデーを迎えました・その3
【作者より、過糖警報の発令をお知らせします】
仁達が[初音女子大学付属中等部]へ向けて移動している、その頃。姫乃達は放課後を待ち侘びながら、真面目に授業を受けていた。その中で教師が話しているのは、来年度に入ってからの事……高等部に進学する際の、コース選択についてであった。
――進路……仁君やお兄ちゃんは、どこの大学に進学するんでしょうか。
姫乃はふと、そんな事を考える。
彼女達が通う[初音女子大学付属]は、エスカレーター式の中高大一貫校だ。中途編入も可能ではあるが、大半の生徒が中等部からとなる。高等部は中等部の隣、大学は駅の反対側にキャンパスが建てられている。
そして高等部からはコースが分かれており、普通科・商業科・工学科が選択できるようになっているのだ。
そして英雄の場合は大学卒業後、ファースト・インテリジェンスに入社して恋と共に歩むという明確な目標を定めている。その為に日々努力し、二学期の期末試験では優秀な成績を収めていた。
そんな彼に合う大学となると、同じ初音系列の大学である[初音大学]が適した進路になるのではないか。
しかし仁は、事故によって選手生命を絶たれている。今もそれに代わる目標が見付からないと、本心を吐露していたのは姫乃の記憶にも新しい。
仁はクリスマスの後、アナスタシアこと詩香から選手を育てる道を示されている。仁も真剣に考えると答えているが、それ以降はその話題に触れていない。
姫乃はその理由を、薄っすらと察している……仁はあくまで、自分自身が走りたいのだろうと。彼の走る事に対する拘りや、情熱。誰よりも彼の側に居る姫乃は、それを感じ取っているのだ。
しかし、障害が残る右足がそれを許さない。その歯痒さはきっと、仁にしか解らないものだろう。
だからこそ、姫乃は考える。仁の為に、自分に何が出来るのか。それは、どんな些細な事でも良い……仁の心の支えとなり、彼が新たな目標を見付け出し再び走り出す為の手助けをする。
差し当たっては、今日のバレンタイン……そして来週に控えた仁の誕生日で、彼を喜ばせる所からだ。そう考えて、姫乃は頑張るぞと気合いを入れた。
……
そうして放課後を迎えると、姫乃は千夜・優と共に教室を出る。恋と愛のクラスはまだHRの様なので、三人は教室の前で二人を待つ。
「音也はもうそろそろ、電車を降りるみたいだね」
「そっか。拓真さんと隼さんは、もう駅前で時間を潰しているんだって。仁さんと英雄さんは……」
「さっき、隼さん達と合流したって連絡があったよ」
隼と拓真は受験前なので、授業時間が短縮されている。その為、いち早く到着してカフェで勉強をしながら時間を潰していたのだ。
仁と英雄は他の三人よりも、学校が近いので移動時間が短い。そして音也は、まだ通常授業だ。その為学校を出た時間は仁達と似たり寄ったりだが、移動時間が二人よりも掛かるのだった。
そこで恋と愛のクラスのHRが終わり、生徒達が教室から出て来る。姫乃達の姿を見て、簡単な挨拶をする生徒達も少なくない。そして、恋と愛が荷物を持って姿を見せた。
「そちらはもう、終わっていたのね。お待たせ」
「大丈夫、そんなに待たなかったよ」
「それなら良かった! じゃあ、校門に行こうか」
周囲の生徒から【女神部】などという通称を付けられている、姫乃達五人。彼女達が連れ立って校門まで向かう先に、二人の男子高校生が待っているというのは学内でも有名な話だ。
今日はそれだけに留まらないのだが、その事を知る生徒は五人以外には居なかった。
上履きから靴に履き替えて、校舎から出れば校門が見える。そこで、五人の少年が仲良さげに談笑している姿があった。
下校する生徒達は、そんな少年達を見てざわめいている。
「あれ……? いつもは超絶イケメンな人と、杖突いたイケメンだけだよね? 他の人達は、一体……?」
「あのヤンチャそうな人、中学生かな……結構、タイプかも……」
「髪の長い子って、あれ女の子……? いや、でもどう見ても制服は男子用……まさか、男の娘……?」
「私は穏やかそうな、あの男子が気になる……見た目は同年代なんだけど、ちょっと雰囲気大人っぽくない?」
「いやいや……いつもの二人って、初音さんと星波さんの彼氏だよね? って事は、他の三人は……」
「あっ、初音さん達が……」
そんな生徒達の会話は、五人の少女が校門に向けて歩き始めた事で一斉に収まった。女子生徒達の注目を集めながら、姫乃達は普段通りに歩いていく。
校門を出た姫乃達は、真っ直ぐに仁達の元へ向かう。
「お疲れ様です、仁くん♪」
「ありがとう、姫もお疲れ様」
満面の笑みで挨拶をする姫乃に、仁も彼女だけに向ける愛しさを込めた笑顔で返す。ただ向かい合って挨拶を交わしているだけなのに、場の空気中に漂う糖度が増していた。無論、雰囲気的な意味合いで。
「英雄さん、お待たせしました」
「うん、お帰り恋。時間的には待ってはいないけど、心情的には待っていたかな?」
この場で待っていた時間は十分に満たないが、早く恋に会いたかったと言わんばかりの英雄。恋は珍しいと思ったが、その両手に持っている紙袋を見て理由を察した。
「ふふ、今日は隼君達も居るから不思議な感じだね?」
「四月からは、それが日常になるッスよ」
普段は仁と英雄のみだが、今日は他の三人も一緒のお迎えだ。それが新鮮だと言う愛に対し、隼はそれが日常になるのだと断言していた。高校受験に対し、相当な自信がある様だ。
「勿論僕も、そのつもりだね。そう考えると、今日は春からの予行練習かな?」
「ふふっ、そうですね。拓真さんに毎日会える様になるのは、嬉しいです♪」
冗談めかした拓真の発言に、優は真正面から答える。そんな優の笑顔に拓真は少し頬が赤らむのだが、彼女も彼女で本気で楽しみにしていた。それだけ、拓真の事を想っているのだ。
「ハァ、僕はもう一年先だね。それにその時は、[中等部]じゃなくて[高等部]の方になるのか」
「だいじょぶだいじょぶ! その分私らは、隣の家で気軽に会えるからね」
音也は自分だけ、まだ一年先になる事に疎外感を感じてしまう。しかし千夜は、あまりその事については気にしていないらしい。
数満も遠方の為この場には参加出来ないが、そもそも彼は迎えに来る特定の相手が居る訳では無いので別枠だ。
校門の前でそんな糖度マシマシなやり取りをしていれば、当然の如く目立つ。しかし仁達は特別な日という事もあり、周囲の視線は気にならないらしい。
そこで、見覚えのある……見覚えのあり過ぎる車が走って来た。その車は仁達の居る歩道のすぐ近く、路肩の一時駐車スペースに停まる。そこから出て来たのは、よく見知った人物だ。
「鳴子さん?」
「皆様、本日もお疲れ様です。丁度良いタイミングでしたね」
今の時間はファースト・インテリジェンスに勤務しているはずの鳴子が、姿を見せたのである。ちなみに仕事を切り上げて来たのではなく、提携会社を訪問した帰り道であった。
「それじゃあ、お待ちかね! かな?」
鳴子も来た事だし、タイミングとしては今がベスト。そう考えて、千夜が手荷物を漁り始める。そんな千夜に倣う様に、他の面々も自分の手荷物から目当ての物を取り出した。
「本命はそれぞれ、家で渡すという事で……仁さん、隼さん、拓真さん、音也さん。どうぞ、受け取って下さい」
「私からも、どうぞ! お兄ちゃんに外で渡すのって、なんだか変な感じですね?」
「ふふっ、家族だとそうなりますね。こちらは私からになります」
「それで、これが私からです!」
「一気に五個もチョコ増えるけど、受け取って下さいな~!」
「多分、上手に出来たと思います♪」
女性陣から手渡されるチョコを受け取った仁達は、それならばと自分達の持つ紙袋に忍ばせておいたモノを取り出す。
「それじゃあ、俺達からもこれを」
それは五人で相談して選んだ、彼女達に贈る花束だ。鳴子の分も、恋に預けるつもりだったので英雄が持っていた。
「コレ、おとやんの発案なんスよ~!」
「あはは……海外だと、男性から女性に贈るのがポピュラーらしいから」
「日頃の感謝を込めて、ですね」
「それぞれ一本ずつ、選んだ花を集めて花束にしたんだ」
姫乃には仁から、恋と鳴子には英雄から。そして隼から愛へ、音也から千夜へ、拓真から優へ花束が渡される。六人はその花束を受け取ると、嬉しそうに微笑んでいた。
その様子を見ていた、[初音女子大学付属中等部]の生徒達は思った。
――なんて羨ましい……あんな彼氏が居たらなぁ……!!
チョコレートと花束を贈り合った後は、それぞれ分かれての行動になる。仁・姫乃・英雄・恋はいつも通り、徒歩で星波家へ。隼は愛の、拓真は優の家へと電車に乗って送っていく。二人もそこで、チョコを受け取るそうだ。家が隣同士の千夜と音也も、普通に電車で帰宅である。
そして鳴子はまだ仕事中なので、簡単な挨拶を済ませて車で移動を再開した。ちなみに恋人である真守は、大学の講義が終わったら鳴子を迎えに行く予定らしい。
************************************************************
愛を家まで送り届けた隼は、そのまま巡音家に上がる事になった。ちなみにデートの帰りに愛を家まで送る事は多いが、家に上がるのは初めてだ。歴史ある和風建築の家は、どこか【七色の橋】のギルドホームを思い出させる。
そして居間へと通された隼の前には、ニコニコと笑顔を浮かべる愛の母・友子の姿があった。
「よく来てくれたわね、隼君。こうしてゆっくりお話するのは、温泉旅行以来かしら?」
「はい、ご無沙汰していました」
普段の口調ではなく、しっかりとした敬語で挨拶をする隼。そんな彼に、友子は笑みを深める。
「本当は部屋で愛と二人きりが良いでしょうけど、ごめんなさいね?」
交際は認めるものの、不順異性交遊は許容しない。そんな意図を込めた言葉に、隼は苦笑して頷く。
「中学生の親御さんがそう考えるのは、当然の事です。自分もそれは解っていますよ」
「ふふ、隼君はもうすぐ高校生になるのね。受験はもうすぐだったかしら?」
「はい、来週……二十一日が入試の日ですね」
隼がそう答えると、それに対する反応は友子以外からやって来た。
「それじゃあ、仁さんの誕生日が入試の日なんだ」
それは部屋で制服から部屋着に着替えた、愛だった。居間に来る前に台所に寄ったらしく、その手には隼の為に用意したチョコレートと三人分のお茶を持っている。
「そうそう。合格発表は、三月一日だよ」
「九日も待つんだね、緊張しない?」
そう言いながら、愛は隼の横に腰を下ろして正座する。正座なのは、日頃からの慣れだろう。
「あんまり無いかな、入試トップ目指すつもりでいるし」
「あはは、流石」
自然体で会話する二人に、友子はフッと柔らかく微笑む。そうして、彼女は立ち上がった。
「愛も来た事だし、私はそっちに居ましょうか。お茶は貰っておくけどね」
友子は隼に釘を刺すだけでなく、愛が来るまでの話し相手を務めるつもりだったらしい。愛がお茶を二つ置いた所で、まだ一つ残っているお盆に手を伸ばした。
「流石に初めてのバレンタインを邪魔する程、野暮じゃないわ」
そう言い残すと、友子は別室へと移動していく。そんな友子に、愛は声をかけた。
「お母さんの分のチョコも、冷蔵庫にあるの。良かったら食べてね」
「あらそうなの? それなら、ありがたく食べさせて貰うわね。それじゃあ、ごゆっくり~」
友子が去っていって、愛は隼に向き直るとはにかんで笑う。
「それじゃあ、隼君。私からのチョコ、受け取って下さい」
「ありがとう、愛。開けても良いッスか?」
「うん、勿論」
隼が丁寧に包みを剥がし、箱を開けるとそこには様々な形の一口サイズのチョコレートがあった。どれも丁寧に作られていて、愛が心を込めて作ったのだろうと隼は感じ笑みを浮かべる。
「めっちゃ美味しそうッスね。それじゃあ……」
隼がチョコレートを味わおうと、添えられていたピックに手を伸ばすが……その前に、愛がピックを取った。
「愛?」
「食べ方も、プレゼントの一環……って、事で……」
そう言って愛はピックでチョコを一つ刺すと、それを隼の口元に差し出した。
「はい、あ~ん……」
「そう……来たか……」
一瞬怯んだ隼ではあるが、すぐに覚悟を決めて愛の差し出したチョコレートに近付く。
「せ、折角だから、ありがたく……」
「う、うん……はい、あ~ん」
「あーん……ん、美味い!!」
緊張気味の顔は、すぐに驚きと喜びがない交ぜになった様な表情へ。そんな隼の反応を見て、愛は嬉しそうに次のチョコを食べさせる準備に移った。
************************************************************
隼が愛に手ずからチョコを食べさせて貰っている、その頃。拓真は優と共に、新田家に到着していた。
「拓真さん、どうぞ上がって下さい」
玄関の扉を開けた優がそう言うが、拓真は踏み込むのを躊躇する。上がりたくない訳では無いし、一度遊びに来て上がった事もある。だがその時と今で、決定的に違う点があった。
「うーん、それは控えておくよ……ほら、修さんはまだ、お仕事でいらっしゃらないんでしょ?」
そう、以前遊びに来たのは優の父・修が休みで家に居る時だった。その時は事前に話をして、許可を得ていたから堂々と家に上がれたのだ。しかし、今日は違う。修は仕事でまだ帰宅していないし、事前の許可も取っていないのだ。
「……考え過ぎじゃないでしょうか?」
「そう思うかもしれないけど、さ……ほら、まだ審査中って言われているし。自分が不在の時に、娘の恋人が家に上がるのは良い気持ちはしないと思う」
拓真はいつも、真正面から修と向き合っている。彼に認めて貰える様にと、日々努力しているのだ。そして拓真は自分の利益や不利益ではなく、修の心情を慮ってそう言っていた。
――真面目で、優しい。お父さんの事も、ちゃんと考えてくれている……そういう所が、やっぱり大好きだな。
優も決して、父親を蔑ろにしたい訳では無い。だからこそ、修の事も気に掛ける拓真への愛情を更に深めていく。
が、それはそれとして。
「それじゃあ、せめて玄関には入っていて下さい。外は寒いですし、入試前に風邪をひいたら大変ですから」
拓真が自分と修を大切にするのならば、自分だって拓真が大切だ。それならば、修も許してくれるだろうという確信がある。
「……ん、解ったよ」
優の想いが伝わったからか、拓真も難色を示す事無く首を縦に振る。優に迎え入れられて、拓真は玄関に入った。
「それじゃあ、少し待っていて下さい。すぐに持って来ますね」
優は靴を脱ぐと、拓真から手渡された花束を大事そうに抱えてリビングの方へと向かう。その際に優のスカートの裾が翻り、玄関と廊下の段差も手伝って危うく下着が見えそうになった。拓真は煩悩を跳ね除けて、咄嗟に顔を背けてみせた。紳士とはかく在るべきを実践する少年である。
――下着は見なかったけど、太腿は見てしまった……修さん、ごめんなさい……。
罪悪感に駆られ、心の中で修に謝罪する拓真。だが彼は年始に優の水着姿をバッチリ見ているので、太腿も散々目の当たりにしているはずである。シチュエーションが違うので、効果が別なのだろうか。
拓真がそうして自己嫌悪に陥っていると、すぐに優がリビングから姿を見せる。その手には、可愛らしくラッピングされたハート型のチョコレートがあった。
「そ、それじゃあ……拓真さん。渡す前に、一つ良いでしょうか」
「う、うん。何かな?」
どことなく緊張した様子の優に、拓真も何故か緊張感を覚えてしまう。別れるとかそういうのではないのは、拓真用のチョコレートを見れば解る。仁達に渡した物とは、形もラッピングも気合いの入れ方が違うからだ。
であれば、何だろうか? 拓真にそれは解らないが、優が何か勇気を振り絞っているのは伝わった。だから拓真は緊張も懊悩も抑え込んで、優に微笑みかけた。
その笑顔を見た優は一瞬ハッとした表情になり、そして深呼吸を始める。やはり何かをしようとして、優も緊張していたのだろう。
「では……これを受け取って下さい……その、えっと……たっくん?」
その瞬間、拓真に電撃走る。
************************************************************
拓真が精神的感電状態に陥ったその頃、音也と千夜は自宅に到着。他の二組と違い、二人はこの年に一度のイベントを共に過ごしてきた間柄だ。その為、甘酸っぺぇあれやこれがあるでもなく。
「じゃあ着替えたら、古我家にお邪魔するね!」
「うん、待ってるね!」
音也と千夜はそれぞれ、自分の自宅へと帰宅。バレンタインデーは古我家、ホワイトデーは伴田家で過ごすのが二人のスタイルだ。
「ただいまー。あれ、父さんの靴がある……」
「お帰り、音也。千夜ちゃんは?」
笑顔で音也を出迎える母・好美に、音也は「着替えたらすぐ来るって」と答えて洗面所へ向かう。
「お父さんも午後は出先だったみたいで、直帰出来たのよ~」
ほんわかした母親のそんな言葉に、音也も事情を察した。父・大二は恐らく、母の為に直帰できるスケジュールを組んだのだろうと。恐らくは、来月……ホワイトデーも、同じ事をしそうだ。
そんな事を考えつつ、手洗いうがいを済ませた音也は自室へ。普段着に着替えてリビングに向かえば、そこには待ち構えていた大二の姿があった。
「お帰り、音也! 今年は何個チョコを貰ったんだ?」
「学校で、九個……それに仲間の皆から五個だけど……」
「十四個か! くぅ~っ、モテモテだな音也!」
ちなみに学校で貰ったチョコは、去年よりも二個多い。父もそれを知っているので、ご機嫌なのだろう。だが、音也は別に個数には拘ってはいなかった。それは一番が千夜から貰う物である事と、そのチョコに込められた意味のせいだ。
――学校で貰ったのは、女子同士で贈り合う友チョコ感覚だよ……。
同性として見られる事は、あまりいい気分ではない。その為、音也は父のテンションにちょっと付いて行けなかった。
そこで、インターホンの呼び鈴が鳴る。このタイミングを考慮すれば、間違いなく千夜だろう。
音也がインターホンのモニターに視線を向ければ、そこに映し出されているのは伴田家の面々。予想通りの流れである。
「今開けまーす」
マイクをオンにしてそう呼び掛けると、音也は早々に玄関へ向かう。
「お待たせ、音也!」
「いらっしゃい、千夜ちゃん。おじさんとおばさんも、どうぞ中へ」
三人を招き入れる音也に対し、笑顔で応えて千夜達は古我家へ入る。そこへ大二と好美もやって来て、家の中の賑やかさが加速する。
「おや、大二君。今日は早かったんだね」
「一年に一度の、大切な日だからね!」
「あらあら。愛されてるわねぇ、好美さん」
「雅子さんだって、愛されてるじゃない~」
ワイワイしながら、リビングに向かう親達。その様子を見ながら、千夜は靴を脱いで上がったままだ。
「千夜ちゃん?」
「……んふ」
謎の笑い声を漏らして、千夜は音也にスッと近付く。そうして彼女は、驚いて固まっている音也の唇を一瞬で奪った。流石は【七色の橋】の切り込み隊長……いや、関係ないか?
「へへ……親の前では、流石にね? チョコの前に、ちょっと先払いだよん」
「……やられた」
照れ笑いする千夜の顔を見て、音也はそう言って顔を真っ赤にするのだった。
次回投稿予定日:2024/8/20(本編)




