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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十八章 第五回イベントに参加しました

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18-33 結論を出しました

お待たせしました、わからせ回・part1です。

 二月十一日、二十二時四十五分。アナザーワールド・オンラインにはサーバーが七つあり、その内の一つである[ヘイトレッド]サーバー……始まりの町[バース]の小さな屋敷に、七人のプレイヤーが訪れた。


 屋敷の入口に設置された呼び鈴を鳴らすと、二人の女性が屋敷から姿を見せた。その頭上のカラーカーソルを見れば相手はNPCであり、誰かと契約したPACパックだというのは見た目で解る。

「ご足労頂き、感謝申し上げます。【ラピュセル】に所属するアナスタシアのPACパック、リューシャと申します」

「同じくサブリナのPACパック、ヴェロニカと申します。私共二人が、皆様をご案内させて頂きます」

 彼女達の言葉通り、この屋敷はギルド【ラピュセル】のギルドホームである。そして、訪問したプレイヤーの代表は鷹揚に頷いた。

「出迎えに感謝する。では、案内して貰おうか」

 代表者……ギルド【竜の牙(ドラゴン・ファング)】のギルドマスターであるリンドの言葉に、リューシャとヴェロニカは恭しく一礼して「かしこまりました」と応えて屋敷に招き入れた。


 屋敷の中は質素ながらも整然としており、尚且つ落ち着きのある調度品が配置されている。十五人のプレイヤーと六人のPACパックが過ごす分には、十分な屋敷である。

 リンドに同行するのは、サブマスターであるバッハとフレズ。そしてイザベルと交流のある(と彼等は認識している)ソウリュウ。そしてソウリュウと同じく古株の、ファーヴとバーン。

 最後の一人は、ギルドに在籍する十七人の女性メンバーから選出されたプレイヤーだ。これはバッハの発案であり、女性プレイヤーも同席させて予め接点を作っておけば良いと考えたのである。そうすれば【ラピュセル】側も、クラン結成後に何かあれば相談しやすい体制を構築できるはず。

 そこで選ばれたのが、【ヨル】という女性である。彼女は女性メンバーの中で上位の実力者であり、他の女性メンバーの面倒を見る事が多い立場だ。


 そんな七人が案内されたのは、長いテーブルが置かれた部屋だ。ここが【ラピュセル】のギルドホームで最も広い部屋で、長テーブルの左右に椅子が七つ用意されている。そして上座には三つの椅子……そこに、既にアナスタシア・アシュリィ・アリッサの姿があった。

「ご足労頂き感謝します、【竜の牙(ドラゴン・ファング)】の皆さん。どうぞ、そちらの席にお掛け下さい」

 アナスタシアが着席を促したのは、窓際の席だった。リンド達はその言葉に従い、上位者から順に並んで着席する。


「ふむ……不躾は百も承知だが、他のメンバーは同席させないのか?」

 バッハがそう言うと、リンド達も視線をアナスタシア達に向ける。アシュリィとアリッサは、内心で「本当に不躾だな、この男は」という本音を呑み込んだ。浮かべた穏やかな笑みが、若干引き攣りそうになっている。

 そんな二人とは異なり、アナスタシアは表情を変えていなかった。二人が我慢しているのを察したらしく、リンド達に向けて口を開いた。

「今は別室に待機させていますが、後程同席させるつもりです」

 アナスタシアのその言葉に、ソウリュウは朗らかな笑みの裏で内心ほくそ笑んだ。


――計算通りだ……イザベルの事を見捨てるなんて、お前等には出来ないだろう? 俺達の軍門に下る以外に、仲間を守る道は無いんだからなぁ。


 そんなソウリュウの内心を余所に、リンドも自分の計画について頭の中で最終確認をする。

 恐らく【ラピュセル】は、自分達とクランを結成する事を選ぶだろう。昨夜のアシュリィの訪問の様子からして、自分達に一定以上の礼を示していた。それは当然、どちらの勢力に加入するか決めているからだと考えられた。

 だが、リンドは更にその先を考えている。彼にとって最も優先されるのは、【桃園の誓い】のヴィヴィアンに近付く事だ。

 クラン【十人十色ヴェリアスカラー】から、そしてギルド【桃園の誓い】からヴィヴィアンを引き抜くのは難しいだろう。ならば、自分達が近付くしかない。

 この【ラピュセル】を勧誘した以上、彼女達がクランに加入する事自体は歓迎しているはず。ならばやる事は、一つだ。


――我々を選んだ【ラピュセル】に話を通し、【竜の牙(ドラゴン・ファング)】と【ラピュセル】が共に【十人十色ヴェリアスカラー】に加入する……これ以上に理想的な状況は、そうそう無いだろう。


 それが実現するならば、一挙両得どころの話ではない。

 トップクラスの実力を持ち、浄化マップを拠点に持つクランに加わる事。【ラピュセル】という同じLQO移籍組のギルドを、味方に付けられる事。そしてヴィヴィアンに近付き、彼女と親密な関係になれる事。

 これならばAWOの頂点に立ちつつ、夢にまで見る愛しの女性を手に入れる事が出来る。リンドからしてみれば、それは考え得る限り最高の展開である。


 が、そうは問屋が卸すはずも無く。


 ギルドホーム内に、来訪を報せる音が響き渡った。

「【ナタリア】、【ミッシェル】」

「「はい」」

 アシュリィに指示されたのは、アシュリィとアリッサのPACパックだ。ナタリアはアシュリィと、ミッシェルはアリッサと契約している。

 二人のPACパックが玄関へと向かうのを見て、アナスタシアは自分のPACパックであるリューシャに視線を向けた。

「それじゃあリューシャ、申し訳ないけどお願い出来る?」

「承知しました、マスター。少々お待ちを」

 リューシャが退室するのを見送って、アリッサがヴェロニカに視線を向ける。

「ヴェロニカ、もう一仕事お願いしたいんだけど」

「はい、承りました。では、一旦失礼致します」

 具体的な指示をせずとも、困惑する事無く動き出すPACパック達。その様子を見ていたリンドは、【ラピュセル】は予想していた以上のギルドかもしれないと感じていた。

 PACパック達との信頼関係を、余程うまく構築できているのだろう。クランを結成した暁には、その辺りの情報も是非聞きたいところだ。

 そんな事を考えていると、案内を受けた来訪者達が広間に到着した。


――金髪の鎧武者・ヒイロ。

――青髪の巫女令嬢・レン。

――レンの専属メイド・シオン。

――赤髪の銃使い・ハヤテ。

――黒髪の侍少女・アイネ。

――銀髪の姫君・ヒメノ。

――そして、AWO最速の忍者・ジン。


 ギルド【七色の橋】結成当初の七人。それが、【ラピュセル】のギルドホームを訪れたメンバーである。


************************************************************


 ジン達が訪れた事で、いよいよ話し合いが始まる……が、その前に【竜の牙(ドラゴン・ファング)】側から疑問の声が上がった。

「クラン代表者が来ると思ったが、【七色の橋】だけなのか?」

 そう口にしたのはサブマスターであるバッハだ。彼が言いたいのは「クラン【十人十色ヴェリアスカラー】が勧誘したのだから、出席するのは各ギルドのマスターであるべきでは?」という意味合いだ。

 しかしながら、まだジン達が着席もしていない状態で口にする事ではない。アナスタシアは溜息を一つ吐き、【七色の橋】の面々に向き直る。

「それは後程で良いかと。お客様を立たせたままにするのは、私達の本意ではありません。まずは【七色の橋】の皆さん、どうぞお掛けになって下さい」

 アナスタシアの言葉に、バッハはそれもそうかという態度でそれ以上の言及を控えた。しかし自分の疑問はもっともなものだと考えており、悪びれた様子は無い。


 ジン達が着席した直後、広間の扉がノックされる。アシュリィが席を立って扉を開ければ、PACパックのリューシャがワゴンカートを押して入室。【竜の牙(ドラゴン・ファング)】の席から先に、お茶を配っていく。

 余談ではあるが、リューシャは没落した貴族の令嬢が冒険者になったNPCだった。その為か、お茶を配る姿も手慣れている様子だ。


 全員にお茶が配られ、リューシャが退室するのを確認したアナスタシアが、改めて話し始める。

「まずはイベントで多忙を極める中、こうしてお時間を頂いた事に感謝申し上げます。改めまして、私はこの【ラピュセル】のギルドマスターを務めている、アナスタシアと申します」

 続けてアシュリィ、アリッサが自己紹介をすると、アナスタシア達は視線を【竜の牙(ドラゴン・ファング)】へと向けた。

「では、【竜の牙(ドラゴン・ファング)】の皆様から自己紹介をお願いできますか?」

「了解した。ギルド【竜の牙(ドラゴン・ファング)】のギルドマスター、リンドだ。【ラピュセル】もそうだが、【七色の橋】の諸君ともこうして会話を交わすのは初めてだったな。宜しくお願いする」

 リンドの使った”諸君”という言葉は、対等かそれ以下の存在に対する呼称だ。この事から、彼の自尊心の高さが透けて見える。


 そうして【竜の牙(ドラゴン・ファング)】の面々の自己紹介が終わると、次は【七色の橋】の番だ。

「【七色の橋】のギルドマスター、ヒイロです。【ラピュセル】の皆さんに【竜の牙(ドラゴン・ファング)】の皆さん、今夜は宜しくお願いします」

「同じくサブマスターで、ヒイロの妻のレンと申します。こうして皆様とお話をする機会が得られた事、ありがたく思っております」

 リンド達と違い、相手を上に見る事も下に見る事も無い自己紹介だ。社交界で手慣れているレンに、彼女とシオンから指導を受けているヒイロならではだろう。


 さて、ここで今回の席順がいつもとは異なっている。

「【七色の橋】のジンです。宜しくお願いします」

「ヒイロの妹で、ジンの妻のヒメノです。宜しくお願いします」

 普段彼等は、ヒイロ・レン・シオン・ジン・ヒメノ・ハヤテ・アイネの順で並ぶ。しかし今回は、シオンの前にジンとヒメノが座っているのだ。これは今回の件の発端にジンが関与している事、そしてアナスタシア達と縁が深いのがジンとヒメノだからという事情からである。

 ちなみにちょっとした(ヒイロへの)悪戯のつもりで、レンが「妻です」と言ったからだろう。ヒメノも、”ジンの妻”アピールをぶっこんだ。

 その発言故か、シオン・ハヤテ・アイネの自己紹介は当たり障りのないものに落ち着いた。


 自己紹介が済んだ所で、アナスタシアが早速とばかりに本題に入る。

「それでは早速、本日ご足労頂いた理由ですが……我々【ラピュセル】はジンさんを通じて、クラン【十人十色ヴェリアスカラー】より勧誘を受けておりました。そこへ【竜の牙(ドラゴン・ファング)】の皆様からもクラン結成の勧誘を受けた事で、話をする機会が必要となった……ここまでは、宜しいですか?」

 アナスタシアのその問い掛けは、どちらかと言えば【竜の牙(ドラゴン・ファング)】側に対するものだ。現にジン達は、その言葉に対して何の反応も見せなかった。


 そんな【七色の橋】側の反応を見て、リンドはチラリとソウリュウに視線を向ける。ソウリュウは眉間に皴を寄せたが、特に言及はしない様子であった。それも当然の事だろう……公衆の面前で、ああも論破されたのだから。

 その様子を見て、リンドは頷いてみせた。

「その認識で良いだろう。さて、今夜その結論が聞けるとの事だったな」

 自分達が選ばれるという確信があるリンドは、早速結論についての言及を求める。しかし、アナスタシアはすぐに結論を口にするつもりは無かった。

「そうですね。では、アリッサ」

「了解」

 立ち上がったアリッサは、ジン達が入って来た扉とは逆の位置にある扉へと向かう。彼女は二度ノックして、数秒待ってからその扉を開いた。そこには、待機していた【ラピュセル】のメンバー達の姿がある。


 十二人のメンバーが入室し、これでPACパックを除いた【ラピュセル】のメンバー全員が揃った事になる。

 準備が整ったのを確認したアナスタシアは立ち上がり、両ギルドの面々に視線を巡らせて話始める。

「我々が、どちらの勧誘を受けるかですが……話し合った結果、今夜この場で結論を出す事にしました」

 その言葉を聞いた【竜の牙(ドラゴン・ファング)】は、首を傾げる。既に結論を出した後だと思っていたのに、今この場で結論を出すとはどういう意味だろうかと。

 事情を知っている【七色の橋】側は、そうと悟られない様に不思議そうな表情を作る。

 そんな二つのギルドに対し、アナスタシアは何でもない事の様に説明を続ける。

「我々【ラピュセル】は、基本的には上下関係のないギルドです。私達がギルドマスターやサブマスターを務めてはいますが、それは彼女達の上に立つという意味ではありません」

 アシュリィとアリッサも立ち上がると、三人は十二人のメンバーが空けておいた隙間に向かう。

「どちらの勧誘を受けたいか……その結論を、メンバーによる多数決で決めます」


 アナスタシアのその言葉に、フレズが難色を示した。

「そのやり方は少々乱暴ではないか? 選ばれなかった側の意見を、数の暴力で黙殺するという事になると思うのだが」

「多数決で結論を出す事には、我々全員が納得しています。出た結論に対して、意義を唱えるメンバーはうちには居ません」

 フレズの言葉にキッパリと言い切ったのは、アリッサだ。自分達が決めた事に対して、余計な口出しは無用……そう言わんばかりに、冷たい声色で。

「……そうかい」

 アリッサの言わんとするところを、フレズも何となく感じたのだろう。肩を竦め、好きにしろといった態度である。


「では、皆……自分が選ぶ方へ移動しましょう」

 アナスタシアの言葉を受けて、【ラピュセル】のメンバー達がそれぞれに移動する。

「……むぅ」

 そう唸ったのは、リンドだった。【七色の橋】側に立つのは、八人。その内三人は、アナスタシア・アシュリィ・アリッサである。

 対する【竜の牙(ドラゴン・ファング)】側には、七人だ。ちなみにこの七人は、【竜の牙(ドラゴン・ファング)】に「まだ行ける」と思わせる為のメンバー達である。

 この決定に、必ず噛み付く男が居ると彼女達は予想していたのだ。何故ならば……イザベルが、【七色の橋】側に立っているのだから。


「八対七……ですね。それでは、我々は……」

「ちょっと待ってくれ」

 そう言って立ち上がるのは、ソウリュウだ。この場で出された結論に、意義を唱える事の意味を彼は理解していない。

「イザベル……本気なのか?」

 彼は【七色の橋】側に立つ彼女に対して、そう問い掛けた。そんなソウリュウの言葉に、イザベルは気まずそうに視線を逸らす。


――掛かった。


 アナスタシア達も、このまま「はい決定!」で済ませる気など無かった。イザベルを心変わりさせる事が出来れば、【ラピュセル】は【竜の牙(ドラゴン・ファング)】側に付く。そう思わせる為に、わざと僅差にさせたのである。

 そして、真っ先に口を出すのは……間違いなく、ソウリュウだと解っていたのだ。

「……ソウリュウさん、でしたか。この決定に、不満があると?」

 アナスタシアがそう告げるが、ソウリュウは退く気は無いらしい。

「あぁ、そうだ。イザベル、君は本気でそちらを選ぶのか? 俺と君の仲は、その程度のものだったのか?」

 徐々に口調を強め、ソウリュウはイザベルに問い掛け続ける。しかし、そこで事態が動いた。


「……あの、すみません」

 軽く挙手をして、断りの言葉を入れたのは【ラピュセル】のメンバー。それも、【竜の牙(ドラゴン・ファング)】側に立った女性だった。

「……何でしょう、【マルファ】」

「私、そっち側に変更しても良いですか」

 そう言われて、ギョッとしたのは【竜の牙(ドラゴン・ファング)】側である。

「いえ、そっちが増えても決定は変わらないですが……私達が出した結論に、口出しされるのはちょっと……」

 彼女の言葉は、ソウリュウに対して釘を刺す為である。【ラピュセル】のやり方に、口を出すなといった所か。そして決定は変わらないのに移動したいというのは、要するに「こっち側に立つ事が不愉快だ」という意思表示であった。

 多数決の人数を僅差にした理由は、これだ。【竜の牙(ドラゴン・ファング)】にボロを出させて、「お前達に付く価値は無い」と思い知らせる為の布石だった。


 マルファがそう言うと、更に一人の女性が「あの、私も同意見です」と挙手した。そんな二人の真剣な表情を受けて、アシュリィが溜息を吐いた。

「まぁ、良いんじゃないかしら? 一度だけ、意見を変える権利があるって事にしましょ」

「……では【ラピュセル】のメンバーで、アシュリィの提案に異論がある人は挙手を」

 アナスタシアの問い掛けに、挙手をする者は居ない。つまり、これは満場一致という事である。

「では、その様にしましょう」

 頷いたアナスタシアがそう言うと、二人のメンバーが【七色の橋】側に移動していく。これで、十対五だ。


「くっ……良いのか、本当に!? なぁ、イザベル……!!」

 ソウリュウは暗に、「あの写真をバラ撒かれても良いのか?」と言っている。イザベルとて、それを理解していた。しかし彼女は、視線を逸らして俯いたままだ。

 そんなソウリュウにストップを掛けるのは、リンドだった。

「止せ、ソウリュウ……」

「でも、リンドさん!!」

「ソウリュウ、止せと言っているんだ。彼女達の決定に、我々は口を挟むべきではない」

 それはギルドマスターとして、実にもっともな言葉だ。他のギルドの考えに、自分達が口を出す権利など無い……少し考えれば、それくらいは解りそうなものだ。

 ちなみにリンドもこの結果は予想外だったが、それでもまだ終わりでは無いと判断している。


――【ラピュセル】を通じて【十人十色ヴェリアスカラー】に加わる事が出来れば、結果は同じ……その為にも、ここで心証を悪くする訳にはいかん。


 リンドに言われたソウリュウは、不機嫌そうに座り直す。その様子を見て、後ろに立っている【ラピュセル】の面々の視線が冷たいものになっているのだが……彼等は、それに気付けない。

「他に意見を変えたい人は?」

 アリッサがそう言うも、移動するメンバーは皆無。当然【竜の牙(ドラゴン・ファング)】側に立っている五人全員が、「私もそっちに移動したいんですが」という言葉を呑み込んでいるのだが。


「では、これで決まりかしら」

 アリッサの言葉に頷いて、アナスタシアが一歩前に出る。

「そうね……それでは、我々【ラピュセル】はクラン【十人十色ヴェリアスカラー】への加入を選択する事となりました。【竜の牙(ドラゴン・ファング)】の皆様には、このような結果になって申し訳ないのですが……」

 対外的な気遣いの範疇として、アナスタシアが最後に一言付け加える。


 しかし、それに対しバッハが舌打ちをして不満を口にした。

「チッ……全くだ、わざわざ来てやったってのによ」

「バッハ、失礼だぞ」

 すぐさまリンドがバッハを窘めるが、そんな発言が出る時点でアウトだ。しかも、サブマスターという立場の人間がである。

「……ねぇ」

「……うん」

 悪態を付いたバッハに冷たい視線を向けて、二人のメンバーが【七色の橋】側に移動した。既に結論は出ているのだが、それを承知でだ。

「……っ!!」

 彼女達の、自分達に対する心証が悪くなっている。ここは、すぐにでも例の話に移行したい所だ。リンドはそう判断し、挙手する。


「……まだ、何かあるのでしょうか?」

 アナスタシアが、冷たい視線を向ける。ソウリュウの態度や、バッハの発言を考えれば当然だ。

「あぁ、少し話をさせて貰いたい」

「……解りました、どうぞ」

 アナスタシアがそう言うと、リンドは立ち上がって【ラピュセル】の面々に向き直る。

「まずは先のソウリュウとバッハの態度について、ギルドマスターとして大変申し訳なく思っている……この通りだ」

 そう言って、リンドは頭を下げた。その姿に、【竜の牙(ドラゴン・ファング)】側は気まずい雰囲気になってしまう。


――謝罪がそもそも遅いっての!! ここで「頭の位置が高いのでは?」とか言ったら、土下座でもしてくれるのかしら?


 怒りをずっと抑え込んでいたテオドラさん、そんな考えが浮かんで来る。言わないけど。ちなみにテオドラも、立っているのは【七色の橋】側だ。

「それと【七色の橋】……いや、【十人十色ヴェリアスカラー】の諸君に対して話がある」

 さて……ここまで口を挟む事も無く、アナスタシア達の結論が出るのを待っていた【七色の橋】の面々。彼等は既に、リンドが何を考えているのか予想済みである。

「……成程。皆様、如何でしょうか」

 アナスタシアが伺いを立てれば、ヒイロが一度仲間達に視線を向けて頷いてみせた。

「えぇ、【ラピュセル】の方々が宜しいのであれば、構いませんよ」

「解りました、ではどうぞ」

 ここまでは【ラピュセル】のターンで、ここからは【七色の橋】側のターン……そして、最後はイザベルのターンだ。

次回投稿予定日:2024/7/25(本編)


まだだ、まだ終わらんよ!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 深読みですが、リンドたちに窓際(窓側)の席を勧めたアナスタシアさん、 「この人たち、『なぜこちら側なんだ?』って顔したけど、理解してないんでしょうね」って、呆れてたかも…… 【窓側の…
[良い点] いやぁ、頭からして既に終わってない部分を探す方が困難だなぁコイツ等w
[一言] 滑稽というか 不様というか 少し冷静になって考えたら わかると思うのですが…ね
感想一覧
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