18-29 勧誘しました
始まりの町[バース]から北へ向かう道中にある、第五回イベントのステージに向かう事が出来る≪転移門≫。そこで三つの勢力が、注目を集めていた。
その内で最も有名なのは、【七色の橋】のジンとヒメノ。
それに相対するは、新進気鋭のギルド【竜の牙】のソウリュウとその仲間。彼等はジンの発言を受けて、絶句している。
そしてその二つのギルドの間に立つ形となっているのが、【ラピュセル】である。アナスタシアとアリッサはジン達の行動を見守っている。その手元には、システム・ウィンドウが展開されていた。そして、二人を除く他のメンバー達は目を丸くしていた。
そのきっかけは、ジンの予想外の一言だ。
「【ラピュセル】を、クランに勧誘した……? 【十人十色】が……?」
「左様。つまり、貴殿等と同じ立場という形になるでゴザルな」
忌々しいという内心をどうにか押し留め、ジンに問い直すのはソウリュウだ。彼は感情を露にするのを堪えているせいで、能面の様に無表情である。
しかしそれも一瞬で、ソウリュウは困った様な笑みを浮かべて頭を搔いた。
「それは……随分と、不思議な話だな。俺が知る限り、【十人十色】と【ラピュセル】に接点なんて無いはず。多少は交流があったとしても、そこまでだろう? そしてあんた達【七色の橋】は、身内勢だっていうじゃないか」
それは周囲のプレイヤー達に聞こえる様に、ハッキリとした物言いだった。というよりも実際に、第三者の野次馬達に聞かせるつもり満々である。
――こいつらが絡まれているから、助けるつもりで嘘を吐いて割り込んだんだろうが……馬鹿め、自分から尻尾を掴ませるチャンスを提供するとはよ!! 大人を舐めてるんじゃねーぞ、クソガキめ!!
ソウリュウはジンの発言が嘘であると断定し、それを指摘する場面を衆目に晒そうと考えたのだ。それは、ジン達の評判にも影響するだろう。そうする事で、彼等の影響力を削ぐ絶好の機会だと判断したのであった。
「あのファンギルドは置いておくとしても、【七色の橋】と【桃園の誓い】、そして【魔弾の射手】は密接な関係にあった」
ジンのファンギルドである【忍者ふぁんくらぶ】を置いておくと明言したのは、身内勢だという印象をさらに強める為だ。
ちなみにイナズマがジンのイトコの義妹である事は、まだ知られていない。なので、実は【忍者ふぁんくらぶ】にも身内が居るという事は思い至るまい。
「だからこそ行動を共にする所を見たってプレイヤーも居るし、現にクラン結成に至っている……うん、実に自然な流れだと思う。これについては、納得するよ」
そこまでは、穏やかな表情で話していたソウリュウ。しかし彼は視線を鋭くし、ジンに向けて首を横に振った。
「しかしなぁ……【ラピュセル】を何の前触れも無く、クランに誘うっていうのは唐突過ぎる。そこまで懇意の仲でもないギルドを、今夜このタイミングでってのは不自然過ぎだろう? それも、俺達の勧誘に割り込むような形でだ」
ジンからは、何の反論も無い。そう判断したソウリュウは、更に畳みかける。
「何か勘違いしているらしいから言っておくが、俺は別に彼女達を脅したり強要なんかしていないんだぞ? かつてLQOでの旧友と再会して、一緒にクランを結成して共に歩もうって言っているだけだ」
ソウリュウがそう断言するのは、彼自身が細心の注意を払って【ラピュセル】に絡んでいた為である。第三者や運営から見ても、明確な脅しや強要と見做されない様に、クランへの勧誘をしていたのだ。
「それを勘違いで割り入って、邪魔をするのがおたくらのやり方なのか?」
ソウリュウはそう言って、ジンを叱り付ける教師の様な気分でいた。このまま大人として、出しゃばりな小僧を窘めてやると言葉を続けようとして……その前に、ジンが首を横に振った。
「言葉を返すが、勘違いをしているのはそちらでゴザルよ」
全く動じずに、ジンはソウリュウの言葉を一蹴した。しかも、勘違いしているのは自分だとまで言われたのだ。その返答に、ソウリュウは眉を吊り上げる。
しかし彼が何か言葉を発する前に、ジンが口を開いた。
「拙者はアナスタシア殿……そしてここには居ないアシュリィ殿とは、陸上競技を通じて知り合った間柄でゴザル。お二人には高校卒業後の進路相談に乗って貰うなど、実に良くして頂いているでゴザルよ」
ゲームの中では無く、現実の方での接点。ジンはそれを、堂々と口にしてみせた。
「……は?」
そんなジンの言葉を受けてソウリュウの口から、そんな間の抜けた声が漏れて出た。他の【竜の牙】と【ラピュセル】の面々は目を丸くしているし、第三者の野次馬達は驚いて絶句している。
「あ、私もその場に同席していました! アリッサさんはその日はいらっしゃいませんでしたけど、先日お会いした時に一緒に相談に乗ると仰っていましたよ」
ヒメノはジンの発言を補強しつつ、更にアリッサも関係者だと明言。アリッサもここぞとばかりに、その対話に参加する。
「そうそう! 次こそはジンさんッ、次こそは私のバイトが無い時に……ッ!」
「あはは……いつも、お疲れ様でゴザルよ」
バイト戦士ェ……。
「とまぁ、言わば拙者にとっては先輩と言って良い方々でゴザルよ。故に今後も共にゲームを楽しむ一歩として、クランに勧誘したでゴザル」
陸上関連で知り合い、現実でも交流がある仲……そう言われては、ソウリュウの発言は根底から覆る。実際に現実で会って話をした事は無いが、先程の話し方ではそうミスリードされても不思議ではない。
ソウリュウが何も言い返せずにいると、残る四人の【竜の牙】のプレイヤーが声を荒げた。今までソウリュウに任せて静観していたが、劣勢と悟ってこれはまずいと感じたのだろう。
しかし、それが功を奏すかは別の話だ。
「そんな話、今まで全く無かっただろ……!!」
「おい、作り話なんじゃないのか!?」
「そうだ……そうに決まってる……!!」
「俺達を出し抜こうったって、そうはいかねぇぞ……!!」
彼等はどうやら、ソウリュウと違って直情的だったらしい。言い掛かりに等しいそんな発言をするギルドメンバーに、ソウリュウはこれ以上何かを発言させるのはまずいと焦った。
しかしソウリュウの行動より、ジンの反論の方が早かった。
「公になっていないのは、リアルの情報が付いて回るが故。拙者は男子だからそこまで深刻では無いが、彼女達は女性でゴザルからな」
ジンのその発言にヒメノとアナスタシア、アリッサが思わずジト目を向けた。身バレの深刻度合いは、ジンの方が遥かに上である。
事故によって選手生命を絶たれた、元・陸上界期待の星……それがジンである。その事が知られれば騒動に発展しかねない。それを考えれば、ジンの方が深刻なのは間違い無いだろう。
……
これ以上、ジン一人を矢面に立たせる訳にはいかない。アナスタシアはそう考えて、前に歩み出た。
「やむを得ませんね。ジンさんが口にした陸上の件や、進路相談の件は事実です」
アナスタシアがそう言うと、【ラピュセル】や【竜の牙】の面々……そして、事の成り行きを見守っていたプレイヤー達が次の言葉を待つ。当然、気掛かりなのはジンが言ったクラン勧誘についてである。
「そしてクラン【十人十色】に参加しないかという件も、確かに打診を頂いています。それも、事実です」
「……!?」
「この件について連絡を受けたのは私とアシュ、そしてアリッサです。返答がまだなのは、仲間達一人一人の意見を聞いた上で、結論を出す必要があると思うからです」
アナスタシアがそう言うと、アリッサも彼女の言葉に頷いてみせた。それを確認して、アナスタシアは更に言葉を続ける。
「まずは私達三人が話し合って、その後で全員の意見を聞くつもりでした。それまで、この件は伏せようと思っていたのですが……」
そんなアナスタシアの言葉に、第三者達がどよめく。
「な、なん……だと……!?」
「マジかよ……」
「【十人十色】に、第五のギルド参戦か……!?」
「確か【ラピュセル】は十人ちょいだもんな……そう考えると、確かにあり得るのか」
「現実での先輩っていうなら、まぁ不思議じゃないもんなぁ」
そんな言葉が耳に入って、【竜の牙】の下っ端連中が声を荒げる。
「そ、その話を、頭から信じる訳にはいかないな!!」
「お前達が示し合わせて、嘘を吐いているんじゃないのか!?」
「もしもその言葉が嘘だった場合は、どう責任を取ってくれるんだ!?」
「お、おい、よせ!!」
その物言いは流石にまずい。慌ててソウリュウが制止しようとするが、そこで予想外の存在が彼等の言葉に反論した。
「嘘ではありません」
「……リン?」
それは、ジンのPACであるリンである。その断言に、誰もが言葉を失った。静寂に包まれた≪転移門≫前の広場に、もう一度彼女の言葉が響き渡る。
「主様とアナスタシア様の言葉に、嘘偽りはありません」
二度目の否定。それが、トドメとなった。
そう、二人は嘘は言っていない。
ジンはこの騒動に関与する前に、アナスタシア・アシュリィ・アリッサにメッセージを送信している……もっともそれは、話に割って入る直前の事ではあるが。ジンは”いつ”とは言っていないので、嘘は言っていないのである。
そして進路についてのアドバイスの話は、紛うこと無き事実。リンはジンに付き従って同席していた為、その事を知っている。
クラン勧誘についてのアナスタシアの言葉も、「そう思うからである」という個人の主観を前提にしたもの。なので、嘘という訳では無い。リンが断言したのは、「勧誘のメッセージを受け取った」という事実についてである。
そこまでは、普通のPACでも同様の判断を下し言及する。ジンもそれを勘定に入れて、いざとなったらリンに援護射撃をして貰おうとしていた。それ故に、メッセージを事前に送るという下準備をしていたのだ。
しかし、重要なのはそこではない……いや、なくなった。リンは今、自分が言うべきだと判断して行動に移したのだ。
誰かに言われるでもなく、問いかけられた訳でもなく、自発的に。その行動に、ジンやヒメノ……そしてアナスタシア達も、表情に出さない様にしているが驚きを禁じ得ない。
ともあれリンのその行動は、流れを完全にジン達の方へと引き寄せた。
「あれって、ジンさんのPACだよな。確か、リンちゃんだっけ」
「ふーむ……PACが断言するって事は、間違いないんじゃないか?」
「確かにそうだな。PACには、嘘を吐いたり出来ないはずだ」
「って事は、【十人十色】への勧誘は本当だって事じゃないか?」
「マジかよ……すげー所に出くわしたな」
そんな野次馬の声が耳に入り、ソウリュウは表情を歪める。
「……くっ」
これ以上、ソウリュウに反論は出来ないだろう。そう確信したジンは、落としどころはここだと判断した。
「別に拙者はどちらが先に声をかけたとか、そういったつもりで名乗り出た訳ではないでゴザル。ただ、我々が同じ立場であると宣言したに過ぎぬ。あとは、彼女達の出す結論を待つのみだと思うが、如何か?」
「……」
何も言い返せず、ソウリュウは歯嚙みしてジンを睨む。むしろ、それしか出来ないのだが。そんな無言を肯定と受け取ったジンは、視線をソウリュウから外してアナスタシア達に向けた。
「申し訳ないが、もうログアウトの時間が迫っている故……アナスタシア殿、テオドラ殿、イザベル殿。拙者達はここらでお暇するでゴザル。アリッサ殿達も、また」
「また、お話しましょうね。おやすみなさい!」
そんな二人の挨拶に、アナスタシアも柔らかな微笑みで応じた。
「はい、ジンさん、ヒメノさん。今夜はありがとうございました、おやすみなさい」
最後にジンは、ソウリュウに向き直る。
「ではソウリュウ殿、そして【竜の牙】の方々。拙者達は、これで失礼するでゴザル」
ソウリュウからの返答は、無い。挨拶も引き止める言葉も、何も。
システム・ウィンドウを操作して去るジン達を見送って、アナスタシアは歩き出す。その進行方向にはソウリュウ達が居るが……目指す先は彼等では無く、彼等に絡まれていたアリッサ達だ。
「アシュからメッセージが入ったわ、アリッサ。彼女達はもうホームに戻って、私達を待っているそうよ」
「そうみたいね……仕方が無いわ、こればっかりは。緊急会議といきましょうか」
二人は仲間達に視線を向け……次に、ソウリュウ達に向き直る。
「そういう事ですので、今夜はここまでにさせて貰います。構いませんね?」
「クラン勧誘の件については、結論が出たら返事をする。それで良いでしょう?」
そう言われたソウリュウは、眉間に皴を寄せていたが……すぐにその表情を元に戻して、頷いた。
「了解した。良い返事が貰える事を期待しているよ」
肩を竦めてそう言うと、彼はイザベルに視線を向け……笑顔を浮かべた。
「なぁ、イザベル」
それは、彼女に対して圧力をかける発言だった。当然、アナスタシア達もそれを理解している。イザベルは視線を逸らしながら、足早に無言で歩き出した。
「ベル……ッ!!」
アリッサが一度ソウリュウを睨むが、すぐにイザベルを追い掛け始める。アナスタシアもそうしようと思ったが、その前にソウリュウ達に声を掛けた。
「仲間が失礼しました。では、今夜はここで失礼します」
アナスタシアは一応の礼だけをして、踵を返す。ジン達のお陰でこの場を切り抜ける事には成功したが、イザベルの問題についてはまだ残っていた。
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十数分後、【ラピュセル】のギルドホーム。ギルドメンバーの内二人は現実の所用で不在であるものの、残る十三人がホームの広間に集まっていた。
「……というのが、現在の状況よ」
「成程ね。【竜の牙】は……特にあのソウリュウは、まだしつこく食い下がって来るでしょうね」
アナスタシアとアシュリイの会話を聞いていた他のメンバーは、神妙な面持ちで頷く。
その話をしている間、イザベルはずっとソファに座って俯いたままだった。その様子を見たアリッサが、彼女の肩を優しく抱く。
「……ごめんなさい、私の……私のせいで……」
「ベル……あなたのせいじゃないわ、悪いのはソウリュウ達よ」
優しい慰めの言葉も、イザベルの心の暗雲を晴らす事はできない。
彼女……【古和田 芽子】は初心者時代の自分の浅慮さが、ギルドの仲間達に迷惑をかけていると考えていた。自分が迂闊に現実の情報をソウリュウに教えてしまったばっかりに、このギルドの行く先に暗雲が割り入って来たのだ。
自責の念で押し潰されそうになっており、この問題を解決し仲間達を守る為にどうすれば良いのかを必死に考えている。
――アナさん達は、【十人十色】に加入したいと思っていると思う……今夜、私もそう出来たらって何度か思った……。
ジンとヒメノとのマッチングで、二人の人柄に触れ……そして、彼女もまた二人の事を深く信頼するようになっていた。戦績も実力も伴っている、AWO最高峰の夫婦。そんな二人と行動を共にして、悪感情を抱くプレイヤーはそう多く無いだろう。
攻略を終えた後……ソウリュウ達と遭遇してさえいなければ、今頃イザベルは今夜の成果を声高に仲間達との談笑で話題に出していたはずだ。別行動だったアシュリィやアリッサのパーティメンバーに、ジンとヒメノとマッチングした事……それがどれだけ心強く、爽快だったかを熱弁していたのだろう。
あの一件さえなければ……ソウリュウ達さえいなければ。いっその事、彼等を排斥できたのならどれだけ良いだろう。
しかし、原因は自分にもある……イザベルは、そう考えていた。相手だけが悪いのではなく、迂闊だった自分にも非があるのだ。ソウリュウを頭ごなしに否定する権利は、浅慮だった自分にはないのだと思ってしまっている。
その思考はやがて『自分さえいなければ。自分がこのギルドから、いなくなれば良いのではないか』という考えにシフトしつつあった。
――私が【ラピュセル】に所属していなければ、ソウリュウは何の手札も持たない……私さえ、私さえいなければ……。
仲間達の事は、とても大切に思っている。それぞれ事情は異なるが、こうして肩を並べて歩んで来たのだ。そんな彼女達が、【竜の牙】のいい様に使われるのは避けなくてはならない。
彼女の思考は今、自分の現実の情報と、仲間達の望む未来……その二つを天秤にかけて、一つの結論に着々と近付いていた。
……
同じ頃、【ウィスタリア森林】。クランホームの城に戻ったジンは、仲間達に先程の事について報告していた。
「成程、そういう事か。それならオッケーだよ、ジン。大体、ジンにも勧誘権限はあるんだし」
「ははは、その通りだね。ジン君、特に問題は無いと俺も思うよ」
「そうね。元々【ラピュセル】は、勧誘もアリって結論は出ていたし……うん、このまま話を進めても良いと思う」
「頭領様のご判断、最適であったと私も思います。むしろ、絶好の機会であるとも考えられますね」
クラン【十人十色】を構成するギルドのマスター達は、ジンの判断と対応を受け入れた。それは他のメンバーも同様で、ジンの判断を支持していた。
ちなみに【十人十色】は多くのギルドやフリーランスのプレイヤーから、加入したいという申告を多く受けているクランの一つだ。そんな状況にある為、クランメンバー全員に一定のルールを設けている。そのうちの一つが、クラン参加への勧誘である。
まずギルドマスター・サブマスターは、自分の判断で勧誘する権限を持つものとしている。勿論これは”勧誘”までの権限だ。クランへの参加を”承認”するには、クランメンバーの過半数が承認する事が条件となっている。
またその際に、マスター以外のメンバーでも機会があれば勧誘しても良いとされるギルドが三組挙げられている。三組である理由は当然、クラン参加ギルドの上限が七組だからだ。
そして、【ラピュセル】はその内の一組であった。彼女達は交流がある友好関係にあり、クランに参加していない。それに加えて、ジンが事前に申告していたのだ……アナスタシア・アシュリィ・アリッサは現実の自分について知っており、その上で信頼に値する存在であると。
そして最後に、そのルールを取り決める際に【忍者ふぁんくらぶ】の面々から一つ申し出があったのだ。それは『ジンとヒメノにもその権限を付与する』というものである。
「頭領様が選んだ相手ならば、それは我等【忍者ふぁんくらぶ】が選んだ相手と同義」
「然り……故に我等の権限を、頭領様に委ねても構いませぬ。これは、我等【忍者ふぁんくらぶ】全員の総意」
本っ当にブレない、【忍者ふぁんくらぶ】。
ちなみに理由は単純明快で、【忍者ふぁんくらぶ】はジンを崇拝している。それは彼の実績だけでなく、特にその人柄を重要視しているのだ。
そもそも【忍者ふぁんくらぶ】のほとんどのメンバーが、第一回イベント等でジンに救われたプレイヤーである。それを考慮すると、その考えに至っても不思議ではない……のかなぁ?
ともあれその話になった時、流石にマスター勢もジンとヒメノもどうしたものかと悩んだ。しかしながら、クランメンバーの大多数が「それは大いにアリ」という事で承認された。当然、アヤメとコタロウの権限はそのままにだ。
理由は、言うに及ばず……ジンとヒメノの人格と実績に対して、信頼と期待を寄せているが故である。という事で、今回ジンが【ラピュセル】の勧誘を明言したのはクランから認められている対応なのだった。
問題は、ジンが【ラピュセル】を勧誘した事についてではない。気にかけるべきは、そうなった経緯についてだ。
「それで、ジン君。そのソウリュウという青年が、イザベルという女性の弱みを握っていそうという件について……もう少し、聞いても良いかな?」
ユージンがそう問い掛けると、ジンも頷いて先程の出来事について詳細に話し始める。
「【ラピュセル】は、LQOでは【フローラ】というギルドだった……というのは、アナスタシアさん達の様子を見た感じ間違いはなさそうです。そしてソウリュウという人を見た瞬間、イザベルさんの様子は怯える様なものになっていた……彼も、彼女が怯えているのを理解していた様子でした」
「そうですね……一緒に攻略している時は、楽しそうにしていましたけど……」
「ふむ……それで?」
「ソウリュウが【竜の牙】に加入する前までは、親しかったんじゃないかと思うんです。また一緒にって、何度も言っていたので。そして、気になるのが……『お互いの事を良く知っている』っていう点」
ジンの説明を聞いていたメンバーも、何があったのかをおおよそ察した。
「親しかった頃に、リアル情報を交換したって所ッスかね」
「有り得なくはないわね……初心者の内は、その辺りの境界線が身に付いていないもの」
ハヤテとフレイヤがそんな会話をしていると、ゼクトが信じられないといった表情で頭を振る。
「っつー事は、あれか? リアル情報をバラされたくなかったら、自分の言う事を聞けってか?」
その言葉を聞いた【十人十色】の面々は、事の重大さに気付いた。本当にそれを脅迫材料にして【ラピュセル】を取り込むつもりならば、ソウリュウのやり方を許容する事はできない……誰もが、同じ考えに至っていた。
そこで、レンが口元を歪めた。
「……だとしたら、イザベルさんの恐怖心も理解は出来ます。ですが、場合によってはそれで相手を黙らせることも出来るかもしれません」
どうやらレンには、何かしらの考えがあるらしい。不敵な笑みを浮かべて、その赤い瞳を爛々と輝かせている。
「【十人十色】に参加するかしないかは、彼女達の意思次第……ですがそれとは別に、【ラピュセル】の方々と一度お話をしたいところですね」
次回投稿予定日:2024/7/8(掲示板)




