18-24 到達しました
500部という、節目回です。
そんな訳で、色々と盛り込んでおります。
二人でマッチングに臨んだジンとヒメノは、【フィオレ・ファミリア】のフィオレ、ステラ、ネーヴェとマッチングした。
このマッチングは戦力的、性格的にも相性が良く、攻略は順調に進んでいく。そうしていよいよ、ジン達は四百階層へと到達する事に成功した。
「いよいよボス戦ね……でも、このパーティならそこまで怖くない気もするわ」
フィオレがそう言いつつ笑いかけるが、ジンは逆に表情を引き締めた。
「拙者達の仲間が、昨夜この階層のボスと戦ったでゴザルが……敗北しなかったものの、SABは逃したそうでゴザル」
ジンの発言に、フィオレは目を丸くした。彼女も勿論、ここまで手に入る天使シリーズを装備している。つまり、SABについてはよく理解しているという事だ。
今回のイベントにおける、マッチングポイントにボーナスの付くアイテム。しかも見た目は天使にちなんだ物で、今回のイベントを逃したら手に入る機会があるかも不明。そう考えるとプレイヤーとしてはボス撃破だけでなく、SABをゲットしてこそ完全攻略達成と考えられるだろう。
そしてジンの仲間と言われてフィオレ達が思い浮かべるのは、【桃園の誓い】【魔弾の射手】【忍者ふぁんくらぶ】といった猛者達の姿。そしてこの階層まで到達しているという事は、上位のプレイヤーであると察するのは容易い事だ。
つまりこれから始まる戦いは、気の抜けない厳しい戦いになるという事だろう。
「了解、油断は禁物って事がよく解ったわ」
フィオレも真剣な表情で、この先に待ち受けるボスとの戦いで全力を尽くそうと気を引き締め直す。そんな彼女の様子に、ステラやネーヴェも緊張感を滲ませていた。
「流石に四百階層となると、一筋縄ではいかないんだね」
「そうらしい……うん、全力を尽くさないといけないな」
自分の注意喚起に、素直に応じる三人。その様子を見て、ジンはこのパーティならば行けるかもしれないと感じる。ならばその為に必要なのは、より綿密な情報共有だろう。
「事前に判明している情報を、共有するでゴザル。ボスは強化されたアークエンジェルで、形態が増えている上に変化するトリガーが三百階層とは異なるそうでゴザルよ」
それはケイン達や、ヒューゴ達から得られた情報である。ジンがそれをクラン外のプレイヤーに教えるのは、目前に控えた戦いに備えてが一点。そして同時に、彼女達に対する信頼から教えても構わないと考えたのが一点だ。
そしてヒメノも、彼と同じ考えであった。
「新しく追加されているのが右手に銃を持った形態と、槍で突進してくる形態だそうです。銃の方は連射はしてこないみたいですけど、射程は長いそうですよ」
ジンとヒメノから向けられている、自分達に対する信頼の念。それをフィオレ達もはっきりと感じ、汲み取ることが出来た。次に思う事は、その信頼に応えなくてはならないという思いである。
「貴重な情報をありがとう、二人共」
「そうしたら、形態変化のパターンを突き止めたいね!」
「しかし、悠長にしていたらSABを逃す……判断力が問われそうだ」
この攻略の大目的は、勿論ボスを撃破し上へと進む事。しかし同時にボスの形態変化の条件を見破り、その上でスピード・アタック・ボーナスを得る。これを達成できてこその、完全勝利だ。
「後衛職で戦闘の指揮にも慣れているフィオレ殿に、司令塔をお願いしたいでゴザルが……」
「勿論、喜んで。全力を尽くすわ」
……
五人は更に戦闘前の打ち合わせを重ね、ボスの座す戦いの場へと向かう。そこに待ち受けているのは、三百階層で遭遇した時と変わらない外見のアークエンジェルだ。
「それじゃあ、戦闘開始と行きましょう……ジン君、お願いします」
「了解でゴザル。それでは、いざ!!」
ジンは力強く地面を蹴り、アークエンジェルに向けて駆け出す。それは今日一番の全力疾走で、一気にアークエンジェルの下へと迫っていく。
ジンが索敵範囲内に踏み込んだ瞬間、アークエンジェルも行動を開始。ジンを迎え撃つべくその身に纏うのは、三百階層の時とは違い重厚な装備。
――スピードタイプのジン君に対して、タンクタイプを選択したのね。攻撃力が不足しがちなビルドからしたら、いやらしい形態だわ。即死耐性が無ければ気にならないけど、このレベルのボスだとそうもいかないかも……。
とはいえジンもフィオレ達も、最初から即死攻撃は戦術の勘定には入れていない。今回の攻略は、正攻法でアークエンジェルを打倒するのが目的だからだ。
ジンはアークエンジェルを斬り付けて、すぐに一旦距離を取る。すると、アークエンジェルはその左手の装甲で反撃に出て来た。間違いなく、攻撃に対するカウンターである。
だが相手は、AWO最高峰のAGIの持ち主。アークエンジェルのカウンター攻撃はジンを捉える事適わず、空を切る。
「【スパイラルショット】!!」
アークエンジェルの動作が終わった瞬間を狙って、ヒメノが強力な一撃を放つ。如何にVIT値が高い防御形態でも、ヒメノの攻撃は堪えるはずだ。
その間にフィオレは宝石を手にし、ヒメノの後に続けるように準備を済ませていた。無論、アークエンジェルの挙動に注視しながらだ。
ヒメノの【スパイラルショット】は、しっかりとアークエンジェルの右肩に命中。五段階のダメージを与えるその攻撃は、最後の五段階目でHPバーを減少させた。しかしその減少量は、わずかなものだった。
「ヒメノさんの攻撃で、あの程度……!?」
「どんだけVIT値が高いんだ……」
ステラとネーヴェが驚きを隠せないといった様子であるが、それはジンやヒメノも同じだ。
その時同時に、アークエンジェルに変化が発生した。防御形態の装甲が砕け散り、次いで鋭利そうな装甲に身を包んだのだ。
「高速機動形態!!」
「来ます……っ!!」
形態変化したアークエンジェルは、ヒメノ目掛けて走り出す。そのスピードはジン程ではないが、相当な速さである。
あっという間にヒメノの目前まで迫ったアークエンジェルが、その右手のブレードを振り上げ……そして、振り下ろす。その刃がヒメノに当たるその前に、ネーヴェが愛剣を駆使してブレードを受け止めた。
「く……っ、させるものか!!」
高速機動形態のSTRは、そこまで高い方ではない。ネーヴェはブレードを押し返し、直剣を振るってアークエンジェルを攻撃する。しかしながら、その剣撃をアークエンジェルはバックステップで回避してみせた。
「この速さ……厄介だな。だが上には上が居る!」
「挟撃でゴザル!!」
「……参ります」
アークエンジェルの背後から迫るジンと、ネーヴェの脇を擦り抜けて駆け抜けるリン。忍者の主従はタイミングを合わせて、アークエンジェルを同時に斬り付ける。
「「【一閃】」」
激しいライトエフェクトが発生し、アークエンジェルが一瞬動きを止める。ジンはその瞬間、アークエンジェルのHPバーが全くと言って良い程に減っていない事に気付いた。
――確かに僕もリンも、STRは高くない……しかし、全く減らないという事は無いはずだ……。
しかもアークエンジェルは、更なる形態変化をする様子が見受けられない。先程は一撃を受けて、すぐに形態が変わったにも関わらずだ。
攻撃を受けて足を止めたのは一瞬で、アークエンジェルはすぐに復帰する。そのままジンではなく、リンに向けてブレードを振るって反撃を開始した。
「【クイックステップ】」
リンは武技を発動して、アークエンジェルの攻撃を回避。更に攻撃の挙動が終わる寸前に、フィオレが手にした宝石を投擲する。その数、三つ……そのどれもが、彼女の≪魔法大全≫を駆使して魔法を封入したマジックアイテムだ。
「【エスプロジオーネ】!!」
同時に三つの宝石が起爆し、アークエンジェルが爆炎に呑まれる。ジン達は既に距離を取り、爆発の影響を受けない位置で警戒を続けている。
爆発によって発生した炎の中で、アークエンジェルが形態変化の光を放っているのが見えた。その頭上のHPバーは、先程より少し削れている……だが、フィオレの切り札である三連爆撃を受けたにしては、僅かな減少に過ぎない。
そんなアークエンジェルがすぐに換装したのは、右手に銃身を持つ……この階層で初めて登場する、銃撃形態である。
「ヒナちゃん!!」
「【セイクリッドスフィア】!!」
フィオレ目掛けて放たれた銃弾を、ヒナの【セイクリッドスフィア】が防ぎ止める。その様子を見たアークエンジェルは、右腕を引いた。恐らくは、銃弾のリロード動作だろう……ネーヴェはそう判断し、アークエンジェルに向けて駆け寄る。
「【デュアルスラッシュ】!!」
素早く放たれた二連撃は、アークエンジェルの左半身を斬り付けた。ネーヴェはどうだとばかりに睨み付け……そして、目を見開く。
「ダメージを、全然受けていない……!?」
そう、アークエンジェルのHPバーは全く減っていないのだ。
銃撃形態は弓形態同様に、後衛タイプ。それ故に、VIT値は低く設定されているはずである。そしてネーヴェは純粋な前衛職であり、後衛タイプの相手であればボスであっても相応のダメージを与える事が出来るはずであった。しかし、アークエンジェルのHPバーは全く減っていないのである。
「ネーヴェ、危ない!!」
驚愕で動きを止めてしまったネーヴェに、アークエンジェルの銃身が向けられる。ステラが慌ててネーヴェに声を掛けるが、ネーヴェが意識を取り戻した時には既に銃弾が放たれた後だった。
「く……っ!!」
慌てて身を捩るも、ネーヴェの左肩に銃弾が命中。そのHPが削られ、同時に彼は吹き飛ばされてしまう。
「ネーヴェ!!」
「ステラ、気を逸らさないで牽制して!! ネーヴェはまだ戦闘不能にはなっていない、回復で復帰可能よ!!」
弟のダメージに動揺するステラに、フィオレは力強い口調で指示を飛ばす。このまま陣形が崩壊するのを防がなくては、目標達成が遠ざかる。それを阻止するのが、司令塔のフィオレの役割であった。
「やっ!!」
動揺するステラとは対照的に、ヒメノは即座に弓を構えて武技無しの攻撃を放つ。しかし、アークエンジェルはその攻撃を地面を転がりながら回避した。
だがその回避先を予測していたジンが、アークエンジェルが態勢を整える前に苦無を放つ。
「【狐雷】!!」
苦無がアークエンジェルに刺さると同時に、その身体を電撃が駆け巡る。しかしながら、麻痺状態を示すアイコンは表示されない。動きを止められれば良かったのだが、アークエンジェルはそのまま更に回避して態勢を立て直した。形態変化は、依然しないらしい。
HPが全く減らず、状態異常にも耐性がある……いくらボスとはいえ、いきなり難易度が上がり過ぎではないか。ジンはそんな事を考えてしまうが、それを言っても状況は改善しない。
しかしその瞬間、ヒメノが予想外の意見を口にした。
「何だか、【変身】しているみたいじゃないですか?」
それは彼女にも、そしてジンにも縁の深いスキル。それを所有するプレイヤーにとって、虎の子の切り札となるスーパーレアスキルであった。
その言葉を耳にして、フィオレはそんな事が有り得るのかと戸惑い……しかし、その可能性を一笑に付すことは出来なかった。
HPバーが減らないのは、それを肩代わりするAPがあるから。
状態異常に耐性があるのは、それを付与する能力があるから。
その都度形態変化をしないのは、APが尽きていないから。
実際にヒメノが防御形態を攻撃した時、四段階目までのダメージでHPバーが減らなかった。あれは四段階目でAPを削り切り、五段階目だけダメージが入ったからではないか?
そしてフィオレの【エスプロジオーネ】による三連爆撃も、同様だろう。恐らく二発目でAPが消失し、最後の一撃がアークエンジェルのHPを削ったとすれば……その際に減少したダメージ量にも、納得がいく。
「……試してみる価値は、あるかもしれないわね。ヒメノさん、良いかしら?」
「勿論です!」
この中でAPを削るダメージを叩き出せるのは、ヒメノとフィオレの二人。もしもこの予測が正しければ、勝ち筋が見えてくるはずだ。
「私とヒメノさんで、ダメージを与えて削っていくわ!! その後は、四人でアークエンジェルに一斉攻撃!! ヒナさんは、フォローをお願い!!」
「承知でゴザル!!」
「オッケー、反撃開始だよっ!!」
「任せてくれ、姉さん!!」
「かしこまりました、お任せを」
「はいっ!! 援護しますね!!」
打てば響くような、力強い返答。それを受けて、フィオレが先陣を切る。
「【ディルーポ】!!」
アークエンジェルに向けて投擲した、四つの宝石。それが地面に触れると同時に、せり上がる岩の壁がアークエンジェルの四方を囲んだ。
「赤字覚悟の大盤振る舞いよ、よーく味わって貰いましょうか」
そう言いながら、フィオレは更に宝石を投擲。
「【サエッタ】!!」
フィオレがキーワードを口にすると同時、宝石が空中で砕け散る。そこを起点として発生したのは、【サンダーフォール】による落雷。岩壁に囲まれたアークエンジェルは、その魔法攻撃をモロに喰らってしまう。
またその威力で岩壁も崩れ落ちたが、逆にその岩の壁が雷撃の拡散を抑制した。そのお陰でジン達は雷撃の影響を受ける事無く、アークエンジェルの装備が砕け散ると同時に攻撃に移る事が出来る。無論、フィオレはそれを見越して宝石魔法を使用したのだ。
高威力の魔法で装備を消失したアークエンジェルは一瞬行動を止め、すぐに次の形態へと移行しようとする。しかしアークエンジェルのそれよりも、最速忍者の小太刀の方が速い。
「【空狐】!!」
攻撃の全てに、追撃を発生させる【九尾の狐】の武技。それを次々と叩き込むジンは、攻撃と同時にアークエンジェルの様子を観察していく。
――HPが減っている……!! それにヒットストップ……いや、これは遅延効果か!!
攻撃を受けるアークエンジェルは、確かにゆっくりとだが次の形態に移行しようとしている。だがその動きは遅く、その間にジンの攻撃によるダメージが蓄積していく。
「効いている……よし!!」
「ウチらも負けてないよっ!!」
「参ります」
ネーヴェ・ステラの息の合った連携と、リンの俊敏さを生かした攻撃が更に加わる。絶え間なく攻撃を続けるジン達だが、アークエンジェルの形態変化を止められる訳では無い。形態変化が完了した事で、再びアークエンジェルのHPが減らなくなったのだ。
「一旦距離を……!!」
フィオレがその指示を言い切るその前に、アークエンジェルが動き出す。変化したのはこの四百階層で初めて登場する、槍を携えた突撃形態。狙われたのは、最後にクリティカルヒットを与えたリンだった。
「【クイック……」
武技を発動して回避しようとするリンだが、発動宣言が完了するよりもアークエンジェルの槍が到達する方が早い。その強烈な一撃で、リンが吹き飛ばされる。
「リンちゃん!!」
「今、回復を……!!」
ヒメノやヒナが援護をしようと動き出すが、アークエンジェルは更にリンに向けて突撃。その攻撃を止めるのは困難であり、リンはこの攻撃でHPを全損するだろう。それはフィオレ達にも解っており、戦闘不能になった後に≪ライフポーション≫で蘇生するしか無いと判断した。もっともそれは、アークエンジェルが回復行動を許せばの話である。
しかしその前に、リンとアークエンジェルの間にジンが割り込んだ。ジンのその瞳は、アークエンジェルを止めるという決意に満ちている。
「【変身】!!」
リンを守るべく、ジンは【変身】を発動。狐面の姿へと変貌すると同時に、アークエンジェルの攻撃を胸元で受ける。
ジン一人であれば、【霊狐】か【サバイバー】で回避する事が出来た。しかしそうした場合、アークエンジェルの攻撃はジンの身体を擦り抜けて後ろに居るリンに当たってしまう。それ故の、【変身】である。
「主様……」
自分を庇って攻撃を受けるジンを見て、リンは心苦しいと言わんばかりの呟きを漏らした。長きに渡って共に歩んできた彼女は、ジンの考え……自分を守る為に、あえて攻撃を喰らった事が解ったのだ。
しかし、ジンはそれすらも反撃のチャンスに変えようとしていた。両手の小太刀をアークエンジェルの右腕に突き刺し、槍を引かせまいと食い止める。
「今でゴザル、姫!!」
それは動きさえ止められれば、必ずヒメノがその装備を破壊してくれると信じたからである。
「【スパイラルショット】……!!」
ジンが変身した時点で、ヒメノも彼の考えを察していた。APで攻撃を受け止め、アークエンジェルの動きを止める……ジンはそうするつもりだろうと、見抜いていた。
ヒメノが放った【スパイラルショット】は、アークエンジェルの胸元に命中。五段階の攻撃がそのAPを削り、再び素体状態に移行させた。
「ネーヴェ殿、ステラ殿!!」
流石に無傷とはいかず、【変身】解除したジンのHPが半減していた。それでも戦意を失っていないジンが二人に呼び掛ければ、ステラとネーヴェは間を置くことなく攻撃を開始した。
「これ以上はさせない!!」
「ぶっとばしちゃうよ!!」
二人は全てをこの一瞬に注ぎ込み、アークエンジェルに猛攻を開始する。素体モードであれば、そのHPを削り切る事が出来る……そのはずだと考えて。
更にはヒメノとフィオレも攻撃に参加し、アークエンジェルを攻め立てる。
仲間達にアークエンジェルを任せて、その間にジンはリンの無事を確かめる。先程から気にはなっていたのだが、リンは日頃の冷静な姿とは打って変わって、動揺しているように見えたのだ。
「リン、大丈夫?」
忍者ムーブではなく、素の口調で問い掛けるジン。そんな彼に、リンは申し訳無さそうに頷いて立ち上がる。
「申し訳ありません、主様……」
自分の力不足で、ジンにダメージを負わせてしまった……その事を心苦しく思っている。どこからどう見ても、そういった様子である。
第一回イベントの後で、彼女を誕生させたのはジン本人だ。その彼としても、こんなリンは初めて見る。
しかしながら、それは大した問題ではない。彼女の気持ちを落ち着かせるのが、今は先決だ。
「謝る事は無いよ、リン。リンは僕の相棒で、君を守るのは当たり前なんだから。僕だって、いつもリンに助けて貰っている」
打算も何もない、本心からの言葉。それを受けて、リンは目を見開いた。そこでジンは、先程から感じていた違和感の正体に気付いた。
――なんだか、僕達と同じ様に……リンに、感情が芽生えているように思えるな。
PACはあくまで、自己学習型AIを搭載したNPC。攻撃を受けた時に顔を顰めたり、好みに設定された料理を前にして笑みを零したりするのも、AIによるものだ。
明るい性格に設定されたPACならば、明るい口調や表情を見せる。冷静な性格ならば、そのように振る舞う。
しかし、今のリンはまるで『人間の様に』感情を見せていた。彼女が今、何かに驚いた表情に変わったが、その表情の移ろいも限りなくリアルだ。
そうしていると、リンが戸惑った様子でジンに問い掛ける。
「主様、この浮かび上がったものは……」
言われて初めて、ジンはシステム・ウィンドウが表示された事に気が付いた。しかもそれは、リンの前にも出現している。リンが驚いた様子を見せたのは、このシステム・ウィンドウが原因だったらしい。
「あれ、何故リンにも……?」
システム・ウィンドウを保有するのは、プレイヤーのみ。PACにはシステム・ウィンドウを操作できないはずである。しかし、リンの為にそのシステム・ウィンドウが表示されている様にしか見えない。
ともあれその表示に二人が視線を落とすと、そこには思いもよらない内容が記載されていた。
『ジンとPACリンの絆が、最大まで深まりました。【スキルスロット】を一つ共有する事が可能となります』
スキルスロットの共有……それはこれまで見た事も、聞いた事も無いシステムだ。これが可能なのは、プレイヤーとPACという密接な関係あっての事だろう。
このシステムはPACを大切にするプレイヤーに対する、運営サイドからの報酬か……それとも感謝の贈り物なのかもしれない。
重要なのは、それを手にしたのがジンとリンであるという事。
「……主様、これはつまり……」
「うん、そういう事だと思う。それなら、僕達が共有するのは……!!」
「はいっ!!」
ジンは【九尾の狐】を、リンは【スピードスター】を選択する。この組み合わせには、勿論理由がある。
『ユニークスキル【九尾の狐】が限界突破しました』
現段階における最大強化に到達した、ユニークスキル【九尾の狐】。そのスキルオーブがこの瞬間から、ジンとリンの間で共有される。
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スキル【九尾の狐Lv14】
説明:疾きこと風の如し。習熟度が向上すると、新たな武技を習得する。
効果:AGI+140%。
秘伝スロット【空き】
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二人が並んで小太刀を構えると同時に、アークエンジェルは高速機動形態へと移行。狙われたのは、ステラであった。
両手のブレードが、彼女を斬り付けるその寸前……紫色の飾り布を靡かせた、二人の風がその攻撃を弾き飛ばす。
「調子に乗るのは、そこまででゴザル」
「我等主従の力、とくと味わって貰おう……」
アークエンジェルは更に攻撃を続けるが、二人はそれを難なく弾き、逸らし、受け流す。その姿を見たステラも、フィオレやネーヴェも……そしてヒメノとヒナも、その表情に希望の色が浮かぶ。
戦闘から離れたそのわずかな時間に、何があったのかは戦闘に集中していた彼女達には解らない。しかし、不思議な事に……勝利を確信させるだけの頼もしさを、今の二人から感じるのだ。
そうしてジンとリンは、声を合わせ宣言する。
「「スーパー忍者タイム、いざ開幕!!」」
プレイヤー中最速の忍者と、PAC中最速のくノ一。絆の力で新たなステージに到達した二人による、反撃の幕が今上がる。
PACというパートナーを登場させるにあたり、ずっと暖めてきた絆マックス特典がようやく出せました。
純粋にPACと絆を育んできた、そんなプレイヤーに対するご褒美的なシステムです。
その結果、とんでもないコンビが爆誕。
次回投稿予定日:2024/6/10(本編)




