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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十八章 第五回イベントに参加しました

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18-20 マッチングしました

 イベント四日目、西側の[試練の塔]。九十階層でマッチングシステムを発動させた青年が、マッチング相手を迎えるべく待っていた。

 しばらく待っていると、一人の男性が転送されてきた。

「どうも」

「こんばんは、どうぞ宜しく」

 青年は魔法職で、攻撃だけでなく回復もそれなりに出来る。転送されてきた男性は大剣使いらしく、ダメージディーラーとして活躍してくれるだろう。


 次いで、転送されてきたのは一人の少女。細剣を装備しており、スピードアタッカーだと見て分かった。

「こんばんは。マッチング、どうぞ宜しくお願いします!」

 丁寧で礼儀正しいその挨拶に、二人は当たりだと内心で喜んだ。

「こちらこそ、宜しく!」

「元気な娘さんだな。こっちまで、元気を貰えそうだ。どうぞ、宜しく頼むよ」

 それは相手が美少女だからというのもあるが、それよりも重要なのはビルドバランスと性格だ。

 大剣使いと魔法職では、盾持ちか遊撃が欲しい所。少女が遊撃役向きなのは、まず間違いないだろう。

 そして何より……少女が上から目線だったり、腹に一物抱えていそうなタイプでなかったのがありがたい。


 そして、四人目が転送されてきた。服の上に纏う装備は、竜を象った鎧。その装備だけで、彼がどこのギルドの所属なのかすぐに解る。

「あんたらが今回のお仲間かい? んー、まぁまぁのメンバーかな……うん、宜しくね」

 そんな青年は不機嫌そうな表情で、既に転送済みの三人を見て……細剣使いの少女を見て、途端に人の好さそうな表情を浮かべた。不機嫌そうだったのは、恐らくここに来るまでのマッチングでメンバーに恵まれなかったのだろう。

「あー、まぁ宜しくな」

「……宜しく頼む」

「宜しくお願いします」

 少女の時とは打って変わって、素っ気ない感じの返答になってしまった。しかし無理もないだろう、まぁまぁなどと言われたのだから。しかも少女を見た瞬間に、表情を変えた。それだけでも、彼がどういった考えをしているかは察するに余りある。


 そんな空気を齎した青年は、場の空気を読まずに少女に声を掛けた。

「へぇ、それなりに装備も整ってるね。君、名前は?」

 少女を舐め回す様に見た青年は、少女の情報を得ようと考えたらしい。自己紹介は、五人が揃ってからまとめてやるのが良い。そんな事は、九十階層まで到達しているならば解りそうなものだ。


 最初の二人が青年を窘めようとした瞬間、最後の一人が転送されて来る。光の粒子が集まり、人の姿形となる。そうしてその光が弾けて、五人目のマッチングメンバーが姿を見せた。

 その人物を見て、四人は言葉を失った。それも仕方のない事で、彼の事を知らない者などこのゲームには居ない……そう断言できる程に、有名なプレイヤーなのだから。

 更に、その傍らには黒髪をポニーテールにした女性。その頭上のカーソルを見れば、それがPACパックである事は明らかだ。


「おや、拙者達が最後でござったか」

 特徴的な口調でそう言って、五人目のメンバー……【七色の橋】のジンとそのPACパックであるリンが、マッチングパーティに加入した。

「な、な……【七色】の、ジンっ!?」

「「大当たりキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!」」

「わぁ……こんな有名な人とマッチングするなんて、びっくり!!」

 静寂の後、歓声。既にこの反応は、下の階層でも散々されている。ジンは苦笑しつつ、マッチングメンバーに歩み寄った。


「拙者、【七色の橋】のジンと申す。こちらは拙者のPACパックのリン。此度のマッチング、どうぞ宜しくお願いするでゴザル」

「宜しくお願い致します」

 そう言って、ジンとリンは軽く頭を下げる。その様子を見て、他の四人も返事をしなければと口を開いた。

「お、俺は【竜の牙(ドラゴン・ファング)】の【バーン】だ。武器は、見ての通り剣と盾だな」

「フリーで魔法職やってる、【ライサンダー】だ! 名前から雷系を連想するかもだけど、一通りの属性は使いこなせるぜ! 今回は宜しく!」

「俺は【グラシアス】、ギルド【魂の咆哮】所属だ。見ての通り、大剣使いさ。どうぞ、宜しく頼む」

「私は細剣を扱う、無所属のクーラといいます。ヒット・アンド・アウェイの戦法が得意ですね。皆さん、宜しくお願いします!」

 簡単な自己紹介と挨拶を交わした面々は、次いで攻略の布陣について話し合う。バーンが前衛盾役、グラシアスがアタッカー、ライサンダーが後衛支援役。そしてジンとリン、クーラが遊撃役……前衛と後衛の補助だ。

 回避盾でジンが最前に出るのが手っ取り早い気もするが、その前にバーンが盾役を名乗り出た為こうなった。そもそも今回のマッチングメンバーは、全員他の[試練の塔]で百層を攻略済み。それならば、バーンに任せても良いと四人は判断した。

「所で忍者さん。今日はお嫁さんは一緒じゃないのかい?」

「それ、ここに来るまでも結構聞かれたでゴザル。今日はたまたま、別行動でゴザルが……そんなに珍しいでゴザルか?」

「うん、とっても」


 そうして始まる、マッチングパーティでの攻略。迫り来る天使の攻撃を、バーンが盾で受けた瞬間にグラシアスが大剣を叩き込む。その間にジンとクーラは、他の天使を攻撃して足止め。後衛天使にライサンダーが魔法を打ち込み、殲滅。ライサンダーを狙う天使達は、リンが切り捨てていく。

 次々に現れる天使達を、素早く処理していくジン達。その中で、ジンは他の四人の動きを意識しながら行動していた。


 バーンは攻撃役と、盾役の両方をこなそうとしているように見える。現在の階層であればそこまで問題は無いが、上の階層になると通用しなくなりそうだ。

 グラシアスとライサンダーは、逆に自分の役割に忠実だ。トッププレイヤー達にはまだ及ばないながらも、安定したプレイングで主にバーンをサポートしている。

 恐らく二人は野良パーティ等で、面識の無い相手と組む事に慣れている。ジンはそう予想した。


 そして、クーラ。彼女はレベルやステータスがそこまで高くないのだろう事は、そのダメージ値で察する事が出来た。しかしながら、その動きは熟練のそれである。

 流れる様な足捌き、迷いのない踏み込み、正確な刺突、そして即座に距離を取って敵の反撃に備える。反撃があればそれを軽やかに避け、すぐにまた踏み込んで刺す。反撃が無ければ、その場合もまた同様。

 レベルやステータスの割に、彼女は戦い慣れている……ジンはそう感じていた。


――フェンシングでもやっていた……? それとも、他のゲームから移籍してきたのかな。


 サービス終了を迎えたLQOラストクエスト・オンラインから流れて来たプレイヤーも、大分多いと聞いている。もしかしたら彼女も、似た様な経緯でAWOに参入したばかりなのかもしれない。

 しかしジンは、その事について問い掛ける様な事はしない。今回はフレンド登録をしている訳でも無い、初対面の相手とのパーティだ。踏み込んでいいラインなど人それぞれであり、そもそも十の階層を攻略するまでの間柄である。

 もっとも今回の共闘を機にフレンドとなり、時間をかけて信頼関係を構築出来たならば聞いてみるのも良いだろう。


 そんなジンの節度に反するかの様に、バーンがクーラに呼び掛けた。

「うん、良いねクーラさん。レベルはまだまだだけど、良い動きだ。もしかして、移籍組かな?」

「いえ、VRMMOはこのゲームが初めてですね」

「それは意外だな、もしかしてリアルでフェンシングでもやってた?」

「特にそういう訳では無いです」

 笑みを崩さないながらも、クーラはバーンに対して壁を作っている。あっさりとした返答から、それに気付いても良さそうなものだが……バーンはそれを察する事が出来ないらしい。


――仕方がないな。


 このまま、バーンの質問攻めを続けるのは良くないだろう。ジンは何気ない風を装い、バーンに声を掛けた。

「バーン殿は、【竜の牙ドラゴン・ファング】のメンバーでござったな。その竜を模した鎧は、やはりプレイヤーメイドの品で?」

「ん? あぁ、そうだな。これはウチの生産メンバーがデザインして作り上げた、ギルメン専用の鎧だ」

「成程成程、そういった小さな所にもギルドとしての一体感を出し、連携を高める趣旨でゴザルな」

「ふっ、そうさ。流石、良く解ってるじゃないか」

 ギルドを持ち上げる方向で会話を誘導し、クーラへの矛先を変える。ジンの目論見は成功で、クーラはジンに笑みを向けた。その笑顔に込められた意味は、ジンだけでなく後ろから見守っていたライサンダーやグラシアスも気付いている。


――話題を逸らしてくれて、ありがとうございます。


 そうこうしている内に、次の敵が見えて来た。お喋りを切り上げて、ジン達は再び戦闘に突入する。

「よーし、先行する! 俺に付いて来てくれ!」

 そう言って駆け出すバーンに、ジン達も続いて走り出す。


……


 結論として、今回のマッチングは当たりの部類だった。バーンが終始主導権を握ろうとする傾向があったものの、他の四人は「別にそれでも構わない」というスタンスだった。お陰で揉める事なく、百階層ボス討伐までスムーズに行けた。


 しかし、最後の最後でまたしてもバーンの空気を読まない(読めない)性質が発動した。

「クーラちゃんさ、ウチのギルドに加入しない? その実力だったら、ギルドのサポートを受ければすぐに強くなれるよ」

 勧誘しそうだな~と誰もが思っていたので、バーンの言葉は予想通りだった。勿論、クーラもだ。

「済みません、今はギルドに所属するつもりはないんです」

「いやいや、それは勿体無いよ! 君はもっと輝ける、その素質があるんだ」

 アイドルに勧誘でもしようとしているのか? 謎の口説き文句で、バーンはクーラに食い下がる。しかしクーラはにっこりと笑みを浮かべて、ある提案をした。


「ひとまず、今日の所はフレンド登録だけお願いします。あ、勿論皆さんもお願いできますか?」

 バーンだけでなく、ジン・ライサンダー・グラシアスにも声を掛けるクーラ。全く含みを感じさせない、いい笑顔である。

「あ、あぁ……そうだな、時間は有限だもんな。解った、フレンド登録しよう」

「俺は勿論、構わないぜ。折角だから、全員フレンド登録頼めるかい?」

「大歓迎さ。ジン君、君はどうかな?」

「拙者も無論、喜んでお受けするでゴザルよ」

 五人はそれぞれ、フレンド登録を交わす。この中の何人と、今後も交流をするかは不明だが。


 そうしてマッチングパーティはここで解散し、次なるマッチングへと向かう事に。

「それじゃあ、お疲れ様でした!」

「あざっしたー! またマチしたら宜しく!」

「結果的に、良いパーティだった。また組めたら良いな」

「縁があれば、また宜しくでゴザル!」

「ご苦労だった、皆。またマッチングしたら、宜しく頼む」

 それぞれマッチングシステムを発動させて、次のマッチングパーティの元へと転移する。待ち受ける先に誰が居るのかは、プレイヤー達には解らない。


 そうしてジンとリンが次に飛ばされたのは、二人パーティとソロ二人のプレイヤーによるマッチングパーティだった。

「【七色の橋】の、ジンさん!?」

「うわ、本物……!?」

「アイエェェェ!?」

「ナンデ!? 忍者ナンデ!?」


************************************************************


 それからもジンは、マッチングパーティを組みながら上層へと駆け上がっていく。その勢いは、前日までのベストメンバーにはやはり劣るが……それでも、次のマッチングで二百階層である。

 ログアウト前にクラン拠点で、仲間達と結果報告会をする予定だ。その為、今夜の攻略はこのマッチングパーティで最後だろう。

「次は、どの様なマッチングになるでしょうか」

「頼りになる相手だと、嬉しいでゴザルなぁ」

 ここまでマッチングしたプレイヤー達は、やはりジンを見て驚いた。しかしすぐに驚愕は歓喜に変わり、誰もが攻略に対する意欲を増した。それだけ、ジンの存在が大きいという事だろう。


 しかし、今回は例外を引いたようである。

「……ちっ、マジかよ」

「おや……奇遇でゴザルな」

 一番に転送されたジンに次いで、姿を現したのは顔見知りの相手だった。そう……フレンドではなく、顔見知りだ。

 金色の髪に、整った顔立ちの青年。そして、過去にジンと衝突した事がある人物……ギルド【ベビーフェイス】のギルドマスターである、ローウィン。傍らに立つのは、彼のPACパックであるルイスだ。実に、まさかのマッチングである。


 ジンの姿を見て、表情を歪めたローウィン。しかし彼が何かを口にする前に、三人目のプレイヤーが転移してくる。それは先程、ジンとマッチングした少女・クーラだ。

「あ、またお会いしましたね!」

 そんなクーラの言葉に、ジンだけではなくローウィンも反応を見せた。

「クーラ殿」

「やぁ、また君と組めるとはね」

 互いの言葉が被って、ジンとローウィンは顔を見合わせる。どうやらクーラはジンとのマッチングの後に、ローウィンともマッチングしていたらしい。


 するとそこへ、四人目と五人目が同時に転送されてきた。

「あん? こいつは面白れぇじゃねぇか」

「あらあら、楽しいパーティになりそうね」

 黒いジャケットの青年に、大胆なバトルドレスの女性。ジンはその二人と、フレンド登録を済ませている間柄である。


PKerプレイヤーキラー……!? クーラさん、下がるんだ!!」

「え……いえ、あの……」

 ローウィンがクーラを庇う様に前に出るが、そんな彼の様子にクーラは困惑している。その様子を横目に、ジンは二人と向き合った。

「よぉ、忍者」

「こんばんは。あら? 今日はお姫様は一緒じゃないのね」

「こんばんはでゴザル、グレイヴ殿、エリザ殿。姫は今日は別行動でゴザルよ」

 PKギルド【漆黒の旅団】のギルドマスター・グレイヴ。そして、彼に付き従うPKerの女性・エリザ。この二人が、残るパーティメンバーである。


「ん? お前さんは……」

「あら、また会ったわねお嬢さん」

 ローウィンの陰に隠されていたクーラに気付いた二人は、気さくな態度で彼女に声を掛ける。そんな二人の様子に呆気に取られているローウィンの陰から出て、クーラも明るい表情で返事をする。

「さっきぶりです、お二人共。また宜しくお願いしますね!」

 どうやら彼等とも、クーラはマッチングしていた様だ。しかもその会話から察するに、特に問題は無かったらしい。まぁグレイヴとエリザなので、誰彼構わず襲い掛かる様な事は無いだろう。


「ふむ、見事に前衛オンリーでゴザルな」

「フン……別に構いやしねぇ、雑魚モンスなんぞ斬りゃあいけんだろ」

 挨拶もそこそこに、ジンとグレイヴはこのパーティでの戦術について話し始める。するとエリザとクーラも、その会話に参加した。

「幸い、ここから二百階層までは魔法必須ではなかったはずですね」

「もし魔法攻撃が必要な時は、忍者君に頼る事になるかしら」

 ジンもクーラも、PKerである二人を警戒した様子は無い。ローウィンはそんな二人を、信じられないといった表情で見る事しか出来ない。しかし彼も、このマッチングパーティのメンバー。そう思って、ジンはローウィンに話題を振る。

「ローウィン殿は、魔法を使う手段はあるでゴザルか?」

「は? あ、いや……俺も、魔法は使えねぇ……ルイスもそうだ」

 そのままローウィンも会話に参加し、五人で攻略方法について簡単な打合せをする。とはいっても、結論は単純明快。とにかく天使達の先手を取り、徹底的に攻めるというもの。実に脳筋な作戦であった。


……


 異色のマッチングパーティはとりあえず話を纏め、攻略を開始。迎え撃とうとする天使達に対し、凄まじい勢いで攻め込んでいく。

「疾風の如く!!」

 天使達を視認したら、ジンがそのAGIを解放。全力疾走からの先制攻撃で、天使達のタゲ取りを行う。ジンが天使達を引き付けている間に、残る四人が後を追う。


「ガラ空きだっ!!」

 長剣を振るい、天使を斬り付けるローウィン。その剣捌きは実に様になっており、与えているダメージも決して低くはない。これまではパッとしない成績であまり目立たないが、何だかんだで彼も強力なプレイヤーである。

 更に驚く事に、彼は両手で長剣を扱っていた。それはローウィンが、偶然手に入れたスキル【双剣】の力だ。アークの【デュアルソード】とは違い、パッシブスキル【二刀流】のみで専用の武技が無い。ただ両手に剣が持てるだけの、【デュアルソード】の劣化版スキルである。

 とはいえ、使えないスキルなどでは断じて無い。【長剣の心得】の武技を両手の剣で発動できるだけでも、優れた性能を有している。


「いきますっ!!」

 そしてクーラも、正確で鋭い刺突を繰り出していく。先のジンとのマッチングパーティでは、一撃入れてすぐに離れていた彼女。しかし現在は、連続しての攻撃で攻めている。離れるタイミングも、天使の反撃の挙動を確認した瞬間。実にベストなタイミングでの離脱である。


「チッ、もうちょい楽しませてみせろや!!」

 グレイヴは相変わらず、苛烈な攻撃を天使達に叩き込む。彼は標的の動きに合わせ、相手が最も攻撃して欲しくない部分を狙っている。相手はその攻撃を受ける事で、行動が阻害され動きを鈍らせるのだ。それを可能にするスピードとパワーも侮れないが、何よりも特筆すべきはその豊富な戦闘経験である。


「アハハッ、切り刻んであげるわ!!」

 そしてエリザも、しなやかさと力強さを兼ね備えた戦鎌捌きを披露している。新体操の様な変則的な動きは健在で、今も天使の攻撃を絶妙なバランス体勢で避ける。同時に手首と指を巧みに使い、戦鎌を振るい天使の身体にダメージエフェクトを刻み込んでいく。


 そしてPACパックであるリンとルイスも、戦力としてしっかり貢献していく。

「……させません」

 エリザを狙う天使の魔法詠唱を、小太刀の一撃でヒットストップ。更に素早い斬撃を叩き込むのは、くノ一スタイルのPACパックであるリンだ。

 彼女はジンと共に様々な戦いを経験し、そして戦術や立ち回りについても学習し続けて来た。味方のフォローはお手の物で、実に頼りになる存在だ。


「むっ……させん!!」

 斥候スカウト型の天使が、クーラを狙って接近するのに気付いたルイス。彼は手にした小盾で天使の攻撃を受け止め、右手で握る短槍を突き出す。

 彼等【ベビーフェイス】は小規模ギルドであり、それ故に厳しい戦いを常に強いられてきた。そんな激戦に次ぐ激戦で得た戦闘経験の蓄積は、リン達と比較して勝るとも劣らないと言えよう。


 そして、ジン。

「【狐風一閃】!!」

 魔技と武技を融合させた範囲攻撃が、天使達に襲い掛かる。更にその一撃で、運良く【ディザスター】が発動。周囲に居た天使達のHPゲージが、一瞬で消失。一斉に天使達が崩れ落ち、戦闘終了となる。

「凄い……!!」

「あれが、噂の即死攻撃か……」

「ほぉ……大方、低確率で発動するって所かね」

「だとすれば、パッシブスキルでしょうね。アクティブで使えるとしたら、凶悪過ぎるわ」

 驚くクーラとローウィンに対し、PKer二人は冷静にジンのスキルについて考察。そんな四人に振り返り、ジンは苦笑しながら小太刀を鞘に納めた。

 これで百九十九階層の敵は、全て殲滅済み。残るは、二百階層でのボス戦である。


――流石は上位のプレイヤー、今日一番の攻略速度だわ。それも後衛不在であるにも関わらず、大した損害は無しで。


 ボス戦に向かう中で、クーラはこのマッチングパーティについて思考を巡らせる。

 ローウィンは尖った所の無い、安定感を感じさせるバランス型のビルド。PACパックとの連携もしっかりとしていて、お手本の様な前衛プレイヤーだ。

 グレイヴは対人戦で培った技術を遺憾なく発揮しており、ビルドはSTR・AGIメインと予想される。剣での斬り合いを想定した、攻撃的なビルドだ。

 エリザはその動きから、奇をてらったPKerと見られている。しかしその本質は自分の得意分野を生かしただけであり、動きだけでなく足捌きや武器の扱いが非常に上手い。ステータス配分も、堅実なものと思われる。

 そして自分の得意分野を、極限まで突き詰めたのがジンだ。ユニークスキルを保有し、状況に応じた戦法で如何なる敵も寄せ付けない。回避盾としても遊撃としても機能する、破格の性能の持ち主といえるだろう。


――社長の台詞の真似ではないけれど、良い縁に恵まれたとしか言い様がない。最も、口説き文句は遠慮するけれど。


 どうやらローウィン、一度目のマッチングでクーラに甘い台詞を吐いたらしい。そしてクーラはそれに、はっきりとNOを突き付けた様だ。それでも二度目のマッチングで気まずい雰囲気になっていない辺り、上手い断りの言葉であったのだろう。何だ、やっぱりいつものローウィンじゃないか。

 そんなローウィン節は置いておくとして、パーティが進む先にボスの姿が見えて来た。そこでジンは、メンバーにある事を提案する。


「拙者、これが今日最後の一戦なのでゴザルが……温存していたスキル、使ってもいいでゴザルか?」

 その発言に、ローウィンは表情を歪める。これだけの凄まじいプレイングを見せていたジンは、まだこの先があるのだと思い出したから。

「【変身】か? それなら……エリザ、お前も見せてやったらどうだ」

「ちょっと御頭、勝手にばらさないで頂戴。ビックリさせようと思っていたんだから」

 そう言いつつ、エリザがジンに並ぶ様に立つ。どうやら、彼女も【変身】を手に入れているらしい。

「いや、普通にビックリでゴザルよ」

「エリザさんも、【変身】するんですか? 楽しみです!」

「っつーか、PKerに【変身】とか最悪じゃねぇか……」

「ハッ、心配要らねェよ。【旅団ウチ】に所属する以上、PKする時は相手が【変身】持ちじゃなきゃ使わねぇからな」

 その理由は彼等らしい理由で、「そんなPKは面白くないから」らしい。


 それはさておき。

「「【変身】!!」」

 ジンは勿論、いつもの変身ポーズ。エリザは特にポーズなどは無いが、その長い髪をかき分けてスキルを発動する。ジンの狐面の特撮ヒーロー風の【変身】に対し、エリザはレオタード風のスーツの上に鎧や腰布が装備された妖艶な装い。ケリィの変身装備に近いタイプなのだが、これは同じギルドメンバーのムジークの作である。


 そうして開始されるボス戦は、変身した二人による引き付けが功を奏した。どちらかがボスのタゲ取りをしている間に、残るメンバーによる全力攻撃。道中の天使よりHPが多いはずのボスではあるが、わずかな時間で残り二割程度まで減らされてしまった。

「ハッ……簡単過ぎるぞ、天使サマよぉっ!!」

 グレイヴの渾身の一撃がクリティカルで入り、ボスがダウン状態になる。

「ま、お前は悪くねェ。相手が悪かったな」

 そう言ってグレイヴは長剣を振りかざし、溜めに入る。ここで勝負を決めるのだろうと察したジン達も、彼に続くべく駆け寄った。

「【デストラクトスラッシュ】!!」


 グレイヴの強烈な一撃を喰らった天使だが、それで終わりでは無い。

「私も……っ!! 【スターダストフェンサー】!!」

「決めるぞ、ルイス!! 【ブレイドダンス】ッ!!」

「了解、マスター!! 【アクセルドライブ】!!」

 クーラ、ローウィン、ルイスは心得スキルの奥義を発動。激しい連続突き、豪快な剣舞、短槍の六連撃が天使のHPを更に減らす。


 そしてエリザは、戦鎌を振り上げて口の端を釣り上げた。

「【ラウンドスレイン】!! バラバラにしてあげるわ!!」

 普段は妖艶でありながら、どこか気品を感じさせる彼女。しかし攻撃の時はサディスティックな笑みを浮かべ、情け容赦の無い苛烈な攻撃を繰り出す。


 そして、ジンとリン。二人は息を合わせ、両手の小太刀を構え駆け寄る。そしてエリザの攻撃が終わると同時に、その俊敏性を駆使してボスに接近。

「「【一閃】!!」」

 激しいライトエフェクトが発生し、ボスのHPがついに尽きた。ダウン状態のまま、地面に横たわったボスは昇天するかの様に消滅していく。


「わぁ、やりましたね! 今日一番の快進撃だった気がします!」

「あぁ……俺も、そう思うよ」

 ジンやPKerと組んだ結果である事が、気に入らないのだろう。しかしそれを口に出す事はせず、ローウィンはほの暗い感情を押し殺して同意を示した。

「おい忍者、お前はもう落ちんのか」

「でゴザルな。そろそろ、ログアウトしなければいけない時間でゴザル」

「ふん、規則正しい生活してんじゃねーか」


 ジンとグレイヴが会話している間に、エリザはローウィンとクーラに歩み寄る。

「あなた達も、お疲れ様。今回組めて、楽しかったわ」

 戦いから離れれば、普段通りの色っぽいお姉さんといった雰囲気のエリザ。そんな彼女の言葉に、二人もこのパーティはここで解散なのだと実感した。

「……まぁ、俺もそこそこ楽しかったさ。また機会があれば、宜しく頼む」

「私もです、マッチングありがとうございました!」

 そこにジンとグレイヴも混ざり、互いの健闘を称え合ってパーティは解散。ジンはそのまま[試練の塔]を離れ、クラン拠点の城へと向かうのだった。

次回投稿予定日:2024/4/30(本編)

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― 新着の感想 ―
[良い点] おしゃぶり未満、暗黒レベルのニチャり手、竜の牙ェ…。 両手で長剣が使えるって、前衛として大分アドなのでは? 相変わらず空気が美味いPKerであるw
[良い点] 頭領様 マッチングは楽しかったですか? 頭領様が出現された際 皆様方の反応 堪能させていただきました [気になる点] おしゃぶりの方は 未だ 頭領様に対して不遜なのですね 斬って…
[良い点] やはりジンくんとマッチングした反応はアイェ~かSSRきた~ですねwグレイヴさんたちもアイェ~かなもしくはげぇ~関羽的反応かもwそして遣らかすドラファンお後がよろしいようで。
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