18-08 会談しました
二月四日……第五回イベントの開幕を、翌日に控えたその日。【七色の橋】のゲーマー筆頭である隼と拓真は、中学校で高校受験に備えて自習していた。
普段からゲームではその知識量と、ゲームの腕で仲間達を支える二人。そんな二人も、学校では普通の学生である。
いや、普通は少々過小評価が過ぎるかもしれない。隼は学年トップクラスの秀才であり、拓真も学年全体では十位以内に入る成績優秀者である。それでゲームでもトップランカー級なのだから……と、思っても無理はない。
二人は単純に、ただひたすらに効率的に物事を進める事に長けているが故である。やるべき時にやるべき事をやり、楽しむ為の時間を確保している。ほら、例えば最愛の恋人とのデートとか。勿論ゲームもだけど。
それで成果を残しているのは、二人のスペックが単に高いだけではない。彼等自身が、相応の努力を積み重ねているからこその結果なのである。
そんな二人は、一カ月を切った[日野市高校]の入学試験に向けて勉強をしている所だった。
「ねぇ、隼?」
「うん? なんスか?」
「この件、どう思う?」
そう言って拓真がシャープペンシルの先で突いたのは……≪精霊のキーアイテム≫という文字だった。勉強してねーや。
とはいえ二人は真面目に普段から勉強しているので、受験を前に慌てるレベルではない。逆に受験対策で教室か図書室での自主勉強が許可されているので、これ幸いと示し合わせて図書室で合流したのだ。
さて、拓真が言いたいのは≪精霊のキーアイテム≫の情報について。その情報を、カイセンイクラドン達がどうするだろうか? という事である。
「普通ならその情報を使って、自分達の利益を~ってなるんスけど……相手がカイさんッスからねぇ」
隼も拓真も、仁の話を聞いて「カイセンイクラドンがわざわざそう言うのには、理由があるのではないか?」という考えに思い至っていた。
「うん、今時珍しいレベルで良い人だからね。しかもそれで結果を出しているんだから、ある意味で仁さんや英雄さんと同類じゃない?」
「あー、確かに。あの人望の厚さは、仁兄や英雄さんと似てるッスね」
仁も英雄も、自分の利益を度外視する程のお人好しという訳では無い。しかし筋を通したり、相手の立場や意志を尊重するという点では確かに似た者同士かもしれない。
「そんなカイさんが、ある意味では情報公開の優先権を主張する。ここに、あの人の何かしらの思惑があると思うんだよね」
拓真が真剣な眼差しでそう告げると、隼も苦笑して頷いた。
「そうッスね。しかも自分達の為だけじゃなくて、ゲーム全体の為の思惑」
「やっぱりそうだよね」
カイセンイクラドンは、DKC時代から初心者を支援するという活動に熱心だったプレイヤーの筆頭だ。それ故か、彼は自分のギルドだけではなく他のギルドからの評価も高いプレイヤーである。例えその理由が、本人が公言している通り……「プレイヤー人口が確保される事で、運営がサービス提供を維持する為」だったとしても。
「そうなると、狙いは今のパワーバランスに関わる……ってのが、俺の考えッスね」
「やっぱり隼もそう思う?」
二つの大規模ギルドが牽引するクランと、自分達の様な少数精鋭が揃ったギルドのクラン……そしてそれに対抗し得る実力と知名度の伴った、中規模ギルド同士が手を取り合ったクラン。
今後のイベントでも、名前が確実に挙がるのはこの四クランだろうと誰もが察するに余りある。そしてこの状態は、意外にバランスが取れているのだ。
”このAWOでなら、頑張れば少数精鋭でも大規模と渡り合える”
”大規模だからって余裕という訳では無い。それならば、自分も大規模ギルドの貴重な戦力になれるかもしれない”
”二大ギルドや少数ギルドは脅威だが、自分達が加われば中規模でも上を目指せるかもしれない”
ちょくちょくそんな書き込みが掲示板に書き込まれるのが、現在のAWOの状況だ。これは大規模ギルド・中規模ギルド・小規模ギルドによるイベント成績の差が大きくなく、どの立場でもゲームで上を目指せるという印象を与える。
同時にそういった、プレイヤーの勢力バランスを意識したイベント……また第三回の様な、生産系プレイヤーにスポットライトを当てるイベントを企画した運営だ。そんな運営に対する声は、他のゲームの運営会社に比べて好印象なものが多い。
「更にクランシステムや応援者システムのお陰で、ランカーに迫る事が出来るかもしれない……この辺のシステムを実装したタイミングも、絶妙だった。それも『こうすればもっとゲームの攻略に有利だよ!』なんて感じじゃなくて、自分達で見付けさせるのがAWOらしいね」
「それはそう。あとユニークスキルやエクストラクエストの条件とかも、ゲームを本気で楽しむプレイヤーが手に入れられる様に設定されてるとしか思えないッスよ」
「やっぱそうだよね? っと、話が逸れちゃったね」
ゲームの話をし出すと、話があちらこちらへと飛んでしまう。これはゲーマーあるあるかもしれない。
「そうなるとやっぱり、カイさん達の狙いは……」
「そうッスねぇ……やっぱ大規模ギルドを利用して、バランス調整に使うんじゃないッスかね」
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その夜、とある場所にAWOを代表するプレイヤーが集まっていた。
【聖光の騎士団】ギルドマスター・アーク。
【森羅万象】ギルドマスター・シンラ。
【遥かなる旅路】ギルドマスター・カイセンイクラドン。
二つの大規模ギルドと、中規模筆頭ギルドを率いる者達である。
最初に口火を切るのは、この三組が集まるきっかけを作った者……カイセンイクラドンだった。
「まずはイベント前で忙しい中、時間を割いて貰った事に感謝する」
彼がそう言うと、アークは一つ頷くだけに留める。イベント開催前日……しかもレベルキャップ解放があったのだから、アークとしては全力でレベリングに向かいたいのが本音だった。
そんなアークが優先タスクを差し置いてでもここに訪れたのは、呼び出した相手がカイセンイクラドンだったからだ。アークは彼を高く評価しているし、決して侮ってはいない。
――しかも、呼び出したのが【聖光】と【森羅】だ。余程の事が無い限り、そんな行動には出ないだろう。
無言ながらも一応の反応を見せたアークに苦笑し、シンラは気安い様子でカイセンイクラドンに答えた。
「それは、お互い様でしょう~。それでも私達に声を掛けたのだから、何か大切な事があるのでしょう~?」
シンラもアーク同様、この集まりは重要な何かについてのものだと察している。そうでもなければ、カイセンイクラドンが自分達を集める理由は無いと確信していた。
――それはイベントの準備や、レベリングを後回しにするべき要素ね。カイセンイクラドンの事だから、本当に大事な事だわ。
なんだかんだで、アークもシンラも……そしてカイセンイクラドンも、互いの事を高く評価している。また、一勢力を率いるだけの器を持つ人物であると認めているのだ。
これまでは「それなら自分達はその上を行く」と、対抗心を燃やしていた。しかし、いつからか……まずは相手を知り、対話する事が必要だと思い始めたのは。
その理由など、一つしかない。とあるプレイヤー達によって、自分達はいつの間にか変わっていたからだ。
そんな考えを思考の片隅に置きつつ、カイセンイクラドンは話を進める。
「今回こうして来て貰ったのは、君達のギルドと……ある種の取引をしたいと考えたからだ」
取引という現実的な単語を耳にして、アークとシンラの表情が真剣なものになる。場合によってはリスクを負う……もしくは、デメリットが発生する可能性がある。それを考えれば、楽観視する事は出来ないだろう。
勿論カイセンイクラドンも、意図的に”取引”という言葉を使った。安易に”情報共有”で終わらせられる事では無いし、自分の考える展望を実現するにはこの二つのギルドの存在が必要不可欠だ。
だからこそ、その繋ぎを作る為にカイセンイクラドンは取引を持ち掛けたのだった。
「取引……ねぇ~。内容次第かしらね~?」
「そうだな。具体的な内容の提示を願いたい」
そんなシンラとアークの反応に、カイセンイクラドンは最初のハードルをクリアしたと判断する。何故ならば、自分達は仲良しこよしのお友達ではないのだ。
DKC時代から第四回イベントまでは、互いに警戒すべき対象として認識していた。しかし今は、頂点の座を目指して鎬を削る好敵手……というのが、最も適した表現だろう。
そして更に一歩踏み込む為のカードは、今現在彼の収納に収められている。
「我々は昨日、精霊に関わるキーアイテム……それを手に入れた。その経緯や考察について、情報提供が可能だ」
カイセンイクラドンの言葉に、アークとシンラが反応を見せた。二人は平静を装っているし、反応したのは一瞬の事だったが……彼等もまた、精霊のキーアイテムを求めているのは明白だった。
「成程ね~、それは確かに魅力的な話かもしれないわ~……でも、取引だものね~」
「あぁ……そちらの要求次第だな」
二人の反応は、カイセンイクラドンの……というよりは、トロロゴハンが予想した通りのものだった。精霊クエスト……その先にあるであろう浄化クエストという、早い者勝ちの重要な要素に繋がるキーアイテム。それを利用して、彼等は【聖光の騎士団】と【森羅万象】との取引を成立させる。
その本当の狙いは、ここからである。
「我々が頼みたい事は、キーアイテムを入手する手段に関わる事だ。キーアイテムの入手方法について、ある協力者達のお陰で一つの仮説が立てられた。この情報を秘匿するつもりはないが……あくまで仮説は仮説に過ぎないのが、悩みどころだ」
「成程……不確定な情報を公にする訳にはいかない、という事だな?」
「確かに、理解できるわね~……情報の正確さは、本当に重要だもの~」
中途半端な、または間違った情報が広まる事は往々にして起き得る。無名や匿名の個人がそれを行うならば、そこまで大事にはなりにくい。
しかし、【遥かなる旅路】がそれをやった場合はどうだろうか? 中規模ギルドの筆頭とされる彼等だ、外部の反応は容易に想像できる。それはアークも、そしてシンラも理解出来たし、自分達が同じ立場ならば慎重を期するだろう。
だからこその取引であり、これがカイセンイクラドンの展望を実現させる一手になる。
「そこで俺達は、検証が必要だと考えた。その検証に、君達の力を借りたい」
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三人のギルドマスターによる会談が終わった後、アークはすぐにギルドホームへと帰還した。
「ふぅん……精霊関連のアイテムの情報ねぇ」
アークを出迎えたシルフィが、目を細めて笑う。この部屋に居るのは彼女だけではなく、幹部メンバー全員が揃っていた。
「彼等がそれを入手出来たのは、不思議でも何でも無い。しかし、その検証依頼については……ふふっ、中々面白い事をしてくれる」
「入手方法の検証を我々に依頼し、その情報が限りなく正確に近いものだと確かめる……面白い建前だな」
ライデンとギルバートがそう言うと、アークが薄っすらと笑みを浮かべて頷く。
「俺も同じ感想だった。彼の本当の狙いは……ゲーム内の勢力バランスを維持する為の、布石だろう」
現在、精霊関連のキーアイテムを入手し、精霊からクエストを受注し、そしてマップ浄化を達成したのはクラン【十人十色】だけだ。そして彼等はその情報を秘匿せず、精霊や妖精といったこれまで目撃情報の無かった存在も含めて公開した。
それは実に公平で、一人のプレイヤーとしてはありがたい事だ。しかし同時に、勢力を纏め上げる立場からしてみると少しばかり頭の痛い事でもあった。
「掲示板では既に、ゲーム内に残る浄化クエストは六つでは無いか……などと、話題になっていますね」
「あぁ。セバスチャンの言う通り、その可能性は高い。カイセンイクラドンの情報と照らし合わせると、尚更そう思える」
そう言ってアークは、幹部達に視線を巡らせる。
「では、三つのギルドで話し合った結果について話そう。恐らく、残る枠は六つ。そして、【導きの足跡】はその足掛かりとなるキーアイテムを入手した。その際に、外部の協力者が居たと彼は口にしていたが……」
……
その頃シンラも、ギルドの幹部メンバーを集めて会談の件について話をしていた。
そこで、アーサーがある点について口にした。
「それにしても、話に出て来た”協力者”……多分、それって間違いなくアイツだよなぁ……」
そんなアーサーの呟きに、アーサーガールズが反応する。
「え、何? アーサー、協力者が誰か解ったの!?」
「協力者が居たという以外、全然情報が無いのに……アーサーさん、凄いです!」
「うん……お兄ちゃん、それって誰なのかな?」
アーサーはシンラに視線を向ければ、彼女は笑顔で頷いた。どうやらシンラも、アーサー同様に協力者が誰か気付いているらしい。
「多分、ほぼ確実にジンだな」
「私も同意見ね~。となると、勿論一緒にお姫ちゃんもいたはずだわ~」
断言する二人に、クロード達は目を丸くして言葉を失っていた。
「カイセンイクラドンさんが、妖精関連のキーアイテムを入手した……そして入手方法の法則性に気付いた。そう断言出来たのは、既にキーアイテムをゲットした事がある協力者が一緒に居たからだろ?」
そこで、ハルが「あ、そっか!」と声を上げる。ついでに手も上げた。
「それに、情報を明かしても構わないと考えるのは……マップ浄化を達成済みの【十人十色】のメンバーだから!」
挙手しながら意見を言うハルにほっこりしつつ、アーサーは苦笑して頷いた。
「そーいう事。それに自分達が入手した時の状況を他人に教えるなんて、百パー善意だろ? そんな善人、あの夫婦くらいじゃね」
「あー、そう言われると納得出来ちまう……」
「確かに……凄い説得力だ……」
……
同じ頃、ライデン達も同じ考えに行き着いていた。
「とまぁ、ジン君とヒメノさんが絡んでいる可能性が大。それもあってカイセンイクラドンは【PS】と【VC】だけではなく、【LOK】と【FS】も巻き込んだ検証を思い付いたんだろうね」
「ふむ……しかしライデン、その検証に何故我々を巻き込む必要があったのだろうか? 自分達で、その仮説を立証すれば良かったはずだ」
クルスの疑問は最もである。そんな彼の疑問に答えたのは、意外にもアークだった。
「我々を巻き込んだのは、現在の勢力バランスを維持する為。同時に、我々と【森羅万象】……二つの大規模ギルドと協力して事に当たる機会を、もう一度作る為……だろうな」
もう一度という言葉に、誰もが第四回イベント初日の夜の事を思い出す。自分達はスパイ集団【禁断の果実】を止める為に、一丸となって戦った。
「流石にあの規模のトラブルはそうそう起きないだろうが、小さなトラブルが発生する可能性は大いにあり得る。そういった事態に陥った場合、協力して事に当たる事が出来る……カイセンイクラドン氏は、そういった関係性を構築するつもりだろうね」
「そういう事か……成程、それは確かに彼の考えそうな事だ」
ライデンの解説に、クルスも納得したらしい。その口元は、わずかに笑みの形になっていた。
「それにしても、キーアイテムが手に入るのが≪ギルドクレスト≫の素材があるポイント……か。残る五箇所へ、早々に向かいたいね」
「妖精探しもありますからねぇ……ったく、どうやったら見付けられんだか」
ヴェインの言葉に、アリステラも「全くですわ」と溜息を吐く。
「それにしても、我々の人数で誰一人として妖精に遭遇しないというのも不思議ですわね? 妖精捜索だけではなく、毎日素材集めやレベリングの為にあちらこちらへメンバーが……あら?」
アリステラは真剣な表情で、頭に浮かんだある予想について思考を巡らせる。そして彼女は、ギルバートとライデンに視線を移した。
「ギルバート様、ライデン様。お二人はジンさんから、妖精に出会った時の事を伺っていらっしゃいますか?」
そんなアリステラの問い掛けに、ギルバートとライデンは顔を見合わせる。
――ジン達としても聞かれたくない情報という訳ではないだろうし、それならば彼等は事前に前置きするタイプだ。
――そうだね、この程度は問題無いだろう。
ナチュラルに視線で会話した二人は、アリステラに視線を戻して頷いた。
「あぁ、例の情報を公開した後にね」
「その時は確か、クラン拠点を建てる場所を探していたそうだ。その際に妖精と遭遇したのは、ジン君とヒメノさん。同行していたのが【ふぁんくらぶ】のイナズマという娘に、ハナビという女性。そして、リリィさんだそうだよ」
何かしらのヒントになればと思ったライデンは、詳細な情報をアリステラに伝える。当時の状況を聞いたアリステラは「成程……」と頷き、説明に対する感謝の言葉を告げた後、アークに視線を向けた。
「アーク様、妖精と出会う方法について……一つ、考えがありますわ」
……
協力者の正体について話が纏まったのを確認し、シンラは次の話題へと舵を切る事にした。
「さて。私達も浄化クエストがあると思われるマップについて、既に目星は付けていたわ~……問題はキーアイテムと、妖精。そして、キーアイテム入手のヒントを得ることが出来た……これは、大きな前進ね~」
シンラがそう口にすると、オリガが手を挙げた。
「もしかしたら、キーアイテムがあって初めて妖精に会う事が出来るんじゃ!?」
オリガが我が意を得た! といった具合でそう言うが、クロードが首を横に振る。
「いや……ゲーム的に考えると、それは流石に難易度が高いだろう」
「あー、それもそうかもっすね……」
「まぁ流石にそれは無さそうだけど、妖精に会うのも進めないとな」
オリガの考察は否定されたが、妖精の件も考えなくてはならない。キーアイテムを手に入れる方法の様に、妖精に出会う為にも何かの条件があるのではないか? シンラもそう考え、頭をフル回転させ始める。
「シンラ、お前はどう……む、思考モードに入ったか」
「あー……そうなると、しばらくこのままだな」
集中し始めると、シンラは思考の海に沈み込む。声を掛けても耳に入らないし、軽く揺するくらいでは気付かなくなるのだ。
「妖精というと、やはり小さくて羽が生えているイメージだな。あと、トンガリ帽子をしていたり」
「確かにそうね……スクショとか無いのかしら?」
「お兄ちゃん、忍者さんに聞いてみるのはどう?」
「流石にそう易々と、教えてくれ……そうだな、アイツは」
賑やかに会話をし始めるメンバーに、クロードは溜息を吐く。
「全く……お前達はすぐに騒がしくなる。この騒がしさでは、妖精がいたとしても逃げ出すかもしれないぞ」
そんなクロードが苦言を言う姿を見たハルは、ある事に気付いた。
「ねぇ、クロードさん。私達が探索する時って、基本的に戦っているよね?」
「む? あぁ、それはそうだな。レベリングやモンスターの素材集め、クエスト……そういった活動をしていれば、戦闘になるからな」
「だよね……もしかしたら、それかな?」
ハルはシンラに歩み寄り、耳元に顔を寄せる。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん! もしかしたら、妖精さんに会えるかも!」
珍しく大きな声を出すハルに、シンラも思考の海から浮上した。させられた。
「わぁっ!? もう……ハル、VRでも人の耳元で大声出すのはダメよ~」
「いや、お前のその癖の方を何とかするべきだろう」
「クロードが冷たい~……で、ハル? 妖精に会う方法が解ったの?」
シンラがハルに視線を向けると、ハルは可愛らしく微笑んで頷いた。
「合ってるか解んないけどね? 妖精さん達は、戦闘していたら逃げちゃうんじゃないかな!」
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二つの大規模ギルドが、妖精と遭遇する方法について思い至ったその頃。ジン達は今日も今日とて、レベリングと【スター】スキルオーブ取得に精を出していた。
「はぁはぁ……これで、四つ目……!!」
装飾品でステータスを盛ったイカヅチは、今回の戦闘で【スピードスター】【マジックスター】【ガードスター】【ブレイクスター】を入手。勿論これらは、ジン・ヒメノ・レン・シオンのユニークスキルの限界突破用だ。
「イカヅチ、ありがとうでゴザルよ。お陰で助かっているでゴザル」
「本当ね。イカヅチ君もレベルが上がってるし、戦い方も上手くなっているんじゃない?」
「んじゃ、ケインさんとユージンさん用に【サイレントスター】と【トリックスター】もゲットするッスよ。ついでに【八咫烏】のも一個くらいはあっても良いッスかね~、考察用に」
「お前は鬼か!? いや、しかしユージンさんにゃ世話になってるし、ケインさんもすげー良い人だし…………解ったよ、やるよ! やる!」
ジンとミモリが褒めて、ハヤテが落として、イカヅチが乗せられる。そんな四人の姿を見て、同行しているメンバーは笑みを零した。なんと麗しき、仲良しイトコの光景であろうか。
そう、今夜はイトコ勢揃いでの活動である。そしてジンが居ればヒメノが居るし、ハヤテが居ればアイネも居る。
しかし、それだけではない。
「兄さん、本当にレベル上がってるね~! これならイベントで、ボク達とパーティマッチングしても行けそうじゃない?」
「わ、私が厳しいかなぁ? ほら、私生産専門だし……でも、お兄さんと一緒に探索は楽しそうだし……」
「ふむ……【トリックスター】の御礼となれば、イカヅチ君の装備の調整もちょっと本気出さないといけないね」
「そうですねぇ。私もユーちゃんのお手伝いをしましょう」
更に今夜はイカヅチから誘われて、イナズマとハヅキも居る。ついでに、暇だったユージンとケリィまで居た。
ちなみに戦力バランス的に見ても、結構なガチメンバーである。ジンとユージンの攪乱、アイネ・イカヅチ・イナズマ・ケリィが前衛役、ミモリとハヅキで後方支援、トドメは主砲役のヒメノとハヤテ。魔法が必要になれば、ジン・ヒメノ・ユージンによる魔技と、ハヤテの魔力の弾丸、ケリィの魔法剣がある。
そのまま彼等はエクストラボスを利用したレベリングを敢行し、残る三つの【スター】スキルを手に入れる事に成功した。
その際に思わぬ副産物を得る事が出来たのだが……それが日の目を見るのは、翌日から始まる第五回イベントでの事だった。
次回投稿予定日:2024/3/13(幕間)




