18-07 報告しました
後半に糖度あります!!
エクストラクエストをクラン【導きの足跡】と共にクリアした後、ジンとヒメノはそのままギルドホームへ帰還した。
ジン達の少し後に仲間達もホームへと戻り、結果報告をする訳だが……。
「ジンとヒメから目を離すと、予想だにしない何かを拾ってくるのはもうお家芸なのかな?」
「そ、そんな事……無いと思うよ……?」
そう言いつつ、少し視線が泳ぐジン。確かに二人だけで行動すると、予想外の出来事に遭遇する確率が高い気がする。
そんなジンを見て、イカヅチが「どういう事だ?」と首を傾げる。
「ジンと嫁さんが二人だけで行動すると、何かやらかすって事か?」
イカヅチに話を振られたセンヤ・ネオン・ヒビキが、苦笑する。
「ん-、やらかしという訳では無くて……」
「むしろブレイクスルー?」
「いっそ、神ドローですね」
そうして振り返る、極振り夫婦の探索デートの収穫会議。
「第二エリア到達直後に二人で行動させてみたら、ユージンさんとダンジョンでばったり会って、そこでエクストラクエストに続編があるって解ったんだよね」
「お陰で神獣系ユニークスキルの限界突破について、早々に動き出せましたね……」
「その次は……確か第三エリアの手掛かりを探す為に分散したっていう時かしら? フレイヤさんから聞いたけど、≪精霊の座≫のギミックを発見したのってジン君とヒメノちゃんよね?」
「す、すごい……よね? だって、砂漠って……変化が、少ない……よね」
「第三エリアに到達したらしたで、≪友好の証≫について早々に突き止めて、狐耳夫婦になって掲示板を騒がせていましたよね」
「その後、あの偽物騒動でしたね……そこでも、空から降って来て助けてくれました」
「そういえば、その後で探索中にケリィ様と遭遇なさったのでしたね。[神竜殿]について情報を頂いて、【比翼連理】を手に入れられておいででした」
「で、この前の教会の件ッスね。修繕クエストを進めて、それが終わったと思ったらスタンピードだったッスねぇ」
「それが縁で、シキさんと知り合えたんだよね」
「そうして今回……ですね」
「いやはや、凄まじい引きだね!」
イカヅチを除く全員が、ジンとヒメノのこれまでの収穫について羅列していく。実際に、二人だけで探索した後に持ち帰る情報のヒット率……むしろフィーバー率が高過ぎる。
そんなこれまでの経緯を聞いて、イカヅチは二人に視線を向け……呆れた様な顔で、一言。
「ジンと嫁さんって、もしかして幸運の神に愛されてんじゃねーの?」
『ありえる』
ジンとヒメノ以外、全員の言葉が重なった。二人はそれを否定するが、説得力は皆無だ。
……
そんなジンとヒメノの報告の後、ハヤテチームが報告を始める。本題はやはり、神獣系ユニークスキルの限界突破の可能性についてだ。
「っつーワケで、ここに【スピードスター】のスキルオーブがあるッス」
ナタクをパーティリーダーにしてクエストを攻略し、入手したスキルオーブ。ちなみにそのエクストラクエストは、ジンが【九尾の狐】を強化した最初の攻略から難易度も下がっている。
「成程……劣化版のスキルオーブで、限界突破……」
話を聞いたヒイロが、難しい顔で思考を巡らせる。もしもこの検証で限界突破が可能だった場合、他のユニークスキルでも同じ事が出来るのではないか? と考えたからだ。
神獣系ユニークスキルと違い、ヒイロが持つ【千変万化】……そしてハヤテの【一撃入魂】、アイネの【百花繚乱】はレベル10止まりだった。もしもこれらの強化が可能だとしたら、更なる戦力拡大に繋がるかもしれない。
「それじゃあ、ジン君。試してみたら?」
「うん……そうだね、姉さん」
ジンはスキルオーブを受け取り、それを予備スキルスロットに入れる。その瞬間、システム・ウィンドウの表示が切り替わった。
『ユニークスキル【九尾の狐】の限界突破が可能です。限界突破を実行するにはエクストラスキル【スピードスター】と100,000ゴールドコインを消費します。尚、この限界突破ではスキルレベル上限は更新されません。限界突破しますか?』
「……当たり、なのかな?」
ジンはシステム・ウィンドウを可視化させ、仲間達に見える様に画面の位置を操作。そこに表示されたメッセージを見た仲間達は、目を見開いた。
「限界突破は、可能……!!」
「こりゃあケインさんやユージンさんにも、教えないとッスね。でも……」
「限界突破なのに、スキルレベルの上限が上がらない……? 何でだろう」
不思議そうな顔をする仲間達だが、ナタクが苦笑して話を進める。
「……まぁ、それは後に回しても良いと思う。ジンさん、ゴールドは足りそうですか?」
「手持ちの半分が消えるけどね。とは言っても、普段あまり使わないから問題は無いかな?」
ちなみにゴールドコインも夫婦で共有しているが、ジンの口にした大半は彼が稼いだ分だ。最も、ヒメノならば「ジンくんの為ですから、使っても良いですよ」くらい言いそうである。
ひとまず、十万ゴールドコインと【スピードスター】を消費すれば【九尾の狐】が強化出来る。仲間達からも異論は出ない為、ジンは限界突破を実行する事にした。
『ユニークスキル【九尾の狐】が限界突破しました』
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スキル【九尾の狐Lv14】
説明:疾きこと風の如し。習熟度が向上すると、新たな武技を習得する。
効果:AGI+140%。他のステータスを−40%。
秘伝スロット【空き】
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「これは……成程」
皆に見える様にしたままだったので、他のメンバーにもその内容は見えている。
「ステータス値-50のデメリットが、-40に軽減されているな」
「そして、【秘伝スロット】……ですか」
劇的な強化とは言えないが、確かに【九尾の狐】の性能は上がっている。これならば、更に【スピードスター】を手に入れて限界突破を実行する価値はあるだろう。
そして、それは他のユニークスキルにも言える事だ。
「とりあえず、クランメッセージで情報を共有しよう。【スピードスター】はあと四つ、他の【スター】スキルは五つ確保しないと」
「そうですね、これはクラン全体で協力して事に当たりたい所です」
既に攻略掲示板等でも知られているのだが、【スター】系のエクストラクエストは一人一回しか受注出来ない。エクストラクエスト発動条件である、祠に安置されたオーブの入手が出来ないのだ。
故に上位スキルを持つジンと【スピードスター】を入手したナタクは、もう【スピードスター】を手に入れるクエストを受注できないのである。これは【桃園の誓い】のゼクス、ジンのPACであるリンも同様である。
「とりあえずステータスを装備品で盛りやすいイカヅチは、全種コンプ確定ッスね」
「じょ、上等じゃねぇか……!!」
頬を引き攣らせながら、やってやんよと息巻くイカヅチ。今回のレベリングでレベルを30まで上げられたのだが、第三エリアの戦闘に付いていくには厳しいのが実情だ。
戦闘センスは問題無いのだが、如何せんステータス差による戦力差は埋め難い。その為に防御面を鍛えたいのだが、元々攻撃寄りの性格な為か集中力が途中で切れてしまうのだ。
ちなみに集中力が切れる理由は、格上のモンスターをソロで相手にしているが故である。プレイヤースキルを磨く為のブートキャンプなので、無理のない事だ。
故にハヤテも、そこについては余り言及したりはしない。最も、逆にそれがイカヅチ的には刺さる様だ。
……
ユニークスキルの限界突破について、有用な情報を得たジン達。そして次は、ヒイロ達の結果報告となる。彼等はそこまで特別な事は無かった……あったのは、フレンドであるプレイヤー達と顔を合わせた事だ。
「こっちは【ファミリア】と【闇夜】の結成したクランに会ったよ」
「あぁ、【L&O】ですよね?」
ナタクもコヨミとフィオレのコラボ配信で、その情報は得ていたらしい。彼女達の専用スレッドでも、話題になっていたとか。
「クラン結成を公表する人達も、少しずつ増えて来たわねぇ」
「そう、だね……掲示板とかも、盛り上がっている……みたい、だし」
クラン【十人十色】については、言うに及ばず。それは【騎士団連盟】【開拓者の精神】【導きの足跡】も同様だ。
この辺りに関しては加入を希望するギルドは未だにいるが、実装直後の様な大騒ぎにはなっていない。その理由の一つは、【十人十色】が流したマップ浄化クエストの情報が原因なのだが。
逆にジン達を含めた四大巨頭に合流しなかったが、実力の確かなギルドが関わるクランに注目が集まっているらしい。たった二日でこれなのだから、見切りが早いというか節操が無いというか。
今現在、加入希望が殺到しているクランについては……実力派であり第四回イベントで活躍し、更に早期にクラン結成を表明した勢力である。
それは【白狼の集い】と【真紅の誓い】によって結成された、クラン【無限の可能性】。
そして【フィオレ・ファミリア】と【闇夜之翼】が結成した、クラン【ルーチェ&オンブラ】である。
彼等は残りの枠が五つという事もあり、うまく行けば加入できるのではないか……そんな楽観的な考えに至る者達が、我先にと押し寄せているそうだ。
「あと、熱心にクランに勧誘してる人達もいるみたいだよね?」
センヤがそう言うと、ナタクが「そうだね」と頷いて答えた。
「主に第四回イベントの上位ランカーで、自分達の勢力を強化したいっていう人達だね。その内の一つが、例の【竜の牙】な訳だけど」
ちなみに【竜の牙】にも、クラン加入希望のギルドが無い訳では無い。しかし加入希望者の実力が、彼等の求める水準に至っていない為にクランは未だ結成に至っていないのだそうだ。
「ふぅん? その水準ってのは、そんなに難しいのかね?」
「さぁ、どうだろう? 僕も他のクランには詳しくないし」
イカヅチに問われたジンも、【竜の牙】が求める同盟相手の水準については全く知らない。
それについて聞き及んでいるのは、やはり掲示板を頻繁に活用する面々である。
「まぁ、【竜の牙】は理想が高いんスよね。第三エリアに到達している事、ギルメン数が十人以上である事……で、イベントでの実績があるメンバーが居る事。まぁ、最後のは本気で無茶振りっスね」
「全部に該当するのってもう、クラン結成か加入済みなのでは……?」
「そ。LQOで実績があるから、こっちでも自分達は安売りしないぞってスタンスなんッスかねぇ」
「ま、うちの【七色】や【十人十色】には関係ない話だから良いけどね」
ジン達にとっては、【竜の牙】は興味の対象外。ギルドもしくはクランとして戦うとしても、特に警戒するべき相手とは認識していない。
それからは雑談になり、そうしてログアウトの時間がやって来る。今日の予定は全て消化済み、報告も全て済んでいるのでここでお開きだ。
「それじゃあ皆、お休み!」
「お休みなさーい!」
仲間達と挨拶を交わして、それぞれがマイルームへと戻る。
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ジンもいつも通り、ヒメノと寄り添ってマイルームに戻った。名残惜しそうな表情をするヒメノだが、これ以上の夜更かしはお互いに出来ないので致し方ない。翌日は火曜日で、普通に学校があるのだ。
「それじゃあ、また明日だね」
「ですね……いつもこの時間が来ると、寂しいなって思っちゃいます」
それは勿論、ジンも同じ気持ちだ。ログアウトして布団に入ると、いつもヒメノの顔が脳裏に浮かぶ。
「うん。仕方がない事だけど、寂しいよね」
自分も同じ気持ちだとジンが伝えると、ヒメノはジンの胸元に頭を預ける。
「一緒に暮らせるようになったら……寂しくなくなりますよね?」
それは、現実でも結婚した後の事か。それとも結婚前に、ジンと同棲したいという意思表示だろうか。
「そうだね。だってずっと一緒に居られるんだから」
ヒメノの寂しさを癒すように、ジンはその背中に手を回して優しく力を込める。しかし、それでもヒメノはまだ離れがたい様だった。
――抱き締める他に、姫が喜びそうなのは………………もう、あれしかないな。
自分の胸元にピッタリとくっ付くヒメノの肩に手を置いて、優しく力を入れて身体を離すジン。距離を空けた事でヒメノがハッとして、寂し気な顔を浮かべてジンを見上げる。
ヒメノが何かを言おうとする、その前に……ジンが、彼女の唇を自分の唇で塞ぐ。
「んぅ……っ!?」
ただ唇を重ねるだけのキスではなく、彼女の唇の感触を堪能する様に吸い付く。それも一瞬ではなく、時間を掛けたキスだ。彼女の寂寥感が吹き飛ばすぞと言わんばかりに、ジンはヒメノの唇から離れはしない。
柔らかい唇の感触は、現実と変わらない。こんな所にまで本気を出すのか、VR・MMO……そんな事を考えながら、ジンはヒメノの事を考える。
――こういうキスは……クリスマスの時以来かな。
ヒメノは割と、寂しがり屋だ。朝に初音女子大学付属中等部まで送った後、下校後にお邪魔する星波家から帰宅する時……そして、AWOからログアウトする時に寂しそうな表情を浮かべる。
仕方のない事ではあるが、少しでもその寂しさを軽くしてあげたい……ジンはそう思ってしまう。その結果、行き着いた答えがじっくりとキスをする事だった。
普通のキスではなく、じっくりと時間をかけたキスにした理由は二つある。一つは……単純に、ジンがしたかったという理由だ。
普段から当たり前のようにチュッチュしているカップルであれば、ただの挨拶と認識するかもしれない。しかしそんな彼等とは違い、ジンとヒメノは常日頃から清く正しい男女交際を心掛けている。普通のキスも日常茶飯事という訳では無く、今の様なキスに至ってはクリスマス以来の二回目だったりする。
そしてもう一つの理由は、ヒメノが寂しがっているからだった。
ヒメノは正真正銘、純粋で純情な少女だ。ジンの理性を揺さぶる事は少し……少し? たまに、実際の所は結構頻繁にあるのだが、それはあくまで無自覚である。尚、彼女がノーガードなのはジンに対してのみ。他のギルドメンバーやクランメンバーに対しては、無防備な姿は見せない。
そんな彼女なので、キスの経験も親兄妹を除けばジンだけ……つまりはジン同様に、キス慣れなどしていない訳だ。ヒメノはログアウトした後も、眠る時までこのキスを思い出すだろう。そうしている間は、寂しさを感じる余力などないはずだ。これが、もう一つの理由であった。
そんな訳でジンは、ヒメノの唇をじっくりと味わう。キスまでならば年齢と立場に基いた倫理的ボーダーラインにも、抵触する事は無いだろう……そんな事を頭の隅で考えつつ、ヒメノの唇に吸い付く。
ちょっとばかり私欲が入っているが、ゲーム内では旦那だし、現実でも恋人で婚約者である。お互いに愛し合っているのは、日頃の触れ合いで確信出来る。
――だからもう少し……もう少しだけ。
そう思っていると、ヒメノがジンの胸元を軽く二度叩く。それは、一度解放してくれという合図だろう。
このままヒメノの唇を堪能したい気持ちはあるが、あくまでこのキスは彼女の為のものだ。己の欲求を抑え込んで、ジンは自分の唇をヒメノの唇から離した。
「ふぁ……はぁ……」
海中から浮上して呼吸をするかのように、ヒメノは荒く呼吸をする。頬は紅潮し、目はとろんとして潤んでいる。
そんなヒメノの様子からは、寂しさよりも今のキスに意識が向いていそうだとジンは考えて……
「ジ、ジンくん……その、私も寂しいですけど……こんなに長くちゅーされると、その……恥ずかしいです……」
そう言って、顔を真っ赤にしてジンを上目遣いに見上げた。そんなヒメノの言葉に、ジンは「あれ?」と内心で首を傾げる。
部屋に戻ったのは、二十二時半くらいだ。それからヒメノが寂しそうな姿を見せて、彼女の寂しさを紛らわそうと思いキスをして……体感では、まだ二十二時三十五分を少し過ぎたくらいと思っていた。
ジンが視界の隅に表示されている、現実での現在時刻を確認して……そうして、言葉を失った。
現在時刻は、二十二時四十四分。キスに意識を集中し過ぎていたせいか、既にログアウトの予定時間をいつもよりも超過していた。つまりジンは結構な時間を掛けて、ヒメノの唇を堪能していたらしい。
それはきっとジンもヒメノとの時間がここで一度途切れる事が寂しいと思っていて、無意識の内にヒメノを求めたせいだろう。
「ご、ごめん……」
そう言って軽く頭を下げるジンだが……ヒメノは熱に浮かされた様にとろけた声で、その謝罪は不要だと返す。
「謝らないで下さい……その、ジンくんにキスして貰うの……好きですから」
声色だけでは無く、口にした言葉の意味合いまでもが熱くて甘い。恐らく頭の中は、今のキスでいっぱいになっているだろう。
「そっか、ありがとう。もうログアウトしないとだけど……少しは、寂しさも紛れた?」
「……えへ、はい♪ ジンくんの夢が見れそうです」
「僕も……じゃあ、また夢で会おうね」
ヒメノはまだ頬を紅潮させてはいるものの、ジンの言葉にふにゃりと微笑んで頷く。
そうしておやすみの挨拶を交わす二人だが……そこでヒメノは期待感を滲ませた表情で、ジンにおねだりをした。
「これからも、ログアウトする前に……キス、して良いですか?」
ヒメノが求めているのは、触れ合うだけのキスではなく……先程の様に、じっくりと互いの唇の感触を堪能し合うキスだろう。ディープキスほど深いものではないが、二人きりの時以外にできるものではない。最もライトキスでも、他人が居る場所でするものではないが。
色々と思う所はあるが、ヒメノがそれで安心して眠れるというのならば……ジンはそう思って、苦笑しつつ頷く。
「解った。でもまぁ……明日からはもう少し、短めでね」
「そ、そうですね……はい、じゃあそれでお願いします」
そんな照れくさい雰囲気で……しかし胸の奥が暖かいもので満たされる感覚を実感しながら、二人はログアウトしたのだった。
次回投稿予定日:2024/3/10(本編)
【おまけ】
天使ジン「合意の上で、一応節度は保っていたのでセーフかな?」
悪魔ジン「あと二、三分くらいしても良かったんじゃ?」
忍者ジン「しかしログアウト時間を超えていたでゴザルからなぁ」
狐耳ジン「うーん、野生に目覚めていたね! コン!」
ヒメノ「わぁ……小さいジン君がいっぱいです……!!」
ジンの夢だけど、何か違う。




