18-04 モンスターハウスでレベリングしました
他の二組がそれぞれ、レベリングを敢行しているその頃。ジンとヒメノは、PACのリン・ヒナと神獣のコンを伴って走り抜けていた。当然レベリングの為であり、モンスターを倒して経験値を稼ぐのが目的である。
そんなジン達が立ち去った場所からは、モンスターが一掃されていた。しばらく時間を置けばリポップするが、設定された時間が来るまではモンスターが全くいなくなっているのだ。
その状況を作り出しているのは、誰なのか言うまでもないだろう。
ジンの場合はAI制御のモンスターでは、捉える事の出来ないその速さ。それに加えて豊富なデバフ手段、そして確率で発動する即死攻撃を持っている。
更にそんなジンの側に、常に寄り添うのがヒメノだ。AWO随一のSTR値を持つ彼女が攻撃すれば、その瞬間相手は死ぬ。
更にジンには劣るが速攻でモンスターを攻撃できるリンに、回復とサポートに長けている魔法職のヒナ。そしてヒメノとヒナを二人乗せて疾走する事が出来る、コン。
ジンがデバフを成功させれば、ヒメノの攻撃チャンスが増える。コンに乗ったヒメノに攻撃が向けば、ヒナが魔法で防御する。ジンの速さをもってしても抑え切れない数の場合、リンが回避盾として残りを抑える。ジンのHPが(攻撃はそうそう当たらない為、武技【閃乱】の仕様で)減れば、すかさずヒメノかヒナの回復が飛ぶ。更にジンやリンに近い速度で駆け抜ける事が出来るコンが、ステータス上昇によって同時に二人まで背に乗せられるようになったのが大きい。その状態でジンやリンに付いていけるし、魔技や獣技でサポート出来る。
この四人と一匹が組む事によって発生するシナジーは、絶大という言葉も生温い。1+1=2? いやいや、1と1を並べれば11だろう。そんな暴論が成立しかねない程に、最高の相性を誇るのである。
実際に、その結果がモンスター壊滅状態となった戦場である。しかもその勢いは、破竹の如く。
そんなジン達が居るのは、北側第一エリアの[ダイモス山]だ。このマップに生息するモンスターは、東西南北の中で最も防御力が高いモンスターが配置されている。その分、得られる経験値は高めに設定されているのが特徴だ。
同時にこのマップの中には、モンスターハウスのトラップが複数存在する。モンスターを探すよりも、モンスターハウスのトラップを起動して一網打尽にした方が効率が良い。それが、ジンとヒメノが導き出した結論であった。脳筋レベルの発想だが、地味にそれが効率的なのが笑い話にしたくても出来ない所である。
余談であるがモンスターハウスとは、古くから存在するローグライクゲームにおいて特徴的な要素だ。入ったり何かを操作した瞬間に、大量のモンスターに襲われるというライトユーザーにとってはトラウマレベルのトラップ。
このモンスタートラップがあちこちに存在する[ダイモス山]は一時期、第一エリアの難所と呼ばれていた場所だ。
今では攻略情報が充実し、それさえ知っていればモンスターハウスを起動せずに抜けられるマップである。しかし攻略最前線……第二エリア到達前の時期には、前情報無しで探索しなければならない。何がトラップ発動のきっかけになるのかも知らない為、モンスターハウスやデバフ効果を与えて来るこのマップは初見殺しと言われていたのだ。
ちなみにモンスターハウスの旨味は、個々のモンスターに設定された経験値のみ。半面、素材等のドロップ率が低いのだ。そういった意味でも、トラップなマップだったりする。
で、今現在。
難所で初見殺しなモンスターハウスを意図的に発動させ、襲い掛かるモンスターを根こそぎ倒し尽くしているのが某夫婦である。しかも討伐ペースはエグいの一言である。
素材ドロップ率の低下? 今はそれより経験値だ。ヘタに第二・第三エリアで無理をするよりも、確実に経験値を大量に稼げるのはこのマップである。ジンとヒメノはそう考えて、嬉々としてモンスターハウスを起動しに来たのだった。これには、このマップのデザイナーも絶句する事だろう。
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「あの夫婦が、[ダイモス山]のモンスターハウスで経験値稼ぎしてんだけど……」
「は!? 有り得ん……! 第一エリアとはいえ、モンスターハウスだぞ!?」
「そんなあなたに、現地の映像です」
「……ひぇ」
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そんな運営の事など露知らず、ジン達は次のモンスターハウストラップがある場所へと向かう。しかし丁度その場所で、彼等は見知った顔と遭遇した。
「おや?」
「む? おぉ、君達か!」
それは、ギルド【遥かなる旅路】のギルドマスター・カイセンイクラドン。その妻であり、サブマスターでもあるトロロゴハン。更にタイチ・エルリアを始めとする、幹部メンバーの面々であった。
ちなみにスパイ集団【禁断の果実】であったルシアが追放されたポジションには、魔法職であるオヴェールが就く事になったらしい。
「こんばんは、珍しい所で会ったでゴザル」
「皆さん、こんばんは!」
ジンとヒメノが挨拶をすると、カイセンイクラドンとトロロゴハンが前に出た。
「こんばんは、二人共」
「こんばんは。君達も、モンスターハウスのトラップを利用してレベリングかな?」
「で、ゴザルな」
「【旅路】の皆さんもだったんですね~」
クリスマスパーティーでの交流や結婚式への出席などもあり、互いに親し気な雰囲気を漂わせる。
そんな四人と一匹に、他のメンバ―達も歩み寄った。
「お久し振り、ヒメノちゃん!」
「相変わらず仲が良いな、二人共」
「エルリアさん、タイチさん! ふふっ、お久し振りです♪」
「その少人数でモンスターハウスレベリングとは、流石だなぁ」
「バランス良いもんね。しかもPACの二人もコン君も強いし」
「えへへ、そうですか?」
「ありがとうございますマックス殿、ランラン殿」
「コン君も一緒かぁ! うん、今日も良いモフモフだな!」
「やっぱ神獣良いなぁ、俺が神獣ゲットしたら、友達になってやってくれよ~」
「コンッ♪」
すぐに賑やかになり、和気藹々とした雰囲気が流れる。その様子を傍から見たら、モンスターハウスのトラップがある場所とは思えない和やかさだ。
そんな面々に笑みを零しつつ、カイセンイクラドンがジンに向き直る。
「実はクラン仲間も同じ様に、ここでレベリングをしていてな。君達は何箇所回った? 俺達は四箇所なんだが」
「えーと……その、九箇所ほど……」
少人数で自分達以上のモンスターハウスを潰したジン達に、一瞬驚いた表情をするカイセンイクラドン。しかしすぐに表情を引き締めて、咳ばらいを一つして「そうか、ありがとう」と告げた。
「そうなるとモンスターハウスは、他二組も含めると全滅になりそうだな……」
同じことを考える勢力は居てもおかしくないと思ってはいたが、わざわざホームサーバーから[フロウド]サーバーに移動して来たのは失敗だったかもしれない。カイセンイクラドンは、内心でそんな事を思う。
しかしながら、ジンやヒメノに恨み言など言うつもりは更々ない。互いに同じことを考えただけで、誰が悪い訳でもないのだ。
「残るは多分、ここだけかもしれないわね。それでジン君、ヒメノちゃん……ここのモンスターハウスなんだけど」
どちらがモンスターハウスを使って、レベリングをするか? その話題に至った所で、【遥かなる旅路】の他の面々の表情が一変する。敵対したくはないが、リソースの奪い合いはVR・MMO・RPGの常である。
ジンやヒメノ……それに他の【七色の橋】の面々に、クランの面々。彼等との関係は良好に保ちたい、それは紛れもない本心だ。しかし彼等に追い付き追い越す為にも、レベリングの機会を譲るのはそう簡単には承諾しかねる。
どうすれば、カドを立たずに交渉できるか? トロロゴハンはにこやかな笑顔の裏で、必死に思考を巡らせていた。
「あぁ、そうでしたね!」
「じゃあ、ここは皆さんにお譲りするでゴザル」
あっさりと、二人はモンスターハウスを【遥かなる旅路】に譲った。それも、下心も何もない満面の笑みで。トロロゴハン、思考終了。
「え、えぇと……いいの?」
「はい、譲れないものがかかっている訳でも無いですし」
「ここでトラブルになって、皆さんとの関係が悪くなるのも嫌でゴザルし」
本当に良いのか? と困惑気味に問い掛けるトロロゴハンだが、ジンとヒメノの態度は変わらない。逆に大人である自分達が譲るべきではないか? なんて考えが湧いて来る。
しかし、彼女がそう結論付ける前に。
「君達は、本当に優しいんだな。でも、悪い連中に付け込まれないか心配になる。何か困った事があったら、俺達を頼ってくれて良いからな?」
「ねぇカイさん、トロさん。今回はこっちが譲って貰うなら、次は私達が譲るって事でどう? これなら厚意を無碍にはしないし、アンフェアにはならないと思うんだけど」
タイチがジンとヒメノにそう告げれば、エルリアがカイセンイクラドンとトロロゴハンに提案を持ち掛ける。【遥かなる旅路】のエースと、トロロゴハンの弟子……その二人は、ギルドと相手双方の事を考えている。
――気が付いたら、こんなに頼れる存在になっちゃって……。
最初は初心者がゲームを楽しむ為のサポートのつもりで、助けたつもりだった。しかし気が付けば、初心者を脱して自分も一緒に活動したいと声を掛けて来たのだ。
そうして一緒に居る内に、タイチはカイセンイクラドンの様な存在になりたいと思う様になった。エルリアも、トロロゴハンに憧れて押し掛ける形で弟子入りした。
その二人が、ギルドと相手の両方にとって一番良い形を考えて進んで行動している。その姿に、トロロゴハンは喜びと若干の寂しさを感じ……同時に、二人なら自分達が不在の時にギルドを任せられるかもしれないと考えた。
――子供が出来たら、ゲームに割く時間も減っちゃうものねぇ……。
モニターや携帯ゲーム機、もしくはタブレットや携帯端末で出来るゲームならば多少は時間を割く事が出来るだろう。しかし、フルダイブ型のVR・MMO・RPGはそうはいかない。
その時にギルドの事を任せる事が出来る存在がいるのは、非常に心強い事だ。そんな事を考えながら、トロロゴハンはエルリアに向き直る。
「良いわね、エル。ジン君、ヒメノちゃんはそれでも良いかしら?」
「はいっ♪」
「無論にゴザルよ」
――はぁぁ……子供が出来たら、この子達みたいに育って欲しいわぁ……。
そんなトロロゴハンの内心はひとまず置いておき、カイセンイクラドンが一つ頷いて前に出る。
「君達がそれで良いと言ってくれるなら、その言葉に甘えさせて貰うよ。勿論エルの提案は、クランの仲間達にも徹底させる事を約束する。それと感謝の印ではないが、これを受け取ってくれ」
そう言ってカイセンイクラドンが差し出したのは、破損品アイテム≪朽ち果てた砲塔≫だった。これを使えば、大砲系の武装が製作出来るのだ。
「流石にそれは、受け取れませんよ」
ヒメノがそう言うが、カイセンイクラドンはニヤリと笑う。
「噂には聞いているが、これで大砲が作れるんだろう? あと四つあれば、君のスキル……【八岐大蛇】にピッタリになるはずだ」
STR特化型のユニークスキル【八岐大蛇】……その情報を知っているのか? と、ジンとヒメノは目を見開いた。が、すぐに二人共その理由に思い至る。
ジンとヒメノの神獣系ユニークスキルは、元となる存在を思い浮かべやすい。九本の尻尾と言われたら九尾の狐、八ツ首の蛇と言われたら八岐大蛇。それくらい、日本人には浸透している伝承である。
それに最終武技を発動する時に、二人は戦意が高揚して名乗りを上げる事があった。その時の映像がもし存在するならば、知っていてもおかしくはないだろう。
戸惑うジンとヒメノに、カイセンイクラドンは更に言葉を続ける。
「それに、俺達は大砲系はあまり好みじゃ無くてな。ダイヤコインに変えるかと思っていたところだったから、それなら君達に役立てて貰う方が気分が良い」
そこまで言われては、二人もそれ以上固辞は出来なかった。しかしその厚意に甘えるだけになるつもりは、無い。
「先程のエルリア殿の提案で、既にイーブン。拙者達は、そう考えているでゴザル。なので、これに関しては……カイ殿達に何か困った事があったならば、拙者と姫が力を貸す。これでどうでゴザルか?」
「む……」
仁義を重んじるその言葉に、カイセンイクラドンは唸る。が、すぐに両手を挙げて苦笑した。
「解った、ありがたくそうさせて貰う……済まないね」
その返答に、ジンとヒメノは笑顔で頷き……そしてこの場所に存在するモンスターハウスを譲って、リン・ヒナ・コンを伴って立ち去る事にする。
カイセンイクラドン達は、それを見送ってからモンスターハウスを起動させる仕掛けに視線を向けた。
「さて、あの子達の厚意を無駄にする気は無い。準備は良いな?」
カイセンイクラドンがそう言えば、パーティメンバー全員が気を引き締めて頷いてみせる。それを確認したカイセンイクラドンは、不自然に設置されている岩のオブジェクトを剣で叩き壊した。
「行くぞ!!」
四方八方から、途端に出現するモンスター達。それを確認した【遥かなる旅路】の面々は、前衛後衛共に迎撃を開始する。
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「よし、これで討伐完了だな」
「ふぅ……第一エリアとは思えない忙しさだったわね」
トップギルドの名に恥じない戦い振りで、【遥かなる旅路】の面々はモンスターハウスによって出現したモンスター達を一掃した。
経験値も第三エリアや第二エリアで無理をするくらいなら、多少目減りはするがそれなりのポイントを稼いでいる。また同時にアイテムの消費も抑えられる訳で、やはりモンスターハウスを利用してのレベリングは理に適っていたと判断して良さそうだ。
唯一の想定外は、サーバーを[フロウド]にした事だろう。他、九箇所はジンとヒメノのパーティで壊滅させられているのだから。
競争率の高い要素においては、【七色の橋】【桃園の誓い】【魔弾の射手】……そして【忍者ふぁんくらぶ】が所属するクラン【十人十色】のメインサーバーである[フロウド]は、避けるのが良い。それが今回の教訓だろうか。
今回は、これ以上の実入りは無い。モンスターがリポップするまで、ゲーム内時間で三時間。一度他の場所でレベリングをして、別サーバーの[ダイモス山]でレベリングをしようか。
カイセンイクラドンがそう考えたその時、システム・ウィンドウがポップアップした。それは、フレンドからのメッセージではなく……クラン専用メッセージだった。
『エクストラクエストに遭遇、応援を求む』
その連絡を寄越して来たのは、【おでん傭兵団】のメンバーである【ワツキ】だ。彼は弓使いの後衛職で、視野が広く全体のサポートに長けたメンバーである。
そんな彼が応援を要請したのは、前衛職であるオーディンが何らかの理由によって連絡が出来ない状況下に陥っている……そんな理由からだろう。
「カイさん……」
「あぁ、すぐに応援に行くぞ!」
カイセンイクラドンはパーティメンバーにそう告げて、迷う事無く【おでん傭兵団】が向かった方角へと駆け出した。
……
幸いな事にカイセンイクラドン達が駆け付けてみれば、【おでん傭兵団】はギリギリのところで耐えていた。戦闘不能になった者はおらず、まだ立て直しが効く範囲内だ。
「待たせた! 一体何があったんだ!?」
そう言って前衛の方に視線を向けると、そこには山の様な巨体を持つボスモンスターの姿があった。
「モンスターを倒し切った後、エクストラクエストが発生して……」
更に話を聞くと、クエストを受領し開始したは良いが……ボスがあまりにも硬過ぎて、全くダメージを与えられていないらしい。更にボスの攻撃は相当な威力で、盾役でも耐えられるのは二発が限度という強力さ。
「レイドは可能か?」
「はい、レイド4でした!」
第一エリアでレイド数が四組となると、高難易度クエストなのは間違いないだろう。
カイセンイクラドンはパーティメンバーに視線を向け、気を引き締めて問い掛ける。
「行けるか、皆」
それに対して返って来たのは、問題無いという言葉だけだった。カイセンイクラドンは説明をしていたワツキに向けて、レイドパーティ参加の申請を送る。すぐに申請は承諾され、カイセンイクラドン達のシステム・ウィンドウがポップアップした。
『エクストラクエスト【山間の主】に参加しました』
「よし、行くぞ!!」
「了解!!」
「遅延耐性持ちじゃない事を祈るぜ……!」
「まずはあいつら下がらせて、態勢を立て直させないと!」
カイセンイクラドンが号令と共に駆け出せば、タイチとロビン・マックスがそれに続く。
「トロさん、バフは私が!!」
「お願いね、エル」
「じゃ、私とトロさんは攻撃役ね」
「ゼノン、ウィン! 護衛をお願い!」
「任せてくれ」
「あぁ、指一本触れさせないさ」
ゼノンとウィンフィールドが護衛を務める後衛部隊は、エルリアが支援魔法を担当。攻撃はトロロゴハンとオヴェールが務め、牽制はランランとなる。
「【ウォークライ】!!」
カイセンイクラドンがヘイトを自分に向ける為に、【ウォークライ】を発動。その瞬間、エクストラボス【エルダーゴーレム】の視線がカイセンイクラドンに向けられる。
『おのれ、我が領域を踏み躙る者達め……!!』
忌々し気に、エルダーゴーレムは口を開いてそう告げた。口がどこにあるのかは解らないが。
「「「喋った!?」」」
モンスターが喋るのを、カイセンイクラドン達は初めて目の当たりにする。故に、エルダーゴーレムが喋った事に驚きを禁じ得ない。
『山の怒りを知れ!!』
エルダーゴーレムが、その巨腕を振り被る。当たればタダでは済まないだろう……そう予想したカイセンイクラドン達は、それぞれの判断で行動し始める。
カイセンイクラドンは、仲間達が近くに居ないポジションへ。盾で受け止めても、相当な余剰ダメージを受けるだろう……ならば、【クイックステップ】で回避するのが無難だ。
タイチとマックスは、その間に【おでん傭兵団】の面々に駆け寄る。
「まずは一旦後退だ。戻るまでは俺等が引き受ける!」
「済まん、恩に着る!!」
そしてロビンは、エルダーゴーレムの背後に回って両手の短剣で切り付ける。彼の持つ≪ディレイダガー≫は、状態異常・遅延を発生させる事が可能。エルダーゴーレムの行動速度を下げられれば、難易度は大幅に下がるはず。
そして、振り下ろされた剛腕。
「【クイックステップ】!!」
素早い動きでエルダーゴーレムの攻撃を回避するカイセンイクラドンは、そのまま足を狙って斬り付ける。しかしその身体を構成する硬度は高いらしく、ダメージも通常の数値より大分減少させられていた。
「硬い……ッ!!」
驚きながらも、即座にその場を離れるカイセンイクラドン。その瞬間、エルダーゴーレムの足が彼を蹴ろうとして空振る。
「これは長丁場になりそうだ……」
しかし最初の目的……【おでん傭兵団】の一時退却は達成し、彼等が態勢を整えれば負担を分散できる。そう思っていた所へ、更にもう一組のパーティが駆け付けた。
「遅れて済まん! 今、援護に入る!」
「来たか、ユウシャ!」
ユウシャあああ率いる【初心者救済委員会】の主力パーティが、戦場に駆け付けたのだ。
……
そこから開始される、三パーティによるレイド攻略戦。人手が増えて回復に手が回る様になったのだが、如何せんエルダーゴーレムが硬過ぎた。
その身体を構成する金属のせいなのか、武器での直接攻撃だけでなく魔法攻撃も軽減されてしまうのだ。
「雷も火も軽減されるってどういう事よ、もう……」
「他に試したのは水と風、氷に光……近接攻撃よりは、魔法が攻略の糸口だと思うんだけど……」
トロロゴハンと、【初心者救済委員会】のネムレス。二人はパーティの司令塔役を務める者同士であり、こういった難敵への攻略法を見出す役割を担っている。
しかし今回の相手は、中々攻略法を見出す事が出来ずにいる。物理攻撃だけでなく、魔法攻撃すらも尽く軽減する相手。第一エリアの敵の中でも、最強クラスなのではないか? と思うまである。
「ワンチャンあるかと思って、【ロックジャベリン】を使ってみたけど結果は同じでしたね」
支援の合間に攻撃に参加するエルリアも、二人の様に攻略法を模索していた。トロロゴハンの弟子として、彼女のサポートを務めるのは自分の役目だと思っているからだ。
「例の件で開放された、【樹属性魔法の心得】も同じでした……」
そう申し出たのは、魔法職の女性【サリチカ】。【おでん傭兵団】の中で、最も優秀な魔法職だ。
「……あの子達が、ここに居ればなぁ」
思わず、エルリアはそう呟いてしまった。それは先程、この付近で遭遇した一組の夫婦。そしてそのPACと、神獣のパーティだ。
その中の一人はSTRガチ勢の御姫様であり、更に四門の大砲を持っているのだ。
「あの子達……とは?」
ワツキが不思議そうな顔でそう問い掛けると、エルリアは首を横に振った。
「ごめん、忘れて。さっきジン君とヒメノちゃんに会ったんだけど……もう移動したはずだから、ここに来るはずないや」
その名前を聞いたワツキも、その有名過ぎるトッププレイヤー夫婦の事を思い出して納得した。この状況下でもし居合わせたならば、是非とも援軍をお願いしたい存在であった。
そう、もう彼等はこのマップから移動したはず。エルリア達は、そう思っていた。いたのだが……。
「わー、おっきいゴーレムですね!」
「戦ってるのは……あれ、カイ殿達でゴザルな?」
頭上から聞こえたのは、聞き覚えのある……さっきも顔を合わせて会話をした、極振り夫婦の声だった。
次回投稿予定日:2024/2/25(本編)




