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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十八章 第五回イベントに参加しました

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18-02 幕間・クラン結成を迎えて

 ジン達がクラン結成と第五回イベントについて盛り上がっているその頃、既にクランを結成した面々も日頃にない盛り上がりを見せていた。


 その最たる派閥の一角が、【聖光の騎士団】【聖印の巨匠】【絶対無敵騎士団】【白銀の聖剣】が結成したクラン【騎士団連盟リーグ・オブ・ナイツ】だ。クラン拠点はまだ確保できていない為、彼等は[ギルト]サーバーに存在する【聖光の騎士団】のギルドホームに集っていた。この日は流石に探索も行わず、クラン結成を祝うパーティーが行われている。


 とはいえ、流石はAWOを代表する大規模ギルドのギルドホーム。洋風建築をイメージされたエントランスホールは、二階部分まで吹き抜けになっている。学校の体育館より広いくらいのホールは、クランメンバーの大半が集まれるだけの敷地面積を保有しているのだ。

 そんなエントランスホールに、クラン結成を祝う為に用意された食事や飲み物がテーブルに乗せられ並んでいる。所謂、立食パーティー形式だ。

 そこでは、クランに加入するメンバーが歓談している。とはいえ中心となるのは、最大人数を誇る【聖光の騎士団】のメンバーが中心の状態だ。


 その光景を二階部分に設けられたスペースから見て、アークは思案する。それは大規模ギルド【聖光の騎士団】と、クラン【騎士団連盟リーグ・オブ・ナイツ】の在り方についてだ。


――客観的に見ればこのクランは我々と、その()()()()()の集合体に見えるだろうな。


 DKCドラゴンナイツ・クロニクル時代から活躍し、トップ争いにおいて真っ先に名前が挙がるギルドである【聖光の騎士団】。そこに所属するメンバーが増えたのは、何よりもネームバリューによるものが大きい。しかしこれからは、ギルド外との関係性にも気を付けていかなければならない……今のアークは、そう考えている。


 【聖印の巨匠】は生産職メインのサブギルドだが、AWOにおいて……いや、VR・MMO・RPGにおいては、生産を主とするプレイヤーの助力は決して無視してはいけない要素だ。

 【絶対無敵騎士団】とは対等な立場という条件が、クラン結成の根本にある。所属人数が劣る彼等を侮り、ギルドメンバーが上から目線になるような事態は避けなくてはなるまい。

 【白銀の聖剣】はDKC時代から自分達に憧れているプレイヤーが集まっており、自ら傘下ギルドになりたいと申し入れてきた。その考えには一定の理解を示すが、他のギルドとの兼ね合いも考慮すれば、下に置くというよりは対等の立場に据えるのが良い。


 過去の自分であれば対外交渉は些末事と考え、他の幹部に任せていただろう。そもそも、このようなパーティーに参加していたかも怪しい。

 なにせ、アップデートによってレベルキャップ解放も行われた。レベル80に誰よりも早く到達する……それは、アークにとって重要な意味を持つのだ。

 仲間の重要性を軽視していたあの頃の自分であれば、今頃経験値を稼ぐのに適したマップに赴いて常軌を逸したレベリングを行っていただろう。彼は、冷静にそう自己分析する。


 ならば何故、今ここに自分は居るのか? それはAWOで出会った、ある存在に気付かされたからだ。


――個人で出来る事には限界があるが、そこに『信頼できる仲間』が加われば……それは困難を打ち砕く、大きな力となる。そうだろう、【七色の橋】……。


 第一回イベントでその実力を目の当たりにし、第二回イベントでは敗北を喫した小規模ながらも確かな実力を有するギルド。

 その姿から学んだ事は、両手の指でも数え切れないだろう。

 自分では、彼等の様にはなれない。しかし、その姿から学ぶことは出来る。その考えから自問自答し、そして行き着いた答えがこのクラン【騎士団連盟リーグ・オブ・ナイツ】だ。


 クラン結成を祝うパーティー……クランに所属するギルドがほぼ揃っている今は、絶好の機会だろう。アークはそう考えて、近くに控えていた信頼する仲間の一人に声を掛ける。

「ライデン」

 呼び掛けられた青年は、アークから既に考えを聞かされており……そして、その考えに賛同している。彼から幹部メンバーにも詳細は伝えられており、【聖光の騎士団】の首脳陣では意志統一がされているのだ。

「えぇ、了解です」

 だからライデンも今が一番良いタイミングだと思っていたし、アークから切り出そうとしなければ今日この場で……どこかしらのタイミングで、彼に促すつもりだった。


 アークは席を共にしていた面々……【聖印の巨匠】のトール、【絶対無敵騎士団】のフデドラゴン、【白銀の聖剣】のブレイクに視線を向ける。

「済まないが、少々付き合って貰って良いだろうか。大丈夫、決して悪い話ではない」

 AWOで最強の一人とされるアークにそう言われては、三人もNOとは言えない。彼に促されるままに、一階部分と二階部分を繋ぐ階段の踊り場へ向かうアークに付いていく。


 一階部分のエントランスホール、そして二階部分の通路に居る誰もが、その姿を見る事が出来る場所。そこに四人のギルドマスターが揃えば、会場内の誰もが視線をそこに向けるしかない。

 その結果、生まれたのは痛いほどの静寂。誰もが、アークに視線を向けて黙り込む。

「今日この日、こうして四つのギルドがクランを結成出来た事を嬉しく思う」

 アークが話し始めると、その言葉を聞き逃すまいと耳を傾けるクラメンバー達。しかし彼等の予想は、【聖光の騎士団】が中心となってクランを率いていくというものだ。


 過去のアークならば、そう明言しただろう。しかし、今のアークは違う。

「これより我々は対等な同盟相手であり、互いを尊重し合える友であり仲間となる。共に歩んでくれる、心強い仲間に出会えた事を嬉しく思う」

 そう言って、アークは自分以外の三人のギルドマスターに視線を向けた。


「DKC時代から、我々【聖光の騎士団】を支えて続けてきてくれた【聖印の巨匠】。君達のサポート無くして、これまでの活躍は無かっただろう。これからも、どうか我々に力を貸してくれ」

 そんなアークの言葉を受けて、トールは目を見開き……そして、ハッキリと頷いた。

「このクランの為に、我々はこれからも全力でサポートしましょう」

 トールがそう言えば、【聖印の巨匠】のメンバー達が歓声を上げる。その歓声には、自分達への信頼と期待を明言したアークに対する、信頼の念が込められていた。


「これまではライバル関係にあった、【絶対無敵騎士団】。そんな君達と肩を並べられる事を、俺は心から喜ぶ。これからも、どうか宜しくお願いしたい」

 そう言ってアークがフデドラゴンに視線を向ければ、フデドラゴンも笑みを浮かべてハッキリと頷いた。

「今日この時から、我々は仲間となる。共に切磋琢磨し、より高みを目指していこう。こちらこそ、どうか宜しくお願いするよ」

 そう言ってフデドラゴンが手を差し出せば、アークは一瞬の躊躇いも無くその手を取る。それは二人のギルドマスターが、互いを認め合った証明だ。当然、【絶対無敵騎士団】の面々からは、盛大な歓声が沸き上がった。


 頷き合って繋いだ手を離したアークとフデドラゴン。フデドラゴンはトールに歩み寄り、アーク同様に手を差し出した。

「その為にも、貴方達の力を借り受けたい。どうか、力を貸して欲しい」

「貴方達【絶対無敵騎士団】ならば、喜んで。これから、我々は友であり仲間だ」

 全てが【聖光の騎士団】の主導で進む訳では無い。それを示す様に、フデドラゴンとトールが手を取り合う。その光景をアークは頷いており、「それで良い」という表情だ。


 【聖印の巨匠】と【絶対無敵騎士団】のメンバーの歓声が収まるのを待って、アークは【白銀の聖剣】のブレイクに歩み寄る。

 ブレイクは、灰銀の長い髪をうなじの所で縛った髪型が特徴的な青年だ。そのギルド名が表す通り、その服や鎧は銀色と白を基調としている。

「そしてこのクラン結成を聞き付けて加入の意志を示してくれた、【白銀の聖剣】。君達もまた、これから共に歩んでいく仲間だ」

 ブレイクはそんなアークの言葉に、息を呑んだ。彼からしてみれば他三つのギルドは上位者であり、自分達はその下部組織のつもりだったのだ。しかしアークは、彼等もまた対等な立ち位置であると明言した。それは、自分達を認めて貰えたといえる。

「このクランに加入出来た事は、俺達にとって誇りです。至らぬ点もあるでしょうが、全力を尽くして皆さんと共に頑張ります」

 力強くブレイクがそう宣言すれば、アーク達は頷いてみせる。


 そうして四人のギルドマスターが並び立った所で、アークがエントランスホールで自分達を見守るメンバー達に宣言する。

「この四つのギルドで結成するのが、クラン【騎士団連盟リーグ・オブ・ナイツ】となる! 共に力を合わせ、AWOトップクランを目指そう!」

 堂々とした、力強い宣言。それを受けて、エントランスホール中から拍手と歓声が巻き起こった。


************************************************************


 同じ頃、[ブラスフェミー]サーバーの始まりの町[バース]。そこにある大きな建物の中で、三つのギルドがクラン結成を祝って集まっていた。

 屋敷と称するに相応しい建物は、【森羅万象】のギルドホームだ。こちらもクランが集まるのに最適なのが、大規模ギルドの所有するホームだった。


 屋敷の一階部分には、パーティーホールの様な部屋がある。彼等はそこに集まって、賑やかに談笑していた。誰も彼も、笑顔を浮かべてこの瞬間を楽しんでいる。

 そんなパーティーホールの中央に設えられた、丸テーブル……そこに、ギルドマスターとサブマスターが集合している。

「いよいよクランの結成を迎えたけれど、これからが本番よね~」

 シンラはそう言って、用意されたグラスを手にする。彼女は二十一歳で成人済みの為、中身は赤ワインだ。実は彼女は結構な酒好きで、現実でも酒豪である。


 逆に現実では酒に弱いのが、サブマスターを務めるシンラの相棒・クロードである。しかしゲーム内であれば酔わないで済む為、彼女はゲームではシンラと同じ物を飲むようにしていた。アルコールには弱いが、どうやら味は好きらしい。

「第五回イベントの仕様を見るに、今回はギルドやクランに囚われないで挑む形式……だがその本質は、クランシステム実装を意識したイベントだろうな」


「プレイヤー同士が協力し合って、イベントマップを攻略する……そしてマッチングで、プレイヤー同士の新たな接点を作ろうとしている。でしょ?」

 クロードの言葉に対して、自分の考えを口にするのはクラン【探索者の精神フロンティア・スピリット】に参加するギルド【陽だまりの庭園】のマスターであるナコトだ。

「このイベントが終わった頃には、プレイヤー同士が新たな交友関係を結んでいるかもしれない。そしてその縁がきっかけとなって、クラン結成が促進される……そんな所かしら」

 ナコトが口にした考えに、シンラとクロード……そして【陽だまりの庭園】のサブマスターを務める女性【セーラ】も同意だとばかりに頷く。


「となると、四月には更に大きなイベント……それもクランでの参加が前提になるイベントがありそうだね」

 そんな彼女の双子の妹であり、ギルド【朧月夜】のギルドマスター・ノミコも会話に加わった。彼女の言葉に、セーラも同意見らしい。

「そうですね。丁度その頃が、アニバ時期になりますから」

 アニバとは、アニバーサリーの略語である。”ゲーム〇周年記念”を意味するこの略語は、ゲームプレイヤーの中で割とポピュラーな言葉だ。


「もう一周年が近いんだなぁ……長いようで、あっという間だ」

 そう言ってワインを口にするのは、一人の青年。彼が【朧月夜】のサブマスターで、アバター名は【ギンガ】。

 ノミコとは高校時代に知り合い、同じ大学に進学した仲だ。それが縁で共にギルドを立ち上げたのだが……二人は互いを友人としてしか見ておらず、恋愛感情は無いらしい。

 ちなみに自分以外が全員女性の為、少し居心地が悪そうである。


「それに~、やっぱりクラン拠点もゲットしたいものね~。その為の()()()()()()()()けど、クエストの起点が見付からないとね~」

 シンラが口にした()()()とは、エクストラクエストの舞台になると予想したマップだ。

 南側の第二エリアと第三エリアの境界に位置する、大きな毒沼が存在するエリア。条件的にも[腐食の密林]に酷似しているそのマップを、浄化する事が出来るとシンラは考えた。

 その為に情報を集めているのだが、中々クエストの起点が見つからないのだ。

「例の森を浄化した【十人十色ヴェリアスカラー】……彼等の情報によると、妖精に出会ったのがきっかけだったらしいわね」

「でも、どこを探しても妖精を見付けられないのよね……三つのギルドで、協力して事に当たっているのに」


 ギルドマスター三人が、顔を突き合わせて頭を悩ませる。そんな姿を見て、クロードは苦笑した。

「気に掛かるのは私も同じだが、今日くらいは一旦忘れたらどうだ? 折角のクラン結成を祝う場なんだ、浮かない顔をするものじゃないだろう」

 そう言われて、シンラ達は顔を見合わせ……そして、フッと笑みを零した。

「クロードの言う通りね~」

「えぇ、明日から本気を出すとしましょうか」

「もう、姉さん。それだとやらない人の言い訳みたいじゃないの」

 気持ちを切り替えた三人は、肩の力を抜いて笑い合う。そんな三人につられて、セーラとギンガも笑みを零す。そうして再び、六人は他愛のない会話を楽しみ始めた。


 そんなマスター勢の席の側には、幹部クラスのメンバーの席があった。勿論、アーサーやハルもそこに座っている。

 マスター達の会話を聞いていたハルは、ある事を思い付いた。

「ねぇ、アーサー。ちょっと考えたんだけど……」

「うん? 何だ、ハル」

「この前のクエストで出会った、あの現地人さん……あの人、色々な事を知っていそうだったよね。妖精さんについて、聞いてみるのはどうかな?」

 ハルが言っているのは、【餓鬼】の異名を持つNPC。アーサーにユニークスキル【三汁七菜さんじゅうしちさい】を授けた、フウガの事だ。


 エクストラクエストに関係するフウガは、他のNPCよりも特殊な存在なのは間違いないだろう。そしてマップ浄化もまた、エクストラクエストであるという情報が【十人十色ヴェリアスカラー】によって公開されている。

 精霊や妖精といった、特殊な存在も関わって来る。それを考慮すれば、同じく特殊な存在であるフウガに質問してみるのは良い案かもしれない。

 しかし、正直に言うとアーサー的には乗り気ではない。あのエクストラクエストは、当分料理をする気力が起きない程に大変なクエストだったのだ。可能であれば、会いたい相手ではない。


 しかし、アーサーの返答は決まり切っている。

「まーた料理を強請られそうだが……確かに、何かしらのヒントを聞けるかもな」

 良案なのは事実であるし、何よりそれはハルの提案だ。彼女が皆の為に考えてくれたのだから、実行する価値は大いにある。

 それに、これは二人きりになるチャンスという打算もちょっとあります。

「んじゃ早速、明日にでも一緒に行ってみるか?」

「うん! ありがとう、アーサー!」

 満面の笑みを浮かべるハルに、アーサーの口元も緩むのだった。


************************************************************


 時を同じくして、[アロガンス]サーバーにおける始まりの町[バース]。【遥かなる旅路】のギルドホーム……の庭で、賑やかな声がしていた。

「そろそろ、野菜も切らないといけないか。ちょっと行って来る」

「おいおい、カイさん止めろ! ギルマスにさせる事じゃねー!」

「おい待てユウシャ、それは俺が焼いていた肉だぞ!」

「いや、今取らなかったら黒焦げになってただろうが!」

「ほらほら、ユウシャさんもオーディンさんも喧嘩しないの。お肉はまだいっぱいあるんだから」

「タレまだあるー?」

「追加のお米、炊き上がったよー!」

「エルちゃーん! 俺、大盛で!」

「俺も! エルリアさんの米なら、いくらでも食える!」

「悪いけど、よそうのはセルフでお願いね!」

「「えー……」」


 流石の【遥かなる旅路】のギルドホームでも、三つのギルド全員が集まれる程のスペースは無かった……庭以外は。そんな訳で彼等はギルドホームの庭を会場として、バーベキューパーティーを催す事となったのだった。

 ちなみに、このバーベキューパーティーは大盛況である。皆が和気藹々と……一部は肉争奪戦を繰り広げたり、美少女のよそったご飯を所望したりと……ちょっとアレな感じもあるが、一応は平穏な宴会風景だった。


「ほい、タイチ兄」

「ん? おぉ、サンキュ。俺のもよそってくれたんか」

 エルリアは自分の分だけでなく、タイチの分も白米を用意して戻って来た。ちなみにエルリアは普通サイズだが、タイチの分は大盛りだ。

「伊達に日頃からお世話してませんから~」

「ハイハイ、いつもありがとーございます」

 そう言いながらタイチは、エルリアが持って来た白米を口にする。肉のタレが付いた米も美味いが、そのままの白米もまた日本人の心の故郷。

 ちなみにタイチの分だけは一緒に用意してきたエルリアを見て、ギルド外の男性プレイヤーがしょぼんとしている。アバターの顔がしょぼん顔に見えるくらい、しょぼん(´・ω・`)としている。


「そう言えば、タイチ兄。今日って会社の飲み会とか言ってたけど、大丈夫だった? というか、いつも飲み会とかよりゲームだけど」

「んー、付き合い悪いとは言われっけど、昼飯とかは一緒に食うからな。別段、ハブられたりとかはしてないぞ?」

 そう言ってタイチは肉を取り分ける用の箸で、焼き網の上から肉を取ってエルリアの取り皿に置く。

「それにこっちだったら、食っても食っても太らん。お陰でもやし炒め生活も充実してるわ」

「もー……ちゃんと栄養取らないとダメだよ。あと、お肉ありがと」

「ん。エルは、実家暮らしだっけか?社会人になって自炊するようになると、親のありがたみが身に染みるぞ。割とマジで」

「私は現実リアルでも、料理するし。何なら今度、作ってあげようか」

 にんまり顔で笑うエルリアは、どこか挑発的な表情だ。勿論、これはわざとである。タイチにとっては辛い裏切りの過去をきっかけに開始された、エルリアの猛攻……それによって、互いのリアルの姿を知っている二人だ。彼女は今、本気でタイチとの距離を詰める為の一手を模索していたのである。


 そんなエルリアの内心を知ってか知らずか、タイチは何となく思いついた料理の名前を口にした。

「じゃあ、ビーフストロガノフ」

「何でそんな手間のかかるモノを……とは言うけど。作れるんだなぁ、これが」

「マジか、つよつよじゃねーか」

「一口食べた瞬間に、私を崇めるタイチ兄の姿が今から目に浮かぶね」

「おいおい、幻覚症状か? 病院行った方がいいぞ、付き添ってやろうか」

「失敬な……んじゃ、今度ね。あ、材料費は折半で」

「馬鹿言え、作って貰うんだから材料費は俺が持つわ」

 肉と野菜、キノコに白米を口に運びつつ、二人はそんな会話を続けている。その様子を傍から見ている、【初心者救済委員会】と【おでん傭兵団】の若い男性陣は思った。


――俺達は一体、何を見せ付けられているんだろう……。


 焼き肉のタレ(カイセンイクラドン特製)は、美味しいのにどこか辛く感じた。辛いという字は、”からい”だけではなく”つらい”とも読めるのだ。

次回投稿予定日:2024/2/15(本編)

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― 新着の感想 ―
[良い点] アークは初登場時より成長したなぁとしみじみ思う今日此頃です。第三者の私がそう思う位なので付き合いの長いギルメンんなんかは特にでしょうね。
[一言] 全ての作品と更新に感謝を込めて、この話数分を既読しました、ご縁がありましたらまた会いましょう。(意訳◇更新ありがとな、また読みに来たぜ、じゃあな!)
[良い点] 残念ながらエルリアさんは売約済みなのであった。 やはり現状この3クランは大きな流れを生むんだろうなぁ。
感想一覧
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