17-40 私達結婚しました2
(`・ω・´)/ 復 活 !!
いやはや、戦闘不能なるかと思いました。
初めてコロナなりましたが、話に聞く通り味が解らなくなるんですね。
仕事が多忙で感想返しが滞っておりますが、皆様からのお見舞いのお言葉はしっかり読ませて頂いております。
本当にありがとうございました。
お礼に過糖警報出しときますね←
山の上にある、[エル・ノエル教会]……そこはゲームが始まって以来、初めてと言って良い程の来訪者を迎えていた。
「あらあら、まぁまぁ! こんなに沢山の方がいらっしゃるなんて、初めてですね」
教会を管理するシスター・エリザベスも驚いているが、同時にとても嬉しそうにしている。これまではボロボロだった教会を一人で切り盛りしていたからか、こうして生まれ変わった教会で結婚式を挙げる事が出来るのが嬉しいのだろう。
訪問する客人をシスター一人で捌くのは大変だろうと考え、クラン【十人十色】の面々が来客を迎え入れていた。とは言っても、その役割は【忍者ふぁんくらぶ】のメンバーがそれを担ってくれている。
その理由は概ね「雑事は我々が引き受けます!」というものだった。この人達、そういう所まで本当に忍者してる。
さて、今回の結婚式だが……クラン【十人十色】以外にも、フレンド登録を交わしたプレイヤーには一応声を掛けていた。受付をする忍者達が応対するのは、主にそちら側だ。
そう、ヒイロやレンとの交流があるプレイヤーである。
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「まさかゲーム内で、結婚式に参加するとは思わなかったな」
そう告げたのは、とあるギルド……とある大規模ギルドを束ねる男である。
「むしろ君が出席したのは、ちょっとした驚きだよアーク」
相棒である青年……ギルバートにそう言われたアークは、それ以上何も言わずに口を閉ざした。そんな態度のアークを見ても、ギルバートは怒らせただろうか? なんて思ったりはしない。
一方、参謀を務めるライデンは涼しい顔で肩を竦める。
「僕としては嬉しいけどね。彼等との交友関係を円滑に保つ為にも、トップの出席は実に意味のある事だ」
ライデンの言葉を聞いても、アークは黙って目を閉じるだけだ。傍から見たら、怒っているのでは? なんて思ってしまう姿である。
「ちょっと、ギル……アークさん、怒ってるんじゃないの?」
小声で隣に座るギルバートに、そう問い掛けるのはバーベラである。付き合いの浅い彼女から見たら、アークがギルバートやライデンの言葉で気分を害したのではないかと思ったのだ。
しかし、ギルバート達は微塵もそうは思っていない。
「違うさ、バーベラ。アークは結婚システムの恩恵を受ける事で、ヒイロやレンさんが更に強力なライバルになる事を喜んでいるんだ」
「えぇ……?」
訝し気な視線でギルバートを見るバーベラだが、これに関してはギルバートの方がアークをよく理解していると言って良い。
アークは第四回イベントで、ジン・ヒメノ夫婦が見せた最高の戦い振りを思い出していた。あの二人と関係が深く、似た部分もあるヒイロとレン……その二人がその領域に踏み込むのは、間違い無いだろう。
それはつまり、強力なライバルが進化を遂げるに等しい。そんな好敵手と戦い、自分が越える……その目標がある事が、アークとしては喜ばしい事であった。
ふと、そこでアークは考えた。
結婚システム……それはAWOのゲームシステムであると同時に、ゲーム内では実際の結婚と同じ様に軽々しく実行するものではない。
もしも、自分が誰かと結婚システムを実行するとしたら……その相手は、どんな人物なのだろうと。
そんな事を考えたアークは、ふと隣に座る女性に視線を向けた。そこにはギルドの制服で身を包んだ、銀髪の美女が笑みを湛えて座っている。
「……ん? どうかしたかい、アーク?」
「いや、何でも無い。気にしないでくれ」
「ふぅん、そうかい?」
サブマスターとして、自分を日頃から支えてくれる女性……シルフィ。彼女をギルドに勧誘し、幹部に昇格させてからはこうして側に居る機会が増えた。気が付けば、ギルバートやライデンと同じくらい彼女の事を信頼していた。そして、側に居る事が全く苦ではなかった。
――彼女の様な女性ならば……いや、結婚システムを前提に考えるのは失礼だな。
かつての強さを追い求める彼であれば、結婚システムも利益を得る為の手段と割り切ったかもしれない。それとも、他人に依存する力で強くなる事を拒絶した可能性もある。
しかし今のアークは、あの頃の彼ではない。ジン達によって、人と人の繋がりによって生まれる大きな力が存在する事を学んでいた。そして、その力は信頼や愛情から生まれるものである事も。
……
一方、アーク達【聖光の騎士団】とは通路を挟んで逆側の席に座る集団。それは当然、同じく大規模ギルドである【森羅万象】の面々である。最もどのギルドも、式場の収容に限りがある為メンバー総出の出席ではない。せいぜい各ギルド十人程度が、許容人数の限界といったところだ。
そんな式場となる教会の長椅子に座り、にこやかな笑みを浮かべるシンラ。彼女は隣に座るクロードに、機嫌良さそうにしていた。いつになくご機嫌な様子だったので、クロードも何事だろうか? と首を傾げる。
「随分とご満悦だな、シンラ。何か良い事でもあったか?」
シンラがご機嫌な理由について問い掛けると、彼女は笑みを深めてみせる。
「そりゃあね~? こういうのに呼んで貰える事って、それなりに気を許して貰っているって事じゃない? 仲間ではないけれど、友人とは認められているって事よ~」
「そういう事か。確かにそうだな……うん、確かに私としても嬉しくはあるな」
実際、クラン【十人十色】は誰彼構わず交流するタイプの勢力ではない。交流する相手は選ぶし、踏み込めるラインもその親密さの度合いによって違う。
そんな彼等が結婚式に招待するという事は、それくらいには心を許しているという事だ。親しくない相手ならば、そもそも結婚の事実すら伝えはしないだろう。
ちなみに【聖光の騎士団】はギルドの制服で統一しているが、【森羅万象】はそれぞれ思い思いのフォーマルなスーツやドレス姿だ。勿論、主役より目立つようなものはなく、実際の結婚式等に着ていても不思議ではないクオリティだ。
ちなみにこれは自前ではなく、プレイヤーメイドの品だったりする。製作者については、言うに及ばないだろう……【十人十色】にはアロハなおじさんとネコミミ美人を筆頭に、生産ガチ勢のプレイヤーが何人か居るのである。
「シンラさんのドレス姿を拝めるとは……くぅっ! あとはウェディングドレスも……!!」
「良い教会ですね。アーサーさん、私も式を挙げるならこういう教会が……」
「おっとアイテル、抜け駆け禁止だよ。ところでアーサー、このドレスどう? 結構、セクスィーでしょ?」
「シ、シア? その、凄く似合っているな……な、なぁ? 聞いてる?」
「お兄ちゃん、スーツ似合うね。カッコイイよ」
相変わらずのアーサーガールズに、親友コンビ。後ろの席に座る彼等に振り返って、アーサーは呆れた顔をする。
「こういう時は、流石に静かにしようぜ。騒ぎ過ぎて追い出されるとか、シャレにならないだろ。あと、ナイルはありがとな」
流石に場が場である為、アーサーは仲間達に注意する。騒ぎを起こして、【十人十色】や出席者の評価を下げるのは、流石にまずい。
「そ、そうだな……スマン」
「う……そ、そうですね。アーサーさんの仰る通りです」
「まぁ確かにそっか。後で感想聞かせてね!」
「あぁ……大人しくしているとしようか」
「うん♪」
仲間達の返答を確認したアーサーは、一つ頷いて前に向き直った。
その隣では、ハルがニコニコしながら教会のあちらこちらを眺めている。後ろの席の面々の様に、騒いだりしていないので可愛いものだ。
「興味津々だな、ハル」
アーサーがそう問い掛けると、ハルはにっこりと微笑んで頷いてみせた。
「うん、凄く素敵な教会だよね。ヒイロさんとレンさんが出て来るの、楽しみだなぁ」
純粋に結婚式を祝いつつ、楽しんでいる。そんなハルにアーサーは頬を緩めて、「そうだな」と頷いてみせた。
同時に、自分がハルと結ばれることが出来たなら……こういった結婚式を挙げるのも、良いなと内心で思うのだった。
……
そして【聖光の騎士団】や【森羅万象】が居れば、当然それに続くトップギルドとして名が上がるのが【遥かなる旅路】だ。カイセンイクラドンとトロロゴハンは花畑の教会を紹介した事が縁で、ジンとヒメノの結婚式にも出席した事がある。今回は、ギルドの中枢メンバーを連れての出席と相成った。
「今日はヒイロ君とレンさんで、明日はケイン君とイリスさんか。めでたい話が続くな」
「えぇ、そうね。彼等なら結婚システムを軽視したりはしないでしょうし、こういう式を挙げるのも納得だわ」
ギルマス夫婦がそんな和やかな会話をしている横で、タイチは隣に座るエルリアをチラリと見る。式場に到着した時に【忍者ふぁんくらぶ】に渡されたフォーマルドレスのリストを見た彼女は、普段の服装ではなく正装が良いだろうとドレスをレンタルする事にしたのだ。
淡いライトグリーンのドレスに身を包み、頭には髪飾りを付けた彼女は……普段の傭兵風の装いと打って変わって、実に可憐な美少女っぷりを発揮していた。
「タイチ兄? どうかした?」
視線を感じたエルリアが、タイチにそう問い掛ける。タイチは無意識に彼女を見ていた事に気付き……しかし、慌てて何でもないと誤魔化すのは良くないと判断した。
「いや……エルも、そういうの似合うんだな。色もデザインも、エルにピッタリだと思うぞ」
タイチは何とか平静を装い、エルリアを褒めてみせる。キャラじゃないなと思いつつも、ここはしっかり褒めるべきだと判断したのだ。
「ふふっ、そう? ありがとう。タイチ兄もスーツ似合ってるね、格好良いよ」
「……あんがとさん」
場所が場所だからか、仲間内でバカ話をする時の様な気安さはどこへやら。よそ行きの淑やかな表情で微笑むエルリアを見て、タイチは思わず唸ってしまう。
――エルって、こんなに可愛かったっけか……?
以前に比べて距離がぐっと近付いたエルリアに対し、タイチもようやく過去の悲恋を乗り越えたのか心境の変化が訪れつつある様だ。
ちなみにエルリアもエルリアで、最近は確かな手応えを感じていたりする。以前は単に妹分扱いをされていた自覚があったのだが、最近はタイチの態度が徐々に変わっているのが解った。
――タイチ兄、最近はちゃんと私の事意識してくれてるよね……? スキンシップ取ろうとすると照れてくれるし、このドレスも見惚れてくれてたし……。
それは明らかに妹分に対する接し方では無く、一人の女性と認識しているかの様な態度である。勿論の事だが、エルリアにしてみれば朗報だった。
受付の時にはレンタルを申し入れていたが、もし問題が無いようならば買い取ってしまおうか。そんな事を考えつつ、エルリアは機嫌良さそうに澄まし顔で式の開始を待つのだった。
……
三大ギルドに加えて、更に列席するのはそうそうたるギルドの面々。
「本当に凄いわよねぇ。こんなに人が集まるのもそうだし、こんなドレスまで用意されているのもね」
「同感です。フィオレ様、良くお似合いですよ」
「ふふっ、セシリアさんこそ。シスター服も良いけど、そういう服装も素敵だわ」
「良かったじゃないか、クリムゾン。イメージカラーに合ったスーツが借りれてさ」
「まぁな……ヒューズは残念だったな、白だとタキシードに見えるから無かったんだろ」
「ま、それは仕方ないさ。主役はあくまで、新郎新婦だ。そこで我を通す程、拘ってる訳じゃないしな」
「今日と明日の結婚式は、【七色】と【桃園】のギルドマスターとサブマスター……他の方の式も、日を改めてやるのかしら?」
「そうかもねー。ほら、ハヤテさんとアイネさんなんかも、結婚考えてそうじゃない? その時も出席出来たら良いわね、アナ」
「えぇ、本当にそうね」
「いやぁ、こうしてスーツを貸し出して貰えるのは助かるな。いつもの格好では、結婚式に相応しくなさそうだし」
「オーディン、意外と似合うなアンタ……」
「ノミコ、そっちのドレス選んだのね? 色違いじゃん」
「姉さんこそ。双子って、こういう事ほんとあるわよねぇ」
「エム、どうかしたのかな?」
「いえ……なんか、数人見覚えのある顔があったような気がして……いや、気のせいかな」
クリスマスパーティーに参加した者達や、クラン結成表明の場で紹介された面々。そういったプレイヤー達が集った事で、式場はほぼ満員御礼状態である。
そして、式場の後ろの方にひっそりと座るプレイヤー達も居た。
「あいつら、俺等を招待するとか……何考えてやがんだ?」
「そんな事言いながら、出席するところが御頭よねぇ」
頭上のカラーカーソルは、飾り付けの布で絶妙に隠される様にされた席。そこに座って大人しくしているのは、PKerギルド【漆黒の旅団】の面々であった。
「フン……冷やかしに決まってんだろ、呼ばれたから来てやっただけだ」
そう言うのは、ギルドマスターのグレイヴである。口では「仕方がないから来たんだ」的な発言をしているが……彼もレンタルしたスーツをしっかりと着込んでおり、座る姿もきちんとしていた。ちゃんと結婚式に出席する事を、意識しての出で立ちと振る舞いである。
勿論、それは他の面々も同様。隠されているカラーカーソルが見えなければ、彼等がPKerだと気付くのは至難の業ではなかろうか。
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そうこうしている内に時間は過ぎていき、予定されていた時間になった。そこでシオンが祭壇の脇に立ち、列席者たちに向けて呼び掛ける。
「本日はお忙しい中、ご来席頂きました事を感謝申し上げます」
そう言ってシオンが一礼し、再び身体を起こして背筋を伸ばす。
「それでは、大変お待たせ致しました。これより【七色の橋】ギルドマスターのヒイロ様と、同じくサブマスターのレン様の結婚式を執り行います。まずは、新郎の入場です」
シオンの言葉を受けて、ジンとダイスが扉を開く。そこには、白いタキシード姿のヒイロが立っていた。
扉が開いた途端、ヒイロは驚きの表情を浮かべそうになり……それを、グッと堪えた。ジンとヒメノの挙式の時以上に、列席者は多く教会の規模も大きい。解っていたとしても、実際に目の当たりにすると驚いてしまうのも無理のない事であった。
内心の驚きを振り払って、ヒイロは祭壇の前に向けて歩き出した。手順はジンの時と同様である為、ヒイロは落ち着いて一歩ずつ歩いていく。
自分に視線が集中するのは居心地の悪さを感じるが、今日この日を楽しみにしていたレンの為にもみっともない姿は見せられない。そんな強い確固たる意志のお陰か、歩く姿は堂々として見える。
祭壇の前でヒイロが立ち止まれば、続いては新婦の入場だ。
「続きまして、新婦の入場です」
扉が開かれたそこには、ウェディングドレス姿のレンの姿があった。プリンセスラインのドレスは、ヒメノの時と同様に所々和風の意匠が盛り込まれている。
そしてゲーム内とはいえ彼の花嫁となる事が嬉しいのか、彼女はいつになく穏やかな笑みを湛えていた。
その姿を見た瞬間に男女問わず、思わず溜息が漏れ出てしまう。
列席者も自分の姿を十分確認したと判断したレンは、祭壇の前で待つヒイロに向かってゆっくりと歩き始める。
幼少期からの淑女教育のお陰で、こうした場面での歩き方もしっかり身に付いている。ヴァージンロードを歩く姿は、中学生の少女でありながら立派な花嫁だと誰もが思う程見事である。
「あのレンが、お嫁に行くなんて……感無量だわ」
「仰る通りで……」
そう口にするのは、【魔弾の射手】の席に座る三人組の内の二人だった。
一人は青い髪を結い上げた、高校生くらいの女性である。その顔立ちは、レンにどこか似ている……まぁ、姉妹なのだから当然と言えば当然である。
その隣に座る人物も、金色の髪をきっちりと整えた同じ年頃の青年だ。優し気な笑みを浮かべているのは、幼少期から見守ってきたレンの晴れの日だからだろう。
「気持ちは解らないでもないが……バレない様に注意しろよ、【アクア】も【アウス】も」
小声で二人にそう告げる、同席した青年。見た目はディーゴと同じくらい……つまり大学生くらいの青年だ。ウルフカットの黒髪で、どことなくワイルドさを感じさせる。
気持ちは解るが、目立って自分達の素性が割れるのは宜しくない。今日は結婚式に参列しているのだから、フードを被って変装するといった手段は取れないのだ。
「解っているわ、あなた」
「心得ております、【カイル】様」
この場に居る、事情を知らない者達は驚くだろう……この三人が、AWO運営メンバーのシリウス・エリア・ガイアだと知れば。
今使っているのは運営専用アバターではなく、一般プレイヤーとして一から自分で設定したアバターだ。外見を少し若返らせる事で、運営アバターとの差別化を図り身バレのリスクを軽減させているのである。
そうこうしている内に、レンが祭壇の前まで進んだ。そこで待つヒイロに向けて微笑むと、彼の腕に自分の腕を絡める。
「さぁ、行こうか」
「はい」
短い言葉を交わした二人は、歩幅もタイミングも完璧な一歩を踏み出す。そうして祭壇の前まで進めば、そこには牧師の姿をしたユージンが居た。
「新郎新婦お二人から願われ、このユージンがこの度の結婚式の牧師の役割を務めさせて頂く」
そう言ってユージンが胸に手を当てて一礼すれば、ヒイロとレン……そして、参列者達も同じ様に一礼した。
「それでは、誓いの言葉を……汝、ヒイロは隣に立つレンを、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
厳かな雰囲気を醸し出す、ユージンからの問い掛け。その言葉は、ジンとヒメノの時同様に現実の結婚式の様な空気を感じさせる。
そんなユージンに向けて、ヒイロは真剣な表情で誓う。
「はい、誓います」
ヒイロの返答にユージンは頷き、次にレンに視線を移す。
「汝、レンは隣に立つヒイロを、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「誓います」
ヒイロのそれに劣らない真剣さで、レンも誓いの言葉を口にする。
二人の宣誓を認める様にユージンは頷き、視線を祭壇の横に控えていたシスター・エリザベスに向けた。
「それでは新郎新婦による、指輪の交換を」
彼女はそれが合図だと察して、預かっていた箱を乗せたトレイを持って歩み寄る。ユージンがそれを受け取って、箱を開けた。そこに収められているのは、ヒイロが手ずから製作した結婚指輪だ。
二つの指輪は同様の意匠で、二つの円環が象られている。これは、無限大を示す記号である”∞”をイメージしている。この記号にはヒイロからの、『限り無い愛をレンに捧げる』という思いが込められている。
更に、その輪の中にそれぞれの宝石が収められていた。
レンの指輪にはアクアマリンの宝石と、モルガナイトの宝石。これは彼女の誕生日……三月三日を象徴する宝石だ。
三月の誕生石であるアクアマリンの石言葉は「聡明、沈着、幸福」。そして三月三日の誕生石のモルガナイトは、「清純、愛情、優美さ、女性らしさ」という石言葉を持っている。
またヒイロの指輪にはサファイアと、ペリドットの宝石が収められている。
サファイアは九月の誕生石で、石言葉は「慈愛・誠実・徳望」。そして九月十二日の誕生石がペリドットであり、「希望・友愛・夫婦の輪」という石言葉がある。
ヒイロは誕生月の宝石と誕生日の宝石が、どれも結婚指輪に相応しい意味合いを込めていると感じた。二つの宝石を一つの指輪に使用するにあたって、考えたのが無限大の記号となり……試行錯誤の末に、この指輪を作り上げたのだ。
ヒイロが先に、レン用の指輪を手に取る。彼女の左手の薬指に指輪を嵌めれば、レンはそれを見て目を潤ませながら微笑みを浮かべた。その幸せそうな表情に、ヒイロも列席者も息を呑んでしまう。
しかし、これで終わりではない。レンがヒイロ用の指輪を手に取って、ヒイロに向き直る。ヒイロが左手を差し出せば、彼女はその手を取り左手の薬指に無限を象徴する結婚指輪を嵌めた。
【ヒイロとレンが婚姻の誓いを果たしました。これより二人は夫婦となります】
式場に居る全員の耳に、そのアナウンスが流れた瞬間……この時を待ちかねていたと言わんばかりに、一斉に拍手の音が式場内に響き渡る。一人、また一人と立ち上がり……誰もが二人の門出を祝福しようと、惜しみない拍手を贈っていた。
ヒイロとレンはその拍手を贈る人達に向き直り、感謝の思いを込めて一礼する。そんな二人の謝意の礼に、拍手は更に勢いを増した。
「二人の婚姻が成立した事をここに認める。創世の神の祝福があらん事を」
そう告げてユージンは祭壇から退き、最前列の長椅子の方へと移動した。
「さぁ、二人の新たな門出を祝おうじゃないか」
ユージンがそう言うと、最前列に座っていた【七色の橋】のメンバーが立ち上がる。教会の出口へと向かうユージンに続いて歩き出す姿を見て、参列者達もこの後どう行動するのかがすぐに理解できた。
教会の前で花道を作ろうと席を立っていく列席者達を見送って、ヒイロとレンは顔を見合わせる。
「これからも……俺の隣に居てくれ、レン」
「はい、ヒイロさん。私はいつも、いつまでも……貴方の隣に居ます」
そう言って微笑むレンは、幸せそうな笑顔だった。そんな彼女への愛しさが募り、ヒイロはその肩を抱き寄せる。
「レン」
真剣な表情で、ヒイロはレンのヴェールを上げる。
「ヒイロさん」
レンも、ヒイロが何をしようとしているのか……何をしたいのかが、すぐに解った。
「愛しているよ、レン」
「私も……ヒイロさんを、心から愛しています」
結婚式に参列した者達はもう、式場の扉の前で花道を作って二人を待っているだろう。式場の中にはもう二人しかおらず、誰に見られる事も無い。
二人の距離はゼロになり、重ねた唇から互いの想いが伝わる。
二人きりの、二人だけの誓いの口付けを終えて、二人は笑顔を交換し合う。
「皆が待っている……そろそろ、行こうか」
「えぇ、行きましょう……私の愛しい、旦那様」
次回投稿予定日
2024/2/8(第十七章の登場人物)
2024/2/10(第十八章)
祝え!!(ウォズ定期)
もうとにかく祝え!!(雑)
第十七章は如何でしたでしょうか。
次からはお待ちかねの第十八章、第五回イベントが控える二月に突入するお話です。
二月は!! 色々と!! 盛り沢山ですよ!!




