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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十七章 クランを立ち上げました

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17-34 幕間・プロゲーマーの仮面

 ジン達が山の教会に向かった、その頃。始まりの町[バース]で、数名のプレイヤーが会話をしていた。場所はNPCショップの中でも、あまり人気の無い場所……素材を取り扱うショップだ。

 人気の無い理由は、この店の品揃えは非常に少ない為である。ここで素材を購入するくらいなら、フィールドに出て採集する方が良いのだ。


「今日は用事があるって社長は言っていたけど、何の用事だろうなぁ」

 チャラそうな青年・テイルズは、社長ことシキが別行動をしている理由について興味がある様だった。

 そんなテイルズに答えるのは、彼等の中で参謀役を務める青年・マストである。

「個人的に受注していたクエストが、完了したとか。いつものお助け系クエストでは?」

「あぁ、成程。そりゃ社長らしいわ」

 テイルズはそう言って、視線をショップの目録に戻した。


 少し間を置いて、彼はNPCショップの店員に声を掛ける。

「おねーさん、≪サーベルウルフの牙≫と≪ホーンラビットの毛皮≫を三つずつ買うぜ」

 ショップの店員NPC(恰幅の良いおばさん)は、テイルズの注文に「はいよ!」と答えて商品を取り出した。

「≪サーベルウルフの牙≫三つで、百五十ゴールドコイン! ≪ホーンラビットの毛皮≫三つで、九十ゴールドコイン! 合計で二百四十ゴールドコインだよ!」

 店員がそう言うと同時に、テイルズの視界にシステム・ウィンドウがポップアップする。テイルズは提示された品物の名称と数量、金額が合っているのを確認すると『OK』と表示されているボタンをタップした。


 これで買物とりひきは終了……と思いきや、店員が更に言葉を続ける。

「お兄さん、いつも贔屓にしてくれてるからね。こいつはサービスだよ、持ってって!」

 そう店員が告げたと同時に、クエスト達成のウィンドウが現れる。


『クエスト【マーサからのサービス】をクリアしました』


 そのウィンドウを確認したテイルズは、店員マーサに視線を向け……そして、二ッと笑った。

「ありがとな、おねーさん。また来るぜ」


……


「ねぇ、テイルズ? さっきのは、何だったの?」

 テイルズが達成したクエストについて、店内では黙っていたクーラが問い掛ける。その声は、普段の彼女の声よりも高めだ。

 その声色に戸惑う素振りも無く、テイルズは「なんてことはないさ」と笑って詳細を説明する。

「どうやらあの店の商品を、一通り買う事で達成するクエストらしーぜ?  で、手に入ったのは≪守護のバングル≫って装飾アイテム! 気前の良いおねーさんだよなぁ、マジ感謝だわー!」

 軽薄そうな言葉の割には、その声色からは感謝の念が込められている。クーラはそう感じ取って、溜息を吐いた。


――チャラ男のふりをして、何の得があるのかしら……実際は、真面目で気遣いの出来るリーダーなのに……もっと別のキャラ作りをするべきだったんじゃないかしら?


 プロゲーマーとしてのテイルズは、格好も口調もチャラ男風。しかしそれは演技で、作ったキャラクターである。

 実際の彼、尾頭びとうたもつは勤勉な二十歳の青年で、後輩達の面倒をよく見る好青年だ。

 事務所に加入した当初は、素の性格で働いていたのだが……彼を可愛がっていた先輩が退所して最古参メンバーになった後、彼は今のキャラクターを演じる様になった。

 それは彼等のゲームプレイを見る、視聴者や観戦者達を楽しませる為だ。素のまま淡々と大人しくゲームをするよりも、表情や言葉、動き等があった方が、見ている人達は楽しめると考えたからである。


 そうなったのは、彼の過去に起因する。

 保はかつて、両親に虐待を受けていたのだ。それは周囲に気付かれない様に、執拗に、陰湿に、徹底的に。保は両親から受ける虐待行為を、周囲に相談する事さえ出来ない程に追い詰められていた。

 そんな彼に最初の転機が訪れたのは、小学校の身体測定の時。顔には暴行の跡を残さなかった両親だが、それはつまり服で隠れる部分には暴行の痕跡があった訳だ。

 それを見た教師が児童相談所と連携し、彼が受けた虐待行為は白日の下に晒された。彼は両親の虐待から解放されたのだ。


 そこで彼は、同じ様な境遇の子供達と出会った。彼等の境遇を聞いた保は、自分だけではなく多くの子供達が同じ様な虐待を受けていると知った。

 そこで彼は、そういった子供達に手を差し伸べなくてはならないと考えた。自分が解放されたように、同じ境遇の子供達が解放されて欲しいと願った。彼はその為に、自分に出来る事は何だろうと考えたのだ。

 そうして様々な事に挑戦し、自分の力を生かす為の試行錯誤をしていく中で……彼は歩真の目に留まった。歩真によって、保はプロゲーマーとして活躍するであろう才覚を見出されたのだ。

 そうして彼は【フロントライン】に加入し、その才能を発揮していく。そんな彼の稼ぎの半分は、今でも恵まれない境遇の子供達への支援に使われている。


 それはクーラ……蔵宮くらみや菜乃なのも、同様だ。彼女もまた素の自分ではなく、プロゲーマーとしての顔を持って仕事をしている。

 その理由には、少々重い理由がある……というのも、彼女の家庭は崩壊しているのだ。

 彼女の父親は、ある日人身事故を起こしてしまった。それも、飲酒運転で起きた事故である。賠償も罰則も重いもので、その事態に彼女の母親は現実逃避する為に酒に溺れた。

 酒で失敗した父親に、酒に逃げる母親。それで、正常な生活を送れるはずも無い。賠償金や家賃・光熱費・そして食費に酒代。それらは全て、借金で賄われた。

 そうなってしまえば、生活が困窮していくのも当たり前だ。その末に父親は離婚の末に音信不通になり、母親は別の男の元へと転がり込んだ。それも、菜乃を放置して。


 彼女は自力で、生きる術を見付けるしかない状況に追い込まれていった。もう、自分自身を売り物にするしかないのでは? そんな事を考えて、絶望的な未来を予想し、恐怖で震えていた。

 普通に考えれば、彼女が身の上を近しい大人に相談すれば保護される状況下だ。しかしそんな事も考えられないくらいに、彼女は精神的に追い詰められていた。


 そんな時に、彼女の才能を見出したのが歩真である。まだ彼女が普通の女子中学生だった頃、偶然目にした彼女のゲームの才能を彼は高く評価していた。そして自分が立ち上げるプロゲーマー事務所に、スカウトしたのである。

 そういった経緯がある為、菜乃は歩真をサポートする。そこに恋愛感情は無く、ただひたすらに受けた恩を返す為に。


「あのー、済みません……僕達、ゲームを始めたばかりなんですけど……生産用の公共スペースって、どちらに行けば良いんでしょうか……?」

 おどおどした様子の男性プレイヤー二人が、クーラに声を掛ける。マストはともかく、チャラ男風のテイルズが一緒に居てよく声を掛けたなと思い……丁度、彼等からは脇に設置された掲示板で見えなかったのだと悟ったクーラ。


 彼女は男性二人に向き直ると、にっこりと微笑む。

「はい、公共スペースですね? えっとですね……この道を真っ直ぐ歩いた先に、取引用のおっきい掲示板があるんです。そこを左に曲がっていけば、緑色の菱形の看板が見えるんです! そこが、公共スペースですよ!」

 仲間と話す時の落ち着いた声は、どこへやら。クーラは明るく可愛らしい雰囲気を醸し出しながら、男性二人に公共スペースの場所を説明する。


 十六歳ながら高校へは通わず、プロゲーマーとしてシキをサポートする彼女。その容姿と声を最大限に生かす、キャラクター性がこれだった。

 男性の関心を引きつつも、女性から不興を買わない様に媚び過ぎず。アイドルの様に徹底したキャラ作りで、ファンを魅了するプロゲーマー。これが菜乃が演じる、クーラという仮面であった。


 そんなクーラの様子に、男性二人は「折角だから、案内して貰おうか?」なんて下心が湧き上がる。そのまま、彼女とお近付きになれたら……という内心が、その緩み切った顔から透けて見えた。

 彼等がクーラに声を掛ける前に、テイルズとマストが苦笑いを浮かべながら口を開く。

「ハハハッ! 得意気に説明しちゃってさぁ、クーラちゃんよぉ」

「……我々も、一昨日初めて場所を知ったからな」

 チャラ男を演じたテイルズと、クールな感じで話すマスト。そんな彼等の存在に、男性二人組は初めて気付いた様だ。


「私、道を聞かれたから答えただけ! それをバカにするのは、良くないと思います!」

 腕を組んでふくれっ面をするクーラは、やはりとても可愛らしい。男性二人としては、出来ればお近付きになりたいとは思う。

 しかし明らかにヤンチャそうで陽キャなチャラ男と、視線の鋭い冷徹そうな少年。彼等を押しのけて、案内をして……と口にする勇気は、彼等には無かった。


「い、いえいえ! 助かりましたよ!」

「そ、そうそう! ご親切に、ありがとうございます!」

 一応、ちゃんとお礼を告げる二人組。下心と言ってもまだマシな方であり、性根は悪い者達では無いようだ。

「ほら! お二人だって、こう言ってくれてます!」

「「はいはい」」


 適当にあしらうテイルズとマストに、クーラはムッとした表情をし……そして、二人組に視線を戻した。

「生産作業するんですよね? 応援してます、頑張って下さいね!」

 胸元でグッとガッツポーズをして、そう言うクーラ。そんな彼女の激励の言葉に、男性二人は胸を高鳴らせる。


――この娘、めっちゃ良い子だ……!!


 距離を縮める事は出来ないが、こうして応援してくれる。そんな彼女の言葉で、この後の作業を頑張ろうという気持ちが芽生えていた。

「ありがとうございます、頑張ります!」

「案内も、感謝してます!」

 そう言って、二人はやる気を漲らせた様子で歩き去っていった。


「……さてと! 今日はこのまま三人で動く?」

「ま、それで良いんじゃね?」

「では、それで」

 町中やフィールドでは、他のプレイヤーの視線がある。だから彼等は、仮面を被り続ける。自分達がプロゲーマーだと知る者に、いつ見られるか解らないのだから。


 しかし彼等が仮面を被る理由は、もう一つある。

 それは、一人の少年の為なのだが……その少年は別行動中であり、今は山の上の教会に居るのだった。

次回投稿予定日:2024/1/15(本編)

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― 新着の感想 ―
[良い点] RPガチ勢だ…。 今のところ悪いところも見えないし本章の清涼剤かな?w
[一言] プロゲーマーとか関係なく イチゲーマーとして 楽しんでくれることを願う
[良い点] 人生色々プロゲーマーにも色々あるのです。まぁだからといってジンくんたちが靡くかはまた別のお話wこれからのテイルズたちプロゲーマーの活躍にご期待下さいといった所さんでしょうか?楽しみです。
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