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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十七章 クランを立ち上げました

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17-26 イカヅチが合流しました

警報! 警報!

えー、冒頭はいつもの糖分です。


終盤は、何だろ……ほっこり?

 それぞれの想いを胸に抱きつつ、今夜もAWOにログインするジン達。まずは、各々のギルドホームからリスタートする事になる。

 マイルームにジンの姿が現れると、先にログインしていたヒメノがそれを出迎えた。

「お帰りなさい、ジンくん」

 笑顔でジンの懐に潜り込むヒメノは、胸元に頬を寄せる。ジンにとってはそんな彼女の仕草がとても可愛らしく、誰よりも愛おしい。


「ただいま、姫」

 その銀色の髪を撫でてあげると、ヒメノは気持ち良さそうに身じろぎをする。

「姫は撫でられるの、好きだよね」

「相手によりますけどね。お父さんやお母さん、お兄ちゃんと……ジンくんは、やっぱり別枠ですから」

 家族であれば、大切にされているなと感じる。ヒメノはそう言って、ジンの眼を見て表情を更に緩めた。

「ジンくんに撫でて貰うと、愛されているって実感できます」

 ふにゃりとした、とろける様な笑顔。その笑顔を見ると、ジンとしても愛されているという実感が胸の奥底から湧き上がってくる。

「そりゃそうだろうね。いつも、愛情を籠めているから」

 梳くような手付きでヒメノの髪を撫でながら、ジンは断言してみせる。それはやはり、彼女に対する想いは誰にも負けないという自負からだろう。


「……ジンくんも、撫でられたら嬉しいですか?」

 不意に、ヒメノがそんな事を口にした。胸元からジンの顔を見上げる形になるので、お手本のような可愛らしい上目遣いの体勢である。これを素でやっているのだから、本当に末恐ろしいとジンは思ってしまう。


 それはそれとして、頭を撫でられて嬉しいか? と聞かれては、一般的な高校生男子は「いやぁ、もう子供じゃないんだから」と思うだろう。

 ジンとしても、頭を撫でられたのは中学一年生の頃……陸上で良い成績を出して、感極まった父親と母親に撫で繰り回されたのが最後ではないか? と思い起こす。

 流石にその頃には、中学に上がった事もあり子供扱いされたくない……などという、思春期らしい照れ臭さが勝った覚えがあった。


 駄菓子菓子。もとい、だがしかし。前提条件が変われば、受ける印象も変わる。両親に撫でられる事と、最愛の女性に撫でられる事を同レベルで考えてはならないだろう。

 ヒメノがそれをするとなれば、気恥ずかしさはあるだろう。しかし、それと同等以上の喜びがあるのではないか。ジンは真面目に、そんな事を考えた。

「多分……姫がしてくれるなら、嬉しいかな」

 なので、素直に答えてしまった。

 するとヒメノは「それなら!」と表情を輝かせて、中々出番の無い折り畳みベッドに腰掛ける。

「はい! どうぞっ♪」

 腰掛けて自分の膝を叩くヒメノは、期待に満ちた表情だった。


――……めっちゃノリノリじゃん。


 膝枕ばっちこいの体勢で待ち構えるヒメノからは、「さぁ、どうぞ!」みたいな雰囲気が発せられている。スカートとハイソックスの狭間から覗く白い脚に視線を向けると、太過ぎず細過ぎず、絶妙にバランスが取れた太腿が待ち構えていた。

 ジンとしても正直に言えば、様々な感情を振り切ってヒメノの太腿に飛び込みたい。思春期真っ盛りの男子高校生的には、その魅惑の太腿に酔いしれたい。

 仲間達が揃うまでの間なら……そんな考えが頭に浮かび、ジンはヒメノの隣に腰かけて……その瞬間、システム・ウィンドウにメッセージを受信をした事を知らせるアラームが鳴った。

「……メッセージみたいですね」

「うん、誰からだろう」

 ヒメノの方に身体を傾けようとした直前の事だったので、ジンはそのままの体勢でシステム・ウィンドウを開く。ヒメノが少し残念そうに思えるのは、気のせいでは無いだろう。

「ヒューズさんからだ。どれどれ……」


『昨夜、ジン君のイトコだという少年と会ったよ。ジン君達の都合が悪くなければ、ギルドホームまで案内しようと思うんだけどどうかな?』


「……僕の、イトコ」

「で、男の子……もしかして?」

 ジンのイトコである少年は二人しかおらず、ハヤテならばヒューズ達はハッキリと名前を出すだろう。であるならば、心当たりはもう一人のイトコ。父方のイトコにして、イナズマの兄である彼だ。

 先日、寺野家を訪問した時にVRMMOの話題になった。あの時は始めると明言していなかったが、ジンやイナズマがいるのだから気が向いて始めてもおかしくはない気がした。


「とりあえず、相談してみようか」

「そうですね!」

 ジンとヒメノは立ち上がり、マイルームの出口へ向かう。その直前、ヒメノがジンの手をそっと握った。

「……今度、しましょうね」

 照れくさそうに、はにかむヒメノ。このままUターンしたい気持ちを必死に抑えて、ジンは「今度ね」とだけ返したのだった。


************************************************************


 ジンから話を聞いたヒイロ達は、ヒューズに連絡し案内をお願いする事になった。また、【忍者ふぁんくらぶ】のイナズマにも事情を説明し、[虹の麓]に来てもらう事に。

 それからしばらくして、【白狼の集い】のギルドマスター・ヒューズと、アリアス……他数名のプレイヤーが、一人の少年を連れて来訪した。出迎えるのは、ジンとヒメノの二人……そして、ヒイロとレンだ。

 ハヤテやミモリも……と思ったのだが、ハヤテは装備のメンテナンスを理由に辞退。ミモリもそんなハヤテに苦笑しつつ、先に今日の分の生産活動を済ませてしまうとの事だ。これはハヤテだけが出迎えないのは、イメージ的に宜しくないと判断したからだろう。


「こんばんは、突然の連絡でごめんね。本当なら、昨夜の件で色々とあるだろうに」

「いえいえ、ありがとうございますヒューズさん。それに……」

 ジンが視線を少年……イカヅチに向ければ、彼は少々ばつの悪そうな顔を浮かべる。


「よぉ……」

 そう言って、ジンの前に立つイカヅチ。初期服に鎧と、初心者らしい装いだ。その顔立ちはジンと似ており、二人が並ぶと兄弟にも見える。

「アバター名は……イカヅチなんだ。もしかして、イナズマさんの名前を意識して?」

「うっせ、そういうのは気付いても流しとけよ」

 現実と変わらない、素直じゃない言葉。ジンは慣れているので、それに気分を害した様子は無い。イカヅチとしてもジンがそれくらいで気分を害さないと解っているし、本気で言っている訳では無い。


「えーと……ヒメノさん、で良いか? お久し振り……って程、時間も経ってないか」

「ふふっ、そうですね。こんばんはです」

 ヒメノとしても、ジンやイナズマの事を考えると彼が来る事は喜ばしい。そんな訳で、ヒメノはイカヅチを快く迎えて微笑んだ。

「イカヅチさん。こちらが私の兄のヒイロと、婚約者のレンちゃんです」

 既に寺野家で会った時に、英雄と恋が婚約している事を話していた。なのでイカヅチからしてみると初耳でも無かったのだが、ヒイロとレン……特にその容姿を見て、驚いてしまった。


――超ド級のイケメンと美少女……しかも、婚約してるって……マンガや小説みたいな話が、本当にあるもんなんだな。


 ちなみに驚き様で言えば、ヒューズ達【白狼の集い】の方が強い。ヒューズでさえ、目を丸くして絶句していた。恋人同士だとは知っていたが、婚約済みとは思っていなかったのだ。

 それはさておきヒイロとレンも、紹介されたのだからと挨拶をする。

「初めまして、ヒイロです。ヒメの兄で、このギルドのギルドマスターをしています。どうぞ宜しく」

「私はレンと申します。ようこそいらっしゃいました、イカヅチさん。どうぞ宜しくお願い致します」

 二人に挨拶をされたイカヅチは、意図せずに背筋を伸ばして一礼した。

「……イカヅチです。ジンがいつも、お世話になってます」

 その言葉が自然に出て来るあたり、イカヅチにとってジンは近しく……そして、大切な存在なのだろうと二人も察した。それは自分達も同様なのだから、すぐに察する事が出来た。


「AWOを始めるなら、言ってくれれば良かったのに……っと、立ち話も何だし上がって。多分、イナズマさんもそろそろ来るだろうし。ヒューズさん達も、どうぞ」

「……おう」

「ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えて」

 彼等【白狼の集い】のメンバーは四十三名のギルドだが、今回来訪したのはヒューズ・アリアス以外に五名だ。


 これは大勢で押し掛けるのは迷惑にあたるのと、七人ならばイカヅチを含めて一パーティで[虹の麓]まで来られるのが理由である。その道中で戦闘が発生しても、イカヅチを守る事が出来る……同時に戦闘によって発生した経験値で、イカヅチのレベル上げの足しになるだろうと考えたからだ。

 そこまでする理由は、やはり彼が『【七色の橋】に縁のあるプレイヤーだから』の一言に尽きる。

 【白狼の集い】は過去に、ギルド内から不正疑惑騒動を引き起こした者が出てしまった経緯がある。その背後にスパイ集団【禁断の果実】が居たとはいえ、それで済ませられる話ではない。しかしその時、ジン達【七色の橋】はギルドそのものに対しての責任は問わず、グラン一人の問題として応対したのだ。

 そんな訳で【白狼の集い】は、今ではすっかり親【七色の橋】と言って良いギルドなのであった。


……


 来訪した面々をギルドホームに通した所で、ポータル・オブジェクトを利用してイナズマがやって来た。その際にはアヤメ・コタロウと、イナズマの親友でありイカヅチと現実でも面識のあるハヅキが同行している。

「わ! 本当に兄さんだ!」

「お、お兄さん! こっちで会えるなんて……!」

 イナズマとハヅキが笑みを浮かべながらイカヅチに駆け寄ると、イカヅチも満更ではないらしく若干表情を緩めていた。

「も~、ゲーム始めるなら始めるって言ってよ~! そうしたらボク達が協力したのに~!」

「そうか、それならサプライズ成功だな。嫌がられなくて、何よりだわ」

 イカヅチとハヅキに対しては、大分素直に応対しているイカヅチ。これはやはり、妹とその親友は特別枠だからか。それとも、ジンの方が特別な存在だからだろうか。実際のところは、両方かもしれない。


 で。

 そんなイカヅチとイナズマ、ハヅキを見ていたある人物。彼は人知れず小さな溜息を一つ吐いて、歩き始めた。

「……うっス」

 彼に気付いたイカヅチは柔らかな笑みから一変し、表情を引き締めた。端的に言うならば、真顔である。

「おう……何年ぶりだ?」

「二年前の夏ぶりッスね」

「そうかよ……久し振りだな」

「そうッスね」

 これまでのジンとヒメノ、ヒイロとレン、イナズマとハヅキと接する時とは違う、ピリピリした雰囲気。しかしながら、互いに悪態を吐いたりしていない。逆に言うと会話の内容自体は普通なのに、空気がヒリついていた。

 その理由は、どちらにとってもイナズマ・ハヅキに対する配慮だった。


――チッ、心愛ここあや羽田さんの前でやり合う訳には……。

――イナズマさんとハヅキさんには、ちゃんと兄貴してるみたいだし……今は喧嘩吹っ掛ける訳にはいかないか。


 そんなヒリついている空気を弛緩させるかの様に、ハヤテに続いたのはミモリだ。

「もう二年半も経つのね。お久し振りね、イカヅチ君。私はこっちでは、ミモリって呼んでね」

「っ!! ご、ご無沙汰してます……えっと、ミモリさん」

 礼儀正しく姿勢を正して、挨拶をするイカヅチ。ちなみにミモリはイカヅチにとって、初恋の相手だったりする。それもあって、彼女に対する態度もまた他の面々とは異なる。

「大きくなったわねぇ、前に会ったのは中二の頃だもんね」

「ミモリさんも、お元気そうで……その、更にキレイになりましたね」

 そんなイカヅチの様子に、ハヅキが少しばかり考える事がありつつ……他の【七色の橋】のメンバーも紹介されていく。

 そしてイナズマとハヅキから、アヤメとコタロウが紹介された。

「お初にお目に掛かる、イカヅチ殿。私はアヤメという、ギルド【忍者ふぁんくらぶ】の会長を務めている」

「同じく副会長の、コタロウと申す。イナズマやハヅキには、常日頃より世話になっている。今後共、どうぞ宜しく願えれば幸甚だ」

「ど、ども……」


 挨拶が一通り落ち着いた所で、イカヅチはどうしても気にせずにはいられない部分についてイナズマに問い掛けた。

「……なぁ、イナズマ。お前等のギルド? って、言うんだっけか。何で【忍者ふぁんくらぶ】って名前なんだ? お前、忍者好きだっけ?」

 イカヅチの素朴な疑問に対し、イナズマは胸を張って答える。

「AWO初の和装プレイヤーで、忍者として有名なのが頭領様なんだよ! そのファンギルドとして立ち上がったのが、ボク達【忍者ふぁんくらぶ】なんだ!」

 ドヤァ……という感じでイナズマがそう言うが、イカヅチは「……ハァ?」といった具合だ。


 そしてイナズマの台詞から、そういえば()()()って呼ばれてるイトコが居たなと気付き……ジロリと睨みに近い視線を向けた。

「うん成程、和装で忍者だな。って、お前かよ」

「イカヅチ、視線が痛い」

 ジンはそう言うが、イカヅチとしては義妹がイトコのファンの一人だと知らされてしまったのだ。追求せずにはいられない。

「お前、何やったんだ? マジで何やったんだ?」

「いやぁ……僕としては、普通にプレイしてただけなんだけどね」

 ジンがそんな事をのたまうが、それに対してその場の面々は口を揃えてツッコミを入れてしまう。

「「「「「えっ……普通?」」」」」

 ヒメノを除く全員による、総ツッコミである。これにはジンも「あれ? まさか自分って普通じゃない……?」と考えざるを得なかった。


 そんなこんなで白状……もとい、語られるジンのこれまでの事。

「イベント上位常連……そうか」

 第一回でランキング一位、第二回イベントでは優勝チーム、第三回で装飾部門第四位、第四回イベントでのギルド成績が第三位。

 それを聞いたイカヅチの感想は……。

「そいつは相変わらずだな……流石っつーか」

 ジンならそれくらいしても、不思議ではない……といったものだった。

 それもそのはずで、ジンはかつて陸上競技で将来を渇望された選手だったのだ。ハヤテやミモリ同様、イカヅチもその応援に赴いていた。だから彼からしてみたら、ジンならばそれくらいやってのけるだろう……と思えたのである。


 そんなやり取りを見て、ヒューズはここからは込み入った話になりそうだと感じて席を立った。

「さてと……長居をしても悪いし、積もる話もあるんだろう。俺達は、そろそろお暇しようか」

 ヒューズがそう言って仲間達を促せば、彼等も不満の声一つ上げる事無く立ち上がった。

「もう行かれるんですか?」

 ヒイロとしては、もう少しゆっくりしていってもいいのでは? と思ってしまう。ヒューズや他のメンバーが、自分達に好意的なのは感じている。それにイカヅチを案内して貰ったのだから、もう少しもてなしたいという思いがあった。

「あぁ、人を待たせているもんでね」

「そうですか、それなら引き留めるのも申し訳ないですね」

 ヒイロもそう言われては、これ以上は言えなかった。この後、用事があるというならば無理強いは出来ないし、失礼に当たる。


「そうそう、あちらさんからも了承を得てあるし、報告しとこうか」

 そう言って、ヒューズがヒイロに向き直る。

「俺達【白狼の集い】と、【真紅の誓い】でクランを組む事になったよ。クリスマスパーティーの時から、クリムゾンとはやたらと気が合ってね」

 それは初耳であったが、彼等とて実力派のギルドだ。クラン結成に向けて行動を開始していても、全くおかしくはないだろう。

「成程、そうだったんですね。俺達も【桃園の誓い】と【魔弾の射手】、【忍者ふぁんくらぶ】とクランを結成することになっています」

「やっぱりね。昨日のアナウンスで、そうじゃないかって噂になっているみたいだよ」

「はは……まぁ、そうなりますよね」

 ヒイロとしても、予想されているとは思っていた。なので、ヒューズの反応は当然といえる。


「一応、気を付けておいた方が良いだろう。君達は元から有名だったけど、昨夜の件で更に注目を集めているからね。クラン加入を希望するギルドなんかも、多数押し寄せるかもしれない」

 クラン結成に向けた動きが活発化している現在、主だったギルドは注目の的だ。そして現在のところ、クラン【十人十色ヴェリアスカラー】は四つのギルドが参加するクランとなる。そしてクランに参加出来る残りの枠は、三つとなる。

 その三つの椅子を勝ち取ろうと考えるギルドが、何かしらのアクションを起こしても不思議ではない。


「肝に銘じておきます。ちなみに、ヒューズさん達はどうなんですか?」

「はは、俺達としてはクラン加入もありなんだが……クリムゾンは、【桃園】のケインのライバルを自認しているからね。恐らく、競争相手になりそうだ」

 ギルド名が似ていたり、歳の頃が近く戦闘スタイルも同タイプであるケインとクリムゾン。最初はクリムゾンが一方的な対抗意識を燃やしていたのだが、イベントやクリスマスパーティーを経てケインもそれを受け入れて接する様になっている。とはいえ、たまにメッセージのやり取りをしたりと険悪な仲では無いようなので、名実共に好敵手ライバル関係が成立しているらしい。


************************************************************


 ヒューズ達に再度感謝の言葉を告げて、その場に居る全員で見送った後。

「それでイカヅチは、ギルドに所属するつもりはあるかな? うちは全員に話を聞いて、イカヅチなら加入して貰っても良いって結論が出ているんだけど」

 ヒイロがそう言うと、イカヅチは目を丸くし……そして、真剣な表情で考え始める。

「あー……俺みたいな初心者が、入って良いのかよ? こういうゲーム自体初めてだし、足引っ張ると思うぞ」

 ゲーム内トップクラスの実力と知名度を誇る、少数精鋭ギルド【七色の橋】。その実態は先程の話からも、おおよそ察する事は出来た。

 イカヅチも、ゲームを始めて二日目の自分が貢献できるとは全く思っていない。


 しかしながら、そんなイカヅチの言葉に口を挟んだのは……ハヤテだった。

「んな事、言われなくても承知の上ッスよ。戦力としては期待してないっての」

 棘のある物言いに、イカヅチの眉間に皴が寄った。ジンとミモリは「あー……こりゃあ始まるなぁ」と呆れ顔だ。

「おーおー、被ってた猫は家出したかガキんちょ」

「うわ、怖っ。義妹イナズマさんとハヅキさんの前で、本性現していいんスかぁ?」

「安心しろクソガキ、今んとこテメーにしかこんな口きかねーからよ」

「少しは大人になったかと思ったけど、全然ッスね。まるで成長してないんだから、呆れるッス」

「んだと、コラ。やんのかテメェ」

「相手になっても良いけど、確実に俺が勝つッスよ? 良いんスか?」

 正面からガンの飛ばし合いをして、険悪な雰囲気の二人。周囲はここで喧嘩を始めるのかと、数名オロオロし始める。

 イナズマがイカヅチを、ナタクがハヤテを止めようと一歩踏み出して……。


「「最初はグー!! ジャンケンポン!!」」

 何か、ジャンケンを始めた。

「チッ!!」

「あっちむいてホイ!!」

 あ、ただのジャンケンじゃなかった。ちなみにジャンケンで勝ったのはハヤテだが、彼が指さした方向とは逆の方向にイカヅチは顔を向けている。

「くっ……!!」

「ハッ……!!」

 一撃で仕留められなかった事に、苦々しい表情を浮かべるハヤテ。逆にイカヅチは、どんなもんだと言わんばかりに鼻で笑った。

「「ジャンケンポン!! あいこで、しょッ!!」」

 今度は、イカヅチがジャンケンで勝つ。ハヤテの眼が猛禽類のそれに変わり、イカヅチの右手の指先に視線を集中させる。そしてイカヅチが右手を動かそうとして……それを引っ込め、代わりに左手で指を差そうとする。ハヤテは右側に向けようとしていた顔を、無理やり軌道修正して下に向ける。

「フン、気付きやがったか……!!」

「何回もやられてりゃ、警戒すんのは当然ッスよ……!!」


 そんな二人の攻防を見守る面々の中で、ヒイロがジンに声を掛ける。

「あれ、いつもの事?」

「最初は掴み合いになってたんだけどね。それで一回、仲裁に入った僕が突き飛ばされて手首を捻って……で、姉さんが激おこしてからはああだよ」

 喧嘩方法が健全なあっちむいてホイなのは、ジンに怪我をさせた上ミモリに叱られた結果だったらしい。

「私が躾けました」

 ミモリは何故か、満足気だ。尚、ジンも含めて弟分達がミモリに頭が上がらないという点については、この辺りも大きな要因なのかもしれない。


「ちなみにあれは、二本先取だから。とりあえず、ケインさん達に少し遅れるって連絡入れよっか」

 ミモリがそう言うと、ヒイロは苦笑して頷いた。AWO最速忍者と、最凶銃使い(ガンマン)……そしてジンのイトコにしてイナズマの義兄であるイカヅチが、頭が上がらない人物。ミモリはもしかしたら、ある意味で最強の存在なのではないか? などと考えつつ。

次回投稿予定日:2023/12/23(幕間)


イカヅチ本格参戦と同時に、色々と関係性の変化や見えなかった部分を描いていきたいもんです、ハイ。

作者的にハヤテVSイカヅチは、こうなるに至った経緯も含めてこれが一番しっくり来る。かわいいかよ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 君ら一周して仲良いよね? しかし思春期のメンタルに太ももは不味いですよ!?
[良い点] 忍♡姫にしては 糖分少なめで 当分お預け イカヅチVSハヤテ あっち向いてホイ対決 イイネ(๑•̀ㅂ•́)و✧ [一言] 姉君 最強説
[一言] イカズチもジンの家系らしく、何かしら一芸持っていそうだよな…それはともかく姉は強しw イカズチ・ハヤテはトムとジェリーだな、仲良く喧嘩しなw
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