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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十七章 クランを立ち上げました

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17-25 それぞれ話し合いました

 ジン達が[ウィスタリア森林]を開放した翌日。星波家の前までやって来た仁は、姫乃と英雄が出て来るのを待っていた。

「おはようございます、仁くん!」

「おはよう、仁」

 時間通りに二人が出て来て、仁に朝の挨拶をする。そんな二人に、仁も「おはよう!」と挨拶を返した。

 丁度その時、一台の高級車がやって来た。三人から少し離れた場所に停車した車の助手席から鳴子が降り、仁達に一礼すると後部座席の扉を開けた。

「おはようございます」

 ここから四人で初音女子大学付属中等部まで登校するのが、今では彼等の日常となっていた。


 登校するその道中で、仁達の話題は昨夜の件について。

「俺達がログアウトした後、色々あったみたいだね」

「えぇ、その様ですね」

 英雄と恋がそう言うと、姫乃がうんうんと頷く。

「左利さんから、RAINでメッセージ来てましたね」

 昨夜の内に、左利ケインはRAINグループに情報共有のメッセージを送っていた。仁達は朝起きてから、それを見て事情を知ったのだ。


「僕達だけじゃなく他のギルドも、クラン契約に向けてどんどん活動を活発にしているみたいだね」

「【聖光】と【森羅】、【旅路】がやはり気になるね。あと、多分【闇夜】と【ファミリア】も手を組んだんじゃないかって話だ」

 クラン契約実装までに、他でも色々と動きがあるだろう。


 既にクラン契約が内定しているギルド……その中でも、注目を集めているのは四組。

 まず【七色の橋】【桃園の誓い】【魔弾の射手】【忍者ふぁんくらぶ】と、数名のフリーランスのプレイヤーが結成予定のクラン【十人十色ヴェリアスカラー】。

 そして騎士系ギルド同士である【聖光の騎士団】と【絶対無敵騎士団】、【聖光】のサブギルド【聖印の巨匠】が手を組んだ、騎士クラン。

 DKC時代から交流があり、意思疎通に不安要素が無い【森羅万象】【陽だまりの庭園】【朧月夜】が結成するクラン。

 後は【遥かなる旅路】【初心者救済協会】【おでん傭兵団】による、新規プレイヤーのサポートで人気の高いクランだ。

 しばらくすればそこに、配信者ギルド【フィオレ・ファミリア】と、その言動とかあれやこれで良くも悪くも注目を集めるギルド【闇夜之翼】の話題が上がる事だろう。


「で、問題は……【竜の牙(ドラゴンファング)】かな」

 友好的なギルドの面々に関しては、元から強力なライバルが強化された程度の認識で良い。自分達もクラン結成で、戦力強化が果たせるのだから大きな問題ではない。

 逆にこれまで交流も何も無かった、【竜の牙(ドラゴンファング)】が接触を図って来た。それが今後のVRMMOライフに、どんな影響を齎すのか……そこが、気掛かりな点である。

「【竜の牙(ドラゴンファング)】って、他のゲームでトップだったって話ですよね?」

「うん、LQOラストクエストオンラインってゲームらしいよ」

 四人はAWOが初めてのVRMMOである為、他のゲームに関しての知識は乏しい。それは愛・千夜・優・音也も同様だ。

 そうなると元よりゲーマーである隼・拓真のコンビと、和美・紀子コンビに頼る事が多い。


 しかし、他の面々……【桃園の誓い】や【魔弾の射手】、そして【忍者ふぁんくらぶ】の仲間達も居る。

 今日の活動はまず、昨夜接触を図って来た【竜の牙(ドラゴンファング】に対しての意思統一からになるだろう。


************************************************************


 隼と拓真が通う中学校。朝のホームルームが始まる前に、二人は廊下で雑談に興じていた。

「うちの学校にも、そこそこAWOプレイヤー居るよね。昨日の件で、結構盛り上がってたよ」

「みたいッスね。受験生とは思えないのが、またなんとも」

「隼が言って良い台詞じゃないよね……いや、まぁ僕もだけど」

 二人は学業の成績に不安要素は無く、高校受験に対する備えもしっかりした上でゲームを楽しんでいる。これは特別な事をしている訳では無く、授業や試験に真面目に取り組んでいるからこそだった。


「そういや、拓真は結局どこ受験うけるん?」

「……それ、聞くまでも無いって解ってるよね」

 勿論、隼も解っていて聞いている。自分の志望校と、同じだと。

「隼が居て、姉さんが居て、仁さんと英雄さんが居る。帰り際に優さんを迎えに行く事も出来るからね……一緒に頑張ろう」

「楽しい高校生活になりそうッスね」

 気が早いと思わなくもないが、隼の言葉には拓真も全面的に同意する。親友と信頼する仲間、そして最愛の恋人と過ごせる高校生活。それを想像すると、今から期待で胸がいっぱいになりそうだ。


「で、昨夜の件。【竜の牙(ドラゴンファング】が接触して来た訳だけど……どう?」

「んー、ありなしで言うならナシッスね」

 隼がそう断言すると、拓真も「だよね」と頷いてみせた。

「交流の無いギルドに対して情報提供を求める……ここまではまだ、理解できなくはない。でも情報を公開すると言って尚、先行して情報を寄越せというのは頂けないよね」

「自分で自分が「対等な条件だとトップ層に追い付けない」と思ってるのか、それともただ単にトップに立って「俺TSUEEEE」したいヤツか……どっちにしろ、ろくなもんじゃ無いっス」

 中学三年生の少年にそう言われるのだから、実情が知られたら【竜の牙(ドラゴンファング】の評価はガタ落ちになるであろう。しかし、彼等は【竜の牙(ドラゴンファング】をどうこうする気はない。


「むしろユージンさんの対応が面白過ぎた」

「それな」


************************************************************


 昼時、学食で食事をする二人の女子大生が居た。そして、そんな二人を遠巻きに見て会話する学生の姿もある。

「お、おい……どうするよ?」

「無理無理、絶対無理だって……! 俺等、ろくに会話した事も無いんだぞ」

「ど、どうだろ? ワンチャン、行けなくね?」

 彼等の視線の先に居るのは、大学でも上位の美女とされる存在だ。それでいてスレておらず、男子学生としては夢を抱いてもおかしくない清純派と評判である。

 同時にある界隈では、有名過ぎるコンビでもある。そう、AWOの世界では。


「無理だろ……【七色】のミモリちゃんと、カノンちゃんだぞ」

 お察し通り、二人組の女子大生は和美と紀子だ。この二人であれば、同じ大学に通う男性陣が熱を上げてもおかしくはないだろう。

 大学生ともなれば、遊び歩く女子学生もそう少なくはない。そういった様子も無く話も聞こえない和美と紀子は、男子からしてみたら是非お近付きになりたい存在だ。


 しかし同じ講義を受ける学生ですら、彼女達のパーソナルスペースに踏み込める者はほんの一握り。その理由は、当然ながら……

「ガード堅そうだよなぁ……」

 そう、ガードが堅いのである。実際、その一言に尽きる。

「梶代さんが、人見知りっぽいもんな。よく知らん輩が近付いても、受け入れて貰えるはずねぇよ」

「ミモリちゃんも、カノンちゃんを守ろうって感じだしな。笑顔なのに、凄い圧を感じるとかなんとか」

 三人組の内、二人はやめておいた方が良いと判断していた。しかし、最後の一人は諦める様子が見受けられない。

「お前等が日和るなら、俺一人で行くぜ!!」

 そう言って立ち上がった彼は、二人に向けて歩き出した。


 談笑している二人にさりげなく声を掛け、AWOの話題で話が弾めば……そんな事を考えながら、二人の席に近付いたその時。

「遠距離恋愛だものね、紀子は。勝守さんに会えなくて、寂しいんじゃない?」

「う、うん……でも、毎日……必ず、電話して、くれるから……えへへ」

 そんな会話が、彼の耳に入った。ちなみに、彼はカノン派だった。

 彼はそのまま二人の座る席を通り過ぎて、給水器へ向かいコップに水を汲んで友人達の方へと戻る。

 その最中……更なる衝撃的発言が、彼の耳に届く。

「和美は……やっぱり、あの人が、好き……なんだよね?」

「……あはは、うん。色々と事情があって、詳しくはまだ……でも、必ず紀子には話すよ。待っててくれる?」

「ズルいよ、和美……そう言われたら……待ってるしか、無い、じゃん……」


 あまりにも衝撃的な会話内容に、彼は眩暈がしそうだった。席を立った時とは全く真逆の、生気が抜けた表情で帰還した友人二人。彼等は、戻って来た青年の行動をずっと見ていた。

「おいおい、日和ったか?」

「って、お前大丈夫か? 魂抜けてんぞ」

 ただならぬ様子の青年に、友人二人は心配そうな表情で声を掛ける。


 彼が現世に復帰し、事情を聞いた二人が発狂するまであと数分……しかしその時、既に和美と紀子は昼食を終えて移動した後であった。


************************************************************


 所変わって、[日野市高校]。二年生の教室で、三人の少女が昼食を共にしていた。冬休みが明けてから、三人で食事をするのが日常になりつつある。

「かがみん、かがみん。 言うの忘れてたんだけど、学校でAWOの話はこっそりするのが良いよ」

「浦島さん、ぐいぐい来るよね……かがみんはやめてって言ってんのに。で、何で?」

「ウチのクラスに、AWOプレイヤーが他にも居んの。ほら、あっちの集団」

 伊栖那いずなが視線を向けた先には、五人の男子生徒の姿があった。


「いつ公開すんだろうな、マップ浄化の件! 他にもそういうマップ、あるんじゃないか?」

「【聖光】とクラン契約を交わしたら、その辺りに手を付けたい所だな」

「いや、別に今でも問題無いだろ。あいつらだって、そうしてるんだし」

「そうだな……多分、レイドで挑戦できるクエストだったんじゃないか?」

「今の内に、怪しい場所を探しておくのはアリかもしれないな。フデドラさんに進言してみるか」


 賑やかそうに昼食を食べながら、盛り上がっている男子生徒達。その会話の中に、聞き捨てならない名詞があった。

「【聖光】とクラン契約……それに、フデドラ……? それって確か、フデドラゴンっていう【絶対無敵騎士団】のギルマスだよね?」

「そうそう。彼等は【絶対無敵】のメンバーなんだよ」

 夜宇よるがそう言うと、鏡美は軽くかぶりを振った。


――寺野君と星波君、この二人だけでも十分なのに……まさか、上位のギルドのメンバーがまだ居たとは……!!


 鏡美がそう考えるのも、無理はないだろう。この校舎に通う学生の中に、トップギルドのメンバーがこうも集まっているなんて奇跡的な確率だ。

 ちなみに【聖光の騎士団】のギルバートとライデン、この二人がまだ居る事を彼女達も、男子五人組もまだ知らない。


「でも、わざわざ内緒にしなくても良くない? 別に同じゲームやってるってだけなんじゃ……」

 鏡美は不思議そうにそう言うが、夜宇と伊栖那は首を横に振る。

「絶対に面倒事になるよ。ラミたんが所属してるのは、少数精鋭の実力派ギルド【桃園の誓い】。そして姉妹ギルドとして名前が知られているのが、弟殿の所属する【七色の橋】なんだから」

「うん、ラミたんはやめようね?」

「この二つのギルドと【魔弾】は、お近付きになりたいっていうプレイヤーが前から多いんだよ。美男美女揃いだし、イベントでもランキング常連だし」

「マジか、私ってそんなギルドに加入しちゃってたんか……つまり、所属がバレたら付き纏われる可能性があるって事?」

「そうだよ、カ・ガーミン」

「後から実は怪人だったお坊ちゃまみたいな呼び方しない」


 ちなみに彼女達が、【絶対無敵騎士団】の五人組を近寄らせたくない理由はもう一つある。

 エムこと伊毛いげ 映真えいま以外の四人……彼等は、【禁断の果実】によって引き起こされた不正騒動で仁と英雄を敵視していた。

 欺瞞情報に踊らされた事だけでも、腹立たしい。しかし何よりも許し難いのは、わざわざ教室の前まで行って、二人を睨みながら陰口を叩いていた事だ。

 もしも映真が居なければ、彼等は二人に絡む等の行動に走っていてもおかしくないと二人は思っていた。

 そんな彼等も、スパイ騒動のおおよその事情が知れ渡った事で……あっさりと掌を返したのだ。もしも鏡美が【桃園の誓い】の新メンバーで、【七色の橋】のナタクの姉だと知ったら……彼等は恐らく不純な動機をひた隠しにして、彼女に近付いて来るだろう。


――鏡美は、ナタク殿のお姉さんだからね。変なのを近付けさせて、なるもんかっての。

――彼等が鏡美さんが【桃園】のメンバーだと知ったら、絶対に近付くはず。守ってみせる、絶対に。


 軽い態度の裏側には、鏡美とその弟である拓真……そしてやはり、【七色の橋】や【桃園の誓い】のメンバーに対する想いがあった。自分達が彼女を守る……その強い決意があればこそ、さり気ない風を装って鏡美に注意する様に促したのだ。流石は【忍者ふぁんくらぶ】の中でも高い評価を得ている、くノ一コンビである。

 そんな二人の内心に気付かず、鏡美は「普通に名前呼んでよ……」と呆れているのだった。


************************************************************


 同じ頃、[初音女子大学付属中等部]。こちらでも、昼休みの時間を学生達が満喫している最中である。

 そんな昼時の憩いのひと時で、繰り広げられるある一幕。

「あぁ、今日も”女神部”が揃っているわ」

「いつの間にか定着したわよね……その通称」

 とある五人組を遠巻きに眺めつつ、うっとりする生徒。そしてそんな友人に呆れつつ、無理もないと笑う生徒。

 彼女達の視線の先に居るのは、当然【七色の橋】に所属する五人組だった。


 夏前から毎日の様に、五人で食事をする光景が見られる様になった彼女達。それも、構成メンバーが特徴的だった。

 全盲ながらそれに負けじと健気に頑張る、星波姫乃。

 初音家のご令嬢である、初音恋。

 地主の家系の娘である、巡音愛。

 大物漫画家の父とファッションブランドのデザイナーの母を持つ、伴田千夜。

 父子家庭で育った影響か母性を感じさせる、新田優。

 しかも全員が恋人持ちだという噂で、姫乃と恋に至っては婚約済みという話まで出ている。それを証明するかのように、二人の左手の薬指には指輪が嵌められている。


 そんな彼女達の話の内容は、やはり昨夜の件だ。

「まぁ、【竜の牙ドラゴンファング】については気にしても仕方ないんじゃないかな? もうクラン契約しろとか言って来ないだろうし、ユージンさんのお陰で」

「その時のユージンさん、見てみたかったね~」

「左利さんからは、めちゃくちゃ生き生きしてたって書いてたもんね」

 彼女達は【竜の牙ドラゴンファング】については、考えても仕方ないといった具合である。というのも当然で、既に大人の仲間達によって【竜の牙ドラゴンファング】は撃退済みという認識だからだ。


 それよりも、昨夜入手したクラン共有の土地。そちらの方が、彼女達にとっては一大事であった。

「それよりも、あの土地をどう有効活用するか……ね。中々に広い土地だし、使い道が色々とありそうだと思うんだけど」

「御城を建てる訳だし、城下町みたいにも出来そうだよね」

 恋と姫乃がそう言うと、他の三人も「確かに」と頷いてみせる。

「お店とか開けそうじゃないかな?」

「良いね良いね! 商人メンバーのお店とか!」

「第四回の御城も、ユージンさん主導で改良していくんだろうし……街作りが出来そうだよね、冗談抜きで」

「そういえば、他のサーバーでもマップは浄化されたのかな?」

「ゲーム全体にアナウンスがあったみたいだから、他のサーバーでも浄化はされてるんじゃないかしら」


 そうして話に花が咲いて、次に気になるのは第五回イベントだ。

「どんなイベントになるんだろうね」

「プレイヤー同士で戦うのは、まず無いと思うけどね。第二・第四でやっているもの」

 そこで姫乃が、ぽつりと願望を口にする。

「あまり忙しくないイベントが良いな……バレンタインもあるし、仁くんの誕生日もあるし」

 姫乃はその日をずっと心待ちにしているし、その為にあれやこれやと考えを巡らせていた。

「そっか、仁さん誕生日が二月なんだっけ」

「恋人……ううん、婚約者として初めての誕生日だもんね。それは楽しみだよね」

「仁さんの家でパーティーをするのかな?」

「うん、その予定だよ。お泊りの許可も貰っているんだ」

 二月二十一日……それが、仁の誕生日だ。その日は金曜日なので、寺野家・星波家共にお泊りOKの許可を貰っている……ちなみに仁だけには、内緒で。


「お泊りと言えば……恋ちゃんも、星波家にお泊りとかするの?」

 優がそう問い掛けると、恋はあっさりと頷いてみせた。

「今週末の十八日に、その予定。うちも姫ちゃんの家も許可が出たから、初めてのお泊りになるの」

「恋ちゃんと一緒に、お母さんから料理を教わるんだ。仁くんもお泊りに来てくれるんだよ」

「「「おぉ~……」」」

 ちなみに寺野・星波・初音家から、条件が出されている。お泊りに関しては月に一回まで。また泊まるのは、原則としてどちらかの家。それ以外の場合は、事前に許可を得る事。

 これは、婚約者とはいってもまだ学生の身であるからだ。中高生の内から恋人の家に頻繁に泊まるというのは外聞が良くないし、親からしてみれば当然の事だろう。


************************************************************


 午後の授業、襲い来る眠気に抗いながら何とか寝ずに授業を受け切った少年。彼は、二人の友人のもとへと歩み寄る。

「仁、英雄。放課後はすぐに帰るのか?」

 人志がそう声を掛けると、すぐに明人もやって来た。

「ちょっと話せればと思ったんだけど、急ぐかな?」

 二人が姫乃と恋を迎えに行くのを知っている彼等なので、無理強いをするつもりは無い様だ。しかしながら、時間が許すならば……という思いが伺える。

 仁達は今日の授業が五限までで、姫乃達は六限まである。なので、少しくらいは時間的な余裕がある。

「少しくらいなら大丈夫だよ」

「うん、どこで話す?」

 二人から色よい返事が貰えた為、人志と明人は駅前のファストフード店で話そうと提案。念の為に姫乃と恋にRAINのメッセージを送り、四人で駅前へと向かった。


……


 駅前まで来た所で、人志からRAINで連絡を受けた小斗流ことりが合流した。ひとまずファストフード店に入った五人は、席に着いて話し始める。

「隈切さんは、AWOを楽しめている?」

「ん-、まぁ普通に楽しんでるかな。鳴洲に倉守君、麻衣さんがサポートしてくれてるし」

 年明け早々に発生した、【暗黒の使徒】との決闘騒ぎ。そこで彼女は、アーク直々のスカウトを受けて【聖光の騎士団】に加入した。

 大規模ギルドにして、ガチ勢揃いの【聖光の騎士団】だ。VRMMO初心者の彼女には、厳しい世界なのではないか? そんな事を彼等は危惧していたのだが……どうやら小斗流は、思いの外順応している様だ。


「ヴェインの指導にも付いていってるし、委員長は結構向いているんじゃないかな」

「……あの、ヴェインさんの?」

 ヴェインといえば、【聖光の騎士団】でも侮れない伏兵として広く認知されている男だ。昼行燈を装った切れ者で、油断をしていたらあっという間に形勢逆転されると恐れられている。

「それは、相当だね……」

「そんな大したものじゃないわよ?……それに、何で皆ヴェインさんを警戒するのかな。普通に優しいおじ……お兄さんなのに。まぁ……ギャグは寒いけどね」

「ヴェインェ……w」


 ちなみに実際の所は、単に相性が良かっただけである。

 小斗流ことバーベラは、友人や仲間達の足を引っ張りたくなくて真剣に特訓に打ち込んでいた。そしてヴェインが教え上手な点と、バーベラの前向きな姿勢を高く評価してより丁寧な指導を心掛けているのだ。

 お陰で彼女は立ち回りやエイム力、状況判断の仕方を次々と覚えていっている。

 また彼女の真面目でひた向きな姿を見て、【聖光の騎士団】の面々からはかなり好意的に受け入れられているらしい。これは彼女が、ギルバートにとって特別な存在と見做されているのも一因である。

 つまるところ小斗流のVRMMOライフは暗礁に乗り上げるどころか、順調な日々を送っている訳だ。


「さて、本題は昨夜の件だと思うけど……」

「だね。あぁ、ちなみになんだけど……[ウィスタリア森林]についての情報もあるんだ」

 英雄が切り出せば、明人が真剣な表情で話し始めた。

「君達がログアウトした後、多くのプレイヤーが[ウィスタリア森林]に向かったのは知っているよね?」

 明人がそう言えば、仁も英雄も「ケインさんからメッセージを貰って知っている」と返した。

「それは重畳……で、浄化前の[腐食の密林]は探索どころじゃなかっただろう? つまり手付かずの宝箱が大量にあると思ったプレイヤーが、かなり殺到したんだ」

 それはそうだろうな、と仁・英雄も思っていた。ちなみに目ぼしい宝箱は、クラン【十人十色ヴェリアスカラー】の宝探し組で回収しているのだが……それには触れないでおく。


「その中には、素行の良くないプレイヤーも居たんだ。他の勢力を邪魔しながら、宝箱を独占しようとする連中さ。勿論、軽犯罪や重犯罪判定にならないようにね」

「で、そいつらに目を付けたのが【漆黒の旅団】だ」

 明人の言葉を引き継ぐように、人志が真剣な表情でそう告げる。

「奴等は妨害されたまともなプレイヤーには目もくれず、お行儀の悪い連中に問答無用で襲い掛かったらしい」

「……まぁ、理解できなくはないかな」

 グレイヴ達と実際に相対し、会話している仁や英雄。二人は彼等が単なる悪人では無く、真の悪党を主な標的にしたPKerなのではないか? と薄々勘付いている。


「で、問題はここからだ。どうやら[ウィスタリア森林]は、安全地帯セーフティーエリアらしい」

「「うん?」」

 安全地帯セーフティーエリア。それは都市や町、村等の「プレイヤーによる戦闘行為が無効化される領域」の事だ。

「PKerに攻撃されても、ダメージが発生しなかったんだとさ。結局、それを悟った【漆黒】の連中は退散したらしい」

「ちなみに中に居るモンスターも、攻撃しなければ襲い掛かって来ないみたいだよ。それどころか、擦り寄って来る個体もいたらしい」

 その情報から、仁と英雄はある可能性に思考が行き着く。

「つまり、[ウィスタリア森林]は街と変わらない扱いのマップになった……?」

「マップの浄化……まさか、そういう意味でも浄化されてたとはね。しかも、モンスターも攻撃的な個体は居ない……いや、待った」

 自分の側に居る、神獣……その存在の事を思い起こして、仁はとある可能性を考えた。


――[ウィスタリア森林]に生息するモンスターは、もしかして神獣なんじゃないか……?

次回投稿予定日:2023/12/20(本編)

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― 新着の感想 ―
[一言] 竜の牙…他ゲームでの栄光にしがみついて、やらかしてドラゴンファンブルになって退場になるか それとも、きっかけがあって変わり良き関係になるか どうなるか楽しみです
[良い点] PK出来ないとわかると帰る漆黒はかわいいかよw あと男子大学生は勝手に脳破壊されないでもろてw
[良い点] 戻ってきた時の大学生君が全財産溶かしたような顔になってそうw
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