17-23 ユージンさんが無双しました
サブタイ? いつも通りだって?
ですよねー←
でも今回は、いつもとは違うテイストになったと思います。
ユージンさんのユージンさんによるユージンさん(の推し達)の為のユージン無双です←
「せ、宣戦布告……?」
ユージンの発言に対するその反応は、誰の口から漏れ出たものだろうか。それも解らぬほど、誰もが呆然としていた。
「あぁ、LQOでトップギルドとして活躍していた君達が、わざわざギルド総出でこうして来たという事は我々にこう言いたいんだろう? 自分達は、AWOでも頂点を獲ってみせると」
不敵な笑みを浮かべるユージンに、リンドは「ちがう、そうじゃない」と言いたかった。しかしながら、その言葉を否定するのも憚られた。
実際にLQOでは頂点の座に君臨していたし、AWOでも頂点に立つつもりでいるし。それを否定する訳にはいかなかった。
何と反論すべきかリンドは考えあぐねるが、その前にユージンが言葉を続けた。
「それならば先の彼等と違って、初対面同然ながらギルド総出で近付いてきた事にも納得だ。恐らくLQOで頂点に立っていた自慢のメンバーが、このAWOでも通用する精鋭揃いなのだと見せる為なんじゃあないかい?」
「う……っ」
リンドの口から、小さな呻き声が漏れ出た。ユージンの言葉を受けて、ギルド総出で押し掛けた事が不作法であった事に今更ながら気付いたのだ。
それと同時に、アークやシンラ、カイセンイクラドンとの対応の差についても暗に指摘された。彼等はそれくらいの分別を弁えているぞと、言われた気がしてならなかった。
実際、ユージンはわざと言っている。そしてここからの言葉も、勿論ながら確信犯。
「ははっ、実に熱いじゃないか。僕も男だからね、解るよ……うん、燃える展開というのは大好物だ」
そこで、リンドはユージンと正面から目が合った。底知れない存在感と、全てを見透かす様な視線。それを感じ取り……いや、感じさせられて、寒気で身体が震えそうだった。
「ふ、ははっ……さ、流石だな。こちらの真意を見抜くとは。中々、侮れない男です……だな」
結果、リンドは押し負けた。ここでユージンの発言を否定すれば、自分達の評価が下がる。それを避けるには、取り繕う以外の選択肢が無かった。しかし最後に思わず敬語で話そうとした辺り、圧倒されているのは間違いない。
――だがまだだ、まだ軌道修正は可能だ!!
そうリンドは信じて、切り口を変える。
「ま、まぁそうはいっても……勿論、いがみ合う様な関係につもりは無い」
そのまま、「クラン契約を結ぶのも良いと思っている」と続けたい所だ。その方面に話を誘導しようと、最適な言葉を必死に選ぶ。
しかし……今回は、相手が悪かった。それはもう、最高レベルで。
「つまり正々堂々と競い合い、切磋琢磨していこうと。実に素晴らしい、良きライバルになりそうだね」
上げるフリをして、徹底的に会話の主導権を握るユージン。何が彼をそうさせるのだろうか。
それはさておきケインやビィト達も、これはわざとやっているな? と確信する。彼が何らかの理由で、リンドが本来告げたかった用件……クラン勧誘を、尽く潰そうとしているのだと。
――……どうします?
――ここは、ノっちゃおうか。
ユージン一人に任せるのは、申し訳ない。そう考えたケインとビィトは視線で意思疎通を図り、便乗する事にした。
「成程、そういう事でしたか。それならば、今後はライバルとしてお互いにベストを尽くしましょう!」
「うちのメンバーも、そういうの好きだよ? やっぱ、張り合いのある相手がいるってイイネ!」
二人が会話に参戦し、勢いを増すユージン節。止まるんじゃねぇぞ。
「ふむ、我々のクランにとっては、実に良き競争相手になりますね。頭領様も、そういった正々堂々の競い合いは望むところでしょう」
なんとアヤメさんまで加わったよ、意外とノリ良いよこの人。
「会長のいう通りだな。【竜の牙】という新たなライバルが現れたとなれば、頭領様や他の皆様も一層やる気を出すのではないかと」
「まぁ、ジン君はそういう真っ向勝負好きそうだものねぇ」
「確かに。というか、【七色】の子達は全員そうよね。勿論、私達もだけど」
更に他の面々まで、【竜の牙】を新たなライバルとして持ち上げ始めた。止まるんじゃねぇぞ? 止まらねぇぞ!
そんなこんなで、予想外の意味で八方塞がり状態のリンドさん。背後の仲間達からの「そういう事だったんですね!」みたいなヒソヒソ声も、結構胸にクる。
本当は彼等……特に、ヴィヴィアンの居る【桃園の誓い】と良好な関係を結び、クラン契約を取り付け、ヴィヴィアンと親密になりたかったリンド。しかしながら、もう場の雰囲気は「新ライバル登場」という方向性に染まっている。
そうしてリンドは苦悩に苦悩を重ね……やむなく、舵を取る。勿論、望まない方向に。
「そう言って貰えて、嬉しいよ……これから、宜しく頼む」
本音を言うと、めっちゃ哀しい。望んだ展開とは真逆の方向にいってしまって、本気で哀しかった。しかしここは取り繕うしかなく、そう言うしか選択肢が無かった。相対するトップランカー達、背後に控える自分の仲間達、そして遠巻きに様子を窺っているプレイヤー達の視線が、そうさせてしまった。
もしもここで本当の事を口にしていれば、少しは彼が望む方向に軌道修正できたかもしれない。だが彼は、AWOの頂点に立つ事を優先した。トップランカーにおもねる様な姿を晒す事を避けたいが故に、自分の本心を心の中に仕舞い込んで体裁を取り繕ったのだ。
――くっ……!! クラン契約について、言い出せる雰囲気ではなくなってしまった……!!
この選択は、彼にとって痛恨のミスとなるだろう。しかし、それも自業自得であった。
……
更にそこへ、五名のプレイヤーが近付いて来た。女性三人、男性二人の集団だ……【竜の牙】とは違い、大勢で押し寄せる様な真似はしなかったらしい。
そして、彼等は知己の間柄である。そう、あのクリスマスパーティーで歓談した仲であった。
「横からごめんなさい。まだ、お話は続きそうかしら?」
「お話の最中とは存じますが、失礼しても宜しいでしょうか?」
それは【フィオレ・ファミリア】のギルドマスター・フィオレと、サブマスターを務めるステラ・ネーヴェ。そして【闇夜之翼】ギルドマスターであるセシリアと、サブマスターのシモンだった。
「……君達は、確か」
リンドは彼等に視線を向けて、話題の矛先を変える事にした。勿論、先のイベントで活躍した二つのギルドの事は重々承知しており、繋がりを得る良い機会だなんていう考えもあった。
しかし、そうは問屋が卸さない。
「おや、君達か。クリスマスパーティー以来だね」
ユージンは朗らかな表情を浮かべ、五人を迎え入れた。それは普段ジン達に接している様子と、ほぼ変わらない態度だ。
「まさか、ユージンさんもいらっしゃったとは。ご無沙汰しています」
「わざわざ、顔見せに来てくれたのかな?」
「うふふ、そんな所です。あ、イベント以外では彼とは初めてでしたよね? 我々【闇夜之翼】のサブマスターの、シモンさんです」
「フッ……初めましてと言わせて貰おう。我等が【断罪の聖女】より紹介に預かった我こそは、【不滅の求道者】の二つ名で呼ばれし聖女の片腕……!」
「……シモンさん、帰らせますよ?」
「……失礼した、初対面で少々飛ばし過ぎたか。貴殿らに会えて、少しばかり興奮してしまったようだ。我が名はシモン、どうぞお見知りおきを」
自分達の時とは違う、親しげな会話が繰り広げられている。それはもう、和気藹々と。その温度差に、リンドは真顔になってしまう。
――これでは、俺達との会話はもう終わりだと言わんばかりではないか……!!
そうだよ? そうだけど、何か?
そんなリンドの内心など知りもせず、セシリアは更に言葉を重ねる。
「突然のご訪問、申し訳ございません。皆様が[腐食の密林]を浄化なさったというアナウンスを聞きまして、フィオレ様達と相談してお祝いの言葉をお伝えしたく伺いました」
全く裏を感じない、純粋な善意の言葉。シスター風の装いと相まって、実に可憐で聖女と呼ばれるのも納得だ。
「ふふっ、そういう事なんです。この度はおめでとうございます」
「おめでとうございます! いやー、いきなりのアナウンスでビックリしちゃいましたよ」
「流石ですね、皆さん。俺達も、負けてられないって思いましたよ」
フィオレ・ステラ・ネーヴェも、柔らかな笑みと気安い雰囲気でそう口にする。その様子から、本当に親しい間柄なのだろうと窺い知る事が出来るだろう。
「失礼……祝辞が遅くなってしまったな。祝辞はウォ〇式と通常、どちらをご所望か?」
「シーモーンーさーんー?」
「普通ですね、解ります。この度の偉業に、心からの賛辞を贈らせて頂く」
こいつはもう、何なんだろうなぁ。あと流されていたセシリアも慣れて来たのか、随分と強くなったみたいだね。超がんばれ。
で、取り残されたリンドが口を挟もうか挟まないべきか、真剣に考えていた時だった。
「さて! あまり長居をしてもお邪魔でしょうし、私達はこれで失礼しましょ」
「そうですね。浄化もやはりクエストだったのでしょうから、皆様はお疲れかと存じます」
フィオレとセシリアが、そんな事を口にした。本当に、祝いの言葉を贈りに来ただけ……と言わんばかりに。
ちなみにこの言葉の裏には、【竜の牙】に向けた棘が含まれている。それは「いつまで絡んでるのよ、あなた達は」というものや、「皆様はお疲れなのですから、配慮なさっては?」というものである。
それだけでも【竜の牙】にとっては耳が痛い言葉なのだが、ケインは彼女達の真意を察して最適な言葉を選んだ。
「おや、クエスト情報とかを聞きに来たのかと」
それは勿論、【竜の牙】に対する嫌味を含んだものである。ケインがそう言えば、シモンが「フッ」と笑った。ちなみに、シモンは裏事情など全て知らない。
「貴殿らの成し遂げし偉業の物語、確かに詳らいて貰いたくはある……しかし、時の針は止まらぬ。既に刻限は、新たな歴史を刻み始めている。なれば今は羽を休め、次また見える時に友誼を深められればそれで良しとすべきだろう」
裏事情を知らずとも、セシリアやフィオレ達の言い分は当然だと考えたらしい。ただし、その言葉は何かやたらと仰々しくて解読しにくい。
「彼は『お話を聞きたい気持ちは山々ですが、もう日付も変わった事ですし、後日改めてお話を伺えれば幸いです』と言っています」
「セシリアちゃん、強くなったわねぇ……」
「お姉さん、何か感動すら覚えるわ」
セシリアちゃんは何故か、お姉さん達に人気らしい。フレイヤとマールが、メチャクチャ優しい視線を向けておられる。
「まぁ、皆さんの事です。クエスト情報は公開するのでしょうから」
「だねー! 慌てなくても良いかなー」
ネーヴェとステラは、彼等が情報を公開すると確信している。それはクリスマスパーティーで話をした時に、彼等はそういう人達なのだと理解を深められたが故だ。
「あぁ、そのつもりだよ。メンバー内で話が纏まったら、公式掲示板に上げると思うから」
ビィトがそう言うと、二人も表情を綻ばせて頷いてみせた。
「やっぱり。流石ですね」
「楽しみにしてますねー!」
その言葉が聞けた事で、彼等は満足したらしい。笑顔を浮かべて、退散の挨拶を口にする。
「それでは失礼致します」
「また、ゆっくりお話しましょう? おやすみなさい!」
軽く手を振ると、五人は自分達のギルドメンバー……クランメンバーの方へと歩を進める。本当に、ちょっとした会話だけで済ませて、撤退していった。
このまま、自分達がここに長居をするのは非常に気まずい。それに、周囲のプレイヤー達からも視線を感じる。
例えばそれは「あいつらはまだ何かあるのか?」とか、そういった感じの視線だ。
「長居をしてしまって済まなかったな、我々もこれで失礼するとしよう」
もう、そう言わざるを得なかった。そう言うしか、出来なかったのだ。
「えぇ、俺達もそろそろ落ちないとですし」
「おっと、そうね。それじゃあ、また」
こうして忸怩たる思いを胸に懐きつつ、リンドは仲間達を引き連れてその場を離れていくのだった。
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その頃、とあるギルドホーム。
「あの【竜の牙】が来て、すぐに撤退したのは……彼等が我々を利用しようと判断したからだね、アーク?」
「気付いていたか、フデドラゴン」
今回は【聖光の騎士団】のギルドホームではなく、【絶対無敵騎士団】のギルドホームでの話し合いだ。あの対話の後にアークはシルフィ・ギルバート・ライデンを伴って、【絶対無敵騎士団】のギルドホームを訪れていたのである。
彼等を迎え入れる側の【絶対無敵騎士団】は、フデドラゴン以外にはサブマスターの【ヴェディ】と古株の中で特に信頼を得ているエムだ。
エムが用意するお茶を受け取りつつ、フデドラゴンは笑って頷いた。
「彼は随分と、自尊心というか虚栄心というか……そういうのが強そうだね。我々と並ぶ存在だと証明する為に、あの場に乱入紛いの事をしたんだろう」
「ケイン達の同盟の件でプレイヤーが集まる中、俺達と並んで彼等と話す……そんな様子を見れば何も知らないプレイヤー達は、彼等が俺達と繋がりがあるか……もしくは、同格と勘違いする。それを狙ったのは、容易に想像できた」
……
「まぁ、それに私達が付き合ってあげる義理は無いのだけれどね~」
同じ頃、【森羅万象】のギルドホームでも似た様な話がされていた。席に着くのはシンラ・ナコト・ノミコの三人だけで、ギルドマスターだけの会話だ。
「自分達が、私達……いいえ、トップギルドであるあなた達と、同格だと言いたかった……でしょ? 少なくともあの場で並んでいれば、周囲はそう思うでしょうから」
「私達なら、恥ずかしくてそんな真似は出来ないわ。あなた達が同盟相手だという立場じゃなければ、ね」
謙虚な姿勢を見せる双子に、シンラは笑いながら首を横に振る。
「イベントの成績やレベルだけで、信頼を勝ち取れるはずが無いでしょ~? あなた達の人柄を知っているから、私達は彼等に紹介したのよ~」
円滑な関係を構築する為に必要とされるのは、第一に人間性だ。彼女達にはそれがあり、リンドにはそれが無い……シンラはそう判断して、あの場から撤退したのだ。
「他人を利用して成り上がろうなんて輩は、ろくなものじゃないものね~」
……
「ふむ、成程なぁ……」
「なぁ、カイよ。考え過ぎって事は無いのか?」
同様にクラン契約を内定した三つのギルド……【遥かなる旅路】【初心者救済協会】【おでん傭兵団】でも、似た様な会話がされていた。
納得顔のユウシャに対し、オーディンは怪訝そうな表情をしている。そんな様子を見る限り、彼もやはり善良な人柄なのだろうと窺い知れる。
しかし、カイセンイクラドンはハッキリと首を横に振った。
「こういう言い方は、俺もしたくはない。しかしあのリンドという青年……彼の行動からして、明らかに成り上がりたいという欲求の強さを感じる。脇を固めていた連中も、リンドに助言する事無く成り行きを見守るだけだった。同じ穴の狢は言い過ぎかもしれんが、似た様なものなんだろうな」
そこまで言えば、ユウシャやオーディンも納得してしまった。
「……そうか、そう言われるとそうだな」
「まぁ、そもそもの配慮が出来ていないしな……」
……
「あの後、【竜の牙】の方々も早々に退散なさった様ですね」
「えぇ、そうみたいね。良かった、上手くいって」
セシリアとシモン、フィオレとその妹弟は、お馴染みとなったセスの店[カムロドゥノン]でお茶をしていた。
「フッ……友人の為に一芝居を打つとは、中々に心憎い。まるでこのコーヒーに入れた砂糖の様な、甘やかさだ」
あ、シモン氏は絶好調です。テンション上がってます。
「シモンさん、甘党なのかな……?」
「じゃない? 角砂糖四つも入れてたし」
そりゃあ甘やかさを感じるだろう。
「【竜の牙】の皆様は、彼等とクラン契約を結びたかったのでしょう。ですが、あの方達は気心知れた仲が集まったギルドの集まり。ろくに面識もない方達では、そう易々と首を縦に振らない事でしょう」
「それはそうでしょうね……本人達は気付いていないでしょうけど、相手の事情なんて一切気にしない態度だったもの。あれではケインさん達が退散を促しても、しつこく食い下がるに決まっているわ。良いタイミングで乱入できたわね」
彼女達があの場に乱入したのは、きっちりとタイミングを見計らっての事だった。それも全て、【竜の牙】から友人達を解放する為だったらしい。
……
そんな事など露知らず、リンドは必死に今後の立ち回りについて思案を巡らせる。
トップランカー達と並ぶ事も出来ず、【桃園の誓い】とのクラン契約も取り付けられず、そもそもヴィヴィアンを一目見る事すら出来ていない。この結果は、彼からしたら収穫無しどころかマイナスにすら思えた。
――このまま、終わる訳にはいかん……!! 何か……何か、少しでも進展を……!!
しかしながら、彼が思うよりも情報の拡散は早かった。彼がそれに気付くのは、翌日ログインする少し前の事だ。
そう……このアナザーワールド・オンラインは、現在サービス提供されているVR・MMO・RPGの中で最もプレイ人口が多い。
その為、掲示板での情報のやり取りが非常に活発なゲームなのだ。
次回投稿予定日:2023/12/13(みんな大好き掲示板回)
わーい、掲示板!
作者、掲示板(でネタに走るの)だーいすき!←
【余談】
「ユーちゃん、珍しく意地悪でしたね?」
「そうかな? 気のせいだよ、気のせい。別に『僕を差し置いてドラゴン系ギルドを名乗るとかちゃんちゃらおかしい』とか、『折角バヴェルとの話が進みそうなのに邪魔すんじゃねーよ』とか思ってないよ?」
「誤魔化しているように見えて、正直ですね」




