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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十七章 クランを立ち上げました

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17-18 五人で変身しました

 ジンとヒメノに加えて、新たに【変身】を手に入れたレン……そしてコヨミから直接借り受けたヒイロと、ケリィからプレゼント機能によって貸し出されたシオン。五人は同時に【変身】を発動し、並び立つ。

「おぉ……!!」

「五人同時の【変身】……イイ」

「見た目はライダー感あるけど、色合い的には戦隊っぽさもあって良いね!!」

 そんな盛り上がりを見せるレイドメンバーだが、そちらに気を取られても居られない。


「はいはい、気持ちは解るけど集中しましょ」

「私達は他のモンスターを処理よ」

 ミリアとジェミーがそう告げれば、仲間達も即座に意識を切り替える。この切り替えの早さは、流石トッププレイヤーといった所だろう。そんなメンバーを見て、ケインが指示を出す。

「南側のモンスターは、ボスの影響を受けて強化されたままだ。他は最低限の戦力を残して、南側を重点的に叩こう」

「了解!」

「バヴェルさん、南側をお願いします! こちらは私達が!」

「了解。ヴィヴィアンさん、お願いね」

「コタロウ、こちらは任せる。南側は、私が」

「はっ!」


 そんな仲間達の期待を背負い立つ五人は、戦意を高揚させていた。

「行くぞ!!」

 ヒイロの号令に従い駆け出せば、まず真っ先に先陣を切るのはやはり最速の忍者。一瞬でマングラトニーの懐に入り、両手の小太刀を振るうジン。そのHPは予測通り減る事は無く、かといって【変身】発動によってHPを肩代わりするAPも削られない。


――ハヤテの予想は、大当たりだった訳だ……流石、頼れる弟だよ。


 後で、これでもかというくらい褒めちぎろう。そんな事を考えつつも、ジンの意識は戦闘に集中していた。

 全力で駆け抜ける時の、没入感。そして数多の戦いで培ってきた、戦闘技術。その全てを駆使してマングラトニーを斬り付け、そのヘイトを稼いでいく。

「……ふむ、やはりダメージは適正値。接近戦では、ダメージが半減しないでゴザルな」

 怒涛の攻撃を繰り出すジンに対し、マングラトニーはうざったそうに蔦を振るう。ジンはそれを難なく避けるが、その蔦が振るわれる先には自分の後を追って駆けて来た仲間達の姿がある。


 しかし、何ら問題は無い。そこには変身専用装備≪山の鬼鎧≫を身に纏った、シオンが居るのだから。

「はっ!!」

 エクストラボス級の攻撃を防御すれば、多少なりとも余剰ダメージを多少は受ける。しかしシオンが蔦を大盾≪鬼殺し≫で受け止めれば、その圧倒的なVIT値によってノーダメージで耐え抜いた。


 シオンが攻撃を止めている隙にヒメノ、そしてヒイロとレンがマングラトニーに向けて駆け抜ける。

「さぁ、出番だ!! 【幽鬼一閃】!!」

 ヒイロはまず、右手の籠手≪鬼神の右腕≫に宿った幽鬼を解き放つ。マングラトニーに向け直進した幽鬼は、手にした太刀を豪快に振るった。マングラトニーに劣らぬ巨体の幽鬼は、その場に留まり更に太刀を振るっていく。

 更にヒイロもマングラトニーに駆け寄って、両手の妖刀を大太刀に変化させる。

「【一閃】!!」

 両手の大太刀を交互に振るえば、二撃目でクリティカルが発生。マングラトニーのHPバーのゲージが、グッと下がった。


「【炎陣】!!」

 レンはマングラトニーの右側に向かい、その場でくるりと一回転。【術式・陣】を火属性で発動させ、魔法性能を強化した。その際に地面に描かれた魔法陣が、マングラトニーに触れてダメージを与えられた。そのダメージ値は、普段彼女がモンスターに与えるダメージ値とそう変わらない。

「あら、どうやら至近距離なら魔法のダメージも半減しない様ですね」

 マングラトニーのダメージ耐性は、どうやら距離に依存するらしい。魔法に矢、銃弾を一定距離以上離れた場所から放つと、そのダメージを半減させるというものだろう。

「それならば……【炎剣】!!」

 レンは更に【術式・剣】を発動させ、各々の武器に火属性を付与させた。そして彼女は魔扇を閉じて、そのままマングラトニーを斬り付ける。表示されるダメージ値は、火属性魔法が付与されたことでレンのINTが反映されている。これならば魔法職のレンも、近接戦闘でダメージを叩き出せるという訳だ。


 一方ヒメノは、マングラトニーの左側へ。弓刀を構え、攻撃範囲を伸ばす為に武技を発動させる。

「【蛇腹剣】!!」

 弓刀≪大蛇丸・改参≫の刀身が分割され、鞭の様に伸びる。ヒメノはそのまま、マングラトニーの身体を叩く様に武器を振るった。弓の速射術を鍛えた時に、ヒメノは鞭での戦い方も学んでいた。その為、【蛇腹剣】で戦う姿も堂に入っている。

 ヒメノの攻撃が当たる度に、マングラトニーのHPバーのゲージが下がる。あっという間にHP残量は六割を下回り、もう少しで半分に達しそうであった。

「皆さん、もうすぐ半分です!」

 ヒメノがそう言えば、他のメンバーも気を引き締める。HPが半分以下になれば、ボスの行動パターンに変化が起きる。エクストラボスの場合、その傾向が顕著だという事を彼等は熟知していた。


「デバフは効かない様ですし、一気に押し切るしか無いでしょう」

「そうだね。変化パターンを確認したら、全力攻撃に移ろう!」

 レンとヒイロがそう言えば、他の三人も「了解!」と応える。そして、ヒメノの攻撃でマングラトニーのHPがついに半分を割った。

「レン!」

「ええ、問題ありません」

 半分を割る直前に、レンはヒイロの方へと駆け寄っていた。更に二人の目前に、シオンが大盾を構えて立つ。ヒメノも攻撃が命中した直後に距離を取って、マングラトニーの行動を注視する。何かあれば、即座に対応できる態勢だ。


 そしてマングラトニーの周囲を縦横無尽に駆け回っていたジンは、マングラトニーの身体に変化が起きつつあるのを察知した。

「蔦が増えるでゴザル!! ヒメ、こっちへ!!」

「……!! はいっ、【縮地】!!」

 ヒメノが【縮地】を発動した瞬間、マングラトニーの茎から蔦が急速に生え伸びる。それはヒメノが居た場所、そしてヒイロ・レン・シオンが居る場所と、ジンが滞空している場所に伸びて来た。

「【展鬼てんき】!!」

「【天狐てんこ】!!」

 シオンは【展鬼】を発動し、大盾≪鬼殺し≫による防御範囲を拡大。迫って来た蔦を正面から受け止め、ヒイロとレンを守る。ジンはヒメノを抱き留めた瞬間に、【天狐】を発動させて真上へと跳び上がる。蔦は、ジンにもヒメノにも触れる事が無かった。


「まずは蔦だ!! 毒霧を出させるな!!」

 ヒイロは指示を出すと同時、ヒメノが居た場所に伸びた蔦に向かう。その後に続くのは、レンだ。

 二人を見送る形となったシオンは、右手に握る大太刀≪鬼斬り≫を掲げて分割。攻撃範囲を拡大させた。これは勿論、その後に続く切り札の為の布石である。

「【うごかざることやまの如く】……【励鬼れいき】!!」

 最終武技【酒呑童子】を発動させた上で、【励鬼】によるVIT値の半分をSTRに加算させるシオン。彼女は≪鬼斬り≫と≪鬼殺し≫が一体化した金棒で、目前の蔦を激しく打ち付ける。一撃、二撃と続き、三撃目で蔦のHPバーは光を失った。


 シオンが一本目の蔦を無力化させると同時。ジンはヒメノを抱えたまま【天狐】を駆使し、伸び切った蔦に向かって空中を疾走する。二人は示し合わせる事も無く、同時に口を開いてキーワードを口にする。

「「【我等は比翼の鳥、連理の枝】」」

 二人の眼前に浮かび上がる、【比翼連理】専用のウィンドウ。二人は自分のステータスを、丁度半分にする様に設定した。そしてスキル発動のボタンを押せば、互いのステータスが眩い光を放ちながら相手に向けて飛ぶ。しかし、それで終わりでは無い。

「【其のはやきこと……風の如く】!!」

「【其の侵掠しんりゃくすること……火の如く】!!」

 最終武技【九尾の狐】、【八岐大蛇】の発動。互いに最大強化状態でステータスを分け合い、空中で刀を振るう。

「「【一閃】!!」」

 二人はその同時攻撃が、蔦のHPバーを全損させていると確信していた。そのまま地面に降り立てば、その眼前にはマングラトニーの巨体がある。


 その頃、ヒイロは蔦に到達した所だった。

「行くぞ……【一閃】!!」

 彼は両手の妖刀を最も使い慣れた打刀に変化させ、蔦を斬り付ける。ヒイロが左右の刀を振るった直後、技後硬直が始まる。すぐに硬直は解けるものの、ほんの一瞬の隙間時間が生まれるのだ。

 その隙間に、軽やかに滑り込むのはレンだ。

「【うごくこと雷霆らいていの如く】」

 彼女は最終武技【神獣・麒麟】を発動させ、炎属性を纏わせたままの≪伏龍扇≫と≪鳳雛扇≫を素早く振るう。

「【一閃】!!」

 初音家の令嬢であるレンは、護身術も学んでいる。手近な物を武器にして不埒物を退ける等の教育を受けているので、魔扇を用いた攻撃は彼女にとって身に馴染む戦術である。

 更にレンの攻撃が終わればヒイロが、続いてレンが攻撃を繰り出す。シームレスに行われる【一閃】の剣舞により、蔦のHPは着々と削られ……すぐに、ゼロに達した。


************************************************************


 蔦は攻撃パターンが変化した際の、三本だけではない。元々存在していたものが、二本あった。マングラトニーのHPが半減した際に、その二本も力を取り戻していたのだ。

 それらが振るわれるのは、モンスター達と戦う南側に陣取るメンバー達のいる場所である。

「くっ……!! 俺達だけじゃなく、モンスターまで蹴散らす気か!?」

 ゼクスの言う通り、マングラトニーの蔦は手下であるはずのモンスター達をも打ち据えていた。それによってHPが尽きて、地面に転がるモンスターも徐々に増えていく。

「とにかく蔦を優先して攻撃!! 絶対に毒霧を出させないで!!」

 イリスがそう言うと同時に、魔法職の面々が前衛メンバーに防御魔法をかけていく。

「ここが正念場だ!! 【其のしずかなること林の如く】!!」

「【コンバージョン】発動。【忍者ふぁんくらぶ】会長、アヤメ……参るッ!!」

「全力攻撃なら……【オーバードライブ】!!」

 最終武技【鞍馬天狗】を発動させたケインは、最初に襲い掛かって来た蔦へ。スキル効果で白髪化したアヤメと、赤い光のオーラを纏って駆け出すレーナは二本目の蔦へと向かう。


「はあぁっ!!」

「でりゃあぁっ!!」

「何とか、間に合えぇ……っ!!」

 アイネ・センヤ・ヒビキが一本目の蔦を攻撃している所へ、ケインが加わる。

「【炎天……一閃】!!」

 魔技【炎天】を発動した直後は、≪天狗丸・参≫の刀身で炎が渦巻いている。その間に【一閃】を繰り出して、ヒイロやギルバートの様に武技と魔技を融合させたのだ。


――よし……!! 上手くいった……っ!!


 ケインもまた、ベテランプレイヤーにしてトップランカーの一人。自分が使い得る戦術の幅が広がった事を喜びつつも、一本目の蔦に向けて更に刀を振るう。


 アヤメとレーナが向かった二本目の蔦では、レオン・バヴェルとジライヤ、そしてミリアが攻撃を仕掛けていた。そこへ駆け込むレーナは、蔦の真上に跳び上がって前方宙がえりし、そのまま手にした刀を突き下ろす。

 レーナの手にする刀は、かつて購入した刀を打ち直した逸品。先日の【暗黒の使徒】との戦いに参戦した彼女に対する、感謝の印としてカノンが今持ち得る全力を注いで鍛えた一振りである。黒い刀身と猫を象った鍔を持つそれは、≪黒猫丸≫と名付けられた。

「【一閃】!!」

 激しいライトエフェクトを発しながら、突き刺した状態から蔦を斬り裂く。その勢いのままにレーナは≪オートマチックピストル≫の銃口を蔦に押し付け、引き金を引く。

「【ジャックポット】!!」

 マングラトニーの本体から離れている為、攻撃のダメージは半減される。それでもダメージを与えなければならない為、一度に全弾を発射する【銃の心得】の最終武技を繰り出すレーナ。


 更に、それに続くのはアヤメだ。

「【閃乱】……!!」

 鍛え抜かれた剣技と体裁きを駆使して、小太刀を振るうアヤメ。その動きや勢いは、彼女が敬愛するジンを想起させる。

 彼女の刀もまた、ユージンやカノンが指導しながら自分達で鍛え直したものだ。また鍔の部分と、紐で吊るされた飾りはジンが手ずから用意した物。【コンバージョン】状態の彼女をイメージして、銘は≪銀狐≫と名付けられた。

「はあぁっ!!」

 全ての攻撃がクリティカルになる代わりに、HPを削る諸刃の剣。それでもこのクエストを達成させる為に、アヤメは怯む事無く蔦に向かって刀を振るい続ける。


 決死の攻撃によって全ての蔦のHPは何とか削り切る事に成功し、毒霧の噴出は阻止された。残るはマングラトニーを倒すのみである。

「全力攻撃!!」

 ヒイロが号令をかけると同時に、ジンとヒメノがマングラトニーに向かって斬り掛かる。そしてヒイロ・レン・シオンも二人と合流し、五人での集中攻撃へ移行する。その間にマングラトニーは口から毒霧を噴出するが、【変身】状態の彼等には効果が無い。


 怒涛の攻撃を繰り出し続けて、マングラトニーのHPを削り続け……いよいよ、そのHPが残り二割になる。誰もがそこで、更なる行動パターンの変化が来ると予想していた。

「残り二割!! 全員、警戒!!」

 いよいよ最終局面に突入する……ジン達がそう考えていると、マングラトニーの身体が赤く色付いていく。

「こういう時に赤くなるのって……」

「暴走、激化、興奮……大体、更に強くなるッスね」

「だよねー」

 マングラトニーが全身を赤く染めると、力を失っていた蔦を伸ばした。それは、プレイヤー目掛けてではなく……モンスター目掛けてだ。

「なにっ!?」

「あ、嫌な予感」


 生きているモンスターは蔦に縛り付けられて、じたばたともがいている。しかしながら、ボスであるマングラトニーの蔦からは逃れられない様だ。

 そうして、五本の蔦が動き……モンスターを、マングラトニーの口へと運ぶ。

「止めた方が良さげだな……ジン!!」

「疾風の如く!! 【クイックステップ】!! 【超加速】!!」

 高速機動に加え、【超加速】を発動させたジン。一瞬でトップスピードまで到達すると、マングラトニーの目前で跳躍。

「【一閃】!!」

 全力で蔦を斬り付けるも、そのHPバーは殆ど削れない。ヒメノのSTRを分けられ、更に【九尾の狐】と【変身】を駆使しているにも関わらずだ。

 しかも、本数は五本。この数をどう止めるか?


――いや、違う。エクストラボスの攻撃が回復の手段だとすれば、何か止める方法はある!!


 どう蔦を止めるか? そう考えていたジンは、蔦に捕まっているモンスターと目が合った。それはゲーム開始初日で遭遇した、懐かしのサーベルウルフである。

「あ、そっか。【一閃】!!」

 蔦が止まらないなら、モンスターを倒してしまえば良いじゃない。即座にジンはそれを実行に移し、サーベルウルフを倒した。しかも、こんな時に限って【ディザスター】が発動。即死したのだった。

「手が欲しいな……ならば、幻影の如く!! 【分身】!!」

 五体を一人で止めるのはしんどい、それならばこちらも五人で対抗だ。ジンは【分身】を発動させ、一気にモンスターを落とそうと宙を駆ける。

「キタアアアァァァッ!!」

「頭領様ッ!! 最高ですッ!!」

 何か、後ろがすげぇ盛り上がってる。エクストラクエスト最終局面なんですけど? と言いたいが、ジンは集中しているのでそれをグッと堪えた。

「ジンくん、カッコいいですッ!!」

 ヒメノの声援が聞こえた。ちょっと……いや、かなり気合いが入ったので、ジンは更に速く駆け抜けるべく集中力を高めていく。

 全てのモンスターを倒して消滅させれば、マングラトニーの蔦はジン目掛けて伸びる。モンスターの代わりに、ジンを捕食しようとしているのだろうか。しかしジンにとって、その速度は遅いにも程がある。

「【追従】!! 【天狐】!!」

 ジンが分身体に指示を出して、蔦の届かない上空へ。追従の指示に従って、分身体も上空へと駆け上がっていく。


……


 その姿を見て、ヒメノはある事を思い付いた。今は、絶好のチャンスかもしれないと。

「【我等は比翼の鳥、連理の枝】」

 ヒメノは【比翼連理】を再度発動し、自分のSTRを全てジンに譲渡する。

「ジンくーん!! そのまま、全力で攻撃できます!!」

 ジンも、ヒメノがSTRを託してくれたのだと察した。

「感謝するでゴザル、姫!! よし……」

 決めるぞ、とジンが動き出す、その直前。

「ジン君、こういう時はキックが一番だよ!!」

 モンスターを相手に戦っていたトーマが、そんな事をのたまった。何をイメージしての発言かは、聞かなくても解る。そんな発言からジンは「あぁ、ユージンさんのお孫さんだなぁ」なんて思ったのは、内緒だ。


 幸い、【体術の心得】はスロットに入れてある。それにヒメノのSTRを借り受けている今ならば、それで勝負を決められるだろう。

「では……いざ、流星の如く!! 【キックインパクト】!!」

 【体術の心得】における、最終武技……それは、強力なジャンプキック。空中で発動した場合、標的に向けて急降下する。【変身】状態のジンが、分身体と共に、しかも【九尾の狐】のオーラを纏っての発動。五人のジンが立て続けにマングラトニーの頭部を蹴り抜き、そのまま地面に着地する様は実に()()()()()姿だった。


「決まったあぁっ!!」

「マジでライ〇ーキック……まさか、現実で見る事になるとは」

「VRだから仮想現実だけど……いや、VRでも滅多に拝めないかもな」

「戦闘中じゃなかったら、動画撮りたかったな~」

「うん、やはりキック。キックは全てを解決する」

 盛り上がるクエスト参加メンバーは、これで終わりだと安心した様子だった。しかしクエスト完了のアナウンスは、まだ流れていない。

「皆、まだだ! クエスト完了のアナウンスが流れていない!」

 ハヤテが声を張り上げてそう言うと、誰もがハッとした表情でマングラトニーに視線を向ける。するとマングラトニーが、≪聖樹≫に向けて咆哮した。


「残HP1……ですね」

「あぁ、最後の足掻きだ!」

 マングラトニーは頭部を丸めると、勢いよく口から何かを吐き出した。それは植物の種の様なもので、マングラトニーの毒霧を纏っている。その数は、五発である。

「おいおい、往生際が悪すぎだろ!!」

「結構、大きい!!」

 真っ先に前に出たのは、シオン。彼女は≪鬼殺し≫を構えて、【展鬼】を発動させた。

「くっ……二発、止められない……!!」

「俺がっ!!」

 ヒイロは両手の妖刀を大盾に変え、一発を受け止める。同時にシオンも三発を受け止めると、種はひび割れ砕け散った。

「この……ッ!!」

 ジンがマングラトニーを斬り付け、残るHPも刈り取ってみせたが……最後の種は、そのまま飛んでいく。そこへ駆け込んだのは、小柄な少年だった。

「【ストロングガード】!!」

 ヒビキは≪護国崩城≫で毒霧の種を受け止め、歯を食いしばる。その種の勢いに負けない様に、グッと足で踏ん張る。当然、マングラトニーの毒霧を直に浴びるのだ。ヒビキのHPが、急速に減っていく。

 それでもヒビキは決して引かず……種が割れると同時に、そのHPがゼロに到達した。


「ヒビキ!!」

 仰向けに倒れるヒビキにセンヤが駆け寄ると、ヒビキは満足そうな表情で笑っていた。

「へへっ……最後は、ちゃんと役に立てたよね……?」

 ヒビキが強くなりたい、そう思っている事は知っていた。しかしこんな風に自分の身を張ってまで立ち向かう姿は、センヤとしても記憶に無い。

 だが、その片鱗は感じていた。ゲームを始めてから、ヒビキは強くなった。センヤは素直にそう思い、誇らしそうな恋人の姿に目を潤ませる。

「カッコ良かったよ。でも、ちゃんと生き残るまでが遠足だから減点!」

 そんなセンヤの後ろから、苦笑しながらヴィヴィアンが歩み寄る。

「それ、遠足じゃなくてクエストでは……ともあれ、これを。≪ライフポーション≫です」

 ヴィヴィアンが≪ライフポーション≫を掛ければ、ヒビキのHPが回復する。戦闘不能になった事で、マングラトニーの毒も解除されていた。


「最高レベルの戦力だと思っていたけど……まだまだ、気を抜いて良いレベルじゃない……か」

 ヒイロがそう言うと同時に、待ちかねたその時が訪れた。

「皆、≪聖樹≫を見て!! めっちゃ光り始めた!!」

 フレイヤの言葉を受けたクエストメンバーの視線は、≪聖樹≫に集中する。光を放出しながら、≪聖樹≫は更に伸びていく。マングラトニーを倒した事で、成長を阻む要素が無くなったという事だろう。


≪聖樹≫の光は成長するにつれて、急速に広がっていく。毒霧は打ち消されて、毒々しい色合いの植物も浄化され瑞々しさを取り戻していく。

 暗かった密林に陽の光が射し込んで、本来の姿を取り戻していく。

「これが、ドライアドが言っていた……」

「えぇ……[ウィスタリア森林]の、本当の姿なんでしょうね」

【変身】を解除したヒイロとレンがそう言えば、≪聖樹≫が「そうだよ」と言わんばかりに一際強く輝いた。


『エクストラクエスト【聖樹の苗】をクリアしました』


 長い戦いに終止符が打たれ、ようやくエクストラクエストをクリアのアナウンスが流れて来た。

「っしゃあ!!」

「終わったぁー!!」

「はー、しんど……でも、やったわね」

「エクストラクエスト……これ程の難易度だったとは。また、見識を広める事が出来ました」

「クリアだー!! やったー!!」

「ここに居ない皆に、報告しよー!」

「ふふっ、気付いているんじゃない? ここで宝探ししてたんだから」

 喜びの声を上げる仲間達を見つつ、ハヤテは苦笑する。


――今回、俺のミスで皆に負担を掛けちゃったな。もっと、強く……もっと的確な判断を下せる様にならないと……!


 同時に、ハヤテは最愛の人の事を思い浮かべる。ネガティブな思考に陥るはずだった自分を、救ってくれたのは彼女だった。

「……アイ」

「うん、やったね!! クリア出来たよ!!」

 嬉しそうに表情を綻ばせるアイネが、愛しくて堪らない。ハヤテは彼女の肩に頭を寄せて、深く息を吐く。

「お陰様で。あんがとね、アイ」

「……ふふっ、頼ってばかりじゃいられないもんね」


 そうしているうちに、エクストラクエスト達成報酬についての表示が浮かんでいく。次々と浮かぶ素材やコインは、相当な量だ。

「宝探しメンバーに配分しても、十分な量だな」

「素材も結構、良さげでは?」

「植物系の素材がやっぱり多いねー」

「おっと! ガチャチケットある!」

「枚数、大盤振る舞いじゃね?」

「わぉ、武器も一杯あるんだけど?」

「うんうん……あれ? ねぇ、最後の……何これ?」


『土地[ウィスタリア森林]南部』


「「「…………」」」


『土地!?』

次回投稿予定日:2023/11/28(幕間)


トドメはやはり、キックに限る……(特撮脳)

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― 新着の感想 ―
[一言] そのライ◯ーキック、昭和なのか平成なのか令和なのか……
[良い点] APがHPと別枠で処理されるの優しい(なお変身の貴重さ この難易度見るに、余程じゃないと現行のトッププレイヤー達でも厳しそうだなぁ。 運営の想定より早く解放されてる可能性もありそうw …
[良い点] 戦隊だと思ったらライダーだった件 忍者ふぁんくらぶ  頭領様の戦いを見て 興奮メーター振り切った 善哉 善哉 [気になる点] 所々にラブ臭が……… [一言] 城と城下町を希望致し…
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