17-15 幕間・とある少年の独白
……買った。買ってしまった。
俺の目の前には、中々に値の張る電子機器が収まっている箱。それと、一本のゲームソフトである。
箱の中身は、フルダイブ型VRゲームをプレイするのには欠かせない物……VRドライバーだ。そしてゲームソフトは、今話題になっている(らしい)VR・MMO・RPG【アナザーワールド・オンライン】というゲームのソフトである。
「まさか、五割も持っていかれるとはな……」
そう、俺が小遣いやお年玉、日雇いバイトで貯めに貯めたバイク資金……それが、一瞬で七割も消えたのだ。ちなみに買おうと思っていたのは、新車なら八十万近くするバイクである。俺は中古で五十万くらいのを運よく見付けたんで、そいつを狙って金を貯めていた。あと十万くらいで、手が届きそうだったんだがな……だがしかし、悔いは無い。
「こいつがあれば、あいつらと……」
脳裏に浮かぶ、何人かの顔。一人は、久し振りに顔を合わせたイトコの顔だ。もう一人は、最近家族になった義妹の顔。次いでふと浮かんで来たのは……穏やかで優しそうな年上女性の顔と、こ憎たらしいクソガキの顔だった。
俺と同じ歳の、イトコの仁。
親父の再婚相手の連れ子で、大切な妹になった心愛。
俺達がガキの頃から、よく面倒を見てくれていた和美さん。
そして俺と仁が遊んでいたらワガママを言って、俺からあいつを引き離そうと画策するあの野郎……隼のクソガキだ。
あの野郎、俺の見てない所で仁と楽しく遊ぶとか良い度胸してんじゃねぇか。やっぱあいつとは、ケリを付けないとな。
別に一緒に遊ぶことに、ケチ付ける気はねぇ。でも、あのガキだけは見張りが必要だ。絶対に、絶対だ。なにせあのガキは、裏でコソコソ企むのが得意だからな。仁や心愛、和美さんが苦労させられてるに違いない。
それに、仁のカノジョ……っつーか、婚約者か。星波姫乃ってお嬢さんな。
隼の名前を聞いて気が立っていたとはいえ、睨んだりして申し訳ねー事したしな。お詫びに何か、俺に出来る事があれば喜んで力になるつもりだ。
これから長い付き合いになるんだろうし、それならちゃんと信頼し合える関係の方がいいだろ。その方が、仁も安心できるだろうし。
いや、別に仁の為とか、そんなんじゃねーけど。仁の嫁さんなら、俺の親戚で家族同然とか思ってねーけど。んな単純なワケねーし。
あと、アレだ。星波さんの兄貴が、俺や仁と同じ歳らしいし。しかも、仁とは親友なんだとか言っていたし。フン……どんな輩か、見定めてやんよ。有名だった仁を利用する様なヤツなら、色々と釘を刺してやらねーといけねーし。
……いや、まぁ。うん、無いだろうな。きっと、いい奴なんだろう。
だってよ、星波さんめっちゃ良い娘だったし。だとしたら、その兄貴さんも良い奴なんだろうさ。第一、仁のヤツが自信満々に親友っていうくらいだかんな。あいつの人を見る目は確かで、信頼できる。
仁と星波さんの反応を考えたら、絶対良い兄貴なんだろうな。クズである可能性、限りなくゼロだわな。
うん。なんか、ちょっと楽しみだな?
こいつで仮想現実に行けば、あいつらと離れた場所でも遊べるんだもんな。
和美さんは九州住まいだから、中々会えないし……和美さん、今どんな感じなんだろうな。最後に会ったのは、確か俺が中二の頃か。仁の大会の応援で、たまたま会ったんだっけ。隼のクソガキも居たけど。
確か、和美さんは今、大学入ったばっかだよな。更にキレーになってんだろうなぁ。
いや、まぁ初恋なのはそうだけど。そこじゃないんだよ。
仁と心愛と和美さんと楽しむ為に、隼のクソガキのお目付け役をする為にだ。
っしゃあ!! やってやろうじゃねーの!!
待ってろよ、VRMMO!! この俺が伝説作ってやらぁ!!
……
……
面倒くさいな、初期設定って。しかも何か、情報入力多くね? 大丈夫かこれ、個人情報めっちゃ入れるんだけど。
それに、専門用語が多いんだよな。ヘルプがあるからまだ良いが……もうちょいさ、ほら。素人さんに優しくなろうぜ?
あ? アカウントネーム? 本名以外? 本名じゃダメなのか? ダメか、そっかー。
単純に、カズマにするか? いやしかし、結構多そうな名前だもんな。もうちょい捻りたい。
そういや仁と星波さんが、心愛の事を『イナズマ』って呼んでたっけか。
ふむ……イナズマか。それじゃあ、俺の名前はこれにすっか。
【ACCOUNT NAME : IKAZUCHI】
次回投稿予定日:2023/11/15(本編)
お待たせ☆
五十万まであと十万となると、四十万。
五割持っていかれたという事は、二十万のVRドライバー買ったんか……。
高い買い物だなぁ……←
ちなみにジンの据え置き型は、もっと高いです。
作者的には、三十万前後かと考えていたりします。




