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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十七章 クランを立ち上げました

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17-14 派遣作戦を開始しました

色んな成分を投入した回となります。

砂糖? あるよ!

 [腐食の密林]内部の≪精霊の座≫を起動させる為、作戦を立てている最中……突如マンイーターが登場し、サスケが戦闘不能となってしまった。しかもその手段が、蔦による捕縛と捕食。主力メンバーを≪精霊の座≫に派遣する為にも、先にボスをどうにかせねばなるまい。

 そう考えたジン達は、主砲役のメンバーによる全力攻撃を敢行する事にした。


「【クイックチェンジ】!!」

 ヒメノは装備換装スキルを発動し、四門大砲≪桜吹雪≫を装備した。第四回イベントの最終決戦で破損したそれは、新たに修復された物となっている。無骨な外観だった大砲は見た目も洗練され、ヒメノのイメージカラーである赤で塗装されている。

 更に、ヒメノは弓刀≪大蛇丸・改参≫に矢をつがえた。マンイーターに向けて弦を引き絞り、文字通り必殺の攻撃を放とうと狙いを定める。


「【風陣】……【雷陣】……【炎陣】!!」

 レンは三度、魔扇を構えて身を翻す。同時に彼女の足元に赤と緑、そして黄色の魔法陣が描かれる。レイドパーティである今、この魔法強化の恩恵は魔法職全員に与えられる。

 そして彼女は魔法の詠唱を開始し、三色の魔法陣が複雑に絡み合いながら描かれていく。


「移動速度が速くないのは、マジで御の字ッスね!!」

 ハヤテは≪FAL型アサルトライフル≫を構え、MPを消費して魔力を充填していく。

 先の失態を引き摺りつつも、汚名返上といわんばかりの真剣な表情である。


――レイド4のボスが、同時に四体。恐らくは、十人での迎撃を想定しているはず……でも、今はまだ毒の霧でモンスターは強化されてる。確実に仕留めないといけないから、想定の1.5倍は見込むべきだ!


 ボスの耐久値は、想定を上回っていると考えて良いだろう。そう判断したハヤテはMPを全て注ぎ込んで尚、更に≪MPポーション≫でMPを回復し更に充填していく。

 確実に決める……そんな強い決意を伺わせる猛禽類の鋭い瞳で、マンイーターに向け狙いを定める。


 その時だった。ジンが相手取っていたマンイーターのHPが、突如消失した。

「よし……!! いいタイミングでゴザル!!」

 幸いなことに、マンイーターは即死耐性を備えていなかったらしい。ジンの【ディザスター】による、即死効果が発動したのだ。

「おぉ……っ!!」

「流石です、頭領様っ!!」

 仲間達の歓喜の声に交じって、レンがヒメノに声を掛ける。

「ヒメちゃん、西側こっちのボスをお願い! 私は南側にシフトするわ!」

「任せて、レンちゃん!」

 レンが魔法の矛先を変えると、同様に魔法を詠唱していたイリスとフレイヤが笑みを浮かべる。

「レンちゃんが加わってくれると、超助かる!」

「【術式・陣】の恩恵もあるし、私達もぶちかますわ」

 更にそこに加わるのは、ヴィヴィアンである。最初からそのつもりだったのだろう、詠唱は既に完成している。

「私も、お役に立ってみせますので……!!」

「ありがとうございます。それじゃあ、いきましょうか」


 ヒメノはさしたる問題も無く、西側のマンイーターに照準を変えた。そこまで時間を稼いでいたヒイロが、愛妹に向けて声を張り上げる。

「ヒメ、いつでもオーケーだ!」

「はい、いきますっ!!」


 同様にハヤテの【魔力充填】の為に、時間を稼いでいる前衛メンバー。その中の一人であるアイネが、ハヤテに問い掛けた。

「ハヤテ君、どう!?」

「お待たせッス!! さぁ、ブチ抜いてやる!!」


 全ての準備が整い、それぞれが同時に最大威力の攻撃を放つ。

「全弾発射……!! 【シューティングスター】!!」

 四門大砲≪桜吹雪≫による砲撃に加え、マンイーターを中心に放たれる【シューティングスター】。AWO最高のSTR値による、ステータスの暴力。その攻撃に晒されては、マンイーターもひとたまりも無かった。


 同時に、南側の方では四人の魔法職による一斉攻撃が放たれていた。

「参ります……【炎雷の竜巻】!!」

 レンが発動した合成魔法に、マンイーターが包まれる。業火と雷撃を纏った竜巻が、マンイーターのHPを容赦なく削っていく。同時に周囲に居たモンスターもその竜巻に引き寄せられ、あっさりと倒れていく。


 更にダメ押しの、魔法攻撃。レンの【術式・陣】の恩恵を受けたイリス・フレイヤ・ヴィヴィアンによる、同時攻撃が放たれる。

「討ち漏らしは無しでいくわよ!! 【ライトニングカノン】ッ!!」

「当然!! 【バーニングカノン】!!」

「い、いきますよ!! 【ハリケーンカノン】!!」

 雷・炎・風の三属性による、魔法砲撃。その砲撃を受けたモンスター達が、HPを大幅に減らし息絶える。南側はこの波状攻撃で、モンスターがほぼ壊滅状態に陥っていた。


 そして、東側。

「【フェイタルバレット】!!」

 激しい銃撃音と共に、放たれた一発の銃弾。狙いを定めたその一撃は、マンイーターを正確に捉えた。弾丸に込められた膨大な魔力が爆ぜれば、マンイーターのHPが急速に減少する。そのゲージはあっという間にゼロに到達し、マンイーターは力なく崩れ落ちて枯れていった。


「流石の一言だな」

「正に」

 ビィトが笑いながらそう言えば、コタロウも同意だとばかりに頷く。それだけ、マンイーターの瞬殺具合が凄まじかったのだ。

「ボスを倒せたとなれば、残りは雑魚モンスターばかりでしょうね。≪精霊の座≫に向かうなら、今このタイミングが一番じゃないかしら?」

「あぁ、俺も同感だ。派遣メンバーの皆、今の内に行動を開始しよう!!」

 ジェミーとケインの会話を聞いて、派遣メンバーに選出された面々は了承の返事と共に行動を開始。

 ヒイロとレンは、担当していた西側の方へ。

 同様にケインとイリスは、南側の方へ向かう。

 ミリアとルナは、東側へ。

 そしてサスケが戦線離脱してしまった為、タスクはハンゾウと共に北側へ向かう事になった。


 実際にマンイーターは、これまで遭遇して来たエクストラボスと比べると格が下がるモンスターだ。彼等は個の力ではなく、同時に四方向から攻めるという点で高難易度ボスとして配置されていた。その分、個の性能は低くなるのだ。

 マンイーターは、これまでのエクストラクエストにおけるボスとは違う。数による猛攻……それが四体だけとは限らない事を、この場の誰もが認識出来ていなかった。


************************************************************


 ヒイロとレンは、ハヤテが纏め上げたマップを確認しながら[腐食の森]を駆け抜ける。≪聖樹≫を目指して進軍するモンスターと時折遭遇するものの、二人は連携を駆使してモンスターを討伐していく。

「ヒイロさん、一度回復を……【エリアヒール】」

 レンがヒイロに近付いて、二人纏めて回復出来るように【エリアヒール】を発動。彼女のINTの高さも相俟って、ヒイロとレンのHPが一瞬で全快になった。

「流石、レンだ。助かるよ」

「ふふ、これも内助の功というものでしょうか」

 レンの小悪魔ムーブが顔を覗かせるが、それは余裕があるからだ。その事が、ヒイロに安心感を与える。


「本当にね。バタバタしてしまって、延びていたけど……この件が落ち着いたら、教会に行く段取りも考えよう」

 それは、ゲーム内の結婚システムについて言及している。それを、レンはすぐに察した。

「覚えていてくれたんですね。最近は忙しかったですから、忘れてしまっていたのかと」

「まさか。ゲーム内とはいえ、レンが俺のお嫁さんになってくれる大事な話だよ? 忘れたりなんてしないさ」

 これは、事実その通りだ。ヒイロはクリスマスでの結婚を考えていたが、多数のプレイヤーによる結婚ラッシュでそれを断念してから……ずっと、彼女との結婚に向けてタイミングを見計らっていた。

 温泉旅行、その直後のクランシステム実装の情報。そこからクラン【十人十色ヴェリアスカラー】結成に向けた活動……様々な出来事の中にあって、一度もその事を失念した事は無い。


「クランホームの土地が決まったら……そしてクランシステムが実装される二月の前には、挙式をしたいなって思っていたんだ。二月になったら、また色んな事が待っているし」

 ヒイロの言葉に、レンは「確かに」と微笑む。素直に彼の言葉を受け止めて、愛しい彼にくっ付いてしまいたいのを堪えながら。恐らく一度でもヒイロに抱き着いてしまったら、二度と離れたくなくなるという自覚があるので。

「クランシステム実装に、第五回イベントもありますし……それに、バレンタインがありますものね?」

「ははっ、勿論それも楽しみにしてる」

 そんなヒイロの反応に、レンははて? と首を傾げる。彼は今、確かにそれ”も”と口にしたのだ。

「あ、レンは知らなかった? 二月に、ジンの誕生日があるんだ」

 そう言われて、レンも納得した。その日に向けてヒメノも気合いを入れているだろうし、ギルドでのお祝いもしたいところだ。

「ヒイロさんも、何か考えていたりするんですか?」

「そうだね、ジンとヒメがお揃いで使える物でも贈ろうかって思ってる。レンも知恵を貸してくれる?」

「それはもう、喜んで」


 移動しながらも、二人の間には穏やかな雰囲気が流れる。しかしそのすぐ後、空気が一変する。そして毒の霧の中で、特徴的な叫び声が聞こえた。モンスターのものだと察したヒイロは、その叫び声の主の正体に気付きレンに視線を向ける。

「……レンッ!!」

 ヒイロが異変を察知して、レンの身体を抱き寄せた。そのままヒイロは、武技を発動させる。

「しっかり捕まって!! 【クイックステップ】!!」

 【クイックステップ】による高速機動で、ヒイロはレンを抱きかかえたままその場を退く。二人が居た場所に向けられたのは、植物の蔓だった。

「……まさか」

 レンの表情が曇るのも、無理はない。蔓を伸ばした襲撃者に視線を向ければ……そこには、先程壊滅させたはずのマンイーターの姿があったのだ。

「ボスは四体だけじゃなかったんだ……!!」

「これは……まずいですね」


……


 同じ頃、他の面々もマンイーターの襲撃を受けていた。

「まさか、まだマンイーターが居たなんて……!!」

「くっ……二人だけで倒せるか……?」

 ケインとイリスも、ヒイロ・レンと同様にマンイーターの攻撃を受けた。無事に攻撃を回避できたが、マンイーターは変わらず二人をターゲットにしている。

「蔦以外の動きは速くない、逃げようと思えば逃げられるが……」

 もし逃げた場合、マンイーターの存在がエクストラクエストの趨勢にどう影響するか? それを考えると、安易に逃走を選んで良いのかと悩むケイン。


 そんなケインに、イリスが力強く断言する。

「ここは逃げとくべきでしょ。最優先するべきは、≪精霊の座≫じゃん」

 そう言われて、ケインはハッとする。≪精霊の座≫を起動させ、≪聖樹≫が成長すればこの森は浄化される。そうなれば、マンイーター達も消滅するか……そういかずとも、弱体化するだろう。

「確かにそうだな……ありがとう、イリス。危うく無駄に時間を掛ける所だった」

「ふっふーん、そうでしょ? ケインは私が居ないと、頭でっかちになりがちだからね~」

 危機的状況は変わらないのに、二人の間には安心感が漂い始める。その理由は単純で、マンイーターから逃走する分には何の支障も無いのだ。


「それじゃ、ケイン! やっちゃいな!」

「チャイナだけにか? 【氷天】ッ!!」

「うわっ、寒っ……!!」

 ケインの≪天狗丸・参≫から冷気が放出されると同時、イリスが声を上げる。決して、【氷天】の冷気で寒気を感じたからではない。

 ケインの【氷天】を喰らったマンイーターは、全身を氷で覆われ静止する。MNDに特化している【鞍馬天狗】はデバフ効果の発動確率が高くなり、特別な耐性さえ無ければボス相手でもデバフ状態に出来るのだ。

「行こう、イリス!!」

「はいはーい! ケイン、あんたギャグセンス無いんだからさ……」

「いじらんでくれ!! それより、皆に連絡だ!!」


……


 その頃……ケインとイリスから連絡を受ける前に、マンイーターを発見したミリアとルナ。二人はマンイーターやモンスターとの遭遇を避け、木で身を隠しながら前進していた。そのお陰で、まだ捕捉はされていない。

 ミリアは愛用の≪ショットガン≫をベルト紐で背負い、左手に≪ライオットシールド≫とサブウェポンの≪タクティカルソード≫を装備している。ルナも≪スナイパーライフル≫を背にし、両手で握っているのはユージンが製作したバトン型の≪ユージンの魔法杖≫だ。

「……目標を発見。マップ記載の通り、水属性を確認。防衛態勢に移行する」

「了解、詠唱を開始」

 ルナが詠唱を開始する中、ミリアは周囲のモンスターからの襲撃を警戒。


 すると、マンイーターの叫び声が二人の耳に届く。叫び声が聞こえた方向にミリアは移動し、ルナを守る様に構える。すると、すぐにあの蔦が伸びて来た。

「く……っ!!」

 蔦が狙っているのはルナであり、ミリアはそれを阻止する為に盾を構えて割って入る。しかし、蔦は逆にミリアを捕縛してしまった。

「マンイーター……魔法の詠唱を察知したのね」

 捕縛されたミリアだが、サスケがやられた時の様子から捕食されるまで猶予があると判断。背負っていた≪ショットガン≫をどうにか右手で構え、蔦に向けて散弾を撃ち放つ。散弾で撃たれた為か、蔦はミリアを捕らえていた力が弱まり彼女を解放した。


――捕縛中に攻撃を受ける……それか、一定のダメージを与えると捕食されずに済む……!! これが攻略法ね!!


 マンイーターの嫌悪感をもよおす外観や、蔦による捕縛からの捕食というショッキングな攻撃手段。それによって戦闘を避けたいと思うプレイヤーは、決して少なくないだろう。

 しかしミリアの見付けた攻略法が正しければ、エクストラクエストの攻略難易度が減るはずだ。


 そうしている間に、ルナの魔法詠唱が完了。彼女は杖を構え、魔法を≪精霊の座≫に向けて放つ。

「【ウォータージャベリン】!!」

 一度で≪精霊の座≫を起動させる為に詠唱時間を延長し、放った【ウォータージャベリン】は三発。その三発で無事に≪精霊の座≫の紋章が輝き、起動を果たした。

「ミリアちゃん、イリスさんからメッセージ! ≪精霊の座≫起動を優先して、マンイーターと無理に戦わないようにって!」

「そうね、確かに優先すべきは≪精霊の座≫だわ。ルナ、五時の方角、間引いて!」

「了解!」


 ミリアの言葉に応えると、ルナは≪スナイパーライフル≫を構えて即座に狙いを定める。そして次の≪精霊の座≫に向かうまでに、障害になりそうなモンスター達を確認し引き金を引く。

 その間ミリアはマンイーターの蔦を≪ショットガン≫で撃ち、先程の予測の裏付けを取る。至近距離での散弾ならば、一発で攻撃を中断。少し距離が離れていると、もう一発散弾を撃つ必要があった。やはりマンイーターの蔦は、一定ダメージを受ける事で蔦攻撃が中断される様だ。

「進路クリア、行けるよ!」

「了解」

 間引きを済ませたルナに返答し、ミリアは≪手榴弾≫をマンイーターに向けて投擲。その結果を見届けるつもりはなく、二人は全速力で次の≪精霊の座≫に向けて駆け出した。


……


 一方、タスクとハンゾウのチーム。彼等はケインからのメッセージを確認し、≪精霊の座≫起動を最優先に行動するという判断に納得。

「では行こうか」

「うむ」

 二人は【ハイド・アンド・シーク】を駆使して、モンスター達に見つからない様に森を駆け抜ける。隠密行動は忍者の得意分野であり、今回の役割に彼等は最適な人選である。


 モンスター達が≪聖樹≫の方へと移動する中を、接触しない様に注意しながら進む二人。そうして目的地である≪精霊の座≫へと辿り着くと、タスクが詠唱を開始した。

「警戒を頼みます」

「あぁ、任された」

 詠唱を開始した時点で、【ハイド・アンド・シーク】は解除される。モンスターやマンイーターに発見される可能性が上がる為、今が一番警戒を必要とするタイミングだ。

 そうして警戒していると、案の定……マンイーターの叫びが二人の耳に届いた。


 来る……ハンゾウがそう察知した瞬間、毒霧の向こうから蔦攻撃が放たれた。ハンゾウは大盾を突き出して蔦が迫るのを阻もうとするが、蔦はそのまま大盾ごとハンゾウの左腕を捕縛した。

「ハンゾウ殿!!」

「案ずるな、予測済みだ……!!」

 ハンゾウは右手に握っていた刀で、蔦を刺す。しかしながら、それだけでは蔦は攻撃を止めなかった。

「ならば!! 【一閃】!!」

 突き刺したままの刀を捻り、そのまま【一閃】を発動し斬り裂く。運よくクリティカルが発生したその攻撃で、マンイーターの蔦から力が抜けてハンゾウが解放された。


 これでひとまず凌いだ……とハンゾウが内心で安堵していたその時だった。別の方向から、マンイーターの叫び声が聞こえたのだ。


――二体……同時に!?

――まずい、一体を引き付けるだけでやっとだぞ……!!


 タスクもハンゾウも、危機感を抱く。タスクは詠唱を完成させ、とにかく≪精霊の座≫を起動させなくてはと魔法を放つ。

「風遁!! 【ウィンドピラー】!!」

 魔法が発動し、≪精霊の座≫を竜巻が覆う。すぐさまタスクはその場から飛び退くと、もう一体のマンイーターが蔦を伸ばして来た所だった。

「間一髪……!!」

「よし……っ!! それで、≪精霊の座≫は……!?」

 二人が≪精霊の座≫に視線を向けるが、風属性の紋章は完全に輝いていない。あと少しという所だったのだが、タスクのINTが足りなかったのだ。


 タスクは魔法職としてプレイしていたが、【忍者ふぁんくらぶ】に所属する際にビルド方針を変えた。INT・MND型のビルドから、INT・AGI型に転向したのだ。その影響で新たに得たステータスポイントの多くを、AGIに注ぎ込んで来た。故に、INTは一般のプレイヤーとそう変わらない状態となっている。


「くっ……もう一度!!」

「待て、一旦退くぞ。二体同時では、状況は不利だ」

 マンイーター二体を凌ぎつつ、魔法を完成させるのは至難の業。ハンゾウはそう判断し、タスクに撤退を指示する。タスクも口惜しそうな表情を浮かべるが、ここで戦闘不能になる訳にはいかないと判断。ハンゾウの言葉に首肯で応えた。

 そんな二人を逃がすまいと、マンイーターが蔦を再び伸ばした。それはどちらもハンゾウを狙っており、左右から同時に迫る蔦を避け切る事が出来なかった。一体目のマンイーターの蔦は避けたが、二体目が伸ばした蔦が刀を握る手を縛る。

「くっ……ぬかった!!」

「ハンゾウ殿!!」


 大盾では、刀程のダメージは与えられない。何とか蔦にダメージを与え、逃れなくては……ハンゾウは何とか冷静さを保ち、大盾の武技でダメージを与えようと試みる。

「【シールドバッシュ】!!」

 蔦に一撃を入れるものの、それだけでは全く効いていない。そして、マンイーターの引き摺り寄せる力に抗う事も適わない。


――く……っ!! 最後まで、諦めるものか……!!


 蔦ではなく、本体に攻撃をすれば……そう思い、ハンゾウが大盾を握る手に力を込めた時だった。

 サクッ……という音と共に、マンイーターの花弁アタマを支える茎の部分……そこに、見覚えのある物が刺さった。

「うっわ、不気味な花ね……良かったわ、ちゃんと麻痺したみたいで。とりあえず二体とも、一分は麻痺するはずよ」

 その声を耳にして、ハンゾウもタスクも驚きを禁じ得なかった。彼女が、ここに居るとは思わなかったのと……マンイーターに投擲されたそれは、≪棒手裏剣≫だったのだ。

 そして二人は、彼女の≪棒手裏剣≫によってマンイーター二体が麻痺していると気付いた。正確無比な投擲技術と、高確率でデバフを発動させる調合技術。それを併せ持つ女性に、一人だけ心当たりがあった。

「「姉君様ッ!?」」

「え、私の呼称って、そんなんだったの……?」

 彼等が頭領様と呼び慕う、ジンのイトコ。調合職人ミモリが、そこに居た。


 そして、もう一人……。

「マンイーターが動き出す前に済ませようか」

 黒いコートを翻し、銃剣を≪精霊の座≫に向ける男。彼はニッと笑って、魔技の発動を宣言した。

「【風竜】」

 男……ユージンが放った風で象られた竜が、≪精霊の座≫に向けて飛んだ。≪精霊の座≫に風の竜が到達し、風属性の紋章に光が満ちて効果を発揮する。


「さぁ、()()()()時間だ」

次回投稿予定日:2023/11/13(幕間)


今回のお気に入りは、ヒイロ×レンとケイン×イリス。

そしていつの間にやら強キャラに進化していた、姉君様ことミモ姉。

でもやっぱり、最後に美味しいところを持っていくのに定評があるユージンさん。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 甘味成分からの突然のミモジンさん!?
[良い点] マンイーター クランに負けじと 大発生 油断大敵 殲滅開始 姉君様 助太刀感謝致しまする そして 全てをさらっていく 元謎の方 [一言] クランになってから 連携力が格段に向上して…
[良い点] 第2、第3どころではない数のマンイーターが、つまり「オレサマタチオマエラマルカジリ」になってしまうじゃないですか。中々愉快な状況になってきましたねwこれは。それにしても最後の最後美味しい所…
感想一覧
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