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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十七章 クランを立ち上げました

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17-13 痛恨のミスでした

 ≪聖樹の苗≫防衛を開始してから、三十分が経過する頃。≪ギルドフラッグ≫のローテーションは相応の効果を発揮し、戦闘不能になる者は未だ皆無だ。

 そんなタイミングで、襲い掛かって来るモンスターのラインナップに変化が起こる。これまで襲い掛かって来たのは、ゲーム序盤である第一エリアの雑魚モンスターが主だった。しかし新たに姿を見せたのは、第二エリアに出没するモンスター達だ。それも武器を所持したゴブリンやオーク、オーガが混じっている。


――これまでのモンスターに加えて、人型モンスターの追加! それも武器持ちの、精鋭モンスターとはね……でも、このメンバーなら問題無い!


 ハヤテは状況を分析しつつ、ここまで温存していた戦術の解禁を決断した。

「後衛と中衛のみんな、モンスターの難易度が上がったッス! 飛び道具に切り替えるッスよ!」

 そんな指示を受けて、後衛メンバーと中衛メンバーは即座に配置に付き直った。その表情に不安の色は無く、むしろ「待ってました」とばかりの表情だ。

 そんな彼等の様子を見たからか、それとも攻撃を開始する範囲内に入ったからか。モンスター達は一斉に武器を振り上げて、駆け出した。


「【魔弾の射手】、これより掃討任務を開始する」

『了解』

 その返答のすぐ後に、一斉に響き渡る銃声。狙いは後方で弓を構えるゴブリン・アーチャーや、魔法の詠唱を始めようとしていたオーク・マジシャンである。

 同様に弓矢が主武装であるメンバーも、ここぞとばかりに攻撃を開始する。

「ようやく本来の仕事が出来そう……そこね!」

「さすがマール殿です! トドメは……ボクがっ!」

 マールの放った矢が、オーク・ナイトの喉元を射貫く。そこへイナズマが駆け寄り、戦槌を振り抜いた。


「さあさあ、ハヅっちゃんの新作のお披露目だよ!!」

 ハナビが取り出したのは、弓である。しかしその弓には、筒が備え付けられている。彼女はそこに矢を込めると、弦を引き絞り放った。

「たーまやー!!」

 その掛け声と同時、モンスターに命中した矢が爆発した。というよりも、火の花が咲いたというべきか。めっちゃ派手だった。

「花火だ!?」

「はい、ハナビですが!!」

 多分、それが言いたかっただけだと思う。


 彼女の弓は≪弓花火≫というもので、ハヅキが開発したイロモノ……もとい、オモシロ……でもなく、オリジナル装備である。筒の中に側薬が仕込まれており、矢を撃ち出す際に導火線に仕込まれた頭薬に着火。ざっくりばっさり纏めるならば、マッチの原理で実現したんだよっていう認識で良いだろう。

 ちなみにゲームなので、導火線に点いた火は消えないシステムだからこそ実現したネタ装備である。

 しかも半径三メートル程の範囲に花火が炸裂するので、その範囲に居るモンスターに確率で閃光による目潰し・火傷のデバフ効果を与えられる。

 ちなみにこの戦法はあまりにも派手過ぎて、忍者が使用する物としては大きくかけ離れていると思う事だろう。しかしやっぱり忍者、どんな時でも大丈夫。隠密行動とかの時、ハナビは吹き矢を使っている。


「まだ、MP消費は抑え目が良いでしょうね」

「ええ、そのようで!」

 魔法職のメンバーも詠唱を進め、魔法を完成させる。選択した魔法はボール系やアロー系の、消費MPを抑えた術式だ。

「【ファイヤーボール】!!」

「【サンダーアロー】!!」

 レンの【ファイヤーボール】がオーク・ナイトに命中して爆ぜれば、その周囲に爆炎が広がる。これはあくまで、INT特化のレンならではだ。

 ヴィヴィアンが選択したのは【サンダーアロー】で、一撃で倒せなくとも麻痺状態異常のデバフを付与する事が出来る。その判断が正解だという様に、ゴブリン・スカウトのHPが一割残ったものの麻痺状態が発動していた。

「ミリ狩りは任せな!!」

 痺れて動きが止まったゴブリン・スカウトの身体を、ダイスの≪青龍偃月刀≫が引き裂いた。その一撃でゴブリン・スカウトはHPが枯渇し、力なく倒れ伏す。


「そこまでだ! はぁっ!」

 ケインの≪天狗丸≫がオーガの身体を斬り付けたその時、オークがチャンスとばかりに突進してきた。その太い腕を振り下ろして、ケインを叩き付けようとするが……ケインは全く動じずに、左手に装備している盾を構える。彼はオークの攻撃を正面から受けるのではなく、盾を使っていなしてみせた。

「甘いよ……せいっ!!」

 アークとの決闘の際にも披露した、盾の耐久度を減らさない為の技巧。この戦いが持久戦になるのは、間違い無い。だからこそ、ケインはその技巧を駆使して防衛に徹していた。


 ハヤテも自分の愛銃≪FAL型アサルトライフル≫を駆使して、モンスター達を狙撃していく。まだ難敵とはいえないレベルのモンスターばかりなので、【一撃入魂】は温存である。

「まぁ、ヘドショは基本ッスね~」

 ヘドショとは、ヘッドショット……頭を狙った狙撃の事である。それで倒せるのはただのゴブリンや、マッシュ等の雑魚モンスターだ。しかし、一撃で倒す必要は無い。

「任せてっ! はあぁっ!」

 ヘッドショットで動きが止まったモンスターを斬り裂く、アイネの薙刀≪聖刀・鏡花水月≫。聖剣属性を持つ彼女の武器は、どうやらこの森のモンスター達相手には効果抜群らしい。普段よりも、高いダメージ値が攻撃の命中した箇所から表示されている。


「私は盾を持ってるモンスターを狙いますね!」

 ヒメノがそう言って矢を射れば、オーガ・エリートの持っていた盾を一撃で粉砕した。

 一撃必殺の盾破壊に、戸惑うオーガ・エリート。そこへ駆け寄るのは、彼女の最愛の旦那様。最速忍者な、彼である。

「流石、姫でゴザルな」

 そう言ったジンは【一閃】を発動しようとするが、ふと予感がしてそれを止める。

 そのままオーガ・エリートと、その側にいるオーガ二体を巻き込むように小太刀≪大狐丸≫を振るった。するとオーガ達のHPバーの光が砕ける様に消滅し、そのHPを纏めて刈り取る。

「お、出たか!」

「頭領様のスキル……【ディザスター】……!」

「流石です、ジンくん!」

 パッシブスキル【ディザスター】の発動確率は、HPが減る毎に0.1パーセントずつ上昇する。常時スリップダメージによりHPが減少するこのマップは、ジンの【クライシスサバイブ】との相性が良いのだ。

「拙者は可能な限り、強敵を狙っていくでゴザル!!」


************************************************************


 戦闘は激しさを増していき、モンスター達のラインナップも一時間を経過した頃にまたも変化した。

 これまでのモンスターに混じって現れたのは、木人のモンスター【トレント】。そして粘液が人の上半身だけを模した様なモンスターである、【マッドスラッジ】である。更に大型の獣モンスターも現れて、前衛の負担が増え始めていた。


「ぐっ……!! この威力、なんて力だ……!!」

 獣型モンスターの突進攻撃は、盾職が受け止めて止めてから仕留めるのが良い。そのセオリーに従って、盾で突進攻撃を受け止めるヒイロだったが……その予想外の攻撃力に、面食らっていた。盾で防御して尚、余剰ダメージでHPを減らしてしまったのだ。

 しかしながら、突進は止まった。ならばやる事は、一つしかない。

「【一閃】!!」

 両手の≪妖刀・羅刹≫を大太刀に変化させ、動きを止めた【マッドボア】の身体を斬り付ける。しかしクリティカルとなったその攻撃でも、マッドボアのHPは二割も残っている。

 マッドボアはヒイロを睨み、飛び掛かろうとして……そこで、後方から放たれた火球がその身体に直撃する。ヒイロはその【ファイヤーボール】の威力から、レンによる援護射撃だと察した。

「……! レン、ありがとう!」

「いえ! どうかお気を付けて!」

 そうして短く言葉を交わすと、互いに意識を再度集中させる。モンスターの攻撃力だけではなく、耐久力も大幅に上昇している……それは、嫌と言う程実感させられている。


ッ!!」

 新たな≪打刀≫を振るい、トレントを斬り付けるコタロウ。しかしトレントのHPは残っており、反撃とばかりにその丸太の様な腕を振り上げた。コタロウはそれをバックステップで回避するが、その表情はやや渋い。


――モンスターの攻撃力、耐久力がいきなり上がった……通常、こういったクエストはもっと徐々に上がるものだが……。


 コタロウの感じた違和感は、この場で戦う全員が感じていた。襲い掛かって来るモンスターの難易度が、急に第三エリア最前線くらいのレベルまで上がったのだから無理もない。いくらエクストラクエストとはいえ、こんなに急激に難易度が上がるだろうか?

 ハヤテは何かしらのギミックがあるものと推測し、モンスター達に何か無いかと思考を巡らせる。しかしながら、モンスター達に何かしらのギミックがある様には見えない。


「はぁ……はぁ……これが、エクストラクエスト……高難易度とは聞いておりましたが、ここまでとは……」

 タスクがそう言って、≪MPポーション≫を一気にあおる。その際に、このクエストの要である≪聖樹≫に視線を向けた。最初はあっという間に成長した≪聖樹≫は、今は三メートルくらいで成長が止まっている。

「これだけ時間を掛けているにも関わらず……中々成長しませんね」

 そう言って≪聖樹≫から前線に意識を向け直すと、魔法の詠唱を開始。これは最前で戦うケインとヒビキに向けて、回復魔法を撃つ為だ。


 そんなタスクの言葉が、ハヤテの脳裏に引っ掛かる。

 苗の状態から、一気に成長した≪聖樹≫。その時に≪聖樹≫は毒の霧を吸い込み、輝く光の粒子を放出していた。しかし今は成長も止まり、光の粒子が放出される範囲は最後衛である自分達の周囲で留まっている。


――そういえば、俺等のスリップダメージ……全然、無いな?


 ハヤテはすぐに、その原因が≪聖樹≫にあると察した。≪聖樹≫が森を浄化するならば、この光の粒子がそれだろう。この粒子が、森のスリップダメージを防いでくれている。

 となれば≪聖樹≫の成長を促して、光の粒子が放出される範囲を広げる必要がある。≪聖樹≫も植物だ、成長に必要な物は……。


 そこで、ハヤテは気が付いた。それは自分達が既に、このエクストラクエストのギミックを発見していた事に対してだ。

 ここに来るまで、いくつも存在した≪精霊の座≫。それがこのエクストラクエストの、重要な要素だと気付いたのだ。


――ヤバい……()()()()……!!


 視線を≪聖樹≫に向け、凝視すればシステム・ウィンドウがポップアップする。そこで≪聖樹≫が枯れるまでの、タイムリミットが確認できる。そのカウントは、今現在は止まっていた。同時にそこには≪聖樹≫の状態が記載されており、そこには【成長度】という表示が追加されていた。現在は【成長度15%】という記載であり、≪聖樹≫の成長が全然進んでいない事が解る。


――植物の成長に必要なのは、水と土と光……それと、風!! ここに来るまで配置されていた、≪精霊の座≫の属性と一致する!!


 タイムリミットのカウントが止まったのは≪聖樹≫を植えて、樹の≪精霊の座≫を起動したタイミングだろう。そこから先、時間経過で枯れる事は無いという事。

 三時間というのは[腐食の密林]を探索し、樹の≪精霊の座≫を起動させる為に必要なタイムリミット。それをハヤテは勘違いし、目的地以外は捨て置く判断をしてしまったのだ。


「皆、ごめんなさい!! 多分、俺の判断ミスだ!!」

 ハヤテは悔し気な表情を浮かべながら、全員に向けて謝罪の言葉を伝える為に声を張り上げた。

 そんなハヤテの意外な言葉を耳にし、誰もが「どういう事だ?」と動揺する。

「ここに来るまでの≪精霊の座≫!! あれを起動しないと、≪聖樹≫がこれ以上成長しないッス!!」

 ハヤテの言う、判断ミス……それが、≪精霊の座≫を放置するという指示。その事を察したメンバー達は、合点がいった。

「ハヤテ君! つまり逆に言えば、≪精霊の座≫を起動すればいいんだね!?」

 アイネはハヤテを責めるでもなく、解決策について問い掛ける。それはこのエクストラクエストを、達成する事が可能だと信じているからだ。


 同時にこれは、ハヤテの自身に対する評価を下げるのを防ぐ為でもあった。ハヤテはここまで大きなミスもなく、ゲーム知識と洞察力、そして銃の腕で数々の功績を挙げて来たプレイヤーだ。ギルドメンバーのみならず、同盟ギルドも彼の判断を信頼している。

 しかしアイネは知っている……彼は、脆い面も持ち合わせている。その心の内を、彼女は一度見た事があった。それは、グレイヴが新生させる前の【漆黒の旅団】による襲撃の時だ。

 あの時の様に、ハヤテは自分を責めている。マイナス思考に陥り、仲間達の信頼を裏切ってしまったと自虐心に侵されている。


――そうはさせないよ……ハヤテ君!


 まだ終わっていない。まだ諦めるには、早い。彼の心が落ち込むのならば、それを引き留めて浮上させるのが自分の役目だ。アイネはそう考え、もう一度ハヤテに問い掛ける。

「まだ、クリア出来るんだよね!」

 そんなアイネの言葉に、ハヤテはグッと拳を握り締めて頷く。

「多分だけど、俺はそう判断してる!」


 その言葉を受けて、二人の会話を聞いていたジェミーが声を上げた。

「属性魔法を使えるメンバーを派遣して、≪精霊の座≫を起動。≪聖樹≫を成長させる事で、森を浄化する事が可能。この判断で良いかしら?」

「そうッス……!!」

 ハヤテがそう返答すれば、やる事は簡単だ。

「レンちゃんとイリスさんで、派遣メンバーの選定をお願い。その間、私達が持ち堪えさせてみせるわ」

 サブマスターである二人の決定ならば、文句は出ないだろう。そんなジェミーの言葉に、二人は「了解」という言葉で応える。

「【魔弾の射手】、掃討開始! ただしルナちゃんは、派遣される可能性があるからそのまま!」

『了解!』


 これまでは、中後衛として援護射撃に徹していた【魔弾の射手】の面々。しかし彼等は、ジェミーの指示を受けると……前衛の位置まで前進してみせた。

「これより、掃討任務を開始する」

 レーナはそう口にすると、迫り来るトレントの顔部分に向けて≪手榴弾≫を投擲。それが爆ぜると同時に≪M4A1型アサルトライフル≫を構え、その身体に向けて連続で射撃する。

 そんなレーナに襲い掛かろうと、迫るサーベルウルフ。レーナはそれを猫の様な軽やかな動きで躱し、≪M1911型オートマチックピストル≫でサーベルウルフを撃つ。


 レーナのすぐ近く、黒いコートを風に靡かせて疾走するのは金髪の少年。

 トーマが両手に携えているのは、≪COLT SAA型リボルバーピストル≫。これは≪コルト・シングルアクション・アーミー≫というモデルの、回転式拳銃をモチーフにした武器である。西部劇などでお馴染みの、非常に知名度が高い銃だ。また、この銃には『ピースメーカー』という別名がある。

 彼はゴブリンやオークの群れに飛び込むと、自分を見て攻撃態勢に入る彼等に銃口を向ける。両手を左右に伸ばしたその姿から、恐怖心等は微塵も感じさせない。

「さぁ、パーティーの時間だよ」

 祖父を彷彿とさせる不敵な笑みを浮かべてそう告げ、引き金を引くトーマ。その弾丸が放たれれば、両脇のゴブリンの頭部を撃ち抜く。


 盾でマッドボアの突進を受け止め、ミリアは≪フランキ・スパス12型ショットガン≫を突き出す。その銃口をマッドボアに押し当て、引き金を引けば激しい破裂音が周囲に反響する。

「ほら、邪魔よ」

 更にミリアがマッドボアを蹴り飛ばせば、後続のゴブリン達がその巨躯によって進撃を阻まれる。そこに駆け寄るのは、両手に≪ステアーTMP型サブマシンガン≫を構えるシャインだ。

「ぶっ放すですよー!!」

 連続する射撃音と共に、複数の弾丸が放たれてゴブリン達を抉っていく。シャインはそのまま駆け抜けて、他のモンスター達にも銃弾を容赦なく浴びせていった。

 同時にルナも、≪M14型スナイパーライフル≫を構えてトレントを狙撃する。

「固定ダメージの良い所は、防御力(VIT)も無視できる所だよね」

 彼女は主に前衛の攻撃でHPが尽きなかった、瀕死状態のモンスターの処理を中心にした狙撃を繰り返している。特に、VIT値が高そうなモンスターを優先していた。


「いやー、こういうのも……っ!! 懐かしいわな!!」

 ハイキックでオーク・スカウトの動きを止めたビィトは、ナイフを持つ腕を押さえ付けてその頭部に≪デザートイーグル型オートマチックピストル≫を押し付ける。躊躇う事無く発砲してオーク・スカウトのHPを全て弾き飛ばすと、消滅する前のオーク・スカウトの身体で後方から飛んで来た矢を防いだ。

 ビィトは自分を狙ったゴブリン・アーチャーに、≪UZI型サブマシンガン≫を向けようとして……その標的を、別方向に向け直した。それは既に、ゴブリン・アーチャーに向けて銃口を向ける男が居るからだ。

 駆け抜けながら、≪SVU型スナイパーライフル≫の引き金を引いたクラウド。ビィトを狙っていたゴブリン・アーチャーの頭部に弾丸を命中させた彼の背後で、ビィトの≪サブマシンガン≫の掃射を浴びたマッドスラッジが息絶えていた。

「これがゲームで良かったよ、ホント」

「ふ……違いないな」


 北方面に配置された【魔弾の射手】のメンバー、ジェミー・メイリア・ディーゴ。彼等は他の面々と違い、最前衛の位置までは出ずに銃撃を繰り出していた。

「他に比べて、楽させて貰ってる気がしてならないわ」

 そう言って、≪サブマシンガン≫を掃射するジェミー。彼女は第二回イベントでも愛用していた≪Gr G3型アサルトライフル≫を駆使して、モンスターにトドメを刺す為に撃った。その弾丸が命中したモンスターは既にHPを大幅に減らしており、ジェミーの一撃で容易く戦闘不能になった。

「ですね。俺は東側に注意を向けときます」

「じゃあ、私……西側。殲滅する……」

 ディーゴの≪AK-12型アサルトライフル≫と、メイリアの持つ≪HK416型アサルトライフル≫が、風が駆け抜けた跡地に向けて銃弾を吐き出す。

「……流石。ジンは、本当に凄い……」

 そう……この方面には、最速忍者が居るのだ。


 ジンが駆け抜けながら振るう小太刀の攻撃……それは、【閃乱】を発動したものだった。

 スリップダメージに加え、コストとしてHPを減少させるスキルの発動。普通に考えれば、これは自殺行為に等しい。しかしながら、それは他のプレイヤーに限った場合だ。

 ジンは恐ろしいまでの集中力で、フィールドを駆け抜ける。その速さは、他のAGI特化ビルドのプレイヤーを引き離す程だ。その素早さで被弾を避け続け、逆に攻撃を繰り出し続けていく。


 それでもスリップダメージが蓄積すれば、ジンとて戦闘不能に陥る。それを阻止しているのが、彼の最愛の存在だった。

「ヒナちゃん、一時の方角に範囲回復の準備!」

「はいですっ!」

「【ハイヒール】!!」

 ヒメノはジンの動きを予測し、次に向かうのはこちらに迫るオーガ達だと予想。その交戦ポイントに【エリアヒール】を発動させる様に、ヒナに指示を出す。自分はそれまでの繋ぎとして、【エレメンタルアロー】を駆使してジンのHPを回復させる。

 ヒメノとヒナの尽力が無ければ、流石のジンもここまで大胆な攻撃には出る事が出来なかっただろう。


 そうして徹底抗戦を繰り広げるジン達に向けて、イリスから指示が飛ぶ。

「≪精霊の座≫に向かうメンバー、決まったわ!!」

 メンバーは各ギルドから、二名ずつ。【忍者ふぁんくらぶ】からは、サスケとタスク。【魔弾の射手】はミリアとルナ、【桃園の誓い】からはイリスとケイン。そして、【七色の橋】からはヒイロとレンだ。

 正直に言えば、彼等が抜けると戦線はかなり厳しくなる。しかしながら、ボスが登場する前に≪精霊の座≫を起動させなければならないのだ。


 そう思っていた、矢先である。

「はぁっ!!」

 大太刀でマッドスラッジを倒したサスケが、ふと不穏な気配を感じて森の方へと視線を向ける。毒の霧で視界を遮られているが、突如その先で不気味な声が聞こえた。その瞬間、サスケの身体を植物の蔦が絡め捕った。

「ぐっ……!? これは!?」

 それはちょうど、戦闘開始から一時間半が経過したタイミング。モンスターの編成が更新される、最悪のタイミングだった。

 サスケは森の方へと引き摺られていき、その姿が毒の霧で見えなくなってしまった。その直後、霧の向こうに消えたサスケが声を張り上げた。

「伝令!! ボス出現!! 人食い植ぶ……」

 そのまま彼の声が途切れて、視界の隅に表示されているレイドパーティメンバーの表示から『SASUKE』の文字が黒く塗り潰された。

「サスケ!?」

「待って、何で蘇生猶予もなく……」


 その直後、ジンもまた何かの接近を察知する。サスケが倒される前に聞こえた叫び声が、自分達の方でも聞こえたのだ。

「むっ!?」

 それは自分ではなく、ハンゾウに向けられたものだった。伸ばされる蔦を確認したジンは、素早く≪苦無≫を手にして襲撃者に向けて投擲。

「【弧雷こらい】!!」

 ジンが魔技の発動を宣言すれば、ハンゾウを狙った蔦の持ち主が麻痺状態になる。そうなれば伸ばされた蔦も、その動きを止めている。

「あ、ありがとうございます、頭領様!!」

「蔦で捕獲される、注意するでゴザル!!」


 そんなやり取りに他の面々も警戒を強めれば、案の定東側と西側からも蔦が伸びて来た。

「【展鬼てんき】!!」

「【一閃】!!」

 シオンは自分を狙った蔦を、【展鬼】を発動した盾で防ぐ。そしてアヤメに向けられた蔦は、アイネが薙刀で斬り防いでみせた。


 毒の霧の向こうから、のそりと姿を見せたのは植物だった。それも、見る者に嫌悪感を抱かせる類の。

 いくつもの根を足代わりにして、地面を移動して来た食人植物。その頭部にあたる毒々しい花弁の中心部分には、蔦で捕縛した獲物を呑み込む口がある。

「【マンイーター】か!!」

「うわっ、キモ……ッ」

 サスケが蘇生猶予時間も無く戦闘不能になったのは、マンイーターに捕食された為だろう。誰もがそう察し、決してあの蔦に捕まってはならないと気を引き締める。


「……まずは、このボスを何とかしてからでないと」

「仕方が無いですね……クエストをクリアする為にも、ここで切り札投入でしょうか」

「自分のミスのツケは、自分で返させて貰うッスよ……!!」

 ボスの登場を受け、いよいよ主砲役がその全力を発揮する時が来た。

次回投稿予定日:2023/11/10(本編)


ハヤテだって、そりゃあたまにはミスするよ。

だってにんげんだもの。


そんな久々にネガティブになりそうだったハヤテを、すかさず支えるアイネ。

いつもはハヤテに甘える側だけど、こうして彼を支える事も出来るのが彼女です。


そしてサスケェ……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] サスケは犠牲になったのだ…。 しかし長時間かつ高難易度戦闘、その上謎解き要素までとは流石エクストラクエスト。 あとビィトさんはゲーム外で体験したことあるような言い方やめてもろて(白目
[良い点] EXQなのだから ミスは仕方ない ミスしたら 反省をして 巻き返す  5・7・5 これ重要!! フォロー 流石! [気になる点] ハヤテのごとく やられましたな サスケ 無念也…
[良い点] 流石はエクストラクエストエネミーの強さだけでなくギミックも複雑になっていきますね。凡ミス、ケアレスミスたまにはありますよ。ハヤテくんドンマイ。まだまだ挽回出来るさ。出来るよね? [一言] …
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