17-09 ≪聖樹の苗≫を受け取りました
妖精達に導かれて訪れた、[精霊郷]の森の中。樹の精霊ドライアドに、≪樹精霊の心≫を返した事で彼女は目を覚ました。
『異邦人の皆さん、本当にありがとうございます。おかげ様で、私は再び目覚めることが出来ました』
ドライアドがそう言うと、彼女は自分の胸元に手を当てる。すると胸元から光が溢れ出し、その光は球体に変化した。
「……スキルオーブ」
そう、それはスキルオーブだった。光り輝くスキルオーブは、ジン達一人一人の手元へと近付いてくる。
「これは……頂いても、良いのでしょうか?」
『はい、勿論です。ささやかではありますが、私からのお礼です』
レンがスキルオーブを最初に手にすると、その内容が表示される。
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スキルオーブ【樹魔法の心得Lv10】
説明:樹属性魔法の習熟度を示す。
効果:習熟度が向上すると、新たな武技を習得する。
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「レベルカンスト済みとは、びっくりですね」
レンの言葉を聞いて、ジン達もスキルオーブを手にする。表示された内容を見ると、レンの言葉通りスキルオーブのレベルは最初から10となっている。
これはドライアドを目覚めさせた事で、これから【樹魔法の心得】を手にするプレイヤー達に先んじて魔法を使えるという報酬なのだろう。
「大切に使わせて貰います」
レンがそう言えば、ドライアドは嬉しそうに微笑んだ。その笑顔はどことなく、母性を感じさせるものであった。
そうしてドライアドと少し会話を続けていくうちに、彼女が眠りについた原因が解った。
第二エリアと第三エリアの境界に存在する、[ウィスタリア森林]。そこは聖なる樹が植わっている森なのだが、その森に入り込んだモンスター達が大暴れしたという。
そこで森に向かったドライアドがモンスター達を撃退し、聖なる樹と森は守られた。しかしドライアドが力を使い果たしたその隙に、隠れ潜んでいたトレントが彼女の≪樹精霊の心≫を奪い取った。疲弊した上に≪樹精霊の心≫まで奪われて、ドライアドは[精霊郷]に逃げ帰るしかなかったそうだ。
そうしてドライアドは限界を迎え、長い眠りについたという。
「……あのトレント、そんなに悪い人……悪い木? だったんですね」
ヒメノが顔を顰めてそう言えば、ドライアドも「全くです」と頷く。
『お陰できっと、[ウィスタリア森林]は荒れ果てている事でしょう。恐らくは聖なる樹も枯れて、その力を失っているはずです……昔は、それはそれは美しい森だったのですが……』
そう告げるドライアドは、気落ちした様子である。自分の力が健在であれば、こうはならなかっただろう……そんな内心が、ジン達にも感じ取れる。
「ドライアド殿、拙者達で何か力になれる事は?」
ジンがそう言うと、ドライアドは少し迷う様子を見せた。
『恐らく今、あの森は来る者を拒む危険な場所となっています。恩人を、そんな危険な場所へ行かせるのは……』
ドライアドのその発言を聞いて、ヒイロとレンは思わず顔を見合わせる。
――来る者を拒む、危険な場所?
――第二エリアと、第三エリアの間……まさか。
二人の脳裏に浮かんだのは、常時スリップダメージが入る危険な森。そう、[腐食の密林]だ。
「……その森は、もしかして南西の地域にある森ですか?」
『……!! えぇ、その通りです』
やっぱり、と内心で思いつつ、ヒイロは言葉を続けた。
「そこなら俺達も、行った事があります。きっと力になれるはずです」
そんな力強い言葉を受けて、ドライアドは逡巡し……そして、申し訳なさそうな表情を浮かべる。
『お言葉に甘えさせて貰っても、良いのでしょうか』
遠慮がちにそう言うドライアドに、ジン達は力強く頷く。その様子を見て、ドライアドも決意を固めたらしい。
『確かに、あの森を放っておくわけにもいきません。もし、この≪聖樹の苗≫を植える事が出来れば……』
ドライアドがそう言って取り出したそれは、本当に苗だった。見た目は何の変哲もない、小さな苗だ。
『この苗を森の≪精霊の座≫の近くに植えて、≪精霊の座≫を発動させれば……この苗が、森を浄化してくれるでしょう』
そう口にするドライアドは、≪聖樹の苗≫を愛おし気に見ている。恐らく、彼女にとって≪聖樹の苗≫は我が子同然の存在なのだろう。
ヒイロがそれを了承すべく、口を開こうとし……その前に、ドライアドが「ただし……」と言葉を続ける。
『今は[精霊郷]の中なので、問題ありませんが……ここを離れると、≪聖樹の苗≫は徐々に弱っていくでしょう。恐らく、三時間ほどで力を失い枯れてしまいます』
このクエスト、どうやら時間制限ありのクエストらしい。
『また聖樹の力を失ったあの森には、強大な力を持ったモンスターが生まれていてもおかしくありません。聖樹を復活させようとすれば、間違いなく襲い掛かって来るはずです』
ドライアドがそう言うとなると、そうなのだろう。つまり、エクストラ級のボスが襲い掛かって来ること請け合い。間違いなく高難易度、十中八九エクストラクエストだ。
「……ここにはいない仲間とも協力すれば、問題ないと思います」
『そうですか……では、あなた達にお願いしても宜しいでしょうか。勿論、私も何もしない訳にはいきませんね』
ドライアドがそう言えば、彼女の足元から四本の蔦が伸びる。その蔦は徐々に成長して樹になり、すぐに赤い実をならせた。
『その果実を口にすれば、あの森の邪悪な力を半減させられるはずです。今の私には、このくらいしか出来ずに申し訳ないのですが……』
実の数は、四十個。それはつまり、四レイドのクエストとなる……という事だろう。となると、第二エリアボスレベルか、もしくは同等以上の相手が待ち受けている可能性が高い。
ヒイロがドライアドの果実に手を伸ばし、それを捥ぎ取った瞬間にアナウンスが流れる。
『エクストラクエスト【聖樹の苗】を受領しました』
それを確認したヒイロは、仲間達に振り返る。
「……これはどうやら、大仕事になりそうだ。出発前に、他の皆にも状況を報告しよう。今回の感じだと、各ギルドから人員を募る形が良いだろうしね」
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ジン達からの報告に対する返答は、軒並み「レッツゴー!」というものだった。
一旦、ジン達は[精霊郷]で≪聖樹の苗≫を受け取ったまま待機。これならば、≪聖樹の苗≫の制限時間が減らずに済む。
既にギルドマスター達が【桃園の誓い】のギルドホームに集結し、メンバー編成について相談している。メンバーが決定次第、現地へ向かえば余計な時間を省略できるという寸法だ。
その間に、ジン達は妖精達やドライアドとの会話に興じていた。
『そうですか、皆様は家を建てる場所を探して……恩人であるあなた達ならば、この[精霊郷]にと言いたいのですが……』
ドライアドとの会話の中で、[精霊郷]には購入できる土地が無いのが解った。もしかしたら、ワンチャンあるのでは? とハナビが探りを入れたのだが、結果は残念なものである。
しかし、そこで一人の妖精が会話に参加した。
『それなら[ウィスタリア森林]がいいよ! 聖樹で浄化された後なら、きっと綺麗な森になるよ!』
今回のクエストの目的地である[腐食の密林]……本来の名は、[ウィスタリア森林]。そこがいいと言うならば、恐らく購入できる土地があるのでは? ジン達はそう考え、しっかりと心のノートにメモをする。
そうこうしている内に、ヒイロからジン宛にメッセージが入った。
「……どうやら、メンバーが決まったようでゴザルな」
ジンとヒメノ……そしてイナズマとハナビは、そのまま現地で合流の手はずだ。今回ジンの班に参加したメンバーで、リリィだけが不参加となる。
「リリィさんも、一緒に行けたらよかったんですけど……」
表情を曇らせるヒメノだが、リリィは穏やかに微笑みながら首を横に振る。
「クラン結成後なら、参加したいと思ったでしょうけど……今回は何があるか解りませんから、最大人数で臨むのが一番いいはずです。次の機会は、ぜひ参加したいですけどね」
クラン未結成の現段階では、ギルドメンバーのみで組んだ十人パーティが四つ。これが最も、戦力を確保できる構成だ。
もしもクラン結成まで待てるならば、待っても良いのだが……その場合、他のプレイヤーに先を越される可能性も浮上する。よって、早急にクエストをクリアすべきである。
これは、ユージン・クベラ・コヨミ・ケリィ・ネコヒメからも了承を得ている。
「まぁ、私は【樹魔法の心得】を手に入れられたので、十分収穫がありました」
「最初からレベル10ですもんねー!」
「ね。私は魔法は使わないから、誰かにあげる感じかな」
リリィは魔法職だし、ヒメノはユニークスキル【エレメンタルアロー】を保有している。なので、二人はそのままスキルスロットにセットしている。
ジンとイナズマ、ハナビは魔法を使用しない。なので、クランの誰かに譲渡する形になるだろう。それについての話し合いは、このクエストの後で行えば良い。
何はともあれ、いよいよエクストラクエストの開始だ。ジンとヒメノ、イナズマとハナビはポータル・オブジェクトで転移後、全速力で[腐食の密林]へ向かう。
この[精霊郷]にも、ポータル・オブジェクトは存在した。それを有効化しているので、ジン達はそこから直接飛ぶことが出来る。
「それじゃあ私は、【桃園】のホームで朗報を待っていますね。皆さん、ご武運を!」
「ありがとうでゴザル、リリィ殿」
「リリィさん、行ってきます!」
リリィの激励を受けるジン達に、ドライアドや妖精達も声を掛ける。
『異邦人の皆様、どうかよろしくお願いします。ご無事を心からお祈りしています』
『がんばれー!』
『応援してるねー!』
『いってらっしゃーい!』
そんな声援と見送りを受けて、ジン達はいよいよ[腐食の密林]を目指して出発した。
……
ジン達が向かったのは、南側の港町[マリエラ]の西部にある小さな町。この町の名前は[マルム]といい、さほど大きくもない平凡な町だ。[腐食の密林]はここから南に真っ直ぐ進んだ場所にあり、既に各チームがそちらに向かっている。
「それじゃあ、行くでゴザルよ……おいで、コン」
ジンがシステム・ウィンドウを操作して、コンを召喚する。というのも、今回の移動は全速力で向かう必要がある。ハナビは弓職でAGIもそれなりに高いので問題ないが、イナズマは大槌使い。となれば、彼女のステータスビルドがSTR重視なのは自明の理である。
そこで、ジンの神獣であるコンの出番だ。コンが【成獣化】すれば、イナズマを乗せてジンに近い速度で走れる。最も、その際は大槌を装備から外して貰わねばならないが。
「よく来てくれたでゴザル、コン」
「イナズマさんを乗せて、一緒に走って下さいね」
「コンッ!(任せて、パパママ!)」
「ありがとうございます、コン殿。宜しくお願いします!」
「コンッ!」
ジンの神獣なので、コンはコン殿らしい。
「お願いします、ジンくん♪」
「では……いざ!!」
「わひゃああっ!! コン殿、はっやーい!!」
すっかりお馴染み、ヒメノをお姫様抱っこしたジン。それに続く、イナズマを乗せたコン。そんな両者を見て、ハナビは一瞬フリーズする。あまりにも、尊かったから。
「てぇてぇ……はっ!? い、いざ参ります!!」
幸いにも、トリップしていたのは一瞬。すぐに意識を取り戻し、ハナビも全力疾走を開始。ジンやコンには及ばずとも、彼女もそれなりに速かった。
全速力で現地に向かえば、そこには既に他のメンバーが待っていた。四つのギルドの主要メンバー揃い踏みとなれば、中々に壮観である。
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【七色の橋】
ヒイロ・レン・ジン・ヒメノ・シオン
ハヤテ・アイネ・センヤ・ヒビキ・ヒナ
【桃園の誓い】
ケイン・イリス・ゼクス・ダイス・フレイヤ
ゲイル・レオン・マール・バヴェル・ヴィヴィアン
【魔弾の射手】
ジェミー・レーナ・ミリア・ルナ・シャイン
ディーゴ・ビィト・クラウド・メイリア・トーマ
【忍者ふぁんくらぶ】
アヤメ・コタロウ・ココロ・イズナ・ジライヤ
イナズマ・タスク・ハンゾウ・サスケ・ハナビ
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今回、ミモリとカノンは不参加を表明。そしてナタクはまだレベリング中の為、参加を断念した。そこでナタクが不参加ならばと、ネオンも留守番を申し出た。同時に彼女は、自分の代わりに強力なヒーラーであるヒナを参加させることを提案したのだ。
同様に【桃園の誓い】も、ヒーラーが重要だと考えてヴィヴィアンが参加。そして最大戦力でならばと、レオン・マール・バヴェルが参加メンバーに組み込まれた。
対する【魔弾の射手】は、ギルドメンバー十人ぴったりの総力での出陣。【忍者ふぁんくらぶ】は、ギルドにおける実力者トップ10が参戦と相成った。
「それじゃあドライアドから貰った果実を食べて、すぐに突入しよう」
その言葉に従い、全員がドライアドの果実を口にする。甘味の中にほのかな酸味があり、中々に美味しい果実だった。同時に果実を口にした全員に、各種状態異常耐性が付与される。
常に取り置きしたい破格の性能だと思いつつ、今はクエストを優先すべくヒイロが号令をかける。
「それじゃあ、行こう!」
全員がマップ内に踏み込むと同時に、[腐食の密林]の中に充満した霧がプレイヤー達を覆う。それで常時、一秒につき10ポイントのHPダメージを受けるのだが、ジン達はそれが軽減されて3ポイントとなっていた。ドライアドは半減と言っていたが、予想以上に効果があったという事だろうか。
「まず、≪精霊の座≫の場所を探さねばならぬでゴザルな」
ジンがそう言えば、即座にアヤメが反応を返す。
「頭領様、それならば私共にお任せを。幸いな事に、回復アイテムも十分用意があります」
アヤメがそう言えば、すぐさまコタロウが続く。
「こういった任務は、我々の得意分野にございます」
他の八人は、二人の言葉に頷いて同意を示すのみ。しかし、その目が明らかに「お任せ下さい!!」と主張している。
「……トップの方々、どうでゴザルか」
アヤメ達の主張に対し、ジンが勝手に指示を出す訳にはいかない。自分はあくまでギルドの一員であり、ギルドの行動を決定するのはヒイロやレンなのだから。
そして今回は、まだ結成には至っていないもののクランとしての活動だ。つまり、他のギルド……うん、まぁ【忍者ふぁんくらぶ】は置いといて。それ以外の三つのギルド、そのトップ陣の判断を仰ぐのが正規のルートである。
指揮系統の乱れは、チームワークの乱れに繋がる。ジンはそう考えて、トップ陣に伺いを立てた。内心、自分を介さなくても良いのにと思いつつ。
そんなジンの問い掛けに、真っ先に応えたのはジェミーだった。
「私は良いと思うよ。第四回でも、要所要所では姿が見えたけど……私達、殆ど【ふぁんくらぶ】の皆さんを補足できなかったんだよね。ただ、単独行動は避けるべきかな」
それが本当であれば、彼等の隠密行動は相当なレベルという事になる。それでも単独行動について言及したのは、今回がエクストラクエストという高難易度だという点を重視しているからだろう。
続いて口を開くのは、ケインだ。
「俺も問題ないと思う。しかしその場合、定期的に連絡を取り合う体制を取るべきかな。もしも不測の事態が起きた場合、こちらからの救援も出来るだろう? ボス戦での戦力低下は、今回は本気で命取りになるだろうから」
ケインの指摘もごもっともで、このクエストのキモは≪聖樹の苗≫だ。それを守る戦力の低下を防ぐ為にも、連絡体制の構築は重要だろう。
「……どうですか、ヒイロさん?」
レンがヒイロにそう水を向ければ、ヒイロは頷いて自分の考えを口にした。
「二人一組での行動を遵守、十五分置きに状況報告。報告先は……」
「ヒイロさん、そういう事なら俺にお任せッスよ〜!」
片手を上げてそう告げるハヤテに、ヒイロも「そうだな」と頷いた。ハヤテならば、こういう役回りも卒なくこなせる。最適な人選と言って良いだろう。
「では、窓口はハヤテで。トラブルや不測の事態に遭遇したら、即座に撤退し合流。これでどうですか」
ヒイロの提案に、ケインとジェミーは首肯で応えた。異議なし、という事だろう。
「じゃあ、ジン」
「……やっぱ、そうなる?」
ヒイロが「言ったれ」と促せば、思わず素が出るジン君。チラッと【忍者ふぁんくらぶ】に視線を向けると、誰も彼もが目をキラキラと輝かせている。
「頭領様、ご命令を!」
『ご命令を!!』
「……命令じゃなくて、お願いで。あと、ほんとお気を付けて」
『ハッ!!』
返答と同時に、それぞれが散開する。それはもう、こう……シュバッ!! と。【ふぁんくらぶ】まじ忍者。
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さて。【忍者ふぁんくらぶ】が散開する際に、何の事前打ち合わせもなく二人一組が形成されていた。
アヤメとイナズマ、コタロウとイズナ、ジライヤとココロ、ハンゾウとハナビ、タスクとサスケだ。彼等は「単独行動を避ける」という話題になった際に、それとなく誰が誰と組むのかを決めていたのだ。それも、手や指の動きだけで。やってる事がガチ勢過ぎる。
そんなこんなで、イナズマはアヤメと行動を共にしている。これはイナズマが【忍者ふぁんくらぶ】内で、重要な戦力であると同時に重要人物であるからだ。
そう、【忍者ふぁんくらぶ】は隠密性と素早さを重視する傾向が強い。ほら、頭領様に倣ってるからさ。その反面、威力不足というデメリットが付いて回るのだ。そんな中で忍者ロールプレイをしつつも破壊力重視のイナズマは、【忍者ふぁんくらぶ】の重要なダメージディーラーなのである。
同時に、イナズマはギルド最年少……ハヅキと共に、中学三年生の少女なのだ。それも純粋で、礼儀正しく、健気な少女達である。そんな彼女達は、自分達が守らねばなるまい。それが、大人メンバーの考えであった。
そしてつい先日の、『イナズマちゃん、頭領様のイトコになったよ報告』だ。頭領様の親戚となればこれはもう、全力で守り抜くしかない。
さて、そんなイナズマだが……。
「会長、≪精霊の座≫を発見……しかし、水です」
「元から、何かの為にある物か? それともこのクエストの為に、用意されたミスリードか……ひとまず、報告を入れよう」
「了解、ハヤテ殿に報告します」
めっちゃ忍者してる、大人に負けず劣らず。普段の快活さが嘘の様に、今のイナズマは慎重さと鋭さを見せている。
「ハヤテ殿より返信。罠の可能性もある為、無視せよとの事」
「そうか、ならば指示通りに行こう。よし、進むぞ」
そんな厳格な口調で、イナズマに先を促すアヤメだが……そんな彼女は、内心で舌を巻いていた。
――相変わらず、イナズマの勘は凄いわね……。
そう、イナズマは非常に勘が鋭い。何か重要なものを見付ける時も、危険が迫る時も彼女は真っ先に気付いてみせるのだ。
そんな彼女の直感力に、【忍者ふぁんくらぶ】は色々と助けられている。これが、彼女を重要視する四つ目の理由であった。
「会長。ボク、この辺りには他に何も無い気がします」
「そうか。では、他を当たるか」
イナズマの言葉を聞いて、アヤメは即座にそう口にした。それを受けたイナズマは、不思議そうな顔をしている。
「……会長達は、ボクの事をいつも信じてくれますよね」
自分の直感力に対して、イナズマはそこまで頓着していない様だ。しかしアヤメからすれば、ユニークスキルかな? というレベルの、凄まじい能力である。
「イナズマ……私達はいつも、君のその勘に助けて貰っている。それに……そもそも、仲間を信じるのは当然の事じゃないか?」
アヤメがそう言えば、イナズマは嬉しそうな笑顔を浮かべた。少し照れくさそうにしているのが、また何とも愛らしい。
――守護らねば、この笑顔……。
それ以降も、二人は樹の≪精霊の座≫を探して森を進む。スリップダメージ対策として、丸薬にした≪ポーション≫を時折口にしていく。ちなみにこの≪丸薬ポーション≫は、黒っぽい見た目で凄くマズそうに見える。しかしその実、なんとコーララムネ味である。ハヅキちゃん、もしかして天才?
そうして進む内に、イナズマの勘が異変を察知した。
「……会長。何か、あっち側で……不穏な感じがします」
「不穏? ふむ……あの樹の上から、確認してみるか」
二人は目的の樹に近付いて……。
「【ハイジャンプ】……【ウォールハイク】」
アヤメは樹のすぐ横で【ハイジャンプ】を発動し、そのまま【ウォールハイク】を発動させて樹の太い枝まで駆けた。なんという、スタイリッシュ木登り。
「ハヅキちゃんの作ってくれた、コレの出番だね。狙いを……定めて……ここかなっ?」
イナズマは鈎爪を装備すると、肘付近で何かを操作してみせた。すると鈎爪が籠手部分から撃ち出されて、アヤメの居る木の枝に巻き付く。
「よい……しょ、こら……しょ」
その鈎爪と籠手を繋ぐロープを使って、イナズマは綱昇りを開始。その様子を見たアヤメは、「昔小学校の体育館で、やった事があるな」と懐かしい気持ちになる。
そうして二人は無事に木登りを終えると……イナズマが何かを感じた方向に視線を向ける。
「……何をしているんだ、あれは……?」
「あれって……【聖光の騎士団】ですね? それと……確か【天使の抱擁】の、ハイド殿?」
次回投稿予定日:2023/10/25(本編)




