17-08 幕間・彼等の真意
プロゲーマー事務所【フロントライン】。VRスポーツで人気のプロゲーマー集団である彼等が、AWOを始めた直後の事。
キャラクリエイトを終えて初ログインを済ませた彼等は、始まりの町の中でも人通りの少ない場所に集合していた。
「武器選択、ステータスビルド、スキル構成、装飾品選定……これまで公になっている情報を元に、各メンバー向けのプランを用意しています」
そう告げるのは、亜麻色の髪の歳若い少年だ。
「ご苦労だった、【マスト】。君の情報収集のスキルには、いつも助けられているな」
「本当にな。ありがとよ!」
「ありがとう、マスト。お陰で私達は、いつものびのびとやらせて貰っているわ」
社長や先輩ゲーマーからそう言われて、マストと呼ばれた少年ははにかみ笑う。彼の名前は、【宝城 通】。このプロゲーマー集団【フロントライン】において、情報収集や分析に長けたプレイヤーだ。
「さて、大人数で行動するのは、悪い意味で目立つだろう。ここからは分散して、目標達成を目指す。今日の最低目標は、全員レベル10以上を達成だ」
そんなトップの指示を受けて、十五人の【フロントライン】のプロゲーマー達は無駄口を叩く事なく行動を開始した。
三人一組でパーティを組み、単にマップだけではなくサーバーも切り替えて散開していった。これは指示通り、悪目立ちするのを避けるための措置だ。
まだ無力に等しい現段階で、不特定多数の気を引くのは危険だ。同業者は多くないだろうが、素性がバレるのは現段階では得策ではない。むしろ「プロゲーマーも大したことが無い」なんて言いたいが為に、仕掛けてくる輩が居ないとも限らないのだ。
故に態勢を整えるまでは静かに、慎重に、着実に行動する。それが肝要であると、彼等は考えているらしい。
……
他の四組が別サーバーに移動して、残ったのは歩馬と通、そして勝良との対話の場に居た男女二人だけになった。どうやら、彼等だけは四人で行動するらしい。
フィールドに向けて移動する中で、通……マストが、情報収集の中で発見した件について言及する。
「そう言えば、情報収集の中で気になる情報がありました。ユニークスキルが複数存在するのは、VRMMOあるあるなんですが……もしかしたら、シリーズになっていて分類が出来そうなんです。こういう場合、スキルの背景も綿密に作り込まれている可能性があります」
マストがそう言うと、男女が彼に視線を向けた。
「AWOのゲームデザイナーは、まだ無名の人物だったはずだよな。今まで一度も、名前を聞いた事が無かった」
そう言ったのは、見た目がチャラい青年だ。彼の名は【尾頭 保】……アバターネームは【テイルズ】だ。勝良と話した時の軽薄な態度とは打って変わって、真剣な表情である。
「何事にも、初めてがあるものよ。もしかしたら、後々何度も名前を聞く事になるかもしれないわ」
テイルズの言葉に頷いているのは、勝良との話し合いに同席していたクールな印象の美女。口調や声色は、話し合いの時と大して変わらない。しかしアバターの外見は、可愛らしい少女のものとなっている。
彼女の本名は、【蔵宮 菜乃】。そして、アバターネームは【クーラ】である。テイルズやクーラ、そしてマストも常にこの名前を使ってVRスポーツで活躍している。
「それで……社長。クライアントの意向は、ゲームで名を挙げる事……ですよね? 我々は、本気でゲームの頂点を目指すんでしょうか?」
「ははっ、まさか」
マストがそう問い掛けると、彼は笑って首を横に振った。
「AWOにおいて、我々は後発組だ。そしてこの手のゲームにおいて、時間は力に直結する。先発組から手厚いサポートを受けられるのであれば、頂点とは行かずともトップに迫るくらいは出来るかもしれんが……正直、現実的ではない」
そんな言葉に、クーラとテイルズも苦笑しながら同意した。
「トッププレイヤー達に対抗するには、時間と費用が掛かるものね。勝良さんは、その辺りをよく解っていないようだけれど……まぁ、仕方のない事なのかもしれないわね。彼はゲームをプレイしないし、お金や地位の方にばかり目がいっているから」
「むしろAWOの中で、スタープレイヤーになりそうな逸材が居たらスカウトしたい。どっちかと言うと、そっちが俺達の本当の狙いだ」
「あぁ、成程……」
そんな言葉に、マストは納得した。現在VRMMOのジャンルでは最も人気があり、プレイヤー人口も一番多いのがAWOである。そこで新たな逸材を見付け出すという方が、AWOで頂点に立つよりよっぽど現実的な話だ。
「まぁ、ゲームの腕が確かで、人格に問題が無く、スター性を秘めているプレイヤーなんて……そうそう居ないだろうがね」
次回投稿予定日:2023/10/20(本編)
社長……おるで。




