17-02 幕間・密談
それは、とあるオフィスビルの一室。そこで一人の男性が、三人の男女と会話していた。
机を挟んで向かい合う両者だが……男性が姿勢よく座っているのに対し、三人の男女はお世辞にも行儀が良いとはいえない座り方だった。また男性は仕立ての良いスーツ姿であるのに対し、三人組はラフな服装である。
しかしながら、男性はそれを気に留めた様子も無かった。
金色に染めた短髪、色黒に焼いた肌、ピアスだらけの耳……チャラ男風の男が、男性の言葉に反応した。
「はぁ? VRMMOに参入? 俺等が? 何の為に?」
チャラ男の反応は男性に「何言ってんだお前?」という態度であり、失礼極まりない……しかし、同席する両者はそれを咎めはしなかった。
「何でそんな話が出たのでしょうか? それよりも、他のゲームに集中した方が良いと思うのですが」
感情を窺わせない冷めた視線を男性に向けながら、一人の女がそう告げる。
VRゲームにおいてVRMMOはプレイヤー人口も多く、他のジャンルに比べて各企業が開発にも力を入れている。しかしながら彼女は、自分達がVRMMOに参入する意義を見出せないらしい。
そんなチャラ男と女の反応に、男性は涼しい顔で頷いてみせた。その反応は予想通り……という事だろう。
「ただのVRMMOなら、その認識で構わない。だが、お前達に参入して貰うのはただのVRMMOではない……【アナザーワールド・オンライン】だ」
その一言に、三人の男女は表情を改めた。
「あぁ、今話題になっている新作のVRゲームですね。既存のVRゲームとは比較にならないくらい、ハイクオリティだとは耳にしています」
「まだプレイはしてないけど、面白そうだとは思ってたな。ま、大会の準備でそれどころじゃなかったんだが」
「そう、そのAWOだ」
二人の反応が概ね理解できるといった態度に変化し、男性は頷いて続けた。
「AWOを運営するユートピアクリエイティブは、初音家と六浦財閥が深く関わっている。お前達も、名前くらいは聞いた事があるだろう」
初音と六浦……その家名を聞いて、三人は男性の思惑をほぼ察した。
「それは、勿論。いくつかの大会のスポンサーに、ファーストインテリジェンスや六浦コーポレーションの名前がありましたから」
「その上、UGIもユートピアクリエイティブに人員を送り込むという情報を得ていた。故に我が社も、先んじて提携を持ち掛け人員を送り込んだ訳だ」
「宇治財閥も……か。そりゃあ中々、豪勢だな」
「……日本五大企業の内、四つの企業が関わる。それだけでも、確かに特別と考えて良いかもしれないですね」
日本五大企業と呼ばれる、有数の企業。初音・六浦・宇治……そして、既にユートピア・クリエイティブに人的支援を行っている企業。男性は、その企業の人間らしい。
その名は。
「ただ、勝良さん……我々は、貴方の部下ではない。そうですね?」
これまで黙して語らなかった人物が、無感情にそう告げた。そんな言葉を向けられた男性……【勝良 葉歌郎】は、表情を変えずに彼の次の言葉を待つ。
「そして我々は、ビジネスの話をしている。アマチュアの配信者の様に、日銭を稼ぐなどナンセンス。それは当然、ご理解頂けていますよね?」
「無論、理解しているとも。トッププレイヤーとして顔を売れば、運営に売り込みも出来る。プレイヤーを起用してのキャンペーンや広告も、運営は考えている様だからな」
それはユートピア・クリエイティブに、人員を送り込んだからこそ知る事の出来た事実。その情報を利用して、勝良は彼等を売り込むつもりらしい。
「それにお前達の実力ならば、運営側のプレイヤーとしてAWOに出演するというのも良いだろう」
これも、第三回イベントに登場した運営側キャラクター……魔王と四天王が、NPCではなく運営アバターであるという有力情報を得た事で考えた展望である。
そんな勝良の発言に、チャラ男と女は「それは面白そうだ」という顔をする。
「プレイヤーじゃなく、運営キャラとしてか? それが本当に出来たら、面白いかもな!」
「……トップランカーを相手に、腕を振るう……ですか。確かに、実力者との対戦という事ならば興味を惹かれます」
好感触を得た勝良だが、まだ油断はしていない。なにせ、チャラ男と女の間に座る人物……彼こそが、全ての決定権を有している存在なのだから。
「これは勿論、君達のゲームの実力を見込んでの提案だ……どうだい、社長?」
社長……そう呼ばれた青年は、どう見ても二十代に満たない容姿だ。しかし、その眼光は勝良にも引けを取らない。
「半年以内に目ぼしい大会はありませんし、最新鋭の技術を体感出来るメリットがある。広告や運営キャラ就任は、現時点では絵にかいた餅でしょう。もしも実現可能そうなら、本格的に動けばいいかと。それにスポンサー様の意向を汲むのも、プロの仕事の一環です」
そう言って、彼……【下路柄 歩真】は首を縦に振った。
「解りました……ひとまず三月末くらいまで、AWOをプレイして様子を見ましょう。そこから先は、状況を見て再度お打合せでどうでしょうか」
「あぁ、ひとまずそれで構わない。宜しく頼むよ、プロゲーマー事務所【フロントライン】の諸君」
次回投稿予定日:2023/9/30(本編)




