16-42 九尾の狐VS【暗黒の使徒】
決闘が始まると、真っ先にダリルが歩み出て仲間達に宣言した。
「お前達は手を出すな。ジンは俺が殺る」
殺意を漲らせたダリルは、直剣を抜いて歩き出した。そんな彼の指示通り、他の九人はその場で待機している。
ジンの要求通りに決闘申請は十人で送ったのだから、文句は無いだろうといった所か。一対一に拘るのは、【暗黒の使徒】のポリシー……同じ条件下で戦い、リア充を完膚なきまでに打ち倒す為だ。
とはいっても、彼等の本当の狙いは正々堂々を信条としているからではない。一番の理由は「重犯罪者にならない為」である。
重犯罪になると、ノーマルや軽犯罪に戻る事は出来ない。そして重犯罪は町に立ち入る事が出来なくなるという、大きなデメリットが存在するのだ。
つまりリア充達を見付けられる町エリアから弾き出されない為に、決闘でのみ勝負を仕掛ける。通報されない様に同じ条件下で戦い、拒否されたら口を出すだけに留める。それが、決闘専門PKギルド【暗黒の使徒】の真実だ。
「ようやく……ようやくだ。貴様をこの手で、爆発させるこの時を!! 俺は待っていたんだあぁっ!!」
歓喜と憎悪が入り混じる、愉悦と嗜虐心に満たされた笑みを浮かべたダリル。彼は直剣を構えながら、鋭い踏み込みでジンに接近する。その動きに無駄はなく、口だけの実力ではないとジンは即座に察した。
しかし、だからと言って相手の望む展開にしてやるつもりは無い。
ジンはダリルの剣を、苦も無く跳んで躱す。ダリルも回避されるのは予想していたのか、すぐに次の攻撃に移ろうとした。しかしながら、相手は最高峰のAGIを誇る最速忍者。後の先を取るくらい、朝飯前だ。ダリルの攻撃準備が整うその前に、ジンが仕掛けた。
「【天狐】……【ハイジャンプ】」
「ブフォッ!?」
初手、【ハイジャンプ~ただし跳ぶのは相手~】。しかも、顔面に。今までこれを使用する時は、ジンは基本的に腹に【跳ぶのは相手】を打ち込んでいた。【天狐】を併用してまで顔面を蹴ったのは、まだ怒りが継続しているからに他ならない。
「オオオオォァアアアァァァッ!?」
顔面から蹴り飛ばされたダリルは、ほぼ水平に吹き飛ぶ。噴水広場から伸びるメインストリートに向けて、それはもう盛大に。
決闘の舞台を噴水広場と考えると、場外に吹き飛ばされた形だ。最もそれで戦闘不能にはならないが、一時的に戦線離脱するのは間違いない。
ジンは残る九人に視線を向け、両手に小太刀を構える。
「そちらの思惑に乗ってやる程、拙者は甘くない故……応戦しなくとも、容赦はしないでゴザル」
ダリルの指示通り、手を出さないならば無抵抗であろうと戦闘不能にする。ジンは明確に、そう言っていた。
「え、いや……」
「それは、ちょっと……」
困惑する九人だが、それはジンの関知するところでは無い。先の言葉を証明する様に、ジンはそのAGIを開放する。武技抜きの高速移動で【暗黒の使徒】の面々と距離を詰めれば、一瞬で己の間合いを確保した。
「【閃乱】」
怒涛の展開に呆けている一人を、ジンの小太刀が斬り裂いた。クリティカル確定攻撃により、そのHPが一気に削られる。
「こ……このっ!! 舐めるなよ!!」
「囲めっ!! 包囲するんだ!!」
「ちょっ、待っ……!!」
「後衛は下がれ!! 前衛で抑えるんだ!!」
「ギ、ギルマスが戻るまで、耐えろぉッ!!」
蜂の巣をつついたような騒ぎ様で、慌ただしくなる【暗黒の使徒】の面々。その合間にもジンは小太刀を振るい、敵対者のHPを削っていく。迫る攻撃は悉く避け、逆に鋭い斬撃を叩き込む。
その速さは目で追うのもやっとであり、正に”疾きこと風の如く”。それも爽快さと軽やかさを感じさせる、いつものそれとは大きく異なる。容赦なく敵を斬り裂き、その生命力を奪う様は暴風の様である。
……
「うわぁ……マジで速い……」
「人数差なんて、あって無い様なモノだな……」
「あ、一人死んだ……」
「動きが目で追い切れない」
「これがスーパー忍者タイムか……」
観戦しているプレイヤー達は、ジンが披露している超高速戦闘を見て興奮気味だ。それも無理のない事で、このレベルの戦闘など滅多にお目に掛かれるものではない。
そんな中、一人のプレイヤーが忌々し気に声を上げた。
「でもよ、ダリルが一騎討ちをしようとしていただろ? それを無視するのは、どうなんだろうな」
その男はギルバートに野次を飛ばし、ジンに相手をされなかったダリルに貶す様な発言をしていたプレイヤー。そしてその後のジンの言葉で、カチンと来たらしい少数の中の一人だ。
ジンの発言を受けても、彼は己の身を省みる事が出来なかったらしい。今度は気に入らないジンを扱き下ろそうと、周囲に同意を求める様に視線を巡らせ……そこで、冷めた視線を向けられている事に気付いた。気付いてしまった。
「いや、それはダリルが勝手に言い出した事だろ」
「決闘は十対一、それが双方合意のルールだものね」
「第一、【暗黒】はハンデ貰ってるようなモンだしな」
彼の予想に反して、大半というかほとんどのプレイヤーがジンを擁護する。
事実、ジンと【暗黒の使徒】双方が承諾した決闘ルールは十対一。決闘を開始してから、やっぱり一対一にする……というのは、【暗黒の使徒】側の都合だ。ジンがそれに付き合う義理は無いのである。
そしてジンは仕掛ける前に、警告した。それは「これから攻撃するぞ」と、わざわざ報せていたのだ。これだけでも、筋を通していると言って良いだろう。
……
「ふむ、あれは≪刀剣≫の【閃乱】だが……あんなに囲まれていて、大丈夫なのか?」
そう言ったのは、ベイルだ。彼が所属する【聖光の騎士団】にも、≪刀剣≫を持つプレイヤーがちらほらいる。特に【刀剣の心得】に精通しているのは、ホープだ。
「確か、クリティカル確定の代償に、HPが減るんだったか」
「そうらしい。いくら回避に自信があるとはいえ、ちょっとしたダメージが命取りになる……ん?」
その時、ベイルは違和感を覚えた。ジンの斬り付けたプレイヤーが、戦闘不能になったのだ。それはたいしておかしくない、普通に起こり得る事。しかしその時に、確実に違和感があったのである。
――今の一撃に、特別な事は無かったはず……クリティカルのライトエフェクトも、【閃乱】を発動しているから発生しておかしくない。
彼は攻撃に「何かが付け足されていなかったか」と思案するが……それは逆だった。その違和感の大元は、「何かが表示されなかった」事にある。
……
ジンは迫る全ての攻撃を避け続け、逆に痛烈なダメージを刻み付けていく。それによって、既に六人が戦闘不能に陥っていた。
「うおぉぉぉっ!!」
「このバケモノがあぁっ!!」
二人の前衛が攻撃を繰り出すが、それは偶然にもタイミングが合致した攻撃だった。ジンは、この攻撃を避け切るのは厳しいと判断し……アクティブスキルを発動させる。
「【サバイバー】」
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アクティブスキル【サバイバーLv1】
説明:致命ダメージを受ける時のみ、ダメージを無効化する。致命ダメージとならない場合、ダメージは無効化されない。
効果:消費MP20。詠唱破棄。効果継続時間5秒。発動可能回数、一日四回。
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ユニークスキル【クライシスサバイブ】における、アクティブスキル【サバイバー】。それは致死ダメージ無効化という、凄まじい効果を発揮するスキルであった。
前衛二人の武器がジンに当たってみれば、手応えの無い感触に違和感を覚える。そして倒したと思いきや、ジンのHPは減らずに残っている。
「な……にぃっ!?」
「馬鹿な……っ!!」
困惑する二人にジンは迫り、容赦なく小太刀を振るう。クリティカル確定攻撃を何度も叩き込まれては、VIT値多めの前衛でも耐え切れない。HPが枯渇し、信じられないといった表情のままに彼等は倒れた。
その間に、残る一人がジンの背後に忍び寄っていた。
――襲い掛かる瞬間に”死ね”だ”貰った”だなんて叫ぶ、間抜けな奴等とは違う……確実に仕留めてやるぞ、忍者ァ……ッ!!
無言で手にしたククリナイフ状の短剣を、ジンの背中に向けて振り下ろす。彼の鞘の中には≪パラライズポーション≫が仕込まれており、刃にはベッタリと麻痺毒が塗られている。当たれば麻痺状態になり、ジンの最大の武器である速さも封じられるという寸法だ。
最も、それは当たればの話である。
「【クイックステップ】」
それは瞬間移動でもしたのかと思うくらいの、超高速機動。ジンを捉えられなかったククリナイフは空を切り、男は気付かれたかと舌打ちをする。
――ヤツは背後を取らないのは、これまでの戦いから予測出来ている。正面から来た所で……。
正面から、速さで勝負されては敵わない。しかし鞘の中に入った≪パラライズポーション≫を、ジンにかければ話は別だ。勝機はそれだと確信して、男はジンの接近に備えると……ジンの姿が、どこにも無かった。代わりに、目に前に狐が居た。
「……あ?」
間の抜けた声が口から漏れ出ると、狐が紫色の光に変わる。同時にそこからジンが姿を見せ、まるで地面から飛び出す様に上昇する。
「はぁっ!?」
「【ライジングスライサー】」
上昇に合わせて繰り出した武技で、男は上空に切り上げられる。その高度は二メートル程度とそう高くは無いが、空中では回避が出来なくなってしまう。
そして、ジンの狙いは正にそれである。
「【一閃】!!」
両手の小太刀による、通常の【一閃】。それを避けること適わず、男はHPを全て失いそのまま噴水に頭から落下した。
ジンから見ても、彼は狡い手を使うのが見え見えだった。なので頭を冷やせという思いを込めて、噴水に頭から突っ込ませた。その為だけに、【地狐】を使って地面に潜るまでしたのである。
やはり、今日のジンはいつもと一味も二味も違うらしい。
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精鋭メンバーの戦いを見守る【七色の橋】【桃園の誓い】【魔弾の射手】の三ギルド同盟。【聖光の騎士団】と【森羅万象】の面々も、すぐ側で同様に戦況を見守っている。
さて、このトッププレイヤー勢揃いの一角には、新参プレイヤーが居る訳で。三ギルド同盟と行動を共にしているラミィと、【聖光の騎士団】に保護される形となっているバーベラである。
【七色の橋】や【桃園の誓い】に同行しているラミィは、七箇所で繰り広げられる戦いを見てある事を考えていた。
――無理だ!! 私はあんな風に戦える自信が無い!!
トップランカー達の様に戦えとは、誰も言わないだろうが……それでもラミィは、自分には向いていないと確信した。
元より運動神経もそこまで良くないし、かといって博識でも勤勉でもない。好戦的でもないし、殴るのも殴られるのも苦手意識が先に立つ。
皆ともっと仲良くなったり、一緒に楽しみたいという気持ちはあるが……戦うのは、正直なところ好きになれそうになかった。
――でも、あれだよね……ミモリさんやカノンさんは、物作り……生産がメインの人だって言ってたし……そういう方向で貢献すれば、仲間として受け入れて貰えるのかな……?
鍛冶は詳しくないし、調合も難しそうだと思う。しかしオシャレには興味がある、JKだもの。服や装飾品の生産であれば、自分でも戦力になれないだろうか? ラミィはそう考えて、後で相談してみようかと思案する。
そんなラミィに、真っ先に気付いたのはヒューゴだ。
「ラミィさん、大丈夫? 初プレイで、とんでもない事になっちゃったね」
ラミィに向けられた、柔らかく優しい言葉。それを受けて、ラミィは温泉での事を思い出す。とんでもないメンバーに、瑠璃が更に加わった時に困惑していた鏡美を、真っ先に気遣ってくれたのも言都也だった。
――そういえばこの人、親も含めて率先して皆と会話してたな……おかげで、色んな人と話しても違和感が薄れていった感じ。言都也さんって、結構周りの事を見ているのかも。
ともあれ、心配してくれているヒューゴを無視するのは失礼極まりない。ラミィは苦笑し、頷いて応える。
「なんとか大丈夫です……まぁ、あんな風に戦える気がしなくて、アレではありますが……」
「そっか。まぁ、色々な楽しみ方があるから大丈夫だと思うよ」
ラミィが戦うという事に対して、あまり乗り気では無い事を悟ったのだろう。ヒューゴは何でもない事の様に、そう言って笑い掛ける。
その言葉を受けて、ラミィは胸の中にあった靄の様なものが晴れた気がした。気の良い彼等ならば、ラミィの申し出を拒絶しないだろうとは思っていた。しかしながら、同時に不安もあったのだ。その不安を払拭してくれたヒューゴに感謝の念を抱きつつ、ラミィは皆に相談してみようと心に決める。
……
一方、【聖光の騎士団】と一緒に居るバーベラ。ライデンとルーが側に付いているので、知らない人だけという状況ではないが……それでも、緊張でカチンコチンになっていた。
――鳴洲が【聖光の騎士団】の幹部で、倉守と麻衣さんもそうってのは解ったけど……!! この凄い人達に囲まれている状況、落ち着かないんですが!?
さもありなん。大規模ギルド【聖光の騎士団】の注目度は高く、そんな彼等にスカウトされたとあってはバーベラも注目を集めている。こればっかりは、慣れるしかあるまい。
それにギルバートの奮闘を目の当たりにして、彼に並び立つくらいのプレイヤーになると決意したのだ。勿論、廃人レベルまで没頭する彼女ではない……だが、今回の件で受けた精神的ダメージは仮想現実でも本物である。同時に、彼から受けた恩も同様だ。本気でAWOをプレイし、ギルバート達と共に歩む覚悟を決めていた。
――それにしても……鳴洲はここでは、騎士様なんだ。結構、サマになってるし。
バーベラ的に、ギルバートの騎士ムーブはアリらしい。
ちなみにお堅い委員長というイメージを周囲に持たれている彼女だが、幼い頃の夢は「お姫様になる」というものだったのは家族との秘密だ。そんな彼女なので、白馬の王子様に憧れる時期もありましたとも。
そんな感性を隠し持つ彼女的に、騎士・ギルバートな鳴洲人志はアリらしい。
尚、【聖光の騎士団】の弓使い……から銃使いにシフトしたヴェインだが、彼はバーベラの得物が弓矢であるのを見てある事を考えていた。
――幹部三人の友人となりゃあ、一緒に行動する機会も増えそうだよなぁ。それにありゃあ、ギルの旦那に特別な感情を抱いていそうだし……となりゃあ、俺にお鉢が回ってきそうだな。
弓の扱いにおいて、ヴェインを上回る者はギルド内にいない。立ち回りやコツ等、バーベラに指導するならば自分が適任だろう。
それにAGI型前衛と弓職の組み合わせには、思うところがある。某忍者と某姫様の、アークすら打倒したあの夫婦だ。あの奇跡の相性と同レベルを望むのは高望みかもしれないと思いつつ、もしかしたらという予感もしている。
――後で、トップのお歴々とミーティングかね……。
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ダリルが吹き飛ばされ、噴水広場に戻って来るまでにかかった時間は数分の事。野次馬が邪魔で少し時間が掛かってしまったが、ここからが本番だと息巻いていた。
そんな彼が目の当たりにしたのは、信じられない光景だった。
「ば……馬鹿な……」
自分達は……【暗黒の使徒】は、決闘専門PKer。故に対人戦は大規模ギルドにも引けは取らないし、決闘での戦いならば誰にも負けないという自信があった。
しかし、それは彼の幻想に過ぎなかった。自分のギルドメンバー達は全員戦闘不能になっており、立っているのは憎きリア充達のみ。十対一という有利な状況で尽く敗北を喫し、残るは自分一人だけである。
既にジン以外は勝利アナウンスを確認しており、仲間達の元へと戻っている。逆に自分の仲間達はちらほらと強制転移が始まって、ギルドホームに送還されていく。
見れば、ジンのHPが危険域まで減少している。恐らく、仲間達と激戦を繰り広げたのだろう……ダリルはそう思い、直剣を構える。それが武技によるクリティカル発動コストだとは、思い至る事が出来なかった。
「貴様だけでも……!! 貴様だけでも、爆発させてやる!! 忍者アァァァッ!!」
そう言って駆け出したダリルは、ジンの攻撃は小太刀二刀による速さを生かした攻撃と判断する。HPは十全であり、AGI型のジンの攻撃を二、三発受けても耐えられる自信があった。
最初は力でゴリ押しする戦法と見せかけて、スキルに依存しない体術を織り交ぜた技巧による攻撃に移行。そのギャップでジンのペースを崩し、そこを力で抑え込む。
ダリルの直剣は≪暗黒騎士の直剣≫という、スーパーレア装備だ。これにはヒットストップ耐性と、通常攻撃を行う際にスーパーアーマー状態を付与するという強力な性能を有している。
数々のリア充を倒して来られたのは、鍛え抜かれた彼の実力とこの高性能な剣の相性の良さが大きい。
「喰らええぇぇっ!!」
「疾風の如く……【クイックステップ】」
ジンの高速回避は、補足するのも困難を極める。そして回避後に繰り出される攻撃は、こちらの攻撃が完了した所を狙うだろう。そう判断したダリルは、攻撃に込めた力を緩めて剣を引き戻す。
案の定、ジンはダリルに向けて接近を開始。ダリルが防御態勢を整えるのを目の当たりにして、少しだけ視線に変化があった。
――決闘専門を謳うだけある……か。攻防の駆け引きの経験値は、もしかしたら僕よりも上かもしれない。
全力では無いといえ、ジンのスピードを目視出来るのもそうだ。
その実力を、もっと健全な方向で発揮すれば良いのに……とも思うが、それについて言及するつもりは無い。
ジンの≪小狐丸≫での攻撃を直剣で受けるダリルだが、≪大狐丸≫までは対応できなかった。左脇腹を斬られ、ダメージエフェクトを刻み込まれる。
――ダメージ値は24か……やはり予想通り、STR自体はそう高くない。
これならば、まだまだ耐えられる。そう考えて、ダリルは直剣を振るう。ジンはそれをサラリと回避し、反撃しようと小太刀を振るい始めた。
そこでダリルはジンの小太刀を剣の柄で受け、攻撃のテンポを変えて鋭い蹴りを放った。ジンはそれを避け切れず……
「【霊狐】」
その蹴りが致死ダメージになるかは、未知数だった。故に【九尾の狐】の武技である【霊狐】を発動させ、ダメージを回避する。
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武技【霊狐lv6】
説明:発動時、使用者の身体が透過状態になり、残像が発生する。
効果:消費MP10。詠唱破棄。発動時、AGI+10%。効果継続時間10秒。発動後、クールタイム60秒。
武技レベル上昇で、効果継続時間が1秒上昇。
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ダリルが放った蹴りはジンの身体を擦り抜け、ダリルは空振り状態になる……が、彼は動揺した様子もなく次の行動に移った。
ジンのこれまでの戦い振りから、攻撃を回避する術があるのは予測済みだ。
「ぬぅんっ!!」
野太い掛け声で剣を振り下ろすダリルに対し、ジンはそれを避ける様子を見せずに小太刀を振るう。その攻撃が、明らかに自分にとっての致死ダメージになるのは容易に想像できるからだ。
しかしながら、不思議な事にジンには確信があった。【クライシスサバイブ】の、もう一つのスキル……それがこの瞬間に発動するという、予感がしているのだ。
ジンのAGIは、ダリルを遥かに上回る。だから、ダリルの攻撃よりも早くジンの攻撃は命中する。
その予想に反する事無く、ジンの小太刀による一撃がダリルを斬り付ける。その瞬間、ダリルは形容できない感覚を覚えると同時に、全身の力が抜け落ちたのを感じた。
「……な、何だとッ!?」
そえは奇妙な感覚だった。戦闘不能になった時に感じるのは、徐々に力が抜けていくような感覚だ。しかしダリルが今実感したのは、プツリと糸が切れた様に身体の制御権が失われたかのような感覚であった。
……
「何だ、今のは……!?」
突然、ダリルが戦闘不能になった。HPはまだ十分残っており、ジンの攻撃で与えられるダメージ値は一割もあれば良い方だったのに。
その不自然な様子を見て、ベイルは先程の違和感が勘違いでは無いと確信していた。
「HPはまだ残っていたのに……一瞬で全て消えた? それにゲージが減るのではなく、一瞬で残存ゲージが全て消滅した……そして、何より……」
そんなベイルに、ライデンも同じ点に気付いていた。
「……何より、ダメージ値が表示されなかったね。あれは、まさか……」
二人の会話を耳にした、他のプレイヤー達もある可能性に思い至る。ゲームにおいてある意味最も凶悪な、正に”必殺”の攻撃。
「……即死、攻撃……」
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パッシブスキル【ディザスターLv1】
説明:攻撃時、確率で即死効果が発動する。死線を潜り抜ける度に、確率が上昇する。
効果:発動確率0.1%、確率上昇+0.1%、即死効果発動時、確率上昇リセット。
HP減少時、または【サバイバー】発動時に確率上昇。
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次回投稿予定日:2023/9/13(掲示板)




