16-33 変なのに絡まれました
仕込み完了!
割と現実サイドに寄っていた本章も、大詰めです。
文章構成むっずかしい!
※胸糞悪くなるかもしれない描写が御座います。
くれぐれも上記の点にご注意の上、ご閲覧下さいませ。
苦手な方は、後半の方まで読み飛ばしちゃって下さい。
温泉旅行最終日の朝。
仁達は早速、温泉旅行の最終日を堪能する事にしたのだが……朝食の席で、この後の予定についての話題になった。
「折角だから、俺達は解散場所で一泊してから帰ろうかと思ってるよ」
左利がそう言えば、輝乃・十也・千尋・治が頷く。彼等は皆、静岡の西寄りに住んでいるメンバーだ。帰りの新幹線で夜遅くに帰るより、もう一泊して明日ゆっくり帰るつもりらしい。
すると、それに便乗したのが朱美である。彼女も愛知県……名古屋よりも静岡寄りの地域に住んでいる為、左利達と一緒に動くと表明した。
「それに、治と今後の事を色々と相談したいしね」
「あ、あぁ……そうだな」
二人が昨夜から交際する事になった件は、朝食を食べ始める頃合いで皆に報告された。あちらこちらから祝福の言葉が寄せられ、二人の交際は幸先の良いスタートを切れたようだ。
「そうなると、俺も便乗しようかな。明日は何も予定は無いし」
青森在住の蔵頼は、折角こうして集まれた仲間達との時間をもう少し味わいたいらしい。
ちなみに今回の旅行を受けて、彼は関東の部署に異動願を出そうか真剣に考えていた。それだけ、仲間達ともっと楽しい時間を共有したいという思いがあるのだろう。
残る遠方住まいは九州在住の和美と紀子、そして大阪在住の勝守だ。
和美と紀子は、寺野家に宿泊する事が決まっていた。勝守も誘われたのだが、まだ知り合ったばかりの身だし、人数が多いと迷惑になるとそれを辞退。近場のビジネスホテルに泊まり、それから二人と一緒に飛行機で帰るつもりらしい。
「紀子と二人で泊まるという選択肢は?」
「いやいや、麻守さん……まだ親御さんにご挨拶もしてない内から、そんな事は出来ないでしょ。別段焦る必要なんて無いんだから、ちゃんと筋を通していかないとね」
その言葉を、平然と口にした勝守。彼がそう言うのは紀子を本気で大切にしたいという思い。そして同時に、大人として仁達若いカップル達の手本となれるようにしっかりしなければ……という思いからである。
その言葉と態度に、親勢の信頼度がまた上がったのだがそれは余談だ。
そして仁達は普通に現地解散して、各自の家に帰宅である。
二泊三日の旅行も、いよいよ終わりを迎えようとしていた。
そこで、社会人組から一つ提案があった。
「普通のホテルだと、AWOにログイン出来ないだろう? 帰る前の午前の内に、少しだけでもインしておきたいかな」
ログインボーナスは基本的に連続でログインする事で、より良い報酬が得られる。連続一カ月ログイン達成で得られる報酬として、時折ゴールドやシルバーのチケットが手に入る事もあるのだ。それを考えると、せめてログインするだけでもしておきたいというのは仁達もよく理解出来た。
しかしビジネスホテルの部屋には、当然ながらVRゲーム用のハード等は置かれていない。というか、普通のホテルにも無い。本来ならばこのスパ・リゾート[フロンティア]の部屋にも置かれない。
今回部屋に用意されているVRギアは、仁達の為に初音家が特別に用意した物なのである。
なのでログインボーナスを途切れさせない為には、今の内にログインしておく必要があるのだ。
「それなら、午前の内にログインしておきますか?」
英雄がそう言うと、秀頼が朗らかな笑みを浮かべて話に加わる。
「まぁ待ちたまえ。先程の話だと、飯田君達も慌てて帰る必要が無いのだったね?」
「えぇ、そうですね」
「それならば、ここを発つ時間を遅らせても良いんじゃないかな。勿論、他のご家庭も宜しいのであればだけれどね」
秀頼がそう問い掛けると、各家庭は特に問題ないとの返答が帰って来た。むしろ、もう少しゆっくりとこの温泉施設を楽しめるのならばと乗り気である。そんな親達の様子を見て、秀頼は英雄達に笑い掛けた。
「これで少しは、君達も落ち着いて楽しめるだろう?」
そう言ってウインクする秀頼に、左利達はありがたいなと思いつつ感謝の言葉を返す。唯一恋だけは、「旅行気分をまだ味わっていたいのでしょうね……」と真実を見抜いていたが。
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帰る時に湯冷めをしない様に午前中は温泉を堪能し、昼食後に揃ってログインする仁達。その際にある人物が、少し一緒にAWOをやってみたいと申し出た。それは勿論、拓真の姉である鏡美だ。
「いや、まぁ……何というか、すこーしだけ、興味が……」
トップランカーの面々に混ざっていいものか? という気おくれはあるのものの、同世代も多いこのメンバーと一緒ならやっても良いかな? という思いが強まっていたらしい。
そんな鏡美の申し出を拒否する者など、一人としていない。メンバー全員に快諾されて、本日はログインだけではなく鏡美の初プレイと相成った。
拓真と優が初ログインする時のやり方や注意点をレクチャーした後、鏡美は自分のアバターのキャラクリエイトを実行。初ログインした際のスタート地点である、始まりの町[バース]の噴水広場に待機する彼女を迎えに行く事になった。迎え担当は勿論、拓真と優だ。
尚、鏡美はアバター名を【ラミィ】とする事にした。最初は自分の名前の”鏡”から【ミラ】にするつもりだったのだが、その名前は既に使われていた。そこでミラーを組み替えて、ラミィという名にしたのだった。
肩まで伸びた髪は、現実と異なり薄紫色。合わせて瞳も、アメジストの様な色合いになっている。ちなみに胸元や腰周り等、現実よりもスタイルが良くなっているのはご愛敬。ナタクも余計な事は言わず、口を噤んでいる。口は災いの素、それはよくご存じらしい。
そんなこんなで、合流するのは順調だった三人。しかしながら、三人がギルドホームへ向かおうとしたその時である。噴水広場で、突発的なトラブルが発生した。
トラブルと言って良いのか判断に困る所なのだが……何と言うべきか、騒ぎが起きたのだ。具体的に言うと、何か変なのが一組の男女に絡んだのである。
「貴様等、リア充だな!!」
「リア充爆発しろ!!」
この時点で、その正体が何者か良く解るだろう。そう、決闘PKerギルド【暗黒の使徒】の面々である。
ちなみに絡まれたのは、勿論ナタクやネオンではない。一人は長身で黒髪の青年、一緒に居るのは亜麻色の髪を耳より下で二つ結びにした美少女だ。青年は長槍を、少女は弓矢を装備している。
「拓m……じゃない、ナタク。何あれ」
姉のそんな質問に、ナタクは何と返すべきか悩む。彼等はリア充を憎み、リア充爆発しろと声高に叫び、リア充に決闘を挑む存在。
「……リア充に対して敵意を燃やす迷惑な存在」
とても簡潔で、尚且つ実に的確な説明だった。実際、普通にゲームを楽しんでいるカップルからすれば、彼等は迷惑な存在である。それはもう、アポ■ガイスト並みに迷惑な存在なのだ。
「とりあえず、ラミィお姉さんを連れてこの場を離れましょうか……」
ネオンがそう勧めるが、ナタクは絡まれている二人に申し訳なさそうな視線を向け……絡まれている存在の片割れが知人である事に気付いた。彼はネオンに待ったを掛け、真剣な表情である事を頼む。
「いや、ネオンさん。皆に連絡をお願い……あれ、絡まれているのギルバートさんだ」
……
「相手する気は無いんだよ、さっさとどっか行ってくれねぇかな」
そう言ってウンザリした表情を浮かべるのは、ナタクが見抜いた通り変装したギルバートだ。彼はバーベラのVRMMOプレイをサポートすべく、今日も待ち合わせをして活動する所であった。
正直、自分はリア充では無いと思う。恋人も居ないし、浮いた話もないのだ。しかしながら、絡まれる理由は解っていた。バーベラと、二人でパーティを組んで行動しているからである。
――まぁ確かに可愛いもんな……現実の委員長も可愛いと思うし、印象を変えたバーベラも可愛い。
その心の声をライデンとルーが聞いたならば、きっと二人は口を揃えてこう言っただろう……それ口に出して言ってやれ、と。ついでにライデンはその後に「昔はあんだけ息をするように誉め言葉を垂れ流していただろうに」と、黒歴史を掘り返すまであるだろう。
何はともあれ、大規模な集団に囲まれた二人。ギルバートは、変装していてもその実トップランカーの一人。平然とした様子で、バーベラを庇う様に立っている。
しかしバーベラは、そんなギルバートの服の裾をつまみ不安そうにしている。それも無理もないだろう、大人数の集団に言い掛かりをつけられ、囲まれているのだから。しかも言い掛かりの内容が、「リア充爆発しろ!」。バーベラ的には得体の知れない、実に意味不明な集団である。
しかしギルバートとバーベラの都合など、お構いなしとばかりに【暗黒の使徒】は声を張り上げた。
「そこの少女は、恐らく初心者だな!! 初心者ならば、手は出さん……今はまだな!!」
「しかし、そこの男!! 貴様はそれなりのプレイヤーと見た!!」
「敗北を恐れぬならば、勝負しろ!! 貴様に決闘を申し込むッ!!」
初心者等には手を出さず、ある程度の実力者でなければ勝負を挑まない。その点だけを見れば、最低限の良識を弁えている様に見えてしまう。そんな印象もあって、遠巻きに騒ぎを見ていたプレイヤー達からも野次が飛んだ。
「何だよ、まーた【暗黒】かぁ?」
「兄ちゃん、受けちまいな!! それともビビってんのか~!?」
「彼女の前で、いいとこ見せてやりなよ!!」
そんな発言まで飛び出した事で、ギルバートは表情を歪める。
トップギルドのメンバーであり、今はその座を退いたがかつてはサブマスターという立場であった彼だ。【暗黒の使徒】の誰と戦おうと、問題なく勝利するだけの自信はある。
しかしそれは、本来の装備で戦った場合である。今の彼は、目立つ事の無い様に”ジル”としての装備で身を固めている。彼等と戦うには、現在身に着けている装備では心許ないのも自覚していた。
だがここで、【聖光の騎士団】のギルバートとしての姿を見せる訳にはいかない。バーベラを守る為に、わざわざ変装している意味が無くなってしまうのだ。
ならば、取れる手段はただ一つ。
「決闘の申し出を、拒否する」
それはギルバートにとって、屈辱以外のなにものでもない返事だ。
ギルバートの返答を聞き、【暗黒の使徒】の面々は愉悦に表情を歪めた。
「拒否する、と言ったか? そうか、ならば貴様は腰抜けという訳だな!!」
「ふん、パートナーを守る気概もないか!!」
「見込み外れだった様だな!! 貴様など、爆発させる価値も無い!!」
勝負を受けなかったギルバートに対して、容赦なく辛辣な言葉を浴びせる【暗黒の使徒】達。その発言に怒りを覚えるギルバートだが、バーベラを守る為だと自分に言い聞かせて堪える。
しかし罵声を浴びせて来たのは、【暗黒の使徒】だけではなかった。
「おいおい、つまんねーなぁ!!」
「大層な槍持ってるクセに、逃げんのかー!?」
「彼女が可哀そうだぞ、それでも男かよ~!!」
決闘の観戦を楽しもうとしていたからか、遠慮や配慮が欠けた心無い言葉が向けられる。その誰もが明らかに低レベルのプレイヤーであり、ギルバートにしてみればそんな事を言われる謂れは無い存在だ。
それでも、彼は耐える。バーベラの為だと、己に言い聞かせて。
「君達に何を言われようと、俺の返答は変わらない。彼女の為にも、俺は戦わない」
「……ジル君」
バーベラも、ギルバートの考えが解った。本当ならば【暗黒の使徒】を相手にしても問題ないくらいに、彼は強いプレイヤーなのだろう。しかし、それでも彼は決闘を受けない事を選んだ。それは、自分の為なのだろう。
だからこそバーベラは申し訳ない気持ちと、ここまで言われても自分を守る為に耐えてくれている彼の背中を……涙で滲んだ瞳で、見つめる事しかできないかった。
屈辱も、憤りも全て必死に呑み込んだギルバート。しかしその発言も、【暗黒の使徒】や野次馬にしてみれば虚勢と捉えられた。
「フン、口だけは一人前か」
「何を言おうと、貴様が勝負から逃げた事実は事実なのだがなぁ」
「戦う前から負けを選ぶなど、負け犬以下の存在よ」
ギルバートに対して、情けなど微塵もない台詞を浴びせる【暗黒の使徒】達。それはギャラリーも同様だった。
「負けるのが怖いから、戦いたくないだけだろ~!!」
「このビビリ~!! みっともないぞ~!!」
「言い訳は見苦しいぞ、チキン野郎~!!」
当事者である【暗黒の使徒】達は、決闘拒否を正当化しようとしている様にしか見えないギルバートを揶揄している。ちなみに正当化以前に、決闘の受諾も拒否も本人の自由なのだが。
そして周囲の野次馬達は、ギルバートへの罵声を愉しむ様に声を上げる。勿論、全員がそうではない。しかしギルバートが反論も抵抗もしない為、群集心理に従って「こいつは罵声を浴びせても良い相手なのだ」と判断し好き勝手になじっていた。
そんな中……声が、響いた。
「何やら随分と、騒がしいでゴザルな」
その声が聞こえて来たのは、ギルバートや【暗黒の使徒】達から見て頭上から。そこに居る存在を認識し、誰もが言葉を失った。そんな面々を気に留めず、彼は立っていた建物の上から飛び降りた。
声と共に降って来たのは、一人の少年。忍装束を想起させる和風の衣装に、トレードマークの紫色のマフラー。ある程度AWOをプレイしているならば、絶対にその存在を知っているであろうその人物。
ギルバート・バーベラと【暗黒の使徒】の間に舞い降りた彼は、着地体勢から身体を起こす。その佇まいは自然体で、気負いも何もないものだった。
「……ジン!?」
「……え? それって、まさか……」
ギルバートとバーベラが、突然現れた彼を見て声を上げる。ギルバートは衝突の末に和解し、絆を育んだ友に。そしてバーベラは、事前にギルバートから聞いていたクラスメイトの予想外の乱入に。
その突然の乱入に、【暗黒の使徒】は言葉を失った。それは事の成り行きを見守っていた者も、心無い野次をギルバートに浴びせていた者達も同様だ。
衝撃を受けて絶句する者達に対して、彼……ジンは一切の関心を示した様子は無い。彼は振り返って、ギルバートとバーベラに微笑みかける。
「ジル、それにバーベラ殿……あけましておめでとうございます。今年もどうぞ、宜しくお願いするでゴザルよ」
とりあえず、新年の挨拶から始めた。大事な事だからね、仕方ないよね。
ちなみにジンが二人をそう呼んだのは……ナタクからの情報によるものだ。
「ギルバートさんは、名前を非表示にしていました。恰好も見るからに普段とは異なりますし、僕達同様に変装でしょうね。一緒に居る女性は、バーベラという名前みたいです。彼女は、ギルバートさんを”ジル”と呼んでいました……多分、何かしらの事情があるんだと思います」
ナタク、超有能である。状況を把握し、情報を整理し、それを的確に仲間達に伝えたのだ。
そう、仲間達……である。
「俺達の友人を囲んで、何してくれているのかな?」
普段よりも厳しめの口調と、冷たい声色。同時にその視線は底冷えのする冷たさを湛え、【暗黒の使徒】達を射抜くようである。
その声を聴いて振り返った野次馬は、本能的に後退った。それは逃げるというよりは、彼等の為に道を開ける様な動きである。
モーゼが海に道を作った様に、野次馬の人垣が割れていく。誰もが無意識に、そうしなければならないと感じたのだろう。
そんな野次馬を一瞥する事も、何かを告げる事も無い。鎧武者……ヒイロを先頭にして、【七色の橋】と【桃園の誓い】……更にリリィ・クベラ・コヨミまでもが一緒になって、割れた人垣の間を進む。
ヒイロ達はそのまま、ジルとバーベラを囲む様にして立つ。それは【暗黒の使徒】や野次馬達の様に、圧を掛けたり彼等の様を傍観する為ではない。そういった連中の視線から、二人を守る為の布陣である。
「大変な事になったね、二人とも……ここは俺達が援護するよ。ってか、えーと……バーベラさんも、AWO始めたんだね?」
「ま、ま……まさか、ほs……」
ヒイロと星波英雄が同一人物だと察し、名字を口にしようとするバーベラ。しかしギルバートは、それを遮った。
「バーベラ、ストップ!! 彼は、ヒイロだ。君も知っての通り、俺達の親友さ」
そう言って、ギルバートは他のメンバーにも視線を向ける。
「それに【七色の橋】だけでなく、【桃園】やリリィさん、クベラさんにコヨミさんも……まさか、わざわざ来てくれたというのか?」
ギルバートが驚いた様子でそう言うと、集まったメンバー達が笑みを浮かべて頷く。
「はは、そうなるね」
「ジンくんとお兄ちゃんが、親友を放っておく訳にはいかないって言ってました♪」
「貸しイチッスよ、ジルさん?」
「大変でしたね。バーベラさん……で良いでしょうか?」
「もう大丈夫よ。こんな状況で、よく頑張ったわね」
ギルバートは救援に駆け付けてくれた親友と、その仲間達に感謝の念が籠めて一礼する。バーベラも彼等が味方だと察し、これまでの四面楚歌の状態を脱したのだと安心してギルバートの腕に凭れかかって肩の力を抜いた。
「く……っ!!」
その後に「殺せ!!」とでも続きそうな、呻き声を口にした人物。それは【暗黒の使徒】のギルドマスターを務める男、ダリルである。
「くくくっ……ふははははっ!! はあぁーっはっはっはぁ!!」
あ、笑った。
「会いたかったぞ!! 忍者ッ!!」
「ノリが某武士の仮面の御仁みたいでゴザルな」
それは一体、何ハムなんだ……。
さて、もう言わずとも解ると思うが彼等は【暗黒の使徒】。リア充を妬み、リア充を憎み、リア充を滅したいという欲求に従って止まない存在だ。レアアイテムよりもリア充爆発、イベントポイント稼ぎよりリア充爆発、三度の飯よりリア充爆発が最優先事項となる彼等である。
そんな彼等の前に、期せずして現れたのは【七色の橋】が誇る忍者・ジン。有名プレイヤーという評価すら生温く、既に一部では生きた伝説レベルの少年だ。
一般的にはAWO初の和装プレイヤーにして、数々の偉業を成し遂げて来た最高峰のプレイヤー。ユニークスキル保有者と推測され、最高峰のAGIの持ち主と評され、「あの野生のラスボス、どうやったら倒せるの?」と噂される存在である。
しかし一般的でないプレイヤー……まぁその場合、好意的な方面は某【ふぁんくらぶ】なので割愛するが。マイナス方面で言うと、彼は妬ましい存在の筆頭と言っても過言ではない。
目撃される場合、かなりの高確率で恋人との仲睦まじい姿を衆目に晒すバカップル。しかもその恋人が超絶美少女で、中学生とは思えないプロポーションの持ち主で、性格も最高な天使で、その上最高峰のSTRを保有するお姫様。
更に仲間も美男美女揃い、同盟ギルドも顔面高偏差値、生産界のレジェンドと交友関係があり、優良商人と懇意であり、現役アイドルや駆け出し配信者と親しいプレイヤー。トップギルドの主要人物も彼を一目置いており、AWOという一つの世界においてその存在感は計り知れない。
実績的にも、第一回イベントではスコアトップ、第二回イベントでは優勝を決め、第三回イベントで上位入賞。そして第四回イベントでは最強のプレイヤーと目されていたアークを、ヒメノとの愛の力で撃破した名実共に最も最強に近いプレイヤー。
要するにジンの事がいけ好かないと考えるプレイヤーからしたら、ボロ負けしている所が見たいと思わせる存在だったりするのである。
そして、一部の人間が考えるのは……「自分の手でジンを打ち倒したい」という、そんな願望を抱かせるのだ。
そんな願望を抱く……というよりも、ある意味で最もその執念を抱いているプレイヤー。それが、【暗黒の使徒】のギルドマスターであるダリルであった。
「わざわざ、そっちから来てくれるとはな……手間が省けたのは、良い事だ」
そう言うダリルは戦意を滾らせ、今にもジンに襲い掛かりそうな雰囲気である。それは他の【暗黒の使徒】も同様であるが、この場はダリルに任せるべきだと堪えている様子である。
「やはり俺と貴様は、運命の赤い糸で結ばれていたようだな。そうだ、戦う運命にあった!」
「気色悪いので、その糸とやらは断ち切るでゴザルよ……」
「ようやく理解した……貴様の圧倒的な性能に、俺は心奪われた。この気持ち……まさしく愛だッ!!」
「……めっちゃ台詞パクるでゴザルな」
「だが愛を超越すれば、それは憎しみとなる。いき過ぎたリア充が、爆発を誘発するように!!」
「させてるのは自分達では……」
「今日の私は、忍者すら凌駕する存在だッ!!」
「というかその台詞を言いたいが為に、台本を考えてきたでゴザルか?」
…………静寂。
ダリル、視線を逸らす。どうやら本当に、ジンと対峙した時用の台詞を考えて来ていたらしい。でも、某フラッ△ファイターで固めて来やがった。
「そんな道理、俺の無理でこじ開けるッ!!」
「よーしよしよし、まずは謝罪からでゴザルな。グ〇ハムさんに」
「俺が……俺達がッ!! 【暗黒の使徒】だッ!!」
「ガン■ムマイスターなら良いって話じゃないでゴザルよ」
もう、何かグダグダになって来た感じである。
しかし野次馬達は、この後の展開を期待して内心で心を躍らせている。【七色の橋】のジンと、【暗黒の使徒】のダリル。対局な二人による決闘は、さぞ見応えがあるだろうと心を逸らせていた。
それはダリル自身も同様で、いよいよこの時が来たとテンションを上げていた。これまで爆発させようと追い求め、しかしタイミングとか戦術とか色んな要因が絡み合って叶わなかったジンとの決闘。それが今こそ、実現の時だと確信しているのだ。
「ふ、ノリの悪いヤツめ」
「いや、台詞の九割九分九厘をパクった人に言われても」
「まぁ良いだろう!!」
「拙者は良くないでゴザルが」
ジンのツッコミを華麗にスルーし、システム・ウィンドウを展開!! 流れる様な動作で決闘申請タブを開き、相手にジンを選択!! そうして申請ボタンをスターン!! とタップして、ターンエンド!! いるよね、キーボードとかやたらと格好つけて押す人。
そうしてジンの眼前に、システム・ウィンドウがポップアップ。そのウィンドウには『ダリルから決闘の申請を送られました。受理しますか?』という文字が表示されている。
ジンはその文字を見て、フッとため息を吐き……システム・ウィンドウに、人差し指を伸ばす。
『決闘申請が拒否されました』




