16-31 幕間・審査結果発表
夜、就寝する少し前の時間。優の父である修が、娘を伴ってやって来たのは……名井家一家が宿泊する部屋だった。
その用件とは勿論、拓真と優の交際に関してである。
「……拓真君、まだ君を認める訳にはいかない」
キッパリと、修はそう断言した。それは優との交際に賛成していない、という意味合いだ。
そんな修の発言に、優はムッとした表情で父に反論しようと口を開きかけた。しかし優が反論の言葉を口に出すその前に、修が言葉を更に重ねる。
「だから、たまにならうちに遊びにおいで……たまにだからね?」
たまにならと強調しつつも、修が拓真に向けた言葉。そこから汲み取れるのは、優との交際に今はまだ賛成ではない……しかし反対はしていない、という思いだ。そして同時に、これからも拓真と向き合う為の言葉だった。
「はい。ありがとうございます」
拓真はその言葉に込められた、修の本音を受け止めた。そして、必ず彼に認めて貰うという強い意志を込めて、感謝の言葉を口にし頭を下げた。
修はこの旅行で、拓真の事をしっかり見ていた。正式な交際を認めていない内から、不埒な真似はしないだろうか? 優の事を、ちゃんと大切にしているか? 周りの人との接し方は、ちゃんとしているか? 友人や家族を、ちゃんと気にかけているか?
結論から言うと、今回の審査はしっかり合格点である。拓真ならば認めても良いんでは? と、修自身も思っていたりする。
しかし可愛い一人娘を、そう簡単に任せるにはまだ足りない。信頼、実績、あと心の整理をする時間が足りないのだ。ぶっちゃけ最後の要素が一番、圧倒的に足りていないのである。
なので今回の旅行において、修が出した結論……それは『優の恋人に相応しいか、今後も審査させて貰う』というものだった。
それは拓真ならば、これからも審査するに値するという事。そして優と一緒に遊んだりするくらいなら認めるし、我が家に遊びに来る事も認めるという事だ。その間に心の整理をする時間を稼ぎたいのですね、解ります。
「新田さん、どうぞ容赦なく審査してやって下さい」
「こう見えて、根は良い子なので」
「はぁ……まぁ、拓真君ならばそう悪い事にはならんでしょうしね。まだ、審査中ですが」
親同士がそうして談笑し始め、先程までの緊張感は霧散した。あとはもう、穏やかな会話がされるだけである。
そんな中、鏡美が親達に聞こえない様に、小声で拓真に声を掛けながら脇腹を肘で軽く突付く。
「頑張んなよ、拓真。あと、優ちゃん泣かせたら承知しないぞ?」
「解ってるよ、姉さん。頑張るし、泣かせない」
「よろしい。あ、ちなみにラスボスは私だから。可愛い義妹をそう簡単に渡すと思ったら、大間違いだから」
「こちとら実弟なんだけど!? ていうか、姉さんに優さんを取られてたまるか!!」
「優ちゃん、拓真が何かやらかしたりやらかそうとしたら、私に言ってね! シメるから!」
「え? あ、あはは……拓真さんなら、大丈夫だと思いますけど……」
もう小声ですらなく、三人のやり取りは親達にも筒抜けていた。しかし、誰もそれを邪魔しようとはしない。
鏡美が拓真だけでなく、優の事を気遣っている。それに一人っ子の優にとって、彼女の存在は大きいのだろう。優の表情だけでそれが解るので、修としても横やりを入れたくなかった。
「そういえば、姉さんはどうなのさ。前に告白されたって言ってたけど」
「何……っ!?」
「あら、そうなの鏡美?」
「拓真、後で覚えてなさいよ……ってか、断ったに決まってんじゃん。下心見え見えの眼で見て来るし、マジ無かった」
「それは確かにあり得ないね。そうそう、そいつの名前後で教えてね。来年、日野市に入ったらマークしとくから」
「はいはい……え、なんて?」
そんな姉弟のやり取りに、優は微笑ましいなと笑みを零す。ちょっと拓真が凶化しつつある気がするが、何テさんの影響だろうか。
そして優は、ふと思い付いた事を提案してみる事にした。
「鏡美お姉さんは、AWOやらないんですか?」
「え? あー……」
正直、鏡美はゲームに然程興味を抱いていない。それよりもオシャレして、友達と遊ぶ事の方が楽しいと思っていた。拓真がゲームに熱中する事は、否定はしないけれど興味は無かった。
しかし今日、VRMMOをしている弟と未来の義妹。そしてその仲間達の姿を見守っていて、少し……今はまだ、ほんの少しであるが。
「……そ、だね。んー、今日のアレ見て、少しだけ……興味は湧いたかも」
鏡美がそう言うと、優はとても嬉しそうな笑顔をみせた。拓真の姉であり、自分にとっても既にお姉ちゃんと考えている鏡美。彼女も仲間に入るならば、優としてはとても喜ばしい事であった。
「でも、うちにはVRドライバーは一つしかないしね……」
「買おうにも、アレたっかいんでしょ? お小遣いじゃ足りないし、ねぇ……」
そんな二人の会話を聞いて、優はある事を考えた。拓真も鏡美も、優がどうやってAWOを正式に始めたのか……その経緯を知らないのだ。
――恋ちゃんに相談したら、少しでもお値引きとかしてくれたりしないかな?
ちゃんと購入する事を考える真面目な優は、親友(小悪魔)の性格を失念していた。
きっと初音さん家の恋様ならば、当然の様に「値引き? まさか、差し上g……ゴホンゴホン、テスターが増えるのは良い事ですね」くらい言いそうであった。
次回投稿予定日:2023/8/9(幕間)
【こういう展開と悩んだシリーズ第一弾】
「まだ、君を認められない……まぁ、しかしだ。たまには、うちに遊びにでも来なさい。み、認めた訳ではないからな?」
「は、はいっ!」
(お父さん……ツンデレ?)
(ツンデレかな?)
(ツンデレだ……)
(典型的なツンデレだなぁ……)
優と名井家一家は、敏感にツンデレの気配を察知していた。




