表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十六章 冬休み始まりました

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

416/587

16-26 ゲーム参観が終わりました

 親達によるVRMMO参観の中で、偶然にも出会った【忍者ふぁんくらぶ】の面々。これはジンの胃が心配だ……と思っていたのだが、案外そうでもなかった。

「【七色の橋】の皆様のイベント等でのご活躍を応援したりと、()()のファン活動ですね」

「それ以外は、自分達も追い付けるように……と腕を磨いたり、()()に生産活動に勤しんだりでしょうか」

「ですね! こちらのココロはアクセサリー作りが得意で、不足したステータスポイントを結構補えるアイテムを作れます!」

「イ、イズ……そんな、照れるから……別に、それくらい普通だからさ……」

「あとはボクの親友のハヅキちゃんが、武器を作るのが得意ですねー! 使い勝手が良いんですよ~♪」

 かなり配慮して、ボカした発言に留めてくれていた。思いもよらず、ジンの胃に優しかった。これがいわゆる、自重できるファンというヤツだろうか。

 あと、時折"普通"を強調しているのはわざとだろう。自分達の熱量がヤバいレベルなのは、どうやら自覚があったらしい。しかし彼等が普通なら、他の一般プレイヤーは何と称すれば良いのやら。


 なにせアヤメの言う「ご活躍を応援」は、普通のファンとは一線を画す。応援しているのはイベントだけじゃなく、フィールド探索も応援する方針なのだ。だから彼等は、運よくジン達に遭遇できないか? と、常日頃からフィールドを駆け回っている。それも【七色の橋】の行動を予測して、あたりを付けて。下手をしたら、ストーキングと思われても仕方がない。そのくせ案外役に立つのが、またなんとも。

 またコタロウの「腕を磨いたり」も、普通の鍛錬とは大きく異なる。なにせそれは、当然ながら忍者ムーブの腕を磨くという方向性なのだ。戦いでの動きとか、行動時の振る舞いとかガチめなやつだ。特に隠形の上手さは、ぶっちゃけジン以上。


 となれば「生産活動に勤しむ」というのも、本当に普通だろうか? いや、普通であるはずがない。

 お察しの通り、彼等のいう「生産活動」とは正確にはジンのファングッズ製作である。その後のイズナ・ココロ・イナズマの装飾品や武器についての言及から、ジン達がやっていたような生産活動をしてるのか~と親達は思ってくれていた。


 しかしイズナの言うココロの装飾品も、所謂"忍者グッズ"である。具体的に言うと新規加入メンバーの忍装束作りがメインである。しかも性能向上の為の研究に余念がなかったりして、新たな技術を模索しては装備強化に努めているのだった。

 イナズマの言うハヅキの武器だって、≪仕込み杖≫や≪シュリケンシューター≫の様なキワモノである。最もそれが中々に高性能で、実戦に足るどころかトッププレイヤーと渡り合えるだけの性能を有する。特筆すべきは、それを生み出したのが中学三年生の女の子。JC3という所だろう。


 これらの要素を考えるだけでも、彼等が”普通”から斜め上の方向に逸脱しているのは間違いない。もしも親達が本当の事を知れば、確実に「このゲームの”普通”って……?」となるの間違いなし。そうなった日には、普通の定義が狂う、乱れる、砕け散る。


 で、肝心の親達はというと……。


『成程、うちの子達とあまり変わらないんだね』

『どこのギルドも、そうして自給自足しているのかしら?』


 親達、しっかり騙されていた。人聞きが悪い言い方であるが、ばっちり騙されていた。

「各々のギルドの方針で、そのあたりは異なりますね。必要に応じて、自分達で使用する物を製作するのが主な目的でしょうから」

「百人を超える規模のギルドですと、生産専門のサブギルドがあるくらいですし」

「逆に武器や装備・アイテムは買うに任せて、戦闘にだけ集中するギルドもありますよ」

 ハンゾウとサスケ・ハナビが、オーディエンスルームに向けてそう声を掛けた。内容は実に至極真っ当で、普段の彼等との落差が実に激しい。

 ところで、彼等は親達……オーディエンスルームのコメントに回答した。そう、彼等は今、ジン達とレイドを組んでいるのだ。そのおかげで、オーディエンスルームのコメントを見る事が出来ている。


 さて、この[ランドル鉱山]でレイドパーティが組めるのはボス戦のみ。では、ボスはどうなったのだろうか?

 この[ランドル鉱山]のボス部屋に座すのは、エリアボス・エンシェントフェンリル。新たなエリアへの道を阻む最大の難関であり、間違いなく難敵だ。未だに第二エリアに留まるプレイヤー達は、エリアボス突破が出来ずに足踏みしているのである。


 しかしこの場に集っているのは、イベントランカーのトッププレイヤー達。【七色の橋】と【桃園の誓い】に至っては、エクストラボス御用達の武闘派だ。更に熟練プレイヤーのリリィと成長著しいコヨミ、戦闘はまだ不慣れながらも銃と大砲で援護するクベラ……そして、ガチ忍者な【忍者ふぁんくらぶ】主要メンバーがそろっている状況。正直な話、エクストラボスでも裸足で逃げ出すんじゃないですかね? と言いたい所である。

 そんな豪華な布陣を前にして、ボスであるエンシェントフェンリルは……えぇ、お察しの通り。あっさりとフルボッコにされました。フェンリルは泣いていい、むしろエリアボス達の扱いが軽過ぎる。

 ちなみにエリアボスは殴ればダウン値が蓄積され、一定のダメージでダウンする。故に特殊な条件を有するエクストラボス達と比べてしまうと、当然格が下がる存在ではある。


 そして今回は、相手が悪かったというか……相手の背後に居る存在の影響で、エンシェントフェンリルは新年早々の完全敗北を喫したのである。

 具体的に言うと、鬼に金棒モードの和風メイドさんの一撃。最凶銃使いのMPを注入した弾丸。薙刀使いな侍少女の華麗な乱れ斬り。初音家ご令嬢の最終武技発動状態での合成魔法。将軍様の【千変万化】フルスロットルWith【幽鬼】。絶対破壊姫君の全力モードでの【シューティングスター】。

 それに加えて【七色】流ハンマー投げ、何故か絶対に当たる投擲攻撃、鍛え抜かれた抜刀術、実は先端から弾丸が発射できる機構を備えていた番傘、めちゃくちゃ痛そうな音を響かせる格闘少年の拳、そんな彼等をフォローする形で縦横無尽に駆け巡る短槍少年。

 【桃園の誓い】もその力を発揮し、リリィ・コヨミ・クベラもしっかり活躍してみせた。更に【忍者ふぁんくらぶ】も、彼等のフォローを請け負い見事なサポートを見せた。


 しかしやはり、親達にとって一番衝撃的だったのは……最終武技【九尾の狐】発動状態で【変身】し、そこから【分身】しての怒涛の攻撃でトドメを刺した某忍者だろう。

 しかも最後の最後で、()()()()()()()()が発動。【七色の橋】の次は【桃園の誓い】の面々の活躍を……という段階だったのだが、エンシェントフェンリルは思わぬ速さで、そのHPを全て失い消滅したのだった。


 ともあれフェンリルを一気呵成に倒し切ったジン達の戦い振りを見て、観戦ルームは大盛り上がりだ。その勢いたるや、スポーツを観戦する観客の様である。その歓声はコメントという形で届くので、ジン達の感覚では”ニマニマ動画”のコメント弾幕に近いのだが。

 競技選手時代に似て非なるそれを感じたからか、ジンはふとVR界隈で話題になる職業について思い至った。


――eスポーツ……いや、VRのは”VRスポーツ”って言うんだっけ。そういう職業の人は、こういう気持ちなのかな。


―――――――――――――――――――――――――――――――


 テレビゲーム等の電子機器を用いて行うスポーツ全般を、エレクトロニックスポーツと称していた時代。

 フルダイブ型VRの普及によってその幅が広がり、VR版のeスポーツが誕生した。それは既に世界中に広まっており、仮想現実ヴァーチャルリアリティスポーツとして話題となっている。


 最もVR・MMO・RPGは、VRスポーツの競技種目とは見られていない。一般的に()()()()とされるのは、戦闘系ではFPSやMOBAが主流だ。戦闘以外だと、主にカードゲームやボードゲームになる。盛り上がるのはやはり前者なのは、言うに及ばないだろう。


 これらのゲームに比べると、VR・MMO・RPGは競技性が低いと目されている。

 確かにPvPやPvE、GvGといった、競技性のあるプレイングもある。しかしながら、VR・MMOはそれ以外の比重が高い傾向が多い。それは主に素材集めや金稼ぎ、レベリングや生産、売買だ。

 配信者による実況配信プレイとは異なり、プロゲーマーはゲームプレイを通じて賞金や報酬を得る。それを生活の糧とするのだから、金になるかならないか……そこがプロゲーマーが重視するポイントなのは、至極当然だろう。


 とはいえAWOは他のVR・MMO・RPGに比べ、競争性の高いイベントが開催されてきた。

 第一回イベント・始まりの町防衛線であれば、ポイント制スコアアタック。第二回イベント・PvP決闘トーナメントであれば、試合形式での対戦バトル。第三回イベントは生産イベントだったが、テーマに沿った作品による優劣を競うのも競争の一要素だ。そして第四回・GvGサバイバル……これはFPSであったり、MOBAに近いものがある。

 それ以外で競技性を持っている要素は、日常的に行う事が可能な決闘システムだろう。最も決闘システムは他のVR・MMO・RPGにも存在し、AWOならではという要素は現環境では感じられない。強いて言うならば、PACパックの存在の有無くらいか。


 しかしそれは現時点での話であり、ユートピア・クリエイティブは決闘システムのアップデートを考えている。最もそれは、まだ運営内部にしか知られていない話だ。

 この情報がプレイヤーに明かされるのは、次の運営ミーティングの時になる予定であった。


―――――――――――――――――――――――――――――――


「しかし、温泉旅行ですか。楽しそうですね」

「この時期の温泉は気持ちよさそうだよね」

 ココロとイズナがそう言うと、オーディエンスルームの鏡美は「おや?」と首を傾げる。先程は忍者集団ショックでスルーしてしまっていたのだが、モニターに映る二人の少女……どことなく、見覚えがある気がするのだ。

 くノ一姿の二人が、何だかやたらと同じ日野市高校二年三組に在籍するクラスメイトと重なる。というかこれ、もう同一人物だろ。


――同じクラスの、来羅内くらうちさんと浦島うらしまさん……?


 まさかクラスメイトか? と思い立ったが、それをこの場で問う事はしない。そんな事をしたら、彼女達以外の【忍者ふぁんくらぶ】に身バレしてしまうと思ったからだ。

 とにもかくにも、冬休み明けにでも声を掛けてみよう……鏡美はそう思い、口を噤んだのだった。


「それにしても、皆様方は本当に仲が宜しいのですね。【七色の橋】の皆様が私生活でも懇意になさっているのは存じておりましたが、【桃園の誓い】の皆様に、リリィ様やコヨミ様、クベラ様も同様だったとは」

 アヤメはそう言って、柔らかな笑みを浮かべる。特にリリィは現役アイドルである為、内心では本当に意外に感じていた。まさか偶然に偶然が重なった末に、電撃参戦したとは思うまい。

 同時に心の奥底では「羨ましいな……」という思いもあるが、表情や態度にはおくびにも出さない。これが限界突破した崇拝者達を束ねる、ファンクラブ集団の会長である。


 そんなアヤメの心の奥底に沈めて隠した、本音。大人も子供、仲間や親もそれには気付かない。しかし、この中でただ一人だけ……アヤメの本心を察した者がいた。


――あ、アヤメさんちょっと寂しそうだな。


 他人の心の機微に聡い、ハイスペック男子高校生がいる。流石だぜ、元祖忍者。

「アヤメ殿達の事も信頼はしているでゴザルが、【ふぁんくらぶ】は人数も多いでゴザルしな」

 ネット社会の不確定要素もあるし……とは、あえて言わない。それは言わずとも、彼女ならば理解できるだろうと察しているからだ。


 そんなジンの言葉にアヤメはハッとして、慌てて頷いた。

「……!? え、えぇ……それは勿論ですね!! それに何よりも、頭領様から直々に信頼しているというお言葉を頂戴出来ただけでも、十分過ぎます……!!」

 アヤメがそう言うと同時、コタロウ以下【忍者ふぁんくらぶ】の面々は一斉に身体を震わせた。風邪かな? 違うか。

 そして歓喜に打ち震えるジン崇拝者達は無駄口を叩かず、一斉に片膝を付いて頭を垂れる。これはジンの「信頼している」発言を、受け止める為の体勢である。傍から見たら、主君からの命令を受け取る忍者にしか見えない。というか、ほぼそんな感じのアレ。

 そんな一連の流れを見て、ジンは「あれ、僕何かやっちゃいました?」という顔をする。

「恐悦至極……」

 コタロウがそう言えば、他の面々から「それな!!」という心の声が伝わって来る。ジンだけでなく、仲間達も……そして配信を見ている親達にも伝わって来た。


 親達は思う。


――すげーな、この忍者達……いや、本当に凄いのはこんなファンを生み出した仁(君)だな……。


 芸能事務所に勤める敏腕マネージャーは思う。


――もしかして寺野君、天性の男性アイドルの素質があるのでは……?


 中華風ギルドの面々は思う。


――元最前線のプレイヤーまでもが、この状態……恐るべし、ジン君……!!


 女子高生な現役アイドルは思う。


――ジンさんの人柄とご活躍を考えると、ファンが付くのも理解できるけど……このレベルのファンは、現役アイドル(わたしたち)でもそうそう居ないよ……!!


 人気急上昇中の配信者は思う。


――……円卓の騎士(わたしのファン)は、こうならない……よね……?


 【七色の橋】の面々は思う。


――ジン……強く生きるんだ。夜にでも、愚痴は聞くから。

――やれやれ、ジンさんも大変ですね……まぁ、何かあればフォローしましょう。

――これが続くと面倒事にもなりそうですが……しかしジン様なら、うまく彼等をコントロールしそうなのがまたなんとも。

――これがジン兄に迷惑をかけるなら排除するけど、全くそんな気配無いんスよねぇ。

――うーん、ジンさんの人気を考えると、まだファンが増えそうだよね。何人まで行くかな?

――ふふっ……やっぱりこの人達は、見る目があるわ。可愛いイトコが人気なのは嬉しいわねぇ♪

――ジン君、凄いなぁ……流石だね……。

――うんうん、こうなるよね! ジンさんだしね! このままいけば、【ふぁんくらぶ】も同盟関係になりそうだよね。うーん、似合いそうなデザイン案があるんだよなぁ。

――ジンさんの人柄に惹かれた人達、かぁ。それがこうして味方になって、私達を助けてくれたんだよね。そう考えると、ジンさんのカリスマ性も凄いなぁ。

――やっぱりジンさん、凄いや!! こんなに沢山の人を惹き付けるなんて……やっぱり格好いいし、憧れるなぁ……!!

――うーん、総合して「ジンさんは凄い」とか「流石ジンさん」が大半……同情的な感じは、ヒイロさん・レンさんか……シオンさんは「何とかなるだろう」って感じかなぁ。僕も後で、ジンさんのフォローしておこうかな。


 そしてギルドの姫君、最愛のお嫁様は思う。


――ジンくんはやっぱり、素敵です! 格好良くて、優しくて、強いのに……その上更に、こんなに沢山の人に慕われているんですから! もう、本当に最高の旦那様ですっ♪


 で、当の忍者は思う。それはもう、しみじみと。


――どうしてこうなった、いやマジで。


************************************************************


 予定外ふぁんくらぶ出来事さんせんはあったものの、それ以外はさしたる問題はなかった。【忍者ふぁんくらぶ】と別れたジン達は、プレイヤーも観戦者もログアウトする。


 配信を見守っていた親達は、我が子達のVRMMOライフを垣間見て笑顔を浮かべていた。結論として言えば、子供達がAWOをやる事については文句が無いらしい。勿論、学業をしっかりするならばという但し書きが付くのだが……真面目な子供達なので、それについての心配は無用だろう。

 今回の件で見られたのは、仁達の生産活動にダンジョン攻略……そして迫力満点のエリアボス戦と、おまけの【忍者ふぁんくらぶ】だった。最後はちょっとアレだが、総じて「子供達は健全に、和気藹々とゲームを楽しんでいるんだな」という判断に至ったのだ。


 故に、親達は知らない。

 プレイヤーの中にはPKerプレイヤーキラーと呼ばれる、悪質なプレイヤーが居る事……また仁達がスパイの暗躍に巻き込まれ、大騒動の渦中に立たされた事も知らないのだ。

 無論、それを知られれば親達は心配するだろうし、AWOをプレイする事に難色を示すかもしれない。だからこそ、今回は隠密行動をしていた訳で。


 ともあれ親達は満足し、仁達も大した問題はなくVRMMO参観は終わった。そうして外を見れば、日が傾き始める頃合いだった。

「冬場はやっぱり、日が暮れるのが早いな」

 英雄がそう言うと、仁も笑みを浮かべて頷く。

「だね。そうしたら、移動の準備しないと」

「そうだね。今日はあっちの、旅館の方だもんな」

 温泉施設に隣接して建てられたホテルと、逆側にある旅館。ホテルとはまた違った趣きの、古き良き温泉宿といった風情の建物だ。今日はそちら側に泊まる予定なので、荷物を纏めて移動する必要があるのだった。

 最も荷物はホテルスタッフが運んでくれるので、仁達は荷物を纏めてロビーに持っていくだけである。


……


 そうしてホテルのスタッフに感謝の言葉を告げつつ、一行は和風旅館へと移動する。その頃には、日も落ちかけていた。

 待っていた旅館の責任者らしき男性と、いかにもといった女将さん……その二人を筆頭にして、従業員全員での御出迎えだった。

「皆様、お待ちしておりました。この度は、ようこそお越し下さいました」

「ささ、外は寒う御座います。どうぞ中へ」


 従業員総出の丁寧な歓迎は、違和感を微塵も感じさせない。新たに出来た旅館の、新規スタッフとは思えないものだった。

 それもそのはずで、この旅館の従業員は以前からこの地で旅館を営んでいたのだ。寂れたいくつかの温泉旅館を、一つの旅館として纏め上げる。そこで働いていた従業員達も、希望するならば雇い入れる。そうして初音家の助けを借りて、新たに生まれ変わったのがこの旅館という訳である。

 複数の旅館が合併するというのは、通常であれば極めて稀な事態だ。それがあっさりと決定したのは、それを主導したのがファースト・インテリジェンス……しかも社長令息であり、経営企画室長という重要職に就く賢の手腕によるところが大きい。


 そんな旅館の従業員達の内心は、緊張感と歓喜……そして興奮でいっぱいであった。勿論、表情にも態度にも表さないあたり、流石は老舗旅館の従業員といったところか。

 原因は当然、今日迎えた客である。旅館が生まれ変わって最初の客であり、その中には親会社ファースト・インテリジェンスの社長夫妻とご令嬢が居る。当然その事は彼等も把握しており、従業員一同は気合いを入れてこの場に立っていた。


 特に気合いが入っているのは、この旅館の接客を取り纏める女将【間鯨まくじら 島子しまこ】さん(御年六十五)だ。

 彼女は三年前に、長く連れ添った主人に先立たれている。更に近年は客足も少なくなり、経営難で旅館を畳むしかないと諦めつつあった。そこへファースト・インテリジェンスからの、温泉施設建設に伴う温泉旅館再生計画を持ち掛けられ……苦悩の末、その提案に乗る事になったのだ。

 ここから始まる、新たな旅館の第一歩。記念すべき最初の客には、心行くまで満喫して貰いたいと決意している。


――それにしても、これまた賑やかなお客様ですこと。別嬪さんの親御さん達に、別嬪さんのお若い方々。学生さんらも別嬪さんで、可愛らしいお子さん達も別嬪さん。どえらい別嬪さんもおられますし、ほんに華やかですこと。


 仁達に対する女将からの第一印象は、華やかという点に尽きた。初音家をのみならず雰囲気を感じさせる面々を迎え、生まれ変わった温泉旅館は幸先の良いスタートを切れると彼女は感じていた。

 その後の食事や温泉を堪能する姿を見て、その思いは確信へと変わるのだった。

次回投稿予定日:2023/7/30(本編)


ジンの為なら、空気を読んで立ち回る……それが【忍者ふぁんくらぶ】。

そんな【忍者ふぁんくらぶ】によって齎された、各自の心の声は描いていて楽しかったです。

ジン君は忍者ムーブ時も、イチャイチャモード時も筆が捗るのですが、【忍者ふぁんくらぶ】との絡みも筆が乗ります。乗り過ぎてしまいます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 【七色の橋】(ジンとヒメノ)が居る所、何処からともなく現れる【忍者ふぁんくらぶ】。 そして、ジンの一言に感動の【忍者ふぁんくらぶ】のメンバー。唯でさえ崇拝していたのに、益々信者度が爆上がりし…
[良い点] 忍者ふぁんくらぶ GJ部( ̄ー ̄)bグッ! 流石 頭領様が認めし忍一族 親達よ これが忍の技だ!! 【忍法 言の葉飾りの術】 [一言] 頭領様 一生従いていきまする ボス 安らか…
[良い点] 「恐悦至極」 気持ちは分かるが、何か違うw いや、違わないけど、気持ちは分かるけどw 主従じゃないしw でもオフ会で出会ったりしたら 警護隊にでもなりそうw とりあえずめっちゃ笑いまし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ