16-21 幕間・その頃とある場所で3
「なっちゃん! この問題わかんない!」
「心愛ちゃん、本当に数学苦手だねぇ……」
新年が明けて四日が経ち、机に向かって奮闘しているのは【忍者ふぁんくらぶ】の親友コンビ(中三)だ。心愛の家で宿題を広げる二人は、冬休みの宿題をここらで終わらせようとしていた。
その理由は単純で、冬休みが明ける前に運営ミーティング生放送が予定されているのだ。そこで新規実装システムや、イベント予告等があるかもしれない……それを考えたら、今の内に宿題を終わらせなければ! と奮起するのも当然だろう。
ちなみに彼女達の敬愛する某忍者は、年が明ける前に宿題を終わらせて今は温泉旅行中である。
「この公式を当てはめてみると、すぐ解けると思うよ」
「ありがと、なっちゃん。やってみる~」
「私も後で、国語のやつ教えてね。心愛ちゃんの方が、国語得意だもんね」
理数系は名都代の方が得意だが、文系は心愛の方が得意らしい。お互いの不足を補い合えるという事を考慮すると、やはりこの二人は相性が良いのだろう。
そこで、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「は~い! どうぞ~!」
心愛の入室を促す声の後、部屋の扉が開く。姿を見せたのは、明るめの茶髪の少年だ。
「お邪魔します。おやつとジュース持って来たから、休憩したらどうだ? 根を詰め過ぎないようにな」
「兄さん、ありがとう!」
「ありがとうございます、お兄さん」
心愛と那都代の嬉しそうな笑顔を見て、少年……数満もフッと笑みを浮かべる。
「礼ならオヤジに。わざわざ二人の為に、買いに行ってくれたみたいだぞ」
「義ゆ……じゃないや、お父さんが?」
数満の言葉を聞いて、心愛は表情を綻ばせる。が、すぐにその表情が曇った。
「あれ、ボク達の分だけ? 兄さんのは?」
「俺はこれから、クラスの奴と出掛けるから。一昨日言ったろ?」
「あ、そうだった」
そんな会話をする二人に、那都代は口元を緩める。
――すっかり、仲良し兄妹だなぁ。ふふっ、ちょっと羨ましいかも。
「じゃあ俺はそろそろ出掛けっから。羽田さん、悪いけど心愛を宜しくな」
「大丈夫ですよ、お互いに助け合ってますから」
「そーだそーだー! ボクだって、なっちゃんに頼ってばっかじゃないんだぞー!」
「はいはい、そりゃ良かった。ま、二人とも頑張ってな」
そう言ってサイドテーブルにおやつのケーキとジュースを置くと、数満は踵を返した。
「あ、ママが今夜は煮込みハンバーグだって!」
「あいよ、心海さんのメシ食いてーし、晩飯までには帰る」
ひらりと手を振って退室する数満を見送り、心愛は那都代に視線を向けた。
「なっちゃん、良かったねぇ」
「心愛ちゃん……からかうなら、もう装備のメンテしてあげないよ?」
「あー、待って待って! なっちゃんに頼れないのは困るぅ~!」
心愛は割と本気でそう言うが、那都代は本気で言った訳ではない。心愛の必死な様子に苦笑しつつ、那都代は数馬の持って来た差し入れに視線を移した。
「折角だし、一息入れとく?」
「うん、そだね!」
心愛も当然、先程の苦言は親愛から来るツッコミと理解していた。だから那都代の提案に、すぐに肯定して佇まいを直す。
「次の運営ミーティングまでには、終わりそうだねぇ」
「うん、そうだね。今回はどんな内容かな」
休憩に入れば、すぐに話題はゲームの話題に移行する。それだけでも彼女達が、AWOにのめり込んでいるのが良くわかるだろう。
「次のイベントの発表だったら、テンション上がるよねぇ」
「第四回が終わったばっかりだよ……って言いたいけど、二月に一度のペースだもんね。普通に有り得そう」
「次も戦闘系かな。それなら、今考えてる武器を完成させたいな」
「今度はどんなやつ? なっちゃんの武器、どれも面白くてボク大好き!」
人懐っこい笑みと態度で、心愛がそう言う。那都代はこの可愛らしい親友が、男子生徒から大層おモテになるのが良く理解できた。
心愛はありのまま、素のままで人と接する。端的に言えば、裏表の無いタイプの少女である。それでいて思い遣りがあり、弁える所は弁えている。そんな訳で、彼女はクラスメイト達から熱い視線を向けられているのだ。
「≪仕込み杖≫や≪シュリケンシューター≫で、ノウハウが出来たから……今は、射出機能がある鉤爪を試してるんだ」
那都代はどうやら、漫画やアニメに登場する一風変わった武器の製作に熱を込めているらしい。
そんな那都代を見て、心愛も思う。そりゃあクラスの男の子達が惚れちゃうのも、仕方ないよね……と。
那都代は小柄で可愛らしく、中身もお淑やかな少女だ。そのため彼女もまた、男子生徒達に「守ってあげたい」とか「毎日お味噌汁作って欲しい」などと言われているのである。
というわけで彼女達は、クラスでは美少女コンビとして注目を集めている訳だ。しかし、彼女達を口説くのは至難の業である。真っ先に比較される対象が、AWO最速忍者なあの人なのだから。
とはいっても、二人はジンに惚れ込んでいるが、ヒメノのポジションに自分が収まりたいとは露ほども思っていない。むしろジンはヒメノを愛してこそのジンであり、二人の間に割って入るなど神であっても許されないとすら思っている。これ、【忍者ふぁんくらぶ】の共通認識。テストに出ます。
ジンが比較対象に挙がるのは、あくまで「もしも自分に恋人が出来るなら、ジンのような人が良い」という意味である。ハードル? 高いよ。
それはさておき、那都代の発明武器は多岐にわたる。それについて、心愛が満面の笑顔で言葉を紡いだ。
「本当に可能性の塊だよね、【合成鍛冶】!」
【合成鍛冶】……それはAWOに存在する、鍛治職としては喉から手が出る程欲しいスキルだ。
「うん、本当にね。お陰で色々作れるし。でも、姫様の武器も良かったなぁ……あれ、絶対に合成して造った物だよね」
「弓と刀が融合してたもんね! だとしたら、誰かがなっちゃんみたいに【合成鍛冶】を持ってるって事だけど……」
脳裏に浮かぶのは、二人の人物。一人は【七色の橋】が誇る鍛冶職人プレイヤーであり……もう一人は、黒いコートを身に纏った青年(?)だ。
「カノン殿は普通の装備を売っていたり、使っていたもんね……まぁ、性能は普通レベルじゃないけど」
「となると、やっぱりユージン殿だよねぇ」
名前に付ける敬称は、"殿"がデフォ。例外は某忍者と姫様、そして将軍様。これが【忍者ふぁんくらぶ】スタイルである。
「一度、お話を伺ってみたいなぁ」
「生産職の人にとっては、神様みたいな存在だって聞くもんねー」
「うん、一部では【創造神】なんて呼ばれているんだから」
「そこまで言われてるんだ!? いやぁ、凄いねぇ……」
次回投稿予定日:2023/7/15(本編)
うちのJC代表が【七色の橋】なので、こういった普通のJCが出て来ると新鮮ですね!
はて、普通……?
ユージンさんの異名?
ふへへ、わざと出しました←
出自を知りたい方は、気が向いたら【刻印の付与魔導師】もご覧下さいませ!(宣伝ド下手作者)




