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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十六章 冬休み始まりました

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16-18 温泉旅行の二日目でした

 アナザーワールド・オンラインで活動している配信者は、それなりに多い。一時期はアンジェリカ……伊賀星美紀の配信に視聴者が集中したが、現在はほぼ元通りになっている。

 ほぼ……というのは、第四回イベントで活躍したプレイヤーが居たからだ。例えばそれは、【フィオレ・ファミリア】のフィオレがそうだ。

 そしてフリーランスのプレイヤーで、【七色の橋】にゲスト参加した駆け出しの配信者ライバーであるコヨミ。彼女もまた、第四回イベントで知名度を上げたプレイヤーである。


 そんなコヨミには、配信初期から彼女の人柄やひたむきさに惹かれた者達が居る。彼等はコヨミの配信に合わせて時間を作り、彼女の実況配信をリアルタイムで視聴し続けて来た存在だ。今のコヨミがあるのも、その十三人の最古参視聴者(リスナー)が居てこそと言って良いだろう。

 そしてクベラのフレンドである、服職人ネコヒメ……彼女こそ、その最古参の一人であった。


……という話を、朝食の席で聞く左利達。

「そう、そんな面白……愉快な事になっていたのね」

「朱美さん、言い直した意味ないですよそれ」

 少し顔色が悪いのは、単に二日酔いである。昨夜はAWOにもログインしないくらいだったので、相当飲んだのだろう。

「まさかコヨミさんが居るとは思わなかったんだろうね」

「イベントの時は、ゲスト参加でしたしね~。瑠璃さんを見習って私もフリーでやるって決めていますし、それは配信でも明言しましたからね」

 舞子コヨミは常に、【七色の橋】と行動を共にしている訳ではない。配信者として、ソロプレイヤーとして活動している場合は単独行動がメインである。

 最もソロで厳しいダンジョンや、エリアボスが相手の場合はその限りではない。野良パーティーに参加したりもする事も、勿論ある。ここの所【七色の橋】と行動を共にする事が多いのは、第四回イベントやクリスマスパーティー……そしてこの温泉旅行について、相談する機会多かったからだ。


「いやしかし、噂の【円卓の騎士】に会う事になるとはなぁ」

 十也がそう言うと、舞子は苦笑いしか出来ない。彼女もどうやら自分のリスナーの最古参が、【円卓の騎士】と呼ばれているのを認識しているらしい。

「配信の時に使う名前って、アバターネームじゃないんですね。てっきり、アバター名なのかと思っていました」

「アバ名の人も居るとは思うけどね~」

 ちなみにネコヒメことノライヌ以外の【円卓の騎士】については、舞子も会った事が無いはず……との事である。


 ともあれネコヒメと知り合って、フレンド登録を交わす事が出来た訳だ。その人柄についても大分解り、彼女ならばもう少し突っ込んだ話をしても大丈夫だろう……と、【七色の橋】のメンバーでも話し合っている。

「とは言っても、何もかも話すって訳じゃないですけどね。当たり前ですが」

「私達と【桃園】の皆さんで、共同事業として装備販売を行う事……その販売の中枢を担うクベラさんに、手伝ってくれる存在が必要である事。当面はこの程度でしょうか」

 そんな訳で今度、互いの都合が合う時に改めて話をしようと約束している。理由としては姉妹ギルドである【桃園の誓い】の、社会人メンバーを紹介する為だ。その時に、彼等からも賛同が得られれば装備販売の話をする可能性がある……現状は、そのくらいの考えである。

 それを聞いた左利達も、【七色の橋】が認めるならば問題無いだろうと判断。会うのが楽しみだ、と笑うのだった。


************************************************************


 温泉旅行二日目は、基本的に自由時間となる。朝食の後はレジャーエリアで遊ぶなり、露天風呂で昼風呂を楽しむなり各々自由だ。ただし親達からは、昼間からVRをするのは禁じられた。当然と言えば、当然である。

 中高生と大学生メンバーは、やはりレジャーエリアで遊びたいという意見が多かった。昨夜の夜に急遽参加となった瑠璃を、案内したいらしい。社会人組の左利達も、それに付き合うつもりである。

 親達はひとまず露天風呂を堪能した後、マッサージチェアに座ってのんびりしたいらしい。ある意味、温泉の正しい楽しみ方である。

 瑠璃のマネージャーである亜麻音は、仁達の人柄を知って問題無しと判断。瑠璃も常に自分が側に居て監視されるのは嫌だろうと思い、日中は別行動となった。日頃の疲れを癒す為、レジャー施設で遊ぶよりも温泉でゆったりする方針だそうだ。


「瑠璃ちゃん、最初どれ行く? 色々あって、楽しいわよ~!」

「そうですね……お勧めとかありますか?」

「んー、昨日とは逆で、まずは流れる温泉とか行きませんか?」

「あ、良いかもですね。ゆったりしながら、温泉が見られるので」

「学校の人気者に、元陸上界期待の星、初音家のお嬢様……そしてついには、現役アイドル……!! 何なの、このメンツ……!?」

「だ、大丈夫かい? 鏡美さん……」

 主に相手の居ないメンバーが、自然と瑠璃につく形となった。和美・里子・舞子が率先して、瑠璃に付いている形だ。その後を蔵頼と美和、言都也と鏡美が付いて行っている形である。

「いやぁ、若者は眩しいなぁ……」

「ちょっと、やめなさいよ……おじさん臭いわよ」


 ちなみに瑠璃は当然、水着など持って来てはいない。なので売店で水着をレンタルし、それを着用している。白いビキニタイプの水着で、薄っすらと透けるパレオを巻いているのだが……彼女もスタイルが良い方で、高校生の平均よりは上だろう。

 アイドルである瑠璃だが、グラビア等の仕事は断っている。その為、貴重な水着姿だ。彼女のファンがこの場に居れば、狂喜乱舞するだろう。

 最もその場合、瑠璃はもっと大人しい水着にしただろうし、上にラッシュガードや水泳用のショートパンツ等を装備してしまうだろうが。


……


 カップル組はそれぞれで分かれて行動……なのだが隼と愛がスライダーに向かうと、そこには治と朱美が居た。はて、カップル組? カップル成立目前組かな?

「お、今日はそっち試すんッスか?」

 治と朱美が向かうのは、リラックスコースのスライダー。ゆったりのんびりと滑るのを楽しむ、子供にも優しいコースである。

「え、えぇ……昨日、酷い目に逢ったからね」

 ちなみに治は、朱美に「ちょっと付き合って」と言われて引っ張られて来た形だ。ちょっとドギマギしてしまうのも、無理ない事だろう。


 隼と愛は、真ん中のエキサイトコースを選ぶらしい。二人が浮き輪に乗って滑り始めるのを見送って、治と朱美も浮き輪に乗った。

「んじゃ、行くぞ」

「了解」

 軽く力を入れただけで、浮き輪は流れる温泉によって滑り出す。急勾配もヘアピンカーブも無い、平和な道中である。

「絶叫系、苦手なのか?」

 治が思わずそんな事を問い掛けてみれば、朱美は「うっ……」と言葉を詰まらせる。その反応で、全ては明らかである。

「何だって、無理したんだか……」

 治が呆れた様にそう言えば、朱美はポツリと言葉を漏らした。

「それは……あんたと一緒に、滑りたかったから」

 そんな彼女の呟きに、治はドキッとしてしまう。


 朱美が自分の事を、憎からず思っているのは察していた。そうでなくては、こんなに構ってはこないだろうとも思っていた。

 そして本音を言うならば、自分も彼女と同じ事を考えていた。一緒に過ごすならば、彼女と一緒が良いと思っていたのだ。しかし自信が持てずに、気付かないふりをして引き延ばしていた……自分の心と、向き合う事を。

 しかし朱美の言葉を聞いた治は、もう認めるしかなかった。自分はこの美しく聡明で、時々どこか抜けている女性が好きなのだと。


 このまま宙ぶらりんの関係を続けて、愛想を尽かされたくはない。横から他の誰かに掻っ攫われるなど、真っ平御免である。

 腹を括って一歩踏み出そうと、治は朱美に呼び掛ける。

「後で……ちょっと時間貰えるか」

 言い出す時に少し声が上擦ってしまい、治はそれ以降口を噤んだ。しかしその真剣な声色で、朱美は用件が何なのかを薄っすらと察する事が出来た。いつも自信なさげな態度の彼が、ハッキリと意思表示をしたのだ。察するに余りあるだろう。

「……良いわよ」

 その返答の中には、期待の色が込められている。朱美としても、これまで散々アピールして来たのだ。そろそろ決着を付けたいと思っていたし、この旅行は実際良い機会だとも思っていた。


 この曖昧な距離感に終止符を打つまで、あと少し。


************************************************************


 足湯程の深さの浴槽が長く続き、歩きながら足湯を楽しめる歩行浴エリア。手を繋ぎながらそこを歩くのは拓真と優であった。

「大丈夫、歩きにくくない?」

「はい、大丈夫ですよ」

 気遣う拓真の様子に、優は足元だけではなく胸の内も温かいなと思う。彼のこの優しさは付き合う前から変わらず、ずっと優の心を捉えて離さない。

「拓真さん、ずっと変わらないですよね。私の事を凄く気遣ってくれて……そういう所が、拓真さんを好きになったきっかけかもしれないです」

「待って、お願い待って……めちゃくちゃ照れる……」

 優の言葉を受けて、顔を真っ赤に染める拓真。彼はこれまで女の子と付き合うどころか、深く関わった経験が無かった。その為、こういった言葉を向けられ慣れていないのだ。


 照れる拓真の様子に、優は内心で「格好良いけど、可愛いな」なんて思ってしまう。しかし意図的に照れさせて、その様子を楽しむようなつもりは無かった。

「慣れてくれるまでは、あまり言わない方が良いですか?」

 二人で過ごす時間は、互いに心穏やかな一時であって欲しい……優は、そう思っている。だから彼が緊張し過ぎたり、居心地が悪い様な雰囲気にしたくはないのだ。


 そんな優の心遣いに気付いた拓真は、ありがたいなと感謝の念を抱く。気遣い屋なのは優も同様で、拓真や仲間達が安心できる空気感を作ってくれるのだ。

「ありがとう……でも、あまり優さんに甘えるのもね」

「そうですか……」

 優はそう言って、拓真との距離を詰めた。繋いだ手は離さずに、彼の腕にくっ付く様に。少女特有の柔らかな感触を腕に感じて、拓真の心臓は跳ね上がる。

「ゆ、優さん……?」

「……甘えてくれても、良いですよ。私は、嬉しいですから」

 そんな優の意思表示に顔を赤らめつつ、拓真は優が痛くない様にと心掛けながら握り返した。拓真だって当然、彼女に甘えたくないという訳では無いのだ。

「ほ、程々でお願いします……」

 何とか絞り出す様にそう言えば、優は甘い笑顔で「はい♪」と答えるのだった。


……


 そんな二人とは別のルートで、歩行浴を楽しんでいるのは紀子と勝守だ。手を繋いで歩くのだが、二人共緊張でガッチガチである。

「か、勝守さん……は、その……温泉とか、お好き……ですか……?」

「そ、そうだね……うん、頻繁に行くって程じゃないけど、好きだよ」

 紀子の質問に答えて、そこから先の言葉が出ない。そうしてあえなく、会話終了。


 これではいかんと、勝守も自分から話題を振ろうと思考を巡らせる。脳細胞がトップギアだぜ。

「紀子さんは、最後に温泉いったの、いつかな?」

「は、はい……そう、ですね……高校の、修学旅行……で…………はぁ」

 しょぼんとした様子で、溜息を吐く紀子。明らかに気落ちしているので、勝守は慌ててしまう。

「ご、ごめん! 何か変な事聞いちゃったかな!?」

「い、いえ……その、高校時代は……修学旅行とかも、あまり良い……思い出とか、無くて……」

 その様子から、勝守は高校時代等の話は紀子の地雷だと即座に察した。心の中で自分の馬鹿さ加減に猛省しつつ、紀子に何て声を掛けるかを考えて……。


「そうしたら、これから一緒……たくさん旅行とかしよう。それで、楽しい記憶に全部塗り替えていけばいい」

 そう言って勝守は、紀子と繋いだ手に軽く力を込める。これからは自分が側に居るからと、悲しい思いなんてさせないからという思いを込める。

 そんな彼の気持ちは、紀子にもしっかり伝わっていた。

「……はい」

 優しさと思い遣りに溢れた、自分の恋人。彼に喜んで貰いたい、今よりもっと好きになって貰いたい……そんな事を考えて、紀子はどうしたら彼が喜んでくれるかと考え始めた。


************************************************************


 その頃、左利と輝乃……そして十也と千尋が、サウナスペースで談笑していた。

「ぅあっづぃぃ……」

「いや、そりゃそういうもんだし」

 輝乃は暑いのが苦手らしいが、左利がここに来たがっていた為付き合う形で入室していた。そんな輝乃に、千尋が声を掛ける。

「大丈夫ですか、輝乃さん」

「大丈夫ぅ……デトックスにもなるしぃ……」

 強がってみせる輝乃だが、そんな彼女に十也がけらけらと笑う。

「デトックスってお前、そうしたら存在消滅しちまわないか?」

「よーし十也、命が惜しくない訳だな?」

 指を鳴らして、立ち上がる輝乃。彼女は笑顔を浮かべているのだが、目が全然笑っていない。


「待て待て、こんな所でやり合おうとするな。招待してくれた恋さん達にも、迷惑が掛かるだろ。十也も輝乃をからかうなよ」

 極めて真っ当な左利の言葉に、千尋もうんうんと頷く。

「十也って、本当に輝乃さんに対してはそういう所あるわよね。私がAWOに入る前からも、よく話を聞いていたけど……」

 そう言って肩を竦める十也だが、千尋の言葉を聞いて輝乃が意外そうな顔をする。

「ちーちゃんは私の事を、十也から結構聞いてたの?」

「えぇ、それはもう」

「おい待てやめろ」

 千尋が良い笑顔をして肯定するが、十也はその話を聞かせたくないらしい。


「左利さんと良い感じだから、早くくっ付いて幸せにならないかなーとか」

「ほ~?」

「十也、お前ってやつは」

「ちげぇよ、話を捏造すんな! 見ててじれったいから、さっさとくっ付いちまえって言ったんだよ!」

 そう言って顔を逸らす十也だが、顔が赤いのはサウナだけのせいではないだろう。その様子から、真偽の程は明確だ。

 それでも千尋には弱いのか、強く言い返せないらしい。千尋もそれを察しているらしく、十也の様子を見ながらクスクスと笑っている。

 どうやら十也は、千尋には滅法弱いらしい。


************************************************************


 英雄と恋、鳴子と真守は大理石で出来た普通の温泉エリアを訪れていた。白を基調としたオブジェの中央にある円形の浴槽はライトアップされており、どことなくムーディーな雰囲気を演出している。そしてこの風呂はハーブ風呂らしく、湯面にいくつかのハーブが浮かんでいる。

「おー。これはカップルには、お誂え向きの雰囲気かもな」

「確かに」

 今の様な少人数で入るならば、ちょっとゴージャスな感覚を味わえそうである。

「オープンして人が集まったら、そうでもなくなるかもしれませんね」

「はい。恐らくオープン直後は、混雑する事になりそうです」

 それはそれで、面白そうではある。


「そうなると……目安の時間を、明記した方が良いかもしれないな。浸かっている人が動かない場合、楽しみにして来た客が割を食うし」

 英雄は風呂に浸かりながら、そんな案を口にする。結構、真面目にモニターとしてスパリゾートを見ていたらしい。

「それを守らない客も居るかもしれませんが……確かに無いよりは、あった方が良いでしょうね」

 英雄の側でハーブ風呂を堪能しつつ、恋も英雄の意見を肯定する。すると真守からも、その案について思った事を言う。

「その場合、エリアの雰囲気に合った方法で明記したいよな。ただ看板を壁に貼るんじゃ、折角の雰囲気に水を差すだろ。思わず見たくなる物を風呂の側に用意して、視線をそっちに向けたら注意書き……ってな感じでどうかな」

 それは至極最もで、確かにと思わせる発言だった。鳴子は「私の彼、結構有能……?」という顔をしている。


「ワイン風呂なら、酒樽のオブジェに記載する……とかでしょうか」

「そうそう、そういうの! 流石、恋さん」

「良いですね、それ。そうするとこの場所は、雰囲気に合わせるのが難しそうですね……」

「仰る通りです。雰囲気を壊さず、目立つ様にしなければなりませんから」

 しかし案の方向性としては、結構良いだろう。四人はあーでもない、こーでもないと意見交換をしつつ、割と楽しんでいた。


************************************************************


 ジェットバスエリアには仁と姫乃、音也と千夜が揃って訪れていた。四人はゆったりと湯に浸かりながら、噴出する泡で身体をほぐしている。

「あぁ~、気持ちいいねぇ~」

 脱力してジェットバスを堪能する千夜は、表情もゆるゆるになっている。そんな千夜に笑顔を向けつつ、音也も「そうだね」と頷く。

「肩と腰に来てたから、ほんと助かるぅ~」

「千夜ちゃん、【桃園】の皆さんの服について考えていましたからねぇ」

 姫乃はゆったりしている千夜を見て、微笑みを浮かべる。ここの所、彼女が頑張っていた事を知っているのだ。


 というのも、【七色の橋】のメンバーが第四回イベントで公にした新装備。そのデザインを見た【桃園の誓い】のメンバーが、自分達も装備を更新しようかという話題になったのだ。

 装備の強化は進めて来ており、初期メンバーは最大強化済み。新規メンバーも最大強化までもう少し、といった所である。しかしながら、装備のデザイン自体はずっと同じ物だった。

 服飾について詳しい輝乃や朱美だったが、デザインについて相談したのはやはり千夜だった。姉妹ギルドの為なら! と、千夜も快諾してデザインを考えていたのだが……やはり人数が多いので、それなりに疲労が溜まっているらしい。


「千夜さんのデザインだし、実物を見るのが楽しみだな」

 仁がそう言うと、千夜はにへらと笑ってみせる。

「ふへへ、楽しみにしてて下さいねぇ~」

 いつになく緩んでいる千夜の様子に、仁の表情も綻んだ。普段は快活さで雰囲気を盛り上げてくれる千夜が、初めて見せる緩み切った様子。こういった仲間の新たな一面を知る事ができて、旅行に来て良かったと改めて思う。

 そこで姫乃に視線を向ければ、彼女もまったりとジェットバスを楽しんでいる。気持ち良さげに目を細めている最愛の恋人の様子は、微笑ましく愛おしい。


 そんな仁の様子に、音也が笑みを浮かべて声を掛けた。

「仁さんが姫乃さんを見る時って、凄く優しい目をしますよね」

 そう言われた仁だが、鏡等に映った時か写真等を見なければ解らない。だから、その言葉に「そうかな?」と返すしか無い。

 と言うのも仁としては、自分達が普通のありふれたカップルだと思っているのだ。その為、そんなに言われるほどでは無いという認識なのである。


 不思議そうな仁の様子に、音也は察した……仁は無自覚なのだろう、と。

「えぇ、凄くです。愛情が篭ってると言うか、甘さたっぷりと言うか……」

 音也にすらそう言われると、そんなに甘いのかなと仁も思ってしまう。しかし姫乃がこちらを見て、ふにゃりとした笑顔を浮かべている。そうすると、仁も微笑み返すしか無い。

「それです、それ」

「いつもはキリッとしてるか優しい顔なんですけど、姫のん見る時は本当に甘~いですよねぇ~」

 幼馴染カップルの二人にまでそう言われてしまっては、仁も自分達はそんなに甘々なのか……と考えざるを得なかった。

次回投稿予定日:2023/7/8(幕間)


余談ですが仁君は、自分と姫乃ちゃんは「どこにでもいるカップル」だと思っています。

右足に障害を残した元・陸上界期待の星と、生まれつき全盲の美少女のカップルですが、「ありふれたカップル」だと思っております。

世界最速忍者と一撃必殺姫様にして、当小説の製糖最大手カップルなのですが、彼は「平凡なカップル」だと思っちゃっているんです。


皆様からのツッコミをお待ちしております←

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― 新着の感想 ―
[一言] この温泉施設 七色御用達と銘打てば 忽ち 人気爆上がりになるね( ̄ー ̄)bグッ! 忍♡姫が 普通のカップル………そだねー 極普通の恋愛製造機(㈴カップル)だね
[良い点] 現役アイドルの激レア水着姿なんだろうけど、奇跡的に不躾な視線とかなさそうなんよw 某所にて「先生、砂場がなぜか全部砂糖に変わってます!あと子供達が『治せんせーがんばえー!』って急に!!」…
[一言] う〜ん、平凡なカップルなんか存在しないのでは? だってどのカップルも互いに特別なんだから(ただし愛がある場合) しかし、リアルでこうだとゲームないでもイチャイチャが拡大しそうだなぁ
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