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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十五章 第四回イベントに参加しました・弐

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366/587

15-46 距離を縮める呼び方でした

【忍者ムーブ始めました】をご閲覧下さる皆様へ。


本日の投稿で、本作も三周年を迎える事となりました。

ここまで継続して執筆を続けて来れたのも、皆様から頂いた感想・評価・ブックマークのお陰です。


四年目も皆様に楽しんで頂ける様、精進して参りたいと思っております。

今後共、ジン達の物語にお付き合い頂ければ幸いです。


それでは四年目の一発目、どうぞお楽しみ下さい。







あ、これ置いておきます。

| ∧ ∧

|(・ω・)

|' _つ つ

|―u 【極糖警報】 コトッ

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 間もなく、クリスマスパーティーが終わりを迎えようとする頃。恐らく最後となるテーブル移動のタイミングで、ハヤテとアイネが訪れたのは【白狼の集い】のホスト席だった。

「どもー! こちら、相席いいッスか?」

「やぁ、君達か! 勿論だとも、どうぞ」

 快く、ハヤテ達を迎え入れたヒューズ。彼の隣には、アリアスが控えている。


「これ、お二人に! 残り少ない寿司もあるッスよー」

「お二人は、ここから動けませんでしたよね? ですので折角ですから、お持ちしました♪」

 他にも、プレート皿には豪華な食事の数々が盛られていた。それを見て、ヒューズとアリアスは目元を和らげて二人に感謝する。

「済まないな、気を遣ってくれてありがとう」

「ありがたいわ、二人ともありがとう!」


 ヒューズはイベント前の段階で、彼等ともやり取りをして人柄を知っていた。しかしアリアスは、グランの迷惑行為の際に謝罪の為に対話した……という話を聞いただけだった。

 というのも、【白狼の集い】には女性が三人しか居ない。なので女性メンバーが危険な目に遭わないようにと、周りの仲間達が配慮してくれるのだ。

 それは有り難いが、当事者にならない場合が多いのは難点と言っていいだろう。


 それはさて置き、ハヤテとアイネ……改めて彼等と語り合うと、その人柄の良さが解る。

 ハヤテは明るい空気で場を和ませ、会話を盛り上げる様なムードメーカーといった具合。アイネは淑やかさを滲ませつつ、周りを気遣い飲み物を用意したり摘む物を取り分けたりと気配り上手な大和撫子といった雰囲気だ。

 そういった良い部分が見えて、尚更グランを発端とした騒動について申し訳なく思ってしまう。


――この二人は掲示板なんかで、最凶カップルなんて言われているけど……こうして話していると、普通の子達なのよね。


「こうして話していると、本当に【七色の橋】って素敵なギルドよね。ふふ、ファンになっちゃいそうかも」

「そうですか? ありがとうございます。私も【白狼の集い】は、素敵なギルドだと思います」

 社交辞令まで言える女子中学生、そんな風にアリアスは思ったが……それは大きな間違いだ。

「例の件の時にヒューズさんは、年若い私達にも誠意を持って接して下さったでしょう? あの姿を見てヒューズさんの率いる【白狼の集い】は、信頼出来るギルドだって皆で話し合ったんです」

 アイネがそう言って、柔らかな微笑みを見せる。その言葉を受けて、アリアスは目を見開いてしまった。


 彼女が言っているのは、先程も脳裏に過ぎったグランの迷惑行為の時の事。その時に何があったかを、ギルドメンバー全員がヒューズから聞いていた。だがグランがやらかした内容を聞いて、それについて彼等に土下座して謝罪し事無きを得た……といった程度だったのだ。

 彼等の信頼を勝ち取った、ヒューズの誠実な対応。それを聞いてアリアスは、彼に対して更に強い信頼と思慕の情を深める。同時にハヤテとアイネ……そして【七色の橋】の面々に対する、興味と感謝の思いが強くなる。


「ありがとう、アイネさん。そう言って貰えると、とてもありがたく思うよ。ははっ、今後も気を引き締めて、ギルドを纏め上げていかないとな」

 信頼には、結果で応える。そんなニュアンスを含ませた言葉を口にしたヒューズは、頼り甲斐を感じさせる凛々しい表情で笑っていた。

 そんなヒューズの顔を横目で見て、アリアスは頬が熱を帯びていくのを自覚する。


――グランの件があってから、ヒューズさんが更に格好良くなってる気が……。


 そんな事を考えていると、アリアスはふと視線を感じる。それは、正面に座るアイネからの視線だった。

「アリアスさんとお話するのは初めてですが、とても話しやすい方で嬉しいです。あの、フレンド登録をお願いしても宜しいでしょうか?」

「え? えぇ、勿論! 喜んで!」

 するとアイネが席を立ち、アリアスの近くに歩み寄る。


 わざわざ、近くに来なくてもフレンド登録は出来るのに……と不思議に思いつつ、アリアスは立ち上がってシステム・ウィンドウを開く。アイネも同じ様にシステム・ウィンドウを開きつつ……声量を極力抑えて、アリアスに問い掛けた。

「私の思い違いでしたら申し訳ないのですが……ヒューズさんは素敵な男性ですし、そうだったりしますか?」

 そう囁くアイネの言葉の内容に、アリアスは更に顔を火照らせる。

「私でよろしければ、お力になれたらと思いました。気軽にお声を掛けて下さいね」

 チラリとヒューズの方に視線を向ければ、ハヤテがやたらと明るい様子でヒューズとフレンド登録を交わしていた。チラリとこちらに視線を向けたので、彼にも気付かれたのだろうと察するに余りある。


――そんなに、解りやすかったかしら……? でも、純粋に応援してくれているのは解るわ……。


 アリアスが「今度、メッセージするわね」と返せば、アイネは「はい、喜んで!」と満面の笑みで応える。そんな笑顔に、アリアスは思った……社交辞令じゃなく、本気でファンになってしまったなと。


************************************************************


 その頃、【七色の橋】のホスト席。ヒイロとレンは、所用を終えて戻ったシオンと同行してきたダイスを迎えて談笑している。同席するのは、【聖光の騎士団】のヒラメンバーだ。

「レンさんとシオンさんがレイドに参加しなくなって、寂しかったですよ」

「だなぁ。優秀な魔法職と、頼れる盾職だったもんなぁ」

 悪意はないのだろうが、彼等の願望が透けて見える。恐らく彼等の本音は、【聖光の騎士団】に所属して欲しかったというものだろう。


 彼等も普段は気を引き締めて、上層部の意向通りに振る舞うメンバーなのだろう。でなければ、今回のパーティーに出席は出来まい。

 その上でこういった発言が漏れ出たのは、やはり二人の人気度が高いという事の証明か。


 とはいえ、ヒイロとしてもダイスとしても面白くはない。方や溺愛しているパートナー、方やようやく恋人関係に至れたばかりの間柄なのだ。

 しかし彼等はそんな内心を押し殺し、にこやかな表情で彼等に言葉を返す。

「優秀なギルメン候補を掻っ攫って、申し訳ない限りです。当時の俺は、妹とレンが親友になってくれれば……と思っての事だったんですよね」

「シオンはレンさんのメイドだし、まぁ一緒だもんな」

 二人の言葉に、【聖光の騎士団】メンバー二人はバツが悪そうな表情になった。流石に、先程の言葉はまずかったかと反省した様だ。

「いや、こちらの失言だった。申し訳ないです」

「失礼しました、本当に」

 そんな二人の様子を見て、ヒイロは矛を収めておく気になった。悪気は無かったのだろうし、パーティーの雰囲気で浮かれてしまった面もあるだろう。


「お気になさらないで下さい、お二人とも。今後、ギルド間の交流も増える事でしょうしね。仲良くして頂ければ、嬉しいですよ」

 そう言って、柔らかく微笑みながら許しの言葉を口にするヒイロ。自分達よりも年下の彼だが、ずっと年上の大人の様に感じられてしまった。

 そんなヒイロが率いるからこそ、【七色の橋】はここまで大躍進を続けて来たんだろう。彼等は自然と、そんな風に納得してしまった。


 それでもやはり気まずかったのか、二人は話もそこそこに他のテーブルへと移動していった。残り少ない時間ではあるが、それでもこのまま居座る気にはなれなかったのだろう。

 去り際にはレンやシオンだけではなく、ヒイロとダイスにもしっかりと挨拶をしていった。その態度を見る限り、本気で反省しているのだろう。


「流石はヒイロ君だな、格好良かったよ」

「楽しい楽しいパーティーですし、事を荒立てるのもまずいですから。それに、話せば解る人達だとは思いましたしね」

 ダイスの賞賛に、肩を竦めながら応えるヒイロ。その横では、レンが涼しい顔でヒイロのグラスに飲み物を注いでいる。甲斐甲斐しい姿に、ダイスは目尻を下げてしまう。

「ヒイロさん、どうぞ」

「ありがとう、レン」

 既に完成されている信頼関係は、まるで長年連れ添ってきた夫婦の様だ。


――ジン君とヒメノさんに目を奪われがちだが、この二人も相当なハイスペックカップルなんだよな。


 その感想は、容姿等の外見に限ったものではない。かといって、家柄や立場によるものでもない。ダイスの感想の本質は、二人の内面に由来する。

 ジンとヒメノは仲睦まじさも、ゲーム内での活躍ぶりもあって注目の的だ。しかし二人があそこまで大暴れ出来るのは、ヒイロとレンというトップが居るからだろう。それはハヤテとアイネ、ヒビキとセンヤにも言えることではないか。

 いざという時は、仲間の為に矢面に立てる度量。仲間を支え、方針を定める判断力。仲間達が安心していられるように、どっしりと構える胆力。そのどれを取っても、彼等は他のギルドのトップに見劣りしない。それも、高校一年生と中学二年生の二人がだ。末恐ろしいとすら思ってしまう。

 そう考えるとこの二人は、他の子達とは別のベクトルで最高のカップルなんじゃないか? と、ダイスはしみじみ思う。


 同時にこれからも彼等を支えていき……そんな二人を陰に日向に支え続ける、シオンを自分が支えていきたい。そう決意を新たにして、シオンに視線を向ける。

 ダイスの内心を察したのか、シオンは柔らかく微笑んで彼を見ていた。その視線には今までよりも熱が篭もっており、同時に感謝の念も感じ取れる。


 そんな二人の、視線の応酬。ヒイロとレンは、その理由を正確に察している。だって、明らかに雰囲気が違うし。

 しかしながら、シオンとダイスの事だ。今この場で報告すれば、色々と大事になるから控えているに違いない。きっとパーティーが終わってからか、もしくは日を改めて正式に報告をしてくれる事だろう。

 自分達はそれを急かさず、二人に任せて待つべきだ。大切な人達の為ならば、決して苦でも何でもない。

 互いに言葉を交わさなくても、考えている事は解っている。ヒイロはレンをよく理解し、そしてレンはヒイロをよく理解している。だからこその、無言の意思疎通である。


 しかしながら、それだけで完結する訳ではない。言葉にしなくてはならない事も、決して少なくは無いのだ。ヒイロはそれを理解しているし、だからこそレンに声を掛ける。

「レン、明日は予定通りで大丈夫かな」

「! はい、クリスマスデートのお約束ですね」

 クリスマス当日、デートをする約束は前々からしていた。レンは勿論それを楽しみにしていたし、予定もしっかりと頭に入っている。

「駅前に十時集合、ですね」

「うん。楽しみで眠れなくならないか、心配だな」

「それは私がですか? それとも、ヒイロさん?」

「どっちも」

 ヒイロがおどけたようにそう返すが、レンは柔らかな笑みを深くするだけ。


 ヒイロの提案したクリスマスデートは、普段のデートよりも随分と熱量が込められている。レンはそれを彼の言葉や声色、態度や行動から感じ取っていた。

 初めて一緒に過ごすクリスマスだからでは? と思う気持ちもあるが、レンはそれ以上を期待してしまう。明日のデートに向けて、彼から感じ取れる熱が……想いを告げてくれた、あの初めてのデートの時を思い出させるから。


************************************************************


 宴もたけなわと言うに相応しい、盛り上がるパーティー会場。ずっと他のギルドメンバーとの交流に尽力していた、ジンとヒメノ。二人はPACパック二人とコンを伴い、パーティー終了前に交流する相手を探そうとしていた。


 そんな二人に、声を掛ける者が居た。

「ジン君、ヒメノ君。良かったら一緒にどうかな?」

 穏やかながら、低く重厚感のある声色。それは二人にとって、慣れ親しんだ人物のものだ。声が掛けられた方向に視線を向ければ、そこにはトナカイ姿の男性が居た。

 その隣には、オーソドックスな女性向けのサンタ衣装で身を包んだ絶世の美女。彼女も二人を招き入れる様に、柔らかな微笑みで来訪を待っている。

「最後くらい、リラックスしたらどうだい。今日は随分と頑張っていたみたいだしね」

 男性……ユージンがそう言うと、彼の隣に座るケリィも笑みを深めて頷いた。

「まぁ、私達がお二人と話したいだけなんですけれども」

「そうとも言う」

 ユージンも、ケリィの言葉を否定する事は無かった。純粋に、二人と話をしたいらしい。


「じゃあ、御言葉に甘える?」

「ふふっ、ですね♪」

 ジンとヒメノは頷き合い、二人のお誘いに応じる事にする。

「いらっしゃい、好きに座ってくれていいよ。リン君とヒナ君もね」

「あら、あなたが噂のコンちゃんですね。初めまして、私はケリィと申します」

「コンッ!!」

 ジン達がテーブルに付くと、二人は温かい空気を醸し出しながら迎えてくれる。そんな二人の空気は、どことなく父や母を思い起こさせるものだった。

「熱心に交流していたみたいだね、お疲れ様」

「今後の為にも、頑張ろうかって。僕らは、良くも悪くも目立ちますから」


 これまでの【七色の橋】は、どちらかというとオープンなギルドとは認識されていなかった。それは彼等が身内で結成したギルドであり、若年層が半数以上を占める事に起因する。

 ゲームといった、現実とは違う空間で起きるトラブルや悪意から身を守る……そういった方針で、これまで歩んで来たのは否定できない。


 しかしそういった方針が、件の不正疑惑で騒がれる原因になったのではないか? ジン達はそう考えたのだ。

 最も後ろ暗い事は何もしていないし、真っ当な道を歩んで来たという自負がある。だからこそ今回は理解を得られたギルドの面々の力を借り、スパイ包囲網を形成して追い詰めたのだ。


 だが、もしもここでギルバートやライデンとの繋がりがなかったら?

 アーサーやハルと、交友関係を構築できていなかったら?

 【遥かなる旅路】や【白狼の集い】の理解が得られていなかったら?

 その場合は、もっと苦しい状況下に立たされていたかもしれない。それは、ジン達も理解している。


 閉鎖的なギルドという印象が、不正疑惑の拡散に繋がった。そしてまだ、その種火が燻っている可能性は否定出来ない。

「だから、僕達もこれまでのやり方を変える事を覚えないといけないなって」

「はい、皆でそれについて話し合ったんです」

 ジンとヒメノの言葉に、ケリィはふむと一つ頷いた。

「今回の件で、皆さんは被害者の立ち位置でした。それでも、自分達にも原因はあると考えたのですね?」

「まぁ原因というか、至らなかった点でしょうかね」

 ジンがそう言うと、ケリィはふっと笑顔を浮かべる。

「その考え方は、非常に素晴らしいものです。その為に努力する所もまた、私は応援したいと思います」

 そこまで言って、ケリィは「でも」と言葉を続ける。

「私としては、焦らない様にとも思いますよ。急激な変化はあらぬ憶測を生む事もありますし、何より皆さんの負担にもなります。慌てず、着実に進めて行くとよろしいのでは? 何よりこのゲームを、楽しむ事を置き去りにしない事が大切だと思いますよ」

 そう言い切って、ケリィは「これは私見ですけどね」と付け加えた。それは、ケリィからのアドバイスだ。


「ケリィさん……ありがとうございます」

 彼女の忠告は、ジン達を思っての事だ。付き合いは浅いものの、自分達に心を砕いてくれている……それが解るから、ジンは素直に彼女のアドバイスを受け止める。

「私からも、ありがとうございます。それに【比翼連理これ】の事も、私達はケリィさんに感謝しています」

 あの日、ケリィがジンとヒメノに教えてくれたスキル。この力が無かったら、ジンとヒメノは倒されていたかもしれない。

 そんな二人の言葉をケリィは受け止め、そして柔らかな表情に戻る。

「いえ、こちらこそ。何だか、お節介ばかりで」


……


 真剣な話に区切りが付くと、気を取り直してジン達は他愛のない会話に興じる。先程までの雰囲気は既に無く、和やかな空気に包まれていた。

「ヒメノさんなら、白や赤系統だけでなく黒も似合いそうですよ」

「本当ですか? ケリィさんがそう仰るなら、今度試してみようかと思います!」

「ふふっ♪ 私でよろしければ、いつでもご相談に乗りますよ」

「えへへ、ありがとうございます♪」

 すっかり、ヒメノとケリィは意気投合していた。先程から、お洒落談義に花を咲かせている。


 ジンとユージンは、そんな二人に笑みを浮かべつつ食事を堪能していた。とはいっても、会話が無いわけではない。

「ジン君は、女性のこういった会話に免疫があるタイプかい?」

「母さんが、叔母さん……ハヤテや姉さんのお母さんと、よくそういった話をしたり買い物に行ったりしているのを見ていますからねぇ」

 ジン達の母親姉妹は仲が良いらしく、年に一度は必ず集まりショッピングに出掛けるのだ。その時、集まる頻度が高いのが寺野家だった。理由はジンの母親が、一番上の姉だから。


「それに女性がお洒落に気を使うのは、自分だけでなくパートナーや子供の為でもあるって知ってますから」

「ジン君、マジで歳を誤魔化してないかい? いや、僕が言えた台詞では無いんだけども」

 本当に高校一年生? と思ってしまうくらい、ジンの発言は老成していた。

「……親の教育の賜物、ということで」

 実際にそういった考えが染み付いたのは、母親達から言われ続けていたからである。実際に母親がきちんとした身なりで、父やジンの為に振る舞う姿を見てきたという事もあるが。彼の母親は、有言実行の母なのだ。

 そして父はそんな母を尊重し、休日に共に買い物に出たりする。熟年夫婦にしては、実に仲睦まじいのだ。

 よってジンの言う親の教育の賜物というのは、事実だったりする。


「良いご両親なんだね」

「えぇ、とても」

 ジンが素直にそう言うと、ケリィとのお洒落談義に一区切りついたヒメノも会話に加わる。

「私も、常日頃から可愛がって貰っています♪」

「父さんと母さん、娘も欲しかったらしいからねぇ」

 ヒメノが寺野家に訪れれば、両親はいつだって両手を上げての歓迎ムード。ヒメノが嫌がらない様に気を配りつつ、構いたがるのだ。

「最近、僕よりヒメの方に構う事が増えている気がする」

「んー、でもそれはジンさんを深く愛していらっしゃるからだと思いますよ?」

「まぁね、その自覚はあるし感謝しているよ」


 そんな風に話していると、ケリィは気になっていた事を口にした。

「ヒメノさんの話し方は、とても丁寧で上品ですね。そちらも、ご両親の教育でしょうか?」

 言われたヒメノは、目を丸くした。どうやら自覚が無かったのか、そう言われてとても驚いている様だ。

「確かにヒメノ君は、同級生のメンバー以外には敬語だよね」

 実際に恋人であるジンだけでなく、家族であるヒイロにも敬語がデフォルトだ。むしろ当初はレン達にも敬語だった事を考えると、彼女達が特別枠なのかもしれない。いや、ヒナとコンも例外か。


 ユージンとケリィにそう言われて、ヒメノはジンに視線を向ける。ジンはジンで、確かに……と考えていた。

 家族であるヒイロですら、敬語を使うのだ。ジンとの会話が敬語でも、決して不思議とは思わない。むしろヒメノらしさもあり、落ち着くまである。

 だがヒメノは、ジンが自分の口調で不満を覚えたのでは? と不安になってしまう。


「あ、あの……ジンさん? その、決して心を許してないとか、そういうのじゃないんです」

 戸惑い気味……というよりは狼狽えた様子で、そんな事を言い出すヒメノ。どうやらジンに対しても敬語である事を、気にしたらしい。

 しかしそれを言い出したら、彼女がヒイロや両親にも敬語である事を知っている。壁を作られているなどと、思った事は一度も無い。

「そこについては全然、疑ってないよ。ご家族にも敬語を使うの、知ってるしね。大丈夫だよ、ヒメ」

 ジンはあっけらかんとヒメノの事を肯定し、安心させる様に穏やかに語り掛ける。そんなジンの返答に、ヒメノも安心したのか表情が緩んだ。

 しかし他人にそう言われたからか、ヒメノは少し心にしこりの様なものが残った気分になってしまう。


 そんなヒメノの内心を察したのか、ケリィはある事を思い付いた。

「ヒメノさん、よろしいですか? 少々お耳を……」

「え? あ、はい……」

 少しばかり不安そうな色を表情に残したヒメノは、席を立ってケリィに近寄った。ケリィが小声でヒメノに何事かを耳打ちすると、ヒメノの顔が赤く色づいていくのが解った。

「敬語を崩す事に抵抗があるのなら……」

「え!? えっと……さ、流石にそれは……恥ずかしいというか、なんと言いますか……」

「そうですか? では……」

 小声で、ヒソヒソと話す二人。その様子が気になるジンではあるのだが、ケリィという女性に対しては信頼感を覚えている。先のアドバイスの事もあるし、決して悪いようにはしないだろう。

 ヒメノにしては珍しく、狼狽えた様子を見せた。それもジンの事で、だ。恐らくケリィは、そんなヒメノの事を気遣って何やら行動している様に思える。

 まぁ、何故ヒメノが赤面したのか? それについては、サッパリなのだが。


 二人の密談にはそう長い時間が費やされる事はなく、ヒメノが顔を赤く染めつつもジンの隣の席に帰還した。ケリィは何やらニコニコと、とても満足そうな表情だ。ユージンはそんなケリィを横目に見つつ、少しばかり呆れた様に苦笑している。

 やはり気になるのは、隣で何やらモジモジしているヒメノだ。時折ジンにチラリと視線を流しては、恥ずかしそうに俯いてまたモジモジし出す。


 何事かと思いつつも、ジンは何となく察している。ケリィに何かアドバイスを貰い、それを行動に移すつもりなのだろう。ヒメノとの付き合いも長く深くなっているので、それは自然に感じ取れた。

 しかしながらヒメノの行動を待って、受け身のままでいるのはよろしくない。ジンはそう思って、ヒメノの頭に手を伸ばした。

「ヒメ、大丈夫?」

 努めて穏やかな声色で、労るように声を掛ける。そしてヒメノが安心してくれる様にと、丁寧に優しく彼女の髪を撫でる。そんなジンの行動に、ヒメノがピクリと反応を見せた。


 少しだけ顔を上げたヒメノだが、目元が前髪で隠れて見えない。ジンの方が背が高いので、角度的に見えないのだ。しかし、頬から耳までが未だに赤く染まっているのは視認できた。

「が……がんばり、ます……」

 何を頑張るんだろう? と思ったのだが、それを口に出して良いものか判断に迷う所だ。そうこう考えを巡らせていると、ヒメノがその手をテーブルの上に伸ばす。その白く細い指の行き先は、皿の上に盛られたフライドポテトだった。


――頑張るとは、もしかして……いわゆる「あーん」なのかな?


 しかしながら、恥ずかしながら、既にそのイベントは実行済みである。まぁ、公衆の面前でやるという事に羞恥心を抱いている可能性は否めないが。

 ともあれ、ヒメノがそれで満足するならば問題無い。むしろ今日は交流優先で、ヒメノとの触れ合いも抑え気味だったので望む所である。

 そんなジンの余裕は、次のヒメノのアクションによって粉砕される。


「あ、あーん……です……ジ、ジン……くん」


 ジンの耳に届いた、ヒメノのその言葉。字面だけで見れば何でもないような一言だが、彼にとってはそうではなかった。

 これが日頃のいちゃいちゃの中で、あーんだけだったならば容易く受け止められただろう。しかしながら、今のヒメノは日頃の彼女ではない。

 不安と羞恥が交わった結果、紅潮した頬。ジンに対する想いで、潤んだ瞳。しかも頭の位置の都合上、自然と上目遣いになるのは必然。更に今の彼女が身に纏っているのは、女性と少女の間を行ったり来たりする年頃向けの少し背伸びした感のあるサンタ衣装。何よりたどたどしくも万感の想いを込められた、今までとは異なる呼び方。


 ジンがヒメノに対する呼び方を変えた事はあったが、ヒメノは出会ったその場での「忍者さん」呼び以降はずっと「ジンさん」だった。

 それが二人にとっては当たり前になっていたし、それで構わないと思っていた……しかし、今その当たり前は覆されたのだ。


 それはある種、ジンにとっては衝撃だった。表情と仕草、そして震えた声と呼び方……それらのコンボによる破壊力を表現するならば、やはり一撃必殺だろう。

 頬が熱を持ち、それが顔全体に広がっていくのを実感する。あまりの衝撃に、ジンも完全にオーバーヒート気味だ。

「その……あーん、ですよ、ジン……くん」

 追撃が来た。これはつらい。しあわせでつらい。

「あ、あーん」

 オーバーヒートしたので、ジンもヒメノに言われるがままの状態になった。添い寝の時にもあったね、こういうの。

 手ずからジンにポテトを食べさせて、ヒメノは少し安心したらしい。目元が緩み、口元がわずかに弧を描いた。普段のふにゃりとした笑顔とは少々異なるが、その笑顔もとても愛らしい。


 ちなみになのだが、この一連のやり取り……会場中のプレイヤー達の注目を浴びている。ヒメノが顔を赤くしてジンの隣に座った辺りから、ただならぬ雰囲気に気付いた者達。彼等が野次馬根性で二人の様子を見始めた事で、周囲のプレイヤー達も何事かと気にし出し……その果てに、会場中の誰もが二人に視線を向ける事となったのだ。

 そうして量産されていくのは、「ウッ……!!」と胸を抑える男性達。そして黄色い声を上げるのも忘れ、ジンとヒメノの睦まじき様子に視線釘付けの女性達である。ヨダレを垂らしそうなくらい、口を開けて呆けている女性プレイヤーすら居た。

 ジンですら、今のヒメノの破壊力には即陥落しているのだ。耐性のない者達が、それに耐えられるはずもなかった。


「若いって良いねぇ……」

「おじさんくさいですよ」

「いや、僕は実際におっさんだし」

 ユージンとケリィは二人の様子を微笑まし気に見守りながら、そんな会話をしていた。教えてあげようよ、そろそろ。


 結局二人がその状況に気付いたのは、クリスマスパーティーが終わるその時であった。

次回投稿予定日:2023/4/2(短編)


長かった第四回イベント編+クリスマスパーティーも、とうとう終わり……!! なのですが。

今回のイベントやクリスマスパーティーで、色々と仕込んでいた物がございます。

よろしい、ならば短編だ!!


いかがでしたでしょうか、三周年に合わせてお送りした、今回のジン×ヒメノ。

作者的に、今回のヒメノは超絶可愛く描いてあげられたんじゃないかと思っていたりします。


思わず、衝動的にこちらにも手を伸ばしてしまいました。

【「あーん」するヒメノ・クリスマスバージョン~初めてのジンくん呼び~】

挿絵(By みてみん)

これが、ジン特効の新妻兼幼な妻。

実はこれを描く時、テンションが上がりまくっていたのか二時間半で描き上げました。


さて、第十五章はこれでおしまいとなります。

前述の通り、第十六章の前に短編をお送り致します。

まずは登場人物紹介をご覧頂き、その後で短編集をご閲覧頂けたら幸いです。


え? リア充が溢れるクリスマス・イヴにあいつらが居ない? 居るんだな、これが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ???「文化祭で似たような光景を見たことがある」 この3カップル+1夫婦で角砂糖とガムシロップの雨じゃー!! 孫が居る方に年齢詐称を疑われるジンさん…w ユージン夫妻も大概砂糖を撒き散…
[良い点] ここで発表したらセバスちゃんの脳が破壊されちゃうw
[一言] 砂糖に溺れる( ゜∀゜)・∵. グハッ!! ㊗4周年  これからも 忍者ムーブを 楽しんでいきます 作者様 お体に気をつけて 然らば 御免!!
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