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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十五章 第四回イベントに参加しました・弐

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15-36 最終決戦3―愛の力―

 ジンとヒメノが合流する、少し前。【天使の抱擁】のギルドクリスタルを目指して戦っていた、ヒビキ・センヤ・コンのチーム。ジリジリと【天使の抱擁】の防衛ラインを押し込めて、決定的な隙を誘おうとしていたのだが……。

「【一閃】!!」

「……っ!! 【クロスジャッジメント】!!」

 アヤメとグレイヴを庇う様に、≪シーカーロープ≫を駆使してアークに迫ったジン……そんな彼が、アークの【クロスジャッジメント】によって被弾。変身専用装備のAPが尽き、【変身】が解除されてしまった。


「ジン、さん……!?」

 先にそれに気付いたのは、センヤ。その声につられて、誰もが視線をジンとアークに向けた。光の粒子となって崩れていく、≪風の忍鎧≫。それによって、ジンの身体アバターが露わになる様子。

 その光景に誰もが衝撃を受け、戦いが一瞬止まってしまった。


 即座に意識を切り替え、戦いを再開したのはベイル。アークがジンに打ち勝つと確信し、自分達も……と勢い付いた。

「我々も負けていられないぞ!! 攻めろ!!」

 ベイルの言葉を受け、ハッとした【聖光の騎士団】メンバー達。すぐに武器を構え直し、【天使の抱擁】に向けて攻撃を再開した。

 それに負けじと【森羅万象】、【絶対無敵騎士団】も攻撃を再開。更に【漆黒の旅団】が隙を突いて拠点の方へと駆け出し、【遥かなる旅路】の面々がそれを追う。

 そんなギルドの面々に対し、エミール率いる【天使の抱擁】も決死の防衛戦に戻った。


 しかし、その中にあってただ一組……【七色の橋】だけは、違った。

「センヤちゃん!! コン君!! 来て!!」

「えっ!? ヒビキ!?」

「コン……ッ!?」

 ヒビキが駆け出し、センヤとコンは驚きつつも慌てて彼を追う。ヒビキは迷い無く、ある場所へと向かっていた。


――僕達じゃあ、力不足だ……!! ジンさんに必要なのは……!!


 そう考えたヒビキは、ヒメノ達の居る場所へと駆け込んだのだ。センヤも途中でそれに気付き、表情を引き締めて刀の鞘を握り締める。

 今、ジンの窮地を救える存在。ジンが最も、求めている存在。それは、ヒメノだ。激しい戦いで変身専用装備のAPは削られ、【変身】状態を解除されてしまっている。しかしリンやヒナの援護もあり、ヒメノはまだ十分なHPを残している。


 二人と一匹の接近に気付き、どの勢力も動きを一瞬止めてしまう。それはヒメノ達も同様ではあった……だが、しかし。

「ヒメノさん!! お願いします!!」

「ヒメのん!! 行って!!」

 二人の言葉と、表情。二人が何を思い、ヒメノに何を託そうとしているのか。それは、わざわざ聞かなくても解った。だからヒメノは、表情を引き締めてそれに応える。

「はい!!」


 ヒビキが何を思って、【天使の抱擁】攻略断念を決断したか。それは、彼の憧れがそうさせた。

 夢を断たれて尚、夢を追うジンの姿。己を貫き、礼を尽くすジンの在り方。誰よりも率先して前に立ち、仲間の為に全力を尽くすジンの背中。

 それはヒビキにとって憧れであり、目標であった。小柄で、非力な自分でも、ジンのように強くなりたい。そう思わせる、思わせてくれる存在だった。


――ジンさんが、負ける所を見たくない……!!


 ただ、それだけ。しかし、それが大切な事。

 ジンの窮地を救うのは、自分では力不足だ。センヤとコンの力を借りても、あの各ギルド最強が集う乱戦では通用しない。

 でも……ヒメノなら出来る。彼女ならばジンを支え、共に勝利を掴み獲ってくれる。


「ヒナちゃん、リンちゃん……後をお願いします!!」

「はいっ!!」

「お任せを」

 そしてヒメノは、ここまで共に戦ってくれた少女にも。

「イナズマさん、ありがとうございました!!」

 ヒメノがそう言うと、イナズマは表情を綻ばせて頷いてみせる。

「いいえ、ボクがしたくてした事ですから!! さぁ姫様、頭領様の下へ!!」

 イナズマの言葉に背中を押され、ヒメノは四神スキル最後の一回分を発動させる。

「【縮地】!!」


 そうして、ヒメノはジンの下へ。残されたリンとヒナ、そしてイナズマ。三人に向けて、ヒビキが声を張り上げた。

「皆、こっちへ!!」

 ヒビキの指示……それは、防衛ラインを形成する事だ。シルフィやソラネコ、アーサーガールズにトロロゴハン、エリザといった強力なプレイヤー達……彼女達を、ジンとヒメノの所に行かせない為に。


 ヒナを抱き上げたリン、そしてイナズマが動揺するシルフィ達の間を駆け抜ける。

「しま……っ!!」

「させるか!!」

 合流させまいと、シルフィがリンに向けて大剣を突き出す。しかしそこへ、≪煙玉≫が投げ込まれた。

「何っ……!?」

「あららー、これは……」

 その≪煙玉≫を投げ込んだのは、ヒビキ達を追って来たタスクだ。

「遅れて申し訳ないです!! 私が援護致しますので、ご存分に!!」

「……!! 助かります!!」

 そうこうしている内に、リン達も合流。そして、≪煙玉≫による煙幕が薄れていく。


「やってくれるじゃないか……そこを通して貰うよ」

 シルフィが大剣を構えるが、ヒビキ達は揺るがない。

「そうはいかないよん!!」

「刺し違えてでも、止めてみせます……!!」


************************************************************


 そんな仲間達のお陰で、ジンの下に辿り着いたヒメノ。その存在を背に感じるジンは、疲労感も何もかもを忘れて小太刀を構え直す。

 背中合わせになるジンとヒメノを前に、その場に集ったアヤメを除く誰もが警戒し……そして、動き出す。ちなみにそのアヤメは、ジンとヒメノの姿に目を見開いていた。驚きと同時に、歓喜の念が心の奥底より湧き出ていた。湧きまくっていた。


「それなら二人まとめて、倒すまで……!!」

「行くぞ……っ!! はぁぁっ!!」

 ハイドとフデドラゴンが、自分達の方を向いているヒメノに向けて斬り掛かる。その動きは連携に重点を置いた、実に的確なもの。

 二人は仲間どころか、初対面だ。本来共闘関係には無い間柄ではあるものの、今この瞬間は歩調を合わせるのが最良。それを互いに理解し、実行していた。それだけでも、ハイドとフデドラゴンの実力と協調性が解るだろう。


 だが、相手はその戦術の遥か上を飛び越える二人だ。

「「何ッ!?」」

 ヒメノが、振り返りながら後ろに下がった。するとそのタイミングにピッタリ合わせて、ジンが二人の目の前に現れたのだ。

「これは……っ!?」

 ジンと向かい合っていたアークも、ジンの姿が掻き消えた事に驚愕。更にジンの身体に隠れてあまり見えなかったヒメノが、矢をつがえながら自分に狙いを定めている。これには、流石のアークも驚きを禁じえなかった。


「「はぁっ!!」」


 ジンの二刀小太刀による連撃と、ヒメノの弓刀による矢の攻撃。それは、全く同時に行われた。ジンの狙いは、まずハイドとフデドラゴンの剣を逸らす事。そこで剣の腹を狙い、小太刀を振るったのだ。その狙いは的確で、二人の攻撃はしっかりと逸らされた。


――この速さ……!!

――さっきまでと、違う……!?


 一方ヒメノの矢を前に、アークは全力で防御姿勢を取る。鎧で受ければ、ダメージは軽減される……しかし、それは常識の範囲内での事。ヒメノの矢に込められた力については、第一回イベントから散々目の当たりにしているのだ。かろうじて、二振りの聖剣をクロスさせて矢を止める事に成功した……が、大きく後退させられた上、余剰ダメージも尋常ではない。


――余剰ダメージで、ここまでの威力……!?


 ジンは更にハイドとフデドラゴンに、一撃ずつ攻撃を叩き込む。狙いは、剣を握る側の肘や二の腕だ。

 その攻撃による反動を利用して、ジンは大きく後退。身体を反転させて、今度はアークに向き直る。

 同時にヒメノも矢を放つと同時に後ろへ下がっており、ジンとそっくり立ち位置を入れ替える様な動きとなっていた。今度は矢による射撃ではなく、弓刀のもう一つの戦い方を披露する。


「【蛇腹剣】!!」

「【一閃】!!」


 分割されたヒメノの弓刀、その刀身。それを見たハイドは、凄まじい悪寒に襲われた。あれに当たれば、一瞬で戦闘不能しぬ。それを察して、必死で剣を引き戻す。

 それに対し、フデドラゴンは防御態勢がワンテンポ遅れてしまった。剣で受けようとするも、僅かに時間が足りない。そのままフデドラゴンの左手肩に、弓刀≪大蛇丸≫の刃が当たる。

 そのままフデドラゴンの身体を通過した刃は、続いてハイドへ。ハイドはそれを直剣でどうにか防ぐが、防御によって発生した余剰ダメージを受けてしまう。


 そんな駆け引きと同時に、ジンもまたアークに接敵。ヒメノの攻撃を受けたアークは、ジンの接近に気付き双剣を構え直す。

 そこでふと、アークは違和感を覚えた。近付いてくるジンの眼が、動きが、今までと違った。同時に、ジンの速さが増しているように思えたのだ。


 ジンが小太刀を振るい、アークに斬り掛かる。アークはそれを双剣で受け、いなし、反撃を……と、反撃しようとした時には、ジンがそこに居ない。

「はっ!!」

「うぉぉっ!?」

 気付けば、聞こえて来たのはカイセンイクラドンの声。視線を向けると、そこにはカイセンイクラドンに対して小太刀を振るった後のジンが居た。

 アークに攻撃を打ち込んだ後、ジンは即座にその場を離れてカイセンイクラドンへと向かったのだろう。


 だがアークには、それが不可解だった。自分はジンの一挙一動に注視し、警戒していた。それなのに、ジンの姿が前触れもなく掻き消えた。それは何故か? と。


 そんな思考に耽っている間に、アークは背後に気配を感じる。それは、ジンのものではなかった。

「シャアッ!!」

「っ!!」

 首を狙った一撃。その躊躇と容赦の無い攻撃は、黒い青年によるもの。

「チッ、後ろに目でも付いてんのかよ!」

「その獰猛な気配を隠しもせず、よく言う」

 そんなアークとグレイヴに向けて、矢が飛ぶ。

「く……っ!!」

「おっと……!!」

 二人は距離を開けるようにして、矢を回避。しかし同時に、その()()()()()()()()()にジンが入り込むのは予想外だった。


――姫さんの攻撃は、この為……っ!?

――やはりそうだ!! この二人は……!!


 驚愕する二人に向けて、ジンは小太刀で連撃を繰り出す。先程までとは次元の違う、縦横無尽の高速機動。尚も、ジンの疾走は止まらない。ヒメノとの息のあった連携により、その動きは更に加速していく。

 そしてヒメノも、これまでより一層大胆な攻撃を繰り出していく。防御に関しては最低限の注意を払うに留めており、意識の大半は攻撃に注がれている。それ故に、攻撃を受ける側は必死で凌ぐしかなかった。


 これは、ジンとヒメノだからこそ可能な連携。

 ジンはヒメノが攻撃しやすい隙を作る為に、そして彼女への攻撃を自分に向けさせる為に駆け抜ける。そしてヒメノは、ジンが作った隙を狙い攻撃を打ち込む。ジンに無いSTRをヒメノが担い、ヒメノに無いAGIはジンが担う。互いの良さを引き出し合う、最高の相性だからこそ可能な連携。

 春先に出会い、パーティを組むようになってから、毎日の様に繰り返されてきた二人のコンビネーション。関係が深まるにつれて、その連携は無駄のないものに進化していった。それこそ、この最高峰の戦いを征する程の。


 最初に倒れたフデドラゴンは、それを目の当たりにして言葉を失っていた。ジンがグレイヴの動きを封じたと思えば、直後に彼はカイセンイクラドンの目前へ。その合間に、気が付けばヒメノがグレイヴに向けて蛇腹剣を振るっている。

 そんなヒメノを仕留めようと、ハイドが剣を振り被る。しかし飛んで来た苦無がハイドに刺さり、雷撃により麻痺に陥った。

 かと思えば、苦無を投げたであろうジンはアークに斬り掛かっている。そして、麻痺しているハイドに矢が刺さった。

 グレイヴがジンとアークに、纏めて襲い掛かる。しかし直後、ジンは姿を消した。何処へ行ったのか? と考えていると、空から伸びたロープがグレイヴを縛り上げる。更にグレイヴは、上空にいるジンによって引っ張り上げられた。

 その隙にヒメノがアークに向けて、矢を射る。最小限の動きで、軽やかに舞う様な射撃。それが二度、三度と続く。


――これが……最速の忍者と、最強の姫君……!!


 話に聞く二人の力……それを目の当たりにしたフデドラゴンは、純粋に見惚れていた。連携の完成形と称して差し支えない、二人の息の合ったコンビネーション。

 呼吸をするのも忘れてしまいそうな程に目が離せない、見事に噛み合った二人の戦術。【七色の橋】が誇る夫婦カップルの真価は、見る者の心を鷲掴みにしていた。


************************************************************


 それは、観戦エリアにおいても同様だ。それぞれのモニターの前には、人だかりが出来ていた。誰も彼もが、イベントエリアで繰り広げられる最高の戦い振りに熱狂している。

「うおおおぉっ!! これだよ、これっ!!」

「第一回の時よりも、更に動きが洗練されてるな!!」

「どれだけ練習したら、こんな動き出来るんだろう……」

「ジンさんとヒメノちゃんのコンビネーション、マジ最高じゃね!?」

「ジンヒメはやっぱり最高なんだなって、改めて実感したよ」

「フデドラさんが落ちて、ハイド氏もギリッギリか!?」

「なぁ、イクラさんもグレイヴもヤバない!?」

「これは、アークも倒せるか……!!」

「残り二分半!! いっちまええぇっ!!」

 興奮の坩堝と化した観戦エリアのボルテージは、天井知らずに上がっていた。


************************************************************


 同じ頃、運営メンバーの観測室。こちらも同じ様に、白熱する最終決戦を目の当たりにして興奮を抑えられないでいた。

「ステータス上昇抜きで、この動きかよ!?」

「連携もさる事ながら、動き自体が全然違う!!」

「ヘタしたら、二人共【変身】状態よりも良い動きしていないか!?」

「ねぇ、それもなんだけどさ……二人共、目を合わせないで戦ってない?」

「あ、確かに!! ヒメノちゃんが転移してから、二人共顔を合わせていないわ!!」

 運営として戦況を見守る……というよりも、プレイヤーと同じ目線でこの戦いを見守っているフシすらある。それまでに、この戦いは胸を熱くさせるものなのだ。


「ヒメノさんが居れば、ジン君はダメージを与える事を考えなくて良い。逆にジン君が居れば、ヒメノさんは相手の攻撃を避けたりする事を考えなくて済む。それが、この連携の本質でしょうね」

 口元に指を当てながら、戦況について語るのはセイン。彼の言葉に、シリウスとエリアが同意を示した。

「勿論、最低限のそれは考えているはず……しかし役割を分担できるだけでも、精神的な負担はかなり軽減される」

「ジン君は相手の妨害と、隙を作る事に専念。そうすると、彼は()()()AGIを解放できる。ヒメノちゃんはジン君の作る隙を逃す事無く、最適な攻撃を叩き込む。こちらも()()()STRを発揮出来る立ち回り……ね」


 ジンは普段の戦術に加え、高レベルプレイヤーのHPを削らなければならなかった。機動力に全神経を注ぐわけにはいかなかった為、最高速トップギアまで回転数を上げられていなかった。

 ヒメノもヒメノで、ジンが不在の際はどうしても回避に意識を向けてしまう。絶好のタイミングに、全力の一撃を叩き込む事が出来なかったのだ。


 それは裏を返せば、互いが側に居る時は()()()()を最大限に発揮出来るという事。

 そして二人の全力、その相性は抜群どころの話ではない。相乗効果で、更に互いの力を引き出し合う奇跡の相性。

 言うだけならば簡単だが、息が合わなければこの相乗効果は実現しない。それを可能としているのはやはり、二人が積み重ねて来た時間、深く深く心の奥底から通じ合わせた関係あってこそだろう。


「ジン君の言葉を借りるならば、二人で育て上げて来たものの集大成……有り体に言うならば、愛の力ですね」

 しみじみとした様子で語るセインだが、予備知識無しでその言葉を聞けば陳腐な言葉だと内心で笑うのかもしれない。しかし今この場には、その言葉を一笑に付す者は一人も居ない。

 ジンとヒメノ、一組の少年少女がこれまで積み上げて来た実績が、それを裏付けているのだ。


************************************************************


 上空に引っ張り上げられたグレイヴは、落下死を避けるべく武技を使おうとする。しかし、彼の眼が一人の少女の姿を捉えた。

「……フン、こりゃあ死んだな」

 空中で大きく身動きの取れないグレイヴに向けて、ヒメノの放った矢が迫る。その矢はグレイヴの胸を貫き、そのHPを完全に消し飛ばした。

「全く、どこまでも楽しませてくれるじゃねぇか」

 そう呟いて、グレイヴは頭から落下。当然、VRMMOである限り身体アバターのダメージが肉体に影響を及ぼす事は無い。その衝撃も、限りなく緩和されている。


 そんな二人の快進撃を目の当たりにして、【天使の抱擁】拠点攻めを敢行していた面々は方針を変える。ジンとヒメノを止めなければ、そんな思考に突き動かされたのだ。

「うおおぉっ!!」

「あいつらを、止めるぞぉっ!!」

「カイさん、今行きますっ!!」

「アークさんを落とさせはしない!!」


 しかし、そんな援軍にもジンとヒメノは動じない。

「【天狐てんこ】!!」

 宙に展開した魔法陣の足場を駆け上がり、ジンは空中でクルリと回転。そして指に挟んだ数本の苦無を、一度に投擲してみせた。

「【氷蛇ひょうじゃ】!!」

 同時にヒメノは、弓刀をアークに突き付けて氷の蛇を召喚。ジンの行動後の隙を狙わせまいと、牽制する。

「……っ!!」

 このコンビネーションには、アークも厳しい表情を浮かべてしまう。二人の連携を崩す術は、もう数える程しか残っていない。

「雷鳴の如くッ!! 【狐雷こらい】ッ!!」

 苦無が地面に刺さると同時に、ジンは魔技【狐雷】の発動を宣言。地面を駆け巡る雷撃が、敵対者達の身体を這い回る。援軍に駆け付けたはずの各ギルドの精鋭達は、麻痺効果にとらわれて身動きが取れなくなってしまった。


 同時に、センヤ・ヒビキ・リン・ヒナ・コン・イナズマ・タスクによる防衛ライン。決死の防衛線を突破しようと、猛攻撃を繰り広げるプレイヤー達が居る。

「邪魔だ邪魔だっ!! どきなぁっ!!」

「絶対に、ここは通させないッ!!」

 シルフィの激しい剣撃を、両手の篭手で防ぐヒビキ。小柄な少年とは思えない、堅実な防御はシルフィも手を焼いていた。


 そこでシルフィは、一計を案じて突破を試みる。まずは演技と気付かれない様に、相手が攻撃しやすい隙を作る。

「隙ありッ!! 【一閃】ッ!!」

 そしてヒビキの防御の隙に、センヤの居合い戦術が煌めく。シルフィも被弾が増え、いよいよHPが心許なくなって来た。

「やるじゃないか……だがっ!! 押し通らせて貰うよ!!」

 獰猛な笑みを浮かべ、シルフィは大剣を手に駆け出した。


 そんな強引な突撃に合わせ、ヒビキとセンヤは渾身の力で武技を繰り出す。

「【ナックル】!!」

「【一閃】!!」

 二人の攻撃をモロに喰らい、シルフィはHPを全て消失。しかしそこで、シルフィは倒れない。

「まだまだぁっ!!」

 HPゼロからの、復活。ヒビキとセンヤの脇をすり抜け、突進するシルフィ。しかし、それを予想していたセンヤが頼れる仲間に呼び掛けた。 

「コンちゃん!!」

「コンッ!!(まかせてっ!!)」

 行く手を遮るようにして駆け込んだコンは、右前足の爪で攻撃を繰り出す。

「チィッ……!!」

「【狐爪コン】ッ!!」

 コンの【狐爪こそう】……引掻き攻撃が、シルフィにヒット。彼女のHPがグッと減り、そのままゼロになる。

「……悪いね、アーク……」

 そう言い残し、シルフィは前のめりに倒れ込んだ。


 その頃ヒメノはアークから離れ、ジンと標的ターゲット交換スイッチ。彼等のHPを刈り取ろうと矢をつがえる、その瞬間。

「まだまだ……これからなんだよぉっ!!」

 地面に落下し、戦闘不能になったはずのグレイヴが復活を遂げて駆け出した。彼の持っていた保険……≪聖なるメダル≫の効果を使用したのだ。

 ヒメノを落とせば、ジンの動きは鈍る。それは先程までの戦いで、実際にその通りの状況だったのだから間違いない。そう判断したグレイヴは、隙を伺っていたのだ。

 ジンは既にアークの目の前であり、最高の聖騎士を煙に撒いて駆け付けるのは困難。ここがグレイヴにとって、絶好のタイミングだったのだ。


「頭領様!!」

 そこでジンの元へ、アヤメが駆け寄って来る。彼女の考えを察したジンは、アークの目前で跳び上がった。そんなジンの足に、アヤメは自分の足を突き出し……。

「「【ハイジャンプ】!!」」

 アヤメによる【ハイジャンプ〜ただし跳ぶのは相手〜】と、ジンの【ハイジャンプ〜流星の如く〜】の同時発動。どちらも【ハイジャンプ】だよね、という点には突っ込んではいけない。

二つの【ハイジャンプ】を組み合わせ、ジンはグレイヴに猛接近していく、

「な……にぃっ!?」

「【一閃】!!」

 一瞬で距離を詰めたジンの小太刀が、グレイヴの身体を斬り付けた。

「……ハッ、本当にお前らは……楽しませてくれるじゃねぇか……」

 そう言い残して、膝から崩れ落ちるグレイヴ。今度こそ、彼は戦闘不能に陥ったのだった。


 同時に展開される、防衛線側の戦い。アーサーガールズを相手に、大立ち回りを繰り広げるのはイナズマとタスクであった。

「どりゃあっ!!」

 イナズマの振るう戦槌が、シアの張ったバリアを粉砕した。すんでの所で後退したシアだが、表情は引き攣っている。本気でギリギリだったらしい。

「うわっ!? 美少女が大きな武器を振るうのにロマン感じるタイプだけど、自分が当事者になるのはノーセンキューなんですけど!?」

「どうでも良い事を早口で言うくらいなら、手を動かして下さいッ!!」

「それなら、私が……」

「させぬ!! 火遁……【ファイヤーボール】!!」

 ナイルがイナズマに向かおうとするも、タスクの魔法攻撃がそれを妨害する。このままでは、ジリ貧……三人娘もそう解っているのだが、突破する糸口は見出せていない。


 一方、ヒメノはグレイヴの接近の時点でジンの飛来を察知していた。最も、アヤメとのダブル【ハイジャンプ】は予想外だったが。

 そこでヒメノは目標を麻痺中の援軍から、アークに変更。アークはアヤメを先に倒そうと、武器を振り被った所だった。

「行きますッ!! 【スパイラルショット】!!」

 五連続でダメージ判定を発生させる、【スパイラルショット】。その破壊力は考えるまでも無い、いくらアークでも無事では済まないだろう。


――この一撃を食らったら……やられる!!


 ヒメノの破壊力の高さは、自分を遥かに超えている。それを理解しているアークは、切り札を切るしかないと即断即決。

「【インヴィンサブル】!!」

 十秒間、一切のダメージも状態異常も無効化する【デュアルソード】の秘儀。最後の切り札であるこの力を、アークはここで発動させた。

 効果は無事に発動され、ヒメノの【スパイラルショット】がアークに当たるもHPは削られない。そしてアークは、【インヴィンサブル】の効果が継続している内に勝負を決めなければならないと判断した。

「【クイックステップ】!!」


 ヒメノに接近し、双剣を構えるアーク。その時だった。

「そんじゃあ……【クイックステップ】!!」

「えっ!?」

「何でッ!!」

 ヒビキとセンヤの攻撃で倒れたはずのシルフィだったが、彼女はユニークスキル【七転八起】をスキルスロットに収めていた。その力を使って、予め服用していた≪ライフポーション≫の効果を発揮させたのだ。


「【アサルトパニッシャー】!!」

「【パワー……クラッシュ】!!」

 ヒメノに向けて発動された、【聖光の騎士団】ギルドマスターとサブマスターの武技。それがヒメノに当たる、その前に。

「ヒメッ!!」

 ジンが≪シーカーロープ≫をヒメノに巻き付け、強く引き寄せた。そのままヒメノは、引っ張られるままにジンの下へ。ジンはそんなヒメノを抱き止め、駆け出した。


――アークさんの、あの無敵状態は恐らく十秒間!! あと、三……ニ……一……ッ!!


 第二回イベントで、アークの発動した【インヴィンサブル】。その身体を覆っている白い光は、十秒間で消失した。それを見抜いたのは、ジンにとって可愛い弟のハヤテである。

 その予想に違わず、十秒が経過した所でアークの【インヴィンサブル】はその効果を終えた。

「……ッ!! ならば!!」

 それでもアークの戦意は衰えず、ジンとヒメノに向けて駆け出す。シルフィも彼に並び、最後の攻防戦に挑んだ。


 そこで、プレイヤー全員の脳裏にアナウンスが響き渡る。

『イベント時間、残り一分』

 それはこの長い戦いの終わりを告げる、カウントダウンだ。


 そのまま、二対二……と思いきや、ヒメノが唐突に足を止める。そして、グッと姿勢を屈め……。

「【クイックチェンジ】!!」

 換装スキル【クイックチェンジ】による、≪四門大砲・桜吹雪≫を装備した。

「そう来たか……ッ!!」

「なんてこった……!!」

 アークとシルフィは、自らヒメノの射程圏内に駆け込んでいた。何とか進路を変えようと、【クイックステップ】発動の為に息を吸い込む。

「斉射……ッ!!」

 その前に、ヒメノの背負う四門の大砲から砲弾が放たれた。距離が離れていれば、視認してからの回避も可能だろうが……目と鼻の先で撃たれては、そうもいかない。


『残り四十秒』


 轟音、そして爆音。同時に爆炎と土煙が、二人を覆う。それでも尚、ジンとヒメノは警戒を緩めない。


『残り三十秒』


 立ち込める土煙の中から、白銀の聖騎士が飛び出した。彼はガッツスキル【不屈の闘志】を発動させ、戦闘不能を免れたのだ。

 流石にシルフィは、戦闘不能を免れなかった。しかし、彼女の視線はアークの背に注がれている。彼の勝ちを信じ、無言のエールを送っている様に見えた。


『残り二十秒』


 アークはそのまま、ジンとヒメノに斬り掛かる……と見せかけて、その直前で剣を天に掲げた。

「【ルミナスエンド】!!」

 それは【マジックシーリング】を使って、ライデンに封印して貰った最強の光属性魔法。光の雨が天から降り注ぎ、ジンとヒメノ……その場に居る全員を襲う。

 至近距離からの、高威力攻撃。ヒメノの砲撃に対するお返しか、それとも考えていたのは同じ事だったか。どちらにせよ、広範囲殲滅魔法攻撃が発動した事に変わりはない。


 それに対し、ジンは……迷う事無く、駆け出した。


『残り十五秒』


 降り注ぐ雨を、全力で躱しながら駆けるジン。そして、回避行動こそがカギとなる【短剣の心得】最終武技。

「【アサシンカウンター】!!」

 光の雨を避ける、避ける、避ける。そしてアークに向けて駆ける、駆ける、駆け抜ける。


『残り十秒』


 全身全霊の疾走から、即座に攻撃態勢に。そんなジンに対し、アークは迎え討とうと剣を構えていた。もしかしたら、アークは予感がしていたのかもしれない……ジンならばこの光の雨を駆け抜けて、自分に辿り着くだろうと。

「【ブレイドダンス……ッ!!」

「【ラピッド……」


『九』


「……エクストリーム】ッ!!」

「……スライサー】ッ!!」


『八』


 互いの連撃が振るわれ、激しく斬り合う。ジンもアークも相手の攻撃を躱しながら、攻撃を繰り出していた。しかしそれでも、互いの身体にダメージエフェクトが刻まれていく。


『七……六……』


 そうして、二人の攻撃動作が終わり……互いに技後硬直に入った。

 互いの頭上に浮かぶHPゲージが、ぐいぐいと減っていく。残りわずかになっても、その現象は止まりはしない。そうして二人のHPがゼロになる、その寸前だった。


『五』


 鈴を転がす様な声が、静まり返った戦場に響き渡る。

「【ヒール】!!」

 それは、回復魔法の名前。魔法を発動させる条件となる、宣言。

 その直後、緑色の輝きを帯びた光の矢がジンの背中に命中した。HPが完全に尽きる寸前で、ジンのHPがほんのわずかに回復する。

「……ははっ」


『四……三……』


「間に……合いました……」

 回復魔法……それを放ったのは、ヒメノだった。【ルミナスエンド】の攻撃は、≪四門大砲・桜吹雪≫を盾にして凌いだらしい……その代償として、≪桜吹雪≫はボロボロになってしまっているが。

 しかし、彼女は≪杖≫を持っていない。装備品に宿った武装スキルであればおかしくはないが、【ヒール】はれっきとした【回復魔法の心得】の魔法だ……レベル1の。


『ニ……一……』


 ヒメノによる、【ヒール】……その種は、彼女の持つあるスキル。魔法を矢に変えて放つ事の出来るスキルが、このAWOにたった一つだけ存在する。

 それこそが、ヒメノが入手した新たなユニークスキル【エレメンタルアロー】である。彼女はミモリから借りたスキルオーブをスキルスロットに装備して、回復魔法を【エレメンタルアロー】で使用出来るようにしていたのだ。


『ゼロ………………第四回イベントが終了しました。参加された皆様、お疲れ様でした』


 アークは倒れて、ジンはほんのわずかなHPを残して立っている。満身創痍で、全身に赤いダメージエフェクトが刻まれているが……それでも、ジンは戦闘不能になっていなかった。

「……敗けたか。だが、何故だろうな……不思議と、清々しい気分だ……」

 そう口にするアークに、ジンも頷く。

「アーク殿……拙者一人では、きっと貴方に敗北していたでゴザルな……」

 そんなジンの言葉に対し、アークは一瞬口を噤み……そして、肯定も否定も避ける事にした。

「それは、どうだろうな。それよりも、考えるのは後にすると良い。今は……勝利を誇れ、ジン」

 最強の聖騎士、その無敗伝説を打ち破ったのは……忍者な少年と御姫様な少女の、一組の夫婦カップル


――第四回イベント、終了。

長きに渡る第四回イベント編、いよいよエンディングを迎えようとしています。

いや、本気で長引いてしまいました。

もうちょっとコンパクトに纏められないのかと、自分でも見返して思います。

駄菓子菓子、もといだがしかし!! 言い訳させて下さい、出したい展開やキャラが次々と浮かんでしまったんです!! 良い訳になってないですね!! 気を付けます、気を付けられると思います、気を付けられるかな……。


さて、イベント自体のお話はここで終わり。ここからは少しばかりのエピローグです。

その後はまた、ジン達の日常やら冒険を描いていく事になります。


次回投稿予定日:2023/2/10(本編)

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― 新着の感想 ―
[一言] さすが、最強の忍者と姫!夫婦。連携は熟年に達しているようですね(笑)
[良い点] 終わった~!! 終わってしまった〜!! お疲れ様でした!! 改めて  七色の橋 最高ですね GJ部 確かに 今回の勝負 忍♡姫  最強夫婦の愛が 勝利を引き寄せました しか…
[一言] ホント、この物語はジンとヒメがそろってこその物だよなぁ ジンの隣はヒメ以外の誰も代わりにならない(でも背中を預ける仲間はたくさん) まさにサイクロンジョーカーエクストリーム! またはラビット…
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