15-28 激動の最終日7-頂上決戦-
メリークリスマスという事で、二日連続投稿になります!
そおおぉぉぉぉぉい!!
エリアボスの参戦で、更に混迷を究めつつある第四回イベント。計八体のエリアボス達は、生き残っているギルド拠点を目指して進んでいた。
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【七色の橋】ランドドラゴン
【聖光の騎士団】エンシェントフェンリル
【桃園の誓い】ハリケーンドラゴン
【森羅万象】エンシェントワーム
【天使の抱擁】エンシェントミノタウロス
【白狼の集い】エンシェントクラーケン
【魔弾の射手】フレイムドラゴン
【忍者ふぁんくらぶ】ウォータードラゴン
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エリアボスを討伐済みのギルドは、未だ無し。同時に、エリアボスによって壊滅したギルドも無い……が、劣勢を強いられているギルドもある。
クラーケンを相手にしている【白狼の集い】は、主要メンバーが二人しかいない。更に強力なギルドに対抗すべく応援者を多く駆り出しており、拠点防衛は必要最低限のメンバーで行っているのだ。
また【魔弾の射手】は応援者に拠点防衛を託しており、フレイムドラゴンによって圧されている状態だ。更に応援者達への指示は対人戦向けのものを考慮していたので、対ボス戦の指揮系統は応援者のAI頼りとなっている。AWOのNPCは確かに高性能AIを搭載しているが、エリアボス戦は流石に荷が重いだろう。
そして特に劣勢に陥っているのは、【天使の抱擁】である。
「くそ……っ!! こんな時に……!!」
そんな言葉を漏らすハイドだが、無理もない事だ。なにせ、敵はエリアボス・エンシェントミノタウロスだけではないのだから。
「ボスのヘイトを稼がない様にねー! あくまで狙いは【天使】だよー!」
そう呼び掛けるのは、【森羅万象】のシア。彼女はシンラの指示を受け、【天使の抱擁】襲撃チームを率いる一人としてここに来たのだ。彼女と行動を共にしているのは、友人にしてライバルであるアイテル・ナイル……そして、他十人のギルドメンバーである。
そんな【森羅万象】は、あくまで【天使の抱擁】を狙う立ち回り。ボスや他のギルドに苦戦する面々に、容赦のなく攻撃していた。
彼女達とは逆に、エリアボスを止めるのに集中しているギルドもある。その内の一つは、フデドラゴンが率いる【絶対無敵騎士団】であった。
「我々が優先するのは、ミノタウロスだ!! ステータスは高い様だが、挙動は変わっていない!! 【突進】には、重々気を付けるように!!」
「「「はいっ!!」」」
他のギルドの戦力が残っている内に、同調して戦いミノタウロスを撃破。それからGvGを再開し、全力を尽くして勝てば良い。騎士らしさを重視する、フデドラゴンらしい決断であった。
同様の判断を下した、もう一つのギルド……それはカイセンイクラドンとトロロゴハンが率いて来た、中規模ギルド【遥かなる旅路】の主力部隊である。
「【絶対無敵騎士団】に合わせて動け!! 挟撃でヤツの体力を削るぞ!!」
「「「おうっ!!」」」
「援護射撃を途切れさせちゃダメよ!! ミノタウロスの鎧以外をどんどん狙って!!」
「「「了解!!」」」
ミノタウロスを挟み、【絶対無敵騎士団】の逆に展開した部隊。後方からの火力支援も充実しており、ミノタウロスの足を止める事に成功していた。
しかしエリアボスとして戦った時よりも、ミノタウロスのVIT値が高い。そのせいで、ダメージが通りにくいのだ。それはフデドラゴンも、カイセンイクラドン達も気付いていた。
手っ取り早いのは、デバフだ。ステータスダウン系でも良いし、毒や麻痺も効果的である。しかしながらイベント仕様のミノタウロスは、デバフも非常に効き難い。
「はぁ、デバフ無効とかじゃないわよね……何か高確率で発生するデバフがあれば、ハッキリするんでしょうけど……」
トロロゴハンがそう漏らすが、そう思っても仕方が無いだろう。彼女のMNDも決して低くはないのだが、それでもミノタウロスは一度もデバフを受けていないのだ。
そんな時だった。
「……何だ!?」
「もの凄い音が響いて来ているが……」
離れた場所で、大きな音がした。しばらくすると、音がもう一度。断続的に、音が響いている。それは徐々に、近付いて来ていた。
「武器がぶつかり合う……音……? それに、爆発音……」
甲高い、金属同士がぶつかった時の音。≪爆裂玉≫を使用した時の、爆音。やがて、地面を抉る音……続いて、人の声。
「ははっ、ここまでやるとは嬉しいねぇ!!」
「ほんっと強いな、この人っ!!」
「戦えば戦うだけ、強くなってる気がするよ……!!」
威勢の良い、女性の声。それに続くのは、幼さを残す少女の声と……少女っぽい、けど少年っぽくもある声。
「驚きだな……爆発を尽く躱すなんて」
「えっと、なんとなく……です!!」
「えぇぇ……」
落ち着いた青年の声は、驚きに満ちていた。それに返す声は、明るさと可憐さを感じさせる少女の声。その少女の声に、カイセンイクラドンとトロロゴハンの口から「あっ」と言葉が漏れた。
そして。
「雷鳴の如く!! 【狐雷】!!」
「むっ……!! 【ヒーリングファクター】!!」
「おっと!! 危なかったでゴザル!!」
「やはり、これも避けるか……!!」
とんでもない、ビッグネーム同士が戦っている。誰もが、瞬時にそれを察した。
「マジか?」
カイセンイクラドンが、思わずそう口にしてしまう。彼等二人がここへ来る事が、意外という訳ではない。あの二人が、戦っているという事実に驚いたのだ。
「マジで?」
そう思ったのは、トロロゴハンも同様だった。近付く戦闘音と、プレイヤー達の声。そしてついに、その姿が木々の間から視認出来た。
「マジだ……」
同調してエリアボスを相手取っていたフデドラゴンも、その姿を見て呆然としてしまう。それも無理のない事で、数人と数人がそれぞれ激しい戦闘を繰り広げているのだ。尚、ここに来るまでの戦いで双方共にメンバー数が減っている。
「「「なんというショータイム……!?」」」
特に忍者と聖騎士の攻防戦は激しく、この状況下でなければのんびり観戦したいと思わせる程のものだった。
「忍者と……【聖光】のギルマス!?」
「うわぁ……とんでもないのが来ちゃったねぇ?」
「……やべーい」
流石の【森羅万象】も、この対戦カードには驚愕を禁じ得なかったらしい。【天使の抱擁】の拠点に集まる誰もが、【七色の橋】対【聖光の騎士団】に意識を向けてしまった。
だが、エリアボスがそれを許すはずも無い。エンシェントミノタウロスは、周囲を威圧する様に咆哮を上げる。これはボスのスキルであり、周囲に居るプレイヤーに【重圧】というデバフを与えるものだ。
「やばっ……!!」
「まずい……!!」
「しまった……!!」
「く……っ!!」
ミノタウロスの咆哮により、【天使の抱擁】【森羅万象】【遥かなる旅路】【絶対無敵騎士団】はデバフを食らってしまった。状態異常【重圧】を受けた彼等は、行動速度が二割低下してしまう。
「……あららー、これはまずいかも」
ソラネコは視界に表示されたデバフアイコンを見て、表情を曇らせた。エリアボス時は効果時間が六十秒だったが、このイベントでは九十秒と上方修正されているのだ。
そして、最も警戒していた攻撃。エンシェントミノタウロスは前傾姿勢になり、今にも走り出そうとしていた。
「【突進】が来るぞ!!」
「に、逃げられる……かな?」
「やばい……かもっ!!」
誰もが慌てふためく中で、ミノタウロスはついに走り出した。こうなるとミノタウロスは、一定時間が経過するか……または、一定のダメージを受けるまでは止まらない。
ヘイト値が高いプレイヤーを中心に、走るミノタウロス。その巨体に轢かれるプレイヤー達の姿が、ジンの目の端に映る。
「……っ!!」
ジンの表情が険しくなった事は、相対するアークも気が付いた。そしてアークの脳裏に、ある光景が呼び起こされる。
『二度と走れない身体のくせに!!』
『……彼は昨年、事故に遭ってしまったそうだ。詳しい事は知らないが、その結果……右足に後遺症が残って……』
ギルバート、そしてライデンの口にした言葉。ジンは事故に遭い、右足に後遺症が残って二度と走れない……陸上競技選手としての生命を絶たれた過去がある。ミノタウロスに轢かれるプレイヤー達の姿に、過去の自分を重ねたのかもしれない。
このまま一騎討ちを続ければジンの心は揺さぶられ続け、決定的な隙を晒すかもしれない。この難敵を倒す為に、使える手段は使うべきなのかもしれない。しかし、アークはそれを選ばなかった。
「……まず、あのエリアボスを排除するのはどうだ」
「……拙者に異論は無いでゴザル」
二人は同時に視線をミノタウロスに向けると、同時に駆け出した。
アークの言葉には、過去の事件についての謝罪の念もある。同時に全力のジンと戦い、上回る……それこそ、自分の求める勝利だという思いもあった。
そんなアークと対峙しながら、肯定の意を示したジン。ジンも不思議と、アークの考えを察していた。自分に対する配慮、過去の謝罪……そして、戦意。だから同意だけを示し、謝意の言葉は心の中に呑み込んだのだった。
「いざ!! 疾風の如く!! 【クイックステップ】!!」
【突進】中のミノタウロスに、急接近するジン。その眼前に迫ると、ジンは更に武技を発動させる。
「飛燕の如く!! 【ハイジャンプ】!!」
ジンは一跳びで、ミノタウロスの頭上へ跳び上がった。苦無を抜き、流れる様に投擲。ミノタウロスの首筋目掛け、苦無は飛び……刺さった瞬間。
「【狐雷】!!」
魔技発動と同時に、ミノタウロスの身体を駆け巡る紫電。しかしミノタウロスは未だ止まらず、駆け続けている。
「ならばこれだ……【アクアエッジ】!!」
アークが≪聖印の剣≫を振るい、水の刃を放つ。それがミノタウロスに触れた瞬間、ジンの紫電が輝きを増す。雷属性と水属性が、相乗効果を発揮したのだ。そして、ミノタウロスの動きが大きく鈍った。
「完全には止まらなかったけど……!!」
「動きが、鈍った……!!」
ミノタウロスの動きが鈍った事で、【重圧】を受けた面々の表情に希望の色が浮かぶ。
「なら、後はやる事は一つだねっ!!」
「いきます……っ!!」
ジンとアークがエリアボスに向かった時点で、ヒメノ達も一時休戦……そして、二人の援護の為に行動を開始していた。
「いっくぞぉー!!」
「この一撃に、全力を込める……っ!!」
「それじゃあ……【バイタリティダウン】!!」
ヒメノは射撃体勢に入り、シルフィ・ヒビキ・センヤが駆けていく。ベイルは支援魔法の詠唱を進めており、物理耐性ダウンをミノタウロスに掛ける事に成功した。
「喰らいなッ!! 【ハードブレイカー】ッ!!」
「いっくよー!! 【一閃】!!」
「【ストレイト】……はあぁっ!!」
シルフィ・センヤ・ヒビキの攻撃が、ミノタウロスに入る。そして、ダメ押しの一手。
「今ですね……っ!! 【スパイラルショット】!!」
唸りを上げて飛ぶヒメノの矢が、ミノタウロスの胸元に突き刺さる。五度ダメージ数値が表示され、そしてミノタウロスの膝から力が抜ける……ダウン状態に入ったのだ。
「流石だな、どちらも……!!」
「なんて力なのよ、本当……」
「方針変更、あの牛頭を片付けましょう」
「あ、ちょ……アイテル!!」
ミノタウロスがダウンに入り、カイセンイクラドン達も【重圧】状態から解放された。今が好機である。そう感じたのは、ジンとアークも同様だ。
「いざ、参る!!」
「片を付ける……!!」
その戦場に集まったプレイヤー達が、こぞってミノタウロスに向かう。大人数の激しい攻撃が、ミノタウロスのHPを減らしていく。しかし、エリアボスとして戦った時よりHPも多い状態だ。
「このままだと、ダウン復帰に間に合わん……!!」
「そう言ったって、これでも総動員なのよ……っ!!」
カイセンイクラドンとトロロゴハンがそう言うと、背後から声が掛かった。
「ならば、我々も手を貸すとしよう」
そう言って、二人の脇を擦り抜けて行く女性。黒髪を後頭部で括ったポニーテールに、黒と紫を基調とした装い……その姿に、二人も見覚えがあった。
「【忍者ふぁんくらぶ】会長、アヤメ……参る!! 【一閃】!!」
右手で握った小太刀を振るい、ミノタウロスに斬り掛かるアヤメ。そして、彼女に続く【忍者ふぁんくらぶ】のメンバー達。ここで、思わぬ増援である。
「アヤメ殿!!」
「やはり【天使の抱擁】でしたか、頭領様。微力ながら、援護させて頂きます」
アヤメもまた、アンジェリカの存在を重視していたらしい。そしてアンジェリカに対抗するならば、ジンとヒメノが採用されるだろうとも。その予測の上、彼女は会員を引き連れてジン達を援護すべく参戦したのだった。
「エリアボスの強化版……か。しかし、ダウン中ならば問題無い。そうだろう?」
アヤメのその問い掛けは、一人の少女に向けられていた。
「はいはーい!! ボクにお任せですよー!!」
アヤメの言葉にそう返し、大きな戦槌を振り被るのは少女である。金色の長い髪を、ツインテールにした美少女……それもボクッ娘。
「【クラッシュインパクト】!!」
彼女は【イナズマ】……中学三年生で、【忍者ふぁんくらぶ】の最年少プレイヤーの一人だ。同じく中学三年生のハヅキと共に、会員達から妹の様に可愛がられている少女である。無論、ジンとヒメノもギルドホームで会った事がある。
地を揺らすかの様な打撃音が、ミノタウロスから聞こえた。そのHPゲージの減る速度が、加速する。どうやらこのイナズマも、相当な実力を持つプレイヤーなのだろう。
「うわっ……あんな美少女なのに、エグい威力……」
イナズマはゲーム開始時点から近接戦闘職となる事を決めていた為、アバターは本来の身体よりも少し手足を長くカスタマイズしている。その為中学生よりも上、大体高校生くらいの見た目になっている。しかしそのあどけない顔立ちはそのままであり、可愛らしさが先に立つ。
そんな美少女による、大型のハンマーによる渾身の殴打……これには、他のプレイヤーも苦笑してしまった。
そんな中、更に闖入者が現れた。それは黒をメインカラーとする、見た目は荒くれ者の集団だ。
「祭りの場所は、ここか?」
指名手配犯の殺人鬼みたいな、不穏な台詞を吐く青年。直剣を担ぐ様に持ち、悠々と歩いて来たその男……彼に視線を向けたプレイヤー達の顔が、強張った。それも当然で、彼とその仲間の頭上には赤く染まったカラーカーソルが表示されているのだ。
「【漆黒の旅団】……PKerだと!?」
その悲鳴じみた驚きの声に、何人かのプレイヤーが緊張感を滲ませる。
だが、そんな緊迫した雰囲気を霧散させるのは……当然、あの二人である。
「おっと、グレイヴ殿!」
「こんにちは、グレイヴさん!」
忍者とお姫様が、気安~い感じで声を掛ける。途端に、誰もが「えっ!? 知り合いなの!?」という顔になる。
「敬称は要らねぇっつうのに……」
「ハァイ、忍者君にお姫ちゃん」
呆れ顔で返すグレイヴだが、同行していたエリザが気安い感じで手を振る。これには他のギルドメンバー達も、困惑してしまう。
「まぁ良い、今度こそお前等を倒しに来たぜ?」
「っつっても、お頭? 取り込み中みたいだけど?」
気を取り直して……といった感じでグレイヴが声を掛けたが、ムジークの言う通りとってもとっても取り込み中だ。
そんなムジークの言葉に、グレイヴは渋い表情を浮かべ……そして、剣を構えた。
「ボスなんかに手こずってんじゃねぇよ……仕方ねぇ、先にあのデカブツから退場させんぞ」
グレイヴがそう言うと、エリザもムジークも「待ってました!!」という表情になった。それ以上はグレイヴの指示を待たず、駆け出している。
「さっさとブッ殺して、存分にPvPを堪能したいわ!!」
「ハハッ!! このそうそうたる顔ぶれ、ワクワクしてくるじゃないか!!」
そんな二人を見て、グレイヴは溜息を一つ吐く。
――ほんっと、狂犬みたいなヤツばっかだな……。
内心でそう言いつつ、グレイヴも二人を追って走り出した。ミノタウロスの巨体を囲むプレイヤー達の輪に加わり、愛用の剣を振り被って武技を発動させる。
「くたばっちまいな……【デストラクトスラッシュ】!!」
彼も高レベルプレイヤーであり、その一撃は見事なものだった。
しかしHPも残りわずかという所で、ミノタウロスがダウン状態から復帰しようと動き始める。
あと少しなのに……という表情を浮かべる、各ギルドの面々。だが、そこに飛び込んで来たのは一人の少女。
「立たせません!」
ミノタウロスの頭に駆け寄るは、【七色の橋】の姫君。手にした弓刀≪大蛇丸≫を振り被り、必殺の一撃を繰り出す。
「【一閃】!!」
激しいライトエフェクトと共に、戦場に響き渡る斬撃音。その一撃の威力に、立ち上がろうとしていたミノタウロスの頭が地面に叩き付けられた。同時にミノタウロスのHPが、完全に黒く塗り潰され……そのまま、ピクリとも動かなくなった。
「……よしっ!」
グッとガッツポーズをする、一撃必殺少女の異名を持つヒメノ。立ち上がろうとしたミノタウロスに、トドメを刺した直後とは思えない可愛らしい仕草。その姿を見て、一部のプレイヤー達は「うわぁ……」という表情だ。逆にヒメノを良く知る面々は、誰もがフッと口元を緩めていた。
……
ミノタウロスの周囲に集まっていたプレイヤー達……その中で真っ先に動きを見せたのは、やはり【漆黒の旅団】だ。
「さぁて、それじゃあ……殺り合おうか」
ジンに向けてそう言うものの、問答無用で斬り掛かりはしない。そんなグレイヴを見て、ジンは小太刀を握り締める。
だが、そこに割って入る者が居た。
「悪いがジンと先に戦闘していたのは、俺だ」
「あん? こっちは昨日から、先約を入れてんだよ」
睨み合い、険悪な雰囲気を纏い始めるアークとグレイヴ。ジンを挟んで言い合いをし始める様子に、誰もが同じ事を考えた。
――なんか、ジン(君)(さん)を取り合う三角関係みたいだな……。
嬉しくないモテ期、到来。ちなみにジンの横には、既にピッタリとヒメノが居る。更にジン・ヒメノに付き従う様に、アヤメ・イナズマ・他数名の【忍者ふぁんくらぶ】。なので、三角関係以上の複雑な状況になっている。いや、ジンはヒメノ一筋なのは確実なのですが。
そうして言い争っているアークとグレイヴに、シルフィが割って入った。
「というか、どうせ敵同士だろう? 気にせずに、戦えば良いんじゃないか。別に、一対一の決闘ではないんだから」
流石、狂戦士系姐御・シルフィ。とんでもない暴論なのだが、事実その通りでもある。
「確かにそうだな……へっ、纏めて相手してやる」
「ふん……良いだろう」
そして、一瞬の静寂の後……。
「オラァッ!!」
「はぁっ!!」
「おっと……」
アークとジンを、まとめて斬り付けようと剣を振るうグレイヴ。双剣をジンとグレイヴそれぞれに突き出す、アーク。それらを的確に避ける、ジン。
三つ巴の戦い……だが、この場に集ったギルドは三つだけではない。
「じゃあ、俺も混ぜて欲しい……なっ!!」
「む……っ!! ふむ、【絶対無敵騎士団】のフデドラゴンか!!」
「獲物が増えたか? 良いねェ!!」
「っと、その前に……【漆黒の旅団】の名前は、よーく聞き及んでいるんだが……」
「へっ……【旅路】のギルマスか!! やるなら相手になってやるぜ!!」
アークに接近し、剣を振るうフデドラゴン。そこに攻撃を打ち込もうとしたグレイヴを阻止し、立ちはだかるカイセンイクラドン。彼等もミノタウロスが倒れた今、プレイヤー同士で戦う事に否は無いのだ。
それは、【森羅万象】も同様である。
「隙ありっ!!」
「わっ……!!」
アイテルがヒメノを狙って矢を射るが、ヒメノはそれを難なく回避。
「また避けて……それなら……!!」
「あらあら、アンタも潰し甲斐がありそうね?」
そんなアイテルを見て、エリザが戦鎌を振り被りながら駆け寄る。
「PKer……!!」
「エリザさん、勝負ですっ!!」
「あはっ、そう来なくっちゃね!!」
アイテルは忌々し気に、ヒメノは純粋に勝負をしようといった雰囲気で、エリザを迎え討つ。そんな二人の正反対の反応に、エリザは楽しそうな表情で接近しつつ戦鎌を振るった。ヒメノもアイテルも、その攻撃をしっかりと回避して体勢を整える。
「む、イナズマ!!」
「了解ですっ!! ボクは姫様の援護に行きますね!!」
アヤメの呼び掛けに、意図を察したイナズマが駆け出す。目的は、ヒメノの護衛である。
ヒメノとエリザ、そしてイナズマ。強力なプレイヤー三人との戦闘に入るアイテル。そんな彼女に、シアは苦言を漏らす。
「ちょいちょい、アイテル……ここは、【天使】を……!!」
シンラからの指示は、【天使の抱擁】の殲滅。それを思い出させようと試みるが……もう、それだけに集中していればいい戦局ではない。それを認識させるかのように、あの姐御が大剣を手にシアに迫る。
「そうつれない事を言うもんじゃないよ、お嬢ちゃん!!」
「ひぇっ……バーサーカー来たぁ……っ!!」
シルフィの大剣を避けたシアだが、彼女の相手は相性が悪い……それを自覚していた。
先程以上の入り乱れる戦いを察し、ソラネコが即座にギルドメンバーに指示を飛ばす。
「ハイドさんとエミールさん、私以外は防衛に回って!!」
その言葉を耳にした【天使の抱擁】の面々は、拠点の建物に向けて駆け出した。同時に、他のギルドの面々も今が好機と駆け出す。
「今がチャンスだ、クリスタルを狙うぞ!!」
「「「おう!!」」」
頂上決戦はフデドラゴンに任せ、【絶対無敵騎士団】のエムと数名のプレイヤーが【天使の抱擁】のクリスタル破壊に向けて動き出す。
同時にセンヤとヒビキもPACと応援者を引き連れ、【天使の抱擁】の建物に向けて駆け出していた。
「ここが踏ん張りどころかな……っ!!」
「うん!! 全力で行こう!!」
「やれやれ、こういうゴチャゴチャした戦いは好きじゃないんだけど……ねっ!!」
味方が居ない場所に向けて、≪爆裂玉≫を投げるのはベイル。狙ったのは今にも戦い始めようとしていた【漆黒の旅団】の面々と、【忍者ふぁんくらぶ】の面々の中間地点だった。
「む……っ!?」
「くそっ……!!」
PKer達と忍者達は、爆発を必死に避ける。それぞれがベイルと【聖光の騎士団】に矛先を向け、反撃しようと駆け出した。
更に【遥かなる旅路】側も、周囲の状況に合わせて分散する。サブマスターのトロロゴハンは、警戒すべき相手として【森羅万象】のナイルに標的を定めたらしい。
「その鎖、魔法は防げないんだったかしら?」
「う、トロロゴハンさん……これは、相性が悪いかも……」
物理殺しの弱点は、魔法。過去のイベントでそれを見抜いたトロロゴハンは、彼女をフリーにしてはならないと判断したのだ。
混戦が開始されると同時に、イベント終了まで残り一時間を切った。
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■拠点【天使の抱擁】
【七色の橋】(9人と1匹)
ジン・ヒメノ・ヒビキ・センヤ、PACリン・PACヒナ・神獣コン・応援NPC3人
【聖光の騎士団】(7人)
アーク・シルフィ・ベイル、プレイヤー4人
【森羅万象】(5人)
アイテル・シア・ナイル、プレイヤー2人
【遥かなる旅路】(7人)
カイセンイクラドン・トロロゴハン、PACコリン・PACシャーリー、プレイヤー3人
【忍者ふぁんくらぶ】(7人)
アヤメ・イナズマ、プレイヤー5人
【絶対無敵騎士団】(9人)
フデドラゴン・エム、プレイヤー2人、応援NPC5人
【漆黒の旅団】(8人)
グレイヴ・エリザ・ムジーク、プレイヤー5人
【天使の抱擁】(21人)
ハイド・エミール・ソラネコ、プレイヤー18人
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