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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十五章 第四回イベントに参加しました・弐

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15-26 激動の最終日5-襲来-

 アナザーワールド・オンラインの、第四回イベント……ギルド対抗サバイバル戦・最終日は、佳境を迎えつつあった。

 最終日まで生き残ったギルド同士による、壮絶な潰し合い。それはより実力が高い側が勝利を収める場合があれば、実力が拮抗して戦いが長引いている場合もある。そして実力が拮抗しているギルド同士が、複数入り乱れる場所がいくつかあった。

 イベントマップの中央に配置された【聖光の騎士団】の拠点も、その内の一つである。


 拠点防衛を指揮するのは、【聖光の騎士団】の頭脳・ライデン。そしてライデンの脇を固めるのは支援に特化したルー、防衛に長けるクルスだ。名参謀と古参メンバー二人を中心とした、防衛チームは安定した戦い振りを見せている。

 そんな【聖光の騎士団】は既に、攻めて来た古参ギルド【初心者救済委員会】や同じ騎士系ギルド【白銀の聖剣】を返り討ちにしていた。それも損害はほぼ無しの、完全勝利に近い形である。

 しかしながら今現在は、必死の防衛戦を繰り広げている。その理由は単純で、最前線に近いクラスのギルドの襲撃を受けているからだ。まだ一人も戦闘不能になっていないが、このまま無傷とはいかない……ライデン達も、そう考えていた。


 現在、迎撃しているのは【白狼の集い】に所属するレイルとカナン率いる部隊。そして【フィオレ・ファミリア】のネーヴェ率いる部隊に、【ベビーフェイス】のヴォイドとパルスが率いる部隊である。


―――――――――――――――――――――――――――――――

 ■拠点【聖光の騎士団】


【聖光の騎士団】(14人)

 ライデン・ルー・クルス、プレイヤー11人


【白狼の集い】(14人)

 レイル・カナン、プレイヤー1人、PACパック1人、応援NPC10人


【フィオレ・ファミリア】(18人)

 ネーヴェ、プレイヤー5人、PACパック2人、応援NPC10人


【ベビーフェイス】(22人)

 ヴォイド・パルス、PACパックダイ・PACパックカール、応援NPC18人

―――――――――――――――――――――――――――――――


 同数かそれ以上の数のギルドを相手にして尚、ライデン達は健在。この時点で、【聖光の騎士団】の防衛戦メンバーが優秀なプレイヤーである事が窺い知れる。同時に戦闘力の無い生産メンバーも、支援に回っているのも要因の一つであろう。

 しかし、まだ他のギルドが襲撃に訪れる可能性は十二分にある。彼らを相手に、時間をかける訳にはいかない……ライデンはそう考える。

「ルー、クルス!! ()()を使うから、また頼むよ」

 ライデンの呼び掛けに、ルーは満面の笑みを浮かべて「はいっ!!」と返事を。クルスは敵の攻撃を受け止めつつ、大盾を持っていない右腕で「了解した」を示すハンドサインを送る。


「盾使い最高峰の力を、見せてやろう……」

 他の盾使い……シオンやゲイル、ハルといった猛者よりも、自分の方が盾職タンクとしては優れている。クルスはそう信じて疑わない。

 ステータスによるVIT値の高さは、盾職タンクの優劣を決める一因でしかない。優れた盾職タンクは仲間を守り、攻撃のチャンスを作り、その上で生き残る。

「【アトラクト】」


―――――――――――――――――――――――――――――――

 スキル【アトラクト】

 効果:パーティメンバーを標的とした魔法・遠距離攻撃を、スキル発動者に誘導する。効果時間30秒、クールタイム300秒。

―――――――――――――――――――――――――――――――


 この防衛チームの要は、広範囲攻撃を可能とするライデンやルー。自分自身は彼等への攻撃を防ぎ、魔法を完成させる事。そうすれば必ずや敵を殲滅し、自分達をまた一歩勝利へと導いてくれる。

 勝利を華々しく彩る仲間達の陰で、土台を固める立役者。クルスは、それが自分に向いていると自覚していた。

 そして盾職タンクの本領は、ステータスや装備だけでは完結しない。それこそ、クルスが己が最高峰の盾職タンクだと信じる根拠だ。


 迫る魔法攻撃や、矢が自分に向けて迫る。数えるのも億劫になる、ライデンやルーに向けられたそれ。そんな攻撃の弾幕を前にしても、クルスは怖じ気付きはしない。

「ふっ!!」

 通常の物よりも厚めの籠手で、矢を弾く。同時に大盾を巧みに扱い、魔法の軌道を逸らしていく。

「【エレメンタルガード】」

 直撃を避けられない魔法攻撃は、武技【エレメンタルガード】でMND値を上げて受け切る。従来のステータスと、装備やスキルによるMND値の上昇。これがしっかりと機能し、魔法の副次効果である状態異常に侵されるのを避ける事に成功した。

 殺到する攻撃をひたすらに、受けて、避けて、逸らして、潰す。ステータスだけでは、スキルだけでは、装備だけでは出来ない芸当。かといって、知識や技術だけでは早々に限界が訪れる。


 プレイスタイルに合わせたスターテスビルド、有効なスキルの選別、最適化された装備の充実と強化、味方全体を守り生かす立ち回り、一つ一つの動作に必要な技巧。ただでさえそれらを突き詰めて来たクルスだ。

 そして彼は第二回イベントで、自分に足りていなかったものを自覚した。【桃園の誓い】との戦い、【魔弾の射手】と戦い、【七色の橋】と戦って、その全てにおいて彼は敗北した。

 彼は仲間に対しても、自分に対しても厳しい男だ。故に何故、自分が三度も敗北を喫したのかを必死に考えた。組んだ仲間の責任とは、微塵も思わない。仲間を守り、彼等が勝利する為の舞台を整えるのが自分の盾職タンクとしての矜持だから。

 そして彼は、自分なりの答えを導き出した。


――俺に足りなかったのは……驕りや油断を排した心構えだ!!


 自身が格上だと驕り、相手を格下と侮っていた。それこそが敗因だと、クルスは考えた。目の前に居る敵は、皆が皆同格以上の相手だと認識を改める。

 その上で己の役割を果たし、仲間を守る……それが出来て、最高峰の盾職タンクだ。自分をそう称したのは相手を見下しているのではなく、自分はその高みに昇り詰めるという覚悟を口にしたのだった。


 その場に居た誰もが、クルスのスキルに、洗練された盾の扱いに、そして全ての攻撃を凌ぎ切った姿に驚愕した。クルスとて無傷とはいかなかったが、HPは半分以上を残して立っていた。

「な、何だよ今の……!!」

「遠距離攻撃を、全部自分に誘導した……? でも、その後は……」

 ヴォイドとパルスは、クルスから目を逸らせない。その雄々しく立つ姿を見て、思わず一歩後退ってしまう。

「有り得ない……あれだけの攻撃を、耐え切った……!?」

 ネーヴェは青年を演じるのを忘れ、思わず中学一年生の少年である素の顔を覗かせる。それも無理ない事で、【アトラクト】以外は基本的な【盾の心得】の武技で凌いでみせたのだ。

「これが……【聖光】の実力……!?」

「あはは……まだ、俺等には早かったんじゃ……」

 レイルとカナンも、それなりの実力を持つプレイヤーではある。だが、どうしてもクルスを無力化してライデン達を倒すというヴィジョンが見えない。


「ありがとう、クルス。やはり君は素晴らしい盾職タンクだ」

 自分達の魔法詠唱が完成する時間を稼ぐ為に、最高のパフォーマンスを見せたクルス。その背中に向けて称賛の言葉を投げ掛けながら、ライデンは魔法杖≪古代樹のタクト≫を天に掲げる。

「後は、私達が!!」

 ルーもまた、クルスの奮闘に応える為に魔法杖≪竜王の杖≫を構えた。二人はタイミングを合わせ、同時に魔法を発動させてみせる。

「【サイクロン】!!」

「【インフェルノ】!!」

 ライデンの放った【サイクロン】が、敵対者達の中心に居た【白狼の集い】の面々に襲い掛かる。

「うおおおぉっ!?」

「HPが……一気に削られ……っ!!」

 【フィオレ・ファミリア】と【ベビーフェイス】の面々は、暴風から逃れようと駆け出した……が、渦巻く風によって引き寄せられていく。

「す、吸い寄せられる……!!」

「これなんてダ●ソン!?」

「まずい……っ!!」

 焦るパルス、ボケるヴォイドに対し、ネーヴェはこの先に襲い来る脅威を予感して顔を顰めた。


 小さな火の玉が、こちらに向かって迫っている。しかもその速度は、ネーヴェが把握しているそれより速かった。

「何で……まさか、魔法同士の……!?」

 ネーヴェの予想は、的を射ていた。ライデンの【サイクロン】による引き寄せは、プレイヤーやモンスターだけを対象にしているのではない。矢も、投擲物も、そして魔法も引き寄せる。その相乗効果によって、ルーが放った火の玉は通常の()()よりもずっと速い。

 しかし、それだけでは済まない。

「魔法の相乗効果はね、それだけじゃないんだ」

 ライデンはそう言って、クルスや他の前衛メンバーを癒す為の魔法詠唱を始めた。


 そうして火の玉が、【サイクロン】の暴風域に到達し……暴風は巨大の炎の渦となった。

「うおおおぉぉっ!?」

「なんて威力……っ!!」

 業火と暴風の融合、凄まじい威力の魔法攻撃。その攻撃により、【白狼の集い】【ベビーフェイス】【フィオレ・ファミリア】は全員戦闘不能に陥った。


 生存者がいない事を確認して、クルスは警戒を解いた。大盾を背負いながら、ライデン達に歩み寄る。

「流石……の一言に尽きるな」

 そんなクルスの称賛の言葉に、ライデンは「そうかい?」とにこやかに応え……そして、ルーは嬉しそうに笑みを浮かべた。


 この魔法の相乗効果を発動させるには、条件がある。魔法の威力等のバランスが悪いと、この相乗効果は発現しないのである。当然、相反する属性の魔法でも発動はしない。むしろ、威力も性能も落ちるのだ。また発動タイミングも合わせなければならないという、実にシビアな条件が設定されている。

 魔法の格と相性、INTの高さ……そして使用者の息の合った連携があってこそ、この相乗効果が発動するのだ。

 とどのつまり、ライデンと相性が良く息が合っているという事。恋する乙女なルーさんは、それはもう嬉しそうなのです。


「さて、警戒しつつ体勢を整えよう。まだまだ”お客さん”は、大量に来るだろうからね」

「はいっ!」

「了解」

 ルーとクルスの返答を聞き、ライデンは笑みを浮かべて頷く。しかしにこやかなその表情の裏では、幾通りもの思案を巡らせていた。


――この程度の襲撃で終わるはずが無い。これまでライバル関係だった【森羅】は確実に、僕達の拠点に攻め込んで来る。それは【旅路】も同様だろう。それに、彼等なら……。


 クラスメイトである二人と、その仲間達。第二回イベントの騒動以降、接する機会が増えた面々。ヒイロは自分達を親友と明言してくれたし、自分達も彼とジンを親友だと思っている。

 ならば彼等は、必ず来る。悪感情からではなく、親友として……そして好敵手ライバルとして。


 そう思っていると建物の上から、警戒を担当する生産職のプレイヤーから報告の声が上がった。

「敵襲……っ!! 敵襲だ!!」

 せわしないと思いつつ、ライデンは青年に顔を向ける。

「どこのギルドかな? それと、おおよその数も報告を!」

 それくらいは言われずとも報告して欲しいのだが、時と場合による。例えば最前線レベルのギルドがフルメンバーで来ている……といった目を疑う様な光景ならば、困惑して報告が遅滞するのも無理はないだろう。

 大方、【七色の橋】や【森羅万象】あたりか? そうあたりを付けていたライデンだが、その予想は覆された。


「か、数は一体……!! エ、エ……エリアボスが、こっちに向かって来ています!!」


 その報告に、誰もが言葉を失う。エリアボス……それはAWOの各エリアに配置される番人であり、強大な力を持つボスモンスター。その攻略は……レイドパーティが前提条件の、強敵である。

「……確かにイベントマップには、モンスターが配置されると書いてあった。そして二日目に配置されてから、そのレベルもどんどんと上がっていった。しかしだ……流石にエリアボスは、やり過ぎじゃない?」

 流石のライデンも、思わず文句の言葉が出て来てしまった。


 だが、状況は更に加速する。

「ライデンさん!! 北側から、【桃園の誓い】の接近を確認!! 数は二十名前後……ギルマスのケインが居ます!!」

「マジで? ギルを向かわせたお返しなの? 勘弁してよ」

「報告します!! 【森羅万象】クロードの部隊、十二名が接近!! また、少し離れた位置に【遥かなる旅路】ロビン部隊、十六名の接近を確認しました!!」

「……嘘でしょ、最悪のタイミングじゃないか」

「あ、あのぉ……ライデンさん?」

「ルー? どうしたの?」

「……正面の方から、その……【七色】が」

「ヒイロ君、僕に何か恨みでもある!? あの件は和解したよね!? あと、悪いのはギルだよね!?」

「お、落ち着いて下さいぃぃ!!」

「ライデンさん!! 南方向から、仮設ギルドCが接近していました!!」

「もうやだ!!」

「なので、とりあえず魔法を撃ち込んだら逃げていきました!!」

「よくやってくれたね!! 君には後でオ●ーナを買う権利をあげるよ!!」

「死ぬほど要りません!!」

 何はともあれ、接近して来るトップギルド部隊……それも、最高戦力レベルの面々。そしてエリアボスの登場と接近。流石のライデンも、かなりいっぱいいっぱいになっている。


―――――――――――――――――――――――――――――――

【七色の橋】(18人)

 ヒイロ・レン・リリィ・コヨミ・PACパックセツナ・PACパックロータス・応援NPC12人


【桃園の誓い】(22人)

 ケイン・イリス・レオン・マール・PACパックマーク・PACパックファーファ・応援NPC16人


【森羅万象】(12人)

 クロード・ヴェネ、プレイヤー10人


【遥かなる旅路】(16人)

 ロビン・オヴェール・リーリン、プレイヤー12人、PACパック1人

―――――――――――――――――――――――――――――――


「ライデン、落ち着いてくれ。君が壊れたら収拾がつかなくなる」

 寡黙なクルスが、口を出さざるを得ない狼狽振りを見せたライデン。普段の穏やかで理知的な彼らしからぬ様子に、ギルドメンバー達も困惑気味だ。

「そうは言うけどね、クルス……流石にあのメンバーの攻撃を受けたくは無いだろう?」

 見れば、魔法職で最高峰レベルのプレイヤーと目されるレンの姿がある。更に【森羅万象】には見覚えは無いが、黒髪の美女が杖を持っていた。同時に【遥かなる旅路】も、バトン型の魔法杖を持つ明るい茶髪の美女……そして古参の一人であるリーリンの姿が見て取れた。

「……それは、確かに」


 そこへ【聖光の騎士団】のサブギルドにして、生産ギルド【聖印の巨匠】ギルドマスターのトールが駆け寄る。

「ライデンさん、一つ提案がある」

「何だい、トール」

 ライデンがトールに水を向けると、トールはニヤリと笑う。

「こんな事もあろうかと!!」

 そして彼は、ここぞとばかりに手を広げて声を張り上げた。

「そう、こんな事もあろうかと!! 策を打っておいた!!」

「……アッハイ」

 で、その策とは。


「万が一に備えて、ギルド拠点の周囲に爆薬を大量に仕掛けてある。導火線に火を点けるタイミングさえ間違えなければ、一網打尽に出来るはずだ」

「うん。僕聞いてなかったよ、それ」


 ギルドの参謀であるライデンも、知らなかった仕掛け。しかも内容が、大量の爆薬を仕込んであるというのだ。作戦立案を担う自分にくらいは、教えとくべきじゃね? と言われても仕方が無い。

 実際、言った。言ったらトールと、生産職の面々からはこんなセリフが返って来た。

「いやはや、こんな事もあろうかと!! が言いたくて」

 アホなの? と言いたいのをグッと堪えたライデンさん。しかも先程、【サクロン・インフェルノ】をぶっぱしているのだが。

 その点に言及した所、地面の下に埋めているらしい。それでも効果が見込めると豪語するあたり、余程の自信があるのだろう。


「まぁ、うん……そこらへんは置いておくとして、実際に使ってみる価値はあるね」

「是非、使って貰いたい。導火線は拠点内から、火を点けられるから安全だ」

 やる事が細かい。というか、そんな暇あったのか? とツッコミを入れたい。だがライデンは、それをグッと堪えて頷いた。

「エリアボスや相手ギルドが接近したら、ぶっぱして良いよ」

 指示が投げやりになってしまったが、ライデンも情緒を不安定にさせられ続けていっぱいいっぱいなのだ。許してあげて。

 逆に【聖印の巨匠】の面々は、我が意を得たり!! と沸き立った。

「お任せあれ!!」

「よっしゃあ!! ボムるぜぇ!!」

「折角設置した物だし、使いたくて仕方が無かったのよね!!」

「派手に行くわよぉ!!」

 早まったかな……ライデンがそう考えてしまったが、もう既に彼等は駆け出していた。その背中は、いつもより大きく見える。気のせいかもしれないけど、気のせいだね。

「……まぁいっか」

 後は野となれ山となれ、の精神だ。むしろ、うまく行かなかった時の為の策を立てておこう。うまく行ったら、後で彼等に何か奢ってあげるとしよう。ゲーム内だけど。


……


 で、結果。

「く……っ!! 爆破とは、小癪な真似をしてくれる……!!」

「あー、応援者は全滅しちゃったかぁ……」

 【遥かなる旅路】、残存戦力七名。(ロビン・オヴェール・リーリン・他四人)


「≪ライフポーション≫を使って、この人数か……」

「してやられましたね……」

 【森羅万象】、残存戦力六名。(クロード・ヴェネ・他四人)


「……意外な手段に出たな、【聖光】も」

「追い詰められてる……って事かもよ? なにせ、ウチ以外にもこれだけのメンツだもの」

 【桃園の誓い】、残存戦力六名。(ケイン・イリス・レオン・マール・マーク・ファーファ)


「シオンさんが居なかったのは、痛手ですね」

「いや、この程度の損害で済んだだけ御の字だ」

 【七色の橋】、残存戦力六名。(ヒイロ・レン・リリィ・コヨミ・セツナ・ロータス)


 そして、実は接近して機を覗っていた者達が居た。

「あらら……応援者は全員落ちちゃったわねぇ」

「……やってくれたわね」

「落ち着け、ミリア」

「あはは、まぁ気持ちは解らなくも無いけどね」

 エリアボスや、他ギルドと同調して攻め入るつもりだった【魔弾の射手】……残存戦力三名。(ジェミー・クラウド・ミリア)


「……まだ鍛錬が足りなかったか?」

「いやいや、アレを無傷で避けられたジライヤさんがおかしいんですよ……」

「君もじゃないか」

「ギリッギリでしたけど!?」

 きっと【七色の橋】の誰かしらが来るだろうから、援護しようとメンバーを派遣していた【忍者ふぁんくらぶ】。残存戦力、二名。(イズナ・ジライヤ)


―――――――――――――――――――――――――――――――

【魔弾の射手】(18人→3人)

 ジェミー・クラウド・ミリア、応援NPC15人


【忍者ふぁんくらぶ】(15人→2人)

 ジライヤ・イズナ、プレイヤー13人

―――――――――――――――――――――――――――――――


「いやいやいや、うまく行ったけど!?」

「ライデンさん、もうちょっと期待してあげて下さい……」

「……俺も、ここまで削ってくれるとは思わなかったな……」

 幹部三人が目を丸くしている横で、【聖光の騎士団】の面々も「完全に同意」といった具合に頷いている。その視線の先で、【聖印の巨匠】の面々がハイタッチなんぞかましている。テンションアゲアゲである。


 しかし、問題が全て解決したわけでは無かった。

「……はっ!? 生産チーム、撤退!! エリアボスは健在だ!!」

 そう……【聖光の騎士団】に襲来した北側第二エリアボス・フェンリルは、ダメージを負ったものの未だ健在であった。爆発を敢行した生産職のメンバーに、険しい視線を向けている。

「あ、やべ」

 慌てて逃げ出す生産メンバーだが、それを逃がすフェンリルではない。戦闘向けのステータスではない彼等は、急速に接近するフェンリルの巨体に触れただけで吹き飛ばされた。

「おこなの?」

「おこですね」

「おこだな」

 そりゃあ、盛大にボムられたのだ。フェンリルさんも当然、おこだろうとも。生産メンバーは盛大に吹き飛ばされ、拠点の内外に墜落して戦闘不能になった。当然の様に、一撃死である。


 そのままフェンリルは【聖光の騎士団】を襲うと思われたが、別段そんな事は無かった。一度雄叫びを上げると、フェンリルは生存していた【森羅万象】の面々へ向けて突進していく。

「なにっ!?」

「……どうやら、ボスには所属ギルドは問わず……目に映る全てを敵対者と見做している様ですね」

 クロードとヴェネは難なく回避したが、他の面々は唐突なフェンリルの急襲に対応し切れなかった。一気にHPを減少させられ、危険域に突入している。


「あれ、フェンリルってあんなに強かったっけ?」

「今回のイベントの、仕様でしょうか?」

 ヒイロの疑問に、リリィが私見を唱える。第三エリア到達の三ギルド同盟に、リリィも参加していたので意識共有が出来ている状態である。

 そんなリリィに、レンも同意してみせた。

「私もそう思います。だとすれば第一エリアボスも、あのままの強さでは無いのでしょうね……居るかは解りませんが」

 既に彼等にとってはサンドバッグ扱いされている、ドラゴンさん達である。もしかしたら、逆襲とばかりに【七色の橋】の拠点に襲来しているかも。


 と、そこでヒイロにメッセージが届いた。

「……ケインさん?」

 それぞれ別方向から【聖光の騎士団】の拠点を目指していた為、現在値は少し離れている。それ故に、メッセージを送信したのだろう。

「成程、それもありか……皆、聞いてくれ。【桃園の誓い】から、エリアボス討伐までは休戦しないかという提案が来たんだが」

「……まぁ、それも良いと思います」

「確かに、この戦力でエリアボス相手はキツいですもんねぇ」

「私も賛成ですね」

 セツナとロータスは「主の判断に任せる」といった態度で、立っているだけ。なのでプレイヤー四人で決が取れたならば、確定だ。


 しかしそこへ、闖入者が現れる。

「御前失礼致します!」

 シュバッ!! という擬音がピッタリな素早さで、ヒイロ達の目前に現れたのは忍者装束の少女……【忍者ふぁんくらぶ】のメンバー・イズナだ。その体勢と態度から、いかにも「馳せ参じました!!」みたいな雰囲気である。

「確か、イズナさん……でしたね?」

「はい、レン様!!」

「……様はやめましょう、様は」

「んー、それは出来ない相談ですねー」

 なんでやねんと視線で訴えるレンだが、イズナはどこ吹く風である。レン様のジト目攻撃に微塵も揺らがないあたり、メンタル図太いのかも。

「それはさておき、なんですが」

 置かないで、という視線のレン様。しかし、イズナは全く揺らがない!! この娘、つよつよメンタルだ!!


「頭領様並びに【七色の橋】の皆様方のお力になるべく、参りました!! 共闘の件、私共も戦線に加えて頂きたいですっ!!」

次回投稿予定日:2022/12/24(本編)


そうそうたるメンツが集う【聖光】拠点。

そして、エリアボスが現れたとなると他の拠点も……という所で、また次回は別の戦場のお話しとなります。


クリスマスイヴなので!! クリスマスイヴなので!!

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― 新着の感想 ―
まさかユージンより先に地雷パイセン使うところがいるとは思わなかった!
[良い点] 爆発は芸術だ!(笑) [一言] そして自爆はロマンだ!(汗)
[良い点] 前半と後半の温度差ァッ!!! まぁ、流石のライデン君もボスクラスが同時多発テロしてきたら取り乱しもするわw なんなら翌日学校でヒイロ本人にツッコミ入れても許されるレベルw 巨匠メンバー…
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