15-04 幕間・運営観測室
戦闘開始から、一時間。この時点で、少なくないギルドがクリスタルを破壊されてポイントを減らしていた。その中にはギルドポイントを失ったり、五回目のクリスタル破壊を受けて敗退するギルドもいる。
観測マップに詰める運営メンバー達は、そんなイベントマップの様子を見守りながら……引き攣り笑いをしていた。
「予想していたより、中小規模のギルドが脱落するペースが早いですね……」
「というか、加速度的に増えているな……脱落ギルド」
「あっ、【煉獄】が脱落しましたね」
中規模・小規模のギルド同士でも、戦闘が激しくなっているのは事実。しかしながらイベントマップの要所に拠点を構える、過去のイベントでも活躍した主要ギルド……特にその周辺が、激戦区と化していた。
「【聖光】と【森羅】は、やはり他よりも勢いがあるな」
「まぁ、人材が豊富だからな」
大規模ギルドとして名を馳せる【聖光の騎士団】と、【森羅万象】。この二つのギルドは全体の練度が高く、生半可な戦力で対抗するのは困難だ。更に、部隊を率いる実力の持ち主……強力なプレイヤーにも恵まれているのである。
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『さぁ、【ルナティック】の拠点はもうすぐですわ! 皆さん、回復等はお済みですの?』
『万全の体勢に整える必要があります、まだの方は今の内にお申し出下さい』
アリステラとセバスチャンの主従……に見せかけた兄妹コンビは、ギルド【天国への扉】を攻め切ってクリスタルを破壊した。更にその場に居た【仮設ギルドC】のプレイヤー達を撃破し、そのまま【ルナティック】の拠点へと進軍中だ。
「【天国】に【ルナティック】か。正統派ギルドばかりだな」
「あぁ。中々の強敵揃いだが……アリステラ達は、苦戦する事なく突破したな」
『よし、準備は出来たね? それじゃあ姉さん』
『オーケーだ! さぁ野郎ども! アタシら【聖光の騎士団】の力を、存分に見せ付けてやろうじゃないか!』
シルフィとベイルの姉弟コンビも、シルフィを主軸とした圧倒的な力でギルド【問答無用】を撃破。続いて現在、ギルド【風雲児】の拠点を目視で確認。突撃に向けて、体勢を整えた所であった。
「ちなみに【問答無用】って、どんなギルドだったんだ? 俺、別の所見ててさ」
「普通の人達でしたよ? シルフィさんが声を掛けようとしたら、戦闘の手を止めて耳を傾けましたし」
何で【問答無用】なんてギルド名にしたんだろう……運営メンバーの誰もが、そんな疑問を抱いた。
「しかし、特にギルバートとヴェイン……この二人のチームの疾走感は、半端無いな」
「まぁ、【聖光】の俊足を集めたチームですからね」
運営メンバーの一人がそう言うと、誰もが頷いてみせた。前衛・後衛共に機動力を重視した、速攻部隊。その勢いは、正に破竹の如し。
『流石だ、ヴェイン。君が背中を守ってくれていると思うと、実に心強い』
『あんま目立ちたくは無いんですけどねぇ、やりにくくなるんで。ま、仕事はやりますけどね』
彼等は既にギルド【オジちゃんズ】と【精霊の祝福】、そして【春日部の最終兵器】を制圧している。更にそのまま、ギルド【電光石火】に向けて進軍中なのである。
そしてギルドマスターであるアークが率いる、主力部隊。こちらはライデンとルーが脇を固め、ただでさえ強いアークを支援魔法で強化しての襲撃である。
既にギルド【煉獄】と【フルアーマー同好会】が全滅させられ、現在は【財団A】との戦いを始めた所だ。
『はぁっ!!』
アークは勇猛果敢に最前線に立ち、圧倒的な力で【財団A】のメンバーを斬り倒していく。その存在感から、彼がトッププレイヤーの中でも抜き出た実力者の一人と実感させられる。
そして【財団A】にとっては絶望的な事に、彼の脇を固めるのは【聖光の騎士団】が誇る参謀と魔法職だ。
『相変わらずの強さだね。アークさんに全部取られない様に、僕達もペースを上げようか。ルー、お願いね』
『任せて下さい、ライデンさん!! 皆さん、行きますよー! 【バイタリティアップ】!!』
【煉獄】は応援NPCとの連携が上手くできず、襲撃者に一太刀も浴びせる事が出来ず全滅。防御力には定評のある【フルアーマー同好会】も、真っ向から斬り伏せられてあえなく全滅したのだった。
そして、【財団A】が全滅させられるまで……そう時間はかからないだろう。
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「やっぱ、【聖光】は強いな」
先の映像を見れば、【聖光の騎士団】が上位にランクインするのは確実だろう。しかし、快進撃を見せているのは、【聖光の騎士団】だけではない。
「なら、【森羅万象】も見てみなよ。勝るとも劣らぬ、爽快感があるぜ」
そう言って、モニターの映像を拡大した青年。メンバー達がその映像に視線を向けると、そこでは赤髪の少年が縦横無尽に駆け抜けていた。
『悪く思うなよ……【デュアルスラッシュ】!!』
HPが危険域のプレイヤーに向けて放たれた、トドメの二連撃。それによって、【倫理保障機関】のギルドマスターである【こたつ】が戦闘不能に陥った。
こたつを撃破したアーサーだが、その背後に【倫理保障機関】のメンバーが迫っている。手にした短剣でアーサーを刺し、仇を取ろうと目論むが……。
『【ヘビーショット】!!』
その頭を矢で射抜かれ、倒れた。
『アーサーさんには、指一本触れさせません!!』
アーサーの背を守るのは、弓使い・アイテル。彼女は【閃光】の異名を持つアーサーに、付いていけるだけのAGIを持ち合わせている。大変、貴重な後衛職なのである。ちなみにアーサーに同行できなかったので、シアとナイルは大層悔しがったそうな。
「アーサーとアイテルで、既に【紙装甲】と【ヘルヘイム】……そしてこれで、【倫理保障機関】も潰したな。とんでもねぇよ、マジで」
ちなみに【紙装甲】とは、ギルド【紙装甲の騎士団】の略称だ。そんなギルド名なので、装備品は露出が多い。まぁ、メンバーは全員男性である。
そして【ヘルヘイム】とは、ギルド【ヘルヘイムコーポレーション】というギルドである。何かツタが伸びて来たり、人を怪物に変貌させる果実を売っていそうな社名である。ぜってぇ許さねぇ。
「次は……この分だと、【小悪魔の契約者】かな?」
「でしょうね……何箇所行く気かしら」
「【森羅】の他のチームは?」
一人の運営メンバーがそう問い掛けると、女性メンバーがモニターを指差した。
「当然、ド派手にやってるわ。クロードチームが三箇所、オリガチームとラグナチームでそれぞれ二箇所を殲滅済みよ」
クロード率いるチームメンバーは、ナイルを含めた突破部隊。既に【鉄血工房】を内倒し、【ファンタスティック・アドベンチャーズ】を圧倒している。
『感謝する、ナイル!』
『クロードさんが、守ってくれているお陰……です』
攻撃する事で回復できるクロードなので、多少強引な攻め方が可能。更に研ぎ澄まされた剣術も相俟って、殲滅力はアークに匹敵するものだった。
オリガとヴェネが率いる突撃チームは、最寄りのギルドである【ダンスマカブル】を殲滅。そのまま北上し、ついさっき【開闢の刻限】のギルドクリスタルを破壊した所だ。
『さぁて、次は何処だっけか?』
『予定では、ギルド【黒ひげフレンズ】……凄い名前ですね』
名前は気にするな!!
ラグナとシアの部隊は、拠点の北側に位置する【唯我独尊】を撃破。そこから【異世界観光ツアー】を倒し、今は【闇鍋クラブ】の拠点を目指して疾走している最中である。
『あーあ、アーサーと一緒なら良かったのになー』
『くっ……お、俺だって頑張ってるのになぁ……』
ラグナはとにかく、頑張れ。
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凄まじい勢いで戦闘を繰り広げるプレイヤー達の姿を見て、運営達は満足感半分で笑っていた。もう半分? こいつらやべーなっていう苦笑です。
「中小ギルド、今日を生き残れるかね」
「さぁ……逆に【聖光】や【森羅】を狙うギルドは、無しなのよね?」
「あぁ、今のところ。昨日、痛い目を見たギルドは少なくないからなぁ」
それは【七色の橋】襲撃に加担して、主戦力を向かわせた事によるしっぺ返し……その影響だ。
二度、三度とクリスタルを砕かれたギルドは、決して少なくはない。
そんな現状で大規模ギルドを攻めるなど、自殺行為に他ならない。狙うならば、中小規模のギルド。それは主要ギルドの側に拠点を持つ者達からすれば、当たり前の作戦だ。
「で、【七色の橋】はどうかしら?」
エリアがそう言うと、側に座ってコンソールを叩いていたメンバーがニッコリと笑う。
「ヒイロ・ハヤテ・ヒビキ・マキナをリーダーとした四チームで、四方に分散して他ギルドへ……ジン率いる速攻部隊がギルド拠点を中心に駆け回り、攻撃と防御を兼任です」
言葉を切った直後、モニターに映し出されるジン達の様子。スキルや武技を駆使し、またも気付かれる前にギルド【限界突破ゲーマーズ】のクリスタルを破壊した所だった。
「うわ、本気で速攻っすね」
「まぁなぁ……」
ここへ来るまで、ジンは三つのギルドを撃破していた。【魂の咆哮】【ナスカと愉快な仲間達】に続いて、【限界突破ゲーマーズ】を撃破。その後は一度ギルド拠点に立ち寄り、異常がない事を確認していた。
「装備やアイテムが、他ギルドに奪われる心配は無い……唯一、手を出せるのはギルドクリスタルだけ」
「えぇ。そしてクリスタルを持ち出してしまえば、拠点に防衛戦力を置かずに済む……か。大胆な作戦だわ」
ギルドクリスタルを一度台座に戻したジン達は、すぐに再出撃。先程とは別方向へと駆け出して、【深淵】の拠点かある方角へと駆け出していた。
「【隠密】からの陽動、そこで潜入し目標を破壊。今回は、マジで忍者っぽい戦い方をしているよな」
「そして、その戦術が功を奏している……ね。各ギルドがジンに気付くのは、クリスタルが破壊された後だもの」
こうなった原因は、プレイヤー達の固定観念によるところが大きい。
ジンは忍者ロールプレイをしているが、忍者そのものではない。忍びなれども忍ばない、それがジンだと考えていた。
だから姿を隠しての奇襲など、しないはず……そんな考えが、彼に対する警戒心を薄れさせていた。
しかしそれは、大きな勘違いだ。ジンは第一回イベントの際には既に【隠密の心得】を保有し、使いこなしていた。
ジンは決して、忍ばないのではない。本気で忍んだジンを、誰も見付けられていないだけなのである。
そしてヒイロ達も、快進撃を続けている。ジンチームに拠点周辺を任せるので、彼等は一直線に進んでいるのだ。
ヒイロ達は【戦場の支配者】と【七天の担い手】を倒し、【常識の破壊者】の拠点に向かっている所である。
主砲のレンと、それを守る要塞のシオン。更にヒイロとセツナが敵を尽く斬り伏せ、ロータスが暗殺戦術で敵を混乱させる戦術だ。
ハヤテチームは東側へ向かい、【㈲三毛猫】を倒し【不滅の勇士】の拠点へと向かっている最中だ。
MPを消費する事で、高威力攻撃を放てるハヤテとカゲツの主従コンビ。更に冴え渡る技量で敵を圧倒する、アイネとジョシュアの主従コンビ。そして重量武器を投げる事で、相手に大ダメージを与えるカノン。クベラも大枚をはたいて購入した銃や大砲で、しっかりと戦闘に貢献していた。
ヒビキのチームは北側へ向かい、【部隊666】を撃破。そのまま北上し、たった今【ヴァンガード】を壊滅させた所である。
チームの中心となるのは、ヒビキ・センヤの幼馴染カップル。支援役のミモリと、ゲストメンバーであるユージンはサポートに徹している。
マキナの率いるチームは、速攻と魔法を軸にした戦術のチームだ。同行するリリィの【魔楽器】によるバフも、戦力を大いに底上げしていた。
こちらは【Fabulous Division】を倒した後、勢いのままにギルド【スライムスレイヤー】へと攻撃を開始。戦況は優勢で、もう間もなく決着が付くだろう。
しかし、【七色の橋】の目的はギルド拠点の破壊だけではない。同時に素材集めにも、人手を割いていた。
「PACや応援NPCと、上手く協力していますね……専門職のNPCは、製作だけではなく採取にも精通していますから」
生産系のPACや応援NPCを連れて、戦場に向かった理由がこれだ。モンスターや獣、自生する植物。その知識に長けているのは、やはり専門的にそれを生業とする存在である。
料理人のカームと農家のメーテルは、木の実やキノコ・山菜を集めていく。鍛冶師のボイドも、鉱石等を次々に採取していく。生産系の応援NPC達も、自分の知識を活かして素材を集めていっているのだ。
「プレイヤーと現地人が、最も調和したギルド……それは、間違いなく【七色の橋】だろうな」
シリウスがそう言うと、運営メンバー達は笑みを浮かべて頷いた。モンスターやボスに、愛着を抱く者が多い運営である。自分達が手掛けたキャラクターは、更に大切な……我が子の様な存在と言っても、差し支えないだろう。
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「他に、注目株はいるか?」
シリウスがそう言うと、一人のメンバーがニヤリと笑って返す。
「やはり、現時点での上位ギルドですかね」
そう返したメンバーは、モニターを拡大して全員に見える様に表示した。
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1位 ギルド【聖光の騎士団】
2位 ギルド【森羅万象】
3位 ギルド【七色の橋】
4位 ギルド【魔弾の射手】
5位 ギルド【桃園の誓い】
6位 ギルド【忍者ふぁんくらぶ】
7位 ギルド【遥かなる旅路】
8位 仮設ギルドC
9位 ギルド【天使の抱擁】
10位 仮設ギルドA
11位 ギルド【暗黒の使徒】
12位 ギルド【白狼の集い】
13位 ギルド【竜の牙】
14位 ギルド【フィオレ・ファミリア】
15位 ギルド【真紅の誓い】
16位 ギルド【絶対無敵騎士団】
17位 ギルド【闇夜之翼】
18位 ギルド【ラピュセル】
19位 ギルド【漆黒の旅団】
20位 ギルド【ベビーフェイス】
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「ある程度予測出来ていた十位内より、二十位から十一位の方が面白いですね」
「ええ。近場のギルドを相手にしながら、着実にポイントを重ねていっています」
「しかし仮設ギルドも、意外とやるな……」
「あれ、【漆黒の旅団】が……」
「スパイの件で、やはり【天使の抱擁】は順位を落としているな」
第二回イベント決勝トーナメント出場を逃していた、【真紅の誓い】【絶対無敵騎士団】【ラピュセル】。どのギルドも「次こそは」と戦力増強に努め、このイベントに臨んでいた。
【真紅の誓い】は三組、【絶対無敵騎士団】は五組、【ラピュセル】は二組の前線部隊による、他ギルドへの攻撃を敢行。それによる成果が上がった結果が、この順位である。
一方【闇夜之翼】は、結成されたのがつい一月前という新興ギルドだ。とはいえ、彼等のプレイ日数が短い訳ではない。
メンバーのほとんどが、かつてギルドに所属していたが馴染めなかった者……または、ギルドに所属するのを躊躇っていた者。そういったプレイヤー達が、意を決して立ち上げたギルドなのだ。スキルや装備も整っており、決して弱くはない。
現に彼等は、三組に分かれて他ギルドへの強襲作戦を開始。三つのギルドを下し、快進撃を続けている。
そして【竜の牙】……こちらは、第三回イベントの最中にAWOに参戦したプレイヤー達のギルドだ。元々は【ラストクエスト・オンライン】、通称・LQOというゲームで活躍していた集団だった。LQOではトップギルドの一角として注目されていた彼等だが、十月にLQOがサービス終了となってしまった。
そこで彼等は、現在のVRMMO界隈で最も話題性のあるゲーム……AWOに移籍して来たのである。AWOに参入してすぐにレベリングとスキル・装備の強化……そしてメンバー集めを推し進め、満を持してこの第四回イベントに参戦したのだった。
そんな彼等なので、周囲のギルドに対しても積極的に襲撃を行っている。既に四つのギルドを落とし、更に進軍を進めているのだった。
そしてAWO正式サービスが開始されてから、徐々に人気を集めてきたギルドがある。そのギルドが、【フィオレ・ファミリア】だ。
こちらはギルドマスターを務める女性【フィオレ】が、配信プレイヤーをしている。そしてAWOより以前まではソロ配信者だった彼女だったが、AWO開始と同時に固定メンバーを迎えて配信を開始している。その固定メンバーが、彼女の弟と妹であった。
フィオレは弟妹にとても優しく、視聴者もギルドメンバーも楽しませようと常日頃から心を砕いていた。そんなフィオレなので、仲間からの信頼が厚いプレイヤーである。
故にチームワークは他のギルドに劣らず、このイベントでもそんなチームワークの良さが存分に発揮されていた。
「これで更に、中小規模のギルドが脱落していくと……最終日までに、二十組以上残るかね」
そう言うと、男性メンバーは視線を他のモニターに向けた。
「【遥かなる旅路】も、更に勢いを増している。【桃園の誓い】や【魔弾の射手】、【忍者ふぁんくらぶ】とはポイント差もそう大きくはない」
しかしながら、このまま単純に各ギルドが各々の狩り場でポイントを増やせる……とは限らない。ギルドを攻める内に、他の強力なギルドと鉢合わせするからだ。それはこの状況が加速すればする程、可能性が高くなっていく。
そして、その時が訪れた。
「【闇夜】が【破壊者】の拠点に向かっているな。【七色】とぶつかるぞ」
次回投稿予定日:2022/7/10(本編)




