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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第二章 ゲームをエンジョイしました

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02-07 知り合いが増えました

 レンとシオンが、正式にパーティメンバーとなった二日後。ジンがアナザーワールド・オンラインにログインすると、ユージン以外のフレンドは誰も居なかった。

「ヒイロとヒメノさんは、家族で出掛けるんだっけか」

 学校で、英雄ヒイロからそう言われていた事を思い出す。ログイン出来ても、恐らくは20時以降だと言っていた。

 レンとシオンが居ないのは、恐らく習い事の最中なのだろう。レンはいくつかの習い事をしているらしく、遅い時は21時を過ぎるらしい。


「随分と久々のソロ活動かなー」

 独り言ちながら、ジンはフィールドの方へと歩いていく。目的はモンスターを狩って、売却できる素材を集める事だ。

 ユージンへの借金は減ったものの、まだまだ残っている。先日のチケットは高値で買い取ってくれたのだが、まだ二十万ゴールドくらいは借金が残っているのだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――

■プレイヤーネーム/レベル

 【ジン】Lv15

■ステータス

 【HP】78/78《+10》

 【MP】24/24《+10》

 【STR】10【-50%】《+10》

 【VIT】10【-50%】《+10》

 【AGI】48【+65%】《+30》

 【DEX】10【-50%】《+10》

 【INT】10【-50%】《+10》

 【MND】10【-50%】《+10》

■スキルスロット(3/3)

 【短剣の心得Lv5】【体捌きの心得Lv6】【感知の心得Lv3】

■拡張スキルスロット(3/3)

 【九尾の狐Lv4】【刀剣の心得Lv5】【分身Lv2】

■予備スキルスロット(4/5)

 【毒耐性(小)】【採掘の心得Lv1】【投擲の心得Lv2】【体術の心得Lv1】

■装備

 《闇狐の飾り布》HP+10、MP+10【自動修復】

 《夜空の衣》全ステータス+10【自動修復】

 《初心者のポーチ》収納上限50

 《大狐丸》AGI+10【自動修復】

 《小狐丸》AGI+10【自動修復】

―――――――――――――――――――――――――――――――


 さて、ジンと言えば忍者。忍者と言えばジンだ。当然の事ながら、目立つ。

「おぉ? 忍者が今日は一人だな」

「相棒の武者は居ないのか?」

「本当、どういう関係なんだろうな」

「レン様やシオンと、五人で一緒に歩いている所を見たぞ」

 ジンはサーバー[フロウド]において、いつの間にか有名人になっていた。本人の装いと、共に歩く一部のメンバーが注目されているからだ。

 そんなジンに興味を抱いた数人のプレイヤーが、何をするのかとこっそり同じ方向に歩き出した。悪意からではなく、ただの好奇心からである。


 フィールドへ出たジンを、ばれないように尾行するプレイヤー達。こっそりと物陰に身を隠す様子は、どちらが忍びか解らない。むしろ、ジンが忍んでいないだけかもしれないが。

 すると、突然ジンが走り出した。突然のトップスピードに、後を尾行していたプレイヤー達は何が起こったのかと目を剥いた。


「もしかして、気付かれたか!?」

「ってか、何だあのスピード!?」

 見失うものかと、慌てて追いかけるプレイヤー達。幸いジンはすぐに止まった為、追い付く事は容易だった。しかし彼等が視線を向けると、何やら四人の初心者らしきプレイヤーと会話していた。その足元には、サーベルウルフの死体が転がっている。


「……もしかして、あの子達を助ける為に走ったのか?」

「いやいや、まさか。めっちゃ距離離れていただろ……」

「でも……忍者的な力で、気付いた可能性もあるだろ」

「忍者的な力ってなんだよ……忍術かよ」

 有り得ないと思いつつ、もしかしたらと思ってしまう。そう思わせるだけの何かが、ジンにはあった。


************************************************************


 フィールドに出たジンはいつも通り、≪闇狐の飾り布≫をグイッと上げて口元を隠す。これが、ジンの忍者ムーブが入るスイッチである。そしてスイッチを入れたジンは、久し振りにAGI値の高さを駆使して走り出した。

 それを目撃していたプレイヤー達には全力疾走に思えたのだが、彼にとってはウォーミングアップ程度のスピードだ。


 そんなジンだったが、【気配察知Lv3】で数名のプレイヤー……そして、モンスターの気配を察知した。この辺りは初心者の狩場として賑わっているので、プレイヤーが居ること自体は不思議でも何でもない。

 しかしジンは、何となく嫌な予感がしていた。直感に従ったジンは進路を修正し、気配のする方へと駆けて行くのだった。


 ジンが急ぎ足で走れば、あっという間にプレイヤーとモンスターが戦っている場所へ辿り着いた。

「皆、大丈夫!?」

「逃げられない……もう、どうして私達がこんな目にっ!!」

 そこに居たのは、四人の女性。装備からして、見るからに初心者だった。


 見た目から察する事が出来る年齢は、二十代前半くらいだろうか。プレイヤーのアバターなので、外見を弄っている可能性も有り得る。

 最も、プレイヤーの外見年齢は大幅に変更する事は出来ない。できて五年が精々だ。


 理由は簡単で、現実とかけ離れた容姿や年齢、性別で長い時間ゲームをプレイしていると、ログアウトした際に不都合が発生するからだ。

 ゲームでの感覚を、現実世界で発揮する。これによって発生した不都合は、いくつもの事例が報道されて来た。VRが台頭して、古い考えの著名人がVRを否定する事もしばしばあったのだ。

 そういった世論を納得させる為に、プレイヤーキャラクターの変更は制限が設けられているのである。


 それはさて置き、問題は四人の女性を襲っているモンスターだ。鋭く長い牙が覗く、獰猛な獣。懐かしのサーベルウルフである。それが三匹も居るのだ。

 本来、サーベルウルフは森の奥に生息するモンスターだ。初心者が主に活動する場所である平原には、現れないモンスターである。そんなサーベルウルフが、何故ここに居るのか?


――ま、それは後回しだね。


 強力なモンスターの出現に、混乱している四人の女性達。ここは助けに入るべきだろう。

「突然失礼! 助力は必要でゴザルか?」

 サーベルウルフと女性達の間に立って、ジンが小太刀を構える。その背中を見た女性達は、目を見開いて動きを止めた。

 突然の闖入者に、サーベルウルフは獰猛な唸り声を上げる。一声吠えると、先頭のサーベルウルフがジンに飛び掛かった。


 小太刀で【一閃】を放とうとし……それを思い留まったジン。先日入手したばかりの武技を発動する。

「【ナックル】」

 AGI極振りさんにとって、サーベルウルフの動きなど大した脅威ではない。レベル1時代に散々その攻撃を回避し、行動パターンを熟知しているのもある。


 ちなみに【ナックル】を選んだのは、サーベルウルフを殺さない為である。STR値が15の状態で小太刀を使ったら、あっさり殺してしまいかねないのだ。その点覚えたばかりの【ナックル】は、武技の熟練度がレベル1。これならば安心である。


 わざと殺さない理由は、背後の女性達だ。万が一「私達が倒すつもりだったのに!!」とか、後出しで言われたら堪ったものではない。

 彼女達が助力を求めるか、それとも自分達で何とかするか……ジンは出方を窺っているのだ。


 それに対する返答は、簡潔であった。

「た、助けてくれるんですか!?」

「私達、トレインに遭ってしまって……!!」

 トレイン……それは、MMORPG用語だ。モンスターの群れを引き付けて、そのタゲを他人に押し付ける。嫌がらせだったり、モンスターを使ったPKプレイヤーキル目的……MPKモンスタープレイヤーキルの手法である。


 経緯はともあれ、彼女達は助けを求めた。ならば、ジンがやる事は一つだ。

「心得た。では、ここからは拙者が相手をしてやろう」

 両手の小太刀を構えたジンは、【ナックル】を喰らったサーベルウルフに接近する。

「【一閃】」

 右手の≪大狐丸≫を振るい、サーベルウルフの首を斬り付ける。激しい光のエフェクトは、クリティカルが発生した証だ。


 更にジンは、左手の≪小狐丸≫を振るった。その刀身がサーベルウルフに触れると、エフェクトが再び発生する。

 これは先日、偶然発見した現象……そう、一つのスキルを左右一度ずつ発動できる事に気付いたのだ。つまり、二発目の【一閃】である。こちらもクリティカルとなり、二匹目のサーベルウルフはあっさりと死んだ。


 技後硬直を受けるも、【一閃】は硬直時間が短い。加えて、ジンはサーベルウルフの行動パターンを熟知している。故に、ジンに焦りは無い。

 最後の一匹が、牙を剥いてジンに迫る。仲間達を容易く屠られ、怒り心頭といった所だろうか。少なくとも、ヘイト値は稼げている。

 だが、そんな事に頓着するジンではない。

「【一閃】」

 クールタイムが終わり、再使用可能となった【一閃】。両手の小太刀を振るい、サーベルウルフを二度斬り付ける。


 ジンが救援に入って、一分足らず。その僅かな時間で、三匹居たサーベルウルフは狩り尽くされてしまうのだった。


 ……


 サーベルウルフをあっさりと倒したジンは、自分が強くなっている事を実感していた。仲間達との冒険で、プレイヤーレベルやスキルレベルが上がっている事が解ったのだ。


「あの、ありがとうございます!」

 成長している事に感動を覚えていると、背後から女性の声で話しかけられたジン。我にかえって振り返ると、四人の女性が並び立っていた。


 声を掛けてきたのは、黒髪の女性だ。

 黒いセミロングヘアの女性は、猫を思わせる吊り目をしている。しかしキツいという印象を受けないのは、彼女が穏やかな笑みを浮かべているからだろうか。


「私は【レーナ】といいます。助けてくれて、ありがとうございました」

 そう言って手を差し出すレーナ。ジンは小太刀を鞘に納め、ズボンで軽く手を拭ってその手を取る。

「困った時はお互い様、間に合って良かったでゴザルよ」

 無意識に忍者ムーブしているジン。町中では控えるものの、フィールドではいつもの癖で忍者してしまうのだ。

 しかし、そんな忍者をレーナは笑顔で受け入れている。どうやら彼女は、懐が深い人物らしい。


「私は【ルナ】という名前でプレイしています、本当にありがとうございました」

 サイドテールにした亜麻色の髪が特徴的な、スレンダーな体型のルナ。垂れた目を細めて微笑む姿は、可愛らしいという印象を抱かせる。


「【ミリア】よ、救援に感謝するわ」

 ロングストレートの銀色の髪をかき上げるミリアは、切れ長の目でジンを見ている。レーナやルナと違い、ジンの動向を注視しているようだ。最も、警戒心を全面に押し出しているわけではない。

 とはいえ、警戒されるのは当然である。ジンとしても不快ではないので、ミリアの態度にも不満は抱かない。


「おぉー! ニンジャさんですね! ジャパニーズニンジャ! カッコイイです!! クールジャパン!」

「駄目だよ、【シャイン】。ちゃんとお礼を言わないとー!」

 レーナに諭され「おー! そうでした!」というリアクションを取るのは、金髪ウェーブに、青い瞳を持つ女性。東洋系とは異なる顔立ちから、外国人だとすぐに解る。

「助けてくれてありがとうです! マイネームイズ、シャインです!」

 満面の笑顔を浮かべるシャインに、ジンも思わず口元が緩む。彼女はどうやら、人の心を暖かくする不思議な魅力の持ち主らしい。


「自己紹介、痛み入るでゴザル。拙者はジンでゴザルよ」

「オーケー! ジンね、覚えたわ!」

 テンションが高いシャインに、ジンはヒメノと気が合いそうだと思ってしまう。

「ジンさん、改めてありがとうございました!」

「初めてフィールドに出たっていうのに、あのまま死に戻りするかと思ったからねー」

 どうやら、彼女達は本当に初心者プレイヤーらしい。


 ここでジンは、気掛かりを一つ思い出す。

「先程のサーベルウルフは、森の奥にしか居ないモンスターのはず。トレインに遭遇したと口にしていたが……」

 その言葉に、ミリアが頷いて口を開く。

「三人組のプレイヤーが、このモンスターを引き連れて来たの。私達がモンスターの視界に入ると、そいつらは忽然と姿を消してしまったのよ」

「話を聞く限り、故意の可能性が高いでゴザル。災難でござったな……」

 MPK目的でトレインしたのは、ほぼ確実だろう。気分の悪くなる話に、ジンは顔を顰めた。


「それで、私達はあなたに何をすれば良いのかしら? 残念だけど、まだ一匹もモンスターを狩っていないの。所持金は初期値のままなのよ」

 妙にトゲのある言い方をするミリアに内心で首を傾げつつ、ジンは首を横に振る。

「見返りを求めて助けた訳ではござらぬよ。気にしないで欲しいでゴザル」

 そう言うと、ジンはある一方を指差した。

「あちらの草原なら、他のプレイヤーの目に付きやすい。今回みたいなMPKはしにくいハズでゴザル」

 そう言うと、女性達は顔を見合わせて苦笑する。そんな様子に、ジンは首を傾げた。

「えーと、目に付きやすいからこっちへ来たというか……」

「声はかけられるわ、チラチラと視線を向けながら周囲をうろつくわ……そんな有様だったから、逃げて来たのよ」

 レーナとミリアの言葉に、ジンはようやく合点がいった。


 四人が四人とも美人、そしてまだ始めたばかりの初心者である。

 俺達が手取り足取り教えてあげるよ! みたいな感じで声を掛ける輩の姿が、目に浮かぶかのようだ。勿論その台詞を言う時には、鼻の下をだらしなく伸ばしているのだろう。


 そんな鬱陶しい男達を撒いた彼女達は、運悪くMPKを目論むプレイヤーの標的になってしまった。

 その辺りでヒョコヒョコ跳んでいるウサギモンスターや、プルンプルンと震えているスライムならばまだ、何とかなっただろう。しかしそんな最初に相対するモンスターではなく、MPKerモンスタープレイヤーキラーと思しき者達は、森の奥に生息するサーベルウルフを引き連れて来た。

 絶体絶命の大ピンチ! そんな中に現れたのは、見るからに忍者なプレイヤーである。


――そりゃあ、警戒するだろうよ……。


 MPKerモンスタープレイヤーキラーとグルではないかと思っているであろう、ミリアの警戒は正しい。ジン自身、何その胡散臭さ……と思ってしまうのだ。

 ここは、彼女達の安全を確保して立ち去るのが良いだろう。そう判断して、ジンは話を進める事にした。


「気持ちは解る……とは、軽々しくは言えないでゴザル。でも、安全を確保するのは重要でゴザルよ」

「む……まぁ、それはそうだけど……」

 自分でも解っているのだろう、ミリアは口をモゴモゴさせてしまう。

「そうだね、ジンさんの言う通りかな。楽しむ為にやっているゲームだもんね!」

「うん。人気のない場所は、避けた方が良いと思うな」


 レーナとルナの言葉に、ムムム……と唸るミリアだったが、徐ろに肩の力を抜いた。

「まぁ、それもそっか……さっさとレベル上げて、余計なちょっかいを出されないようにすれば良いわね……」

 ミリアの言葉にレーナとルナも、笑顔を見せる。

「賛成です! ガイシューイッシューするです!」

「グラウンドをランニングでもするの? 外周一周じゃなくて、鎧袖一触がいしゅういっしょくよ」

「ノー、日本語は奥が深いです……」

 そんなミリアとシャインのコントじみたやり取りに、ジンは笑顔を浮かべる。他人事の様に思っている様だが、ジンとその仲間達のやり取りも相当である。知らぬは本人ばかりなり。


「それでは、拙者はこれで」

「あれっ!? 行っちゃうですか!?」

「えっ!?」

 立ち去ろうとするジンに、シャインが驚いた表情を見せる。そんな反応に、逆にジンが驚いてしまった。

「ゲームやマンガやラノベだと、こういう出会いからストーリーが始まるですよ!? ほら! 自慢じゃないけど、美人揃いですよ!? それも、女子大生! JDですよ!?」

「自慢じゃないけどって言っておきながら、凄い自信だ……いや、美人だとは思いますけど」

 JD発言は、心のノートにメモをしておく。仕方ないよね、思春期の男子高校生だもの。


「シャイン、随分とサブカルチャーに染まったねぇ」

「日本のサブカルチャー……なんて、業が深い……」

「シャインちゃん、ジンさんも用事があるんじゃないかな?」

 苦笑するレーナ、頭を抱えるミリア。そんな二人を尻目に、優しい声色でシャインを諭すのはルナだ。

「むむぅ、確かに……用事があるのに引き止めるのは、申し訳ないです……」

 悔しそうに唸るシャインに、苦笑する三人組。そんな様子を見て、ジンも口元が緩んだ。


 そんな折だった。ジンに向けて、始まりの町がある方向から声が掛かったのだ。

「ジン! ここに居たんだ!」

「こんばんは、ジンさん!」

 毎日の様に会話している……実際、ここの所毎日聞いている声だ。誰の声かなど、見ずとも解る。

「ヒイロ、ヒメノ殿! もう用事は済んだでゴザルか?」

 家庭の用事を済ませた二人は、すぐにログインしたのだろう。システム・ウィンドウのフレンド欄を見れば、対象が何処にいるのかはおおよそ解る。それで、二人は直接合流するつもりで来たらしい。


「ワオ! ジャパニーズメイル! それにミコさんですよね!? 凄いです!」

「シャインちゃん、落ち着こうね? 初対面で騒がれたら、驚いちゃうよー?」

「おー、そうでした!」

 今にも近寄って行きそうなシャインを、一声で押し留めるルナ。柔らかな雰囲気のルナだが、どうやら言う時は言うらしい。


 そんなやり取りに目を瞬かせつつ、ヒイロとヒメノがやって来た。

「やぁ、お待たせ」

「ジンさん、こちらの方々は……?」

 ジンと向かい合うように立っていた四人の女性を見て、ヒメノがジンに問い掛ける。それは良いのだが、何故かヒメノさんの視線が鋭い。

「うん、実はね……」

 ちゃんと説明するので、ジト目はやめて頂きたいジンだった。


************************************************************


「成程……それは災難でしたね。ご無事で何よりです」

「それにしても、トレインした人達……酷いです、初心者の方を狙ってだなんて」

 経緯を聞かされ、二人はようやく納得した。ヒメノに至っては、MPKerモンスタープレイヤーキラーの行いを聞いて悲しそうな表情をする。

 そんなヒメノの様子に、レーナ達も笑顔を浮かべていた。

「怒ってくれてありがとう、ヒメノさん。私達は大丈夫、ジンさんが助けてくれたし」

 レーナの言葉に、ヒメノは表情を緩めた。


 そんなヒメノとレーナを見て、ミリアは意を決したかのようにジンに声を掛ける。

「ごめんなさい、ジンさん。さっきのは流石に、態度悪かったわ」

 レーナと会話しているヒメノは気付かなかったが、ヒイロの耳にはミリアの声が届いていた。その内容から、何があったのかをおおよそ察する……が、余計な事は言わない。空気を読むのも、ヒイロがクラスで人気者になっている要因の一つだ。

「さっき……? 何の事か解らないでゴザルよ、なので謝られる覚えも無いでゴザル」

 何についての謝罪か解っていながら、しれっとそう言ってのけるジン。ミリアに向き直り、穏やかに微笑んでみせる。

「だから、ミリア殿も気になさらぬようお願いするでゴザル」

「解ったわ……ありがとう」


 その間に、レーナとヒメノが意気投合していた。そのきっかけは、二人が共に弓使いだからだ。そこからフレンド登録をしようという話になり、互いのパーティ全員がフレンド登録を交していく。

「あと二人、一緒にプレイしている仲間が居るんですけど……」

「あっ、そうでした! ジンさん、レンさん達は今日はログイン出来ないと、メールがあったんです」

「そうだったかー」

 そんなやり取りをするジンとヒメノに、レーナ達は顔を見合わせた。


――忍者、鎧武者、巫女さんっぽい弓使い……残り二人は、どんなだろう?


「そうだ、それなら俺達でレベリングを手伝ってあげるのはどうかな? レベル10くらいまで上げるなら、余計なちょっかいは出しにくくなると思う」

「私もそう思います! 皆さんがよろしければ、どうですか?」

 差し当たって、ジン達はレベル上げくらいしか用事が無い。故に、初心者である彼女達に付き合っても良いと思ったのだ。


「え、良いんですか!?」

「私達は助かりますけど……」

 レーナとルナが、表情を明るくする。ミリアはムムム……と唸り、シャインは満面の笑みだ。

「今日は残りのパーティメンバーも居ないので、レベル上げをするくらいしか用事が無いですからね」

 穏やかに微笑みながら、ヒイロが四人に視線を巡らせる。そして、最後に視線をジンに向けた。

「それでどうかな、ジン?」

「拙者は賛成でゴザル。袖振り合うも多生の縁というやつでゴザルな」


 ミリアは難しい顔をしていたのだが、ジン達が善意100パーセントで言っているのは解っていた。他の三人の説得もあって、七人でレベリングをする事になるのだった。


 ……


 そんな七人の様子を見ていた、数名のプレイヤー。その中の一人が、ボソッとつぶやく。

「……忍者さん、かっけー……」

 そのシステム・ウィンドウには、掲示板が表示されているのだった。

掲示板民は見た(チラッ)

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