92 母さんとピョンちゃん先生シンクロナイズw
「わあっはっはっは、飲んじゃったもんはしょうがない」
「そうそう。新田さん、かんぱーい」
ご自分もワンカップを空け、父さんと乾杯する老谷のじいちゃん。あーあ。
「あー、いいなあ、あたしも飲みたーい」
琴理さん。悪役令嬢コスのまま、そういう発言はシュールですよ。端で聞いている人が一作書いちゃうかも。「転生した悪役令嬢は日本酒がお好き」とか言って。
「そうかそうか。悪役令嬢のお嬢ちゃん飲みたいかあ」
「すまない。いくらわしといえど、常備するワンカップは二本が限界。それ以上常備するとばあちゃんに怒られるのだ」
いや、老谷のじいちゃん。ワンカップ日本酒二本常備が許されているだけでも十分老谷のばあちゃん、優しいと思いますよ。
◇◇◇
「よーしっ! じゃあっ今日はウチのせがれに嫁が来た祝いに、そこの居酒屋『宝生の舞』で祝賀会だーっ! 一緒に祝ってくれる者どもっ! ついてこーいっ!」
「「「「「おおーっ!」」」」」
父さんに老谷のじいちゃん、琴理さん、その他ぞろぞろ居酒屋へ。あっ、ねこや先生もついて行っている。
うーん。認識は甚だしく違っているけど、僕が「主役(?)」なのかな? すると、ついて行かないとまずいかなって、エリスが当たり前のようについていっているし。わ、ちょっと待ってっ!
ぐいっ
その時、後ろから腕を引っ張られた。
「あんたたちは行かなくてもいいのっ!」
わっ、母さん。江戸褄着ると迫力が増しますね。
「剣汰瓜さんもね。明日も学校。居酒屋は飲みたい大人たちに任せとけばいいの」
エリスを止めたのは鵜鷺先生。
母さんも鵜鷺先生も「変人」だけど、父さんたちよりは常識があるから救われるわ。
「でも、ピョンちゃん先生」
でもエリスは腑に落ちない顔だぞ。
「オキムネの父上はあたしのお祝いだと言っていたのだ。あたしの皇帝就任祝いではないのか? では行かなくてはならないのだ」
このエリスの言葉に見つめ合って頷き合う母さんと鵜鷺先生。あの、僕、三日前に高校入学したばかりなんですが、何で実の母親と担任の先生がこうまで息が合っているのです?
「絵栗鼠ちゃんっ!」
「剣汰瓜さんっ!」
「わわ、何だ二人とも。いきなり顔近づけられると怖いのだ」
顔面を近づけて凝視する母さんと鵜鷺先生にビビるエリス。うん、分かるぞ。僕だって同じことされたら怖い。
「「あの人たちはっ!」」
一斉に右手人差し指で父さんたちを指す母さんと鵜鷺先生。何なんですか?
そのシンクロナイズドは?
「「ただただ『飲みたい』だけなのよ」」
何かの演技を終えたかのような達成感のある顔で、またも見つめ合う母さんと鵜鷺先生。
呆然として呟くエリス。
「ただただ『飲みたい』だけなのか……」




