50 女房が困ってるんだから、亭主が何とかしろいっ!w
「ん~何を言われてるのだかよく分からないのだが……」
絵栗鼠は右手の人差し指を立てると小首を傾げる。悔しいが可愛いことを認めざるを得ない。うーむ。
「私はオキムネの『金塊』がほしいだけなのだ。そのためには『恋人』にならなければならない。『恋人』になるためには、たくさんスリスリをしなければならないと教わったのだ」
「『金塊』……」
さすがにこの絵栗鼠の発言は普通の女子高生にはインパクト大。しかも三日前に入学したばっか。場は凍る。
だがそれは一瞬だけだった。
キャアアアアアア
女の子たちの黄色い声のヴォリュームはさっきの三倍を超えた。
「何それ何それ何それーっ!」
「絵栗鼠ちゃんてばだいたーん」
「『金塊』ってやっぱり『金塊』だよね。ドキドキ」
「最近の女子高生は進んでるうーっ!」
自分だって女子高生でしょう。ある程度予想はしたが、やはり話があらぬ方向へ(汗)。
◇◇◇
それからはもう女の子たちはエリスを取り囲んでキャーキャーキャーキャー
僕には手が出せません。
うちのガッコ。今は共学校だけど、前身は高等女学校で、伝統的に女子が強いとは聞いていたけど、早くも洗礼を受けてます。
それでもこの騒ぎが収まる時は来ました。
ガラリと教室の前方の扉が開き、入って来たのは担任の鵜鷺光 先生。
この騒ぎを見ても一切焦らず、パンパンパンと手を叩く。
「はいはいはい。楽しいコイバナはいったん中断ーっ。お楽しみは後でね」
ええーっ
不満の声を上げる女の子たち。うーん。うちのガッコ、フリーダムだなあ。
「コイバナも青春。学業も青春。ホームルームも青春。他のこともやってこそ、コイバナも輝く。コイバナばっかやってたら飽きちゃうよ。はいはい。ホームルーム始めるよー」
「そんなこと言わずに『ピョンちゃん先生』も一緒にコイバナしようよ」
「誰が『ピョンちゃん先生』ぢゃ。それは後でね」
ふう。取りあえずは落ち着きそう……と思った矢先……
「いだー。いだだだだ」
うわっ、どうしたっ? エリス?
◇◇◇
「こっち側の頬が痛いー」
エリスの右の頬が赤くなっている。考えてみればあれだけスリスリすれば当然か。
「おやま。ほっぺたが真っ赤だよ。保健室に行っといで。昨日のオリエンテーションで教えたから場所は分かるよね。保健委員付き添いをと言いたいところだけど、これからホームルームでクラス委員決めようとしてたところだねえ」
「ピョンちゃん」いやもとい鵜鷺先生、冷静な対応。そこへ。
「先生。付き添いは新田君がいいと思いますっ!」
その声を皮切りに
「新田君」
「新田君」
「新田君」
「新田君」
「新田君」
クラスの女の子たち、もう大合唱。
「女房が困ってるんだから、亭主が何とかしろいっ!」
サダヨシー。ここぞとばかりに言いやがってー。




