42 オキムネの心臓がピンチ(ラブコメモード)w
だけどなんか絵栗鼠の手の柔らかさに引き込まれてしまったみたいだ。気持ちが持っていかれる感じがする。
「あらあらオキムネちゃんも満更でもないようじゃない」
ぐぬぬ、ばあちゃんに見抜かれた感じがなんか悔しいぞ。
「じゃあせっかくだからもう一歩進んでみようか。こうやって相手の右腕に左腕をからませて」
ふむふむと集中してばあちゃんのやることを見ている絵栗鼠。
「ばあちゃん、わしは恥ずかしいって」
そんなじいちゃんの言葉をばあちゃん一蹴。
「何が恥ずかしいもんかね。何十年夫婦やってると思ってるんだ?」
◇◇◇
「それでね、相手の肩に頬をつけて、スリスリとこすりつけるの」
「こうか? ばあちゃん」
って、わあっ、絵栗鼠が僕の肩に頬をすりつけてきた。絵栗鼠の手も柔らかったけど、頬はもっと柔らかい。
僕の眼には絵栗鼠の体がちゃんと見えている。
銀色の髪に真っ白で陶器のような肌に、やっぱり銀色の服。メタリックで固いのかなと思ったけど凄く柔らかい。
ケンタウリ人でも同じ人間なんだな。
それより何より近いっ! 絵栗鼠の顔が近いっ! 絵栗鼠の銀色の髪がぱさぱさ僕に当たり、何だかくすぐったいぞ。
更にだっ! 絵栗鼠から何だかいい匂いがするのだっ!
これも地球人もケンタウリ人も変わらないと言いたいところだが、あいにく僕は地球人の方の女の子とこんな至近距離で接したことがないのだ。
いや十五歳男子の大多数がそうだと思うぞ。中学生の時はサダヨシたちと「あの娘が、この娘が」と実によく話してはいた。
しかしだっ! それ以上の実績は全くないっ!
え? ヘタレ? ええいっ、これが現実なのだっ! 一部のリア充を標準にするんじゃないっ!
サダヨシだって、物おじせずに女の子に話しかけはするが、それ以上の実績はないのだ。
などと過去のモテなさぶりを嘆く僕を尻目に絵栗鼠はスリスリを続けている。
むっ、むむむ。
ごめんなさい。ヘタレなのは重々承知なんですが、これ以上は僕の心臓がもちませーん。
「ばあちゃん。わしの心臓も持たんぞい」
何とじいちゃんも。
◇◇◇
「全く下ネタ大好きのくせに根っこのところは純情なんだから、じいちゃんは」
ばあちゃん、苦笑しながらスリスリを止める。
それを見た絵栗鼠もスリスリを止める。ふぅー、何とか一息ついた。
しかしっ!
「ばあちゃん。次の一歩は何だ? 教えてほしいのだ」
うわっ、絵栗鼠ーっ、いかん。これ以上はマジで僕の心臓が持たないよー。
ばあちゃん。少し考え込んで、笑顔で一言。
「そうだね。次の一歩もあるけれど、絵栗鼠ちゃんもオキムネちゃんもまだ十五歳だし、もうちょっと今のスリスリを極めてからにしようか」
「そうか。じゃあまたやるぞ。オキムネ。スリスリ」
だから、僕の心臓が持たないって。




